(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
押圧部と、前記押圧部の外周に連接する薄肉可動部と、前記薄肉可動部の外周に連接するベース部とを備え、前記押圧部は、前記ベース部を基準として一方の側に突出しており、少なくとも前記押圧部および前記薄肉可動部は、同一種類のゴム状弾性体からなり、前記押圧部における天面の少なくとも一部を含み、当該天面からその下方に向かって底面まで到達しない所定の深さまでの上部領域のゴム硬度が前記上部領域の下方に位置する下方領域のゴム硬度よりも高い押釦スイッチ用部材の製造方法であって、
少なくとも前記押圧部および前記薄肉可動部を前記ゴム状弾性体で成形し、前記押釦スイッチ用部材の素体を形成する形成工程と、
前記素体における前記押圧部の前記上部領域に電子線を照射して前記上部領域を前記下方領域よりも高硬度にする照射工程と、
を含む押釦スイッチ用部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来から公知の上記押釦スイッチ用部材101,111,121は、押釦スイッチ用部材として優れた機能を有しているが、より優れた押釦スイッチ用部材を望む市場の要請もある。その1つは、押圧部104と薄肉可動部102との剥離を防止することである。また、押圧部のさらなる薄型の要請もある。これらの要望に応えるべく、押圧部と薄肉可動部とを同一のゴム状弾性体(シリコーンゴム等)で構成して、ゴム特有の粘着性を低下させ、かつ高硬度化を図る特許文献4に開示の技術もある。しかし、紫外線の照射よりも深い部分まで低粘着化および高硬度化させて押圧部の低粘着性および高硬度を長期に持続させたいという要望がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、押圧部と薄肉可動部との剥離を防止し、押圧部の薄型を実現でき、かつ押圧部の低粘着性および高硬度を長期に持続可能な押釦スイッチ用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]上記目的を達成するための一実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法は、押圧部と、押圧部の外周に連接する薄肉可動部と、薄肉可動部の外周に連接するベース部とを備え、押圧部は、ベース部を基準として一方の側に突出しており、少なくとも押圧部および薄肉可動部は、同一種類のゴム状弾性体からなり、押圧部における天面の一部を少なくとも含む一部の箇所のゴム硬度が他の箇所のゴム硬度よりも高い押釦スイッチ用部材の製造方法であって、少なくとも押圧部および薄肉可動部をゴム状弾性体で成形し、押釦スイッチ用部材の素体を形成する形成工程と、素体における押圧部の一部の箇所に電子線を照射してその一部の箇所を他の箇所よりも高硬度にする照射工程と、を含む。
【0010】
[2]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法では、さらに、照射工程において、電子線の照射線量を100kGy以上としても良い。
【0011】
[3]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法では、さらに、照射工程において、電子線の照射線量を100kGy〜1200kGyの範囲内の照射線量としても良い。
【0012】
[4]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法では、さらに、照射工程において、電子線の照射線量を100kGy〜600kGyの範囲内の照射線量としても良い。
【0013】
[5]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法では、また、ゴム状弾性体はシリコーンゴムを含むものとし、形成工程を、架橋剤を含むシリコーンゴムを含む素体を加熱して架橋する工程としても良い。
【0014】
[6]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法では、また、ゴム状弾性体はシリコーンゴムを含むものとし、形成工程を、架橋剤非含有のシリコーンゴムを含む素体に電子線を照射して架橋する工程としても良い。
【0015】
[7]また、一実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、押圧部と、押圧部の外周に連接する薄肉可動部と、薄肉可動部の外周に連接するベース部とを備え、押圧部はベース部を基準として一方の側に突出しており、少なくとも押圧部および薄肉可動部は同一種類のゴム状弾性体からなり、押圧部の少なくとも一部の箇所のゴム硬度が他の箇所のゴム硬度よりも高い。
【0016】
[8]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材では、さらに、押圧部の少なくとも一部の箇所のゴム硬度は、他の箇所のゴム硬度よりも30%以上高くても良い。
【0017】
[9]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材では、押圧部の少なくとも一部の箇所を押圧部の全領域とし、その全領域のゴム硬度が他の箇所のゴム硬度よりも高くても良い。
【0018】
[10]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材では、また、ゴム状弾性体は、シリコーンゴムを含有するものでも良い。
【0019】
[11]別の実施形態に係る押釦スイッチ用部材では、また、ベース部に複数の薄肉可動部を備えると共に、その薄肉可動部の上方に押圧部を備え、1または複数の押圧部における一部の箇所のゴム硬度は、他の1または複数の押圧部における一部の箇所のゴム硬度に比べて高くても良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、押圧部と薄肉可動部との剥離を防止し、押圧部の薄型を実現でき、かつ押圧部の低粘着性および高硬度を長期に持続可能な押釦スイッチ用部材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る押釦スイッチ用部材およびその製造方法の各実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、各実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。各実施形態においては、基本的な構成および特徴が同じ構成要素については、実施形態をまたぎ同じ符号を使用し、説明を省略する場合がある。
【0023】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材およびその製造方法について説明する。
【0024】
図1は、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材の縦断面図(1A)および平面図(1B)をそれぞれ示す。
【0025】
第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1は、押圧部10と、押圧部10の外周に連接する薄肉可動部20と、薄肉可動部20の外周に連接するベース部30とを備える。押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30は、好ましくは、同一種類のゴム状弾性体からなる。また、ベース部30は、押圧部10や薄肉可動部20を構成する材料と異なる材料(ゴム状弾性体、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂のいずれでも良い)で構成されていても良い。その場合、少なくとも押圧部10および薄肉可動部20が同一種類のゴム状弾性体から成る。押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30は、別体にて成形して接合されても良く、あるいは一体成形されていても良い。本明細書における「同一種類のゴム状弾性体からなる」という意味は、成形前若しくは成形時におけるゴム状弾性体の材料が同一であるという意味である。
【0026】
第1実施形態および後述する他の実施形態において、ゴム状弾性体としては、好適には、シリコーンゴムの他に、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー、ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、又は、上記したものの複合物等を例示できる。これらの例示のゴム状弾性体の内、特に、シリコーンゴムが好ましい。また、ゴム状弾性体は、シリカ等のフィラーを含有していても良い。
【0027】
押圧部10は、ベース部30を基準として一方の側に突出している。この実施形態では、一方の側とは、押釦スイッチ用部材1を回路基板等に設置したときの当該回路基板と反対側の側に相当する上側若しくは表側である。押圧部10は、第1実施形態および後述する他の実施形態においては、平面視形状が円形である円柱形状の構成部材である。押釦スイッチ用部材1の設置箇所によっては、上側若しくは表側ではなく、左側、右側等の別の方向で称しても良い。
【0028】
押圧部10の少なくとも一部の箇所15のゴム硬度は、他の箇所のゴム硬度よりも高い。この実施形態では、一部の箇所15は、一例として、押圧部10の天面全域からその下方に向かって所定の深さ(押圧部10の上下方向の厚さの途中位置)までの領域である。ただし、押圧部10の一部の箇所15は、天面の一部を少なくとも含む箇所であれば、
図1に示す上記領域に限定されない。押圧部10の少なくとも一部の箇所15のゴム硬度は、当該一部の箇所15以外の他の箇所のゴム硬度よりも高く、より好ましくは30%以上高い。ここで、ゴム硬度は、JIS K 6253に準拠するタイプAデュロメータにより計測されたゴム硬度をいう。
図1を含め他の図においても、一部の箇所15を他の箇所と区別するために、薄墨(グレー色)にて表示している。
図1および
図1以降の断面図では、一部の箇所15を見やすくする観点で、斜線等のハッチングを省略している。「他の箇所」は、後述する電子線を照射しない電子線非照射領域を意味する。このため、他の箇所は、押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30であって、電子線が照射されていない部分、すなわち、高硬度化処理されていない部分ということになる。なお、ベース部30が押圧部10および薄肉可動部20と異なる材料で形成されている場合には、ベース部30は他の箇所には含まれない。
【0029】
この実施形態では、押圧部10の上下厚さ方向の上部領域を「少なくとも一部の箇所」と称している。したがって、押圧部10の上部領域は、押圧部10の上部領域の下方に位置する下方領域よりも高いゴム硬度を有する。一部の箇所15のゴム硬度は、他の箇所のゴム硬度よりも30%以上高い方が好ましく、30%以上125%以下の範囲で高いのがより好ましく、30%以上95%以下の範囲で高いのがさらにより好ましい。一部の箇所15のゴム硬度を他の箇所のゴム硬度よりも30%以上高くするのが好ましいのは、押圧部10の天面を押圧操作する際の粘着性を低減し、また高い防傷性を確保できるからである。また、ゴム硬度の上限を125%以下の範囲、さらには95%以下の範囲にした方がより好ましいのは、押圧部10の天面にひび割れ等が生じる確率を低くできるからである。ただし、かかる上限は必須ではなく、ゴム状弾性体の選択によって、ひび割れの可能性が低い場合あるいは製品の歩留まりを気にしない場合には、上記上限値を要しない。
【0030】
突出部12は、押圧部10の下側(若しくは裏側)から回路基板等に向けて突出する部材である。突出部12は、押釦スイッチ用部材1を押釦スイッチに組み込んだときに、押圧部10の直下に配置される構成要素(例えば、電極、メタルドームあるいは他種類のスイッチ)に接触してスイッチをオン・オフ可能な部分となる。突出部12は、第1実施形態および後述する他の実施形態においては、平面視形状が円形の円柱形状部材である。突出部12は、押圧部10と一体であっても、あるいは別体であっても良い。突出部12が押圧部10と別体である場合には、例えば、突出部12は、好ましくは押圧部10の裏側に接着されている。また、突出部12は、導電性を有する物質(例えば、金属や導電性のゴム状弾性体)から成るものであっても良い。なお、突出部12は、他の箇所に含まれない。
【0031】
薄肉可動部20は、押圧部10の外周に連接する部材である。薄肉可動部20は、好ましくは、押圧部10およびベース部30よりも薄肉に形成されている。薄肉可動部20は、押圧部10を回路基板等に向けて押圧したときに弾性変形して、押圧部10への押圧を解除したときに元の形状に戻る弾性変形部材である。薄肉可動部20は、他の箇所に含まれる部分であって、押圧部10の一部の箇所15のゴム硬度よりも低いゴム硬度を有する。
【0032】
ベース部30は、薄肉可動部20の外周に連接する。ベース部30は、押釦スイッチ用部材1を押釦スイッチに組み込むときに、押釦スイッチ用部材1を回路基板等に固定する部分である。第1実施形態および他の実施形態においては、ベース部30の上面視形状は四角形である。ベース部30には、取り付けのための孔や突起等が形成されていても良い。
【0033】
次に、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法について説明する。
【0034】
図2は、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法のフローチャートを示す。
図3は、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法を示す。
図3(a)は素体の形成工程後の縦断面図であり、
図3(b)は照射工程において電子線を照射するときの素体の縦断面図であり、
図3(c)は照射工程後の押釦スイッチ用部材の縦断面図である。
【0035】
第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法は、押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30をゴム状弾性体で成形し、押釦スイッチ用部材1の素体1aを形成する形成工程(S100)と、素体1aにおける押圧部10の一部の箇所15に電子線eを照射してその一部の箇所15を他の箇所(この実施形態では、押圧部10の一部の箇所15より下方の領域、薄肉可動部20およびベース部30)よりも高硬度にする照射工程(S200)と、を含む。なお、押釦スイッチ用部材1の製造方法は、形成工程S100と照射工程S200とを含む限り、他の工程をさらに含んでいても良い。
【0036】
(1)形成工程S100
形成工程S100は、
図3(a)に示すように、押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30をゴム状弾性体で成形し、押釦スイッチ用部材1の素体1aを形成する工程である。ただし、ベース部30は含まれなくとも良い。
【0037】
第1実施形態においては、ゴム状弾性体は、シリコーンゴムを含有する。形成工程S100は、好ましくは、架橋剤を含有するシリコーンゴムを加熱して、押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30の連結体を成形する工程である。また、変形例として、形成工程S100を、押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30から成る架橋剤非含有のシリコーンゴム製の素体1aに対して電子線を照射して成形する工程としても良い。架橋剤および電子線にはシリコーンゴムの架橋を促進する効果があるため、押釦スイッチ用部材1の種類や原料の性質等に応じて、適切な成形方法を選択できる。なお、押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30を成形する方法としては、成形用の金型を用いた方法を好適に選択できる。
【0038】
また、突出部12が押圧部10と一体である場合には、突出部12も押圧部10等とともに一体として成形することができる。一方、突出部12が押圧部10と別体である場合には、例えば、突出部12を素体1aの成形後に押圧部10に接着しても良い。当該接着は、形成工程の中で行っても良く、あるいは別の工程を設けてその工程中に行っても良い。第1実施形態においては、突出部12は、押圧部10と別体であって、形成工程の中で押圧部10との接着を行っている。
【0039】
(2)照射工程S200
照射工程S200は、
図3(b)に示すように、素体1aの一部の箇所15に電子線eを照射して一部の箇所15を高硬度化する工程である。この実施形態の照射工程S200では、押圧部10の天面に対して電子線eを照射する。なお、電子線eの加速電圧あるいは照射時間を調節することで、一部の箇所15の厚さを調節することができる。電子線eの加速電圧は、例えば、200kV〜500kVとすることができる。電子線eの照射時間は、3秒以下、好ましくは2.5秒以下、さらに好ましくは2.3秒以下、もっと好ましくは2.0秒以下である。電子線eの照射時間を短くすることにより、生産性を向上できる。
【0040】
照射工程S200では、電子線eの照射線量は、好ましくは、100kGy以上、より好ましくは100kGy〜1200kGyの範囲、さらにより好ましくは100kGy〜600kGyの範囲である。電子線eの照射線量を100kGy以上にすることで、一部の箇所15の架橋を十分に進行させて高硬度化を実現できる。また、電子線eの照射線量の上限を1200kGy、さらには600kGyとすることで、一部の箇所15のひび割れ等を有効に防止できる。なお、照射線量を増やすために、同じ位置に電子線eを複数回照射しても良い。
【0041】
また、電子線eに代えて、例えば、波長172nmの真空紫外線を用いても良い。ただし、電子線eは、物質の色(光学特性)によって透過性が左右されないので、上記真空紫外線に比べると優位である。
【0042】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る押釦スイッチ用部材およびその製造方法について説明する。第2実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、押圧部の上下方向の厚さ全域にわたって、その硬度を他の箇所(薄肉可動部およびベース部)より高めている点で、第1実施形態と異なる。また、第2実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法は、押圧部の天面から照射する電子線の照射線量を第1実施形態の製造方法に比べて多くしている点で第1実施形態と異なる。これらの点以外については、第1実施形態と共通するため、その共通する部分の説明および図示を省略する。
【0043】
図4は、第2実施形態に係る押釦スイッチ用部材の縦断面図を示す。
【0044】
この実施形態に係る押釦スイッチ用部材2は、押圧部10の全領域を、他の箇所(薄肉可動部20およびベース部30)の硬度よりも高い硬度を有する一部の箇所15とする。高硬度化された一部の箇所15は、押圧部10の天面全域から下面(突出部12と接する面)に至るまでの部位に形成されている。
【0045】
この実施形態に係る押釦スイッチ用部材2は、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1と同様の製造工程を経て製造できる。ただし、照射工程S200は第1実施形態のそれとは異なる。この実施形態の照射工程S200では、電子線eの加速電圧および/または照射時間をより増加させて、押圧部10の上下厚さ方向にわたって架橋をより進行させるようにしている。このように、押釦スイッチ用部材2は、押圧部10の全域を高硬度化させているので、長期間の使用に伴い、例えば、押圧部10の押圧操作の繰り返しによって、その表面が擦り減り高硬度化領域が消失して粘着感を生じるという状況を防止できる。
【0046】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材およびその製造方法について説明する。第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、押圧部の天面の一部を除きその厚さ方向の途中位置まで高硬度化させている点で、第1実施形態と異なる。また、第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法は、押圧部の天面の一部に電子線を照射させない点で第1実施形態と異なる。これらの点以外については、第1実施形態と共通するため、その共通する部分の説明および図示を省略する。
【0047】
図5は、第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材の縦断面図(5A)および平面図(5B)をそれぞれ示す。
【0048】
この実施形態に係る押釦スイッチ用部材3は、押圧部10の天面の一部として例示の「A」という文字領域16を除いて、他の箇所(押圧部10の下方領域、薄肉可動部20およびベース部30)の硬度よりも高い硬度の一部の箇所15を有する。高硬度化された一部の箇所15は、押圧部10の天面から厚さ方向の途中位置までに形成されている。この実施形態では、押圧部10の平面視にて文字領域16から深さ方向の非高硬度化領域は、一部の箇所15の厚さの上方のみに形成されている。しかし、文字領域16から一部の箇所15の上下深さ方向全長にわたって非高硬度化領域が形成されていても良い。特に、高硬度化領域である一部の箇所15が押圧部10の天面から極めて薄い領域に形成されている場合には、文字領域16から一部の箇所15の上下深さ方向全長にわたって非高硬度化領域が形成されやすい。一方、高硬度化領域である一部の箇所15が押圧部10の天面から下面に至る厚さに形成されている場合には(第2実施形態を参照)、文字領域16から一部の箇所15の上下深さ方向の途中までが非高硬度化領域に形成されやすい。
【0049】
文字領域16を除くように押圧部10の高硬度化を行う場合、照射工程(S200)において、文字領域16を避けて電子線eを照射する方法、あるいは文字領域16を電子線eの遮蔽材料でマスクして押圧部10の天面全域に電子線eを照射する方法を採用するのが好ましい。
【0050】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材およびその製造方法について説明する。第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、2つの押圧部における各高硬度化された一部の箇所の厚みを変えた2つのスイッチ部品を水平方向に連接した構造を有する。第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、上記の点以外については、第1実施形態のそれと共通するため、その共通する部分の説明および図示を省略する。
【0051】
図6は、第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材の縦断面図(6A)および平面図(6B)をそれぞれ示す。
【0052】
第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材4は、
図6に示すように、押圧部10aと突出部12aと薄肉可動部20aとを備えた第1スイッチ部品4aと、押圧部10bと突出部12bと薄肉可動部20bとを備えた第2スイッチ部品4bとを、ベース部30を共有する形態で水平方向に連接した構造を有する。
【0053】
第1スイッチ部品4aの押圧部10aは、天面からその上下厚さ方向半分の位置を超える薄墨領域を他の箇所(押圧部10aの薄墨領域より下方領域、薄肉可動部20aおよびベース部30)よりも高硬度化させた一部の箇所15aを備える。一方、第2スイッチ部品4bは、天面からその上下厚さ方向半分の位置よりも上方の薄墨領域を他の箇所(押圧部10bの薄墨領域より下方領域、薄肉可動部20bおよびベース部30)よりも高硬度化させた一部の箇所15bを備える。すなわち、押圧部10aと押圧部10bとを比較すると、押圧部10bに形成された高硬度化領域としての一部の箇所15bの方が、押圧部10aに形成された高硬度化領域としての一部の箇所15aよりも薄い。このような高硬度化領域の異なる形態を、本願では「一部の箇所のパターンが異なる形態」と称する。すなわち、「一部の箇所のパターンが異なる形態」とは、1つの押圧部10aと他の押圧部10bとを比較したときに、そこに形成されている一部の箇所15a,15bの位置あるいは大きさ等が同一ではなく、異なる形態であることをいう。なお、押釦スイッチ用部材4では、ベース部30に2つの薄肉可動部20a,20bを備えると共に、各薄肉可動部20a,20bの上方に押圧部10a,10bを備え、押圧部10aにおける一部の箇所15aのゴム硬度は、他の押圧部10bにおける一部の箇所15bのゴム硬度に比べて高く、若しくは低くても良い。
【0054】
なお、押釦スイッチ用部材4は、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法と基本的に同様の製造方法、すなわち、形成工程S100において押釦スイッチ用部材4に対応する素体(押圧部10a,10b、薄肉可動部20a,20bおよびベース部30を備える成形体)を形成し、これに続く照射工程S200において一部の箇所15a,15bを形成するという方法により製造することができる。互いに形態の異なる一部の箇所15a,15bを形成するためには、それぞれの形成時において電子線eを照射する照射線量を変えると良い。
【0055】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る押釦スイッチ用部材およびその製造方法について説明する。第5実施形態に係る押釦スイッチ用部材は、第4実施形態の第2スイッチ部品を、全く高硬度化させていない押圧部を有する第3スイッチ部品に代えた点を除き、第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材と共通する。このため、当該共通する部分については、その説明および図示を省略する。
【0056】
図7は、第5実施形態に係る押釦スイッチ用部材の縦断面図(7A)および平面図(7B)をそれぞれ示す。
【0057】
第5実施形態に係る押釦スイッチ用部材5は、
図7に示すように、押圧部10aと突出部12aと薄肉可動部20aとを備えた第1スイッチ部品5aと、押圧部10cと突出部12cと薄肉可動部20cとを備えた第3スイッチ部品5cとを、ベース部30を共有する形態で水平方向に連接した構造を有する。
【0058】
押釦スイッチ用部材5は、第1スイッチ部品5aの押圧部10aの天面から上下厚さ方向中間を越えた位置に至る領域に、一部の箇所15aを備える。当該一部の箇所15aは、他の箇所(押圧部10aの一部の箇所15aより下方の領域、薄肉可動部20aおよびベース部30)よりも硬度の高い部分である。第1スイッチ部品5aは、第4実施形態の第1スイッチ部品4aと同様の形態を備える。一方、第3スイッチ部品5cの押圧部10cは、全く高硬度化されておらず、一部の箇所15aに相当する部分を有していない。このように、押釦スイッチ用部材5は、一部のスイッチ部品(この実施形態では、第1スイッチ部品5a)のみに一部の箇所15aを備え、他のスイッチ部品(この実施形態では、第3スイッチ部品5c)に一部の箇所を設けていない形態も、本願では「一部の箇所のパターンが異なる形態」と称する。すなわち、「一部の箇所のパターンが異なる形態」とは、1つの押圧部10aと他の押圧部10cとを比較したときに、そこに形成されている一部の箇所の位置あるいは大きさ等が同一ではなく、異なる形態であることをいう。
【0059】
なお、押釦スイッチ用部材5は、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材の製造方法と基本的に同様の製造方法、すなわち、形成工程S100において押釦スイッチ用部材5に対応する素体(押圧部10a,10c、薄肉可動部20a,20cおよびベース部30を備える成形体)を形成し、これに続く照射工程S200において一方の押圧部10aのみに一部の箇所15aを形成するという方法により製造することができる。
【0060】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明に係る押釦スイッチ用部材は、各実施形態に制約されることなく、例えば、下記のように種々変形して実施可能である。
【0061】
上述の各実施形態における押圧部10,10a,10b,10c(押圧部10等という)、突出部12,12a,12b,12c(押圧部12等という)、薄肉可動部20,20a,20b,20c(薄肉可動部20等という)、ベース部30の各形状は例示であり、それぞれ用途等に応じた種々の形状とすることができる。また、押圧部10等、突出部12等および薄肉可動部20等の平面視形状はそれぞれ同一形状である必要はなく、例えば、押圧部10等および突出部12等の平面視形状を円形とし、薄肉可動部20等の外縁部の平面視形状を四角形とするようにしてもよい。逆に、押圧部10等、突出部12等および薄肉可動部20等の平面視形状を全て同じ円形あるいは同じ四角形としても良い。
【0062】
一部の箇所15,15a,15bは例示であり、用途等に応じた種々の位置あるいは大きさに形成することができる。
【0063】
上述の第4実施形態においては、押圧部10a,10bおよび薄肉可動部20a,20bの各数を2つのみとしているが、3つ以上であってもよい。これは、第5実施形態においても同様である。また、そのような場合、1または複数の押圧部における一部の箇所のゴム硬度は、他の1または複数の押圧部における一部の箇所のゴム硬度に比べて高くしても良い。また、第4実施形態および第5実施形態では、ベース部30を共有する押釦スイッチ用部材4,5を例示しているが、第1スイッチ部品4aと第2スイッチ部品4bとにそれぞれ別のベース部30を設け、あるいは第1スイッチ部品5aと第3スイッチ部品5cとにそれぞれ別のベース部30を設けても良い。
【0064】
上述の各実施形態においては、ゴム状弾性体はシリコーンゴムを含有するものとしたが、必ずしもシリコーンゴムを含有する必要はない。ゴム状弾性体は、電子線eの照射によりゴム硬度を高くできる材料であり、かつ、スイッチ操作に適した弾性変形可能な材料であれば良い。
【0065】
また、各実施形態および各変形例における押釦スイッチ用部材1〜5(押釦スイッチ用部材1等という)の各構成要素は、組み合わせ不可能な場合を除き、互いに任意に組み合わせることができる。例えば、第2実施形態に係る押釦スイッチ用部材2(
図4を参照)を、第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材4(
図6を参照)の第1スイッチ部品4aあるいは第2スイッチ部品4bに代用しても良い。同様に、第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材3(
図5を参照)を、第5実施形態に係る押釦スイッチ用部材5(
図7を参照)の第1スイッチ部品5aあるいは第3スイッチ部品5cに代用しても良い。
【実施例】
【0066】
次に、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下の実施例のないように制約されるものではない。
【0067】
(実施例1〜6および比較例1)
(1)押釦スイッチ用部材用の素体の形態
図8は、各実施例および比較例にて使用した押釦スイッチ用部材用の素体の縦断面図を示す。
【0068】
素体1bは、シリコーンゴムにて形成された。ここで、素体1bを構成する円柱形状の押圧部10の直径aは3.5mmである。素体1bの押圧部10の天面からベース部30の底面までの高さbは2.6mmである。突出部12の底面からベース部30の底面までの距離cは0.8mmである。ベース部30の厚さdは0.7mmである。薄肉可動部20の下方開口面の直径eは、5.2mmである。また、薄肉可動部20の肉厚は0.23mmである。電子線の照射線量による効果を確かめるために、複数個の素体1bを形成した。
【0069】
(2)押釦スイッチ用部材の素体の製造方法
最初に、
図8に示す素体1bを、第1実施形態における形成工程S100に相当する方法により形成した。素体1bを構成するための硬化性シリコーンゴム組成物(ミラブルコンパウンドである)として、信越化学工業株式会社製のKE−941−U(品番)100質量部に対し加硫剤として同社製のC−8(品番)2質量部を添加したものを用いた。素体1bは、金型を用いて成形した。硬化は、175℃における10分間の一次加硫、およびその後の200℃における60分間の二次加硫により行った。当該成形後、押圧部10の下面に突出部12を接着し、素体1bを完成した。
【0070】
(3)薄肉可動部の高硬度化方法
素体1bの押圧部10に種々の条件にて電子線を照射した。電子線の照射には、株式会社NHVコーポレーション製の電子線照射装置(型式:EPS−3000)を用いた。電子線は、押圧部10の天面に対して照射した。電子線の加速電圧は、3000kVとした。ビーム電流は、12.9mA、電子線照射の処理スピードは、3m/minとした。
【0071】
電子線の照射線量は、0〜1200kGyの範囲内で7段階に変化させて、押釦スイッチ用部材を完成させた。電子線を照射していない場合(照射線量:0kGy)を比較例1、照射線量100kGyを照射した場合を実施例1、照射線量200kGyを照射した場合を実施例2、照射線量300kGyを照射した場合を実施例3、照射線量600kGyを照射した場合を実施例4、照射線量900kGyを照射した場合を実施例5、照射線量1200kGyを照射した場合を実施例6とした。
【0072】
(4)素体の評価
上記条件にて作製した複数の素体1bについて、それぞれの押圧部10のゴム硬度の評価および官能評価を行った。ゴム硬度は、JIS K 6253に準拠するタイプAデュロメータにより計測して求めた。ゴム硬度については、1つのサンプルにつき3箇所の測定を行い、その平均値をそのサンプルのゴム硬度とした。こうして求めたゴム硬度は、後述の表1における「照射前」の硬度を意味する。
【0073】
(5)押釦スイッチ用部材の評価
照射線量を変化させて作製した7種類の押釦スイッチ用部材について、押圧部10のゴム硬度を測定した。測定条件は、電子線の照射前と同様である。測定したゴム硬度は、表1における「照射後」の硬度を意味する。また、上記7種類の押釦スイッチ用部材について、押圧部10の天面を押圧操作した際のタック感を評価した(官能試験)。かかる官能試験では、タック感(粘着感ともいう)がほとんど感じられない場合を「◎」と、タック感がわずかに感じられるものの操作感触に悪影響がない場合を「○」と、タック感が大きく操作感触に違和感がある場合を「×」とした。
【0074】
照射線量を変化させて作製した押釦スイッチ用部材の耐磨耗性、圧縮永久歪みおよび耐油性については、直接測定できないので、各測定に適した形状のサンプルを作製して評価した。まず、耐摩耗性については、縦120mm×横120mm×厚さ2mmのサンプルを用意し、押圧部10と同様の電子線照射を実施した後、磨耗試験を行って評価した。試験機には、株式会社東洋精機製作所製のロータリーアブレーションテスタ(型式:TS−2)を用いた。磨耗輪をH−22に、荷重を9.8N(片側4.9N)に、回転速度を60rpmに、回転数を1000回転にそれぞれ設定し、JIS K 7204に準拠して耐摩耗性の評価を行った。表1に示す磨耗試験の評価において、試験後の質量減少量が0.025g未満の場合には「○」、同減少量が0.025g以上の場合には「×」とした。
【0075】
圧縮永久歪みについては、直径25mm×厚さ6.3mmの円板形状のサンプルを用意し、押圧部10と同様の電子線照射を実施した後に評価した。圧縮永久歪みの評価は、温度:180℃、時間:22時間、圧縮量:25%として、JIS K 6262に準拠して行った。
圧縮永久歪み試験後に、割れやひびが全く確認できない場合には「◎」と、ひびが若干認められるが割れが確認できず問題ないレベルであると認められる場合には「○」と、ひびと割れが若干認められるが問題ないレベルであると認められる場合には「△」と、それぞれ評価した。
【0076】
耐油試験については、縦35mm×横52mm×厚さ2mmのサンプルを用意し、押圧部10と同様の電子線照射を実施した後、次の条件下で評価した。オイルにはIRM903を用いた。オイルとの接触条件としては、温度は150℃とし、時間は72時間とした。耐油性は、試験前後の体積変化率で評価し、体積変化率が低いほどオイルによるサンプルの膨潤が少ないと判断した。具体的には、表1に示す耐油性の評価において、試験前後の体積変化率が29%未満の場合に「◎」と、同体積変化率が29%以上38%未満の場合に「○」と、同体積変化率が38%以上の場合に「×」と、それぞれ評価した。
【0077】
表1は、各実施例および比較例の評価結果を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
電子線の照射線量が増加するほど、ゴム硬度が高くなる傾向が認められた。官能評価および耐油性については、ゴム硬度が高いほど良好な結果であった。耐摩耗性については、電子線の照射線量によらずほぼ同程度の良好な結果が得られた。圧縮永久歪みについては、電子線の照射線量が100kGy〜1200kGyの範囲で大きな問題は無かったが、100kGy〜600kGyでより好ましく、100kGy〜200kGyでさらに好ましい結果となった。圧縮永久歪みを考慮すると、一部の箇所15のゴム硬度は、他の箇所のゴム硬度よりも31%以上122%以下の範囲で高いのが好ましく、31%以上94%以下の範囲で高いのがより好ましく、31%以上44%以下の範囲で高いのがさらにより好ましい。