(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1に開示された圧延機の板厚制御装置は、前記遅延回路によって、圧延開始の時から、出側厚み計に圧延された部分が到達する時までの間、モニタ板厚制御の出力を停止するので、その間、圧延材は、その板厚が制御されず、オフゲージ(板厚寸法不良)となってしまう。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、圧延開始後におけるオフゲージの部分をより短くできる圧延機の板厚制御装置および板厚制御方法ならびにこれを備える圧延機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる圧延機の板厚制御装置は、圧延機によって圧延される圧延材の厚みが目標値となるように前記圧延機を制御する圧延機の板厚制御装置であって、出側板厚偏差の中心値成分を予測する予測部と、圧延開始後、前記予測部で予測した出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御する板厚制御部とを備える。好ましくは、上述の圧延機の板厚制御装置において、入側板速度を測定する入側板速度測定部と、出側板速度を測定する出側板速度測定部とをさらに備え、前記予測部は、前記入側板速度測定部で測定した入側板速度と前記出側板速度測定部で測定した出側板速度とに基づいて前記出側板厚偏差の中心値成分を予測する。好ましくは、上述の圧延機の板厚制御装置において、入側板速度をV1とし、出側板速度をV2とし、入側板厚の設定値(入側板厚偏差△Hを求めるための基準となる入側基準値)をHとし、出側板厚の設定値(出側板厚偏差△hを求めるための基準となる出側基準値)をhとし、出側板厚偏差の中心値成分の予測値を△h3とした場合に、前記予測部は、△h3=H×(V1/V2)−hによって前記出側板厚偏差の中心値成分を予測する。
【0008】
このような圧延機の板厚制御装置は、圧延開始後、予測部で予測した出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって圧延機を制御するので、圧延開始後におけるオフゲージの部分をより短くできる。したがって、圧延材をより効率よく圧延製品に成形できる。
【0009】
そして、上述の圧延機の板厚制御装置において、出側板厚を測定する出側板厚測定部をさらに備え、前記板厚制御部は、前記出側板厚測定部で測定した出側板厚に基づいて出側板厚偏差の積分値を求める積分部と、前記フィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御する制御部と、前記予測部および前記積分部のうちのいずれか一方を前記制御部に接続する切換部とを備え、前記切換部は、圧延開始から、圧延された圧延材の出側板厚が前記出側板厚測定部で測定されるまでの第1期間を少なくとも含む所定の第2期間、前記予測部を前記制御部に接続し、前記第2期間が経過した時点で前記積分部を前記制御部に接続し、前記制御部は、前記予測部と接続されている場合には、前記予測部で予測した出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御し、前記積分部と接続されている場合には、前記積分部で求めた出側板厚偏差の積分値に基づくフィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御する。好ましくは、上述の圧延機の板厚制御装置において、前記第2期間は、前記第1期間に一致する((第2期間)=(第1期間))。
【0010】
このような圧延機の板厚制御装置は、第2期間が経過した時点(タイミング)で前記予測部と前記制御部との接続を解除して前記積分部を前記制御部に接続し、前記積分部で求めた出側板厚偏差の積分値に基づくフィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御するので、実際に圧延された圧延材の出側板厚でフィードバック板厚制御できる。
【0011】
本発明の他の一態様にかかる圧延機の板厚制御方法は、圧延機によって圧延される圧延材の厚みが目標値となるように前記圧延機を制御する圧延機の板厚制御方法であって、
出側板厚を測定する出側板厚測定工程と、出側板厚偏差の中心値成分を予測する予測工程と、圧延開始後、前記予測工程で予測した出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御する板厚制御工程とを備え、
前記板厚制御工程は、前記出側板厚測定工程で測定した出側板厚に基づいて出側板厚偏差の積分値を求める積分工程と、前記フィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御する制御工程と、前記予測工程で予測した出側板厚偏差の中心値成分および前記積分工程で求めた出側板厚偏差の積分値のうちのいずれか一方を前記制御工程で用いるように切り換える切換工程とを備え、前記切換工程は、圧延開始から、圧延された圧延材の出側板厚が前記出側板厚測定工程で測定されるまでの第1期間を少なくとも含む所定の第2期間、前記予測工程で予測した出側板厚偏差の中心値成分を前記制御工程で用いるように切り換え、前記第2期間が経過した時点で前記積分工程で求めた出側板厚偏差の積分値を前記制御工程で用いるように切り換え、前記制御工程は、前記予測工程で予測した出側板厚偏差の中心値成分を前記制御工程で用いるように切り換えられている場合には、前記予測工程で予測した出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御し、前記積分工程で求めた出側板厚偏差の積分値を前記制御工程で用いるように切り換えられている場合には、前記積分工程で求めた出側板厚偏差の積分値に基づくフィードバック板厚制御によって前記圧延機を制御する。
【0012】
このような圧延機の板厚制御方法は、圧延開始後、予測部で予測した出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって圧延機を制御するので、圧延開始後におけるオフゲージの部分をより短くできる。したがって、圧延材をより効率よく圧延製品に成形できる。
【0013】
本発明の他の一態様にかかる圧延機は、これら上述のいずれかの板厚制御装置を備える。
【0014】
これによれば、板厚制御装置を備える圧延機が提供でき、このような圧延機は、圧延開始後におけるオフゲージの部分をより短くできる。したがって、圧延材をより効率よく圧延製品に成形できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる圧延機の板厚制御装置および板厚制御方法は、圧延開始後におけるオフゲージの部分をより短くできる。本発明によれば、このような板厚制御装置を備える圧延機が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0018】
図1は、実施形態における圧延システムの構成を示す図である。
図2は、出側板厚偏差の一例を示す図である。
図3は、
図2に示す出側板厚偏差における中心値成分を示す図である。
図4は、
図2に示す出側板厚偏差における、入側板厚の変動による変動成分を示す図である。
図2ないし
図4の各図における横軸は、時間を示し、それら各図の縦軸は、出側板厚偏差を示す。
【0019】
実施形態における圧延システムSは、圧延対象である圧延材WKを自動的に所定の目標の厚み(板厚)となるように圧延するシステムであり、例えば、
図1に示すように、圧延機1と、板厚制御装置3と、第1速度計4と、第1厚み計5と、第2速度計6と、第2厚み計7と、第1デフレクタロール8と、第2デフレクタロール9とを備え、例えば第1および第2リールR1、R2に巻回された帯状の圧延材WKを、第1および第2リールR1、R2間に配設された圧延機1によって圧延する。
【0020】
圧延機1は、一対のワークロールの間に圧延材を通し、前記一対のワークロールから力を受けて変形することでその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形する装置である。圧延機1は、前記一対のワークロールを複数備え、圧延材を前記複数の一対のワークロールにおける各間を順次に通過させることによって順次にその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形するタンデム型圧延機であって良いが、本実施形態では、前記一対のワークロールを1個備え、圧延材を前記一対のワークロールの間に、正方向およびその逆方向に1または複数回通過させることによって各回(各パス)で順次にその厚みを減じ、前記目標の厚みに成形するリバース型圧延機である。すなわち、複数回のパスを実施する一対のワークロールは、異なっても同一であっても良い。なお、前記一対のワークロール間に前記圧延材を1回通過させて圧延することは、一般に、「パス」と呼称されている。
【0021】
本実施形態では、より具体的には、圧延機1は、圧下装置13と、圧下装置13によりその間に力を加えながら圧延材WKを通して圧延材WKを圧延する一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2と、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2の弾性変形等を抑制するように前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2それぞれを支持する一対の第1および第2バックアップロール12−1、12−2とを備える。なお、
図1に示す例では、1つのワークロール11は、1つのバックアップロール12によって支持されるが、複数のバックアップロール12によって支持されても良い。すなわち、圧延機1は、縦型ミルやクラスタ型ミル等の複数段型圧延機であっても良い。圧下装置13は、板厚制御装置3における後述の制御部31に接続され、制御部31の制御に従って、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2のうちの一方を他方に対して近接移動または離間移動することによって、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2の間における隙間の長さ(幅、ロールギャップ長)を調整しながら、前記一対の第1および第2ワークロール11−1、11−2を圧下する装置である。圧下装置13は、本実施形態では、高応答性の観点から、例えば、油圧圧下装置である。
【0022】
第1デフレクタロール8は、圧延機1に対し一方側に、圧延機1から所定の距離だけ離間した位置に配設された、所定の軸回りに回転可能な円柱状の部材である。第2デフレクタロール9は、圧延機1に対し他方側に、圧延機1から所定の距離だけ離間した位置に配設された、所定の軸回りに回転可能な円柱状の部材である。
【0023】
第1速度計4は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間における圧延材WKの移動速度(板速度)を測定する装置である。第1速度計4は、その測定した圧延材WKの板速度を板厚制御装置3における後述の予測部32へ出力する。第1速度計4は、本実施形態では、例えば、第1デフレクタロール8の回転速度を測定するパルスジェネレータである。第2速度計6は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間における圧延材WKの移動速度(板速度)を測定する装置である。第2速度計6は、その測定した圧延材WKの板速度を板厚制御装置3の予測部32へ出力する。第2速度計6は、本実施形態では、例えば、第2デフレクタロール9の回転速度を測定するパルスジェネレータである。
【0024】
第1厚み計5は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間における圧延材WKの厚み(板厚)を測定する装置である。第1厚み計5は、その測定した圧延材WKの板厚を板厚制御装置3における制御部31または後述の積分部33へ出力する。第1厚み計5は、本実施形態では、例えば、圧延機1と第1デフレクタロール8と間に配設されたX線透過型厚み計である。第2厚み計7は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間における圧延材WKの厚み(板厚)を測定する装置である。第2厚み計7は、その測定した圧延材WKの板厚を板厚制御装置3における積分部33または制御部31へ出力する。第2厚み計7は、本実施形態では、例えば、圧延機1と第2デフレクタロール9と間に配設されたX線透過型厚み計である。
【0025】
なお、第1および第2速度計4、6は、それぞれ、パルスジェネレータに限定されるものではなく、他の速度計であっても良い。例えば、第1速度計4は、圧延機1と第1デフレクタロール8と間に配設されたレーザドップラ速度計等であっても良く、第2速度計6は、圧延機1と第2デフレクタロール9と間に配設されたレーザドップラ速度計等であっても良い。第1および第2厚み計5、7は、それぞれ、X線透過型厚み計に限定されるものではなく、他の厚み計であっても良い。例えば、第1および第2厚み計5、7は、それぞれ、レーザ型厚み計や接触式厚み計等であっても良い。
【0026】
図1に矢符(→)で示す正方向(
図1では紙面の左側から右側へ向かう方向)に圧延材WKが移動するパスの場合、第1および第2リールR1、R2、第1および第2速度計4、6、第1および第2厚み計5、7、ならびに、第1および第2デフレクタロール8、9は、次のように機能する。すなわち、第1リールR1は、入側リールとなり、巻回された圧延材WKを圧延機1へ供給する。第1デフレクタロール8は、第1リールR1から引き出された圧延材WKの方向を水平方向に変更する。第1速度計4は、入側速度計(入側板速度を測定する入側板速度測定部の一例)となり、圧延機1の入側における圧延材WKの移動速度(入側板速度)を測定し、この測定した入側板速度を制御部31へ出力する。第1厚み計5は、入側厚み計(入側板厚を測定する入側板厚測定部の一例)となり、圧延機1の入側における圧延材WKの厚み(入側板厚)を測定し、この測定した入側板厚を予測部32へ出力する。第2デフレクタロール9は、圧延機1から送られてきた水平方向の圧延材WKを第2リールR2の方向に変更する。第2リールR2は、出側リールとなり、圧延機1で圧延された圧延材WKを巻き取って収容する。第2速度計6は、出側速度計(出側板速度を測定する出側板速度測定部の一例)となり、圧延機1の出側における圧延材WKの移動速度(出側板速度)を測定し、この測定した出側速度を予測部32へ出力する。第2厚み計7は、出側厚み計(出側板厚を測定する出側板厚測定部の一例)となり、圧延機1の出側における圧延材WKの厚み(出側板厚)を測定し、この測定した出側板厚を積分部33へ出力する。
【0027】
一方、
図1に矢符(→)で示す前記正方向に対し逆方向(
図1では紙面の右側から左側へ向かう方向)に圧延材WKが移動するパスの場合、第1および第2リールR1、R2、第1および第2速度計4、6、第1および第2厚み計5、7、ならびに、第1および第2デフレクタロール8、9は、次のように機能する。すなわち、第2リールR2は、入側リールとなり、巻回された圧延材WKを圧延機1へ供給する。第2デフレクタロール9は、第2リールR2から引き出された圧延材WKの方向を水平方向に変更する。第2速度計6は、入側速度計(入側板速度測定部の他の一例)となり、圧延機1の入側における圧延材WKの入側板速度を測定し、この測定した入側板速度を制御部31へ出力する。第2厚み計7は、入側厚み計(入側板厚測定部の他の一例)となり、圧延機1の入側における圧延材WKの入側板厚を測定し、この測定した入側板厚を予測部32へ出力する。第1デフレクタロール8は、圧延機1から送られてきた水平方向の圧延材WKを第1リールR1の方向に変更する。第1リールR1は、出側リールとなり、圧延機1で圧延された圧延材WKを巻き取って収容する。第1速度計4は、出側速度計(出側板速度測定部の他の一例)となり、圧延機1の出側における圧延材WKの出側板速度を測定し、この測定した出側板速度を予測部32へ出力する。第1厚み計5は、出側厚み計(出側板厚測定部の他の一例)となり、圧延機1の出側における圧延材WKの出側板厚を測定し、この測定した出側板厚を積分部33へ出力する。
【0028】
なお、
図1は、主に、正方向に圧延材WKが移動するパスの場合を示している。このため、逆方向に圧延材WKが移動するパスの場合に使用される、第1厚み計5と積分部33との接続線、および、第2厚み計7と制御部31との接続線は、その記載が省略されている。
【0029】
板厚制御装置3は、圧延機1によって圧延される圧延材WKの厚みが圧延終了後の目標値(最終目標値)となるように、自動板厚制御(AGC)によって圧下装置13を介してワークロール11のロールギャップ長を調整することによって、圧延機1を制御する装置である。このような板厚制御装置3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、記憶素子(ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等)およびその周辺回路を備えるマイクロコンピュータを備えて構成され、前記記憶素子に記憶されたプログラムの実行によってCPUに制御部31、予測部32、積分部33および切換部34を機能的に備える。なお、板厚制御装置3は、PLC(Programmable Logic Controller)を備えて構成されても良い。
【0030】
積分部33は、前記出側厚み計で測定した出側板厚に基づいて出側板厚偏差の積分値を求めるものである。積分部33は、この求めた出側板厚偏差の積分値を切換部34を介して制御部31へ出力する。より具体的には、積分部33は、圧延材WKの移動方向に応じて第1および第2厚み計5、7と切換可能に接続される。前記正方向に圧延材WKが移動するパスの場合では、積分部33は、第2厚み計7と接続され、第2厚み計7で測定した出側板厚に基づいて出側板厚偏差の積分値を求め、この求めた出側板厚偏差の積分値を切換部34を介して制御部31へ出力する。前記逆方向に圧延材WKが移動するパスの場合では、積分部33は、第1厚み計5と接続され、第1厚み計5で測定した出側板厚に基づいて出側板厚偏差の積分値を求め、この求めた出側板厚偏差の積分値を切換部34を介して制御部31へ出力する。
【0031】
予測部32は、出側板厚偏差の中心値成分を予測するものである。予測部32は、この予測した出側板厚偏差の中心値成分を切換部34を介して制御部31へ出力する。
【0032】
ここで、予測部32の予測方法について説明する。まず、フィードバック板厚制御は、出側板厚に基づいて出側板厚偏差がゼロとなるようにロールギャップ長を変化させる板厚制御方式である。このようなフィードバック板厚制御では、ロールギャップ長を△Sとし、出側板厚偏差を△hとし、圧延機1のミル定数をMとし、圧延材WKの塑性定数をmとし、制御ゲインをCとした場合、一般に、次式(A1)によって制御が実施される。
△S={C×(M+m)/M}×∫△hdt ・・・(A1)
この式(A1)における出側板厚偏差の積分値∫△hdtは、上述の積分部33によって求められる。したがって、制御部31は、積分部33で求めた出側板厚偏差の積分値∫△hdtを用いて式(A1)に従ってフィードバック板厚制御すればよい。
【0033】
しかしながら、圧延開始から、圧延された圧延材WKの出側板厚が前記出側厚み計で測定されるまでの間、前記出側厚み計は、圧延されていない圧延材WKの出側板厚hを測定するので、積分部33は、出側板厚偏差の積分値∫△hdtを適切に求めることができない。そこで、本実施形態では、予測部32が出側板厚偏差の中心値成分を予測し、制御部31は、圧延開始後、出側板厚偏差の積分値∫△hdtに代え、この予測部32で予測した出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって圧延機1を制御する。
【0034】
より具体的には、入側板厚をH1とし、入側板速度をV1とし、入側板幅をW1とし、出側板厚をh2とし、出側板速度をV2とし、出側板幅をW2とした場合に、圧延の前後において圧延材WKは、保存されるから、次式(B1)が成り立つ。
H1×V1×W1=h2×V2×W2 ・・・(B1)
入側板厚の設定値(入側板厚偏差△Hを求めるための基準となる入側基準値)をHとし、出側板厚の設定値(出側板厚偏差△hを求めるための基準となる出側基準値)をhとした場合、圧延材WKが薄いためにW1=W2と近似できる場合では、式(B1)は、次式(B2)に変形できる(H1=H+△H、h2=h+△h)。
(H+△H)×V1=(h+△h)×V2 ・・・(B2)
この式(B2)は、出側板厚偏差△hについてさらに変形されると、次式(B3)となる。
△h={H×(V1/V2)−h}+△H×(V1/V2) ・・・(B3)
出側板厚偏差△hは、一例を示すと、
図2に示すグラフとなる。この
図2に示す出側板厚偏差△hは、出側板厚偏差における中心値成分に、入側板厚の変動による変動成分が重畳したものであることが既に知られている。フィルタによってこれらを分離すると、出側板厚偏差における中心値成分は、
図3に示すグラフとなり、入側板厚の変動による変動成分は、
図4に示すグラフとなる。上述の式(B3)における右辺第1項は、一例として
図3に示す、出側板厚偏差における中心値成分を表しており、前記式(B3)における右辺第2項は、一例として
図4に示す、入側板厚の変動による変動成分を表している。この入側板厚の変動、すなわち、入側板厚偏差△Hによる変動成分は、フィードフォワード板厚制御で制御できるから、圧延開始から、圧延された圧延材WKの出側板厚hが前記出側厚み計で測定されるまでの間、出側板厚偏差の積分値∫△hdtに代え、この出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって圧延機1を制御すればよい。
【0035】
したがって、出側板厚偏差の中心値成分を予測する予測部32は、より具体的には、前記入側速度計で測定した入側板速度V1と前記出側速度計で測定した出側板速度V2とに基づいて出側板厚偏差の中心値成分を予測する。より詳しくは、上述の式(B3)より、出側板厚偏差の中心値成分を△h3とした場合、予測部32は、H×(V1/V2)−hによって出側板厚偏差の中心値成分△h3を予測する。
△h3=H×(V1/V2)−h ・・・(B4)
さらにより具体的には、予測部32は、入側板厚の設定値Hおよび出側板厚の設定値hを予め記憶している。前記正方向に圧延材WKが移動するパスの場合では、予測部32は、第1および第2速度計4、6それぞれで測定された入側板速度V1および出側板速度V2に基づいて出側板厚偏差の中心値△h3を式(B4)を用いて予測し(求め)、この予測した出側板厚偏差の中心値△h3を切換部34を介して制御部31へ出力する。前記逆方向に圧延材WKが移動するパスの場合では、予測部32は、第2および第1速度計6、4それぞれで測定された入側板速度V1および出側板速度V2に基づいて出側板厚偏差の中心値△h3を式(B4)を用いて予測し(求め)、この予測した出側板厚偏差の中心値△h3を切換部34を介して制御部31へ出力する。
【0036】
切換部34は、予測部32および積分部33のうちのいずれか一方を制御部31に接続するものである。より具体的には、切換部34は、圧延開始から、圧延された圧延材の出側板厚が前記出側板厚測定部で測定されるまでの第1期間を少なくとも含む所定の第2期間、予測部32を制御部31に接続する。例えば、切換部34は、2入力1出力の2×1スイッチであり、制御部31が接続される接点N0と予測部32が接続される接点N1とを互いに接続することによって、予測部32を制御部31に接続する。そして、切換部34は、前記第2期間が経過した時点で積分部33を制御部31に接続する。例えば、前記接点N0と積分部33が接続される接点N2とを互いに接続することによって、積分部33を制御部31に接続する。このような予測部32から積分部33へ切り換える切換タイミング(すなわち、前記第2期間が経過したか否か)は、例えば、予め前記第2期間が求められ、この第2期間をセットしたタイマーのタイムアップによって検知される。また例えば、前記切換タイミングは、圧延開始直後の前記出側速度計で測定された出側板速度V2から前記第2期間を見積もり(求め)、この見積もった第2期間をセットしたタイマーのタイムアップによって検知される。なお、前記第2期間は、出側板速度V2に代え、入側板速度V1から見積もられても良い。前記タイマーは、例えばタイマーのプログラムを実行することによって切換部34内に機能的に構成され、これによって前記タイマーが稼働する。前記タイマーは、タイムアップにより消去される。実際に圧延された圧延材の出側板厚でより早期にフィードバック板厚制御を実施するために、前記第2期間は、前記第1期間に一致することが好ましい((第2期間)=(第1期間))。
【0037】
制御部31は、圧延機1の圧下装置13に接続され、フィードバック板厚制御によって圧下装置13を介してワークロール11のロールギャップ長を調整することで圧延機1を制御するものである。より具体的には、上述のように、切換部34によって制御部31の接続先が予測部32と積分部33との間で切り換えられるので、制御部31は、予測部32と接続されている場合には、予測部32で予測した出側板厚偏差の中心値成分△h3に基づくフィードバック板厚制御によって圧延機1を制御し、積分部33と接続されている場合には、積分部33で求めた出側板厚偏差の積分値∫△hdtに基づくフィードバック板厚制御によって圧延機1を制御する。
【0038】
そして、本実施形態では、出側板厚偏差に含まれる入側板厚の変動による変動成分を抑制するために、制御部31は、フィードフォワード板厚制御によっても圧延機1を制御している。
【0039】
フィードフォワード板厚制御は、入側板厚計で検出した入側板厚偏差に基づいて出側板厚偏差がゼロとなるようにロールギャップ長を変化させる板厚制御方式である。このようなフィードフォワード板厚制御では、入側板厚偏差を△Hとした場合、一般に、次式(A2)によって制御が実施される。
△S=C×(m/M)×△H ・・・(A2)
より具体的には、前記正方向に圧延材WKが移動するパスの場合、制御部31は、第1厚み計5で測定された入側板厚に基づいてフィードフォワード板厚制御によって圧延機1を制御する。前記逆方向に圧延材WKが移動するパスの場合、制御部31は、第2厚み計7で測定された入側板厚に基づいてフィードフォワード板厚制御によって圧延機1を制御する。
【0040】
したがって、本実施形態では、前記入側厚み計と圧延機1との間の距離に基づく時間補償、および、前記出側厚み計と圧延機1との間の距離に基づく時間補償を考慮した上で、式(A1)で求めた△Sと式(A2)で求めた△Sとの和を用いることで、制御部31は、フィードバック板厚制御およびフィードフォワード板厚制御によって圧延機1を制御する。
【0041】
なお、本実施形態では、制御部31、積分部33および切換部34が、圧延開始後、予測部32で予測した出側板厚偏差の中心値成分に基づくフィードバック板厚制御によって圧延機1を制御する板厚制御部の一例に相当する。
【0042】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図5は、前記圧延システムの板厚制御装置におけるフィードバック板厚制御の動作を示すフローチャートである。
【0043】
このような構成の圧延システムSは、その図略の電源スイッチの操作によって電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。そのプログラムの実行によって、板厚制御装置3には、制御部31、予測部32、積分部33および切換部34が機能的に構成される。図略の操作スイッチの操作によって圧延開始が指示されると、切換部34は、予測部32を制御部31に接続し、タイマーを稼働させ、前記第2期間を前記タイマーにセットする。そして、予め適宜に設定された所定の時間間隔ごとに実行されるロールギャップ長を調整する各タイミングでは、次の動作が実行されることによってフィードバック板厚制御が実施される。
【0044】
図5において、まず、制御部31は、フィードバック板厚制御での△Sを求める(SS1)。より具体的には、圧延開始後では、制御部31は、切換部34によって予測部32と接続されているので、制御部31は、上述の式(A1)において、出側板厚偏差の積分値∫△hdtに代え、予測部32で予測した出側板厚偏差の中心値成分△h3を用いることによって△Sを求める(△S={C×(M+m)/M}×△h3)。なお、予測部32は、前記入側速度計で測定した入側板速度V1と前記出側速度計で測定した出側板速度V2とに基づいて、{H×(V1/V2)−h}によって、出側板厚偏差の中心値成分△h3を予測し、この予測した出側板厚偏差の中心値成分△h3を切換部34を介して制御部31へ出力している。
【0045】
次に、制御部31は、この求めた△Sでフィードバック板厚制御としてのロールギャップ長を調整する(S2)。これによって圧延機1は、板厚制御装置3によって自動板厚制御される。
【0046】
次に、タイマーが稼働中であるか否かが切換部34によって判定される(S3)。この判定の結果、タイマーが稼働中ではない場合(No)には、今回の処理を終了する。一方、前記判定の結果、タイマーが稼働中である場合(Yes)には、次の処理S4が実行される。
【0047】
この処理S4では、第2期間が経過しているか否かが切換部34によって判定される。すなわち、本実施形態では、タイマーがタイムアップしているか否かが切換部34によって判定される。
【0048】
この判定の結果、タイムアップしていない場合(No)には、今回の処理を終了する。したがって、次回のロールギャップ長を調整するタイミングでも、制御部31は、処理S1において、予測部32で予測した出側板厚偏差の中心値成分△h3を用いてフィードバック板厚制御での△Sを求める。
【0049】
一方、前記判定の結果、タイムアップしている場合(Yes)には、処理S5が実行される。この処理S5では、切換部34は、制御部31の接続先を予測部32から積分部33へ切り換え、積分部33を制御部31に接続し、今回の処理を終了する。したがって、次回のロールギャップ長を調整するタイミングでは、制御部31は、処理S1において、積分部33で求めた出側板厚偏差の積分値∫△hdtを用いてフィードバック板厚制御での△Sを求める。
【0050】
このように今回のタイミングにおいて、フィードバック板厚制御が実行される。
【0051】
以上説明したように、本実施形態における板厚制御装置3およびこれに実装された板厚制御方法は、圧延開始後、予測部32で予測した出側板厚偏差の中心値成分△h3に基づくフィードバック板厚制御によって圧延機1を制御するので、圧延開始後におけるオフゲージの部分をより短くできる。したがって、圧延材WKをより効率よく圧延製品に成形できる。
【0052】
また、上記板厚制御装置3および板厚制御方法は、前記第2期間が経過した時点(タイミング)で予測部32と制御部31との接続を解除して積分部33を制御部31に接続し、積分部33で求めた出側板厚偏差の積分値∫△hdtに基づくフィードバック板厚制御によって圧延機1を制御するので、実際に圧延された圧延材WKの出側板厚でフィードバック板厚制御できる。
【0053】
なお、上述の実施形態では、制御部31、予測部32、積分部33および切換部34は、ソフトウェアによって構成されたが、制御回路、予測回路、積分回路および切換スイッチのハードウェアによって構成されても良い。
【0054】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。