(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828975
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】軟質塩化ビニル樹脂製シートの成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/42 20060101AFI20210128BHJP
B29C 51/08 20060101ALI20210128BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20210128BHJP
B29C 70/46 20060101ALI20210128BHJP
E03C 1/20 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
B29C51/42
B29C51/08
B29C51/14
B29C70/46
E03C1/20 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-128317(P2017-128317)
(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公開番号】特開2019-10793(P2019-10793A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】501362906
【氏名又は名称】積水ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直樹
【審査官】
今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−179880(JP,A)
【文献】
特開平01−136719(JP,A)
【文献】
特開平05−329924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/42
B29C 51/08
B29C 51/14
B29C 70/46
E03C 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質塩化ビニル樹脂に補強繊維層を埋め込むことにより構成されたシートの開口周縁部を絞り成形する方法において、
成形凹部を有する第1型と成形凸部を有する第2型との間に上記シートをセットし、上記シートの開口周縁部を上記第1型の成形凹部に位置決めするセット工程と、
加熱された上記第1型で上記シートの裏側の面を加熱し、加熱された上記第2型で上記シートの表側の面を加熱する加熱工程と、
上記第1型に対して上記第2型を接近させて上記成形凸部を上記成形凹部に入り込ませることにより、上記シートの開口周縁部を絞り成形する絞り成形工程とを備え、
上記加熱工程および上記絞り成形工程において、上記シートの表側の面を上記第2型により50〜80℃で加熱し、上記シートの裏側の面を上記第1型により50〜100℃で加熱することを特徴とする軟質塩化ビニル樹脂製シートの絞り成形方法。
【請求項2】
上記加熱工程および上記絞り成形工程において、上記シートの上記表側の面を50〜60℃で加熱し、上記シートの裏側の面を60〜80℃で加熱することを特徴とする請求項1に記載の軟質塩化ビニル樹脂製シートの絞り成形方法。
【請求項3】
上記シートの裏側の面を、上記表側の面の加熱温度より0〜20℃高い温度で加熱することを特徴とする請求項1または2に記載の軟質塩化ビニル樹脂製シートの絞り成形方法。
【請求項4】
上記シートが浴室洗い場の表面材であり、絞り成形された上記シートの開口周縁部が、短い筒形状をなして排水口部として提供されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の軟質塩化ビニル樹脂製シートの絞り成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室洗い場の表面材等に用いられる軟質塩化ビニル樹脂製シートの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室の洗い場には、意匠性やクッション性を付加するために、床基材の上に表面材を敷くことがある。表面材は、洗い場の排水口に対応して開口を有している。
特許文献1および特許文献2の
図1〜
図10に記載するように、一般的な排水口構造では、表面材の開口周縁部が、排水口を提供する内枠のフランジ上面に接着されている。そのため、表面材の開口周縁部の端末は露出している。表面材の開口周縁部の端末が露出していると、内枠のフランジとの間から浸水したり汚れが付着する等の不都合が生じる可能性がある。表面材の開口周縁部の端末が内枠のフランジから剥がれると、浸水等の不都合がさらに顕在化する。
【0003】
特許文献2の
図11に示す実施例では、内枠のフランジを表面材の開口周縁部の上に被せることにより、この開口周縁部の端末を隠している。内枠のフランジの代わりに、別途枠材を表面材の開口周縁部の上に被せてその端末を隠す場合もある。表面材の開口周縁が隠されるため、上述の先行技術のような不都合を免れるが、内枠のフランジ(または枠材)と表面材の上面との間に段差が生じ、排水性が悪くなる。そのため、髪の毛や汚れが溜まったり、水溜まりに起因してカビが発生する等の不都合が生じる。また、排水口に蓋を設置した状態で、蓋の外にフランジ(または枠材)が露出するため外観も悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−202444号公報
【特許文献2】特開2013−53457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面材の開口周縁部を排水口に向かって下方に折り曲げて短筒形状にすることで上述の先行技術の不都合を解消できる。しかし、表面材が、寸法安定のための補強繊維層を埋め込んだ軟質塩化ビニル樹脂製のシートで形成されている場合、開口周縁部の絞り成形に困難が伴う。シートの表側の面が破れたり、切断された補強繊維が表側の面から露出する等の欠陥が生じるためである。本発明者は、このような軟質塩化ビニル樹脂製シートの開口周縁部を欠陥を生じることなく絞り成形するための条件について研究し、本発明に至ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、軟質塩化ビニル樹脂に補強繊維層を埋め込むことにより構成されたシートの開口周縁部を絞り成形する方法において、
成形凹部を有する第1型と成形凸部を有する第2型との間に上記シートをセットし、上記シートの開口周縁部を上記第1型の成形凹部に位置決めするセット工程と、
加熱された上記第1型で上記シートの裏側の面を加熱し、加熱された上記第2型で上記シートの表側の面を加熱する加熱工程と、
上記第1型に対して上記第2型を接近させて上記成形凸部を上記成形凹部に入り込ませることにより、上記シートの開口周縁部を絞り成形する絞り成形工程とを備え、
上記加熱工程および上記絞り成形工程において、上記シートの表側の面を上記第2型により50〜80℃で加熱し、上記シートの裏側の面を上記第1型により50〜100℃で加熱することを特徴とする。
【0007】
上記方法によれば、シートの表側の面が50℃以上に加熱されて十分に軟化しているので、絞り成形時に大きな引張り応力が付与されず、表側の面の破れを防止できる。シートの表側の面は加熱温度が80℃以下であるので、過剰に軟化されておらず、絞り成形時に切断された補強繊維が表側の面から露出しない。
また、シートの裏側の面は、50℃以上に加熱されて軟化しているので、過剰な応力を生じることなく絞り成形が可能である。また、100℃以下に抑えるので、熱エネルギーの無駄を抑えることができる。
【0008】
好ましくは、上記加熱工程および上記絞り成形工程において、上記シートの上記表側の面を50〜60℃で加熱し、上記シートの裏側の面を60〜80℃で加熱する。
上記方法によれば、シートの表側の面の加熱温度を60℃以下に抑えたことにより、絞り成形時に切断された補強繊維の表側の面への影響をほぼ完全に排除できる。
また、シートの裏側の面の加熱温度を60℃以上にしたことにより、絞り成形時の変形を容易にすることができ、絞り成形に要する時間を短縮することができる。さらに、シートの裏側の面の加熱温度を80℃以下にしたことにより、熱エネルギーの無駄をさらに抑えることができる。
【0009】
好ましくは、上記シートの裏側の面を、上記表側の面の加熱温度より0〜20℃高い温度で加熱する。
上記方法によれば、欠陥が生じないか目立たないシートの裏側の面の加熱温度を、シートの表側の面の加熱温度と同じか高くすることにより、絞り成形を円滑に行うことができる。
【0010】
好ましくは、上記シートが浴室洗い場の表面材であり、絞り成形された上記シートの開口周縁部が短い筒形状をなして排水口部として提供される。
上記排水口部は表面材と連続しているので、汚れが溜まらず、カビの発生も防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、補強繊維層を埋め込んだ軟質塩化ビニル樹脂製の開口周縁部を、表面に欠陥を生じることなく絞り成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の絞り成形方法が適用される軟質塩化ビニル樹脂製シートの一態様を、層毎に分解して示す拡大断面図である。
【
図2】本発明の絞り成形方法が適用される軟質塩化ビニル樹脂製シートの他の態様を、層毎に分解して示す拡大断面図である。
【
図3】本発明の絞り成形方法に用いられる金型を示す断面図である。
【
図4】同絞り成形方法において、上記シートを下型と上型で加熱している状態を示す断面図である。
【
図5】同絞り成形方法において、上型を下型に向かって移動させることにより、絞り成形を終了した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
最初に、本発明の絞り成形が施される軟質塩化ビニル樹脂製シート10の層構造について説明する。このシート10は、浴室洗い場の表面材として用いられるものである。
図1に示すシート10は、下から順に発泡された軟質塩化ビニル樹脂からなるクッション層11と、ガラス繊維層12(補強繊維層)と、印刷層13と、発泡されていない軟質塩化ビニル樹脂からなる表面層14とを積層してなる。厚さを例示すると、クッション層11が1.0〜4.0mm、印刷層13が0.01〜0.1mm、表面層14が0.1〜0.45mmである。
【0014】
図2に示すシート10は、
図1のシートと同様のクッション層11と印刷層13と表面層14とを積層してなり、クッション層11内部にガラス繊維層12を埋め込むことにより構成されている。厚さを例示すると、クッション層11が1.0〜4.0mm、印刷層13が0.1mm程度、表面層14が0.1〜0.5mmである。
【0015】
図1または
図2の層構造をなすシート10は、
図4に示すように切り抜き加工された開口15を有しており、
図3に示すように、成形凹部21を有する下型20と成形凸部31を有する上型30により、絞り成形される。
【0016】
下型20の上面と成形凹部21の底面が水平の平坦面をなし、成形凹部21の内周面が垂直をなす。この上面と成形凹部21の内周面との交差部は、アールをなす環状の角部22となっている。
上型30の下面と成形凸部31の先端面は水平の平坦面をなし、成形凸部21の外周面が垂直をなしている。成形凸部31の先端面と外周面の交差部は、アールをなす環状の角部32となっている。
下型20の成形凹部21と上型30の成形凸部31は、成形されるべきシート10の開口11の形状に対応した形状を有しており、例えば四角形状である。
【0017】
絞り成形に先立って、下型20と上型30は加熱されている。これら下型20と上型30は金属製であるため、全体がほぼ均一な温度に加熱されるが、特に絞り成形に係る環状の成形領域25,35の温度管理が重要である。
具体的には、下型21の成形領域25は、上記角部22と、この角部22に隣接して角部22を囲む下型21の上面の環状領域を含む。上型30の成形領域35は、上記角部32と、この角部32に隣接する成形凸部31の先端面の環状領域を含む。
【0018】
次に、上記シート10の絞り成形について説明する。
[セット工程]
図4に示すように、シート10を下型20に乗せる。このセット状態で、クッション層11が下に位置し、表面層14が上に位置している。シート10は、その開口15が下型20の成形凹部21の内側に配置されるように、位置決めされている。
【0019】
[加熱工程]
上記シート10の下型20へのセット直後に、上型30を降下させ、成形凸部31の先端面をシート10に接触させ、この状態を所定時間維持する。シート10は、下型20により、下型20の角部22に対応する折り曲げ予定部16およびその周囲部における裏側の面が加熱され、上型30により、折り曲げ予定部16より内側の環状の開口周縁部17における表側の面が加熱される。
【0020】
図4では、シート10の厚みを誇張して示し、下型20の角部22のアールと上型30の角部32のアールを誇張して示しているため、折り曲げ予定部16が下型20と上型30から離れて示されているが、実際には折り曲げ予定部16が下型20と上型30に近接しているので、上記加熱状態を所定時間維持することにより、シート10の折り曲げ予定部16とその周囲部における裏側の面は、下型20の加熱温度にまで加熱され、折り曲げ予定部16とその内側の開口周縁部における表側の面は、上型30の加熱温度にまで加熱される。
【0021】
[絞り成形工程]
次に、上型30を
図4に示す位置から
図5に示す位置まで所定時間かけて下降させることにより、シート10を絞り成形する。これにより、シート10の折り曲げ予定部16は下型20の角部22と上型30の角部32間で略90°に折り曲げられて折り曲げ部16Aとなる。開口周縁部17は広げられながら下方に向けて変形し、シート10の他の部位と略直交する短筒形状の開口周縁部17Aとなる。
【0022】
[保熱工程]
絞り成形工程終了後、
図5に示す状態を所定時間維持する。
[冷却工程]
最後に絞り成形された
図6に示すシート10を上記下型20と上型20から取り出し、冷却型にセットして冷却する。
【0023】
[実施例]
上記絞り成形を、温度条件を変えて実験した。なお、加熱工程、絞り成形工程、保熱工程の所要時間をそれぞれ10秒(実施例3を除く)とした。成形の良否は、開口周縁部17Aのコーナー部(四隅部)の表面に破れ(亀裂)が生じたか否か、コーナー部表面にガラス繊維が露出したか否かの2点で判断した。
実施例1
上型温度を軟質塩化ビニル樹脂の軟化点である50℃、下型温度70℃で絞り成形したところ、コーナー部表面の破れは無く、コーナー部表面からのガラス繊維の露出も無かった。
実施例2
上型温度を50℃、下型温度60℃で絞り成形したところ、コーナー部表面の破れは無く、コーナー部表面からのガラス繊維の露出も無かった。
実施例3
上型温度50℃、下型温度50℃で絞り成形したところ、コーナー部表面の破れは無く、コーナー部表面からのガラス繊維の露出も無かった。ただし、この実施例3では実施例1,2よりシートの変形性が低いので、30秒かけて絞り成形工程を実行した。
【0024】
上型温度および下型温度の温度を実施例1〜3より高くした実施例は下記の通りである。
実施例4
上型温度60℃、下型温度80℃で絞り成形したところ、コーナー部表面の破れは無かった。コーナー部表面からのガラス繊維の露出も無いが、ガラス繊維の影がわずかに見えた。ただし、外観上問題になる程度ではない。
実施例5
上型温度80℃、下型温度100℃で絞り成形したところ、コーナー部表面の破れは無かった。コーナー部表面からのガラス繊維の露出も無いが、ガラス繊維の影が実施例2より強く表れた。ただし、外観上問題になる程度ではない。
【0025】
[比較例]
次に、上記実施例1〜5より金型温度を高くして成形不良と判断した比較例について説明する。なお、各工程での所要時間は上記実施例と同様である。
比較例1
上型温度100℃、下型温度120℃で絞り成形したところ、コーナー部表面の破れはなかったが、ガラス繊維の露出が若干見られた。
比較例2
上型温度120℃、下型温度100℃で絞り成形したところ、コーナー部表面の破れはなかったが、ガラス繊維の露出が見られた。
比較例3
上型温度150℃、下型温度100℃で絞り成形したところ、コーナー部の破れはなかったが、ガラス繊維の露出が目立った。
【0026】
次に、上記実施例1〜5より上型温度及び/又は下型温度を低くして成形不良と判断した比較例について説明する。なお、各工程での所要時間は上記実施例と同様である。
比較例4
上型温度を室温にし、下型温度を室温にして絞り成形したところ、ガラス繊維の露出は無かったがコーナー部表面に破れが生じた。
比較例5
上型温度を150℃、下型温度42℃で絞り成形したところ、ガラス繊維の露出は無かったがコーナー部表面に破れが生じた。
【0027】
上記比較例から次のことが判明した。
シートの表側の温度が50℃未満であると、軟化が不十分で大きな引張り応力が発生するので、表側の面に破れが生じる。また、シートの表側の温度が80℃を超えると、内部のガラス繊維が表側の面を突き破って露出してしまう。
シートの裏側の温度も50℃未満であると、軟化が不十分で大きな引張り応力が発生するので、表側の面に破れが生じる。
【0028】
結論として、シートの表側の面を50〜80℃、より好ましくは50〜60℃で加熱し、裏側の面を50〜100℃、より好ましくは60〜80℃で加熱する。裏側の面は表側の面より高くするのが好ましいが、同じ温度でもよい。シートの裏側の温度の上限を抑えたのは、熱エネルギーの無駄を無くすためである。
【0029】
上記のようにして絞り成形されたシート10を浴槽洗い場の表面材として用いることができる。このシート10を浴槽洗い場の基材層に被せ、浴槽洗い場の排水口に、シート10の短筒形状の開口周縁部17Aを配置し、排水口部として提供する。その結果、開口周縁部17Aの下端の端末は外部に露出されないので、開口周縁部17Aの端末から浸水したり端末に汚れが付着することがない。また、シート10の上面には枠材等による段差を形成せずに済み、排水性能を悪化させることもない。
【0030】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。例えば本発明により絞り成形されたシートは、浴室洗い場の表面材以外にも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、浴室洗い場の表面材等に用いられるシートの絞り成形に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
10 軟質塩化ビニル樹脂製シート
12 ガラス繊維層(補強繊維層)
17、17A 開口周縁部
20 下型(第1型)
21 成形凹部
30 上型(第2型)
31 成形凸部