特許第6829675号(P6829675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6829675旋盤用工具ホルダ及びこの工具ホルダを備えた旋盤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6829675
(24)【登録日】2021年1月26日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】旋盤用工具ホルダ及びこの工具ホルダを備えた旋盤
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/24 20060101AFI20210128BHJP
   B23Q 5/04 20060101ALI20210128BHJP
   B23B 29/04 20060101ALI20210128BHJP
   B23B 3/16 20060101ALI20210128BHJP
   B23B 21/00 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   B23B29/24 A
   B23Q5/04 520D
   B23B29/04 Z
   B23B3/16 Z
   B23B21/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-204187(P2017-204187)
(22)【出願日】2017年10月23日
(65)【公開番号】特開2019-76974(P2019-76974A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2019年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】山根 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽平
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 敏和
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−095514(JP,A)
【文献】 特開2007−075922(JP,A)
【文献】 実開昭54−128996(JP,U)
【文献】 特開2002−205202(JP,A)
【文献】 再公表特許第2008/016076(JP,A1)
【文献】 米国特許第05188493(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第107073587(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 29/24
B23B 3/16
B23B 21/00
B23B 29/04
B23Q 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と、
タレットと、
前記主軸とタレットとを前記主軸の中心軸と平行なZ軸方向に相対的に移動させるZ軸送り機構と、
前記主軸とタレットとを前記Z軸と直交するX軸方向に相対的に移動させるX軸送り機構と、
前記主軸とタレットとを前記Z軸と直交し、且つ前記X軸とは非直交状態で交差するY’軸方向に相対的に移動させるY’軸送り機構と、
工具を保持する工具保持部を有し、前記タレットに装着される複数の工具ホルダとを備えた旋盤であって、
前記X軸送り機構とY’軸送り機構との複合動作により、前記主軸とタレットとを前記X軸及びZ軸と直交するY軸方向に相対的に移動させることができるとともに、前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸をX軸−Z軸平面内に配置することができ、
少なくとも一つの前記工具ホルダは、一つの工具を保持する単一の工具保持部を有し、該工具保持部の前記工具を保持する保持位置が、前記タレットの回転によって加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、一方の側にオフセットした状態となる位置に設定され
オフセットして保持された前記工具を用いて旋削加工する際には、前記Y’軸送り機構により、該工具の刃先基準位置を前記主軸の中心軸が含まれる前記X軸−Z軸平面内に位置させた状態で、前記X軸送り機構及びZ軸送り機構により前記主軸とタレットとを相対的に移動させて旋削加工を行うように構成されていることを特徴とする旋盤。
【請求項2】
前記タレットに装着された第1工具ホルダと、この第1工具ホルダの一方の側に隣接するように前記タレットに装着された第2工具ホルダとの、少なくとも二つの工具ホルダを備え、
前記第2工具ホルダは、一つの工具を保持する単一の工具保持部を有し、該工具保持部の前記工具を保持する保持位置が、前記加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、前記第1工具ホルダから遠ざかる側にオフセットした状態となる位置に設定されていることを特徴とする請求項1記載の旋盤。
【請求項3】
前記タレットに装着された第1工具ホルダと、この第1工具ホルダの両側にそれぞれ隣接するように前記タレットに装着された第2及び第3工具ホルダとの、少なくとも三つの工具ホルダを備え、
前記第2及び第3工具ホルダは、それぞれ一つの工具を保持する単一の工具保持部を有し、該工具保持部の前記工具を保持する保持位置が、前記加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、前記第1工具ホルダから遠ざかる側にオフセットした状態となる位置にそれぞれ設定されていることを特徴とする請求項1記載の旋盤。
【請求項4】
オフセットして保持される前記工具ホルダは、前記工具を保持する保持位置が、前記タレットの回転によって加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、前記X軸送り機構及びY’軸送り機構とは反対側にオフセットした状態となる位置に設定されていることを特徴とする請求項1記載の旋盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤のタレットに装着される工具ホルダ、及びこの工具ホルダが装着された旋盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な旋盤は、下記特許文献1にも開示されるように、多角柱体のタレットを備えており、このタレットに、例えば、端面や外径を加工するためのバイト、内径加工用のバイト、溝加工用のバイト、ドリルやエンドミルに代表される回転工具といった多種多様な工具が取り付けられ、それぞれの加工に供される。
【0003】
また、この旋盤は、ワークを保持した主軸とタレットとが、一般的には、主軸の中心軸に沿ったZ軸方向、及び主軸の中心軸と直交する方向のX軸方向に相対的に移動するように構成され、更には、X軸及びZ軸の双方と直交するY軸方向に相対移動可能に構成されているものもあり、このような相対移動を通じて主軸に保持されたワークが、タレットに装着された工具によって加工される。
【0004】
各工具は、工具ホルダを介してタレットに装着されており、タレットが回転して加工位置に割り出されたときに、バイトなどの固定工具の場合には、その刃先がタレットの回転中心軸を含むX軸−Z軸平面内に位置するように前記タレットに装着され、また、回転工具の場合には、工具の中心軸がタレットの回転中心軸を含むX軸−Z軸平面内に位置するように前記タレットに装着される。
【0005】
そして、このような多角柱体のタレットを備えた旋盤の場合、タレットの各取付位置に工具を装着することによって多様な加工を実現することができ、また、タレットに装着された工具によって加工できる範囲であれば、工具交換などの段取り作業を伴うことなく、多様なワークを加工することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−345202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、旋盤で加工することができるワークの最大加工外径は、主軸モータに作用させることができる最大負荷等を基に工作機械メーカによって設定されているが、この他に、タレットに装着される各工具の突き出し量や、当該工具の配置によっても、その制約を受ける。即ち、各工具を加工位置に割り出して加工する際に、当該加工工具に隣接する隣接工具がワークと干渉することが起こり得るが、この場合、加工可能なワークの最大加工外径は、当該加工工具によってワークを加工する際に、当該ワークが隣接工具と干渉しないワーク外径となる。
【0008】
ところが、工具の突き出し量や使用する工具の配置に一定の制約があり、これに応じてワークの最大加工外径が制約される場合であっても、この工具に起因した最大加工外径が、旋盤の加工能力に対応した最大加工外径よりも小さい場合には、タレット上での、従前からの常識的な工具の配置を改良することによって、当該工具に起因した最大加工外径を拡大できる可能性がある。そして、このようにすることによって旋盤の潜在化した加工能力をより発揮させることができ、旋盤の効率的な運用が可能となる。
【0009】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであって、タレット上での工具の配置を改良することができ、これによって当該工具に起因した最大加工外径を拡大させることが可能な旋盤用工具ホルダ及び当該工具ホルダを備えた旋盤の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、一つの工具を保持する単一の工具保持部を有し、少なくとも主軸の中心軸と平行なZ軸方向及びこのZ軸と直交するX軸方向に移動可能になった旋盤のタレットに装着される工具ホルダであって、
前記工具保持部は、その前記工具を保持する保持位置が、前記タレットの回転によって加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、一方の側にオフセットした状態となる位置に設定された工具ホルダに係る。
【0011】
また、本発明は、主軸と、タレットと、前記主軸とタレットとを前記主軸の中心軸と平行なZ軸方向に相対的に移動させるZ軸送り機構と、前記主軸とタレットとを前記Z軸と直交するX軸方向に相対的に移動させるX軸送り機構と、工具を保持する工具保持部を有し、前記タレットに装着される複数の工具ホルダとを備えた旋盤であって、
少なくとも一つの前記工具ホルダは、一つの工具を保持する単一の工具保持部を有し、当該工具保持部の前記工具を保持する保持位置が、前記タレットの回転によって加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、一方の側にオフセットした状態となる位置に設定された旋盤に係る。
【0012】
本発明に係る工具ホルダ及び旋盤では、当該工具ホルダにより保持された工具は、タレットの回転によって加工位置に割り出されたときに、その刃先基準位置が、前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、一方の側にオフセットした位置となる。尚、前記刃先基準位置は、工具の加工作用を成す先端部位を意味しており、バイトなど固定工具の場合には、加工作用を成す刃先位置が該当し、ドリルやエンドミルといった回転工具の場合には、工具の中心軸と先端部との交点位置が該当する
【0013】
そして、本発明では、このような旋盤において、前記タレットには、第1工具ホルダと、この第1工具ホルダの一方の側に隣接する第2工具ホルダとの少なくとも二つの工具ホルダが装着され、前記第2工具ホルダは、一つの工具を保持する単一の工具保持部を有し、当該工具保持部の前記工具を保持する保持位置が、前記加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、前記一方の側、即ち、前記第1工具ホルダから遠ざかる側にオフセットされた態様を採ることができる。
【0014】
この態様の旋盤では、前記第1工具ホルダに保持された工具(第1工具)を加工位置に割り出した際に、前記第2工具ホルダに保持された工具(第2工具)は、これを従来の工具ホルダによって保持した場合に比べて、その刃先基準位置が当該第1工具の加工位置から前記一方側(オフセット側)に遠ざかった状態となる。
【0015】
斯くして、第1工具を加工位置に割り出して加工する際には、第2工具は、これを従来の工具ホルダによって保持した場合に比べて、ワークから離れた位置に在り、このため、当該第1工具によって加工可能なワークの最大加工外径は、第2工具を従来の工具ホルダにより保持した場合に比べて、大径になる。言い換えれば、このようにすることで、より大径のワークを加工することが可能となり、これにより当該旋盤に備えられる本来の加工能力を発現させることができ、旋盤の効率的な運用が可能となる。
【0016】
また、本発明に係る旋盤では、前記タレットに、第1工具ホルダと、この第1工具ホルダの両側にそれぞれ隣接する第2及び第3工具ホルダとの少なくとも三つの工具ホルダが装着され、前記第2及び第3工具ホルダは、それぞれ一つの工具を保持する単一の工具保持部を有し、当該工具保持部の前記工具を保持する保持位置が、前記加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの回転中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、それぞれ前記第1工具ホルダから遠ざかる側にオフセットされた態様を採ることができる。
【0017】
この態様の旋盤では、前記第1工具ホルダに保持された工具(第1工具)を加工位置に割り出した際に、前記第2工具ホルダに保持された工具(第2工具)、及び前記第3工具ホルダに保持された工具(第3工具)は、これらを従来の工具ホルダによって保持した場合に比べて、その刃先基準位置が、それぞれ前記第1工具の加工位置からオフセット側に遠ざかった状態となる。
【0018】
斯くして、第1工具を加工位置に割り出して加工する際には、その両側に隣接する第2工具及び第3工具は、これらを従来の工具ホルダによって保持した場合に比べて、それぞれワークから離れた位置に在り、このため、当該第1工具によって加工可能なワークの最大加工外径は、第2工具及び第3工具を従来の工具ホルダにより保持した場合に比べて、大径になる。即ち、このようにすることで、より大径のワークを加工することが可能となり、これにより当該旋盤に備えられる本来の加工能力を発現させることができ、旋盤の効率的な運用が可能となる。
【0019】
また、本発明に係る前記旋盤は、前記主軸とタレットとを、前記Z軸と直交し、且つ前記X軸と非直交状態で交差するY’軸方向に相対的に移動させるY’軸送り機構を更に備え、前記X軸送り機構及びY’軸送り機構の複合動作によって、前記主軸とタレットとを、前記X軸及びZ軸と直交するY軸方向に移動させるように構成され、
前記少なくとも一つの工具ホルダは、一つの工具を保持する単一の工具保持部を有し、当該工具保持部の前記工具を保持する保持位置が、前記タレットの回転によって加工位置に割り出されたときに、保持した前記工具の刃先基準位置が前記主軸の中心軸及び前記タレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、前記X軸送り機構及びY’軸送り機構とは反対側にオフセットされた態様を採ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、旋盤を構成する構造物を改造することなく、工具ホルダが保持する工具の保持位置を、主軸の中心軸及びタレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、一方側にオフセットさせることで、より大径のワークを加工することが可能となる。そして、このようにすることで当該旋盤に備えられる本来の加工能力を発現させることができ、旋盤の効率的な運用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る旋盤を示した側面図である。
図2】本実施形態に係る旋盤が奏する作用について説明するための説明図である。
図3】本実施形態に係る工具ホルダを一部断面で示した図である。
図4図3における矢視A方向の図である。
図5】他の実施形態に係る工具ホルダを一部断面で示した図である。
図6図5における矢視B−B方向の断面図である。
図7】本実施形態に係る工具ホルダをタレットに装着した状態を示す図である。
図8】本実施形態に係る工具ホルダをタレットに装着した状態を示す図である。
図9】本実施形態に係る旋盤が奏する作用について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係る旋盤について説明する。図1は、本例の旋盤を示した側面図である。同図1に示すように、本例の旋盤1は、ベッド2と、このベッド2上に配設された主軸台3と、同じくベッド2上に、紙面と直交するZ軸方向に沿って移動可能に配設された往復台5と、この往復台5上に、矢示Y’軸方向に沿って移動可能に配設されたサドル6と、このサドル6上に、矢示X軸方向に沿って移動可能に配設された刃物台7などを備えている。
【0024】
前記主軸台3は主軸4をその中心軸4aを中心に回転自在に保持しており、更に、主軸4には図示しないチャックが装着され、このチャックによってワーク(図示せず)が保持される。尚、主軸4は、前記主軸台3に内蔵された図示しない主軸モータにより駆動されて、その中心軸4aを中心に回転する。
【0025】
前記往復台5は、Z軸送り機構10により駆動されて、前記主軸4の中心軸4aと平行な送り軸である前記Z軸方向に沿って移動し、前記サドル6は、Y’送り機構20により駆動されて、前記Z軸と直交する方向の送り軸である前記Y’軸方向に沿って移動する。また、前記刃物台7は、タレット8を、前記主軸4の中心軸4aと平行な中心軸8a回りに回転自在に保持しており、X軸送り機構15により駆動されて、前記Z軸と直交し、且つ前記Y’軸とは非直交状態で交差する方向の送り軸であるX軸方向に沿って移動する。
【0026】
前記タレット8は多角柱体から成り、その外周の各平面及びこれに対応する端面に、工具Tを保持した工具ホルダTHが装着される。そして、このタレット8は、適宜駆動モータによりその中心軸8aを中心に回転して、放射状に装着された工具Tを、加工作用を成すために設定された加工位置に割り出す。尚、このタレット8には、バイトなどの固定工具、及びドリルやエンドミルなどの回転工具を装着することができる。
【0027】
前記Z軸送り機構10は、前記ベッド2上に設けられたZ軸サーボモータ11と、このZ軸サーボモータ11に接続されたZ軸ボールねじ(図示せず)と、このZ軸ボールねじ(図示せず)に螺合し且つ前記往復台5に固設されたボールナット(図示せず)などから構成される。
【0028】
また、前記Y’軸送り機構20は、前記往復台5に設けられたY’軸サーボモータ21と、Y’軸サーボモータ21に接続されたY’軸ボールねじ(図示せず)と、このY’軸ボールねじ(図示せず)に螺合し且つ前記サドル6に固設されたボールナット(図示せず)などから構成される。
【0029】
同様に、前記X軸送り機構15は、前記サドル6に設けられたX軸サーボモータ16と、このX軸サーボモータ16に接続されたX軸ボールねじ(図示せず)と、このX軸ボールねじ(図示せず)に螺合し且つ前記刃物台7に固設されたボールナット(図示せず)などから構成される。
【0030】
そして、これらZ軸サーボモータ11、X軸サーボモータ16及びY’軸サーボモータ21、並びに前記主軸モータ及びタレット割り出し用の駆動モータは、それぞれ適宜制御装置(図示せず)によってその作動が制御される。
【0031】
以上の構成を備えた旋盤1では、前記制御装置(図示せず)による制御の下で、前記タレット8が、主軸4の中心軸4aに沿ったZ軸方向、このZ軸に直交するX軸方向、並びにZ軸及びX軸の双方に直交するY軸方向(創成Y軸方向)に移動する。
【0032】
即ち、タレット8は、前記制御装置(図示せず)による制御の下、前記Z軸サーボモータ11が駆動されることによりZ軸に沿って移動し、前記X軸サーボモータ16が駆動されることによりX軸に沿って移動する。
【0033】
また、前記制御装置(図示せず)による制御の下で、前記X軸サーボモータ16及びY’軸サーボモータ21が同調して駆動されることにより、タレット8は前記Z軸及びX軸の双方に直交する前記創成Y軸方向に沿って移動する。具体的には、Y’軸送り機構20によりサドル6がY’軸マイナス方向に移動すると同時に、これに同調して、X軸送り機構15により刃物台7がX軸プラス方向に移動することで、タレット8がY軸マイナス方向に移動する。これとは逆に、Y’軸送り機構20によりサドル6がY’軸プラス方向に移動すると同時に、これに同調して、X軸送り機構15により刃物台7がX軸マイナス方向に移動することで、タレット8がY軸プラス方向に移動する。
【0034】
斯くして、この旋盤1によれば、前記主軸4にワークを保持させ、前記タレット8に工具Tを適宜保持させるとともに、前記ワークを回転させた状態で、前記工具TをX−Z平面で移動させることにより、当該ワークを旋削加工することができ、また、前記ワークの回転を停止した状態で、又は当該ワークをゆっくりと回転させながら、前記タレット8に保持された回転工具を、X軸,Y軸及びZ軸の3次元空間内で移動させることによって、所謂ミーリング加工を行うことができる。
【0035】
次に、前記タレット8に装着される工具ホルダTHについて説明する。図1に示すように、本例では、前記タレット8に装着される複数の工具ホルダTHの内、少なくとも一つの工具ホルダTHは、その工具保持部により工具Tを保持する保持位置が、タレット8の回転によって加工位置に割り出されたときに、保持した工具Tの刃先基準位置Trが主軸4の中心軸4a及びタレット8の中心軸8aを含むX軸−Z軸平面Pから一方の側にオフセットした状態となる位置に設定されている。
【0036】
尚、前記刃先基準位置Trは、工具Tの加工作用を成す先端部位を意味しており、バイトなど固定工具の場合には、加工作用を成す刃先位置が該当し、ドリルやエンドミルといった回転工具の場合には、工具の中心軸と先端部との交点位置が該当する
【0037】
図1では、固定工具であるバイトを図示しているが、この場合、工具ホルダTHにおいて設定された工具を保持するための基準面をX軸−Z軸平面Pから一方の側にオフセットさせることによって工具保持位置をオフセットすることができる。また、タレット8には、回転工具を装着することができるが、この場合、例えば図3図6に示す態様によって、その刃先基準位置をオフセットさせた状態を実現することができる。
【0038】
尚、図3及び図5は、図1と同様に、Z軸のプラス側から視た側面図であって、X軸−Z軸平面Pが水平になるように回転させると共に、その一部を断面で示した図であり、刃物台7についてはその図示を省略している。また、図4は、図3における矢示A方向から見た正面図であり、図6は、図5における矢視B−B方向の断面図である。
【0039】
図3及び図4に示した工具ホルダTHmは、当該工具ホルダTHmが加工位置に割り出されたときに、エンドミルなどの回転工具TmがX軸方向に沿うように、当該工具Tmを保持するものである。この工具ホルダTHmは第1本体31及び第2本体32から構成される本体30、並びにこの本体30内に設けられる第1回転軸33及び第2回転軸37などから構成される。
【0040】
前記第1回転軸33は、平歯車34を有し、当該工具ホルダTHmが加工位置に割り出されたとき、その中心軸が前記X軸−Z軸平面P内に位置し、且つ前記X軸と平行になるように配設され、ベアリング35,36によって回転自在に支持されている。また、この第1回転軸33は、工具ホルダTHmが加工位置に割り出されたとき、その端部がタレット8内に内蔵された駆動軸9に接続することにより、当該駆動軸9と共に回転する。
【0041】
前記第2回転軸37は、前記平歯車34と噛合する平歯車38を有し、前記第1回転軸33から一方向側にオフセットした位置において当該第1回転軸33と平行に配設され、ベアリング39,40によって回転自在に支持されている。また、この第2回転軸37は、加工位置に在るときに、その主軸4側の端部が本体30から当該主軸4側に露出するとともに、当該端部には主軸4側に開口する取付穴が形成されており、この取付穴に工具Tmが装着される。
【0042】
斯くして、この工具ホルダTHmによれば、平歯車34,38の噛合関係によって、駆動軸9の回転動力が前記第2回転軸37に伝達され、この第2回転軸37に装着された工具Tmが当該第2回転軸37とともに回転する。そして、回転工具Tmは、X軸−Z軸平面Pから一方側に距離Lだけオフセットした状態で、タレット8に装着される。
【0043】
一方、図5及び図6に示した工具ホルダTHm’は、当該工具ホルダTHm’が加工位置に割り出されたときに、エンドミルなどの回転工具TmがZ軸方向に沿うように当該工具Tmを保持するものであり、第1本体51、第2本体52及び第3本体53から構成される本体50、並びにこの本体50内に設けられる第1回転軸54、第2回転軸58及び第3回転軸63などから構成される。
【0044】
前記第1回転軸54は、平歯車55を有し、当該工具ホルダTHm’が加工位置に割り出されたとき、その中心軸が前記X軸−Z軸平面P内に位置し、且つ前記X軸と平行になるように配設され、ベアリング56,57によって回転自在に支持されている。また、この第1回転軸54は、工具ホルダTHm’が加工位置に割り出されたとき、その端部がタレット8内に内蔵された駆動軸9に接続することにより、当該駆動軸9と共に回転する。
【0045】
前記第2回転軸58は、前記平歯車55と噛合する平歯車59、及びかさ歯車60を有し、前記第1回転軸54から一方向側にオフセットした位置において当該第1回転軸54と平行に配設され、ベアリング61,62によって回転自在に支持されている。
【0046】
前記第3回転軸63は、前記第2回転軸58と直交するように、即ちZ軸と平行になるように配設されるとともに、加工位置に在るときに、その主軸4側の端部が本体50から当該主軸4側に露出するように配設されており、更に、当該端部には主軸4側に開口する取付穴が形成され、この取付穴に工具Tmが装着される。また、この第3回転軸63は、前記かさ歯車60と噛合するかさ歯車64を備えており、ベアリング65,66によって回転自在に支持されている。
【0047】
斯くして、この工具ホルダTHmによれば、平歯車55,59の噛合関係、及びかさ歯車60,64の噛合関係によって、駆動軸9の回転動力が前記第3回転軸63に伝達され、この第3回転軸63に装着された工具Tmが当該第3回転軸63とともに回転する。そして、回転工具Tmは、X軸−Z軸平面Pから一方側に距離L’だけオフセットした状態で、タレット8に装着される。
【0048】
次に、工具保持位置がオフセットされた工具ホルダTHによる加工態様について説明する。
【0049】
上記構成を有する本例の旋盤1では、図1に示すような工具ホルダTHを用いた加工を行うことができる。この工具ホルダTHは、工具Tの刃先基準位置Trが主軸4の中心軸4a及びタレット8の中心軸8aを含むX軸−Z軸平面Pを基準として、前記X軸送り機構5及びY’軸送り機構20とは反対側、即ち、Y軸マイナス方向側にオフセットするように当該工具Tを保持する。尚、この工具Tは外径加工用のバイトである。
【0050】
そして、このようにY軸マイナス方向にオフセットされた工具Tを用いて加工する場合、図2に示すように、従前の工具ホルダTH’によって保持された工具T’を用いて加工する場合に比べて、より大径のワークを加工することができる。図2では、工具Tが工具ホルダTHによってY軸マイナス方向側にオフセットして保持されている状態を実線で示し、従来の工具ホルダTH’により工具T’が保持されている状態、即ち、工具T’の刃先基準位置Tr’が、主軸4の中心軸4a及びタレット8の中心軸8aを含むX軸−Z軸平面P内に位置するように保持されている状態を一点鎖線で示している。
【0051】
図2に示すように、前記工具T及び工具T’用いて加工可能なワークの最大加工外径Dmax及びdmaxは、それぞれサドル6との干渉関係によって決定され、Y軸マイナス方向にオフセットした工具Tによる最大加工外径Dmaxの方が、オフセットしていない従来の工具T’による最大加工外径dmaxよりも大径となる。
【0052】
その理由は以下の通りである。即ち、Y軸マイナス方向にオフセットした工具Tの場合、当該工具Tを用いてワークを加工するには、当該工具TをY軸プラス方向に移動させて、その刃先基準位置Trを加工位置であるX軸−Z軸平面P内に位置させる必要があり、このために、サドル6をY’軸プラス方向に移動させるとともに、刃物台7をX軸マイナス方向に移動させる必要がある。そして、このようにサドル6をY’軸プラス方向に移動させた状態、即ち、サドル6を主軸4から遠ざけた状態にして加工することで、主軸4とサドル6との間の空間が広がり、これによって、より大径のワークを加工することができるようになるのである。
【0053】
また、本例の旋盤1では、図7図9に示すように、前記タレット8に、第1工具ホルダTHと、この第1工具ホルダTHの両側にそれぞれ隣接する第2工具ホルダTH及び第3工具ホルダTHが装着される。また、図示するように、タレット8には、この他に適宜工具ホルダTH〜TH10が装着されている。尚、図7図9は、主軸4側からZ軸プラス方向に向けて視た図である。
【0054】
そして、前記第1工具ホルダTHは、外径加工用のバイトである工具Tを、これが加工位置に割り出されたときに、その刃先基準位置Tr主軸4の中心軸4a及びタレット8の中心軸8aを含む前記X軸−Z軸平面P内に位置するように保持している。また、第2工具ホルダTHは、図7に示すように、回転工具である工具Tを、これが加工位置に割り出されたときに、その刃先基準位置Trが、前記X軸−Z軸平面PからY軸マイナス方向、言い換えれば、第1工具Tから遠ざかる方向に距離Lだけオフセットするように保持している。更に、第3工具ホルダTHは、図8に示すように、同じく回転工具である工具Tを、これが加工位置に割り出されたときに、その刃先基準位置Trが、前記X軸−Z軸平面PからY軸プラス方向、言い換えれば、第1工具Tから遠ざかる方向に距離Lだけオフセットするように保持している。
【0055】
この態様の旋盤1では、図9に示すように、前記第1工具ホルダTHに保持された工具(第1工具)Tを加工位置に割り出したとき、前記第2工具ホルダTHに保持された工具(第2工具)T、及び前記第3工具ホルダTHに保持された工具(第3工具)Tは、これらを従来の工具ホルダによって保持した場合に比べて、その刃先基準位置Tr,Trが、前記第1工具Tの加工位置からそれぞれオフセット側に遠ざかった状態となっている。図9では、第2工具T及び第3工具Tが第2工具ホルダTH及び第3工具ホルダTHによってそれぞれオフセットして保持された状態を実線で示し、従来の構成の第2工具ホルダTH’及び第3工具ホルダTH’によって第2工具T’及び第3工具T’が保持された状態、即ち、第2工具T’及び第3工具T’の刃先基準位置Tr’,Tr’が前記X軸−Z軸平面P内に位置するように保持された状態を一点鎖線で示している。
【0056】
斯くして、第1工具Tを加工位置に割り出して加工する際には、その両側に隣接する第2工具T及び第3工具Tは、これらを従来構成の第2工具ホルダTH’及び第3工具ホルダTH’によって保持した第2工具T’及び第3工具T’に比べて、それぞれ第1工具Tから離れた位置に在り、このため、当該第1工具Tによって加工可能なワークの最大加工外径は、従来構成の第2工具ホルダTH’及び第3工具ホルダを用いた場合に比べて、大径になる。
【0057】
図9に示すように、第1工具Tを用いて加工できるワークの最大加工外径は、第2工具T及び第3工具Tとの干渉関係によって決定され、第1工具Tから遠ざかるようにオフセットされた第2工具T及び第3工具Tの場合の最大加工外径D’maxは、従来構成の第2工具ホルダTH’及び第3工具ホルダTH’によって保持された第2工具T’及び第3工具T’の場合の最大加工外径d’maxに比べて大径となる。
【0058】
斯くして、第2工具ホルダTH及び第3工具ホルダTHを用いることで、より大径のワークを加工することが可能となり、これにより当該旋盤1に備えられる本来の加工能力を発現させることができ、旋盤1の効率的な運用が可能となる。
【0059】
以上、本発明の具体的な実施の形態について説明したが、本発明が採り得る態様は、何らこれに限定されものではない。
【0060】
例えば、上例の旋盤1では、Y軸方向の送りをY’軸の送りとX軸の送りとを合成することによって創成するように構成されているが、このような構成に限られるものではなく、Y軸方向の送り機構を設けてタレット8を直接Y軸方向に送るように構成されていても良い。また、Y軸方向の送りが不要である場合には、特にY軸に関する送り機構を設ける必要は無い。
【0061】
また、当然のことながら、オフセットさせた状態で工具を保持する工具ホルダの配設数は上例のものに限られるものではなく、適宜数の工具ホルダを旋盤に装着することができる。
【0062】
また、上例では、工具をオフセットさせた状態で保持する工具ホルダを特別に設計した例を例示したが、これに限られるものではなく、従来構成の工具ホルダを用い、そのタレットへの装着位置を変更して、当該工具ホルダを、保持した工具の刃先基準位置が主軸の中心軸及びタレットの中心軸を含むX軸−Z軸平面を基準として、一方の側にオフセットした状態となるように、タレットに取り付けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 旋盤
2 ベッド
3 主軸台
4 主軸
5 往復台
6 サドル
7 刃物台
8 タレット
10 Z軸送り機構
11 Z軸サーボモータ
15 X軸送り機構
16 X軸サーボモータ
20 Y’軸送り機構
21 Y’軸サーボモータ
T 工具
TH 工具ホルダ
図1
図2
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図9