特許第6829044号(P6829044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6829044
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】糸掛けロボット
(51)【国際特許分類】
   D01D 7/00 20060101AFI20210128BHJP
   B65H 67/048 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   D01D7/00 C
   B65H67/048 Z
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-206091(P2016-206091)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-66088(P2018-66088A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 典子
(72)【発明者】
【氏名】七山 大督
(72)【発明者】
【氏名】杉山 研志
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−085669(JP,A)
【文献】 特開昭55−048162(JP,A)
【文献】 特開昭53−041536(JP,A)
【文献】 特開2010−013259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00−13/02、B65H67/00−67/08、
B65H65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡出された糸をトラバースしながらボビンに巻き取ってパッケージを形成する紡糸引取装置に対して、吸引保持部材で前記糸を吸引保持しながら糸掛け作業を行う糸掛けロボットであって、
前記吸引保持部材の吸引力を制御する制御部を備え
前記制御部は、前記吸引保持部材による前記糸の吸引保持が開始されたときから前記ボビンへの糸掛けが完了するまでの間において、前記吸引保持部材の吸引力を複数回増減させることを特徴とする糸掛けロボット。
【請求項2】
前記紡糸引取装置は、前記糸がトラバースされる際の支点となる支点ガイドを備えるものであり、
前記制御部は、前記支点ガイドへの糸掛け時における前記吸引保持部材の吸引力よりも、前記ボビンへの糸掛け時における前記吸引保持部材の吸引力を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の糸掛けロボット。
【請求項3】
前記紡糸引取装置は、前記糸を前記ボビンへ送るゴデットローラを備えるものであり、
前記制御部は、前記ゴデットローラへの糸掛け時における前記吸引保持部材の吸引力よりも、前記ボビンへの糸掛け時における前記吸引保持部材の吸引力を大きくすることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸掛けロボット。
【請求項4】
前記紡糸引取装置は、
複数の前記ボビンに複数の前記糸をそれぞれ巻き取るように構成されたものであり、且つ、前記複数の糸のうち互いに隣接する糸同士の間隔を規定する糸規制ガイドを備えるものであり、
前記制御部は、前記糸規制ガイドへの糸掛け時における前記吸引保持部材の吸引力よりも、前記ボビンへの糸掛け時における前記吸引保持部材の吸引力を大きくすることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の糸掛けロボット。
【請求項5】
前記制御部は、前記吸引保持部材による前記糸の吸引保持が開始されたときから前記ボビンへの糸掛けが完了するまでの間において、前記吸引保持部材の吸引力を前記ボビンへの糸掛け時に最も大きくすることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の糸掛けロボット。
【請求項6】
前記制御部は、前記糸掛け作業の工程に基づいて前記吸引保持部材の吸引力を制御することを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の糸掛けロボット。
【請求項7】
前記糸掛けロボットの位置及び/又は姿勢を検出するセンサを備え、
前記制御部は、前記位置及び/又は姿勢を検出するセンサからの出力値に基づいて、前記吸引保持部材の吸引力を制御することを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の糸掛けロボット。
【請求項8】
前記糸の張力を検出するセンサを備え、
前記制御部は、前記張力を検出するセンサからの出力値に基づいて、前記吸引保持部材の吸引力を制御することを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の糸掛けロボット。
【請求項9】
前記吸引保持部材は、圧縮流体が供給されることで前記圧縮流体の圧力に応じた吸引力が生じるように構成されており、
前記制御部は、前記吸引保持部材に供給される前記圧縮流体の圧力を制御することで、前記吸引保持部材の吸引力を制御することを特徴とする請求項1ないし8の何れか1項に記載の糸掛けロボット。
【請求項10】
前記圧縮流体を前記吸引保持部材に供給するための経路に設けられた、前記圧縮流体の圧力を調整するための圧力調整部をさらに備え、
前記制御部は、前記圧力調整部の動作を制御することで、前記吸引保持部材の吸引力を制御することを特徴とする請求項に記載の糸掛けロボット。
【請求項11】
前記圧力調整部は電空レギュレータであることを特徴とする請求項10に記載の糸掛けロボット。
【請求項12】
前記制御部は、前記紡糸引取装置によって巻き取られる糸の種類及び/又は生産条件に応じて、前記吸引保持部材の吸引力を変更することを特徴とする請求項1ないし11の何れか1項に記載の糸掛けロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸引取装置に対して糸掛け作業を行う糸掛けロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、紡出された糸を巻き取ってパッケージを形成する紡糸引取装置に対して糸掛け作業を行うための自動糸掛け装置が開示されている。この自動糸掛け装置は、サクションガンで糸を吸引保持しながら動作することで、紡糸引取装置を構成する各部材に糸掛けを行うことができるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53−106815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、サクションガンで糸を吸引保持しながら糸掛けを行う場合、サクションガンの吸引力が小さすぎると、糸揺れ等が生じることで、各部材への糸掛けを適切に行うことができなくなるおそれがある。また、サクションガンの吸引力が大きすぎると、糸の張力が過大となり、糸切れが生じたり、吸引による糸の振動の伝播が過大になるおそれがある。つまり、サクションガンの吸引力を適正に維持しないと、糸掛け作業に失敗する可能性が高くなってしまう。しかしながら、特許文献1においては、糸掛け作業を安定的に行うためにサクションガンの吸引力を調整することについては何ら言及がなかった。
【0005】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、糸掛け作業を安定的に行うことができる糸掛けロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、紡出された糸をトラバースしながらボビンに巻き取ってパッケージを形成する紡糸引取装置に対して、吸引保持部材で糸を吸引保持しながら糸掛け作業を行う糸掛けロボットであって、前記吸引保持部材の吸引力を制御する制御部を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る糸掛けロボットでは、制御部によって吸引保持部材の吸引力を制御するように構成されているため、必要に応じて吸引力を増減させることにより、糸掛け作業を安定的に行うことができる。
【0008】
また、本発明において、前記吸引保持部材は、圧縮流体が供給されることで前記圧縮流体の圧力に応じた吸引力が生じるように構成されており、前記制御部は、前記吸引保持部材に供給される前記圧縮流体の圧力を制御することで、前記吸引保持部材の吸引力を制御するとよい。
【0009】
このような構成であれば、圧縮流体の圧力を調整するだけで、吸引保持部材の吸引力を簡単に増減させることができる。
【0010】
また、本発明において、前記圧縮流体を前記吸引保持部材に供給するための経路に設けられた、前記圧縮流体の圧力を調整するための圧力調整部をさらに備え、前記制御部は、前記圧力調整部の動作を制御することで、前記吸引保持部材の吸引力を制御するとよい。
【0011】
圧縮流体の圧力を調整する圧力調整部を糸掛けロボットに設けることで、圧力調整部と吸引保持部材との間の距離を短くすることができ、吸引力制御の応答速度を速めることができる。
【0012】
また、本発明において、前記圧力調整部は電空レギュレータであるとよい。
【0013】
圧力調整部として電空レギュレータを使用すれば、圧縮流体の圧力を略無段階に調整することができ、吸引保持部材の吸引力をより細かく制御することができる。
【0014】
また、本発明において、前記制御部は、1回の前記糸掛け作業の間に、前記吸引保持部材の吸引力を変動させるとよい。
【0015】
1回の糸掛け作業の間でも、工程に応じて適正な吸引力が変動し得る。上述の構成であれば、1回の糸掛け作業の間で適正な吸引力が変動する場合でも、これに対応することが可能となり、より安定的に糸掛け作業を行うことができる。
【0016】
また、本発明において、前記制御部は、前記1回の糸掛け作業の間において、前記吸引保持部材の吸引力を前記ボビンへの糸掛け時に最も大きくするとよい。
【0017】
一般的にボビンに糸掛けを行う際には、ボビンに形成されているスリットに糸を引っ掛ける必要がある。このため、ボビンに糸掛けする際の吸引力が不十分であると、糸の張力が弱くなり、スリットにうまく糸を引っ掛けることができなくなるおそれがある。そこで、上述のように、1回の糸掛け作業の間で、吸引力をボビンへ糸掛け時に最も大きくすることで、スリットに糸を引っ掛けやすくなり、ボビンへの糸掛けを確実に行うことができる。
【0018】
また、本発明において、前記制御部は、前記紡糸引取装置によって巻き取られる糸の種類及び/又は生産条件に応じて、前記吸引保持部材の吸引力を変更するとよい。
【0019】
糸の種類及び/又は生産条件によって、糸掛け時の適正な張力は異なる場合がある。このような場合でも、上述のように、糸の種類及び/又は生産条件に応じて吸引力を変更することで、各種の糸に適した張力で糸掛け作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る紡糸引取設備の概略構成図である。
図2】紡糸引取装置及び糸掛けロボットの正面図である。
図3】紡糸引取装置及び糸掛けロボットの側面図である。
図4】紡糸引取設備の電気的構成を示すブロック図である。
図5】支点ガイドの上面図である。
図6】糸掛けロボットの糸掛けユニットを示す斜視図である。
図7】サクションの断面図である。
図8】糸掛け作業時における糸掛けロボットの動作を示す側面図である。
図9】糸掛け作業時における糸掛けロボットの動作を示す上面図である。
図10】糸掛け作業時における糸掛けロボットの動作を示す上面図である。
図11】糸分けガイドから支点ガイドに糸が掛けられる動作を示す上面図である。
図12】サクションの吸引力制御の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0022】
(紡糸引取設備の全体構成)
図1は、本実施形態に係る紡糸引取設備の概略構成図である。本実施形態に係る紡糸引取設備1は、水平な一方向に並んだ複数の紡糸引取装置2と、複数の紡糸引取装置2に対して糸掛け作業を行う糸掛けロボット3と、各紡糸引取装置2や糸掛けロボット3の動作を制御する集中制御装置4と、糸掛けロボット3に圧縮空気(圧縮流体の一例)を供給する圧空供給部5と、糸掛けロボット3からの糸が廃棄される廃糸ボックス6と、を有する。本実施形態では、紡糸引取設備1に設けられた全ての紡糸引取装置2に対して、1台の糸掛けロボット3と、1つずつの圧空供給部5及び廃糸ボックス6が設けられているものとする。なお、図1では、図が煩雑になることを避けるため、糸の図示は省略している。以下の説明においては、複数の紡糸引取装置2が並んでいる方向を左右方向、水平で且つ左右方向と直交する方向を前後方向と定義する。
【0023】
(紡糸引取装置)
紡糸引取装置2の詳細について説明する。図2は、紡糸引取装置2及び糸掛けロボット3の正面図であり、図3は、紡糸引取装置2及び糸掛けロボット3の側面図である。また、図4は、紡糸引取設備1の電気的構成を示すブロック図である。
【0024】
紡糸引取装置2は、不図示の紡糸装置から紡出される複数の糸Yを引き取り、複数のボビンBにそれぞれ巻き取って複数のパッケージPを形成する。より具体的には、紡糸引取装置2は、不図示の紡糸装置から紡出された複数の糸Yを、第1ゴデットローラ11及び第2ゴデットローラ12によって巻取ユニット13へ送り、巻取ユニット13で複数のボビンBにそれぞれ巻き取って複数のパッケージPを形成する。
【0025】
第1ゴデットローラ11は、軸方向が左右方向と略平行なローラであり、巻取ユニット13の前端部の上方に配置されている。第1ゴデットローラ11は、第1ゴデットモータ111(図4参照)によって回転駆動される。
【0026】
第2ゴデットローラ12は、軸方向が左右方向と略平行なローラであり、第1ゴデットローラ11よりも上方且つ後方に配置されている。第2ゴデットローラ12は、第2ゴデットモータ112(図4参照)によって回転駆動される。また、第2ゴデットローラ12は、ガイドレール14に移動可能に支持されている。ガイドレール14は、後方に向かうほど上方に位置するように斜めに延びている。第2ゴデットローラ12は、シリンダ113(図4参照)によって、ガイドレール14に沿って移動させることができるように構成されている。これにより、第2ゴデットローラ12は、糸Yの巻取りを行うときの巻取位置(図3の実線の位置)と、第1ゴデットローラ11に近接して配置される、糸掛けを行うときの糸掛け位置(図3の一点鎖線の位置)との間で移動可能となっている。
【0027】
紡糸引取装置2は、さらに、アスピレータ15及び糸規制ガイド16を有する。アスピレータ15は、糸掛けロボット3による糸掛け作業の前に、紡糸装置から紡出されてきた複数の糸Yを予め吸引保持する。アスピレータ15は、左右方向に沿って延びており、その右端部に糸Yを吸引する吸引口15aが形成されている。アスピレータ15は、吸引口15aが複数の糸Yの近傍に位置するように、第1ゴデットローラ11のやや上方に配置されている。
【0028】
糸規制ガイド16は、上下方向において第1ゴデットローラ11とアスピレータ15との間に配置されている。糸規制ガイド16は、例えば、複数のガイド溝を有する公知の櫛歯状の糸ガイドであって、複数の糸Yが掛けられたときに、隣接する糸Y同士の間隔を規定する。また、糸規制ガイド16は、シリンダ114(図4参照)によって、左右方向(第1ゴデットローラ11の軸方向)に移動させることができるように構成されている。これにより、糸規制ガイド16は、左右方向において、第1ゴデットローラ11が配置されている範囲内に収まった退避位置(図2の実線の位置)と、第1ゴデットローラ11の先端部よりも右側に突出した突出位置(図2の一点鎖線の位置)との間で移動可能となっている。
【0029】
巻取ユニット13は、複数の支点ガイド21と、複数のトラバースガイド22と、ターレット23と、2本のボビンホルダ24と、コンタクトローラ25とを備えている。
【0030】
図5は、支点ガイド21の上面図である。複数の支点ガイド21は、複数の糸Yに対して個別に設けられ、前後方向に配列されている。また、各支点ガイド21は、後側に開口した溝21aを有し、後側から溝21aに糸Yを挿入することによって糸掛けを行うことができるようになっている。複数の支点ガイド21は、複数のスライダ27に個別に取り付けられている。複数のスライダ27は、ガイドレール28に沿って前後方向に移動可能に支持されている。また、複数のスライダ27は、シリンダ115(図4参照)に接続されている。シリンダ115を駆動させると、複数のスライダ27は、ガイドレール28に沿って前後方向に移動する。これにより、複数の支点ガイド21は、前後方向に互いに離れて配置される、糸Yを巻き取るときの巻取位置(図5(a)に示す位置)と、ガイドレール28の前端部において互いに近接して配置される、糸掛けを行うときの糸掛け位置(図5(b)に示す位置)との間で移動可能となっている。糸掛け位置にある複数の支点ガイド21は、第1ゴデットローラ11や糸掛け位置にある第2ゴデットローラ12の直下付近に位置する。
【0031】
複数のトラバースガイド22は、複数の糸Yに対して個別に設けられ、前後方向に配列されている。複数のトラバースガイド22は、共通のトラバースモータ116(図4参照)によって駆動され、前後方向に往復移動する。これにより、トラバースガイド22に掛けられた糸Yが、支点ガイド21を中心にトラバースされる。
【0032】
ターレット23は、軸方向が前後方向と略平行な円板状の部材である。ターレット23は、ターレットモータ117(図4参照)によって回転駆動される。2本のボビンホルダ24は、それぞれ、軸方向が前後方向と略平行であり、ターレット23の上端部及び下端部に回転自在に支持されている。各ボビンホルダ24には、複数の糸Yに対して個別に設けられた複数のボビンBが前後方向に並んで装着されている。また、2つのボビンホルダ24は、それぞれ、個別の巻取モータ118(図4参照)によって回転駆動される。
【0033】
上側のボビンホルダ24を回転駆動させると、トラバースガイド22によってトラバースされた糸YがボビンBに巻き取られてパッケージPが形成される。また、パッケージPが満巻きとなると、ターレット23を回転させることにより、2本のボビンホルダ24の上下の位置を入れ換える。これにより、それまで下側に位置していたボビンホルダ24が上側に移動し、このボビンホルダ24に装着されたボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPを形成することができる。また、それまで上側に位置していたボビンホルダ24が下側に移動し、不図示のパッケージ回収装置によってパッケージPが回収される。
【0034】
コンタクトローラ25は、軸方向が前後方向と略平行なローラであり、上側のボビンホルダ24のすぐ上方に配置されている。コンタクトローラ25は、上側のボビンホルダ24に支持されている複数のパッケージPの表面に接触することで、巻取中のパッケージPの表面に接圧を付与して、パッケージPの形状を整える。
【0035】
(糸掛けロボット)
次に、糸掛けロボット3について説明する。糸掛けロボット3は、本体部31と、ロボットアーム32と、糸掛けユニット33とを有する。
【0036】
本体部31は、略直方体形状に構成され、内部に、ロボットアーム32、糸掛けユニット33、電空レギュレータ37等の動作を制御するためのロボット制御装置102(図4参照)等を搭載している。本体部31は、2本のガイドレール35に吊り下げられ、2本のガイドレール35に沿って左右方向に移動可能となっている。この2本のガイドレール35は、複数の紡糸引取装置2の前方において前後方向に間隔を空けて配置されており、複数の紡糸引取装置2にわたって左右方向にそれぞれ延びている。つまり、糸掛けロボット3は、複数の紡糸引取装置2の前方において左右方向に移動可能に構成されている。
【0037】
本体部31の上端部には、4つの車輪36が設けられている。そして、これら4つの車輪36のうち2つずつが、各ガイドレール35の上面に配置されている。また、4つの車輪36は、移動モータ121(図4参照)によって回転駆動され、4つの車輪36が回転駆動されることで、本体部31が、2本のガイドレール35に沿って左右方向に移動する。
【0038】
ロボットアーム32は、本体部31の下面に取り付けられている。ロボットアーム32は、複数のアーム32aとアーム32a同士を連結する複数の関節部32bとを有する。各関節部32bにはアームモータ122(図4参照)が内蔵されており、アームモータ122が駆動されると、アーム32aが関節部32bを中心に揺動する。これにより、ロボットアーム32を3次元的に動作させることができる。
【0039】
図6は、糸掛けロボット3の糸掛けユニット33を示す斜視図である。糸掛けユニット33は、ロボットアーム32の先端部に取り付けられている。糸掛けユニット33は、一方向(以下、この方向を第1方向とする)に長尺に構成され、第1方向における片側(以下、第1方向の基端側とする)の端部において、アーム32aと接続されている。なお、以下では、第1方向における基端側の反対側を先端側とする。
【0040】
ここで、本実施形態では、ロボットアーム32を駆動させると、ロボットアーム32の先端部に取り付けられた糸掛けユニット33が3次元的に動作する。このとき、糸掛けユニット33の向きを変えることもできる。ただし、糸掛けユニット33は、後述するように、糸掛け時には、主に、図6の上下方向が鉛直方向と平行で、且つ、図6の上側が鉛直方向の上側、図6の下側が鉛直方向の下側となるような向きで使用される。そこで、以下では、糸掛けユニット33の、図6における上下方向を第2方向とするとともに、図6の上側を第2方向の上側とし、図6の下側を第2方向の下側とする。また、以下では、第1方向及び第2方向のいずれとも直交する方向を第3方向とし、図6に示すように、第3方向の一方側及び他方側を定義して説明を行う。
【0041】
糸掛けユニット33は、フレーム41、サクション42、糸収束ガイド43、カッター44、スライド部材45、押当ローラ46、糸分けガイド47等を備えている。フレーム41は、第1方向における基端部において、アーム32aと接続されている。サクション42は、フレーム41の第3方向における一方側の部分に取り付けられている。サクション42は、第1方向に延び、その先端部において糸Yを吸引保持可能となっている。糸収束ガイド43は、フレーム41に取り付けられ、サクション42の先端部の第2方向における下側に位置している。糸収束ガイド43には、糸掛け時に複数の糸Yが収束した状態で掛けられる。カッター44は、フレーム41に取り付けられ、糸収束ガイド43の第2方向における下側に位置している。カッター44は、後述するように、アスピレータ15からサクション42への糸Yの受け渡しを行う際に糸Yを切断するためのものである。
【0042】
スライド部材45は、サクション42、糸収束ガイド43及びカッター44から、第3方向の他方側にずれて配置されている。スライド部材45は、シリンダ48を介してフレーム41に取り付けられており、シリンダ48を駆動させると、スライド部材45がフレーム41に対して第1方向に移動する。
【0043】
押当ローラ46は、第2方向と直交するシャフト46aに回転自在に支持されたフリーローラであり、スライド部材45の第2方向における上側に配置された状態で、スライド部材45と第1方向に一体移動可能に取り付けられている。また、シャフト46aの片側の端部は、円筒状のシャフト49に取り付けられている。シャフト49は、第2方向に延びてスライド部材45を貫通している。シャフト49の第2方向における下側の端部には、ローラ揺動装置50が接続されている。押当ローラ46は、ローラ揺動装置50によって、シャフト49の軸を中心に第1方向と第3方向とを含む面内で揺動可能に構成されている。押当ローラ46は、シャフト49の軸を中心に揺動することで、押当ローラ46の軸方向が第1方向と略平行となって、押当ローラ46全体が、サクション42、糸収束ガイド43及びカッター44が配置されている領域よりも、第3方向における他方側に位置する退避姿勢(図6に示す姿勢)と、押当ローラ46の軸方向が第3方向と略平行となって、押当ローラ46が、第3方向においてサクション42、糸収束ガイド43及びカッター44が配置されている領域を跨ぐように位置する押当姿勢(図9(a)に示す姿勢)との間で、何れかの姿勢を選択的に取ることができる。
【0044】
糸分けガイド47は、押当ローラ46の第2方向における上側に配置された状態で、スライド部材45と第1方向に一体移動可能に取り付けられている。糸分けガイド47には、その長手方向に沿って並んだ複数の溝47aが形成されている。複数の溝47aは片側の端が開口しており、開口部分から離れるほど、溝47a同士の間隔が広くなっている。ただし、複数の溝47aの間隔が開口部分からの距離に関わらず一定であってもよい。また、糸分けガイド47は、その長手方向における片側の端部が、第2方向と平行に延びた不図示のシャフトに取り付けられている。このシャフトは、円筒状のシャフト49に挿通されており、第2方向における下側の端部には、ガイド揺動装置51が接続されている。糸分けガイド47は、ガイド揺動装置51によって、不図示のシャフトの軸を中心に揺動することで、糸分けガイド47の長手方向が第1方向と略平行となり、糸分けガイド47全体が、サクション42、糸収束ガイド43及びカッター44が配置されている領域よりも、第3方向における他方側に位置する退避姿勢(図6に示す姿勢)と、糸分けガイド47の長手方向が第3方向と略平行となって、糸分けガイド47が、第3方向においてサクション42、糸収束ガイド43及びカッター44が配置されている領域を跨ぐように位置する糸掛け姿勢(図9(c)に示す姿勢)との間で、何れかの姿勢を選択的に取ることができる。
【0045】
図7は、サクション42の断面図である。サクション42は、第1方向に延びる吸引管42aと、吸引管42aの途中部分に一体的に接続された圧空管42bと、を有する。吸引管42aの先端部は、糸Yを吸引する吸引口42cとなっており、吸引管42aの基端部には、廃糸ボックス6から引き出された廃糸用ホース8(図1参照)が接続されている。また、圧空管42bの先端部は、連通孔42dを介して吸引管42aと連通しており、圧空管42bの基端部には、圧空供給部5から引き出された圧空用ホース7(図1参照)が接続されている。連通孔42dは、吸引管42aに近づくほど吸引管42aの基端側に位置するように、吸引管42aに対して斜めに形成されている。なお、圧空用ホース7及び廃糸用ホース8の一部は、何れもロボットアーム32の動作を阻害しないように本体部31やロボットアーム32に取り付けられている。
【0046】
このように構成されたサクション42では、図7において矢印で示すように、圧空管42bから吸引管42aに流れ込む圧縮空気は、吸引管42aの先端側から基端側に向かって流れる。この流れによって吸引口42cに負圧が生じ、吸引口42cから糸Yを吸引することが可能となる。吸引口42cから吸引された糸Yは、そのまま、吸引管42a内における空気の流れにより、廃糸用ホース8へと排出される。糸掛けロボット3は、サクション42で糸Yを吸引保持しながら糸掛け作業を行う。
【0047】
このように、本実施形態のサクション42は、圧空供給部5から供給される圧縮空気によって吸引口42cに吸引力(負圧)が発生するものであり、サクション42に供給される圧縮空気の圧力を変えることで、サクション42の吸引力を変化させることができる。本実施形態では、図1に示すように、圧空用ホース7のうち糸掛けロボット3に配設された部分に、圧縮空気の圧力を略無段階で調整することのできる電空レギュレータ37が設けられている。これによって、サクション42に供給される圧縮空気の圧力を調整することができ、ひいては、サクション42の吸引力を調整することができる。
【0048】
(紡糸引取設備の電気的構成)
次に、紡糸引取設備1の電気的構成について説明する。図1に示すように、紡糸引取設備1は設備全体の制御を行うための集中制御装置4を有する。集中制御装置4は、オペレータが各種の設定を行うための操作部4aと、設定を補助する画面や各部の状態を示す画面を表示する表示部4bとを有する。また、図4に示すように、各紡糸引取装置2には巻取制御装置101が設けられており、巻取制御装置101が、紡糸引取装置2に設けられた各駆動部の動作を制御する。また、糸掛けロボット3にはロボット制御装置102が設けられており、ロボット制御装置102が、糸掛けロボット3に設けられた各駆動部の動作を制御する。集中制御装置4は、各巻取制御装置101及びロボット制御装置102と、無線又は有線によって通信可能に接続されている。
【0049】
(糸掛け作業の一連の流れ)
次に、糸掛けロボット3による糸掛け作業について説明する。図8は、糸掛け作業時における糸掛けロボット3の動作を示す側面図であり、図9及び図10は、糸掛け作業時における糸掛けロボット3の動作を示す上面図であり、図11は、糸分けガイド47から支点ガイド21に糸Yが掛けられる動作を示す上面図である。より詳細には、図8は、糸掛け作業工程のうち、紡糸装置から紡出される複数の糸Yを引き取り、第1ゴデットローラ11及び第2ゴデットローラ12に巻き掛ける工程を示しており、図9及び図10は、糸掛けロボット3の糸分けガイド47に糸掛けを行う工程を示している。なお、図8においては、図示を簡略にするため、糸掛けユニット33の第1方向が前後方向と略平行となるような図となっているが、実際には糸掛けユニット33は姿勢を変えながら糸掛け作業を行う。
【0050】
図8(a)に示すように、糸掛けロボット3に糸掛け作業を行わせる前には、紡糸装置から紡出された複数の糸Yを、予めアスピレータ15に吸引保持させておく。また、糸掛け作業が行われる紡糸引取装置2の第2ゴデットローラ12を糸掛け位置に位置させておく。また、複数の支点ガイド21を糸掛け位置(図5(b)に示す位置)に位置させておく。また、糸掛けユニット33に設けられた押当ローラ46及び糸分けガイド47をそれぞれ退避姿勢(図6に示す状態)にさせておく。
【0051】
そして、糸掛けロボット3を、糸掛け作業の対象となる紡糸引取装置2と前後方向に重なる位置まで移動させる。続いて、糸掛けロボット3は、ロボットアーム32を駆動させることで、図8(b)に示すように、糸掛けユニット33をアスピレータ15のやや上方の位置に移動させる。このとき、サクション42の先端部が、アスピレータ15に吸引保持されている複数の糸Yに押し付けられるように、また、カッター44が、複数の糸Yを切断可能な位置に位置するように、糸掛けユニット33を移動させる。続いて、カッター44で複数の糸Yを切断すると、図8(c)に示すように、複数の糸Yはサクション42によって吸引保持され、アスピレータ15からサクション42への複数の糸Yの受け渡しが完了する。
【0052】
アスピレータ15からサクション42への複数の糸Yの受け渡しが完了した後、図8(d)に示すように、糸掛けユニット33を第1ゴデットローラ11よりも下方まで移動させながら、複数の糸Yを糸規制ガイド16に糸掛けする。糸規制ガイド16に糸掛けする際は、糸掛けユニット33がゴデットローラ11、12と干渉することを避けるため、糸規制ガイド16を突出位置(図2の一点鎖線の位置)に一旦移動させ、突出位置にある糸規制ガイド16に糸掛けが行われる。そして、糸規制ガイド16への糸掛けが終わったら、糸規制ガイド16を退避位置(図2の実線の位置)に戻す。続いて、糸掛けユニット33を適宜移動させることにより、図8(e)に示すように、サクション42に保持された複数の糸Yを、下側から第1ゴデットローラ11に巻き掛けた後、上側から第2ゴデットローラ12に巻き掛ける。
【0053】
続けて、図9及び図10を参照しつつ、複数の支点ガイド21への糸掛けについて説明する。糸掛けロボット3は、ゴデットローラ11、12への糸掛けが終わると、図9(a)に示すように、押当ローラ46を揺動させることによって、押当ローラ46を退避姿勢から押当姿勢に切り換える。すると、押当ローラ46が、複数の糸Yに押し当てられ、複数の糸Yとの間の摩擦力によって回転する。これにより、複数の糸Yの、押当ローラ46が押し当てられた部分の間隔が広げられる。
【0054】
次に、図9(b)に示すように、スライド部材45を第1方向の先端側にスライドさせる。すると、複数の糸Yに押し当てられた押当ローラ46が、スライド部材45とともに第1方向の先端側にスライドしてサクション42から離れる。これにより、図9(a)の状態と比較して、第2方向から見たときの、押当ローラ46からサクション42に向かう糸Yの第1方向に対する傾斜角度が小さくなる。ここで、糸Yの上記傾斜角度が大きいと、糸Yがサクション42に向けて押当ローラ46から離れる位置にばらつきが生じやすく、糸揺れの原因となる。そこで、本実施形態では、上述したように、押当ローラ46をサクション42から離すことにより、糸Yの上記傾斜角度を小さくして糸揺れを抑制している。その結果、複数の糸Yの間隔が、糸規制ガイド16の複数のガイド溝間隔と等しい糸分けガイド47の複数の溝47aの開口部における間隔と略同じとなる。
【0055】
次に、図9(c)に示すように、糸分けガイド47を揺動させることによって、退避姿勢から糸掛け姿勢に切り換える。これにより、糸分けガイド47の複数の溝47aが、押当ローラ46が押し当てられた複数の糸Yとそれぞれ対向する。続いて、図10に示すように、押当ローラ46を揺動させることによって、押当姿勢から退避姿勢に戻す。すると、押当ローラ46が複数の糸Yから離れ、複数の糸Yは、複数の溝47aにそれぞれ挿入される。このとき、複数の溝47aの開口から離れるほど、溝47a同士の間隔が大きくなっているため、複数の溝47aに挿入された複数の糸Yの間隔がさらに広がる。また、このときに、図11に示すように、糸分けガイド47の各溝47aと、これに対応する支点ガイド21の溝21aの先端の開口部とを結ぶ直線が互いに平行となるように、糸掛けユニット33は配置されている。
【0056】
この状態から、図11に示すように、糸分けガイド47を移動することによって、複数の溝47aに挿入された複数の糸Yが、それぞれ対応する支点ガイド21に糸掛けされる。複数の支点ガイド21への糸掛けが完了すると、第2ゴデットローラ12及び複数の支点ガイド21はそれぞれ巻取位置に移動し、スライド部材45を第1方向の基端側にスライドさせるとともに、糸分けガイド47を退避姿勢に戻す。
【0057】
(サクションの吸引力制御)
以上のような一連の糸掛け作業の間、糸掛けロボット3はサクション42によって糸Yを吸引保持しているが、どの部材に糸掛けを行うか等によって適正な吸引力は異なり、サクション42の吸引力が一定だとうまく糸掛けが行えない場合がある。そこで、本実施形態では、上述のように、圧空用ホース7の途中に電空レギュレータ37を設け、電空レギュレータ37をロボット制御装置102によって制御することで、サクション42の吸引力が調整できるように構成されている。以下では、サクション42の吸引力制御の具体例について説明する。
【0058】
図12は、サクション42の吸引力制御の一例を示すグラフである。本実施形態では、図12に示すように、ロボット制御装置102は、糸掛け作業の工程に基づいてサクション42の吸引力を制御する。ロボット制御装置102には、図12に示す制御データ(糸掛け作業の工程と吸引力の関数)が予め記憶されており、この制御データに基づいて、後述するサクションへの糸Yの受け渡しから、後述する複数のボビンBへの糸掛けまでの一連の糸掛け作業(1回の糸掛け作業)の間に、 電空レギュレータ37を制御する。
【0059】
まず、ロボット制御装置102は、電空レギュレータ37を制御することでサクション42に所定の吸引力を発生させ、この状態で、アスピレータ15からサクション42への糸Yの受け渡しが行われる。その後、糸規制ガイド16への糸掛けが行われるが、糸規制ガイド16への糸掛けを行う際には、ロボット制御装置102は、サクション42の吸引力を、糸Yの受け渡し時の上記所定の吸引力よりも大きくする。というのも、糸規制ガイド16のガイド溝に糸Yを掛ける際には、糸Yの張力をある程度大きくしておかないと、糸規制ガイド16との接触によって糸Yの動きが不安定になりやすく、うまく糸掛けできないおそれがあるからである。
【0060】
次に、ゴデットローラ11、12への糸掛けが行われるが、このときは、糸掛けユニット33の動作に合わせて必要があれば、ロボット制御装置102は、サクション42の吸引力を増減させて調整すべく、電空レギュレータ37を制御する。ただし、このように吸引力を増減させることは必須ではなく、糸規制ガイド16に糸掛けを行った際の吸引力を維持しながら、ゴデットローラ11、12へ糸掛けを行ってもよい。
【0061】
ゴデットローラ11、12への糸掛けが終わると、押当ローラ46、糸分けガイド47の順に糸掛けが行われる。ロボット制御装置102は、押当ローラ46への糸掛け前に、サクション42の吸引力を低下させるように、電空レギュレータ37を制御する。というのも、サクション42の吸引力が高いと、サクション42が吸引される糸Yに対して与えてしまう振動が大きくなってしまい、その結果、振動の伝播を押当ローラ46で抑制できず、糸揺れが大きくなることで糸分けガイド47への糸掛けがうまく行えないおそれがあるからである。
【0062】
次に、糸掛け位置にある複数の支点ガイド21への糸掛けが行われる。このとき、ロボット制御装置102は、サクション42の吸引力を調整するために、電空レギュレータ37を制御する。図11から明らかなように、支点ガイド21への糸掛け時には、糸Yが支点ガイド21に接触しながら溝21aに挿入されるため、糸掛けの成功率を高めるためには、サクション42の吸引力を高め、糸揺れを抑制する必要がある。しかしながら、糸揺れを抑制するためにサクション42の吸引力を大きくしすぎると、糸Yと糸分けガイド47との抵抗が大きくなってしまい、糸切れが発生してしまうおそれがある。したがって、上述のように、支点ガイド21への糸掛け時の吸引力は、糸Yと糸分けガイド47との抵抗を考慮して、糸切れ及び糸揺れを抑制するように調整される。この調整によって、支点ガイド21への糸掛けを成功させやすくなる。なお、図12では、一例として、支点ガイド21への糸掛け時にサクション42の吸引力を若干大きくした場合を示している。
【0063】
複数の支点ガイド21への糸掛け後、複数の支点ガイド21は糸掛け位置から巻取位置に移動する。また、複数の支点ガイド21の糸掛け位置から巻取位置に移動しているか否かに関わらず、複数の支点ガイド21への糸掛けが終わると、糸掛けユニット33は、ボビンホルダ24に装着された複数のボビンBの糸掛け位置に移動し、複数のボビンBへの糸掛けを行う。複数のボビンBへの糸掛け時には、ロボット制御装置102は、1回の糸掛け作業の間において、サクション42の吸引力が最も大きくなるように、電空レギュレータ37を制御する。吸引力を大きくすることで糸Yの張力を高め、糸Yの弛みによってボビンBへの糸掛けが失敗することを抑制することができる。
【0064】
ところで、サクション42の適正な吸引力は、糸Yの材料や太さ、糸Yの紡出速度等の生産条件等によって変化し得る。そこで、本実施形態では、上述の制御データが、糸Yの種類や生産条件に応じて複数用意されている(その一例を図12に破線で示す)。例えば、オペレータが集中制御装置4の操作部4aを介して糸Yの種類や生産条件を入力すると、集中制御装置4からロボット制御装置102に糸種や生産条件に関する情報が送られる。そして、ロボット制御装置102は、糸Yの種類や生産条件に応じた制御データを選択し、その制御データに基づいてサクション42の吸引力を制御する。ただし、糸Yの種類や生産条件に応じてサクション42の吸引力制御を異ならせることは必須ではない。
【0065】
(効果)
以上のように、本実施形態に係る糸掛けロボット3では、ロボット制御装置102(制御部)によってサクション42(吸引保持部材)の吸引力を制御するように構成されているため、必要に応じて吸引力を増減させることにより、糸掛け作業を安定的に行うことができる。
【0066】
また、本実施形態では、サクション42は、圧縮空気(圧縮流体)が供給されることで圧縮空気の圧力に応じた吸引力が生じるように構成されており、ロボット制御装置102は、サクション42に供給される圧縮空気の圧力を制御することで、サクション42の吸引力を制御するよう構成されている。このような構成であれば、圧縮空気の圧力を調整するだけで、サクション42の吸引力を簡単に増減させることができる。
【0067】
また、本実施形態では、圧縮空気をサクション42に供給するための圧空用ホース7(経路)に設けられた、圧縮空気の圧力を調整するための電空レギュレータ37(圧力調整部)と、をさらに備え、ロボット制御装置102は、電空レギュレータ37の動作を制御することで、サクション42の吸引力を制御するよう構成されている。このように、圧縮空気の圧力を調整する電空レギュレータ37を糸掛けロボット3に設けることで、電空レギュレータ37とサクション42との間の距離を短くすることができ、吸引力制御の応答速度を速めることができる。
【0068】
また、本実施形態では、上述のように、圧力調整部が電空レギュレータ37とされているので、圧縮空気の圧力を略無段階に調整することができ、サクション42の吸引力をより細かく制御することができる。
【0069】
また、本実施形態では、ロボット制御装置102は、1回の糸掛け作業の間に、サクション42の吸引力を変動させるよう構成されている。ここで、1回の糸掛け作業の間でも、工程に応じて(例えば、どの部材に糸掛けを行うかに応じて)適正な吸引力が変動し得る。そこで、上述の構成であれば、1回の糸掛け作業の間で適正な吸引力が変動する場合でも、これに対応することが可能となり、より安定的に糸掛け作業を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態では、ロボット制御装置102は、1回の糸掛け作業の間において、サクション42の吸引力をボビンBへの糸掛け時に最も大きくするよう構成されている。一般的にボビンBに糸掛けを行う際には、ボビンBに形成されているスリットに糸Yを引っ掛ける必要がある。このため、ボビンBに糸掛けする際の吸引力が不十分であると、糸Yの張力が弱くなり、スリットにうまく糸Yを引っ掛けることができなくなるおそれがある。そこで、上述のように、1回の糸掛け作業の間で、吸引力をボビンBへ糸掛け時に最も大きくすることで、スリットに糸を引っ掛けやすくなり、ボビンBへの糸掛けを確実に行うことができる。
【0071】
また、本実施形態では、ロボット制御装置102は、紡糸引取装置2によって巻き取られる糸Yの種類及び/又は生産条件に応じて、サクション42の吸引力を変更するようにしている。糸Yの種類や生産条件によって、糸掛け時の適正な張力は異なる場合がある。このような場合でも、糸Yの種類及び/又は生産条件に応じて吸引力を変更することで、各種の糸Yに適した張力で糸掛け作業を行うことができる。
【0072】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上述の実施形態に限られるものではなく、以下に例示するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【0073】
例えば、上記実施形態では、圧力調整部としての電空レギュレータ37を、圧空用ホース7のうち糸掛けロボット3に配設された部分に設けるものとした。しかしながら、電空レギュレータ37を設ける位置はこれに限定されず、例えば、圧空用ホース7のうち糸掛けロボット3の外部の部分に、電空レギュレータ37を設けてもよい。また、圧力調整部として、電空レギュレータ37以外に、例えば、電動式の流量調整バルブを設けてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、ロボット制御装置102は、糸掛け作業工程に基づいてサクション42の吸引力を制御するものとした。しかしながら、これ以外にも、例えば、ロボットアーム32の位置や姿勢を検出する各種センサを設け、これら各種センサからの出力値に基づいて、サクション42の吸引力を制御するようにしてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、ロボット制御装置102は、予めサクション42の吸引力を規定した制御データを有しており、この制御データに基づいて吸引力制御を行うものとした。しかしながら、このような制御データを有しておくことは必須ではなく、例えば、糸Yの張力を検出するセンサを設け、このセンサからの出力値に応じて、サクション42の吸引力を適宜制御するようにしてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、糸掛けロボット3がガイドレール35に吊り下げられる吊り下げ式のものとしたが、糸掛けロボット3は吊り下げ式に限定されない。例えば、糸掛けロボット3が床面を走行するように構成してもよい。
【0077】
また、糸掛けユニット33の構成も、上記実施形態のものに限らない。例えば、押当ローラ46、糸分けガイド47、及び、糸分けガイド47に掛けられた糸Yを支点ガイド21に糸掛けするための駆動源が、巻取ユニット13に設けられていれば、糸掛けユニット33は、サクション42、糸収束ガイド43及びカッター44を備えるだけでもよい。
【符号の説明】
【0078】
2:紡糸引取装置
3:糸掛けロボット
7:圧空用ホース(経路)
37:電空レギュレータ(圧力調整部)
42:サクション(吸引保持部材)
102:ロボット制御装置(制御部)
Y:糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図12