(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、全ての図面において、本発明を説明するために必要となる構成要素を抜粋して図示しており、その他の構成要素については図示を省略している場合がある。さらに、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0017】
(実施の形態1)
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置は、第1部材と第2部材を有する、被接合物を摩擦熱で軟化させることにより接合する摩擦攪拌点接合装置であって、摩擦攪拌点接合装置は、円柱状に形成されているピン部材と、円筒状に形成され、ピン部材が内部に挿通されているショルダ部材と、ピン部材及びショルダ部材を、ピン部材の軸心に一致する軸線周りに回転させる回転駆動器と、ピン部材及びショルダ部材を、それぞれ、軸線に沿って進退移動させる進退駆動器と、制御器と、を備え、第1部材は、ツールと対向するように配置され、かつ、第2部材よりも融点の低い材料で構成されていて、制御器は、ピン部材及びショルダ部材が、回転した状態で、被接合物の被接合部を押圧するように、回転駆動器及び進退駆動器を動作させる(A)と、回転した状態のショルダ部材の先端を第2部材内における予め設定されている所定の第1位置まで到達させ、かつ、回転した状態のピン部材を被接合物の被接合部から後退するように、進退駆動器及び回転駆動器を動作させる(B)と、(B)の後に、回転した状態のショルダ部材を被接合物の被接合部から引き抜くように、かつ、回転した状態のピン部材を被接合物の被接合部に向かって進出するように、回転駆動器及び進退駆動器を動作させる(C)と、を実行するように構成されている。
【0018】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、第1位置は、第2部材の第1部材との当接面から0.3mm以下の間における任意の位置であってもよい。
【0019】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、ショルダ部材は、当該ショルダ部材における先端面の半径をRs、ピン部材における先端面の半径をRpとしたときに、次式Rs>2
1/2×Rpを満たすように構成されていてもよい。
【0020】
さらに、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置では、被接合物は、重ね合された第1部材と第2部材との接触部分にシーラント材が塗布されていてもよい。
【0021】
以下、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
[摩擦攪拌点接合装置の構成]
図1は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の概略構成を示す模式図である。なお、
図1においては、図における上下方向を摩擦攪拌点接合装置における上下方向として表している。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、ピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、裏当て支持部55、裏当て部材56、及び回転駆動器57を備えている。
【0024】
ピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、及び回転駆動器57は、C型ガン(C型フレーム)で構成される裏当て支持部55の上端に設けられている。また、裏当て支持部55の下端には、裏当て部材56が設けられている。ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13と、裏当て部材56と、は互いに対向する位置で裏当て支持部55に取り付けられている。なお、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13と、裏当て部材56と、の間には、被接合物60が配置される。
【0025】
ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、回転工具固定器521及びクランプ固定器522から構成される工具固定器52に固定されている。具体的には、ピン部材11及びショルダ部材12は、回転工具固定器521に固定されていて、クランプ部材13は、クランプ駆動器41を介して、クランプ固定器522に固定されている。そして、回転工具固定器521は、回転駆動器57を介して、クランプ固定器522に支持されている。なお、クランプ駆動器41は、スプリングにより構成されている。
【0026】
また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532から構成される進退駆動器53によって、上下方向に進退駆動される。
【0027】
ピン部材11は、円柱状に形成されていて、
図1には、詳細に図示されないが、回転工具固定器521により支持されている。また、ピン部材11は、回転駆動器57により、ピン部材11の軸心に一致する軸線Xr(回転軸)周りに回転し、ピン駆動器531により、矢印P1方向、すなわち軸線Xr方向(
図1では上下方向)に沿って、進退移動可能に構成されている。
【0028】
なお、ピン駆動器531としては、例えば、直動アクチュエータで構成されていてもよい。直動アクチュエータとしては、例えば、サーボモータとラックアンドピニオン、サーボモータとボールネジ、又はエアシリンダー等で構成されていてもよい。
【0029】
ショルダ部材12は、中空を有する円筒状に形成されていて、回転工具固定器521により支持されている。ショルダ部材12の中空内には、ピン部材11が内挿されている。換言すると、ショルダ部材12は、ピン部材11の外周面を囲むように配置されている。
【0030】
また、ショルダ部材12は、回転駆動器57により、ピン部材11と同一の軸線Xr周りに回転し、ショルダ駆動器532により、矢印P2方向、すなわち軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。
【0031】
なお、ショルダ駆動器532としては、例えば、直動アクチュエータで構成されていてもよい。直動アクチュエータとしては、例えば、サーボモータとラックアンドピニオン、サーボモータとボールネジ、又はエアシリンダー等で構成されていてもよい。
【0032】
このように、ピン部材11及びショルダ部材12(回転工具)は、本実施の形態ではいずれも同一の回転工具固定器521によって支持され、いずれも回転駆動器57により軸線Xr周りに一体的に回転する。さらに、ピン部材11及びショルダ部材12は、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532により、それぞれ軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。
【0033】
なお、本実施の形態1においては、ピン部材11は単独で進退移動可能であるとともに、ショルダ部材12の進退移動に伴っても進退移動可能となっているが、ピン部材11及びショルダ部材12がそれぞれ独立して進退移動可能に構成されてもよい。
【0034】
これにより、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合面積(新生面が形成される面積)を大きくすることができる。このため、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合強度を大きくすることができる。
【0035】
クランプ部材13は、ショルダ部材12と同様に、中空を有する円筒状に形成されていて、その軸心が軸線Xrと一致するように設けられている。クランプ部材13の中空内には、ショルダ部材12が内挿されている。
【0036】
すなわち、ピン部材11の外周面を囲むように、円筒状のショルダ部材12が配置されていて、ショルダ部材12の外周面を囲むように円筒状のクランプ部材13が配置されている。換言すれば、クランプ部材13、ショルダ部材12及びピン部材11が、それぞれ同軸心状の入れ子構造となっている。
【0037】
また、クランプ部材13は、被接合物60を一方の面(表面)から押圧するように構成されている。クランプ部材13は、上述したように、本実施の形態1においては、クランプ駆動器41を介してクランプ固定器522に支持されている。クランプ駆動器41は、クランプ部材13を裏当て部材56側に付勢するように構成されている。そして、クランプ部材13(クランプ駆動器41及びクランプ固定器522を含む)は、ショルダ駆動器532によって、矢印P3方向(矢印P1及び矢印P2と同方向)に進退可能に構成されている。
【0038】
なお、クランプ駆動器41は、本実施の形態1においては、スプリングで構成したが、これに限定されるものではない。クランプ駆動器41は、クランプ部材13に付勢を与えたり加圧力を与えたりする構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構も好適に用いることができる。
【0039】
ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、それぞれ先端面11a、先端面12a、及び先端面13aを備えている。また、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13は、進退駆動器53により進退移動することで、先端面11a、先端面12a、及び先端面13aは、それぞれ、被接合物60の表面(被接合物60の被接合部)に当接し、被接合物60を押圧する。
【0040】
また、ショルダ部材12は、当該ショルダ部材12の先端面12aの半径をRs、ピン部材11の先端面11aの半径をRpとしたときに、Rs>2
1/2×Rpを満たすように構成されている。換言すると、ショルダ部材12は、円環状の先端面12aの面積が、ピン部材11の円状の先端面11aの面積よりも大きくなるように構成されている。
【0041】
これにより、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合面積(新生面が形成される面積)を大きくすることができる。このため、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合強度を大きくすることができる。
【0042】
裏当て部材56は、本実施の形態1においては、平板状の被接合物60の裏面を当接するように平坦な面(支持面56a)により、支持するように構成されている。裏当て部材56は、摩擦攪拌接合を実施できるように被接合物60を適切に支持することができるものであれば、その構成は特に限定されない。裏当て部材56は、例えば、複数の種類の形状を有する裏当て部材56が別途準備され、被接合物60の種類に応じて、裏当て支持部55から外して交換できるように構成されてもよい。
【0043】
被接合物60は、2枚の板状の第1部材61及び第2部材62を有する。第1部材61は、ピン部材11及びショルダ部材12と対向するように配置され、かつ、第2部材62よりも融点の低い材料で構成されている。
【0044】
なお、被接合物60は、重ね合された第1部材61と第2部材62との接触部分にシーラント材が塗布されていてもよい。シーラント材としては、シーリング材であってもよく、接着剤であってもよい。シーラント材としては、例えば、ポリサルファイド系合成ゴム、天然ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴム、四フッ化エチレンゴム樹脂等の合成樹脂等を用いることができる。
【0045】
第1部材61としては、金属材料(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金等)、熱可塑性プラスチック(例えば、ポリアミド等)、及び繊維強化プラスチック(例えば、炭素繊維強化プラスチック等)のうち、少なくとも1つの材料を用いてもよい。アルミニウム合金としては、各種のアルミニウム合金を用いることができ、例えば、Al−Mg−Si系合金(A6061)を用いてもよく、Al−Si−Mg系合金(AC4C)を用いてもよい。
【0046】
また、第2部材62としては、金属材料(例えば、鋼、チタン等)を用いてもよい。鋼としては、各種の鋼をもちいることができ、軟鋼、又は高張力鋼を用いてもよい。また、鋼の表面に酸化膜が形成されていてもよく、メッキ層(例えば、亜鉛メッキ)が形成されていてもよい。亜鉛メッキが形成されている鋼板としては、溶融亜鉛メッキ鋼板(GI鋼板)であってもよく、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA鋼板)であってもよく、ガルバリウム鋼板であってもよく、アルミニウムシリコンメッキホットスタンプ鋼板であってもよい。さらに、メッキ層の厚みとしては、2μm〜50μmであってもよい。
【0047】
なお、本実施の形態1においては、被接合物60を板状の第1部材61と板状の第2部材62で構成されている形態を採用したが、これに限定されず、被接合物60(第1部材61及び第2部材62)の形状は任意であり、例えば、直方体状であってもよく、円弧状に形成されていてもよい。また、被接合物60は、3つ以上の部材を有していてもよい。
【0048】
また、本実施の形態1におけるピン部材11、ショルダ部材12、工具固定器52、進退駆動器53、クランプ部材13、裏当て支持部55、及び回転駆動器57の具体的な構成は、前述した構成に限定されず、広く摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。例えば、ピン駆動器531及びショルダ駆動器532は、摩擦攪拌接合の分野で公知のモータ及びギア機構等で構成されていてもよい。
【0049】
また、裏当て支持部55は、本実施の形態1においては、C型ガンで構成されているが、これに限定されない。裏当て支持部55は、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を進退移動可能に支持するとともに、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13に対向する位置に裏当て部材56を支持することができれば、どのように構成されていてもよい。
【0050】
また、本実施の形態1においては、クランプ部材13を備える構成を採用したが、これに限定されず、クランプ部材13を備えていない構成を採用してもよい。この場合、例えば、クランプ部材13は、必要に応じて裏当て支持部55から着脱可能に構成されていてもよい。
【0051】
さらに、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、摩擦攪拌点接合用ロボット装置(図示せず)に配設される形態を採用している。具体的には、裏当て支持部55が、ロボット装置のアームの先端に取り付けられている。
【0052】
このため、裏当て支持部55も摩擦攪拌点接合用ロボット装置に含まれるとみなすことができる。裏当て支持部55及びアームを含めて、摩擦攪拌点接合用ロボット装置の具体的な構成は特に限定されず、多関節ロボット等、摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。
【0053】
なお、摩擦攪拌点接合装置50(裏当て支持部55を含む)は、摩擦攪拌点接合用ロボット装置に適用される場合に限定されるものではなく、例えば、NC工作機械、大型のCフレーム、及びオートリベッター等の公知の加工用機器にも好適に適用することができる。
【0054】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、二対以上のロボットが、摩擦攪拌点接合装置50における裏当て部材56以外の部分と、裏当て部材56と、を正対させるように構成されていてもよい。さらに、摩擦攪拌点接合装置50は、被接合物60に対して安定して摩擦攪拌点接合を行うことが可能であれば、被接合物60を手持ち型にする形態を採用してもよく、ロボットを被接合物60のポジショナーとして用いる形態を採用してもよい。
【0055】
[摩擦攪拌点接合装置の制御構成]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の制御構成について、
図2を参照しながら、具体的に説明する。
【0056】
図2は、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置の制御構成を模式的に示すブロック図である。
【0057】
図2に示すように、摩擦攪拌点接合装置50は、制御器51、記憶器31、入力器32、及び位置検出器33を備えている。
【0058】
制御器51は、摩擦攪拌点接合装置50を構成する各部材(各機器)を制御するように構成されている。具体的には、制御器51は、記憶器に記憶された基本プログラム等のソフトウェアを読み出して実行することにより、進退駆動器53を構成するピン駆動器531及びショルダ駆動器532と、回転駆動器57と、を制御する。
【0059】
これにより、ピン部材11及びショルダ部材12の進出移動又は後退移動の切り替え、進退移動時のピン部材11及びショルダ部材12における、先端位置の制御、移動速度、及び移動方向等を制御することができる。また、ピン部材11、ショルダ部材12及びクランプ部材13の被接合物60を押圧する押圧力を制御することができる。さらに、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数を制御することができる。
【0060】
なお、制御器51は、集中制御する単独の制御器51によって構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御する複数の制御器51によって構成されていてもよい。また、制御器51は、マイクロコンピュータで構成されていてもよく、MPU、PLC(Programmable Logic Controller)、論理回路等によって構成されていてもよい。
【0061】
記憶器31は、基本プログラム、各種データを読み出し可能に記憶するものであり、記憶器31としては、公知のメモリ、ハードディスク等の記憶装置等で構成される。記憶器31は、単一である必要はなく、複数の記憶装置(例えば、ランダムアクセスメモリ及びハードディスクドライブ)として構成されてもよい。制御器51等がマイクロコンピュータで構成されている場合には、記憶器31の少なくとも一部がマイクロコンピュータの内部メモリとして構成されてもよいし、独立したメモリとして構成されてもよい。
【0062】
なお、記憶器31には、データが記憶され、制御器51以外からデータの読み出しが可能となっていてもよいし、制御器51等からデータの書き込みが可能になっていてもよいことはいうまでもない。
【0063】
入力器32は、制御器51に対して、摩擦攪拌点接合の制御に関する各種パラメータ、あるいはその他のデータ等を入力可能とするものであり、キーボード、タッチパネル、ボタンスイッチ群等の公知の入力装置で構成されている。本実施の形態1では、少なくとも、被接合物60の接合条件、例えば、被接合物60の厚み、材質等のデータが入力器32により入力可能となっている。
【0064】
位置検出器33は、ショルダ部材12の先端(先端面12a)の位置情報を検出して、検出した位置情報を制御器51に出力するように構成されている。位置検出器33としては、例えば、変位センサ、LVDT、エンコーダー等を用いてもよい。位置検出器33として、エンコーダーを用いる場合には、当該エンコーダーは、ショルダ部材12を進退駆動させる進退駆動器53(ショルダ駆動器532)の回転角度を検出するように構成されていてもよい。また、位置検出器33として、ショルダ部材12を進退駆動させる進退駆動器53(ショルダ駆動器532)に供給される電流値を検出する電流計であってもよい。
【0065】
[摩擦攪拌点接合装置の動作(運転方法)]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50の動作について、
図3、
図4A、及び
図4Bを参照して具体的に説明する。なお、
図4A及び
図4Bにおいては、被接合物60として、第1部材61及び第2部材62を用い、これらを重ねて点接合にて連結する場合を例に挙げている。
【0066】
図3は、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4A及び
図4Bは、
図1に示す摩擦攪拌点接合装置による摩擦攪拌点接合の各工程の一例を模式的に示す工程図である。
【0067】
なお、
図4A及び
図4Bにおいては、摩擦攪拌点接合装置の一部を省略し、矢印rは、ピン部材11及びショルダ部材12の回転方向を示し、ブロック矢印Fは、第1部材61及び第2部材62に加えられる力の方向を示す。また、裏当て部材56からも第1部材61及び第2部材62に対して力が加えられているが、説明の便宜上、
図4A及び
図4Bには図示していない。さらに、ショルダ部材12には、ピン部材11及びクランプ部材13との区別を明確とするために、網掛けのハッチングを施している。
【0068】
まず、作業者(操作者)が、裏当て部材56の支持面56aに被接合物60を載置する。ついで、作業者が入力器32を操作して、制御器51に被接合物60の接合実行を入力する。なお、ロボットが、裏当て部材56の支持面56aに被接合物60を載置してもよい。
【0069】
すると、
図3に示すように、制御器51は、回転駆動器57を駆動させて、ピン部材11及びショルダ部材12を予め設定されている所定の第1回転数(例えば、200〜3000rpm)で回転させる(ステップS101;
図4Aの工程(1)参照)。
【0070】
次に、制御器51は、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)を駆動させて、ピン部材11及びショルダ部材12を回転させた状態で、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を被接合物60に接近させ、ピン部材11の先端面11a、ショルダ部材12の先端面12a、及びクランプ部材13の先端面13a(
図4A及び
図4Bには図示せず)を被接合物60の表面60c(被接合物60の被接合部)に当接させる(ステップS102;
図4Aの工程(2)参照)。
【0071】
このとき、制御器51は、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13が予め設定された所定の押圧力(例えば、3kN〜15kNの範囲に含まれる所定値)で被接合物60を押圧するように、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)を制御する。
【0072】
これにより、クランプ部材13と裏当て部材56とで第1部材61及び第2部材62が挟み込まれ、クランプ駆動器41の収縮により、クランプ部材13が被接合物60の表面60c側に付勢され、クランプ力が発生する。
【0073】
また、この状態では、ピン部材11及びショルダ部材12共に進退移動しないので、被接合物60の表面60cを「予備加熱」することになる。これにより、第1部材61の当接領域における構成材料が摩擦により発熱することで軟化し、被接合物60の表面60c近傍に塑性流動部60aが生じる。
【0074】
次に、制御器51は、ピン部材11の先端面11aがショルダ部材12の先端面12aに対して没入するように、進退駆動器53を駆動する(ステップS103)。このとき、制御器51は、ピン部材11が被接合物60から離れるように、進退駆動器53(ピン駆動器531)を駆動してもよい。また、制御器51は、ショルダ部材12が被接合物60内に圧入されるように、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)を駆動してもよい。
【0075】
これにより、ショルダ部材12の先端部が、回転した状態で、被接合物60の被接合部内に圧入される。
【0076】
次に、制御器51は、位置検出器33から、ショルダ部材12の先端の位置情報を取得する(ステップS104)。ついで、制御器51は、ステップS104で取得したショルダ部材12の先端の位置情報が、予め設定されている所定の第1位置まで到達したか否かを判定する(ステップS105)。
【0077】
ここで、第1位置は、予め実験等により設定することができ、第2部材62内の任意の位置である。より詳細には、第1位置は、第2部材62の第1部材61との当接面62aから0.3mm以下の間における任意の位置である。
【0078】
また、第1位置は、第2部材62に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜を除去して、新生面を形成させる観点から、当接面62aから0.008mm以上の位置であってもよく、当接面62aから0.01mm以上の位置であってもよい。また、第1位置は、ショルダ部材12の摩耗(損傷)を抑制する観点から、当接面62aから0.25mm以下の位置であってもよく、当接面62aから0.20mm以下の位置であってもよく、当接面62aから0.10mm以下の位置であってもよい。
【0079】
さらに、第1位置は、第2部材62に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜を除去して、新生面を形成させる観点から、第2部材62に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜から0.20mm以下の位置であってもよく、第2部材62に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜から0.10mm以下の位置であってもよい。
【0080】
これにより、ショルダ部材12の先端面12aが、第2部材62の当接面62aから0.3mm以下における任意の位置(すなわち、第1位置)にまで到達する。そして、第2部材62におけるショルダ部材12と当接している部分、及び/又は第2部材62における塑性流動部60aと当接している部分に、新生面が形成される。
【0081】
なお、塑性流動部60aの軟化した材料はショルダ部材12により押し退けられ、ショルダ部材12の直下からピン部材11の直下に流動するので、ピン部材11は後退し、ショルダ部材12に対して浮き上がる(
図4Aの工程(3)参照)。
【0082】
また、第2部材62の表面に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜を形成する不純物(例えば、亜鉛、酸化鉄等)も、ピン部材11の直下に流動する。さらに、上記不純物の一部が、ショルダ部材12先端部の外周面よりも外側に流出する。
【0083】
制御器51は、ステップS104で取得したショルダ部材12の先端の位置情報が、第1位置まで到達していないと判定した場合(ステップS105でNo)には、ステップS104に戻り、ステップS104で取得したショルダ部材12の先端部の位置情報が、第1位置まで到達したと判定するまで、ステップS104及びステップS105の処理を繰り返す。
【0084】
一方、制御器51は、ステップS104で取得したショルダ部材12の先端の位置情報が、第1位置まで到達したと判定した場合(ステップS105でYes)には、ステップS106の処理を実行する。
【0085】
なお、制御器51は、位置検出器33が、変位センサで構成されている場合には、変位センサが検出したショルダ部材12の先端の位置情報を基に、第1位置に到達したか否かを判定すればよい。
【0086】
また、制御器51は、位置検出器33が、ショルダ部材12を進退駆動させる進退駆動器53(ショルダ駆動器532)の回転角度を検出するエンコーダーで構成されている場合には、以下のようにして、第1位置に到達したか否かを判定してもよい。
【0087】
制御器51は、位置検出器33であるエンコーダーが検出した回転角度情報(速度情報)が、予め設定されている所定の第1角度よりも小さくなった場合に、ショルダ部材12の先端が第1位置に到達したと判定してもよい。
【0088】
ここで、第1角度は、予め実験等により設定することができる。例えば、第2部材62を構成する材料が第1部材61を構成する材料よりも固い材質である場合、ショルダ部材12の先端が第2部材62の表面に到達すると、ショルダ部材12の進行速度が小さくなる。このため、第1角度は、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)に入力される角度情報であってもよい。また、第1角度は、接合工程を実行中に、エンコーダーが前回(直前に)検出した角度情報であってもよい。
【0089】
また、制御器51は、位置検出器33が、ショルダ部材12を進退駆動させる進退駆動器53(ショルダ駆動器532)に供給される電流値を検出する電流計で構成されている場合には、以下のようにして、第1位置に到達したか否かを判定してもよい。
【0090】
制御器51は、位置検出器33である電流計が検出した電流値情報が、予め設定されている所定の第1電流値よりも小さくなった場合に、ショルダ部材12の先端が第1位置に到達したと判定してもよい。
【0091】
ここで、第1電流値は、予め実験等により設定することができる。例えば、第2部材62を構成する材料が第1部材61を構成する材料よりも固い材質である場合、ショルダ部材12の先端が第2部材62の表面に到達すると、ショルダ部材12の進行速度が小さくなる。このため、第1電流値は、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)に入力される電流値情報であってもよい。また、第1電流値は、接合工程を実行中に、電流計が前回(直前に)検出した電流値情報であってもよい。
【0092】
ステップS106では、制御器51は、ピン部材11が被接合物60に向かって進むように、進退駆動器53(ピン駆動器531)を駆動する、及び/又は、制御器51は、ショルダ部材12が被接合物60から離れるように、進退駆動器53(ショルダ駆動器532)を駆動する。
【0093】
具体的には、制御器51は、進退駆動器53を制御して、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aを、互いに段差がほとんど生じない程度に合わせる(面一とする)。
【0094】
これにより、ピン部材11が徐々に第1部材61に向かって進み、ショルダ部材12が第1部材61から後退する。このとき、塑性流動部60aの軟化した部分は、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)に流動する。
【0095】
そして、ピン部材11の先端面11aとショルダ部材12の先端面12aが、被接合物60の表面60c近傍まで移動する。これにより、被接合物60の表面60cが整形され、実質的な凹部が生じない程度の略平坦な面が得られる(
図4Bの工程(4)参照)。
【0096】
なお、制御器51は、ステップS103及び/又はステップS106の処理において、ピン部材11の先端面の面積をAp、ショルダ部材12の先端面の面積をAsとし、ピン部材11の圧入深さをPp、ショルダ部材12の圧入深さをPsとしたときに、次の式(I)
Ap・Pp+As・Ps=Tx ・・・ (I)
で定義されるツール平均位置Txの絶対値を小さくするように、進退駆動器53を制御することが好ましく、ツール平均位置Tx=0となるように、進退駆動器53を制御することがより好ましい。なお、ツール平均位置Txの絶対値を小さくする具体的な制御については、特開2012−196682号公報に詳細に開示されているため、ここでは、その説明を省略する。
【0097】
また、制御器51は、ステップS106の処理において、ピン部材11の先端面11aが、第1位置に位置するように、進退駆動器53を制御してもよい。この場合、制御器51は、ピン部材11の先端面11aが、第1位置に位置した後に、ピン部材11の先端面11a及びショルダ部材12の先端面12aが、面一となるように、進退駆動器53を制御してもよい。
【0098】
次に、制御器51は、ピン部材11、ショルダ部材12、及びクランプ部材13を被接合物60から離間するように、進退駆動器53を駆動させる(ステップS107)。ついで、制御器51は、回転駆動器57を制御して、ピン部材11及びショルダ部材12の回転を停止させ(ステップS108;
図4Bの工程(5)参照)、本プログラム(被接合物60の接合工程)を終了する。
【0099】
これにより、ピン部材11及びショルダ部材12の当接による回転(及び押圧)は第1部材61及び第2部材62に加えられなくなるので、塑性流動部60aでは塑性流動が停止し、塑性流動部60aと第2部材62の新生面とが接合する。
【0100】
このように構成されている、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、制御器51が、回転した状態のショルダ部材12の先端を第1位置まで到達させ、かつ、回転した状態のピン部材11を被接合物60の被接合部から後退するように、進退駆動器53及び回転駆動器57を動作させるように構成されている。
【0101】
これにより、ピン部材11とショルダ部材12が同じ回転数である場合に、ショルダ部材12を被接合部内に圧入する場合の方が、ピン部材11を被接合部内に圧入する場合に比して、周速が大きくなる。
【0102】
このため、ショルダ部材12を圧入する場合の方が、ピン部材11を圧入する場合に比して、被接合部内の塑性流動を起こさせる力が大きくなり、被接合部内への圧入速度の低下を抑制することができる。したがって、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合時間を短縮することができる。
【0103】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、制御器51が、ショルダ部材12の先端部を第2部材62の表面から0.3mm以下における任意の位置(すなわち、第1位置)にまで到達させるように、進退駆動器53を動作させるように構成されている。
【0104】
これにより、ショルダ部材12の先端面が回転した状態で、第2部材62と当接するので、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、新生面が早く形成される。このため、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合時間を短縮することができる。
【0105】
また、制御器51が、ショルダ部材12の先端が第1位置まで到達するように、制御することにより、ショルダ部材12の先端部により、第2部材62の表面に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜が除去されて、新生面が形成される。
【0106】
また、除去されたメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜を形成する不純物(例えば、亜鉛等)は、ピン部材11の直下に流動する。さらに、上記不純物の一部が、ショルダ部材12の先端部の外周面よりも外側に流出する。
【0107】
このため、塑性流動部60aの軟化した部分が、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)に流動するときに、流出した不純物の分だけ、ショルダ部材12の直下に流動する不純物の量が減少される。
【0108】
一方、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法では、プローブ(ピン部材)を圧入するため、被接合物60の軟化部位(塑性流動部60a)は、プローブにより押し退けられ、プローブの直下からショルダ部材の直下に流動し、ショルダ部材が、プローブに対して上方に移動する。このとき、第2部材62の表面に形成されているメッキ層(メッキ膜)又は酸化膜を形成する不純物(例えば、亜鉛等)も、ショルダ部材の直下に流動する。
【0109】
なお、ショルダ部材が上方に移動するため、塑性流動部60aの軟化した部分及び不純物が、ショルダ部材の先端部の外周面よりも外側にほとんど流出しない。
【0110】
このため、塑性流動部60aの軟化した部分が、ショルダ部材の直下からプローブの直下(プローブの圧入により生じた凹部)に流動するときに、プローブの直下に流動する不純物の量が減少することがない。
【0111】
したがって、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、新生面と当接する部分(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)の不純物の量を低減することができる。
【0112】
これにより、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50は、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合強度を大きくすることができる。
【0113】
また、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、ショルダ部材12が、当該ショルダ部材12の先端面12aの半径をRs、ピン部材11の先端面11aの半径をRpとしたときに、Rs>2
1/2×Rpを満たすように構成されている。換言すると、ショルダ部材12は、円環状の先端面12aの面積が、ピン部材11の円状の先端面11aの面積よりも大きくなるように構成されている。
【0114】
これにより、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合面積(新生面が形成される面積)を大きくすることができる。このため、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合強度を大きくすることができる。
【0115】
[試験例]
次に、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50及び上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法による、被接合物60の接合試験について説明する。
【0116】
(試験例1)
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、被接合物60の接合試験を実行した。なお、ショルダ部材12の目標到達位置である、第1位置を第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.05mmの位置に設定した。
【0117】
(比較例1)
比較例1として、特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法による、被接合物60の接合試験を実行した。
【0118】
具体的には、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、ステップS103の処理において、ピン部材11が被接合部内に圧入されるように、ピン駆動器531が駆動するよう、プログラムを設定した。このとき、ピン部材11の先端が、第1部材61における第2部材62との当接面(下面)から上方0.1mmの位置に位置するように、プログラムを設定した。
【0119】
また、ステップS106の処理において、ピン部材11が被接合物60から離れるように、進退駆動器53(ピン駆動器531)が駆動するよう、プログラムを設定した。
【0120】
(接合条件1)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、0.7mmの270MPa級非メッキの鋼板を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を1000rpmとした。
【0121】
そして、比較例1及び試験例1の摩擦攪拌点接合装置により、接合した被接合物60をそれぞれ、引張せん断試験(JIS Z 3136)と、十字引張試験(JIS Z 3137)と、を実行した。
【0122】
(接合条件2)
第1部材61として、3mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、0.7mmの270MPa級非メッキの鋼板を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を1000rpmとした。
【0123】
(試験結果1)
図5は、比較例1及び試験例1の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件1で摩擦攪拌点接合した被接合物の引張せん断試験と十字引張試験の結果を示すグラフである。
【0124】
また、
図6は、比較例1の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件1で摩擦攪拌点接合した被接合物の断面写真と、試験例1の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件1及び接合条件2で摩擦攪拌点接合した被接合物の断面写真である。
【0125】
図5に示すように、比較例1の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件1で摩擦攪拌点接合した被接合物60の引張せん断強度は、1345Nで、十字引張強度は、84Nであった。一方、試験例1の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件1で摩擦攪拌点接合した被接合物60の引張せん断強度は、3381Nで、十字引張強度は、1219Nであった。
【0126】
これらの結果から、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50では、上記特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法に比して、接合強度を十分に大きくすることができることが示された。
【0127】
また、
図6に示すように、被接合物60の第1部材61の厚みを3mmと大きくしても、十分に塑性流動させることができ、第1部材61と第2部材62を接合することができることが示された。
【0128】
(試験例2)
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、種々の被接合物60の接合試験を実行した。なお、ショルダ部材12の目標到達位置である、第1位置を第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.05mmの位置に設定した。
【0129】
(接合条件3)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、0.7mmの270MPa級非メッキの鋼板を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を1000rpmとした。
【0130】
(接合条件4)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、1.2mmの270MPa級溶融亜鉛メッキ鋼板(GI)を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を1000rpmとした。
【0131】
(接合条件5)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、1.2mmの270MPa級合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を1500rpmとした。
【0132】
(接合条件6)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、1.2mmの980MPa級非メッキの鋼板を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を2000rpmとした。
【0133】
(接合条件7)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、1.2mmの980MPa級合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を2000rpmとした。
【0134】
そして、試験例3の摩擦攪拌点接合装置により、接合した被接合物60をそれぞれ、引張せん断試験(JIS Z 3136)を実行した。
【0135】
(試験結果2)
図7は、試験例2の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件3〜7で摩擦攪拌点接合した被接合物の引張せん断試験の結果を示すグラフである。
【0136】
また、
図8は、試験例2の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件3〜7で摩擦攪拌点接合した被接合物の断面写真である。
【0137】
図7及び
図8に示すように、試験例2の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件3〜6で摩擦攪拌点接合した被接合物60の引張せん断強度は、3.0kN以上となり、各種の鋼板を用いても、接合強度を十分に大きくすることができることが示された。
【0138】
なお、本発明者らは、第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、アルミニウムシリコンメッキホットスタンプ鋼板を用いて、第1回転数を2000rpmとして、被接合物60の接合試験を実行した結果、被接合物60を接合できることを確認している(data not shown)。
【0139】
(試験例3)
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、被接合物60の接合試験を実行した。なお、ショルダ部材12の目標到達位置である、第1位置を第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.2mmの位置に設定した。
【0140】
(接合条件8)
第1部材61として、2.5mmのAl−Si−Mg系合金(AC4C)を用い、第2部材62として、270MPa級非メッキの鋼板を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を1500rpmとした。
【0141】
そして、試験例3の摩擦攪拌点接合装置により、接合した被接合物60について、引張せん断試験(JIS Z 3136)と、十字引張試験(JIS Z 3137)と、を実行した。
【0142】
(試験結果3)
図9Aは、試験例3の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件8で摩擦攪拌点接合した被接合物の引張せん断試験と十字引張試験の結果を示すグラフである。また、
図9Bは、試験例3の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件8で摩擦攪拌点接合した被接合物の断面写真である。
【0143】
図9A及び
図9Bに示すように、第1部材61として、Al−Si−Mg系合金(AC4C)を用いても、十分な接合強度で被接合物60を接合できることが示された。
【0144】
(試験例4)
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、被接合物60の接合試験を実行した。なお、ショルダ部材12の目標到達位置である、第1位置を第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.1mmの位置に設定した。また、第1部材61と第2部材62との当接面にシーラント材(接着剤)を塗布した。
【0145】
(接合条件9)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、0.7mmの270MPa級非メッキの鋼板を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を1000rpmとした。
【0146】
(試験結果4)
図10は、試験例4の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件9で摩擦攪拌点接合した被接合物の断面写真である。なお、
図10に示す接合範囲とは、ピン部材11及びショルダ部材12が、被接合物60の上面と当接する部分をいう。
【0147】
図10に示すように、第1部材61と第2部材62との当接面に塗布したシーラント材(接着剤)は、ピン部材11の直下に多く存在していることが示された。
【0148】
これにより、ステップS106を実行することにより、塑性流動部60aの軟化した部分が、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)に流動しても、シーラント材は、ショルダ部材12の直下(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)に流動せずに、ピン部材11の直下に残留(滞留)することが示唆された。
【0149】
(試験例5)
本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、被接合物60の接合試験を実行した。なお、ショルダ部材12の目標到達位置である、第1位置を第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.1mmの位置に設定した。また、ステップS105でショルダ部材12の先端が第1位置に到達すると、ピン部材11及びショルダ部材12を上方に引き上げて、接合試験を停止させた。
【0150】
(比較例2)
比較例2として、特許文献1に開示されている異種金属部材の接合方法による、被接合物60の接合試験を実行した。
【0151】
具体的には、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50を用いて、ステップS103の処理において、ピン部材11が被接合部内に圧入されるように、ピン駆動器531が駆動するよう、プログラムを設定した。このとき、ピン部材11の先端が、第1位置を第2部材62における第1部材61との当接面(上面)から下方0.1mmに位置するように、プログラムを設定した。
【0152】
また、試験例5と同様に、ステップS105でピン部材11の先端が第1位置に到達すると、ピン部材11及びショルダ部材12を上方に引き上げて、接合試験を停止させた。
【0153】
(接合条件10)
第1部材61として、1mmのアルミニウム板(A6061)を用い、第2部材62として、1.2mmの270MPa級溶融亜鉛メッキ鋼板(GI)を用いた。また、ピン部材11及びショルダ部材12の回転数である、第1回転数を1000rpmとした。
【0154】
(試験結果5)
図11は、比較例2及び試験例5の摩擦攪拌点接合装置を用いて、接合条件10で摩擦攪拌点接合した被接合物の断面写真である。なお、
図11において、ピン部材を破線により模式的に示し、ショルダ部材を一点鎖線により模式的に示す。
【0155】
図11に示すように、比較例2の摩擦攪拌点接合装置を用いて、被接合物60を摩擦攪拌点接合した場合には、塑性流動部60aの軟化した部分は、ピン部材11により押し退けられ、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下に流動する。このとき、第2部材62の表面に形成されているメッキ層(メッキ膜)を形成する不純物(例えば、亜鉛等)も、ショルダ部材12の直下に流動することが示された。
【0156】
なお、
図11において、第1部分61における右側のショルダ部材12の直下部分は、ショルダ部材12に付着(凝着)して、破断したものと推察される。
【0157】
一方、試験例5の摩擦攪拌点接合装置を用いて、被接合物60を摩擦攪拌点接合した場合には、塑性流動部60aの軟化した部分は、ショルダ部材12により押し退けられ、ショルダ部材12の直下からピン部材11の直下に流動する。
【0158】
このとき、第2部材62の表面に形成されているメッキ層(メッキ膜)を形成する不純物(例えば、亜鉛等)の大部分が、ピン部材11の直下に流動することが示された。また、不純物の一部が、ショルダ部材12の先端部の外周面よりも外側に流出することが示された。
【0159】
このため、塑性流動部60aの軟化した部分が、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下(ショルダ部材12の圧入により生じた凹部)に流動するときに、流出した不純物の分だけ、ショルダ部材12の直下に流動する不純物の量が減少することが示唆された。
【0160】
また、上記試験例4の結果(試験結果4)を考慮すると、ピン部材11の直下に流動した不純物は、塑性流動部60aの軟化した部分が、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下に流動するときに、ピン部材11の直下に残留(滞留)するものと考察される。
【0161】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良又は他の実施形態が明らかである。したがって、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の形態を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。
本発明に係る摩擦攪拌点接合装置は、ピン部材(11)と、ショルダ部材(12)と、回転駆動器(57)と、進退駆動器(53)と、回転した状態のショルダ部材(12)の先端を第2部材(62)内における予め設定されている所定の第1位置まで到達させ、かつ、回転した状態のピン部材(11)を被接合物(60)の被接合部から後退するように、進退駆動器(53)及び回転駆動器(57)を動作させるように構成されている、制御器(51)と、を備える。