特許第6829091号(P6829091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6829091
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】セラミックスヒータ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/10 20060101AFI20210128BHJP
   H05B 3/18 20060101ALI20210128BHJP
   H05B 3/48 20060101ALI20210128BHJP
   H05B 3/74 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   H05B3/10 C
   H05B3/18
   H05B3/48
   H05B3/74
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-16376(P2017-16376)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-125160(P2018-125160A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳正 典昭
(72)【発明者】
【氏名】梅木 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】土田 淳
(72)【発明者】
【氏名】北林 徹夫
【審査官】 比嘉 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−234425(JP,A)
【文献】 特開2005−158270(JP,A)
【文献】 特開2002−237375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/10
H05B 3/18
H05B 3/48
H05B 3/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1の面に基板が載置される複数の凸部が形成された基板載置面を有するセラミック基体と、
前記基体に埋設された発熱体と、を有するセラミックスヒータであって、
前記基板載置面は、輻射率の異なる複数の領域を有し、
前記複数の領域は、前記基板載置面の中心を含みかつ第1の輻射率を有する第1の領域と前記第1の領域を囲繞しかつ前記第1の輻射率とは異なる第2に輻射率を有する第2の領域を含み、
前記第2の領域は、前記第1の領域よりも表面粗さRaが大きいことを特徴とするセラミックスヒータ。
【請求項2】
前記複数の領域は、異なる表面粗さRaを有していることを特徴とする請求項1に記載のセラミックスヒータ。
【請求項3】
前記複数の領域は、異なるスキューネスRskを有していることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックスヒータ。
【請求項4】
前記複数の領域は、異なる光沢度を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のセラミックスヒータ。
【請求項5】
前記複数の領域は、前記基板載置面上における1の点に対して回転対称であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のセラミックスヒータ。
【請求項6】
前記第1の領域は、前記第2の領域よりもスキューネスRskの絶対値が大きいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載のセラミックスヒータ。
【請求項7】
前記第2の領域は、前記第1の領域よりも光沢度が小さいことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のセラミックスヒータ。
【請求項8】
前記セラミック基体の前記1の面の反対側にある他の面に接続された支持体を含み、前記第1の領域は、前記基板載置面と垂直な方向において前記支持体と前記セラミック基体との接続面と重なっている領域を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載のセラミックスヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置向けのセラミックスヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、半導体ウェハ(以下、ウェハとも称する)に半導体薄膜等を成膜する際に、ウェハを保持しかつウェハを加熱するセラミックスヒータが用いられている。
【0003】
特許文献1には、発熱体を有するセラミックスヒータの基体のウェハ載置面と反対側の面、すなわち背面の表面粗さを部分的に異ならしめることで、ウェハ加熱時にウェハ載置面(加熱面)に現れるコールドスポットを解消することが開示されている。また、当該背面の表面粗さを部分的に異ならしめることで、ウェハ加熱時のウェハ載置面の面内の温度分布を調整可能であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−151729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術のように、ウェハをセラミックスヒータのウェハ載置面に密着させると、ウェハへのパーティクルの付着が発生してしまうという問題があった。また、ウェハとセラミックスヒータのウェハ載置面とを離間させる構成では、固体接触による熱伝導を調整する特許文献1のような制御によるウェハ全体の温度分布制御が困難であり得る。
【0006】
本発明は、以上の従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、ウェハ等の基板の加熱時の基板へのパーティクルの付着を防止し、かつ単純な発熱体構成で基板加熱時の基板全体の温度分布の調整が可能なセラミックスヒータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の静電セラミックスヒータは、1の面に基板が載置される複数の凸部が形成された基板載置面を有するセラミック基体と、前記基体に埋設された発熱体と、を有するセラミックスヒータであって、前記基板載置面は、輻射率の異なる複数の領域を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のセラミックスヒータによれば、基板載置面に複数の凸部を形成し当該凸部上に基板を載置する構造とすることで、基板へのパーティクルの付着を抑制することが可能である。また、基板載置面の表面状態を領域毎に異ならしめることによって、複雑な加熱電極構造に頼らずに容易に基板加熱時の基板の面内における温度分布を制御することが可能である。
【0009】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記複数の領域は、異なる表面粗さRaを有していることが好ましい。
【0010】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記複数の領域は、異なるスキューネスRskを有していることが好ましい。
【0011】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記複数の領域は、異なる光沢度を有していることが好ましい。
【0012】
上記本発明のセラミックスヒータによれば、領域毎に表面状態に関する少なくとも1つのパラメータを異ならしめることによって、容易に基板加熱時の基板面内における温度分布を制御することが可能である。
【0013】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記複数の領域は、前記基板載置面上における1の点に対して回転対称であることが好ましい。
【0014】
上記本発明のセラミックスヒータによれば、表面状態の異なる領域を基板載置面上において回転対称となるように設けることにより、基板加熱時の基板面内において、中心からの距離に応じて回転対称性のある温度分布をもたらすことが可能である。
【0015】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記複数の領域は、前記基板載置面の中心を含みかつ第1の輻射率を有する第1の領域と前記第1の領域を囲繞しかつ前記第1の輻射率とは異なる第2に輻射率を有する第2の領域を含む。
【0016】
上記本発明のセラミックスヒータによれば、基板載置面の中心領域と当該中心領域を囲繞する外側領域とで、基板載置面の表面状態を異ならしめることで、基板加熱時の基板面内の、基板載置面の中心から放射方向における温度分布を容易に調節することが可能である。
【0018】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記第2の領域は、前記第1の領域よりも表面粗さRaが大きい。
【0019】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記第1の領域は、前記第2の領域よりもスキューネスRskの絶対値が大きいことが好ましい。
【0020】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記第2の領域は、前記第1の領域よりも光沢度が小さいことが好ましい。
【0021】
前記の本発明のセラミックスヒータにおいて、前記セラミック基体の前記1の面の反対側にある他の面に接続された支持体を含み、前記第1の領域は、前記基板載置面と垂直な方向において前記支持体と前記セラミック基体との接続面と重なっている領域を含むことが好ましい。
【0022】
上記本発明のセラミックスヒータによれば、基板の加熱時に基体から支持体への熱伝導による熱移動により温度が低下する領域において、輻射率を他の部分よりも高くすることが可能となり、基板載置面上に配される基板の温度分布を均一なものとすることが可能である。
【0023】
上記本発明のセラミックスヒータの製造方法において、前記基板載置面はサンドブラスト法による加工、砥石を用いた研削加工、レーザ加工のうち少なくとも1つの加工方法を用いて形成することが好ましい。特に、レーザ加工を用いた場合には、所定の輻射率を有する基板載置面を形成しつつ、基板へのパーティクルの付着をさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態のセラミックスヒータの平面図である。
図2図1の2−2線に沿った断面図である。
図3】実施例と比較例のセラミックスヒータによって加熱されたシリコンウェハの温度分布を示すグラフである。
図4】実施例1のセラミックスヒータと実施例2のセラミックスヒータの基体表面のSEM画像である。
図5】実施例1のセラミックスヒータと実施例2のセラミックスヒータの基体表面の表面粗さ曲線及び振幅分布曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施例のセラミックスヒータについて、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(構成)
図1は、実施例のセラミックスヒータ10の平面図である。図2は、図1の2−2線に沿った断面図である。
【0027】
本実施例のセラミックスヒータ10は、例えば、Yを3%含むAINのセラミックス焼結体からなる板状の基体11を有している。基体11は、直径が350mmの円状の平面形状を有し、厚みが25mmの円板形状を有している。基体11は、一方の面が基板載置面11Sとなっている。なお、基体11を形成するセラミックス焼結体の材料としては、上記した窒化アルミニウムの他、窒化珪素、サイアロン、炭化珪素、窒化ホウ素、アルミナ等を使用することも可能である。
【0028】
基体11の基板載置面11Sには、直径0.5mmの円状の上面を有し、高さ50μmの円柱状の凸部11Pが複数形成されている。なお、基板載置面11Sの中央に形成されている凸部11Pは基板載置面11Sの中心C上に形成されている。よって、図面において、基板載置面11Sの中央に形成されている凸部11Pを中心Cとしても示している。
【0029】
凸部11Pは、基板載置面11Sの中心Cを中心とする半径150mmの円の内部の基板載置領域SRに、正三角形格子状に12mmの間隔で形成されている。このように円柱状の凸部を配置した場合、基板載置領域SRの面積に対する凸部の上面の面積の比率は、0.16%となる。なお、凸部11Pは、基板載置面11S上において、正三角形格子状以外の三角格子状、正方形格子状等他の態様で規則的に配置されていてもよい。
【0030】
また、円柱状凸部11Pは、基板載置面11Sの中心Cを中心とする同心円状に周方向及び径方向に一定の間隔をおいて配置されていてもよい。また、凸部11Pは、基板載置面11Sの中心Cを中心とした円の円周方向及び半径方向において、間隔が変化するように配置されてもよい。例えば、半径方向において、基板載置面11Sの中心Cから離れるほどピン状凸部11Pの配置間隔が広くなるように配置されていてもよい。
【0031】
基板載置面11Sは、ピン状凸部11P以外の表面において、互いに表面粗さ、スキューネスまたは光沢度等の表面状態が異なっている第1の領域R1及び第2の領域R2を有している。基板載置面11Sの第1の領域R1と第2の領域R2とは、表面状態が異なっていることによって輻射率が異なっている。本実施例において、第1の領域R1は、中心Cを中心とする円状の領域であり、第2の領域R2は、当該第1の領域R1を囲繞する円環状すなわちドーナツ状の領域である。
【0032】
また、本実施例において、第1の領域R1は、中心Cを中心とする半径120mmの円内の領域であり、第2の領域R2は、第1の領域R1の外側でありかつ中心Cを中心とする半径150mmの円内の環状の領域である。すなわち、本実施例において、第1の領域R1及び第2の領域R2は、それぞれ中心Cに対して回転対称の形状を有している。
【0033】
図2は、図1の2−2線に沿った断面図である。図2において、基板載置面11Sの中心Cを通り、基板載置面11Sに垂直な線を中心線CXとして示す。図2に示すように、凸部11Pは、基板載置面11Sと垂直に基板載置面11Sから垂直に伸長している。基板載置面11S上に基板SB(図2において破線で示す)が載置される場合、基板SBは、円柱形状を有する凸部11Pの上面に接して載置される。
【0034】
セラミックスヒータ10から基板SBへの伝熱を容易にするため、例えば、基板載置面11Sに開口するガス導入穴(不図示)を設け、基板載置面11Sと基板SBとの間の空間にNガス等のガスを流してもよい。その際、基板載置領域SRの外周に凸部11Pと同じ高さまたは凸部11Pよりも低い高さの環状凸部を形成していてもよい。
【0035】
支持体としてのシャフト13は、外径50mm、内径40mm、長さ200mmの円筒状の中空シャフト部材である。シャフト13は、例えば、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)または窒化ケイ素(Si)等のセラミックス焼結体からなっている。
【0036】
シャフト13には、長さ方向の一方の端部において、外径80mm、内径40mm、シャフト13の長さ方向に沿った厚みが10mmのフランジ部13Fが設けられている。シャフト30は、当該フランジ部13Fが形成されている一端において、基体11の下面11Bに取り付けられている。例えば、シャフト13の基体11への取付けすなわち接続は、基体11の下面11Bとフランジ部13Fの表面とを固相接合することによって行われる。
【0037】
なお、シャフト13は、シャフト13の円筒形状の中心線が中心線CXと一致するように基体11に接合されている。よって、基板載置面11Sに垂直な方向から見て、第1の領域R1は、基体11とシャフト13の接続面と重なっている領域を含んでいる。
【0038】
電極15は、基体11内に埋設されている発熱抵抗体である。電極15は、基板載置面11Sと垂直な方向から見て、基板載置領域SRに亘って延在するように埋設されている。また、電極15は、例えば、基板載置面11Sと垂直な方向から見てメッシュ形状を有している。電極15は、例えば、モリブデン等の金属材料からなっている。
【0039】
給電ロッド17は、シャフト13の中空部分においてシャフト13の長さ方向に伸長し、かつ一端部が基体11内まで伸長している棒状の導電部材である。給電ロッド17は、当該一端部において電極15と電気的に接触している。すなわち、給電ロッド17と電極15とは、電気的に接続されている。また、給電ロッド17は、他端部において、電源(図示せず)に接続されている。すなわち、電極15には、給電ロッド17を介して電源からの電力が供給される。電極15は、この電力の供給により発熱する発熱体であり、それによって基体全体が加熱される。
【0040】
なお、セラミックスヒータ10においては、電極15に電圧が印加されることによって発生するクーロン力によって、基板載置面11Sに基板を吸引する静電チャックとしての機能を有していてもよい。
【0041】
また、電極15が基板載置面11Sに垂直な方向に複数重なって設けられており、基板載置面11Sに近い電極15がクーロン力によって基板を吸引する機能を果たし、基板載置面11Sから離れた電極15が発熱抵抗体として基体11を加熱する機能を果たす構成となっていてもよい。
【0042】
上記セラミックスヒータ10においては、基体11の基板載置面11Sに凸部11Pが形成され、凸部11Pの上面において基板SBが支持される構造となっている。これにより、基体11に基板SBを載置する際の、基体11と基板SBとの接触面積が小さくなり、基板SBへのパーティクルの付着を抑制することが可能である。
【0043】
また、上記セラミックスヒータ10においては、上述のように、基板載置面11Sに凸部11Pが形成されていることにより、基板載置面11Sと基板SBの表面とが離間している。これにより、基体11と基板SBとの間の熱の移動の多くが放射によってなされる。
【0044】
このように、上記セラミックスヒータ10においては、基体11から基板SBへの放射による熱移動が多い構造となっている。また、セラミックスヒータ10は、基板載置面11Sに、表面状態が異なっていることによって輻射率が異なっている第1の領域R1及び第2の領域R2を有している。このことにより、セラミックスヒータ10によって基板SBを加熱する際に、電極15の配置または電極15の制御によらず、輻射率を基板載置面11S内の領域によって異ならしめることで、基板載置面11S上に配される基板SBの温度分布を所望の温度分布とすることが可能である。
【0045】
また、上記セラミックスヒータ10においては、基板載置面11Sに垂直な方向から見て、第1の領域R1が、基体11とシャフト13の接続面と重なっている領域を含んでいる。よって、基板の加熱時に基体11から基体シャフト13への熱伝導による熱移動により温度が低下する領域において、輻射率を他の部分よりも高くすることが可能となり、基板載置面11S上に配される基板SBの温度分布を均一なものとすることが可能である。
【0046】
なお、上述した凸部11Pの各々の形状は、円柱状、角柱状等の柱状のほか、円錐台状、角錐台状等の錘台状であってもよい。また、凸部11Pの形状は、凸部11Pの下部よりも上部の断面積が小さくなるような段差付きの柱状又は錘台状等の形状であってもよい。
【0047】
[セラミックスヒータの製造方法]
セラミックスヒータ10は、例えば次のような手順で作製される。
(基体11の製作)
まず、セラミックスヒータ10用のセラミックス焼結体を用意する。例えば、原料粉末から略円板状の成形体を作製し、この成形体を焼成することで略円板状のセラミックス焼結体を作製する。
【0048】
具体的には、例えば、まず、Yを3%含有させたAlN粉末によって略円板状の成形体を作製する。この成形体には、電極15としてモリブデン(Mo)からなる発熱抵抗体を成形体に内包させる。その後、当該成形体をホットプレス法により1800℃で焼成することで基体11の元となるセラミックス焼結体を作製する。なお、このセラミックス焼結体は、ホットプレス法に限らず、グリーンシート積層法による常圧焼結法等で作製することも可能である。
【0049】
セラミックス焼結体の作製後、当該セラミックス焼結体の両主面に対して、平行研削加工及び外周の研削加工を行って、所望の寸法に加工した。この研削加工は、当該加工後におけるセラミックス焼結体の表面粗さがRa0.1μmとなるように行うのが好ましい。
【0050】
次に、ブラスト加工又はミーリング加工、レーザ加工若しくはマシニング加工等の適当な加工法によって、上記基体11の凸部11Pを形成する。例えば、上記表面仕上げ加工後のセラミックス焼結体の基板載置面11Sとなる表面上に、複数の凸部11Pに対応する所定のレジストパターンを形成し、レジスト非形成部分(露出部)に、サンドブラスト処理を行い、複数の凸部11Pを形成する。その後、レジストを除去する。
【0051】
その後、セラミックス焼結体に、上記セラミックスヒータ10の基体11の基板載置面11Sとなる面の全面に表面仕上げ加工を行う。この表面仕上げ加工は、セラミックス焼結体の基板載置面11Sとなる面に対して、例えば、マシニングセンタでの研削加工、サンドブラスト法による加工、バフ研磨等の研磨加工、パルスCOレーザ等を用いたレーザ加工を行うことで施すことができる。
【0052】
具体的には、上述した第1の領域と第2の領域とで互いに異なる表面加工を施し、基板載置面11Sにおいて、領域によって異なる表面状態となるようにし、領域によって異なる輻射率となるように加工を行う。当該表面仕上げの後、基体11が完成する。
【0053】
なお、上記表面仕上げ加工は、後述するシャフト13を基体11の下面11Bに接合した後に実施してもよい。
【0054】
(シャフト13の作製)
基体11と同様に、原材料粉末から一端にフランジ13Fが設けられた円筒状のシャフトを成型し、その後当該成形体を焼結することで、シャフト13を製作する。具体的には、例えば、焼結補助剤を含まないAlN粉末によって成形体を冷間等方圧加圧(CIP:Cold Isostatic Pressing)法で成形し、常圧焼結することでシャフト13を作製する。
【0055】
(基体11とシャフト13との接合)
基体11とシャフト13との接合は、例えば、基体11の下面11Bとシャフト13のフランジ13Fの表面とを固相拡散接合することによって行われる。この接合の後、給電ロッド17をシャフト13内に挿入し、電極15とろう付けして、セラミックスヒータ10が完成する。
【0056】
[セラミックスヒータ10の評価実験]
以下に、上記構成のセラミックスヒータ10について行った評価実験について説明する。以下に説明する実施例1乃至3のセラミックスヒータ10は、全体的構成は変えずに、基板載置面11Sの凸部11Pが形成されている部分以外の表面状態(以下、単に基板載置面11Sの表面状態ともいう)のみを変えたものである。
【0057】
上述のように、基板載置領域SRを基板載置面11Sの中心Cを中心とした半径150mmの円状領域とした。また、この基板載置領域SR内に直径0.5mm、高さ50μmの円柱状の凸部11Pを正三角形格子状に12mmの間隔で形成した。なお、上述したように、このように円柱状凸部を配置した場合、基板載置領域SRの面積に対する凸部の上面の面積の比率は、0.16%となる。
【0058】
以下の実験において、基板載置面11Sの表面粗さは、算術平均粗さRaの測定条件を測定長さ4mm、カットオフ0.8mmとして測定した。また、算術平均高さRaは、市販の接触式又は非接触式の表面粗さ計を用いJIS B0601_2001, JIS B0633_2001, JIS B0031-200 付属書G,Fに準拠した方法で測定した。
【0059】
また、スキューネスRskは、サーフテスト SJ−210(ミツトヨ製)を用いて測定した。スキューネスRskの測定は、JIS B0601_2001に準拠した方法で測定した。
【0060】
また、光沢度Gsは、ハンディ型光沢計PG−II(日本電色製)を用いて測定した。光沢度Gsは、JIS Z8741_1997に準拠し、入射角60°、受光角60°として、すなわち光沢度Gs(60°)を測定した。
【実施例1】
【0061】
実施例1のセラミックスヒータ10は、基板載置面11Sの第1の領域R1(半径r≦120mmの領域)を、マニシングセンタを用いて粒度♯800の砥石で研削加工した。当該加工後の第1の領域R1は、表面粗さRa/μmが0.4、スキューネスRskが0.1、光沢度Gs(60°)が18%となった。
【0062】
また、第2の領域R2(120mm<r≦150mmの領域)を、サンドブラスト法により、GC砥粒によって加工した。当該加工後の第2の領域R2は、表面粗さがRa/μmが1.2、Rskが0.1、光沢度Gs(60°)が8%となった。
【実施例2】
【0063】
実施例2のセラミックスヒータ10は、基板載置面11Sの第1の領域R1をパルスCOレーザを使用したレーザ加工によって加工した。当該加工後の第1の領域R1は、表面粗さRa/μmが0.4、スキューネスRskが−0.9、光沢度Gs(60°)が33%となった。
【0064】
また、第2の領域R2を、サンドブラスト法により、GC砥粒によって加工した。当該加工後の第2の領域R2は、表面粗さがRa/μmが1.2、Rskが0.1、光沢度Gs(60°)が8%となった。
【実施例3】
【0065】
実施例3のセラミックスヒータ10は、基板載置面11Sの第1の領域R1を、パルスCOレーザを使用したレーザ加工によって加工した。なお、実施例3のセラミックスヒータ10のレーザ加工においては、実施例2のセラミックスヒータ10におけるレーザ加工よりもレーザの出力を高めて加工を行った。当該加工後の第1の領域R1は、表面粗さRa/μmが0.4、スキューネスRskが−1.9、光沢度Gs(60°)が45%となった。
【0066】
また、第2の領域R2を、サンドブラスト法により、GC砥粒によって加工した。当該加工後の第2の領域R2は、表面粗さがRa/μmが1.2、Rskが0.1、光沢度Gs(60°)が8%となった。
【比較例】
【0067】
比較例のセラミックスヒータは、基板載置面11Sの基板載置領域SRの全面をサンドブラスト法により、GC砥粒によって加工した。当該加工後の基板載置領域SRは、表面粗さRa/μmが1.2、スキューネスRskが0.1、光沢度Gs(60°)が8%となった。すなわち、比較例のセラミックスヒータの基板載置領域は、全面に亘って表面状態が均一となっている。
【0068】
[セラミックスヒータの評価方法]
(温度分布評価)
実施例1乃至3のセラミックスヒータ10及び比較例のセラミックスヒータを真空チャンバ内に搭載し、基板載置領域SR上に基板SBとしてシリコンウェハを載置し、シリコンウェハが500℃となる様に加熱した。シリコンウェハの温度が定常状態になった後に、基板載置面11S上から赤外線(IR)カメラ(検出波長域、約2〜5μm)でシリコンウェハの温度分布を観察し、シリコンウェハの半径方向の温度分布を評価した。具体的には、半径方向における最大温度及び最低温度の差を温度差ΔT(℃)として算出して評価した。
【0069】
なお、本評価では、ウェハの半径方向の温度分布が一様になることが好ましい、すなわち温度差ΔTが小さいほど良いという評価を行った。
【0070】
(パーティクル数評価)
上記温度分布評価の後、セラミックスヒータ10を真空チャンバから取り出して、パーティクルカウンタであるWM10(トプコンテクノハウス製)を用いて、0.3μm以上のパーティクルの数を計測した。
【0071】
[評価結果]
上記評価の結果を以下の表1に示す。また、ウェハの加熱時のウェハの半径方向における温度分布のグラフを図3に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1及び図3からわかるように、実験の結果、実施例3のセラミックスヒータ10のΔTが2.1℃と最も小さく、実施例2のセラミックスヒータ10のΔTが3.0℃、実施例1のセラミックスヒータ10のΔTが4.2℃となった。また、いずれの実施例のΔTも表面状態が一様な比較例のΔTよりも小さくなった。
【0074】
また、図3からわかるように、ウェハの加熱時において、実施例1乃至3のセラミックスヒータ10は、比較例のセラミックスヒータに比べて、基板載置領域SRの中心Cからの距離が50mmくらいまでの領域の温度低下が減少している。また、基板載置領域SRの中心Cからの距離が50mmから120〜130mmくらいまでの領域の温度上昇が低減されている。
【0075】
これらのことから、いずれの実施例のセラミックスヒータ10を用いてシリコンウェハを加熱した場合でも、基板載置領域SRの表面状態が均一な比較例のセラミックスヒータを用いた場合より、シリコンウェハの温度分布が全体として均一となることが表1及び図3の結果から認められる。なお、ウェハに付着したパーティクル数は、実施例1乃至3のセラミックスヒータ10及び比較例のセラミックスヒータにおいて、930以下であり、ウェハとセラミックスヒータ10の基板載置面11Sとを離間させない場合と比較してパーティクルのウェハへの付着が抑制されていることが確認された。
【0076】
また、比較例のセラミックスヒータでは、パーティクル数が930であったが、これに対して実施例1乃至3のセラミックスヒータ10のパーティクル数は320以下であり、基板載置面の全面を均一にブラスト加工する場合と比べてパーティクルの付着が抑制されていることが確認された。
【0077】
さらに、基板載置面11Sに設けたガス導入穴からNガスを流した条件においてもパーティクルの数を計測した。その結果、パーティクル数は、実施例1が460、実施例2が250、実施例3が260、比較例1が1150であった。Nガスによりパーティクルが巻き上げられることにより、Nガスを流さない場合と比べるとウェハに付着するパーティクル数は増加したものの、基板載置面11Sの少なくとも一部をレーザ加工により形成すると、研削加工やブラスト加工を組み合わせて基板載置面11Sを形成する場合よりも、ウェハへのパーティクルの付着が抑制されることが確認された。
【0078】
比較例のように、基板載置領域SRの表面状態を均一とした場合、基板載置領域SRの輻射率も均一となる。よって、基体11の温度が領域によって異なることにより、基体11からウェハへの熱の輻射量が領域によって異なることで、ウェハ内に温度差が生じていると考えられる。
【0079】
例えば、図3から分かるように、比較例のセラミックスヒータでは、基体11の基板載置領域SRの中で他の部分に対して比較的温度が低くなっている中央部において、基体11からウェハへの熱の輻射が少なく、ウェハ中央部の温度が低くなっていると考えられる。この中央部における温度低下は、基体11の下面11Bと接しているシャフト13への熱伝導による熱移動が一因と考えられる。
【0080】
これに対して、実施例1乃至3のセラミックスヒータ10においては、基板載置領域SRの中央部を含む第1の領域R1の表面状態を第2の領域R2と異ならしめている。具体的には、第1の領域R1の表面の表面粗さRaを第2の領域の表面の表面粗さRaより小さくしている。また、第1の領域R1の表面の光沢度Gsを第2の領域の表面の光沢度Gsより大きくしている。
【0081】
これにより、第1の領域R1と第2の領域R2とで表面の輻射率が変化し、ウェハ内の温度差が小さくなっていると考えられる。具体的には、例えば、第2の領域R2よりも第1の領域R1の輻射率を大きくして、ウェハ中央部の温度が周囲の温度より低下してしまうことを防止することで、ウェハ内の温度差を小さくすることができていると考えられる。
【0082】
さらに、実施例2及び3のセラミックスヒータ10では、第1の領域R1の表面のスキューネスRskの絶対値と第2の領域の表面のスキューネスRskの絶対値とを異ならしめている。具体的には、第1の領域R1の表面のスキューネスRskの絶対値を、第2の領域の表面のスキューネスRskの絶対値より大きくしている。
【0083】
このようにすることで、第1の領域R1と第2の領域R2とで表面の輻射率が変化し、ウェハ内の温度差が小さくなっていると考えられる。具体的には、例えば、第2の領域R2よりも第1の領域R1の輻射率を大きくして、ウェハ中央部の温度が周囲の温度より低下してしまうことを防止することで、ウェハ内の温度差を小さくすることができていると考えられる。
【0084】
また、実施例2及び3のセラミックスヒータ10では、実施例1のセラミックスヒータ10よりも、ウェハ加熱時のウェハ内の温度差を小さくすることができていることが、表1及び図3の結果から認められる。すなわち、第2の領域R2よりも第1の領域R1において表面粗さRaを小さくすることに加えて、スキューネスRskの絶対値を大きくすることで、ウェハ加熱時のウェハ内の温度差をさらに小さくすることが可能であることが認められる。
【0085】
図4に、マシニングセンタによって研削加工を施した実施例1のセラミックスヒータ10の第1の領域R1の表面SEM画像(5000倍)(図4(a))及びレーザ加工を施した実施例2のセラミックスヒータ10の第1の領域R1の表面のSEM画像(5000倍)(図4(b))の画像を示す。
【0086】
また、図5に、マシニングセンタを用いて砥石で研削加工を施した実施例1のセラミックスヒータ10の第1の領域R1の表面曲線及び振幅分布曲線(図5(a))及びレーザ加工を施した実施例2のセラミックスヒータ10の第1の領域R1の表面の粗さ曲線及び振幅分布曲線(図5(b))を示す。
【0087】
図4及び図5からわかるように、図4(a)及び図5(a)に示すマシニングセンタを用いて砥石で研削加工を施した表面と図4(b)及び図5(b)に示すレーザ加工によって研削を施した表面とは、表面粗さRaは同程度であるが表面状態が大きく異なっている。具体的には、実施例2のセラミックスヒータ10では、レーザのスポット領域(数十μm)が溶融して平滑化している。このため、隣り合うスポット領域の間で段差が生じており、これが表面粗さRaの演算値に影響していることが分かった。
【0088】
このように、表面粗さRaが同程度であっても、実施例1のセラミックスヒータ10の第1の領域R1の表面状態と実施例2のセラミックスヒータ10の第1の領域R1の表面状態とは大きく異なっている。具体的には、実施例1のセラミックスヒータ10の第1の領域R1の表面より実施例2のセラミックスヒータ10の第1の領域R1の表面のスキューネスRskの絶対値が大きくなっている。
【0089】
このスキューネスRskの値の違いが、輻射率の差異を生み、実施例1のセラミックスヒータ10より、実施例2及び3のセラミックスヒータ10を用いたウェハの加熱時のウェハの温度分布の均一性の向上をもたらしていると考えられる。
【0090】
特に基板載置領域SRのスキューネスRskの調節にレーザ加工を用いると、輻射率の調節とウェハへのパーティクルの付着の抑制とを同時に行うことができることが分かった。
【0091】
上記評価実験においては、シリコンウェハを500℃に加熱することとしたが、シリコンの放射熱吸収率は、470℃以上で十分大きく、特に520℃以上、さらに600℃以上で非常に大きくなる。そのため、470℃以上の温度に加熱する際において、基板載置領域SRの輻射率を変更することによるウェハの温度の制御が非常に容易となり得る。
【0092】
上記実施例においては、ウェハの面内の温度を均一にすべく第1の領域R1の輻射率を第2の領域の輻射率より大きくした。しかし、ウェハ面内の温度の差異を大きくしたい場合には、第1の領域R1の輻射率を第2の領域の輻射率より小さくしてもよい。
【0093】
また、上記実施例においては、互いに表面状態が異なることで輻射率が異なる第1の領域R1と第2の領域R2との2つの領域を設ける場合を例に説明した。しかし、ウェハ加熱時のウェハの所望の温度分布に応じて、互いに表面状態が異なることで輻射率が異なる3以上の領域を設けることとしてもよい。
【0094】
上記実施例においては、基板載置面11Sに、互いに表面状態の異なることで輻射率の異なる円状の第1の領域R1及び円環状の第2の領域R2を設ける場合を例に説明した。しかし、第1の領域R1が多角形形状の領域であり、第2の領域R2がこれを囲繞する環状領域となっていてもよい。
【0095】
また、円状の第1の領域の外側に互いに表面状態が異なることで輻射率の異なる2以上の環状の領域を形成してもよい。また、必ずしも第2の領域R2が第1の領域R1を囲繞する環状領域である必要はなく、ウェハ加熱時のウェハの所望の温度分布に応じて、様々な形状または配置でありかつ互いに表面状態が異なることで輻射率が異なる2以上の複数の領域を形成することとしてもよい。
【0096】
なお、上記実施例においては、ウェハの温度分布がウェハの面内において対称な温度分布が好ましいとして、第1の領域R1及び第2の領域R2の形状が各々回転対称となっている例について説明した。しかし、第1の領域R1及び第2の領域R2の各々は、ウェハ加熱時のウェハの所望の温度分布に応じて、回転対称以外の形状を有していてもよい。
【0097】
また、上記した各構成の寸法は一例であり、各寸法は加熱するウェハのサイズ、ウェハ加熱時のウェハの所望の温度分布、または用途等によって変更され得る。
【符号の説明】
【0098】
10・・・セラミックスヒータ、11・・・基体、11B・・・下面、11S・・・基板載置面、SR・・・基板載置領域、R1・・・第1の領域、R2・・・第2の領域、11P・・・凸部、13・・・シャフト、15・・・電極、17・・・給電ロッド、SB・・・基板
図1
図2
図3
図4
図5