【実施例】
【0063】
以下、実施例を通じて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
下記表3のような組成成分を有するソリッドワイヤをそれぞれ用意した。次に、上記各ソリッドワイヤを用いて、150mmの440MPa級亜鉛めっき鋼板Lap−joint母材に、溶接速度80cpm、セッティング電流210A、セッティング電圧25Vの条件で溶接を行うことにより、それぞれ異なるワイヤを用いても同一の溶着量が得られるようにした。
【0064】
その後、溶着金属のシリコン系スラグ量、耐気孔性、引張強さ、溶接性(スパッタ)を評価して、これらを下記表4に示した。
上記シリコン系スラグ量は、Lap joint溶接試験片に対して同一の溶接条件で150mm溶接を行い、溶接部の全体面積に対してシリコン系スラグが占める面積分率を測定した値であって、上記面積分率が0%以上〜3%
以下の場合をA、3%
超過〜5%
以下の場合をB、5%
超過〜8%
以下の場合をC、そして8%
超過の場合をDとした。
耐気孔性の場合は、同一の溶接条件で150mm溶接を行い、溶接部にRT実施して、全体溶接部のうち気孔の分率を測定した値であって、0%以上〜0.5%未満の場合をA、0.5%以上〜1.0%未満の場合をB、1.0%以上〜2.0%未満の場合をC、そして2.0%以上の場合をDとした。
引張強さの場合は、AWS 5.18に規定されているとおり溶接試験片を製作して引張試験を行った値を用いており、540MPa以上の場合をA、510MPa以上〜540MPa未満の場合をB、480MPa以上〜510MPa未満の場合をC、そして480MPa未満の場合をDとした。
溶接性の場合は、溶接監視装置を用いて出力される溶接電流波形の出力電流偏差を用いており、セッティング電流200A、セッティング電圧20V、ガス80%Ar+20%CO
2と同一にセッティングして出力値を測定した。この際、出力電流偏差が80未満の場合をA、80以上〜90未満の場合をB、90以上〜100未満の場合をC、そして100以上の場合をDとした。
【0065】
【表3】
−表3において、D*は、Ni、Cr、Mo、及びCuのうち1種以上、E*は、Ti、Al、Nb、V、及びZrのうち1種以上、そして残りの成分はFe+
不可避不純物である。
【0066】
【表4】
【0067】
上記表3及び表4に示すように、ワイヤ組成成分が、本発明の範囲を満たす発明例1〜13は、すべて優れた耐気孔性、引張強さ、溶接性を有するとともに、溶着金属のシリコン系スラグ量が少なくても溶着金属の電着塗装性に優れていることが分かる。特に、ワイヤ内のSiの含有量が0.1%以下である本発明例1〜3及び発明例6〜13が、そうでない発明例4及び5に比べて、より優れた特性を有することが確認できる。
また、発明例8は、Niが含有されて、溶接部の衝撃靭性及び引張強さが向上し、送給性及びアーク安定性に優れるという特徴を示しており、発明例9は、Crが含有されて、ワイヤ及び溶接部の引張強さが少量増加することが分かる。
発明例10は、Moが添加されて、Crが添加された場合と比べて、ワイヤ及び溶接部の引張強さが少量増加しており、発明例11は、Tiが添加されて、溶接時のアーク安定性が向上するという特徴が現れた。併せて、発明例12は、Bが添加されて、溶接部の引張強さが向上することが分かる。
また、発明例13の場合、発明例8のNi及び発明例11のTiがともに添加されて、溶接時のアーク安定性及び送給性に優れ、溶着金属の衝撃靭性及び引張強さに優れている。
【0068】
これに対し、比較例1〜12は、Siの含有量がすべて0.15%を超えているため、Siの含有量が増加するほど、シリコン系スラグ量が増加する傾向が現れるとともに、亜鉛めっき鋼板の溶接時の耐気孔性も減少することが分かる。
具体的には、比較例5は、Niが含有されて、溶接部の衝撃靭性及び引張強さが向上し、送給性及びアーク安定性が向上したが、Siの含有量が0.83%であるため、溶接ビードの表面に多量のシリコン系スラグが発生しており、亜鉛めっき鋼板の溶接時のビードの表面に気孔が発生した。
比較例6は、Crが含有されて、ワイヤ及び溶接部の引張強さが少量増加したが、Siの含有量が0.65%であるため、溶接ビードの表面にシリコン系スラグが発生し、耐気孔性が低下した。
比較例7は、Vが添加されて、ワイヤ及び溶接部の引張強さが少量増加したが、Siの含有量が0.82%であるため、溶接ビードの表面にシリコン系スラグが多量発生し、耐気孔性が低下した。
比較例8は、Tiが添加されて、溶接時のアーク安定性が向上したが、Siの含有量が0.81%であるため、溶接ビードの表面にシリコン系スラグが多量発生し、耐気孔性が低下した。
比較例9は、Bが添加されて、溶接部の引張強さが向上したが、Siの含有量が0.81%であるため、溶接ビードの表面にシリコン系スラグが多量発生し、耐気孔性が低下した。
比較例10は、Siの含有量が0.16%であるため、Siの含有量が増加するにつれて、溶接ビードの表面にシリコン系スラグ量が少量増加した。
比較例11は、Siの含有量が0.20%であるため、
図4に示すように、溶接ビードの表面に発生するシリコン系スラグの含有量が5.1%と増加し、耐気孔性が低下した。
比較例12も、Siの含有量が0.30%であるため、Siの含有量が増加するにつれて、溶接ビードの表面にシリコン系スラグ量が増加し、耐気孔性も減少した。
【0069】
一方、
図4は本実施例のうち発明例1、発明例4、発明例6、及び比較例1〜3、比較例11の溶接ビードの外観を示す写真であって、かかる写真の右側にはシリコン系スラグ分率を測定して示した。
シリコン系スラグ分率の場合、長さ150mmの亜鉛めっき鋼板Lap−joint母材を用意し、溶接速度80cpm、セッティング電流210A、セッティング電圧25Vに設定して、異なるワイヤを適用しても同一の溶着量が得られるようにして実験を行った。そして、溶接後の溶接ビードを撮影して、溶着金属のみを抽出した後、画像解析プログラムを用いて全体の溶着金属のうちシリコン系スラグ分率を測定した。
図4に示すように、比較例からは、Siの含有量及びSi
2/Mnが増加するにつれて、これに比例してシリコン系スラグ分率も増加することが分かるが、発明例1、4、6の場合はシリコン系スラグがほとんど生成されていないことが確認できる。特に、発明例1の場合は、ビードの外観が非常に流麗であることが確認できる。
【0070】
(実施例2)
下記表5に示されたような組成成分を有するフラックス入りワイヤ(メタルコアードワイヤ)をそれぞれ用意した。次に、上記各フラックス入りワイヤを用いて、150mmの440MPa級亜鉛めっき鋼板Lap−joint母材に、溶接速度80cpm、セッティング電流210A、セッティング電圧25Vの条件で溶接を行うことにより、それぞれ異なるワイヤを用いても同一の溶着金属量が得られるようにした。
【0071】
その後、溶着金属のシリコン系スラグ量、耐気孔性、引張強さ、溶接性(スパッタ)を評価して、これらを下記表6に示した。その具体的な評価基準は実施例1と同一である。
【0072】
【表5】
−表5において、D*は、Ni、Cr、Mo、及びCuのうち1種以上、E*は、Ti、Al、Nb、V、及びZrのうち1種以上、そして残りの成分はFe+
不可避不純物である。
【0073】
【表6】
【0074】
上記表5及び表6に示すように、本発明の組成成分範囲を満たすフラックス入りワイヤを用いた本発明例1〜9の場合は、シリコン系スラグ量がすべて減少し、Siの減少に応じて亜鉛めっき鋼板の溶接時の耐気孔性が改善されたことが分かる。
発明例4は、Niが含有されて、溶接部の衝撃靭性及び引張強さが向上し、送給性及びアーク安定性にも優れている。
発明例5は、Tiが添加されて、アーク安定性が向上しており、発明例6はBが添加されて、溶接部の引張強さが向上した。
【0075】
これに対し、比較例1〜3は、Siの含有量が0.30%以上であるため、Siの含有量が増加するほど、シリコン系スラグ量が増加する傾向が現れた。また、Siの含有量が増加するほど、亜鉛めっき鋼板の溶接時の耐気孔性が減少した。
比較例4の場合は、Niが含有されて、溶接部の衝撃靭性及び引張強さが向上したが、Siの含有量が0.55%であるため、溶接ビードの表面にシリコン系スラグが多量発生した。
比較例5の場合は、Tiが含有されて、溶接性が向上したが、Siの含有量が0.65%であるため、溶接ビードの表面にシリコン系スラグが多量発生した。
比較例6の場合は、Bが添加されて、溶接部の引張強さが向上したが、Siの含有量が0.70%であるため、溶接ビードの表面にシリコン系スラグが多量発生し、亜鉛めっき鋼板において耐気孔性が減少した。
比較例7〜9の場合は、Siの含有量が0.15%以上の場合であって、Siの含有量が増加するにつれて、ビード表面のシリコン系スラグ量が増加し、次第に耐気孔性も減少した。
【0076】
一方、
図5は本実施例のうち発明例1及び2、比較例1及び2の溶接ビードの外観を示す写真であって、かかる写真の右側には、シリコン系スラグ分率を測定して示した。この際、シリコン系スラグ分率の測定方法は、上述した実施例1での方法と同一である。
図5に示すように、発明例1から比較例2に行くほどSiの含有量及びSi
2/Mnは増加し、これに比例してシリコン系スラグ分率も増加することが分かる。特に、発明例1の場合は、シリコン系スラグがほとんど形成されないため、ビードの外観が非常に流麗であることが確認できる。
【0077】
(実施例3)
上述した実施例1の発明例13のソリッドワイヤ、及び従来の亜鉛めっき鋼板と一般鋼板の溶接に主に用いられる一般溶接材ER70S−3のソリッドワイヤをそれぞれ用意した。次に、これらソリッドワイヤをそれぞれ用いて、150mmの440MPa級亜鉛めっき鋼板Lap−joint母材に、溶接速度80cpm、セッティング電流210A、セッティング電圧25Vの条件で溶接を行うことにより、溶着金属が形成された試験片を製造した。この際、それぞれ異なるワイヤを用いても同一の溶着金属量が得られるようにした。
【0078】
図6は上記一般溶接材と本発明の極低シリコン溶接材(発明例13)の溶接時に形成される溶着金属の電着塗装結果を示す図である。
図6に示すように、黄色のガラス質のシリコン系スラグが形成された一般溶接材の場合、電着塗装がきちんとなっておらず剥離したことが確認できる。これに対し、極低シリコン溶接材(発明例13)の場合には、シリコンの含有量が非常に少なく濃い灰色のマンガン系スラグが生成されて、電着塗装が非常に均一且つきれいに形成されたことが確認できる。
【0079】
一方、
図7は上記2つの試験片に形成された溶着金属のスラグをEDS分析した結果を示す図である。また、
図8〜
図11は
図7におけるEDS分析結果(I、II、III、及びIV)をそれぞれ示す図である。
図7〜
図11に示すように、一般溶接材のスラグではSi、Mn、Oが検出され、シリコン+マンガン系スラグであることを確認した。これは、ワイヤー内部のシリコン及びマンガンが移行して酸素と結合し、溶接ビードの表面に浮かんだものと推定される。
これに対し、本発明の極低シリコン溶接材(発明例13)のスラグを分析した結果、主にMn、C、Oが検出されて、マンガン系スラグであることを確認した。これにより、ワイヤー内部のシリコン含有量が非常に低く、主にマンガン系スラグが生成されたことが確認できる。
【0080】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。