特許第6829009号(P6829009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6829009トリグリセリドリッチリポ蛋白中のコレステロールの定量方法及び定量試薬
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  • 特許6829009-トリグリセリドリッチリポ蛋白中のコレステロールの定量方法及び定量試薬 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6829009
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】トリグリセリドリッチリポ蛋白中のコレステロールの定量方法及び定量試薬
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/60 20060101AFI20210128BHJP
   G01N 33/92 20060101ALI20210128BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   C12Q1/60
   G01N33/92 A
   C12Q1/44
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-103108(P2016-103108)
(22)【出願日】2016年5月24日
(65)【公開番号】特開2017-209035(P2017-209035A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 謙亨
(72)【発明者】
【氏名】伊海田 誠
(72)【発明者】
【氏名】平尾 裕子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康樹
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−141975(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/087895(WO,A1)
【文献】 特開2016−034252(JP,A)
【文献】 特開2001−124780(JP,A)
【文献】 COHN, J.S. et al.,"Detection, quantification, and characterization of potentially atherogenic triglyceride-rich remnant lipoproteins.",ARTERIOSCLER. THROMB. VASC. BIOL.,1999年,Vol.19, No.10,pp.2474-2486,ISSN 1079-5642
【文献】 "Cholesterol esterase from Schizophyllum commune.",[online], INTERNET,TOYOBO,COE-301・302,[検索日:平成29年7月26日],URL,http://www.toyobo-global.com/seihin/xr/enzyme/pdf_files/2010_037_040_COE_301_302.pdf
【文献】 "Cholesterol esterase from Pseudomonas sp..",[online], INTERNET,TOYOBO,COE-11,[検索日:平成29年7月26日],URL,http://www.toyobo-global.com/seihin/xr/enzyme/pdf_files/2010_041_044_COE_311.pdf
【文献】 SVENDSEN, A. et al.,"Biochemical properties of cloned lipases from the Pseudomonas family.",BIOCHIM. BIOPHYS. ACTA,1995年10月26日,Vol.1259, No.1,pp.9-17,ISSN 0006-3002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 9/00− 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が50kDaを超えるコレステロールエステラーゼ、および界面活性剤を作用させることによりトリグリセリドリッチリポ蛋白(TRL)以外のリポ蛋白中のコレステロールを特異的に消去する工程(1)と、残存するTRL中のコレステロール(TRL-C)を特異的に定量する工程(2)を含む、TRL-Cの定量方法であって、前記工程(1)において用いられる前記界面活性剤が1種の場合、該界面活性剤はHLB値が12〜14であるポリオキシエチレン多環フェニルエーテルから成る群より選ばれる1種であり、前記界面活性剤が2種以上の場合、該界面活性剤はポリオキシエチレン多環フェニルエーテルから成る群より選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、2種以上の界面活性剤全体のHLB値が12〜14になるように2種以上の界面活性剤を組み合わせる、方法
【請求項2】
前記工程(2)が界面活性剤の存在下で行われ、該界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ラウリルアルコールアルコキシレート、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルが、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルが、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(1)は、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素を消去することを含み、前記工程(2)は、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素を定量することを含む請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の方法に用いられるTRL-Cの定量キットであって、前記工程(1)に用いられる、分子量が50kDaを超えるコレステロールエステラーゼ、および界面活性剤を含む、TRL-Cの定量キットであって、前記工程(1)において用いられる前記界面活性剤が1種の場合、該界面活性剤はHLB値が12〜14であるポリオキシエチレン多環フェニルエーテルから成る群より選ばれる1種であり、前記界面活性剤が2種以上の場合、該界面活性剤はポリオキシエチレン多環フェニルエーテルから成る群より選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、2種以上の界面活性剤全体のHLB値が12〜14になるように2種以上の界面活性剤を組み合わされている、キット
【請求項7】
前記工程(2)が界面活性剤の存在下で行われ、前記キットは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ラウリルアルコールアルコキシレート、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記界面活性剤をさらに含む、請求項に記載のキット。
【請求項8】
前記ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルが、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】
前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルが、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリグリセリドリッチリポ蛋白(以下、TRLと呼ぶことがある)中のコレステロール(以下、「リポ蛋白名」コレステロールまたは「リポ蛋白名」-Cと表記した場合、「」内に記載のリポ蛋白中のコレステロールを意味する)の定量方法及び定量試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中に含まれるリポ蛋白は、超遠心分離による密度の違いから、カイロミクロン、超低密度リポ蛋白(以下、VLDLと呼ぶことがある)、中間密度リポ蛋白(以下、IDLと呼ぶことがある)、低密度リポ蛋白(以下、LDLと呼ぶことがある)、高密度リポ蛋白(以下、HDLと呼ぶことがある)に分けられる。これらのリポ蛋白は、トリグリセリドやコレステロールなどの脂質や蛋白等の含有量が違っており、それぞれ生体内で異なった作用を示すことが知られている。
【0003】
TRLはトリグリセリドの含有量の多いリポ蛋白の総称であり、カイロミクロン、VLDL、それらの中間代謝産物やレムナント様リポ蛋白(RLP)が含まれ、さらにIDLが含まれる場合もある。
【0004】
従来までLDLやRLPについては動脈硬化性疾患への関与が知られているが、IDLを含めたTRLがより動脈硬化性疾患の進展に深く関与していることが欧米を中心に報告され、注目を集めている。
【0005】
現在までに知られているTRLの測定法として、超遠心法、NMR法などが存在する。超遠心は遠心によりリポ蛋白の密度の差を利用して画分する方法であり、作業に熟練が必要なこと、日数がかかること、また費用も高額となる欠点がある。NMR法は磁気共鳴によりリポ蛋白の粒子数を計測する方法であるが、特殊な機械が必要であり、一般的ではない。
【0006】
TRL-Cのその他の測定方法として、計算法があげられる。TRLはLDLやHDL以外のリポ蛋白とも言えるため、総コレステロール値からLDL-CとHDL-Cを差し引いて求めるというものである。LDL-Cの測定法として、米国疾病管理センターのβ-Quantification法(BQ法)が国際基準法となっているが、この方法は密度1.006〜1.063g/cm3のリポ蛋白をLDLとしているため、BQ法におけるLDL-CにはIDL-Cが含まれる。そのため、TRL-Cを計算で求める際にBQ法にて測定したLDL-Cを用いた場合、IDL-CもLDL-Cとして差し引かれることになる。BQ法を基準として開発されたその他のLDL-Cの測定法、例えばFriedewald式などを用いた場合も同様である。これらのLDL-Cの測定方法を用いた場合、算出されるTRL-CにはIDL-Cが含まれず、臨床的により意義が高いと言われているIDLを含めたTRLを測定しているとは言えない。
【0007】
そのため、簡便に、かつ正確にIDLを含めたTRL-Cを定量する方法及び試薬の発明が必要とされている。
【0008】
以下、単にTRL、TRL-Cと記載した場合、それぞれIDLを含めたTRL、IDL-Cを含めたTRL-Cを意味する。
【0009】
なお、TRL-Cの一部であるRLP-Cの測定方法として、特許文献1〜3が報告されている。いずれも汎用自動分析装置により測定が可能な方法であるが、RLPのみを測定するものであり、TRL全体を測定する本発明とは異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許4456715号公報
【特許文献2】特許5027648号公報
【特許文献3】特許5766426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、煩雑な操作を必要とすることなく、被検試料中のTRL-Cをより特異的に定量する方法及び試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、種々のリポ蛋白を含有する被検体試料に対し、界面活性剤の存在下において分子量が50kDaを超えるコレステロールエステラーゼを作用させることによりTRL以外のリポ蛋白が特異的に反応することを見出した。この知見を利用することにより、分離操作を行うことなく、簡便に、かつ正確にTRL-Cを定量できることに想到し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 分子量が50kDaを超えるコレステロールエステラーゼ、および界面活性剤を作用させることによりトリグリセリドリッチリポ蛋白(TRL)以外のリポ蛋白中のコレステロールを特異的に消去する工程(1)と、残存するTRL中のコレステロール(TRL-C)を特異的に定量する工程(2)を含む、TRL-Cの定量方法。
[2]前記工程(1)において用いられる前記界面活性剤が、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む[1]に記載の方法。
[3]前記工程(1)において用いられる前記界面活性剤が1種の場合、該界面活性剤はHLB値が12〜14であるポリオキシエチレン多環フェニルエーテルから成る群より選ばれる1種であり、前記界面活性剤が2種以上の場合、該界面活性剤はポリオキシエチレン多環フェニルエーテルから成る群より選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、2種以上の界面活性剤全体のHLB値が12〜14になるように2種以上の界面活性剤を組み合わせる、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記工程(2)が界面活性剤の存在下で行われ、該界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ラウリルアルコールアルコキシレート、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルが、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である[2]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルが、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記工程(1)は、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素を消去することを含み、前記工程(2)は、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素を定量することを含む[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]1〜7のいずれか1項に記載の方法に用いられるTRL-Cの定量キットであって、前記工程(1)に用いられる、分子量が50kDaを超えるコレステロールエステラーゼ、および界面活性剤を含む、TRL-Cの定量キット。
[9]前記工程(1)において用いられる前記界面活性剤が、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む[8]に記載のキット。
[10]前記工程(1)において用いられる前記界面活性剤が1種の場合、該界面活性剤はHLB値が12〜14であるポリオキシエチレン多環フェニルエーテルから成る群より選ばれる1種であり、前記界面活性剤が2種以上の場合、該界面活性剤はポリオキシエチレン多環フェニルエーテルから成る群より選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、2種以上の界面活性剤全体のHLB値が12〜14になるように2種以上の界面活性剤を組み合わされている、[8]または[9]に記載のキット。
[11]前記工程(2)が界面活性剤の存在下で行われ、前記キットは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ラウリルアルコールアルコキシレート、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記界面活性剤をさらに含む、[8]〜[10]のいずれかに記載のキット。
[12]前記ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルが、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である[9]〜[11]のいずれかに記載のキット。
[13]前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルが、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である[12]記載のキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、被検試料中のTRL-Cを、分離操作を必要とせず、自動分析装置で簡便に、かつ正確に定量することができる新規な方法及びそのためのキットが提供された。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】下記実施例4に記載した本発明の方法によるTRL-Cと、超遠心法により求めたTRL-Cとの相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
リポ蛋白中に含まれるコレステロールとしては、エステル型コレステロール(コレステ
ロールエステル)及び遊離型コレステロールがある。本発明において単に「コレステロー
ル」という場合にはこれらの両者を包含する。
【0017】
本発明の方法で定量しようとするTRL-Cとは、カイロミクロン(カイロミクロンレムナントを含む)、VLDL(VLDLレムナントを含む)、およびIDLを合わせたリポ蛋白中のコレステロール、すなわち密度1.019g/cm3未満のリポ蛋白中のコレステロールを意味する。
【0018】
本発明の方法に供される被検試料としては、その試料中のTRL-Cを定量しようとするものであれば特に限定されないが、通常、血液(全血、血清及び血漿を包含する)等の体液やその希釈物である。
【0019】
本発明中においてリポ蛋白に対して「反応する」という言葉を用いる場合は、界面活性剤や酵素によってリポ蛋白の構造が変化し、内部のコレステロールに対して酵素が作用しやすくなることを意味する。
【0020】
本発明における工程(1)では、TRL以外のリポ蛋白中のコレステロールを選択的に消去する。ここで「消去」とはコレステロールを分解し、かつ、その分解物が次の工程(2)で検出されないようにすることを意味する。TRL以外のリポ蛋白に含まれるコレステロールを選択的に消去する方法としては、例えば被検体試料に、コレステロールオキシダーゼ、特定のコレステロールエステラーゼ(後述)を作用させ、生じた過酸化水素を除去する方法があげられる。過酸化水素を除去する方法としては、カタラーゼを作用させて水と酸素に分解する方法、またはペルオキシダーゼの作用により例えば過酸化水素と反応して無色キノンを生じる水素供与体化合物を無色キノンに転化する方法等をあげることができるがこれらに限定されるものではない。
【0021】
なお、第1工程において特定のリポ蛋白中のコレステロールを選択的に消去する方法は、LDLコレステロールの定量方法(例えばWO98/47005等)やHDLコレステロールの定量方法(例えばWO98/26090等)等に広く採用され、周知となっているものである。本発明の工程(1)も、後述する特定のコレステロールエステラーゼを使用すること以外は、これらの周知の方法により実施することが可能である。
【0022】
続く工程(2)では、前記工程(1)で消去されずに残存するTRL中のコレステロールを酵素的に定量する。コレステロールの酵素的な定量方法自体はこの分野において周知であり、例えばコレステロールにコレステロールオキシダーゼおよびコレステロールエステラーゼを作用させ、生成した過酸化水素をペルオキシダーゼと水素供与体および水素受容体によりキノン色素に変え、該色素を吸光度測定して定量する方法があげられる。これらは広く用いられている周知の方法であり、上記したWO98/47005やWO98/26090にも記載されている。
【0023】
なお、工程(1)において生じた過酸化水素をカタラーゼで分解し、工程(2)でこのカタラーゼを阻害する必要がある場合は、工程(2)において例えばアジ化ナトリウムのようなカタラーゼ阻害剤を用いてカタラーゼを阻害する。
【0024】
本発明は、界面活性剤の存在下において、分子量が50kDaを超えるコレステロールエステラーゼを使用してTRL以外のリポ蛋白中のコレステロールを消去することに最大の特徴がある。TRL内部にはエステル型コレステロールと共にトリグリセリドが多量に存在しており、小型の分子量の小さいコレステロールエステラーゼは、粒子内部まで侵入して作用することができるが、大型の分子量の大きいコレステロールエステラーゼは、トリグリセリドが立体障害となり、粒子内部のエステル型コレステロールに到達できず、作用できないのではないかと考えられる。
【0025】
コレステロールエステラーゼ及びそのサブユニットの分子量は、常法であるSDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)により測定される。周知の通り、SDS-PAGEは、還元条件下での電気泳動であるので、コレステロールエステラーゼが複数のサブユニットから構成される場合、コレステロールエステラーゼは各サブユニットに解離されるので、各サブユニットの分子量が測定される。一方、コレステロールエステラーゼがサブユニットを持たない場合には、コレステロールエステラーゼの分子量が測定される。すなわち、本発明において規定されるコレステロールエステラーゼの分子量は、コレステロールエステラーゼがサブユニットを持つ場合には、該サブユニットの分子量であり、サブユニットを持たない場合には、コレステロールエステラーゼの分子量である。
【0026】
分子量が50kDaを超えるコレステロールエステラーゼは、旭化成ファーマ社やキッコーマン社等から市販されており、本発明に用いることができる。なお、分子量が50kDa以下のコレステロールエステラーゼも種々市販されているので、本発明に市販品を用いるのであれば、分子量が50kDaを超えるコレステロールエステラーゼを選択して用いる必要がある。
【0027】
本発明におけるコレステロールエステラーゼは、少なくとも本発明の工程(1)に分子量50kDaを超えるコレステロールエステラーゼが含まれていればよく、工程(2)では工程(1)で使用したものをそのまま使用することもできるし、新たに同じコレステロールエステラーゼを追加しても良く、異なる分子量のコレステロールエステラーゼを追加してもよい。
【0028】
本発明の工程(1)および工程(2)には、少なくとも1種の界面活性剤が含まれる。好適な界面活性剤を用いれば、それぞれの工程における酵素反応を促進することができる。
【0029】
本発明の工程(1)に好適な界面活性剤としては、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種があげられる。ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルのうち、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルが好ましく、さらにはポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルがより好ましいが、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれるものであれば、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明の工程(1)に用いることのできる界面活性剤の具体例として、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルとしてはニューコール707、ニューコール708、ニューコール709、アデカトールSP-12(アデカ製)、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルとしてはブラウノンDSP-12.5、ブラウノンTSP-16(以上、青木油脂製)、ノイゲンEA-137(第一工業製薬製)、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルとしてはエマルゲンA60(花王製)があげられる。これらの界面活性剤は、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
本発明の工程(1)に用いる界面活性剤のHLB値は12〜14が好ましく、1種の界面活性剤でHLB値が12〜14でも、HLB値が12〜14でないものを含めて2種以上を界面活性剤全体のHLB値が12〜14に入るように組み合わせてもよい。前記界面活性剤の具体例は全てHLB値が12〜14の範囲内のものであるが、2種以上の界面活性剤を組み合わせる場合、界面活性剤のHLB値が12〜14の界面活性剤が含まれていても含まれていなくてもよく、本発明の工程(1)に用いることのできる界面活性剤は前記具体例に限定されるものではない。
【0032】
本発明の工程(2)に好適な界面活性剤としては、すべてのリポ蛋白に対して反応する界面活性剤が好ましく、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ラウリルアルコールアルコキシレート、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種があげられる。より具体的には、エマルゲン707、エマルゲン709、エマルゲン108(以上、花王製)、アデカトールLB83、アデカトールLB103、アデカトールLB720(以上、アデカ製)、ブラウノンDSP-9(青木油脂製)、ノイゲンEA-87(第一工業製薬製)等があげられる。
【0033】
本発明で用いる界面活性剤の反応液中の濃度は0.05%〜5%が好ましく、0.1%〜1%がより好ましく、0.1%〜0.75%がさらに好ましい。なお、本明細書において、%は、特に断りがない場合には質量%を意味する。
【0034】
本発明で使用することができるコレステロールオキシダーゼとしては、コレステロールを酸化して過酸化水素を生成する能力を有する酵素であれば特に限定されず、例えば動物または微生物由来のコレステロールオキシダーゼがあげられる。これらは、遺伝子操作により作られたものでもよく、化学修飾の有無も問わない。
【0035】
本発明の工程(1)では、ホスフォリパーゼを用いても用いなくてもよく、ホスフォリパーゼの具体例としては、ホスフォリパーゼC(PLC)、スフィンゴミエリナーゼ(SPC)、ホスファチジルイノシトール特異的ホスフォリパーゼC(PI-PLC、以上旭化成ファーマ社製)、スフィンゴミエリナーゼ(bacillus cereus由来)、スフィンゴミエリナーゼ(staphylococcus aureus由来)、ホスファチジルイノシトール特異的ホスフォリパーゼC (bacillus cereus由来、以上SIGMA社製)等があげられるが、これらに限定されるものではない。なお、ホスフォリパーゼを用いることにより、工程(1)における、TRL以外のリポ蛋白中コレステロールの消去を促進することができる。
【0036】
本発明で使用する、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ及びホスフォリパーゼ等の各酵素の使用量は、特に制限されるものではなく、適宜設定できるが、通常、0.001U〜2000U/mLで、好ましくは0.1〜1000U/mLで使用される。
【0037】
本発明で使用する水素供与体としてはアニリン誘導体が好ましく、アニリン誘導体としてはN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOPS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−(3−スルホプロピル)アニリン(HALPS)、N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシ−5−アニリン(HMMPS)等があげられる。
【0038】
水素受容体としては4−アミノアンチピリンやメチルベンゾチアゾロンヒドラゾン等を用いることができる。
【0039】
本発明における各工程は、pH5〜pH10で行うことが好ましく、pH6〜pH8で行うことがさらに好ましい。
【0040】
反応温度は各工程とも2℃〜45℃で行うことが好ましく、25℃〜40℃で行うことがさらに好ましい。反応時間は各工程とも1〜10分間で行うことが好ましく、3〜7分で行うことがさらに好ましい。
【0041】
本発明の定量方法を実施するに当たり、用いる試薬を複数の試薬組成物に分けてもよい。本発明においては、試薬としては例えばTRL以外のリポ蛋白中のコレステロールを消去する工程(すなわち工程(1))を行うための試薬組成物と、TRL中のコレステロールを測定する工程(すなわち工程(2))を行うための試薬組成物の、2種類の試薬組成物を調製することができる。
【0042】
工程(1)を行うための試薬組成物には、少なくとも分子量50kDaを超えるコレステロールエステラーゼと上記した界面活性剤が含まれる。該試薬組成物にはさらに、コレステロールオキシダーゼ、アニリン誘導体等の水素供与体、過酸化水素を消去するカタラーゼ等を含ませればよい。
【0043】
工程(2)を行うための試薬組成物には、少なくとも上記した界面活性剤が含まれる。該試薬組成物にはさらに、4-アミノアンチピリン等の水素受容体、ペルオキシダーゼ等を含ませることができる。
【0044】
工程(1)を行うための試薬組成物及び工程(2)を行うための試薬組成物には、必要に応じて、1価の陽イオン(例えば一価の金属イオン)、2価の陽イオン(例えば二価の金属イオン)もしくはそれらの塩、ポリアニオン(例えばヘパリン、デキストラン硫酸塩、リンタングステン酸塩)、血清アルブミンを添加してもよい。また、各試薬組成物のpHは、中性付近、例えばpH5〜pH9、好ましくはpH6〜8であり、緩衝液を添加してpHを調整すればよい。
【0045】
本発明の方法によりをTRL中のコレステロールを定量するには、被検体試料に工程(1)を行うための試薬組成物を添加し反応させ、次いで工程(2)を行うための試薬組成物を添加し反応させ、吸光度を測定することにより行えばよい。
【0046】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
実施例1
工程(1)を行うための試薬組成物A(実施例2以降でも工程(1)を行うための試薬組成物
を「試薬組成物A」と呼ぶ)、工程(2)を行うための試薬組成物B(実施例2以降でも工
程(2)を行うための試薬組成物を「試薬組成物B」と呼ぶ)を以下のように調製した。
【0048】
試薬組成物A
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
各種コレステロールエステラーゼ(表1参照) 3U/mL
コレステロールオキシダーゼ 3U/mL
カタラーゼ 1200U/mL
TOOS 2.0mmol/L
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル[HLB:12.8] 0.25%(w/v)
【0049】
試薬組成物B
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
4−アミノアンチピリン 4.0mmol/L
ペルオキシダーゼ 20単位/mL
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 0.5%(w/v)
【0050】
血清試料3μLに試薬組成物A150μLを加え、37℃で5分間反応させた後に、試薬組成物B50μLを加え5分間反応させ、主波長600nm、副波長700nmでの吸光度を測定した。比較対象法として超遠心法により測定したTRL-C濃度と比較した相関係数を表1に示す。
【0051】
【表1】
(コレステロールエステラーゼはいずれも市販品)
【0052】
表1に示すように、工程(1)に50kDaを超えるコレステロールエステラーゼを用いた場合に超遠心法と良好な相関性を示した。
【0053】
実施例2
試薬組成物Aおよび試薬組成物Bを以下のように調製した。
【0054】
試薬組成物A
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
コレステロールエステラーゼ[62kDa] 3U/mL
コレステロールオキシダーゼ 3U/mL
カタラーゼ 1200U/mL
TOOS 2.0mmol/L
各種界面活性剤(表2参照)※ 0.25%(w/v)
※2種類以上を組み合わせている場合は合わせて0.25%(w/v)
【0055】
試薬組成物B
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
4−アミノアンチピリン 4.0mmol/L
ペルオキシダーゼ 20単位/mL
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 0.5%(w/v)
【0056】
血清試料3μLに試薬組成物A150μLを加え、37℃で5分間反応させた後に、試薬組成物B50μLを加え5分間反応させ、主波長600nm、副波長700nmでの吸光度を測定した。比較対象法として超遠心法により測定したTRL-C濃度と比較した相関係数を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、工程(1)にHLB値が12〜14のポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群から選ばれる界面活性剤を用いた場合に超遠心法と良好な相関性を示した。また、単独では良好な相関性が得られなかったHLB値が12〜14ではないポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群から選ばれる界面活性剤でも、全体のHLB値が12〜14になるように組み合わせた場合に超遠心法と良好な相関性を示した。
【0059】
実施例3
試薬組成物Aおよび試薬組成物Bを以下のように調製した。
【0060】
試薬組成物A
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
コレステロールエステラーゼ[62kDa] 3U/mL
コレステロールオキシダーゼ 3U/mL
カタラーゼ 1200U/mL
TOOS 2.0mmol/L
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル[HLB:12.8] 各種濃度(表3参照)
【0061】
試薬組成物B
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
4−アミノアンチピリン 4.0mmol/L
ペルオキシダーゼ 20単位/mL
アジ化ナトリウム 0.05w/v%
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 0.5w/v%
【0062】
血清試料3μLに試薬組成物A150μLを加え、37℃で5分間反応させた後に、試薬組成物B50μLを加え5分間反応させ、主波長600nm、副波長700nmでの吸光度を測定した。比較対象法として超遠心法により測定したTRL-C濃度と比較した相関係数を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示すように、工程(1)に0.1〜1.0w/v%のポリオキシエチレン多環フェニルエーテルからなる群から選ばれる界面活性剤を用いた場合に超遠心法と良好な相関性を示した。さらに、該界面活性剤の濃度が0.1〜0.75w/v%では超遠心法とより良好な相関性を示した。
【0065】
実施例4
試薬組成物Aおよび試薬組成物Bを以下のように調製した。
【0066】
試薬組成物A
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
コレステロールエステラーゼ[62kDa] 3U/mL
コレステロールオキシダーゼ 3U/mL
カタラーゼ 1200U/mL
TOOS 2.0mmol/L
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル[HLB:12.8] 0.4%(w/v)
【0067】
試薬組成物B
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
4−アミノアンチピリン 4.0mmol/L
ペルオキシダーゼ 20単位/mL
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 0.5%(w/v)
【0068】
血清試料3μLに試薬組成物A150μLを加え、37℃で5分間反応させた後に、試薬組成物B50μLを加え5分間反応させ、主波長600nm、副波長700nmでの吸光度を測定した。比較対象法として超遠心法により測定したTRL-C濃度と比較した相関図を図1に示す。
【0069】
図1に示すように、本発明にて測定したTRL-Cは超遠心法と良好な相関性を示した。
【0070】
実施例5
試薬組成物Aおよび試薬組成物Bを以下のように調製した。
【0071】
試薬組成物A
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
コレステロールエステラーゼ[62kDa] 3U/mL
コレステロールオキシダーゼ 3U/mL
カタラーゼ 1200U/mL
TOOS 2.0mmol/L
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル[HLB:12.8] 0.25%(w/v)
【0072】
試薬組成物B
PIPES緩衝液,pH6.8 50mmol/L
4−アミノアンチピリン 4.0mmol/L
ペルオキシダーゼ 20単位/mL
アジ化ナトリウム 0.05%(w/v)
各種界面活性剤(表4参照) 各種濃度(表4参照)
【0073】
血清試料3μLに試薬組成物A150μLを加え、37℃で5分間反応させた後に、試薬組成物B50μLを加え5分間反応させ、主波長600nm、副波長700nmでの吸光度を測定した。比較対象法として超遠心法により測定したTRL-C濃度と比較した相関係数を表4に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
表4に示すように、工程(2)にポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ラウリルアルコールアルコキシレートからなる群から選ばれる界面活性剤を用いた場合に超遠心法と良好な相関性を示した。
図1