特許第6829465号(P6829465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社イハラ合成の特許一覧

特許6829465ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材
<>
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000006
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000007
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000008
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000009
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000010
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000011
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000012
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000013
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000014
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000015
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000016
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000017
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000018
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000019
  • 特許6829465-ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6829465
(24)【登録日】2021年1月26日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材
(51)【国際特許分類】
   B24D 11/00 20060101AFI20210128BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20210128BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20210128BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20210128BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20210128BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20210128BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20210128BHJP
   B24D 13/10 20060101ALI20210128BHJP
   B24D 13/14 20060101ALI20210128BHJP
   B29B 17/04 20060101ALI20210128BHJP
   B29B 9/06 20060101ALI20210128BHJP
   A46D 1/00 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   B24D11/00 GZAB
   C08J5/06CEQ
   C08J5/06CEZ
   C08J5/06CFD
   C08J5/06CFG
   C08L81/02
   C08L77/00
   C08L55/02
   C08L67/00
   C08K7/14
   B24D13/10
   B24D13/14 A
   B29B17/04
   B29B9/06
   A46D1/00 101
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-42025(P2017-42025)
(22)【出願日】2017年3月6日
(65)【公開番号】特開2018-144176(P2018-144176A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】515249824
【氏名又は名称】株式会社イハラ合成
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】伊原 歳博
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸典
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/043089(WO,A1)
【文献】 特開平06−055460(JP,A)
【文献】 特開平06−039727(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0280541(US,A1)
【文献】 特開平09−024516(JP,A)
【文献】 特開2009−191142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維強化熱可塑性プラスチックの廃品を破砕溶融押出して得られるリサイクルペレットの溶融押出品である表面加工用線材であって、該リサイクルペレットのシャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaであり、該表面加工用線材は平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%含有し、線材長軸方向に対する前記ガラス繊維の配向角が0〜7°である、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材。
【請求項2】
平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%で含有し、ガラス繊維が長軸方向に配向し、シャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaである再生品である、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工線材用のリサイクルペレット。
【請求項3】
ガラス繊維強化熱可塑性プラスチックの廃品の破砕物を溶融押出機で押し出してリサイクルペレット用押出材を製造し、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%含有し、ガラス繊維が長軸方向に配向し、シャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaであるリサイクルペレットに切断する、リサイクルペレット成型工程と、
前記リサイクルペレットを溶融押出機に投入し、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%で含有し、線材長軸方向に対する前記ガラス繊維の配向角が0〜7°である線材を押し出す線材溶融押出工程と、
を備えたガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工線材の製造方法。
【請求項4】
前記リサイクルペレット成型工程における前記破砕物の溶融温度が230℃〜280℃であり、前記線材溶融押出工程の前記リサイクルペレットの溶融温度が230℃〜310℃である請求項3のガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工線材の製造方法。
【請求項5】
廃品から破砕物を得る破砕工程と、
前記破砕物を溶融押出機で押し出してリサイクルペレット用押出材を製造し、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%含有し、ガラス繊維が長軸方向に配向し、シャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaであるリサイクルペレットに切断するリサイクルペレット成型工程と、
を備えたガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工線材用のリサイクルペレット製造方法。
【請求項6】
前記リサイクルペレット成型工程における前記破砕物の溶融温度が230℃〜280℃である請求項5のガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工線材用のリサイクルペレット製造方法。
【請求項7】
平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を、15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂又はPPS樹脂を60から85重量%で含有するペレットを、溶融押出機に投入し、温度230〜310℃で溶融し、口径2〜7mmの吐出ノズルから線材を溶融押し出しする溶融押出工程と、
前記溶融押出した線条を冷却固化する工程と、
を備えたことを特徴とする線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)廃品の再生品利用に関し、また、ステンレス鋼板などの特殊鋼板の表面の研磨加工や、空洞を有する円柱状金属部材の空洞内壁面に生じたバリ取り加工等の表面加工をするために使用するガラス繊維が線材長軸方向に配向したガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)は、ガラス繊維を熱可塑性プラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料であり、弾性率の高い材料との複合材料として、軽量で強度の高い材料として用いられる。
【0003】
金属鋼板の表面加工に使用される研磨ブラシ用毛材として、ガラス繊維強化プラスチック製の製品が提供されている(特許文献1)。また、研磨砥材粒子を含有する合成樹脂からなるモノフィラメントを毛材として植毛したロールブラシ、カップブラシ、筒状ブラシなどを被処理金属鋼板に回転しながら押圧し、被処理金属鋼板の表面研磨加工を行うための研磨ブラシ用毛材が提供されている(特許文献2〜4)。また、金属や樹脂等の材料を研磨、切削するためのアルミナ繊維強化プラスチック製フィラメントからなる製品が提供されている。(特許文献5)研磨ブラシ用毛材には優れた研磨性が要求されており、研磨ブラシ用毛材に使用されるモノフィラメントの素材として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン12などのポリアミド系樹脂のほか、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂などの合成樹脂から最適な素材を選択する試みが従来から種々検討されている。
【0004】
特許文献1は、無機長繊維の集合糸に樹脂を含浸させてなる線条砥材が複数本、外周側面が円周面になっているホルダに保持されたブラシ状砥石において、無機長繊維が、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、炭素繊維、窒化珪素繊維およびガラス繊維のうちのいずれかの発明が提案されている。
【0005】
特許文献2は、圧延鋼材などの乾式研磨加工において、優れた研磨性能を有すると共に、耐溶着性能にも優れた研磨ブラシ用毛材を提供するため、ポリアミド樹脂100重量部に対し、研磨砥材粒子10〜60重量部およびアジン系化合物0.1〜5重量部を含有させた組成物を溶融紡糸したモノフィラメントからなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材が提案されている。
【0006】
特許文献3は、ステンレス鋼板などの特殊用鋼などの乾式研磨加工において、優れた研磨性能を有し、耐溶着性能に特に優れた研磨ブラシ用毛材を提供するため、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン12あるいはナイロン6/66共重合体のようなポリアミド系樹脂に対し、研磨砥材粒子5〜40重量%およびフッ素系樹脂を3〜25重量%含有してなる組成物を溶融紡糸したモノフィラメントからなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材が提案されている。
【0007】
特許文献4は、ステンレス鋼板などの特殊鋼板の乾式研磨加工において、高い耐久性、研磨性及び耐溶着性を兼ね備えた研磨ブラシ用毛材を提供するため、ポリアミド系樹脂に対し、融点210〜230℃のテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体3〜25重量%、アジン系化合物0.1〜5重量%、及び研磨砥材粒子5〜40重量%含有するモノフィラメントからなることを特徴とする研磨ブラシ用毛材、さらに、最短折損耐久時間が10分以上、且つ研磨量が140g以上であることを特徴とする研磨ブラシ用毛材が提案されている。
【0008】
特許文献5では、バージン樹脂と無機短繊維を混合溶融して射出成型し、研磨材がフィラメントの中心軸と平行な方向に配向している、研磨及び研削用樹脂フィラメントを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】再公表特許WO2007/097115号公報
【特許文献2】特開2003-145434号公報
【特許文献3】特開2004-58184号公報
【特許文献4】特開2005-262328号公報
【特許文献5】特開平6-39727号公報
【0010】
しかしながら、バリ取りならびに研削加工に関する特許文献1の発明では、長繊維を束ねたブラシ状砥石であるため、繊維含有量に比して樹脂含有量はかなり少なく、非常に製品価格が高価であり、大量に消耗品として使用する産業では採用されておらず、また、リサイクル品を利用できない、研磨には不向きであるという課題がある。
【0011】
研磨加工に関する特許文献2〜4の発明では、ワーク表面に毛材の樹脂が溶着することに対する耐溶着性に優れるが、ポリアミド系樹脂に対し、研磨砥材粒子5〜40重量%を含有させるため、毛材の消耗が早く、大量に使用する産業ではコスト高の要因になるワークに対して砥粒の付着がある、尖った形状の砥粒がワーク表面を損傷することがある、毛材同士が融着することがある、といった課題がある。
【0012】
研磨および研削加工に関する特許文献5の発明では、砥材としてアルミナ繊維を用いている。アルミナ繊維(結晶質)はガラス繊維(非晶質)に比べて引張り強さは同等だが、ヤング率が高く、剛直ではあるが曲げに弱い(折れやすい)、しなやかさに欠ける。そのため、砥材として利用した場合には、アルミナ繊維は硬いワークでも研磨力を発揮するが、研磨加工中に破砕して、破砕粉が発生しやすいという課題がある。
【0013】
また、アルミナ繊維は吸水性がなく化学的に安定で変化も受け難いため、樹脂との親和力、結合力が弱い、アルミナ繊維流通価格はガラス繊維の20〜200倍以上も高価であるため、安価な汎用工業用ブラシ線材を提供できない、アルミナ繊維の安全性は未確定である等の問題がある。さらに、アルミナ繊維は高硬度のため、混練、溶融押出し工程における装置に機械的損傷を与えるため、生産設備費(固定費)も高くなるという課題もある。
【0014】
ところで、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチックは自動車や家電製品等に利用されているが、これらの製品の廃棄量は年々増加する傾向にある。これらの廃棄物の大半は、焼却や埋め立てなどにより処分されてきたが、焼却による環境汚染、埋め立て処理場不足などが社会問題になっており、プラスチック廃品のリサイクルは緊急に解決すべき課題である。
【0015】
しかし、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(GFRTP)の廃品のリサイクルは以下のような困難要因があり、実用化されている例は少ないのが現状である。
【0016】
第1の困難要因は、GFRTP廃品は高強度、熱安定性の高い部材であることである。GFRTP廃品はマトリックス樹脂中に短ガラス繊維がランダムに配向・分散している射出成型品で、これをリサイクルするためには、高強度な回収GFRTPを先ず最適な破砕方法で破砕した後、混練・溶融押出してリサイクルペレットにする必要がある。その破砕工程ではガラス繊維の折損・短繊維化をできるだけ抑え、かつ、できるだけ均一の破砕片にする破砕技術が、また混練・溶融押出工程では混練溶融押出中のガラス繊維の折損・短繊維化を極力抑え、かつ樹脂の熱劣化を抑える溶融押出技術が要求される。ガラス繊維長はGFRTPの強度不適当(過度)な破砕化によるガラス繊維の短繊維化は再生品の樹脂の強度低下を招き、また破砕片の大きさのバラツキや溶融押出し時の熱劣化は、樹脂の流動性の不均質化を招きやすく、溶融押出される線材も不均質となるため、断線し易く、安定した連続線材化操作を不可能にするからであり、線材の物性・性能低下、品質低下の要因となるからである。
【0017】
第2の困難要因は、GFRTP廃品に含まれているサイジング剤である。GFRTPの製造にあたっては、成形品の強度、寸法精度・安定性、加工性を向上する目的で様々なサイジング剤と称する添加物が用いられるが、樹脂加工業界では周知の通り、サイジング剤はノウハウとして一般に公表されていない。この添加物はリサイクルペレットに持ち込まれ、素性不明な不純物、夾雑物となる。さらにGFRTP廃品からリサイクルペレットを製造する場合や、リサイクルペレットから再生加工品を製造する際に、樹脂の溶融流動化を妨害し、溶融押出時の夾雑物となり、安定な射出成型を妨害する。すなわち、サイジング剤には、マトリックス樹脂より高融点のものが用いられている場合が多く、そのため混練溶融時の温度がマトリックス樹脂の融点より若干高い溶融混練温度ではサイジング剤が不溶夾雑物として残存し、樹脂相が不均一化するため、再生品の成形が不安定化し、再生品にボイドの発生や線径のバラツキを誘引し、強度が低下する。
【0018】
一方、サイジング剤の融点より高温度で溶融混練すればサイジング剤も溶融するが、高温にすればするほど、一般にマトリックス樹脂の熱劣化(主に重合度低下)を招き、リサイクルペレットの強度(シャルピー衝撃強度)が低下しやすくなる。そのためマトリックス樹脂の熱劣化を最小限に抑え、かつサイジング剤などの夾雑物も溶解する温度の最適化が不可欠となる。高融点夾雑物の存在と、その融点は、例えばDSC(熱示差分析法)で判断することができる。
【0019】
第3の困難要因は、GFRTP廃品は、新品の樹脂と比べて、既に様々な応力履歴や熱履歴を受け、マトリックス樹脂が劣化していることである。そのため、再生品の強度が低下してしまう。再生品の強度低下を抑えるために種々の検討がなされているが、依然として技術的、経済的に未解決な課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上記のような従来の問題点を意図したものであり、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチックの廃品を再利用し、かつ、ワークへの砥粒や樹脂の付着がなく、ワークを損傷することのない、表面加工用線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題に鑑み、請求項1にかかる発明は、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチックの廃品を破砕溶融押出して得られるリサイクルペレットの溶融押出品である表面加工用線材であって、該リサイクルペレットのシャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaであり、該表面加工用線材は平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%含有し、線材長軸方向に対する前記ガラス繊維の配向角が0〜7°である、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工用線材である。
【0022】
ガラス繊維の配向角は繊維強化プラスチックを切断し、その切断面についてX線CT装置等を利用して撮像し、観察又は演算装置により算出することが例示される。
【0023】
一般のガラス繊維強化熱可塑性プラスチックでは強度を確保するためガラス繊維がランダムに配向するバルク状の製品であるが、本発明では、ガラス繊維が線材長軸方向に対して特定の小さな配向角の範囲に収まっている線材とする点で基本的に相違する。
【0024】
前記ガラス繊維は、ガラス繊維と他の繊維との複合繊維でもよい。線材の柔軟性を高めるための機能剤を含有させてもよい。
【0025】
前記熱可塑性プラスチックとしては、例えば、PA6GF、PA66GF、PBT−GF30、ABS−GF30、PPS−GF30等が挙げられる。
【0026】
前記ポリアミド系樹脂としてナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612が挙げられる。また、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品の材質としては、例えば、PA6GF、PA66GF、PBT−GF30、ABS−GF30、PPS−GF30が挙げられる。
【0027】
ここでいう「表面加工」には、研磨、研削、バリ取り、表面仕上げ等を含む。
【0028】
ガラス繊維はEガラスを用いることが好ましい。SiO含量が53%の結晶質の石英ガラスである。Eガラスは製造上の理由で親水性のシラノール性水酸基(―OH)を含むため、表面は親水性となる。そのためマトリックス樹脂が親水性樹脂であるポリアミドの場合にはガラス繊維と樹脂の濡れ性がよく、研磨加工中に線材からガラス短繊維が脱落しにくい。さらに、表面の水酸基(―OH)を利用するサイジング加工により、樹脂との親和力、結合力を調節できるため、必要に応じた特性の線材を作出することができる。
【0029】
砥材としてしなやかなガラス繊維を用いているため、研磨加工中の折損が少なくワーク用面の仕上がりが良い。また、ガラス繊維は低価格であり安全性が確立されているので、安価で安全な線材を提供できる。
【0030】
ガラス繊維の平均繊維長が0.05mmを下回ると溶融押出、線材化の難度は軽減するが、線材の腰強度が低下するため、ワーク表面仕上げ不良を招きやすく、1.5mmを超えると、溶融押出、線材化の難度が増え、ガラス繊維の折損も増える等の問題が発生し易い。
【0031】
線材中のガラス繊維は、15〜40重量%が好ましく、28〜33重量%がさらに好ましい。ガラス繊維が15重量%を下回る線材はワーク表面との摩擦熱で樹脂の融着が生じ易く、一方、ガラス繊維含量が40重量%を超えると溶融混練押出機のスクリューの損傷や押出圧力の上昇を招くなど線材の難度が増えるほか、得られる線材の靭性が低下して折れ易くなり、ブラシなどへの2次加工時の支障になるおそれがある。
【0032】
リサイクルペレットのシャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaの範囲から外れると、表面加工用線材とした場合の強度が不十分であり、使用中に線材が折れやすい等の問題がある。なお、リサイクルペレットのシャルピー衝撃強さ、引張強さ、曲げ強さは、リサイクルペレットから各試験用サンプルを射出成形し、試験を行った結果である。
【0033】
線材長軸方向に対する前記ガラス繊維の配向角が7°を超えると、線材の太さの不均一化や線材の引張強度の局所的低下を招き易くなる。その結果、線材の局所的切断を招く。
【0034】
請求項2に係る発明は、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%で含有し、ガラス繊維が長軸方向に配向し、シャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaである再生品である、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工線材用のリサイクルペレットである。
【0035】
リサイクルペレット用の押出材中の繊維が長軸方向に対して特定の小さな配向角の範囲に収まっている点で、一般のペレット用押出材とは相違する。リサイクルペレットにも配向性があるので、線材の配向が確実になる効果がある。また、ガラス繊維が粉々にならず、切れ目なく重なり合うガラス繊維を有する線材を得ることができる。
【0036】
請求項3に係る発明は、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチックの廃品の破砕物を溶融押出機で押し出してリサイクルペレット用押出材を製造し、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%含有し、ガラス繊維が長軸方向に配向し、シャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaであるリサイクルペレットに切断する、リサイクルペレット成型工程と、前記リサイクルペレットを溶融押出機に投入し、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%で含有し、線材長軸方向に対する前記ガラス繊維の配向角が0〜7°である線材を押し出す線材溶融押出工程と、を備えたガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工線材の製造方法である。
【0037】
ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品例としては自動車等の樹脂部品が例示され、樹脂中にガラス繊維がランダムに配向している。
【0038】
請求項4に係る発明は、請求項3において、前記リサイクルペレット成型工程における前記破砕物の溶融温度が230℃〜280℃であり、前記線材溶融押出工程の前記リサイクルペレットの溶融温度が230℃〜310℃であることを特徴とする。
【0039】
前記リサイクルペレット成型工程における溶融押出機としては、フルフライト型スクリューを有する溶融押出機、セミフライト型スクリューを有する溶融押出機が挙げられる。リサイクルペレット成型工程における溶融押出機の温度は280度以上だと樹脂の熱劣化を招くという問題があり、230度以下だと樹脂の溶融が不十分となり安定した押出成形ができないという問題がある。線材の溶融押出工程における溶融押出機の温度は310度以上だと樹脂の熱劣化を招くという問題があり、230度以下だと樹脂の溶融が不十分となり安定した押出成形ができないという問題がある。溶融不十分で口金から押出すと、溶融粘性が著しく高まり押出線材化することが困難となり研磨用としての均一な線材を得ることができないばかりか、線材中に発生するボイドのために線材が断線しやすくなり、線材化工程の安定な操業の妨げとなる。ただし、樹脂の溶融温度は樹脂の種類によって様々であり、樹脂の融点(添加物による融点降下をきたしている樹脂の場合はその混合樹脂の融点)から60℃上を上限温度とする場合がある。
【0040】
請求項5に係る発明は、廃品から破砕物を得る破砕工程と、前記破砕物を溶融押出機で押し出してリサイクルペレット用押出材を製造し、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂またはPPS樹脂を60〜85重量%含有し、ガラス繊維が長軸方向に配向し、シャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaであるリサイクルペレットに切断するリサイクルペレット成型工程と、を備えたガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製の表面加工線材用のリサイクルペレット製造方法である。
【0041】
請求項6に係る発明は、請求項5において前記リサイクルペレット成型工程における前記破砕物の溶融温度が230℃〜280℃であることを特徴とする。
【0042】
本発明は、上記線材を加工した工業用ブラシ(例えば、カップ状ブラシ、ねじりブラシ等)に利用できる。工業用ブラシの用途としては、例えば、金属製品のサビ落とし・研磨作業、金属部品や樹脂部品のバリ取り、橋梁やタンクのケレン作業、精密部品の微小バリ取り・研磨作業、金属・樹脂加工部品の仕上げ、洗浄・清掃作業等が挙げられる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の再生品ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製線材によれば、砥粒入り線材を用いたブラシに見られるようなワークに対する砥粒の付着、砥粒によるワーク表面損傷が無い、例えば、無塗装、無表面処理の汎用鋼材(一般加工材のSPHC,SPSS、構造材SS材やSM材)の研磨加工、或いは、空洞を有する円柱状金属部材の空洞内壁面に生じたバリ取り加工等のワーク表面の仕上がりがきめ細かく、錆取りむらもなく、仕上がり状態が良好である。また、線材樹脂がワーク表面に溶着したり、線材同士が融着することが少なく、その結果、ブラシ性能の安定化と寿命延長に繋がる。樹脂中に砥材が分散しているのに比べて、本発明の線材ではガラス繊維の密集度が高く、熱伝導性(放熱性)が高いと考えられる。さらにガラス繊維強化熱可塑性プラスチックのリサイクル材の利用ができ、安価な線材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】左と中央の図は、本発明の線材F中のガラス繊維Gの配向を説明する説明図、右の図は、従来の砥粒T入りのナイロン線材FPの説明図である。
図2】(a)は本発明の線材Fの縦断面図、(b)は同横断面図、(c)は板材の縦断面図、(d)は板材の横断面図である。
図3】本発明の線材F中のガラス繊維Gの配向角を定義する説明図である。
図4】本発明実施例1のPA6GF30製の自動車樹脂部品の破砕材をフルフライトスクリュー溶融押出機で加工したリサイクルペレットをスクリュー溶融押出機で加工した線材の右切断面(a)の電子顕微鏡写真図である。
図5】同じく上切断面(b)の電子顕微鏡写真図である。
図6】本発明実施例のPA6GF30製のリサイクルペレットをフルフライトスクリュー溶融押出機で加工し巻き取った後の線材Fから筒型ブラシに加工した製品の写真図である。
図7】比較例1のPA6GF30製の自動車樹脂部品の破砕材(曲がり部分)の右切断面(c)の電子顕微鏡写真図である。
図8】同じく上切断面(d)の電子顕微鏡写真図である。
図9】PA6GF30製の自動車樹脂部品の破砕材(曲がり部分)を押出成形したリサイクルペレットの長辺に沿って切断した上切断面(dと同方向の横断面)の電子顕微鏡写真図である。
図10】同じく長辺に垂直に切断した右切断面(cと同方向の従断面)の電子顕微鏡写真図である。
図11】実施例2のねじりブラシの斜視写真図である。
図12】実施例2のねじりブラシを使用する円柱状金属部材のバリ取り試験の箇所を示す斜視写真図である。
図13】実施例2のねじりブラシを使用する、バリ取り前の円柱状金属部材の部分拡大斜視写真図である。
図14】実施例2のねじりブラシを使用する、バリ取り後の円柱状金属部材の部分拡大斜視写真図である。
図15】従来技術の砥粒入りブラシ線材の切断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の実施形態のガラス繊維を線材長軸方向に配向した再生品である線材Fとその製造方法、長軸方向にガラス繊維が配向したリサイクルペレットとその製造方法、およびその線材Fを利用した工業用ブラシについて図面を参照し説明する。
【0046】
本実施形態の線材Fは、PA6GFのガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品の溶融押出線材であり、平均繊維長0.6mm、直径10μmのガラス繊維Gを30重量%、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂又はPPS樹脂であるプラスチックPを70重量%で含有し、線材長軸方向Xに対するガラス繊維Gの配向角を0〜7°、好ましくは、0〜4°とするものである。
【0047】
PA6GF(例えばPA6GF30)に代えてPA66GFでもよい。
【0048】
PA6とPA6GF30の物性データを表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1中のaは、http://www.ensinger.jp/properties/heat.html、bは、http://www.as-1.co.jp/academy/17/17-2.htmlを示すものである。
【0051】
本実施形態の線材Fの断面形状は、略円形のほか、楕円形、三角形、四角形、五角形などの多角形、矩形、その他異形などが挙げられ、特に限定されない。しかし、線材Fの直径が細すぎると毛腰が弱すぎて研磨性が低下し、太すぎると毛腰が強すぎるために、ブラシ植毛が困難となる。したがって、ブラシ用の線材Fの直径は0.2〜1.5mm、特に0.4〜0.8mmが好ましい。
【0052】
以下に本実施形態の線材Fの製造方法の一例を上げる。PA6GF30のガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品を破砕する破砕工程と、溶融温度230〜280℃で、フルフライト型スクリューを有する溶融押出機に投入し、ペレット用押出材であるストランドを押し出し、リサイクルぺレットに切断するリサイクルぺレット成型工程により、リサイクルペレットを得る。その後、得られたリサイクルぺレットを溶融押出機に投入し、温度230〜310℃で溶融し、スクリュー回転数150〜200r.p.mで線材を溶融押し出しすることにより、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維Gを、重量%で15〜40%、プラスチックを60〜85重量%で含むガラス繊維強化熱可塑性プラスチックの線材を押し出す溶融押出工程と、溶融押出した線材を冷却固化する工程により、再生品であるガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製線材を得る。押出された溶融混合物は冷却浴で冷却固化された後、巻取り機による巻取りが行われる。そのままの状態からブラシに成形し、利用も可能であるが、必要に応じて、延伸処理、加熱延伸処理、熱処理がされてもよい。
【0053】
前記リサイクルぺレット成型工程によって得られるリサイクルペレットは、平均繊維長が0.05〜1.5mm、直径3〜30μmのガラス繊維を15〜40重量%含有し、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂又はPPS樹脂を60〜85重量%で含有し、シャルピー衝撃強さが5〜20kJ/m2、引張強さが100〜190Mpa、曲げ強さが120〜250MPaである。ここで、リサイクルペレットの上記強度試験は、リサイクルペレットから試験用サンプルを成形し、強度試験を行った結果である。
【0054】
ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品として、PA6GFからなる自動車樹脂部品の部位を破砕し、フルフライト型スクリュー溶融押出機による押出を行い、切断しリサイクルペレットとし、リサイクルペレットと自動車樹脂部品切削片を切断し、それぞれを溶剤で樹脂を溶解後、ガラス繊維を分離した。分離されたガラス繊維の切断面を電子顕微鏡写真で比較観察すると、ガラス繊維Gの繊維長はほぼ同様であり、溶融押出過程でのガラス繊維の折損はほとんど見られなかった。
【0055】
リサイクルペレットを押出成形した線材Fは、図1に示す通り、ガラス繊維Gの長軸がノズルからの吐出過程で線材長軸方向X(図1の繊維長方向)に強く配向すること、従来の砥粒含有線材とは、組成・構成が本質的に異なるものであること、が確認された。
【0056】
線材Fの線径のサイズを多種多様として製作すれば、活用範囲が拡大する。工業用ブラシに若干の柔軟性を持たせることにより、ネジリブラシ、直線ブラシ、などの様々な用途に使うことができる。
【0057】
ポリアミド系樹脂として、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン12、ナイロン6/66共重合体が挙げられるので、適宜、選択する。
【0058】
前記リサイクルペレット成型工程において、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品の粉砕物に加えて、新品の樹脂やガラス繊維を加えてもよい。また、前記線材の溶融押出工程において、リサイクルペレットに加えて、新品のペレットを加えてもよい。さらにリサイクルペレットの代わりに新品のガラス繊維強化熱可塑性プラスチックペレットを用いても良い。
【0059】
前記線材の溶融押出工程において、高密度ポリエチレン(HDPE)を添加すれば、マトリックスの熱劣化によるシャルピー衝撃強さの低下を小さくできるので好ましい。高密度ポリエチレン(HDPE)は、0.5〜5重量%含むことが好ましい。
【0060】
前記線材の溶融押出工程において、溶融温度は、ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品に含まれているサイジング剤などの夾雑物よりも高く、夾雑物も溶解する完全溶融であることが好ましい。マトリックス樹脂が溶融してもサイジング材が不溶のまま残ると、線材の連続押出操作が不安定化し、線材にボイドが発生したり、強度が低下したりするからである。夾雑物の存在とその融点は、例えばDSC(熱示差分析法)で判断することができる。
【0061】
本実施形態の線材からなる工業用ブラシは、金属製品の研磨、およびバリ取り加工用ブラシであり、複数本の線材を束ねて金属部で束ね、金属部を研磨装置に取り付けて、線材Fにより金属製品の表面を機械的に研磨するものである。本ブラシは射出成形樹脂部品の表面研磨や切削成形樹脂切削壁面のバリ取りにも利用できる。
【0062】
本実施形態の線材Fは従来の線材FPよりも、表面仕上げ性、線材同士の融着防止性、粒状物付着防止性が優れているため、乾式研磨加工用の研磨ブラシ用線材に使用した場合、有用性が高い。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明の線材Fの構成及び効果をさらに詳しく説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。上記及び以下の実施例における線材Fの特性の評価は次の方法により行った。
【0064】
[平均繊維長]
図2に示す通り、線材Fの試験片をその中心軸である線材長軸方向Xに沿って切断し(図中、上からの断面図(横断面))、島津製作所製マイクロフォーカスX線CT装置 SMX−160LT、撮像倍率 56倍、撮像面積 4.9mmによる切断面の撮像による写真から、写真撮像の範囲内における、ガラス繊維Gの平均繊維長を算出した。算出方法は、線材F中の任意のガラス繊維Gの20本について、始点と終点の座標を記録し、それから長さ及びそれらのばらつきを標準偏差として算出した。
【0065】
[ガラス繊維Gの配向]
図2に示す通り、ガラス繊維Gを含む線材Fの試験片をその中心軸である線材長軸方向Xに沿って切断し(図中、上からの断面図(横断面))、島津製作所製マイクロフォーカスX線CT装置 SMX−160LT、撮像倍率 56倍、撮像面積 4.9mmによる切断面の撮像による写真から、写真撮像の範囲内における、線材の配向を算出した。算出方法は、線材F中の任意のガラス繊維Gの20本について、始点と終点の座標XYZを記録し、それから傾き及びそれらのばらつきを標準偏差として算出した。線材長軸方向Xに対して図3に示す通り、緯度θ、経度φを求め、これから、配向角αを求め、平均値を2とした。配向角αの定義については、放射線による非破壊評価シンポジウム講演論文集、第6巻、7-13ページ、発行年2008年、著者 滝克彦(日本ビジュアルサイエンス)、高塩創(日本ビジュアルサイエンス)、CHEON Yong‐Sung(日本ビジュアルサイエンス)を参照されたい。
【0066】
[引張強度]
JISK7162:1994
試験片:JISK71621B形
試験速度:5mm/min
試験機容量:ロードセル式20kN
室温:23℃
【0067】
[シャルピー衝撃試験]
JISK7111−1:2012
試験片:JISK7111−1/1eA
支持台間距離:62mm
公称振り子エネルギー(ひょう量):1.00J
室温:23℃
【0068】
[ワーク表面仕上げ性]
ハンド工具に線材を束ねたブラシを取り付け、荷重1Kg、回転数は1000r.p.m、時間は5分で、ステンレス鋼板にブラシを上から押し付けて接触させて、表面の研磨加工を行ない、ステンレス鋼板の表面の模様を目視観察して、次の4規準に評価分類した。
A:表面の模様がきめ細かく目立たない。
B:表面の模様が少し目立つ。
C:表面の模様が目立つ。
D:表面の模様がかなり目立つ。
【0069】
[融着防止性]
ハンド工具に線材を束ねたブラシを取り付け、荷重1Kg、回転数は1000r.p.m、時間は5分で、ステンレス鋼板にブラシを上から押し付けて接触させて、表面の研磨加工を行ない、ブラシの線材を目視観察して、次の2規準に評価分類した。
A:線材同士の融着がない。
B:線材同士の融着がある。
【0070】
[粒状物付着性]
ハンド工具に線材を束ねたブラシを取り付け、荷重1Kg、回転数は1000r.p.m、時間は5分で、ステンレス鋼板にブラシを上から押し付けて接触させて、表面の研磨加工を行ない、ステンレス鋼板の表面に対する線材から出る粒状物の付着状況(汚れ)を目視観察して、次の4規準に評価分類した。
A:粒状物の付着がない。
B:粒状物の付着は僅かにあるが、殆ど目立たない。
C:粒状物の付着が少しある。
D:粒状物の付着が多い。
【0071】
[実施例1]
GFRTPの一種であるPA6GF30(ガラス繊維を重量部で30%混入したナイロン6)からなる自動車樹脂部品を異品種混入なしで分別回収し、破砕し第1破砕材とする。この第1破砕材は、引張強さが83.6MPa(サンプル数3)、シャルピー衝撃試験結果が11(サンプル数5)、ガラス繊維Gの平均ガラス繊維長が0.6mmである。この第1破砕材を切削し、切削材をさらに破砕した第2破砕材をフルフライト型スクリューを備えたPSV75mmベント式押出機(L/D=32)に投入し、孔径4mmΦの11本の紡糸ノズルから溶融温度280℃、スクリュー回転数160rpmで樹脂を溶融押出し、ストランドを得た。得られたストランドを冷却固化、切断しリサイクルペレットに成形する。ここで、第2破砕材を熱風乾燥機又は真空乾燥機で、120℃で6〜8時間、乾燥させて、水分率を低くしてから、前記押出機に投入することにより、リサイクルペレットの水分含有率が例えば0.2%、好ましくは、0.1%以下となる。第1破砕材とリサイクルペレットの物性評価を行ったところ、表2の通りであった。リサイクルペレットにすると第1破砕材よりも引張強度と耐衝撃性が高くなったが、シャルピー衝撃試験はほぼ同様の効果が得られた。また、ガラス繊維Gが破断されず、ほぼ均一な長さを保持することが確認された。樹脂の劣化が少なく、ボイドの少ない溶融押出ができたためと考察される。ガラス繊維強化熱可塑性プラスチックのガラス繊維Gの直径については、3〜30μmのものが使用できる。
【0072】
【表2】
【0073】
上記のリサイクルペレットを(TECHNOVEL社製)のニ軸型押出機KZW20TWIN−30MG(L/D=30、スクリュー内径20mmΦ、スクリュー長さ60cm)に投入し、孔径3mmの2本の紡糸ノズルから溶融温度240℃、樹脂圧力1.6MPa、スクリューモータ回転数160rpm、スクリューモータ電流25.7Aで樹脂を溶融押出した。その後、水道水を満たした冷却水浴中を通過させ、未だ完全に固化しない状態の線材Fを、手動ワイヤー巻取り機で延伸度を調節しながら巻取り、直径が0.6〜1.4mmの線材を製造した。得られた線材Fを使用してカップ状ブラシ(軸方向全長98mm、ブラシ突出長34mm)に加工した。
【0074】
ガラス繊維Gの平均繊維長さ及びガラス繊維Gの配向については、リサイクル前後のGFRTPの配向、長さを、試料1 ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品 板材 (自動車樹脂部品から平面の部位を切削し取り出した)、試料2 ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品 U型材(自動車樹脂部品からR部の部位を切削し取り出した)、試料3 リサイクルペレットから製造した線材F(自動車樹脂部品を破砕した後、リサイクルペレットから製造した線材F)について、測定した結果(平均値と標準偏差)は下表の通りである。線材Fのガラス繊維Gの配向度のX線CT評価結果を図4図5に示す。また、リサイクルペレットのガラス繊維配向度のX線CT評価結果を図9図10に示す。リサイクルペレットのガラス繊維配向度X線CT(図9)は図10に対し長さで2倍、面積で4倍に拡大したものである。線材F中のガラス繊維Gも、リサイクルペレット中のガラス繊維Gも、ばらつきが大変狭く、配向度が高い。また、線材中のガラス繊維もリサイクルペレット中のガラス繊維も切れ目なく重なりあっている。
【0075】
【表3】
【0076】
ただし、経度φ、緯度θはガラス繊維Gの始点を原点とし、X軸が線材の中心軸方向であり、Y軸とZ軸はX軸と直交する軸であり、X軸の方向を基準として算出した。配向角αは経度φと緯度θのいずれか、大きな数値である。長さについては、ばらつきも考えるとほぼ等しいと考えて問題ない。右欄の数値は標準偏差を示す。ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック廃品は図7図8に示す通り、経度φのばらつきが大きく、平面内でばらばらの方向を向いている。また、緯度θについてはばらつきが小さく、平面内から大幅に外れたガラス繊維Gは存在していない。これらの結果からガラス繊維がランダムに散布された樹脂フィルム層が積層された成形品と考察される。一方、リサイクルペレットから製造した線材Fは図4図5に示す通り、ばらつきが大変狭く、配向の度合いが高い。また表3の結果も合わせると線材F中の平均ガラス繊維長は0.62mmでばらつきも少ない(標準偏差(σ)±0.18mm)。
【0077】
実施例1の実施例1のワーク表面仕上げ性については、評価Aが得られた。実施例1は錆がよりきめ細かく除去され、ワーク表面の仕上がりが良好であり、結果的には同じ処理時間でよく研磨された表面が得られることが確認され、評価Aが得られた。融着防止性については、評価Aが得られた。粒状物付着性については、評価A又はBが得られた。
【0078】
[実施例2]
実施例2は実施例1と同様であるが、カップ状ブラシに代えて、図11に示す通り、ねじりブラシ(軸方向全長80mm、ブラシ突出長30mm、直径10〜20mm)に加工した。このねじりブラシを用いて、図12図14に示す空洞を有する円柱状金属部材に対して、回転数1000rpmにて約5秒間、矢印箇所に示す通り、この円柱状の空洞の周辺の部位にねじりブラシを挿入し、バリ取り試験を行い、目にみえないような微細なバリも除去できたことを確認した。
【0079】
[実施例3]
実施例3は実施例1と同様であるが、リサイクルペレットに高密度ポリエチレン(HDPE)を、リサイクルペレットに対する重量%で0.5%、2%を混練したものである。リサイクルペレットの引張強さとシャルピー衝撃強さの比較を表4に示す。ポリアミド樹脂の柔軟性向上(シャルピー衝撃試験)を目的として、ポリオレフィン、たとえば高密度ポリエチレン(HDPE)を少量添加することで、GFRTP線材にHDPEを添加するものである。
【0080】
【表4】
【0081】
(1)は実施例1記載のリサイクルペレットを再掲し、(2)(3)は、このリサイクルペレットにHDPEを混練して製造した試料のデータである。(2)(3)は熱履歴が(1)より1回多い為、樹脂部分の熱劣化で全体の物性は低下していると推定できる。(2)(3)を比較すると引っ張り強さに差は無いが、(3)の衝撃強さは(2)の衝撃強さに対して、30%向上している。
【0082】
[実施例4]
実施例4のリサイクルペレットは実施例1と同様に製造するので、説明は援用する。実施例1〜3のニ軸型押出機に代えて、卓上型混練機MC15(オランダXplore Instruments BV製)にリサイクルペレットを投入し、高温溶融押出の設定温度を300℃でリサイクルペレットを完全溶融させ、スクリュー回転数が30r.p.mで樹脂を溶融押出した。円錐形の同方向2軸コニカルスクリュー(L/D=7.8〜19.1、スクリュー内径22〜9mmΦ、スクリュー長さ172mm)吐出孔径1mmの円錐形ノズルから線材を吐出させる。その後、自然落下させ、線材を巻取り(巻取速度5.3m/min)、直径が0.5〜0.6mmφの線材を製造した。線材Fは実施例1と同様のX線CTを得られた。得られた線材Fを使用してカップ状ブラシ(軸方向全長98mm、ブラシ突出長34mm)に加工した。
【0083】
実施例4の線材Fによれば、実施例1〜3と同様の特性以上の性能が得られたので、説明は援用する。
【0084】
[実施例5]
リサイクルペレットの代わりに、新品のガラス繊維強化ポリアミド樹脂ペレット(東レ(株)製PA6GF30 「6ナイロン/強化(ガラス繊維30%含有CM1011G-30」 )を用いる以外は、実施例4と同様に製造するので、説明は援用する。
【0085】
[比較例1]
自動車樹脂部品(PA6−GF30)の破砕材のガラス繊維配向度X線CT評価結果を図7図8に示す。
【0086】
ガラス繊維Gの配向性については、リサイクル原料である比較例1の自動車樹脂部品では、図7図8に示す通り、ガラス繊維Gの配向性が殆ど認められないが、実施例1では、図4図5に示す通り、ガラス繊維Gにかなり配向性が認められる。
【0087】
[比較例2]
市販の砥粒入りナイロンブラシ線材の横断面のX線CTを模式図にしたものを図15に示す。これによれば、砥粒Tの組織に鋭角部分と周辺に巣(ボイド)Sらしきものがあるが、本実施形態ではこのような組織は存在しないので、本実施形態のブラシを構成する線材Fとは、平均繊維長、配向性は全く相違しており、性能は明らかに低下すると考えられる。
【0088】
比較例2の線材について、ワーク表面仕上性の試験を行った結果、その評価はDであり、比較例2は実施例1〜4より劣ることがわかった。
【0089】
ワークとして錆びた鉄板を利用して摩耗試験を行い、ワーク表面の仕上げ性を比較した結果、比較例2の市販の砥粒入りナイロン線材FP使用のカップブラシでは、ワーク表面の錆落ちは粗い状態であり、同心円状の模様が生じ、評価Dである。
【0090】
以上の実施形態は、本発明の実施のための好ましい実施形態の例示である。また、当業者は、本発明の開示に鑑みて、本発明の要旨から離れることなく多数の改良、変更、置換、欠失、追加等が可能である。例えば、上記製造方法は一例を示したものであり、製造条件は、適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
リサイクル品を利用可能とし、耐摩耗性、ワーク表面仕上げ性に優れ、製造コストを大幅に削減した工業用ブラシを提供できる他、ガラス繊維の配向性に優れた点を活用した製品にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0092】
B・・・板材
F・・・線材
FP・・・砥粒入り線材
T・・・砥粒
G・・・ガラス繊維
P・・・プラスチック
X・・・線材長軸方向
α・・・配向角
θ・・・緯度
φ・・・経度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15