【実施例】
【0020】
本発明の電磁波検出装置に係る実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例では、本発明に係る「電磁波」の一例として「テラヘルツ波」を挙げる。
【0021】
<第1実施例>
本発明の電磁波検出装置の一例としてのテラヘルツ波検出装置に係る第1実施例について、
図1乃至
図3を参照して説明する。
【0022】
(装置構成)
本実施例に係るテラヘルツ波検出装置の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、第1実施例に係るテラヘルツ波検出装置の構成を示すブロック図である。
【0023】
図1において、テラヘルツ波検出装置100は、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、nと、該複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々に電気的に接続された複数のバイアス・ティ回路1、2、3、…、nと、該複数のバイアス・ティ回路1、2、3、…、n各々を介して、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々にバイアス電圧を印加するバイアス電圧生成部11と、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々から出力される信号を増幅する複数の信号増幅器1、2、3、…、nと、該複数の信号増幅器1、2、3、…、n各々から出力される信号をサンプリング(取得)するとともに、バイアス電圧生成部11を制御する信号処理・制御部12と、を備えて構成されている。
【0024】
複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々は、例えば共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling Diode:RTD)等の電流電圧特性に非線形性を有する素子である。複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、nは、アレイ状に並べられている。
【0025】
複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々には、図示しないテラヘルツ波発生部からのテラヘルツ波が入射する。ここで、テラヘルツ波発生部からのテラヘルツ波は、一定の周期で変調される。テラヘルツ波発生部からのテラヘルツ波は、例えばテラヘルツ波が発生する期間と、テラヘルツ波が発生しない期間とが一定周期で交互に繰り返されるように変調される。
【0026】
各テラヘルツ波検出素子にテラヘルツ波が入射すると、入射したテラヘルツ波の強度に応じた電気信号が各テラヘルツ波検出素子から出力される。各テラヘルツ波検出素子から出力された電気信号は交流成分を含んでいる。各バイアス・ティ回路は、対応するテラヘルツ波検出素子から出力された電気信号の交流成分を抜き出して、検出信号として対応する信号増幅器に出力する。
【0027】
信号処理・制御部12は、各信号増幅器により増幅された検出信号をサンプリングして、検出信号の信号振幅を検出することにより、テラヘルツ波の強度を検知する。ここで、信号振幅の検出には、例えばロック・イン検出が用いられてよい。尚、テラヘルツ波の強度の検知については、既存の技術を適用可能であるので、その詳細についての説明は省略する。
【0028】
(バイアス電圧)
図1に示すように、当該テラヘルツ波検出装置100では、単一のバイアス電圧生成部11から1系統の信号線により各テラヘルツ波検出素子にバイアス電圧が印加される。ところで、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、nには大なり小なりばらつきがあり、最適なバイアス電圧が互いに異なることが多い。各テラヘルツ波検出素子に最適なバイアス電圧が印加されなければ、各テラヘルツ波検出素子を安定に動作させることはできない。そこで、当該テラヘルツ波検出装置100では、例えばのこぎり波等のように電圧値が時間とともに変化するバイアス電圧が、バイアス電圧生成部11から出力される。
【0029】
本実施例に係るバイアス電圧について、
図2を参照して説明を加える。
図2は、バイアス電圧の波形及びテラヘルツ波検出素子からの信号の波形各々の一例である。尚、
図2に示す例では、一定強度のテラヘルツ波が各テラヘルツ波検出素子に入射しているものとする。
【0030】
本実施例では、信号処理・制御部12が一のテラヘルツ波検出素子からの検出信号の読み出しに要する(又は許される)時間を1周期として(
図2の“素子1読出期間”等参照)、電圧Vfirstから電圧Vlastまで段階的に変化するバイアス電圧が、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々に印加される。尚、
図2では、バイアス電圧が段階的に変化する様子が明確になるよう、バイアス電圧の刻みを強調して示している。
【0031】
このようなバイアス電圧が各テラヘルツ波検出素子に印加されると、バイアス電圧の電圧値に応じて、各テラヘルツ波検出素子の検出感度が変化する(この結果、検出信号の信号レベルが変化する)。信号処理・制御部12は、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々の読出期間中で、各テラヘルツ波検出素子に最適なバイアス電圧が印加されるタイミングで、検出信号をサンプリングする。
【0032】
信号処理・制御部12は、例えば
図2の素子1読出期間においては、時刻t1に検出信号(即ち、信号増幅器1出力)をサンプリングし、素子2読出期間においては、時刻t2に検出信号(即ち、信号増幅器2出力)をサンプリングし、素子3読出期間においては、時刻t3に検出信号(即ち、信号増幅器3出力)をサンプリングする。
【0033】
(サンプリングタイミングの設定)
各テラヘルツ波検出素子からの検出信号のサンプリングタイミングは、予め設定され信号処理・制御部12の例えばメモリ等に格納されている。本実施例に係るサンプリングタイミングの設定処理について、
図3のフローチャートを参照して説明する。このサンプリングタイミングの設定処理は、本発明に係る「検出信号取得タイミングの設定方法」の一例である。
【0034】
本実施例において「最適なバイアス電圧」は、各テラヘルツ波検出素子の検出感度が最大となるバイアス電圧から所定電圧だけ低い電圧である。電流電圧特性の非線形領域では、各テラヘルツ波検出素子に印加されるバイアス電圧が高くなるほど検出感度も高くなるが、バイアス電圧が、検出感度が最大となる電圧値を超えると検出感度が急激に失われる。検出感度が最大となるバイアス電圧を、最適なバイアス電圧とすることも可能であるが、例えば温度変化等に起因して測定中にバイアス電圧が揺らいだ場合又はテラヘルツ波検出素子の特性が変化した場合に、期待される検出感度が得られない可能性がある。そこで、上述の如く、検出感度が最大となるバイアス電圧から所定電圧だけ低い電圧を、最適なバイアス電圧とすることによって、当該テラヘルツ波検出装置1の動作の安定性を確保しているのである。
【0035】
さて、
図3において、信号処理・制御部12は、バイアス電圧を電圧Vfirstに設定し、該電圧Vfirstを出力するようにバイアス電圧生成部11を制御する(ステップS101)。次に、信号処理・制御部12は、サンプリングタイミングの設定対象のテラヘルツ波検出素子の検出信号の信号レベルを検出する(ステップS102)。尚、
図3に示すサンプリングタイミングの設定処理が行われる場合、一定強度のテラヘルツ波が各テラヘルツ波検出素子に入射する。
【0036】
次に、信号処理・制御部12は、ステップS102の処理において今回検出された信号レベルが、ステップS102の処理において前回検出された信号レベルよりも低いか否かを判定する(ステップS103)。この判定において、今回検出された信号レベルが前回検出された信号レベルよりも低くないと判定された場合(ステップS103:No)、後述するステップS105の処理が行われる。
【0037】
他方、ステップS103の判定において、今回検出された信号レベルが前回検出された信号レベルよりも低いと判定された場合(ステップS103:Yes)、信号処理・制御部12は、現在のバイアス電圧Vから微小電圧ΔVだけ低い電圧が、サンプリングタイミングの設定対象のテラヘルツ波検出素子に印加されるタイミングを、サンプリングタイミングに設定する(ステップS104)。なぜなら、「今回検出された信号レベルが前回検出された信号レベルよりも低い」ということは、バイアス電圧が、テラヘルツ波検出素子の検出感度が最大となる電圧値を超えたことを意味するからである。
【0038】
その後、信号処理・制御部12は、現在のバイアス電圧Vが電圧Vlastであるか否かを判定する(ステップS105)。この判定において、現在のバイアス電圧Vが電圧Vlastではないと判定された場合(ステップS105:No)、信号処理・制御部12は、現在のバイアス電圧Vに微小電圧ΔVを加えた電圧を新たなバイアス電圧として(ステップS106)、ステップS102以降の処理を行う。
【0039】
他方、ステップS105の判定において、現在のバイアス電圧Vが電圧Vlastであると判定された場合(ステップS105:Yes)、
図3に示すサンプリングタイミングの設定処理を終了する。信号処理・制御部12は、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n全てについて、
図3に示すサンプリングタイミングの設定処理を行い、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々のサンプリングタイミングを設定する。
【0040】
図3に示すサンプリングタイミングの設定処理は、当該テラヘルツ波検出装置100によりテラヘルツ波の計測を行う前に1度実施されればよい。テラヘルツ波の計測中においても、定期的又は不定期的に、
図3に示すサンプリングタイミングの設定処理を行えば、テラヘルツ波の計測中における、例えば温度変化等の環境変化の影響を抑制することができる。
【0041】
(技術的効果)
当該テラヘルツ波検出装置100では、
図1に示すように、単一のバイアス電圧生成部11から1系統の信号線により複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々にバイアス電圧が印加される。このため、テラヘルツ波検出素子の個数が増えたとしても回路構成が複雑になることを抑制することができる。
【0042】
加えて、
図2に示すような電圧波形のバイアス電圧が複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々に印加されるとともに、
図3に示すサンプリングタイミングの設定処理により設定されたタイミングで検出信号がサンプリングされる。このため、各テラヘルツ波検出素子に最適なバイアス電圧が印加されるタイミングで、検出信号をサンプリングすることができる。言い換えれば、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n各々に最適なバイアス電圧を印加して、検出信号をサンプリングすることができる。
【0043】
本実施例に係る「テラヘルツ波検出素子」及び「バイアス電圧生成部11」は、本発明に係る「検出部」及び「電圧印加部」の一例である。本実施例に係る「信号処理・制御部12」は、本発明に係る「取得部」、「設定部」及び「記憶部」の一例である。
【0044】
<変形例>
上述した第1実施例では、
図2に示すように、バイアス電圧ののこぎり波の1周期毎に、サンプリング対象のテラヘルツ波検出素子が変更される。例えば
図4に示すように、バイアス電圧の電圧値が変更される度に、複数のテラヘルツ波検出素子1、2、3、…、n全てをサンプリング対象とし、現在のバイアス電圧が最適なバイアス電圧であるテラヘルツ波検出素子からの検出信号を実際にサンプリングするように構成してもよい。
【0045】
また、上述した第1実施例では、各テラヘルツ波検出素子の検出感度が最大となるバイアス電圧から所定電圧だけ低い電圧が、「最適なバイアス電圧」とされている。各テラヘルツ波検出素子11の検出感度が最大となるバイアス電圧が、「最適なバイアス電圧」とされてもよい。
【0046】
また、例えば検出感度の最も悪いテラヘルツ波検出素子に、上記最適なバイアス電圧(即ち、検出感度が最大となるバイアス電圧から所定電圧だけ低い電圧、又は、検出感度が最大となるバイアス電圧)が印加されたときに出力される検出信号の信号レベルに、他のテラヘルツ波検出素子の検出信号の信号レベルが揃うように、他のテラヘルツ波検出素子にバイアス電圧が印加されてもよい。
【0047】
<第2実施例>
本発明の電磁波検出装置の一例としてのテラヘルツ波検出装置に係る第2実施例について、
図5及び
図6を参照して説明する。第2実施例では、回路構成が一部異なる以外は、上述した第1実施例と同様である。よって、第2実施例について、第1実施例と重複する説明を適宜省略するとともに、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ
図5及び
図6を参照して説明する。
【0048】
(装置構成)
本実施例に係るテラヘルツ波検出装置の構成について、
図5を参照して説明する。
図5は、第2実施例に係るテラヘルツ波検出装置の構成を示すブロック図である。
【0049】
図5において、テラヘルツ波検出装置200は、複数のテラヘルツ波検出素子1−1、…、1−n、2−1、…、2−n、…、m−1、…、m−nと、該複数のテラヘルツ波検出素子1−1、…、1−n、2−1、…、2−n、…、m−1、…、m−n各々に電気的に接続された複数のバイアス・ティ回路と、該複数のバイアス・ティ回路各々を介して、複数のテラヘルツ波検出素子1−1、…、1−n、2−1、…、2−n、…、m−1、…、m−n各々にバイアス電圧を印加するバイアス電圧生成ユニット21と、複数のテラヘルツ波検出素子1−1、…、1−n、2−1、…、2−n、…、m−1、…、m−n各々から出力される信号を検出する複数の信号検出部1、2、…、mと、を備えて構成されている。尚、複数の信号検出部1、2、…、mは、第1実施例に係る信号処理・制御部12に相当する。
【0050】
バイアス電圧生成ユニット21は、複数のバイアス電圧生成部1、2、…、nを含んでいる。複数のバイアス電圧生成部1、2、…、nは、夫々対応する一群のテラヘルツ波検出素子にバイアス電圧を印加する。例えば、
図5の「バイアス電圧生成部1」は、「素子1−1」、「素子2−1」、…、及び「素子m−1」からなる一群のテラヘルツ波検出素子にバイアス電圧を印加する。複数の信号検出部1、2、…、m各々は、電気的に接続された複数のテラヘルツ波検出素子からの検出信号をサンプリングする。
【0051】
(バイアス電圧)
次に、本実施例に係るバイアス電圧について、
図6を参照して説明する。
図6は、第2実施例に係るバイアス電圧の波形の一例である。当該テラヘルツ波検出装置200では、
図6に示すように、例えばのこぎり波等のように電圧値が時間とともに変化するバイアス電圧が、各バイアス電圧生成部から出力される。本実施例では特に、一のバイアス電圧生成部からバイアス電圧が出力されている期間には、他のバイアス電圧生成部からはバイアス電圧は出力されない。つまり、本実施例では、複数のテラヘルツ波検出素子1−1、…、1−n、2−1、…、2−n、…、m−1、…、m−n全てに同時にバイアス電圧が印加されることはない。
【0052】
このため、複数の信号検出部1、2、…、m各々は、同時に2以上のテラヘルツ波検出素子をサンプリング対象とすることはない。複数の信号検出部1、2、…、m各々は、バイアス電圧が印加されている一のテラヘルツ波検出素子をサンプリング対象とする。例えば、
図5の「信号検出部1」は、「バイアス電圧生成部1」からバイアス電圧が出力されている期間は、「素子1−1」をサンプリング対象とし、「バイアス電圧生成部2」からバイアス電圧が出力されている期間は、「素子1−2」をサンプリング対象とし、…、「バイアス電圧生成部n」からバイアス電圧が出力されている期間は、「素子1−n」をサンプリング対象とする。
【0053】
(技術的効果)
当該テラヘルツ波検出装置200によれば、特に、複数のテラヘルツ波検出素子1−1、…、1−n、2−1、…、2−n、…、m−1、…、m−n全てに常時バイアス電圧が印加される場合に比べて、当該テラヘルツ波検出装置200の消費電流を大幅に(ここでは、1/nに)低減することができる。
【0054】
<第1変形例>
同時に2以上のバイアス電圧生成部からバイアス電圧が出力されなければ、例えば
図7に示すように、バイアス電圧のオフ/オンが切り換えられる度に、バイアス電圧の電圧値が変更されるような態様であってもよい。
【0055】
<第2変形例>
図5に示すテラヘルツ波検出装置200の回路構成に限らず、例えば
図8に示すテラヘルツ波検出装置210のような回路構成であってもよい。この場合も、同時に2以上のバイアス電圧生成部からバイアス電圧が出力されないようにすれば、テラヘルツ波検出装置210の消費電流を大幅に低減することができる。
【0056】
本発明に係る電磁波検出装置は、テラヘルツ波に限らず、例えばミリ波の検出にも適用可能である。
【0057】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電磁波検出装置及び検出信号取得タイミングの設定方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。