(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電源ハーネスは、配線長を変化させるために一部乃至全部が取り替え可能であって可撓性を持ち、かつ、一対の芯となる導体を含む請求項1に記載のプラズマ用電源装置。
シールドの無い電源ハーネスを介して、プラズマを発生させる一対の電極に印加する、所定周波数の交流電圧を生成する交流電源を有するプラズマ用電源装置を制御する方法であって、
前記電源ハーネスが長くなるほど周波数が低くなるように前記交流電源の前記所定周波数を設定する工程を有するプラズマ用電源装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施形態のプラズマ用電源装置及びプラズマ装置の構成
実施形態のプラズマ用電源装置及びプラズマ装置について、
図1〜
図10を参考にして説明する。
図1は、実施形態のプラズマ装置を構成する実施形態のプラズマ用電源装置1、および本体部9を模式的に示した図である。まず、本体部9について説明する。本体部9は、容器91、一対の電極92、および大気圧ガス置換部93を備える。
【0013】
容器91は、外気から内部空間を区画する。一対の電極92は、容器91の内部に対向して配置される。一対の電極92の間が、プラズマの発生領域94となる。大気圧ガス置換部93は、発生領域94に大気圧の原料ガスを導入するとともに、発生領域94に発生したプラズマを移動させる。プラズマは、容器91内で使用されてもよく、他に移動されて使用されてもよい。原料ガスとしては、酸素ガス、空気、ドライエア、窒素と酸素の混合ガスを例示でき、これらに限定されない。実施形態のプラズマ装置は、大気圧プラズマ装置であり、低気圧プラズマ装置と比較して一般的にプラズマ発生電圧が高い。実施形態のプラズマ装置は、低気圧(負圧)にするための真空ポンプが不要であり、装置構成が簡素である。
【0014】
プラズマ用電源装置1は、パルス幅変調電源2、平滑回路6、変圧器7、および電源ハーネス81を備える。パルス幅変調電源2は、正負それぞれ複数のパルス電圧波形のデューティ比を可変に調整して出力する。平滑回路6は、パルス幅変調電源2が出力した正負それぞれ複数のパルス電圧波形を平滑して交流電圧とし、変圧器7に出力する。交流電圧の波形は、複数のパルス電圧波形の正負や、デューティ比の調整に応じて、周波数の調整が可能であり、更には正弦波にも歪み波にもなり得る。
【0015】
平滑回路6は、例えば、
図1に示されたコイル61およびコンデンサ65で構成される。コイル61の一端611は、パルス幅変調電源2の出力側の一端に接続される。コイル61の他端612は、変圧器7の一次巻線71の一端に接続される。コンデンサ65の一端651は、コイル61の他端612および一次巻線71の一端に接続される。コンデンサ65の他端652は、パルス幅変調電源2の出力側の他端および一次巻線71の他端に接続される。パルス幅変調電源2および平滑回路6は、本実施形態の交流電源を構成する。なお、本明細書における「交流電源」における「交流」は、「直流」ではないことを意味するだけで有り、交流の周波数である「交流周波数」が取りうる範囲としては、プラズマを発生できる限りにおいて低周波から高周波までどのような周波数でも採用することができる。但し、プラズマは、交流電源に追随して発生・消滅を繰り返すため、交流周波数はプラズマが発生・消滅を繰り返すことが出来る程度が上限値になる。この上限値は交流電圧の波形、電極の形状などにより変化する値である。
【0016】
変圧器7は、単相器であり、電磁結合した一次巻線71および二次巻線72を有する。変圧器7は、二次巻線72の巻数が一次巻線71の巻数よりも多く、昇圧機能を有する。二次巻線72の一端および他端は、電源ハーネス81を介して、一対の電極92に接続される。変圧器7の構造に特別な制約は無いが、良好な高周波特性を有することが好ましい。変圧器7は、一次巻線71に入力された交流電圧を昇圧して、二次巻線72から一対の電極92に印加する。昇圧後の電圧としては特に限定しないが、15kV程度になるように設定することが好ましく、その場合の実効値としては5kV程度にすることが好ましい。
【0017】
電源ハーネス81は、本体部9の容器91に対して絶縁が確保されつつ、本体部9が備える一対の電極92とプラズマ用電源装置1との間を接続する。電源ハーネス81は、同軸ケーブルではない。電源ハーネス81は、一対の電極92とプラズマ用電源装置1との間の一部乃至全部とすることができる。具体的に電源ハーネス81は、変圧器7の二次巻線72の出力と一対の電極92との間を接続しており、変圧器7の二次巻線72の出力に対してはコネクタ81aおよび81bにて着脱可能な構成となり、一対の電極92に対してはコネクタ81cおよび81dにて着脱可能な構成となっている。なお、電源ハーネス81は、可撓性をもち屈曲可能であって、且つ、種々の長さのものが採用可能である。
【0018】
電源ハーネス81は、配線長を変化させるために一部乃至全部が取り替え可能であることが好ましい。電源ハーネス81としては、特に限定しないが、一対の芯となる 導体を有するものであり、例えばキャブタイヤケーブルなどのシールドされていないケーブルか、シールドされていたとしても可撓性を優先してシールドが不完全なケーブルを採用することが出来る。充分なシールドが為されていなくてもケーブルが十分に長いため、高調波(反射波)は発生しないか、周辺環境への影響が出るほどは発生しない。
【0019】
電源ハーネス81は、一対の電極92をどのように配設して用いるかによって適正な配線長のものを必要なときに選択して交換できる。例えば、プラズマ処理を行う対象である被処理物の近傍に本体部9を適宜移動させる必要がある場合などのように、電源ハーネス81の長さは、想定される範囲に相対移動させたときに邪魔にならない配線長にすることができる。
【0020】
図2は、パルス幅変調電源2の回路構成を例示した回路図である。パルス幅変調電源2は、直流電源3、パルス発生回路4、および制御部5で構成される。直流電源3は、高圧端子31および低圧端子から32から直流電圧Vdcを出力する。直流電源3として、商用周波数の交流電圧を整流する整流電源や、バッテリ電源を用いることができる。
【0021】
パルス発生回路4は、4個のスイッチング素子のブリッジ接続によって構成される。スイッチング素子としては、MOSFET素子やIGBT素子などを用いることができ、以下MOSFET素子の場合を例にして説明する。第1スイッチング素子41は、ドレインDが直流電源3の高圧端子31に接続され、ソースSが第1出力端子47に接続される。第2スイッチング素子42は、ドレインDが第1出力端子47に接続され、ソースSが直流電源3の低圧端子32に接続される。第3スイッチング素子43は、ドレインDが直流電源3の高圧端子31に接続され、ソースSが第2出力端子48に接続される。第4スイッチング素子44は、ドレインDが第2出力端子48に接続され、ソースSが直流電源3の低圧端子32に接続される。
【0022】
第1出力端子47および第2出力端子48は、引き出されて平滑回路6に接続される。第1スイッチング素子41のゲートGおよび第4スイッチング素子44のゲートGは、まとめられて制御部5に接続される。第2スイッチング素子42のゲートGおよび第3スイッチング素子43のゲートGも、まとめられて制御部5に接続される。スイッチング素子41〜44は、ゲートGに制御信号が入力されているときだけ、ドレインDとソースSの間が導通する。
【0023】
制御部5は、ゲートGに制御信号を送出して、スイッチング素子のスイッチング動作を制御する。制御部5は、CPUを有してソフトウェアで動作する電子制御回路により構成される。これに限定されず、制御部5は、ハードウェア回路によって構成されてもよい。制御部5は、パルス電圧波形の繰り返し周波数を表すパルス周波数を設定する。また、制御部5は、交流電圧の交流周波数を所定周波数に設定する。
【0024】
所定周波数は、電源ハーネス81の長さに応じて設定する。所定周波数の値は、電源ハーネス81の長さが長くなるほど低くする。所定周波数の好ましい上限値としては、9kHzが例示でき、好ましい下限値としては、5kHzや8kHzが例示できる。具体的には、電源ハーネス81の長さの変動により一対の電極92から出力されるプラズマの強度が変動するため、そのプラズマの強度の変動が小さくなるように、所定周波数は、決定される。例えば、所定周波数は、一対の電極92に供給される電力の大きさを同じに近づけるように制御して決定することができる。具体的には、電源ハーネス81が相対的に長くなるほど、所定周波数の値は、相対的に低くなる。例えば、ケーブルの長さが5mの場合には9kHz程度、ケーブルの長さが7mの場合には8kHz程度にすることができる。
【0025】
電源ハーネス81が長くなるほど所定周波数を低くする理由としては以下の通りである。電源ハーネス81には、寄生容量などが存在する。電源ハーネス81の寄生容量などは、長くなるほど大きくなるため、同じ所定周波数を交流周波数として出力しても電源ハーネス81が長いほど、一対の電極92に供給される電圧の立ち上がりは遅くなる。例えば、
図3に模式的に示すように、電源ハーネス81の長さが相対的に長い場合Bは、相対的に短い場合Aと比較して、一対の電極92に印加される電圧の立ち上がりが遅くなる。
【0026】
ここで、一対の電極92の間で放電する形態のプラズマ装置においては、プラズマの生成は、交流の1周期の間でも一定の電圧に至った後に放電し、その後、再度電圧が高まってまた放電するというサイクルを複数回繰り返している(後述する
図8および
図9参照)。前述した場合Bのように立ち上がりが遅くなると、1周期の長さが同じでも、1つのサイクル中における放電回数が場合Aよりも少なくなる。その結果、電源ハーネス81が長くなると、同じ電力を供給しても発生するプラズマの強度は相対的に小さくなる。
【0027】
この1つのサイクルの中においては、
図8に示すように、プラズマの発生に寄与しない無効期間T11などがある時間存在する。無効期間の長さは、交流周波数の1周期が変動しても同程度には変化しないので、場合Bのように立ち上がりが遅くなっても交流周波数を低くして1周期を長くすることによりプラズマ発生に寄与しない無効期間がサイクル中に占める割合が相対的に小さくなる。その結果、全体で評価すると、単位時間あたりのプラズマの強度が確保できるようになる。
【0028】
制御部5は、電源ハーネス81の長さを適正な方法にて取得して所定周波数を決定する。例えば、制御部5は、プラズマ装置やプラズマ用電源装置1の操作パネルなどに操作者が電源ハーネス81の長さを入力する電源ハーネス長さ入力機構を設けることができる。また、制御部5は、電源ハーネス81の構成として電源ハーネス81の長さを制御部5に出力する機構、例えばコネクタ81a〜81dの何れかに、電源ハーネス81の長さに関連する情報(コネクタの形状による情報や、抵抗値などの電気的な情報)を持たせた上で、その情報を読み取って制御部5に出力する装置を採用したりすることができる。
【0029】
パルス周波数として200kHzを例示できる。パルス周波数を交流周波数で除算したパルス数は、交流電圧の1周期に対応するパルス電圧波形の個数を表す。パルス数は、数10個以上であることが好ましい。
【0030】
更に、制御部5は、電源ハーネス81が長いほど、一対の電極92に印加する交流電圧の立ち上がりを速くすることができる。また、立ち上がりを速く制御することに代えて、又は加えて、立ち下がりを遅く制御することもできる。立ち上がりを速く制御したり、立ち下がりを遅く制御したりすることにより、プラズマの強度が高くできるため、電源ハーネス81が長くなって低下したプラズマの強度を補うことができる。なお、立ち上がりを速くしたり、立ち下がりを遅く制御したりした交流電圧の波形は、通常の交流電圧の波形(正弦波交流電圧波形)に対して、歪み波交流電圧波形と称する。また、制御部5は、電源ハーネス81が長いほど、印加する交流電圧を高くすることもできる。印加する交流電圧を高くすることによりプラズマの強度を高くできるため、電源ハーネス81が長くなって低下したプラズマの強度を補うことができる。
【0031】
交流電圧の正の半波に相当する時間帯に、制御部5は、第2スイッチング素子42および第3スイッチング素子43に制御信号を送出せず、遮断状態に維持する。かつ、制御部5は、第1スイッチング素子41および第4スイッチング素子44に時間長可変の制御信号を送出して開閉制御し、デューティ比を可変に調整する。これにより、パルス幅変調電源2は、デューティ比が調整された複数の正のパルス電圧波形を出力する。
【0032】
また、交流電圧の負の半波に相当する時間帯に、制御部5は、第1スイッチング素子41および第4スイッチング素子44に制御信号を送出せず、遮断状態に維持する。かつ、制御部5は、第2スイッチング素子42および第3スイッチング素子43に時間長可変の制御信号を送出して開閉制御し、デューティ比を可変に調整する。これにより、パルス幅変調電源2は、デューティ比が調整された複数の負のパルス電圧波形を出力する。正負のパルス電圧波形の高さは、直流電源3の直流電圧Vdcに一致する。
【0033】
2.実施形態のプラズマ用電源装置1の動作および作用
次に、実施形態のプラズマ用電源装置1の動作および作用について説明する。
図4は、正弦波交流電圧を変圧器7に出力する場合に、制御部5が行う制御方法を模式的に示した図である。また、
図5は、
図4の出力に応じて生成されるパルス電圧波形、および正弦波交流電圧波形Wsinを示した図である。
図4の場合では、制御部5は、交流電圧の1周期に相当する時間帯を第1区間R1から第17区間R17までの17個に分割する。1周期の長さは、電源ハーネス81の長さに応じて決定された交流周波数(所定周波数)から決定される。なお、第1区間R1および第17区間R17は、時間幅の半分のみが交流電圧の1周期内に入る。第1〜第17区間R1〜R17には、それぞれ複数のパルス電圧波形が入る。
【0034】
ここで、第1区間R1から第5区間R5は、交流電圧の正の半波の立ち上がりに対応している。したがって、第1〜第5区間R1〜R5において、制御部5は、正弦波の立ち上がりの増加傾向に対応させて、デューティ比D1〜D5を順次増加させてゆく。これを不等式で表せば、次の関係が成り立つ。第1区間R1のデューティ比D1<第2区間R2のデューティ比D2<第3区間R3のデューティ比D3<第4区間R4のデューティ比D4<第5区間R5のデューティ比D5。
【0035】
また、第5区間R5から第9区間R9は、交流電圧の正の半波の立ち下がりに対応している。したがって、第5〜第9区間R5〜R9において、制御部5は、正弦波の立ち下がりの減少傾向に対応させて、デューティ比D5〜D9を順次減少させてゆく。これを不等式で表せば、次の関係が成り立つ。第5区間R5のデューティ比D5>第6区間R6のデューティ比D6>第7区間R7のデューティ比D7>第8区間R8のデューティ比D8>第9区間R9のデューティ比D9。
【0036】
同様に、第9区間R9から第17区間R17は、交流電圧の負の半波に対応している。したがって、第9〜第17区間R9〜R17において、制御部5は、正弦波の負の立ち上がりの減少傾向および立ち下がりの増加傾向に対応させて、デューティ比D9〜D17を順次増加および減少させてゆく。これを不等式で表せば、次の関係が成り立つ。
【0037】
第9区間R9のデューティ比D9<第10区間R10のデューティ比D10<第11区間R11のデューティ比D11<第12区間R12のデューティ比D12<第13区間R13のデューティ比D13。
第13区間R13のデューティ比D13>第14区間R14のデューティ比D14>第15区間R15のデューティ比D15>第16区間R16のデューティ比D16>第17区間R17のデューティ比D17。
【0038】
具体例として、制御部5は、第1〜第17区間R1〜R17のデューティ比D1〜D17を次のように設定する。
D1=D9=D17=0[%]
D2=D8=D10=D16=30[%]
D3=D7=D11=D15=70[%]
D4=D6=D12=D14=90[%]
D5=D13=100[%]
【0039】
ここで、
図5は、第1〜第17区間R1〜R17にそれぞれ3個のパルス電圧波形が入る場合であって、交流電圧の正の半波の立ち上がりに対応する時間帯を示している。
図5には、デューティ比D1の1個半のパルス電圧波形、デューティ比D2〜D4の各3個のパルス電圧波形、およびデューティ比D5の1個半のパルス電圧波形が示され、合計で12個のパルス電圧波形が示されている。これらのパルス電圧波形が平滑回路6で平滑されて、ゼロ点ZPから正ピーク点PPまでの正弦波交流電圧波形Wsinが得られる。実際には、平滑回路6から出力される正弦波交流電圧波形Wsinは、パルス電圧波形に対して位相遅れをもつ。
【0040】
図6は、歪み波交流電圧を変圧器7に出力する場合に、制御部5が行う制御方法を模式的に示した図である。
図6では、制御部5は、正弦波交流電圧と比較して電圧波形の立ち上がりを速くする立ち上がり変調を施している。電圧波形の立ち上がりの程度は、交流周波数が低くなるほど、すなわち電源ハーネス81が長いほど、速くすることが好ましい。
具体例として、制御部5は、第1区間R1から第4区間R4のデューティ比D1A〜D4A、および第9区間R9から第12区間R12のデューティ比D9A〜D12Aを次のように大きく調整する。
【0041】
D1A=D9A=(D1+α)[%]
D2A=D10A=(D2+α)[%]
D3A=D11A=(D3+α)[%]
D4A=D12A=(D4+α)[%]
【0042】
なお、制御部5は、立ち下がり変調を施さない。したがって、デューティ比D5〜D8、およびデューティ比D13〜D16は、正弦波交流電圧の場合に一致する。上記の+αは、各区間R1〜R4、R9〜R12で互いに異なっていてもよく、共通とされていてもよい。例えば、+αは、各区間R1〜R4、R9〜R12で共通に10[%]と設定される。
【0043】
制御部5が立ち上がり変調を施した結果、変圧器7に歪み波交流電圧波形Wris(
図7参照)が出力される。実際には、平滑回路6から出力される歪み波交流電圧波形Wrisは、パルス電圧波形に対して位相遅れをもつ。
図7は、実施例および比較例において、変圧器7に出力される交流電圧波形を示した図である。
図7の横軸は時間軸tを表し、縦軸は電圧Vを表している。
図7において、比較例の正弦波交流電圧波形Wsinは、破線で示されている。また、実施例の歪み波交流電圧波形Wrisは、立ち上がりが実線で示され、立ち下がりが正弦波交流電圧波形Wsinに一致している。
【0044】
図7中の正の半波に示されるように、歪み波交流電圧波形Wrisは、正弦波交流電圧波形Wsinと比較して、電圧波形の立ち上がりが速くなっている。このため、歪み波交流電圧波形Wrisがプラズマ発生電圧Vpに到達する時刻t1は、正弦波交流電圧波形Wsinがプラズマ発生電圧Vpに到達する時刻t2よりも速くなる。上記した説明は、負の半波についても同様に成り立つ。したがって、立ち上がり変調を施した場合(立ち上がり変調有)によれば、プラズマの発生可能な時間帯は、立ち上がり変調を行わない場合(立ち上がり変調無)に比べて拡がる。その結果、電源ハーネス81が長くなることにより生じるプラズマの強度の低下が効果的に補償できる。
【0045】
また、立ち上がり変調を施した歪み波交流電圧波形Wrisに代えて、立ち下がり変調を施した歪み波交流電圧波形Wdwnを用いることもできる。
図7において、歪み波交流電圧波形Wdwnは、立ち上がりが正弦波交流電圧波形Wsinに一致し、立ち下がりが一点鎖線で示されている。立ち下がり変調を施す具体例として、制御部5は、第6区間R6から第9区間R9のデューティ比D6〜D9、および第14区間R14から第17区間R17のデューティ比D14〜D17を+β[%]だけ大きく調整する。なお、制御部5は、立ち上がり変調を施さないので、デューティ比D2〜D5、およびデューティ比D10〜D13は、正弦波交流電圧の場合に一致する。
【0046】
図7中の正の半波に示されるように、立ち下がり変調を施した歪み波交流電圧波形Wdwnは、正弦波交流電圧波形Wsinと比較して、電圧波形の立ち下がり遅くなっている。このため、歪み波交流電圧波形Wdwnがプラズマ消滅電圧Vdまで低下する時刻t4は、正弦波交流電圧波形Wsinがプラズマ消滅電圧Vdまで低下する時刻t3よりも遅くなる。上記した説明は、負の半波についても同様に成り立つ。したがって、立ち下がり変調を施した歪み波交流電圧波形Wdwnを用いたとき、プラズマの発生可能な時間帯は、正弦波交流電圧波形を用いた場合より拡がる。
【0047】
さらに、立ち上がり変調および立ち下がり変調の両方を施した歪み波交流電圧波形を用いることもできる。この場合、電圧波形の立ち上がりおよび立ち下がりの両方で、プラズマの発生可能な時間帯を拡げる効果が発生する。
【0048】
なお、歪み波交流電圧波形Wrisおよび歪み波交流電圧波形Wdwnは、正弦波交流電圧波形Wsinと比較して、電圧波形のゼロ点ZP、正ピーク点PP、ゼロ点ZN、および負ピーク点PNが時間軸t上で移動しない。さらに、歪み波交流電圧波形Wrisおよび歪み波交流電圧波形Wdwnは、ゼロ点ZPから正ピーク点PPまでの間および負ピーク点PNからゼロ点ZPまでの間で電圧瞬時値が滑らかに単調増加し、かつ、正ピーク点PPからゼロ点ZNを経て負ピーク点PNまでの間で電圧瞬時値が滑らかに単調減少する。
【0049】
歪み波交流電圧波形Wrisおよび歪み波交流電圧波形Wdwnは、上記の性質を有するので、高周波成分の含有率が限定される。これにより、変圧器7は、電圧波形の変歪を抑制しての昇圧が可能となる。さらに、変圧器7の発生損失は、正弦波交流電圧波形Wsinと比較して、顕著に増加しない。仮に、多くの高周波成分を含有するパルス波形を変圧器7の一次巻線71に入力すると、二次巻線72における電圧波形の変歪が顕著となる。さらには、変圧器7における発生損失の増加や、騒音および振動の増加を招く。このため、変圧器7でパルス波形を昇圧することは、実用的でない。
【0050】
参考までに、
図4(立ち上がり変調有)および
図6(立ち上がり変調無)の場合におけるプラズマの発生状況の実測結果について説明する。
図8は、立ち上がり変調無の場合のプラズマの発生状況を示す電極92間の電圧波形V1を実測した図である。また、
図9は、立ち上がり変調有の場合において、プラズマの発生状況を示す電極92間の電圧波形V2を実測した図である。
図8に破線で示された正弦波交流電圧波形Wsinの交流周波数、および
図9に破線で示された歪み波交流電圧波形Wrisの交流周波数は、ともに5kHzである。
【0051】
図8において、プラズマが発生すると電極92間がほぼ導通され、電圧波形V1の電圧瞬時値は正弦波交流電圧波形Wsinから大きく減少する。このことから、プラズマの発生に寄与しない無効期間T11、T12、T13、T14を判別できる。同様に、
図9において、プラズマが発生すると電極92間がほぼ導通され、電圧波形V2の電圧瞬時値は歪み波交流電圧波形Wrisから大きく減少する。このことから、プラズマの発生に寄与しない無効期間T21、T22、T23、T24を判別できる。各無効期間T11、T12、T13、T14、T21、T22、T23、T24は、ゼロ点ZPおよびゼロ点ZNの一方を含んでいる。
【0052】
ここで、立ち上がり変調有の場合の無効期間T21、T22、T23、T24は、立ち上がり変調を行った場合の無効期間T11、T12、T13、T14と比較して、平均的に時間幅が短い。特に、無効期間T21、T22、T23、T24は、ゼロ点ZP以降やゼロ点ZN以降の時間幅が短い。これは、
図7を用いて説明したように、歪み波交流電圧波形Wrisの立ち上がりを正弦波交流電圧波形Wsinよりも速くすることによって生じる作用である。したがって、立ち上がり変調を行った場合の歪み波交流電圧波形Wrisによれば、立ち上がり変調を行わない場合の正弦波交流電圧波形Wsinと比較して、交流電圧の1周期の中でプラズマの発生可能な時間帯が拡がる。
【0053】
3.実施形態のプラズマ用電源装置1の態様および効果
実施形態のプラズマ用電源装置1は、交換可能な電源ハーネス81を介して、一対の電極92に交流電圧を印加してプラズマを発生させるプラズマ用電源装置1である。実施形態のプラズマ用電源装置1は、電源ハーネス81の長くなるにつれて交流周波数を低く制御する制御部5を備えた。
【0054】
また、実施形態のプラズマ用電源装置1は、電源ハーネス81が長くなるにつれて正弦波交流電圧波形Wsinと比較して電圧波形の立ち上がりを速くする立ち上がり変調を施した歪み波交流電圧波形Wris、および電圧波形の立ち下がりを遅くする立ち下がり変調を施した歪み波交流電圧波形Wdwnの少なくとも一方を出力することが可能な交流電源を備えた。
【0055】
一対の電極92に供給する交流の交流周波数は、電源ハーネス81の長さが長くなるにつれて相対的に低くしている。更に、電圧波形の立ち上がりを電源ハーネス81の長さが長くなるほど速くする制御を行うこともできる。
【0056】
これによれば、交流周波数を電源ハーネス81の長さに応じて制御するため、電源ハーネス81が長くなって一対の電極92に供給される電力が相対的に少なくなったとしても交流周波数を低くすることにより、発生するプラズマの強度の低下を抑制することができる。
【0057】
更には、電源ハーネス81が長くなって、一対の電極92に供給される電力が相対的に供給し難くなっても、正弦波交流電圧波形Wsinと比較して電圧波形の立ち上がりを速くし、または立ち下がりを遅くするので、交流電圧の1周期の中でプラズマの発生可能な時間帯が拡がる。したがって、実施形態のプラズマ用電源装置1は、電源ハーネス81を取り替えて長さが変化しても、プラズマ発生能力の低下を最低限に抑えることができる。
【0058】
4.実施形態のプラズマ装置および実施形態のプラズマ発生方法の態様および効果
実施形態のプラズマ装置は、プラズマを発生させる容器91と、容器91の内部に配置された一対の電極92と、実施形態のプラズマ用電源装置1と、を備えた。一対の電極92とプラズマ用電源装置1との間は電源ハーネス81により接続されている。電源ハーネス81は、必要に応じて適正な長さのものに取り替え可能且つ可撓性をもつ。可撓性をもつ電源ハーネス81について、必要に応じて取り替え可能な構成を採用しても発生するプラズマの強度の低下を抑制することが可能である。
【0059】
5.実施形態の応用および変形
なお、実施形態で説明した第1〜第17区間R1〜R17、およびデューティ比D1〜D17、D1A〜D4A、D9A〜D12Aの設定方法は一例であって、変形例は多数ある。例えば、変圧器7の二次巻線72の出力と一対の電極92との間を接続する電源ハーネス81に代えて、平滑回路6の出力と変圧器7の一次巻線71との間を接続する電源ハーネス82を採用することもできる(
図10)。この場合でも、電源ハーネス81を採用した場合と同様の制御を採用することにより同様の作用効果を発揮させることができる。
【0060】
また、交流電圧の立ち上がりに対応する複数のパルス電圧波形のデューティ比が全て異なり、徐々に増加していてもよい。また、パルス周波数や交流周波数も適宜変更可能である。なお、交流周波数が高い方が発生する音が小さくなるため好ましい。更に、3kHz程度の音が最も聞き取りやすいため、3kHzよりも高い範囲に交流周波数を設定する場合には、できるだけ高い周波数に設定することで耳障りな音の発生を抑制できるので好ましい。
【0061】
さらに、本実施形態のプラズマ用電源装置は、大気圧プラズマ装置への利用に限定されず、例えば、変圧器7を省略して低気圧プラズマ装置に利用することもできる。本実施形態は、その他にも様々な応用や変形が可能である。
【0062】
6.プラズマ装置を利用したプラズマ照射システム
本実施形態のプラズマ装置を利用したプラズマ照射システムについて一例を挙げて説明する。
【0063】
本実施形態のプラズマ照射システムは、
図11に示すように、上述した本実施形態のプラズマ装置(100、120、9、11、12)と、プラズマ装置駆動手段(111〜118)とを備える。
本実施形態のプラズマ装置(100、120、9、11、12)は、ベース部100と、本体部9と、ベース部100と本体部9との間を連絡する連絡手段120と、操作装置12と、操作装置12とベース部100とを接続する接続手段11とを有する。
【0064】
ベース部100は、本実施形態のプラズマ用電源装置1の構成要素の一部であるパルス幅変調電源2、平滑回路6、及び変圧器7と、不活性ガス供給手段とが収納されている。連絡手段120は、電源ハーネス81と不活性ガス供給管とを束ねたものである。不活性ガス供給管は、ベース部100の不活性ガス供給手段から本体部9の大気圧ガス置換部に不活性ガスを供給できるように連絡する管である。連絡手段120は、可撓性をもつフレキシブルパイプにて被覆されており、その中程部分が後述する上腕アーム114の側面に取付部121により固定されている。
【0065】
操作装置12は、本実施形態のプラズマ照射システムを操作する装置であり、接続手段11にてベース部100に接続され、ベース部100及びプラズマ装置駆動手段(111〜118)に操作信号を出力する。
【0066】
プラズマ装置駆動手段(111〜118)は、プラズマ装置の本体部9を3次元的に駆動させて、その本体部9にて生成されたプラズマを被処理物Mに効果的に作用させることができる角度になるよう調整する多軸ロボットである。
【0067】
プラズマ装置駆動手段(111〜118)は、アーム保持部111と、上腕アーム114と下腕アーム116と支持アーム118とを備えた多関節型ロボットからなる。
アーム保持部111は、アーム旋回部112を介して水平面でベース部100に回転駆動自在に形成される。上腕アーム114は、上腕アーム回動部113を介してアーム保持部111に回動駆動自在に枢着される。下腕アーム116は上腕アーム114に下腕アーム回動部115を介して垂直面で回動駆動自在に枢着される。支持アーム118は下腕アーム116に支持アーム回動部117を介して垂直面で回動駆動自在に枢着される。支持アーム118は、その先端で本体部9を保持する。
【0068】
上述の構成を有することにより、プラズマ装置駆動手段(111〜118)により、プラズマを発生される本体部9を、被処理物Mに対して相対位置関係が適正になるように自在に制御することが可能になる。その結果、発生したプラズマを効果的に利用することが可能になる。
【0069】
更に、被処理物Mについてもプラズマ装置駆動手段(111〜118)に類する手段を採用して、3次元的に駆動させることにより更に本体部9と被処理物Mとの相対位置関係を適正化することが可能になる。