【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス https://endai.umin.ac.jp/cgi−open−bin/hanyou/lookup/detail.cgi?cond=%27A00018−00058−20169%27&&&parm=a00018−00058 掲載日 平成29年3月13日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の実施形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0029】
以下、本発明の技術思想について説明する。ただし、以下の説明は本発明の理解を助けるための例示であり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0030】
〔1.腎機能の低下の可能性を判定するための判定方法、およびデータの取得方法〕
本発明の一実施形態に係る腎機能の低下の可能性を判定するための判定方法(以下「判定方法」とも表記する)は、被験体から採取したサンプル中における、Galβ1−3GalNAcのレベルを決定する工程(以下「Galβ1−3GalNAcレベル決定工程」とも表記する)および/またはSiaα2−6Gal/GalNAcのレベルを決定する工程(以下「Siaα2−6Gal/GalNAcレベル決定工程」とも表記する)を含む。上記本発明の一実施形態に係る判定方法によれば、上記サンプル中におけるGalβ1−3GalNAcおよび/またはSiaα2−6Gal/GalNAcのレベルに基づいて、腎機能の低下の可能性を判定することができる。
【0031】
また本発明の一実施形態において、上記判定は、Galβ1−3GalNAcおよび/またはSiaα2−6Gal/GalNAcのレベルと基準値とを比較するものである。上記基準値は、医学的手法、統計学的手法など(より具体的には、本明細書に援用されている参照文献、および本明細書に記載されている実施例を参照)により、適宜定めることができる。
【0032】
上記基準値として、複数の基準値を定めることができる。例えば、被験体の条件(性別、年齢など)に応じて、上記基準値を使い分けてもよい。あるいは、「腎機能が低下する可能性がより高い第1の基準値」、「腎機能が低下する可能性がより低い第2の基準値」のように、腎機能が低下する可能性の高さと、複数の基準値とを関連付けてもよい。このような基準値に基づけば、医師でなくても被験体の腎機能が低下する可能性を判定することができる。
【0033】
例えば、本発明の一実施形態において、上記判定方法によれば、Galβ1−3GalNAcのレベルが基準値以上である場合、腎機能が低下する可能性が高い、と判定することができる。他の実施形態において、上記判定方法によれば、Galβ1−3GalNAcのレベルが高ければ高いほど、腎機能が低下する可能性が高い、と判定することができる。
【0034】
また本発明の一実施形態において、上記判定方法によれば、Galβ1−3GalNAcのレベルが基準値以下である場合、腎機能が低下する可能性が低い、と判定することができる。他の実施形態において、上記判定方法によれば、Galβ1−3GalNAcのレベルが低ければ低いほど、腎機能が低下する可能性が低い、と判定することができる。
【0035】
本発明の一実施形態に係る判定方法は、糖鎖のレベルと、糖鎖のレベル以外の因子とを組み合わせることができる。すなわち、年齢、性別、BMI、平均動脈圧、HbA1c、推定糸球体濾過量(eGFR:estimated glomerular filtration rate)、尿中アルブミン排泄量(UACR:urinary albumin-to-creatinine ratio)などの因子と、糖鎖のレベルとを組み合わせて、腎機能の低下の可能性をより正確に判定することができる(例えば、実施例を参照)。
【0036】
ここで、本発明の一実施形態に係る判定方法の本質は、サンプル中におけるGalβ1−3GalNAc、Siaα2−6Gal/GalNAcなどの糖鎖のレベルを含むデータを、上記サンプルから取得することにある。したがって、本発明の一態様に係る「腎機能の低下を予測するための判定方法」は、「腎機能の低下を予測するためのデータの取得方法」でもあり得る。つまり、本明細書に記載の用語「腎機能の低下を予測するための判定方法」は、用語「腎機能の低下を予測するためのデータの取得方法」と置換可能である。
【0037】
[1−1.Galβ1−3GalNAcレベル決定工程、およびSiaα2−6Gal/GalNAcレベル決定]
本発明の一実施形態に係る判定方法は、Galβ1−3GalNAcレベル決定工程および/またはSiaα2−6Gal/GalNAcレベル決定を含む。以下、それぞれについて説明する。
【0038】
[1−1−1.Galβ1−3GalNAcレベル決定工程]
Galβ1−3GalNAcレベル決定工程における測定対象であるGalβ1−3GalNAc(「Core O-glycan」とも称される)は、腎組織などの生体組織において、様々な物質(例えば、タンパク質、脂質など)に結合して存在している糖鎖である。Galβ1−3GalNAcは、切断されて様々な物質から遊離し、被験体から採取されたサンプル中に存在することもある。
【0039】
本発明者らは、まず、特定の時間で腎疾患を患う患者に由来するサンプル中に存在する糖鎖の種類を調べ、その後、当該患者における腎疾患の進行状況を追跡した。その結果、腎疾患が将来的に悪化する患者では、上記サンプル中のGalβ1−3GalNAcの量が多いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0040】
よって、本発明の一実施形態に係る判定方法は、被検体由来のサンプル中のGalβ1−3GalNAcの量を測定することによって、Galβ1−3GalNAcレベル決定工程が達成されるといえる。ただし、本発明の一実施形態に係る判定方法は、上記工程に限定されず、例えば、被験体由来のサンプル中のGalβ1−3GalNAcの産生に関わるタンパク質、Galβ1−3GalNAcの切断に関わるタンパク質、またはGalβ1−3GalNAcの変換に関わるタンパク質のレベルを決定することによっても、Galβ1−3GalNAcレベル決定工程を達成することが可能であることも理解できる。
【0041】
つまり、本発明の一実施形態に係る判定方法は、被験体から採取したサンプル中における、Galβ1−3GalNAcの産生に関わるタンパク質のレベルを決定する工程を含む方法であってもよい。また、本発明の他の実施形態に係る判定方法は、被験体から採取したサンプル中における、Galβ1−3GalNAcの切断に関わるタンパク質のレベルを決定する工程を含む方法であってもよい。本発明のさらに他の実施形態に係る判定方法は、被験体から採取したサンプル中における、Galβ1−3GalNAcの変換に関わるタンパク質のレベルを決定する工程を含む方法であってもよい。ここで、「Galβ1−3GalNAcの変換に関わる」とは、Galβ1−3GalNAcの一部分を切断すること、および/または、Galβ1−3GalNAcに他の物質を付加すること、などを意図する。
【0042】
上記Galβ1−3GalNAcの産生に関わるタンパク質としては、例えば、polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase 1(GALNT1 別名:GALNAC-T1)、polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase 2(GALNT2 別名:GalNAc-T2)、polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase 3(GALNT3 別名:GalNAc-T3, HFTC, HHS)、core 1 synthase, glycoprotein-N-acetylgalactosamine 3-beta-galactosyltransferase 1(C1GALT1 別名:C1GALT, T-synthase)、C1GALT1 specific chaperone 1 (C1GALT1C1 別名:C1GALT2, C38H2-L1, COSMC, HSPC067, MST143, TNPS)、glucosaminyl (N-acetyl) transferase 1, core 2(GCNT1 別名:C2GNT, C2GNT-L, C2GNT1, G6NT, NACGT2, NAGCT2)が挙げられる(表1を参照)。
【0044】
上記Galβ1−3GalNAcの切断に関わるタンパク質としては、例えば、alpha-N-acetylgalactosaminidase(NAGA 別名:D22S674, GALB)が挙げられる(表2を参照)。
【0046】
上記Galβ1−3GalNAcの変換に関わるタンパク質としては、例えば、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 2(ST3GAL2、別名:Gal-NAc6S, SIAT4B, ST3GALII, ST3GalA.2)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 1 (ST3GAL1、別名:Gal-NAc6S, SIAT4A, SIATFL, ST3GalA, ST3GalA.1, ST3GalIA, ST3GalIA,1, ST3O)、ST8 alpha-N-acetyl-neuraminide alpha-2,8-sialyltransferase 5(ST8SIA5 別名:SIAT8-E, SIAT8E, ST8SiaV)、ST6 N-acetylgalactosaminide alpha-2,6-sialyltransferase 3(ST6GALNAC3 別名: PRO7177, SIAT7C, ST6GALNACIII, STY)、ST6 N-acetylgalactosaminide alpha-2,6-sialyltransferase 4(ST6GALNAC4 別名:IV, SIAT3-C, SIAT3C, SIAT7-D, SIAT7D, ST6GALNACIV, ST6GalNAc)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 5(ST3GAL5 別名:SATI, SIAT9, SIATGM3S, SPDRS, ST3GalV)、ST8 alpha-N-acetyl-neuraminide alpha-2,8-sialyltransferase 1(ST8SIA1 別名:GD3S, SIAT8, SIAT8-A, SIAT8A, ST8SiaI)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 4(ST3GAL4 別名:CGS23, NANTA3, SAT3, SIAT4, SIAT4C, ST-4, ST3GalA.2, ST3GalIV, STZ, gal-NAc6S)、Endo-alpha-N-acetylgalactosaminidase(SAPIO_CDS0469)が挙げられる(表3を参照)。
【0048】
なお、上記に列挙したタンパク質には、複数の名称および/または略称が存在する場合がある。これらを同定するためには、UniProtKB、KEGG、CATH、PubMed、PDBなどのデータベースを使用することができる。
【0049】
上記タンパク質のレベルは、例えば、上記タンパク質をコードするmRNAの発現量、上記タンパク質の発現量、上記mRNAまたはタンパク質の濃度、上記タンパク質の力価(例えば酵素活性)などでありうる。これらの値は、常法(例えば免疫染色法)によって測定することができる。
【0050】
なお、本発明の一実施形態において、Galβ1−3GalNAcレベル決定工程は、in vitroに行われえる工程である。
【0051】
本明細書において「Galβ1−3GalNAcのレベルを決定する」とは、上記糖鎖のレベルの決定は、サンプル中に含まれる当該糖鎖の濃度の数量化を伴うものでありうる。このようなレベルの決定方法としては、レクチンを用いた結合活性測定(レクチンアッセイ)、液体クロマトグラフィー、質量分析、ELISA、二次元電気泳動法、プロテインアレイ、ビーズアッセイ、フローサイトメトリー、バイオプレックス(登録商標)などが挙げられる。また、他の態様においては、上記糖鎖に関する任意の指標を、序列の中に位置づけることを意味する。つまり、糖鎖のレベルの決定は、数量化を伴わないものでありうる。このようなレベルの決定方法としては、例えば、「全く糖鎖が存在しない」または「糖鎖が存在する」のいずれかに分類する方法が挙げられる。
【0052】
このうち、レクチンアッセイによるレベルの決定方法は、サンプルの下処理が容易であるとの観点から、好ましい。特にサンプルとして尿サンプルを用いる場合は、尿サンプルの濃縮、サンプル中に多く含まれるタンパク質(アルブミン、IgGなど)の除去などの工程が不要であるため、より好ましい。
【0053】
レクチンアッセイによってGalβ1−3GalNAcのレベルを決定する場合は、Galβ1−3GalNAcとの結合活性を有するレクチンを用いることが好ましい。このようなレクチンとしては、MPA(Maclura pomifera Agglutinin;アメリカハリグワレクチン)、ACA(Amaranthus Caudatus Agglutinin;センニンコクレクチン)、ABA(Agarucus bisporus Agglutinin;マッシュルームレクチン)、Jacalin(Jackfruit Lectin;ジャックフルーツレクチン)、BPL(Bauhinia Purpurea Lectin;ムラサキモクワンジュレクチン)、PNA(Peanut Agglutinin;ピーナッツレクチン)を挙げることができる。なお、これらのレクチンは従来公知のレクチンであり、そのアミノ酸配列情報は各種データベースより入手可能である。
【0054】
上記Galβ1−3GalNAcレベル決定工程は、Galβ1−3GalNAcに特異的に結合するレクチンを用いて、当該レクチンに結合する糖鎖のレベルを決定する工程でありえる。また上記Galβ1−3GalNAcレベル決定工程は、MPA、ACA、ABAおよびJacalinからなる群より選択される少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、または4つ)のレクチンに結合する糖鎖のレベルを決定する工程でありえる。
【0055】
なお、糖鎖の構造は、当該糖鎖が、どのようなレクチンと結合するかによって特定することができる。したがって、例えば、「ABAと結合する糖鎖のレベルを決定する工程」とは、「ABAと結合する特定の構造を有する糖鎖のレベルを決定する工程」であればよい。換言すれば、「ABAと結合する糖鎖のレベルを決定する工程」は、レクチンアッセイによる必要はない。レクチンアッセイ以外の方法としては、例えば、液体クロマトグラフィー、質量分析、ELISA、二次元電気泳動法、プロテインアレイ、ビーズアッセイ、フローサイトメトリー、バイオプレックス(登録商標)などが挙げられる。
【0056】
[1−1−2.Siaα2−6Gal/GalNAcレベル決定工程]
Siaα2−6Gal/GalNAcレベル決定工程における測定対象であるSiaα2−6Gal/GalNAcは、Galβ1−3GalNAcと同様に、腎組織などの生体組織において、様々な物質(例えば、タンパク質、脂質など)に結合して存在している糖鎖である。Siaα2−6Gal/GalNAcもまた、切断されて様々な物質から遊離し、被験体から採取されたサンプル中に存在することもある。本発明者らは、腎疾患が将来的に悪化する患者では、上記サンプル中のSiaα2−6Gal/GalNAcの量が多いことをもまた見出し、本発明を完成させるに至った。
【0057】
Siaα2−6Gal/GalNAcレベル決定工程に関する説明は、上記Galβ1−3GalNAcレベル決定工程に関する説明を援用することができる。
【0058】
Siaα2−6Gal/GalNAcを有する糖タンパク質の例としては、alpha 2-HS glycoprotein (AHSG 別名:fetuin-A)、Orosomucoid 2(ORM2 別名:AGP-B, AGP-B', AGP2)、alpha-1-microglobulin/bikunin precursor(AMBP 別名:A1M, EDC1, HCP, HI30, IATIL, ITI, ITIL, ITILC, UTI)、serotransferrin (TF 別名:SRPRB)、haptoglobin(HP 別名:BP2ALPHA2, HPA1S)、Alpha-2-macroglobulin(A2M 別名:A2MD, CPAMD5, FWP007, S863-7)、Apolipoprotein A-I(Apoa1 別名:Alp-1, Apoa-1, Brp-14, Ltw-1, Lvtw-1, Sep-1, Sep-2, Sep2, apo-AI, apoA-I)、Hemopexin(HPX 別名:HX)、Complement C4A(C4A 別名:C42, C4A3, C4A4, C4A6, C4AD, C4S, CO4, CPAMD2, RG)、Ceruloplasmin(CP 別名:CP-2)、serpin family G member 1 (SERPING1 別名: C1IN, C1INH, C1NH, HAE1, HAE2)、alpha-1-B glycoprotein(A1BG)、Prostaglandin-H2 D-isomerase(MNEG_8879)、Angiotensinogen(AGT 別名:ANHU, SERPINA8)、serpin family C member 1(SERPINC1 別名:AT3)、kininogen 1(KNG1 別名:BDK, BK, KNG)、N-acetylmuramoyl-L-alanine amidase(amiC 別名:b2817, ECK2813, JW5449, ygdN)、Complement C3(C3 別名:AHUS5, ARMD9, ASPa, C3b, CPAMD1, HEL-S-62p)、coagulation factor II, thrombin(F2 別名:PT, RPRGL2, THPH1)、GC, vitamin D binding protein(GC 別名:DBP, DBP/GC, GRD3, Gc-MAF, GcMAF, HEL-S-51, VDBG, VDBP)、microtubule associated scaffold protein 1(MTUS1 別名:ATBP, ATIP, ATIP3, ICIS, MP44, MTSG1)、Insulin-like growth factor binding protein-3(IGFBP3 別名:BP-53, IBP3)、progestagen associated endometrial protein(PAEP 別名:GD, GdA, GdF, GdS, PAEG, PEP, PP14)、core 1 synthase, glycoprotein-N-acetylgalactosamine 3-beta-galactosyltransferase 1(C1GALT1 別名:C1GALT, T-synthase)、C1GALT1 specific chaperone 1 (C1GALT1C1 別名:C1GALT2, C38H2-L1, COSMC, HSPC067, MST143, TNPS)、glucosaminyl (N-acetyl) transferase 1, core 2(GCNT1 別名:C2GNT, C2GNT-L, C2GNT1, G6NT, NACGT2, NAGCT2)が挙げられる(表4、5を参照)。
【0061】
Siaα2−6Gal/GalNAcの変換に関わるタンパク質の例としては、ST6 beta-galactoside alpha-2,6-sialyltransferase 1(ST6GAL1 別名:SIAT1, ST6GalI, ST6N)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 1 (ST3GAL1、別名:Gal-NAc6S, SIAT4A, SIATFL, ST3GalA, ST3GalA.1, ST3GalIA, ST3GalIA,1, ST3O)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 3(ST3GAL3 別名:EIEE15, MRT12, SIAT6, ST3GALII, ST3GalIII, ST3N)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 4(ST3GAL4 別名:CGS23, NANTA3, SAT3, SIAT4, SIAT4C, ST-4, ST3GalA.2, ST3GalIV, STZ, gal-NAc6S)、ST6 N-acetylgalactosaminide alpha-2,6-sialyltransferase 1(ST6GALNAC1 別名:HSY11339, SIAT7A, ST6GalNAcI, STYI)、ST6 N-acetylgalactosaminide alpha-2,6-sialyltransferase 2(ST6GALNAC2 別名:SAITL1, SIAT7, SIAT7B, SIATL1, ST6GalNAII, STHM)、ST6 N-acetylgalactosaminide alpha-2,6-sialyltransferase 3(ST6GALNAC3 別名:PRO7177, SIAT7C, ST6GALNACIII, STY)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 5(ST3GAL5 別名:SATI, SIAT9, SIATGM3S, SPDRS, ST3GalV)、ST8 alpha-N-acetyl-neuraminide alpha-2,8-sialyltransferase 1(ST8SIA1 別名:GD3S, SIAT8, SIAT8-A, SIAT8A, ST8SiaI)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 2(ST3GAL2 別名:Gal-NAc6S, SIAT4B, ST3GALII, ST3GalA.2)、ST8 alpha-N-acetyl-neuraminide alpha-2,8-sialyltransferase 2(ST8SIA2 別名:HsT19690, SIAT8-B, SIAT8B, ST8SIA-II, ST8SiaII, STX)、ST8 alpha-N-acetyl-neuraminide alpha-2,8-sialyltransferase 3(ST8SIA3 別名:SIAT8C, ST8SiaIII)、ST8 alpha-N-acetyl-neuraminide alpha-2,8-sialyltransferase 4(ST8SIA4 別名:PST, PST1, SIAT8D, ST8SIA-IV)が挙げられる(表6、7を参照)。
【0064】
なお、上記に列挙したタンパク質には、複数の名称および/または略称が存在する場合に、これらを同定するためには、上述したデータベースを使用することができる。
【0065】
レクチンアッセイによってSiaα2−6Gal/GalNAcのレベルを決定する場合は、Siaα2−6Gal/GalNAcとの結合活性を有するレクチンを用いることが好ましい。このようなレクチンとしては、SSA(Sambucus sieboldiana lectin;ニホンニワトコレクチン)、SNA(Sambucus nigra agglutinin;セイヨウニワトコレクチン)、TJA−I(Trichosanthes japonica agglutinin I lectin;キカラスウリレクチン-I)を挙げることができる。これらのレクチンは従来公知のレクチンであり、そのアミノ酸配列情報は各種データベースより入手可能である。
【0066】
もちろん、「SSA、SNAおよび/またはTJA−Iとの結合活性を有する糖鎖」のレベルを決定できるのであれば、Siaα2−6Gal/GalNAcレベル決定工程はレクチンアッセイには限定されない。
【0067】
後述する実施例において示されているように、被験体のサンプルにおけるSiaα2−6Gal/GalNAcのレベルは、既存のバイオマーカーと組み合わせることにより、腎機能の低下を予測する有力なバイオマーカーとなりうる。
【0068】
[1−2.その他の糖鎖レベル決定工程]
本発明の一実施形態に係る判定方法は、上記Galβ1−3GalNAcレベル決定工程および/またはSiaα2−6Gal/GalNAcレベル決定工程の他に、被験体から採取したサンプル中における、その他の糖鎖レベルを決定する工程を含んでよい。具体的には、本発明の一実施形態に係るデータの取得方法は、α−GalNAc、GalαまたはGal1α1−3Galのレベルを決定する工程(以下、それぞれ「α−GalNAc決定工程」、「Galαレベル決定工程」、「Gal1α1−3Gal」とも表記する)を含んでもよい。これらの工程は、1つのみを含んでもよいし、2つまたは3つを含んでもよい。上述の工程の説明については、Galβ1−3GalNAcレベル決定工程の説明を援用することができる。
【0069】
α−GalNAcの産生、切断または変換に関わるタンパク質としては、Gcプロテイン、UDP-N-acetyl-α-D-galactosamine(UDP-GalNAc)、α-GalNAc-ase、exostosin like glycosyltransferase 2(EXTL2 別名:EXTR2)、glucuronylneolactotetraosylceramide(α−GalNAc転移酵素の基質)が挙げられる(表8を参照)。
【0071】
Galαの産生、切断または変換に関わるタンパク質としては、insulin like growth factor 2 receptor(IGF2R 別名:CD222, CI-M6PR, CIMPR, M6P-R, M6P/IGF2R, MPR 300, MPR1, MPR300, MPR)が挙げられる(表9を参照)。
【0073】
Gal1α1−3Gal(α−Gal)の産生、切断または変換に関わるタンパク質としては、alpha 1-3-N-acetylgalactosaminyltransferase and alpha 1-3-galactosyltransferase(ABO 別名:A3GALNT, A3GALT1, GTB, NAGAT)、mannosyl (beta-1,4-)-glycoprotein beta-1,4-N-acetylglucosaminyltransferase(MGAT3 別名:GNT-III, GNT3)、ST6 beta-galactoside alpha-2,6-sialyltransferase 1(ST6GAL1 別名:SIAT1, ST6GalI, ST6N)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 3(ST3GAL3 別名:EIEE15, MRT12, SIAT6, ST3GALII, ST3GalIII, ST3N)が挙げられる(表10を参照)。
【0075】
なお、上記に列挙したタンパク質には、複数の名称および/または略称が存在する場合に、これらを同定するためには、上述したデータベースを使用することができる。
【0076】
レクチンアッセイによってα−GalNAc、GalαまたはGal1α1−3Galのレベルを決定する場合は、それぞれα−GalNAc、GalαまたはGal1α1−3Galとの結合活性を有するレクチンを用いることが好ましい。α−GalNAcとの結合活性を有するレクチンとしては、VVA(Vicia villosa Lectin;ヘアリーベッチレクチン)、HPA(エスカルゴレクチン;Helix pomatia Agglutinin)、MPA(Maclura pomifera Agglutinin;アメリカハリグワレクチン)PTL_I(Psophocarpus Tetragonolobus Lectin-I;シカクマメレクチン)、GSL_I_A4(Griffonia Simplicifolia Lectin I A4;バンデリアマメレクチンI A4)、GSL_I_B4(Griffonia Simplicifolia Lectin I B4;バンデリアマメレクチンI B4)を挙げることができる。Galαとの結合活性を有するレクチンとしては、PTL_I(上述)、GSL_I_A4(上述)、GSL_I_B4(上述)を挙げることができる。Gal1α1−3Galとの結合活性を有するレクチンとしては、EEL(Euonymus europaeus Lectin;スピンドルツリーレクチン)を挙げることができる。これらのレクチンは従来公知のレクチンであり、そのアミノ酸配列情報は各種データベースより入手可能である。
【0077】
後述する実施例において示したごとく、VVA、EELおよびGSL_I_B4への結合シグナルの増加が、将来の腎機能の低下と負の相関関係にあることを本発明者らは見出した。また、上述のレクチンへの結合シグナルと、Galβ1−3GalNAcおよび/またはSiaα2−6Gal/GalNAcのレベルとを組み合わせることによって、将来の腎機能の低下の可能性を予測する精度は、有意に上昇する。さらに、上述のレクチンへの結合シグナルと、糖鎖のレベル以外の因子と組み合わせることによっても、将来の腎機能の低下の可能性を予測する精度は、有意に上昇する。それ故、上述のレクチンに結合する糖鎖のレベルを決定する工程が含まれることによって、将来の腎機能低下の予測の精度がさらに高まる可能性が期待される。同様の理由により、α−GalNAc、GalαおよびGalα1−3Galからなる群より選択される少なくとも1種類のレベルを決定する工程が含まれることによっても、将来の腎機能低下の予測の精度がさらに高まる可能性が期待される。
【0078】
[1-3.被験体]
本明細書において、「被験体」とは、ヒトに限定されない。本発明の一実施形態に係る判定方法は、非ヒト哺乳動物に対しても適用することができる。上記非ヒト哺乳動物としては、偶蹄類(ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、奇蹄類(ウマなど)、齧歯類(マウス、ラット、ハムスター、リスなど)、ウサギ目(ウサギなど)、食肉類(イヌ、ネコ、フェレットなど)などが挙げられる。上述した非ヒト哺乳動物には、家畜またはコンパニオンアニマル(愛玩動物)に加えて、野生動物も包含される。
【0079】
特に、Galβ1−3GalNAcおよびSiaα2−6Gal/GalNAcは糖鎖であるため、タンパク質および核酸よりも、種間における構造の相違が小さい。したがって、上述した非ヒト哺乳動物の間ならば、本発明の一実施形態に係る判定方法は充分に有効であると考えられる。
【0080】
上記被験体は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満症および脂肪肝からなる群より選択される1種類以上の疾患に罹患している被験体であることが好ましい。また、上記被験体は、糖尿病に罹患し、かつ、高血圧、脂質異常症、肥満症、脂肪肝からなる群より選択される1種類以上の疾患を合併している被験体であることが、より好ましい。これは、糖タンパク質または糖脂質からの、Galβ1−3GalNAcおよびSiaα2−6Gal/GalNAcの切断は上述した疾患において亢進され、α−GalNAc、GalαおよびGalα1−3Galの切断は上述した疾患において減弱するためである。
【0081】
本明細書において、「糖尿病」とは、血液中または血漿中のグルコース濃度が持続的に上昇している状態によって特徴づけられる疾患全般を意図する。すなわち、上記疾患には、高血糖症も含まれる。一実施形態において、上記糖尿病は、1型糖尿病または2型糖尿病である。
【0082】
[1−4.サンプル]
本明細書において、「サンプル」とは、被験体から採取されるもの全般を意図し、特に限定されない。上記サンプルには、血液、脳脊髄液、リンパ液、母乳、唾液、鼻汁、汗、尿、便、呼気などに加えて、病理標本由来の組織可溶化物、生組織可溶化物、細胞可溶化物なども包含される。
【0083】
本発明の一実施形態において、上記サンプルは、尿である。尿をサンプルとすることは、生検材料として一般的である点、腎機能に関する他の指標も同時に調査できる点、(特にヒトを被験体とする場合に)採取が容易である点などにおいて、好ましい。後述する実施例で示されているように、被験体がヒトの場合では、尿中のGalβ1−3GalNAcは腎機能の低下を予測する特に有力なマーカーとなるため、特に好ましい。
【0084】
また本発明の一実施形態において、上記サンプルは、血液である。血液をサンプルとすることは、生検材料として一般的である点、腎機能に関する他の指標も同時に調査できる点、(一般的に)採取が容易である点などにおいて、好ましい。
【0085】
また本発明の一実施形態において、上記サンプルは、腎組織である。例えば、腎生検などにより採取された腎組織サンプルに対してレクチンを作用させるによって、上記レクチンに対応する糖鎖の分布を可視化すること、および、上記レクチンに対応する糖鎖の発現量を測定することができる(この方法を「レクチンヒストケミストリー」とも称する)。これにより、腎機能の低下を予測するのみならず、腎疾患の診断、治療効果の判定なども同時に行うことができる。
【0086】
[1−5.腎機能の低下を予測する]
本発明の一実施形態に係る判定は、腎機能の低下を予測するためのデータの取得方法ともいえる。
【0087】
本明細書において、「腎機能の低下」とは、基準時(例えば、サンプル採取時)から一定期間後において、腎臓に関連する機能のうち少なくとも1つ以上が、通常予想されるよりも低下している状態を意図する。このような状態には、例えば、以下の類型が包含される。
1.通常ならば維持されている腎機能が、低下している。
2.通常ならば低下する腎機能が、通常予想されるよりも大きく低下している。
3.通常ならば向上する腎機能が、通常予想されるよりも小さく向上している、または維持されているもしくは低下している。
【0088】
本発明の一実施形態において、腎機能の低下は、腎機能に関する各種の指標の変動によって表される。このような指標としては、血清クレアチニン、血清尿素窒素、eGFR(推定糸球体濾過量)、血清シスタチンCなどが挙げられる。上述した指標は、常法によって測定することができる。eGFRは、例えば、血清クレアチニンの測定値から、CKD-EPI equitionによって算出することができる([Horio M et al. (2010) "Modification of the CKD epidemiology collaboration (CKD-EPI) equation for Japanese: accuracy and use for population estimates" American Journal of Kidney Diseses, Vol.56 (Issue 1), pp.32-38]を参照)。eGFRは、例えば、実施例にて説明されている方法によって算出することができる。
【0089】
上述した指標のうち、血清クレアチニン、血清尿素窒素および血清シスタチンCは、通常、測定値が高いほど腎機能が低下していると判断される。eGFRは、通常、測定値が低いほど腎機能が低下していると判断される。eGFR減少速度は、減少速度が大きいほど腎機能の低下速度が大きいと判断される。
【0090】
また、上述した指標の測定値と、特定の基準値(カットオフ値)との上下関係に基づいて、腎機能の低下を判断することもできる。このような基準値については、例えば、[日本腎臓学会 編『CKD診療ガイド2012』東京医学社、2012年]に記載されている。同書に基づくと、例えば、eGFRが60mL/min/1.73m
2未満であることを、腎機能の低下を判断する基準値とすることができる。
【0091】
腎機能の低下を判断する際の、eGFR減少速度に関する基準値としては、例えば、3mL/min/1.73m
2/年とすることができる。これは、[Lindeman RD (1985) "Longitudinal studies on the rate of decline in renal function with age", Journal of the American Geriatrics Society, Vol.33 (Issue 4), pp.278-285]によって示されている「通常のeGFR減少速度」の3倍の値を、基準値としたものである(例えば[Rifkin DE (2008) "Rapid kidney function decline and mortality risk in older adults", Archives of Internal Medicine, Vol.168 (No.20), pp.2212-2218]において採用されている)。
【0092】
腎機能の低下を判断する際の、eGFR減少速度に関する他の基準値としては、3〜5mL/min/1.73m
2/年とすることができる([Coresh J et al. (2014) "Decline in estimated glomerular filtration rate and subsequent risk of end-stage renal disease and mortality" The Journal of the American Medical Association, Vol.311 (No.24), pp.2518-2531]を参照)。すなわち、上記基準値は、3、4または5mL/min/1.73m
2/年とすることができる。
【0093】
後述の実施例においては、eGFR減少速度が上記基準値よりも早い集団を「高度eGFR低下者(Rapid decliner)」、eGFR減少速度が上記基準値以下の集団を「非eGFR低下者(Non-decliner)」と称する。
【0094】
本明細書において、「腎機能の低下を予測する」とは、所定期間後(例えば、サンプル採取時から所定期間後)における腎機能の低下の有無を判定することを意図する。例えば、「腎機能の低下を予測する」とは、「所定期間後において腎機能が低下する」または「所定期間後において腎機能が低下しない」の判定を行うことを意図する。
【0095】
一例において、上記所定期間後は、基準時(例えば、サンプル採取時)から、1か月後、2か月後、3か月後、6か月後、1年後、1.5年後、2年後、2.5年後、3年後、3.5年後、4年後、4.5年後、5年後、6年後、7年後、8年後、9年後、または、10年後でありうる。
【0096】
本発明の一実施形態において、上記予測の結果は、カテゴリー分類でありうる。例えば、上記予測の結果、ある被験体は、「腎機能が低下するリスクが高い」または「腎機能が低下するリスクが低い」のいずれかに分類されうる。より具体的な例としては、上記予測の結果、ある被験体は、「高度eGFR低下者」または「非eGFR低下者」のいずれかに分類されうる。
【0097】
本発明の他の実施形態において、上記予測の結果は、数値的な予測でありうる。例えば、上記予測の結果、ある被験体は、「N年後の腎機能を示す特定の指標(eGFRなど)の値がXである」と判断されうる。この例において、XおよびNの値は、一定の幅を有する数値範囲であってよい。上記数値範囲は、例えば統計学的手法によって決定される範囲(信頼区間など)であってよい。
【0098】
また、上記結果の予測に基づいて、さらなる予測または判断が成されてよい。後述する実施例に沿って説明すると、以下の通りである。まず、ある被験体のサンプル中におけるGalβ1−3GalNAcのレベルを基に、当該被験体が高度eGFR低下者であるか否かが判定される。次いで、上記被験体が高度eGFR低下者と判定された場合には、当該判定結果に基づいて、当該被験体の疾患が増悪するか否か、所定期間後に透析が必要になるか否かなどが判定されてもよい。
【0099】
本発明の一実施形態に係る判定方法(後述される実施例で説明されている方法など)は、「腎臓の病態を検査する」従来の方法(例えば、尿中へのアルブミン排出量の測定)とは異なり、腎機能の低下を予測することができる。すなわち、サンプル中のGalβ1−3GalNAcおよび/またはSiaα2−6Gal/GalNAcのレベルを測定することによって、腎予後が予測できるため、従来腎臓疾患に関して使用されていたバイオマーカーを用いるよりも早く腎疾患に対する処置が可能となる。
【0100】
[1−6.その他の態様]
本発明のその他の実施形態としては、被験体から採取したサンプル中における、MPA、ACA、ABA、Jacalin、SSAおよびSNA、VVA、GSL_I_B4およびEELからなる群より選択される少なくとも1つのレクチンに結合する糖鎖のレベルを決定する工程を含む、判定方法が挙げられる。この態様の説明は、[1−1]〜[1−5]の説明が適宜援用される。
【0101】
なお、本発明の一実施形態に係る判定方法は、以下のように表現することもできる。
【0102】
〔1〕被験体から採取したサンプル中における、Galβ1−3GalNAc、および/または、Siaα2−6Gal/GalNAcのレベルを決定する工程を含む、腎機能の低下を予測するためのデータの取得方法。
【0103】
〔2〕被験体から採取したサンプル中における、α−GalNAc、GalαおよびGalα1−3Galからなる群より選択される少なくとも1種類のレベルを決定する工程を含む、〔1〕に記載のデータの取得方法。
【0104】
〔3〕上記Galβ1−3GalNAc、および/または、Siaα2−6Gal/GalNAcのレベルを決定する工程は、MPA、ACA、ABA、Jacalin、SSAおよびSNAからなる群より選択される少なくとも1つのレクチンに結合する糖鎖のレベルを決定する工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載のデータの取得方法。
【0105】
〔4〕上記α−GalNAc、GalαおよびGalα1−3Galからなる群より選択される少なくとも1種類の糖鎖のレベルを決定する工程は、VVA、GSL_I_B4およびEELからなる群より選択される少なくとも1つのレクチンに結合する糖鎖のレベルを決定する工程を含む、〔2〕に記載のデータの取得方法。
【0106】
〔5〕被験体から採取したサンプル中における、MPA、ACA、ABA、Jacalin、SSA、SNA、VVA、GSL_I_B4およびEELからなる群より選択される少なくとも1つのレクチンに結合する糖鎖のレベルを決定する工程を含む、腎機能の低下を予測するためのデータの取得方法。
【0107】
〔6〕上記被験体は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満症および脂肪肝からなる群より選択される1種類以上の疾患に罹患している被験体である、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のデータの取得方法。
【0108】
〔2.腎機能の低下を予測するためのキット〕
[2−1.キットが備えているレクチン]
本発明の一実施形態に係るキットは、被験体から採取したサンプル中に含まれるGalβ1−3GalNAcおよび/またはSiaα2−6Gal/GalNAcに結合するレクチンを備えている。このようなレクチンとしては、[1−1]にて例示したレクチンが挙げられる。よって本項ではその説明を省略する。
【0109】
また本発明の一実施形態に係るキットは、被験体から採取したサンプル中に含まれる、α−GalNAc、GalαおよびGalα1−3Galから選択される少なくとも1種類の糖鎖に結合するレクチンを備えていてもよい。このようなレクチンとしては、[1−2]にて例示したレクチンが挙げられる。よって本項ではその説明を省略する。
【0110】
本発明の一実施形態に係るキットは、下記1〜3のいずれか1つのレクチンの組み合わせを備えていてよい。本発明の他の実施形態に係るキットは、下記1〜3のいずれか1つのレクチンの組み合わせのみからなるものでありえる。
1.MPA、ACA、ABA、およびJacalinからなる群より選択される少なくとも1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つまたは4つ)のレクチンの組み合わせ。
2.MPA、ACA、ABA、Jacalin、SSAおよびSNAからなる群より選択される少なくとも1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つ)のレクチンの組み合わせ。
3.MPA、ACA、ABA、Jacalin、SSA、SNA、VVA、GSL_I_B4およびEELからなる群より選択される少なくとも1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つまたは9つ)のレクチンの組み合わせ。
【0111】
本発明の一実施形態に係るキットは、上記1または2のレクチンの組み合わせよりなるものであれば、Galβ1−3GalNAcおよび/またはSiaα2−6Gal/GalNAcのレベルを決定でき、その結果、腎機能の低下を予測することができる。上記3の態様によれば、Galβ1−3GalNAcおよび/またはSiaα2−6Gal/GalNAcに加え、α−GalNAc、GalαおよびGalα1−3Galからなる群より選択される少なくとも1種類の糖鎖のレベルをも決定することができ、より精度よく腎機能の低下を予測することができることが期待される。
【0112】
本発明の一実施形態に係るキットが備えているレクチンは、公知の手法により調製することができる。あるいは、市販されているレクチンを適宜使用してもよい。
【0113】
[2−2.他の構成要素]
上記のレクチンは、任意の基材に固定されている形態であってもよい。一例を挙げると、上記レクチンは、マイクロアレイ、ELISAプレート、ラテックスビーズ、磁気ビーズ等の基材上に固定されている形態であってもよい。
【0114】
上述した中では、上記レクチンは、マイクロアレイに固定されていることが好ましい。マイクロアレイの場合、サンプルとして尿を用いた場合、サンプルの濃縮が不要となる、サンプル中の主要タンパク質(アルブミン、IgGなど)の除去が不要となる、という長所がある。対象に対するレクチンの固定方法は、タンパク質を基板に固定する公知の方法を用いることができる。
【0115】
本発明の一実施形態に係るキットは他に、キットの使用に必要となる薬剤、器具、容器、説明書などを備えていてよい。また、上述した薬剤、器具、容器、説明書などは、市場または通信回線などを通じて、別途使用者に入手させる態様を取ってもよい。
【0116】
上記各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0117】
糖尿病患者を対象に、3年間にわたる腎機能の追跡調査を行い、尿中に含まれる糖鎖との相関を検討した。
【0118】
〔患者選択〕
本調査の対象となる患者は、岡山県内の8病院(岡山大学病院、国立岡山医療センター、岡山済生会病院、倉敷中央病院、心臓病センター榊原病院、津山中央病院、岡山赤十字病院、岡山市民病院)から選択した。本調査に対する同意を得られた2型糖尿病患者のうち、2012〜2015年までの、継時的な腎機能のデータが得られた554例を解析対象とした。
【0119】
〔レクチンアレイ解析による糖鎖レベルの測定〕
レクチンアレイ(GlycoStation(登録商標。以下同様)およびLecChip(登録商標。以下同様)、グライコテクニカ社製)を用い、下記のプロトコールに従って、45種類のレクチンに結合する尿中糖鎖のシグナル強度を数値化した。解析に際しては、複数名の尿サンプルを同時に解析した。
【0120】
1.尿サンプル20μLと、Cy3 Mono-Reactive dye 100μg labeling(GE Healthcare Life Science製)とを混合し、室温、暗所にて1時間反応させた。
【0121】
2.脱塩カラム(Zeba Desalt Spin Column、Thermo Scientific製)を、1,500×g、1分間、4℃の条件で遠心した。
【0122】
3.上記脱塩カラムに300μLのTBSを通した。その後、上記脱塩カラムを1,500×g、1分間、4℃の条件で遠心し、洗浄した。本工程は全3回、繰り返して行われた。
【0123】
4.上記脱塩カラムに、上記尿サンプルの全量と、25μLのTBSとを通した。その後、1,500×g、1分間、4℃の条件で遠心し、未反応のCy3を除いた。
【0124】
5.4で得られた尿サンプルに、450μLのProbing Solution(GlycoTechnica製)を加えた後、500μLを量り取った。
【0125】
6.LecChipをProbing Solutionで3回洗浄した(1回当たり100mL/ウェル)。その後、5.にて調製した尿サンプル溶液を、ウェルに注入した(100μL/ウェル)。
【0126】
7.LecChipを、20℃にて16時間以上反応させた。
【0127】
8.LecChipを、GlycoStation Reader 1200で測定した。測定は、上記尿サンプル溶液を反応させたままの液相状態にて行われた。なお測定条件は以下の通りである。
露光時間:299ミリ秒、カメラゲイン:95。
【0128】
9.GlycoStaion ToolsPro Suite 1.5により、測定値を数値化した。
【0129】
10. 各レクチンに対するシグナル強度からバックグラウンドのシグナル値を差し引いた値を、各レクチンに対する糖鎖シグナルと定義して、解析に用いた。
【0130】
〔主要臨床項目およびその定義〕
2011年度(2011年4月1日〜2012年3月31日)において、血液検査および尿検査を施行した時点を、基準日に定めた。
【0131】
上記基準日以降、1年ごとに以下の情報を収集した。年齢、性別、BMI、外来血圧、腹囲、糖尿病性網膜症の有無および重症度(単純糖尿病性網膜症、前増殖糖尿病性網膜症、または増殖糖尿病性網膜症)、治療の詳細(降圧剤の使用の有無、糖尿病治療剤またはインスリンの使用の有無、高脂血症治療剤の使用の有無、および高尿酸血症治療剤の使用の有無)、HbA1c(NGSP値)、血清クレアチニン、UACR。
【0132】
eGFR(mL/min/1.73m
2)は、血清クレアチニンの測定値から、CKD-EPI equitionによって算出した([Horio M et al. (2010) "Modification of the CKD epidemiology collaboration (CKD-EPI) equation for Japanese: accuracy and use for population estimates" American Journal of Kidney Diseses, Vol.56 (Issue 1), pp.32-38]を参照)。
【0133】
2011年度〜2013年度の間に、1年ごとに計4回測定された血清クレアチニンの測定値からeGFRを算出し、次いで算出されたeGFRから線形回帰直線を導出した。上記線形回帰直線の傾き(1年間当たりのeGFRの低下速度:mL/min/1.73m
2/年)を、eGFRの低下速度(eGFR decline)とした。
【0134】
eGFRの低下速度が3mL/min/1.73m
2/年を超えている群を高度eGFR低下者(Rapid decliner)、eGFRの低下速度が3mL/min/1.73m
2/年以下である群を非eGFR低下者(Non-decliner)と定義した。このカットオフ値は、[Coresh J et al. (2014) "Decline in estimated glomerular filtration rate and subsequent risk of end-stage renal disease and mortality" The Journal of the American Medical Association, Vol.311 (No.24), pp.2518-2531]により報告されている、カットオフ値の調査結果に基づいている。同論文は、基準日のeGFRが60mL/min/1.73m
2以上の患者を、eGFRの低下速度ごとにカテゴライズし、3年間の追跡調査によって人工寄与危険度を比較した。その結果、3〜5mL/min/1.73m
2/年のカテゴリーに属する患者が、末期腎不全(ESRD:End stage renal disease)に対する人工寄与危険度が最も高かった。
【0135】
また、他の既報論文でも、eGFRの低下速度:3mL/min/1.73m
2/年以上をカットオフ値として、高度eGFR低下者の予測因子を検討している(例えば[Rifkin DE (2008) "Rapid kidney function decline and mortality risk in older adults", Archives of Internal Medicine, Vol.168 (No.20), pp.2212-2218]、[Moriya T et al. (2017) "Patients with type 2 diabetes having higher glomerular filtration rate showed rapid renal function decline followed by impaired glomerular filtration rate: Japan Diabetes Complications Study", Journal of Diabetes and Its Complications, Vol.31 (Issue 2), pp.473-478]を参照)。そこで、本調査においても、3mL/min/1.73m
2/年をeGFRの低下速度のカットオフ値とした。
【0136】
UACR(mg/gCr)は、UACR<30を正常アルブミン尿、30≦UACR<300を微量アルブミン尿、UACR≧300を顕性アルブミン尿とした。この分類基準は、[KDOQI (2007) "KDOQI Clinical Practice Guidelines and Clinical Practice Recommendations for Diabetes and 12-S154Chronic Kidney Disease" American Journal of Kidney Diseses, Vol.49 (Issue 2, Suppl.2), pp.S12-S154]によった。
【0137】
各種糖鎖シグナルの測定値は、分布および/または値に応じて、1/1000、1/10000、または対数に変換して、解析に用いた。UACRの測定値は、自然対数変換して、解析に用いた。
【0138】
〔解析〕
糖鎖シグナルと腎機能の低下との関係に関する解析は、以下の2種類の変数に対して行われた。
1.eGFRの低下速度(連続変数)
2.高度eGFR低下者または非eGFR低下者へのカテゴリー分け(二値変数)。
【0139】
1の解析は、単回帰分析および重回帰分析によって、eGFRの低下速度と糖鎖シグナルの強度との関連を検討した。単回帰分析では、従属変数をeGFRの低下速度(連続変数)、独立変数を各種レクチンに結合する糖鎖シグナルの強度とした。重回帰分析では、独立変数として、年齢、性別、BMI、中心動脈圧(MAP)、HbA1c(NGSP値)、eGFR、logUACRをさらに加えた(全て基準日における値)。重回帰分析によると、その他の独立変数の影響を除いた後における、各種レクチンに結合する糖鎖シグナルの強度がeGFRの低下速度に及ぼす影響を評価することができる。
【0140】
2の解析は、単変量ロジスティック回帰分析および多変量ロジスティック回帰分析によって、高度eGFR低下者と非eGFR低下者とを区別するのに適している糖鎖シグナルを検討した。単変量ロジスティック回帰分析では、従属変数を(高度eGFR低下者/非eGFR低下者)の値、独立変数を各種レクチンに結合する糖鎖シグナルの強度とした。多変量ロジスティック回帰分析では、独立変数として、年齢、性別、BMI、中心動脈圧(MAP)、HbA1c(NGSP値)、eGFR、logUACRをさらに加えた(全て基準日における値)。その上で、高度eGFR低下者に対する、各種レクチンに結合する糖鎖シグナルの強度が1SD(標準偏差)分だけ増加する際のオッズ比を求めた。多変量ロジスティック回帰分析によると、その他の独立変数の影響を除いた後における、各種レクチンに結合する糖鎖シグナルの強度が、高度eGFR低下者と非eGFR低下者とを判別することに与える影響を評価することができる。
【0141】
さらに、1および2の解析において有用性が示された、レクチン結合糖鎖シグナルに対して、既存のバイオマーカーによる高度腎機能低下者の予測能にどれだけの上乗せ効果を有するかを、以下の手順で検討した。
【0142】
年齢、性別、BMI、中心動脈圧(MAP)、HbA1c(NGSP値)、eGFR、logUACR(全て基準日における値)からなる多変量ロジスティック回帰モデルを基準モデルとした。上記基準モデルに、1、2の解析によって有用性が示された各レクチン結合糖鎖シグナルを加えた回帰モデルを作成し、それぞれの回帰モデルについて、C統計量(C-index)を比較した。C統計量の差が有意か否か、および、NRI(net reclassification improvement)の値によって、各レクチン結合糖鎖による上乗せ効果の有用性を検討した。
【0143】
ここで、C統計量の値がより高いほど、より正確に高度eGFR低下者と非eGFR低下者とが判別されている。また、NRIとは新規のバイオマーカーを加えることによる診断能の向上を示す指標で、値が高い方がより診断能が高くなったことを表すものである([Pencina MJ et al. (2011) "Extensions of net reclassification improvement calculations to measure usefulness of new biomarkers", Statistics in Medicine, Vol.30 (Issue 1), pp.11-21]を参照)。
【0144】
以上に説明した解析は全て、Stata SE software(version 14.0, StataCorp LP製)を用いて行った。
【0145】
〔結果〕
[結果1:患者背景]
対象患者全数、高度eGFR低下者および非eGFR低下者の、基準日における患者背景を、表11に示す。
【0146】
【表11】
【0147】
全患者における男性の割合は59%、平均年齢は63歳、平均BMIは25.6(kg/m
2)であった。全患者の病歴について、推定糖尿病罹病期間の中央値は11.0年、糖尿病網膜症を有する割合34%、高血圧を有する割合は70%であった。全患者の腎機能について、eGFRは72.1±16.3mL/min/1.73m
2、UACRの中央値は16.6mg/gCr(4分位では7.6〜61.8;微量アルブミン尿および顕性アルブミン尿の割合は、それぞれ25%および11%)、HbA1cは7.1%であった。全患者の血糖コントロールについて、経口血糖降下薬のみの患者が64%、インスリンを使用している患者が32%であった。全患者の降圧剤の使用について、ACE−I(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)またはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の使用割合は、51%であった。
【0148】
表1から明らかであるように、高度eGFR低下者群を非eGFR低下者群と比較すると、基準日におけるeGFRが有意に低く、UACRが有意に高くなっていた。同様に、高度eGFR低下者群を非eGFR低下者群と比較すると、基準日における収縮期血圧、拡張期血圧、平均動脈圧および高血圧を有する割合が有意に高くなっていた。しかし、両群間で、基準日におけるHbA1cおよび糖尿病治療(経口血糖降下薬またはインスリンの使用割合)に関しては、有意な差は認められなかった。
【0149】
図1に、全患者のeGFR低下速度の分布を示す。算出されたeGFRから求められる線形回帰直線の傾きが−2〜0である患者(eGFR低下速度が0〜2mL/min/1.73m
2/年である患者)の割合が大きく、高度eGFR低下者(3mL/min/1.73m
2/年超の患者)の割合は19%であった。
【0150】
[結果2:連続変数としてのeGFRの解析結果]
表12および
図2に、eGFRの低下速度と糖鎖シグナルの強度との関連を、単回帰分析および重回帰分析により検討した結果を示す。
【0151】
【表12】
【0152】
eGFRの低下速度を連続変数としたときに、単回帰分析と重回帰分析との両方で有意に関連している糖鎖は、ACA結合糖鎖、EEL結合糖鎖、GSL−II結合糖鎖およびGSL_I_A4結合糖鎖であった(P=0.05を有意差の基準とした)。ACA結合糖鎖のシグナル強度が上昇するにつれて、またEEL結合糖鎖、GSL−II結合糖鎖およびGSL_I_A4結合糖鎖のシグナル強度が減少するにつれて、eGFRの低下速度を示す指数は大きくなった。上述した糖鎖のシグナル強度の、重回帰分析におけるβ係数は、それぞれ、−0.11、0.13、0.11、0.08であった。
【0153】
以上の結果からは、ABA結合糖鎖、EEL結合糖鎖およびGSL−II結合糖鎖のシグナル強度はいずれも、eGFRおよびUACRとは独立した、強い腎予後因子となりうることが示唆される。
【0154】
[結果3:高度eGFR低下者/非eGFR低下者のカテゴリー分類の解析結果]
表13および
図3に、(高度eGFR低下者/非eGFR低下者)の値と糖鎖シグナルの強度との関連を、単変量ロジスティック回帰分析および多変量ロジスティック回帰分析により検討した結果を示す。
【0155】
【表13】
【0156】
単変量ロジスティック回帰分析および多変量ロジスティック回帰分析の両方において、高度eGFR低下者に有意に関係している糖鎖は、ABA結合糖鎖、ACA結合糖鎖、MPA結合糖鎖であった。SNA結合糖鎖、SSA結合糖鎖、Jacalin結合糖鎖、EEL結合糖鎖は、単変量および多変量ロジスティック回帰分析で強い相関が認められたが、多変量ロジスティック回帰分析では統計学的有意性を示さなかった。逆に、VVA結合糖鎖は、単変量ロジスティック回帰分析での有意性は示されなかったが、多変量ロジスティック回帰分析では強い相関が認められた。
【0157】
基準日におけるeGFR、UACRなどで補正した多変量ロジスティック回帰モデルによる、高度eGFR低下者に対する、上述したそれぞれのレクチン結合糖鎖シグナルの強度が1SD(標準偏差)分だけ増加する際のオッズ比(95%信頼区間)は、それぞれABA結合糖鎖:1.28(1.00〜1.64)、ACA結合糖鎖:1.31(1.02〜1.67)、MPA結合糖鎖:1.25(1.00〜1.59)、Jacalin結合糖鎖:1.25(0.95〜1.63)、SNA結合糖鎖:1.24(0.95〜1.62)、SSA結合糖鎖:1.29(0.98〜1.70)、EEL結合糖鎖:0.84(0.68〜1.03)、VVA結合糖鎖:0.80(0.63〜1.02)であった。すなわち、ACA結合糖鎖、MPA結合糖鎖、Jacalin結合糖鎖、SNA結合糖鎖、およびSSA結合糖鎖は、シグナル強度が上昇するにつれて、高度eGFR低下者との関連を示す指数が大きくなっている。一方、EEL結合糖鎖およびVVA結合糖鎖は、シグナル強度が低下するにつれて、高度eGFR低下者との関連を示す指数が大きくなっている。強度はいずれも、eGFRおよびUACRとは独立した、強い腎予後因子となりうることが示唆される。
【0158】
このことから、特にABA結合糖鎖、ACA結合糖鎖、MPA結合糖鎖のシグナル強度が、eGFRおよびUACRとは独立した、強い腎予後因子となりうることが示唆される。
【0159】
[結果4:MPA結合糖鎖、ACA結合糖鎖、ABA結合糖鎖、Jacalin結合糖鎖、SSA結合糖鎖、SNA結合糖鎖、VVA結合糖鎖、GSL_I_B4結合糖鎖およびEEL結合糖鎖と、高度eGFR低下者との関係]
上記の結果を踏まえ、高度eGFR低下者を予測する上で有用な因子として、MPA結合糖鎖、ACA結合糖鎖、ABA結合糖鎖、Jacalin結合糖鎖、SSA結合糖鎖、SNA結合糖鎖、VVA結合糖鎖、GSL_I_B4結合糖鎖およびEEL結合糖鎖に注目した。そこで、上記糖鎖のシグナル強度を4分位に分類し、解析2と同様のロジスティック回帰分析を行った。結果を表14〜16に示す。
【0160】
【表14】
【0161】
【表15】
【0162】
【表16】
【0163】
表14〜16から判るとおり、MPA結合糖鎖、ACA結合糖鎖、ABA結合糖鎖およびJacalin結合糖鎖については、シグナル強度が強い4分位群ほど、高度eGFR低下者との関連を示す指数は大きくなっていた。SSA結合糖鎖およびSNA結合糖鎖については、最もシグナル強度が高い4分位群において、高度eGFR低下者との関連を示す指数が、他の群よりも大きくなっていた。GSL_I_B4結合糖鎖については、シグナル強度が強い4分位群ほど、高度eGFR低下者との関連を示す指数は小さくなっていた。VVA結合糖鎖およびEEL結合糖鎖については、最もシグナル強度が強い4分位群において、高度eGFR低下者との関連を示す指数が、他の群よりも小さくなっていた。
【0164】
以上のデータから、MPA結合糖鎖、ACA結合糖鎖、ABA結合糖鎖、Jacalin結合糖鎖、SSA結合糖鎖、SNA結合糖鎖、VVA結合糖鎖、GSL_I_B4結合糖鎖およびEEL結合糖鎖は強い腎予後因子となることが示唆される。特に、MPA結合糖鎖、ACA結合糖鎖およびABA結合糖鎖は、多変量解析結果でも高度eGFR低下者との関連が強いため、eGFRおよびUACRとは独立した、強い腎予後因子となりうることが示唆される。
【0165】
[結果4:既存のバイオマーカーへの相乗効果]
上記に見出されたレクチン結合糖鎖による高度eGFR低下者の予測能を、既存のバイオマーカーのみからなる基本モデルに加えることによって、相乗効果の観点から評価した。結果を表17、18に示す。
【0166】
【表17】
【0167】
【表18】
【0168】
表17、18から明らかであるように、MPA結合糖鎖を基本モデルに加えることでC統計量は有意に上昇し、かつ、NRIも有意な値であった。これより、MPA結合糖鎖は、単独でも基本モデルに対する有意な相乗効果を持つことが示された。同様に、ABA結合糖鎖、Jacalin結合糖鎖、SSA結合糖鎖、SNA結合糖鎖を基本モデルに加えた場合も、NRIは有意な値であった。これより、上述のレクチン結合糖鎖を単独で基本モデルに加えることにより、高度eGFR低下者の予測能が有意に上昇することが示唆された。
【0169】
VVA結合糖鎖、GSL_I_B4結合糖鎖およびEEL結合糖鎖は、単独では基本モデルに対する有意な相乗効果は持たなかった。しかし、Galβ1−3GalNAcに対する特異性を有するMPA結合糖鎖、および、Siaα2−6Gal/GalNAcに対する特異性を有するSSA結合糖鎖を併せて基本モデルに加えることで、高度eGFR低下者の予測能は著しく上昇することが示された(C統計量は有意に上昇し、NRIの値も有意に高値を示した)。このため、(i)Galβ1−3GalNAcに対する特異性を有するACA結合糖鎖、ABA結合糖鎖および/またはJacalin結合糖鎖、ならびに、(ii)Siaα2−6Gal/GalNAcに対する特異性を有するSNA結合糖鎖、を併せることによっても、基本モデルに対する有意な相乗効果が期待できる。
【0170】
以上の結果を総合すると、(i)Galβ1−3GalNAcに対する特異性を有するMPA結合糖鎖、ACA結合糖鎖、ABA結合糖鎖およびJacalin結合糖鎖、ならびに、(ii)Siaα2−6Gal/GalNAcに対する特異性を有するSSA結合糖鎖およびSNA結合糖鎖は、単独でも既存のバイオマーカーに組み合わせることにより、腎機能の低下を予測する能力を高めることが示唆された。また、(I)既存のバイオマーカーおよび(II)上述のレクチン(MPA、ACA、ABA、Jacalin、SSAおよびSNA)に対する特異性を有する糖鎖に加えて、(III)VVA結合糖鎖、GSL_I_B4結合糖鎖またはEEL結合糖鎖をさらに組み合わせることにより、腎機能の低下を予測する能力がより高まることが示唆された。