【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例1について
図1〜
図10に基づいて説明する。
本実施形態の履物は、第1足趾骨に対応した爪先部分をその他(第2〜第5足趾骨に対応)の爪先部分よりも上向きに付勢する上方付勢機能を備えた婦人用靴1である。
ここで、上方付勢機能とは、履物の履用者(ユーザ)の足部踏付部を押圧した場合、人間工学上、押圧力に応じて履用者の親指等が下向きに動くという筋特性に基づく条件反射を利用した機能である。
【0019】
図1,
図2に示すように、左右1対の靴1は、履用者の足を包み込む甲皮(アッパ)2と、路面に接する靴底(ソール)3等を夫々備えている。尚、1対の靴1は、左右対称構造であるため、特段の説明がない限り左側の靴1について主に説明を行う。
甲皮2は、軽量でソフトな革、合皮、布材等を用いて構成する。通常の野外履きに用いられる甲皮材であれば特段の制限はない。以下、靴1を履いた履用者に対して前側方向を前方とし、左側方向を左方とし、上側方向を上方として説明する。
【0020】
まず、前提となる足骨格の定義について説明する。
人の足は、踝よりも下側部分であり、外観上、足背、足底及び踵により構成される。
足の骨は、距骨や踵骨を含む7つの骨からなる足根骨と、これら足根骨から前方に夫々延びる5つの骨からなる中足骨と、これら中足骨から前方に夫々延びる14の骨からなる足趾骨(足指骨)とに分けられる。足趾骨は、内側から順に、母趾に対応した第1足趾骨、示趾に対応した第2足趾骨、中趾に対応した第3足趾骨、環趾に対応した第4足趾骨、小趾に対応した第5足趾骨を有している。第1足趾骨は、基節骨と末節骨、第2〜第5足趾骨は、基節骨と中節骨と末節骨から夫々構成されている。
【0021】
次に、靴底3について説明する。
靴底3は、路面に直接接触する最下層の本底(アウトソール)4と、この本底4の上に配置されて履用者の足裏に伝わる力を分散するインソール10と、本底4とインソール10の間に配設されると共に本底4とインソール10を夫々上方に付勢する芯部材5とを主な構成要素としている。
【0022】
図1〜
図3に示すように、本底4は、本底4の大半を占めると共に路面に接する踵部を備えた本体部4aと、この本体部4aの前端部に連なり第1〜第5足趾骨に対応した爪先部4bとを一体的に備えている。本体部4aは、中足骨と足根骨に対応した本底領域である。爪先部4bは、第1〜第5足趾骨に対応した本底領域である。この爪先部4bの頂部は、路面から所定の高さ位置d(例えば、約3cm)になるように、予め本体部4aの前端部分から上方に向けて湾曲形成されている。
【0023】
本底4には、路面に接する面に滑り止めになる凹凸模様(溝)が形成されている。この本底4は、屈曲性に富み、反発弾性に優れ且つ圧縮永久歪が少なく、耐屈曲亀裂性の高い素材によって形成されている。このような素材は、例えば、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム等である。
【0024】
次に、芯部材5について説明する。
図4(a),
図4(b),
図9,
図10に示すように、芯部材5は、平面視にて、本底4(中底11)よりも一回り小さい足形形状に形成され、母趾球相当位置と小趾球相当位置を結ぶ線5aを境にして前半部と後半部が屈曲されている。
芯部材5の線5aよりも前側の前半部は後半部から立設され、後半部を固定した状態で上方に向けて付勢するように形成されている。
【0025】
芯部材5は、所定の弾性率を備えた材料、例えばカーボンファイバ、を用いて成形されている。まず、本底4よりも一回り小さい芯型が、カーボンファイバからなる板状不織シートから裁断され、MTP関節に近似される線5aを境にして熱屈曲によりくせ付けされる。これにより、芯部材5の爪先部分に所定の反発力を付与する反発力付与機構が形成される。具体的には、靴1の総重量が180〜200gの場合、芯部材5の爪先部分は、220gfを引き上げ可能な反発力を有している。
【0026】
次に、インソール10について説明する。
インソール10は、本底4の上面に一体的に接着される中底(ミッドソール)11と、この中底11の上面に着脱可能に装着されて履用者の足裏に直接接触する中敷(ソックライニング)12等を備えている。尚、本実施形態のインソール10は、中敷12のみを指す狭義のインソールではなく、中底11と中敷12を含む広義のインソールを対象としている。
【0027】
図5,
図9,
図10に示すように、中底11は、本底4の平面視形状と略同じ平面視形状に形成され、外周縁部下面が甲皮2の下端部分に接着剤を用いて接着されている。
中底11は、略均一厚さのボード材を用いて構成されている。ボード材は、例えば、商品名テキソンと呼ばれるボール紙をプレス成形で固めた硬質ボードで形成されている。尚、中底11は、一種類の硬質ボードを型抜きして形成する場合の他、複数種類のボード片を組み合わせたものを型抜きして形成することも可能である。
【0028】
図6,
図7(a),
図7(b)に示すように、中敷12は、クッション材13と、内側パッド14と、外側パッド15を備えている。
クッション材13は、足骨格の内側縦アーチ(足底弓)、外側縦アーチ、及び内側縦アーチと外側縦アーチの先端部を結ぶ線に沿った横アーチを支える凸曲面状隆起部を形成している。このクッション材13は、履用者が踏み込んだときに踏み心地が良くなるように弾性復元性に優れた材料、例えば、スポンジ、ポリウレタン発泡素材等によって構成されている。
【0029】
図6,
図7(b)に示すように、内側パッド14と外側パッド15は、クッション材13の裏面で且つ第1〜第5足趾骨に対応した領域に接着剤を用いて接着されている。
内側パッド14と外側パッド15は、例えば、合成ゴム、ポリウレタン発泡素材等によって構成されている。これら内側パッド14と外側パッド15は、略等しい所定の厚みを有するため、履用者は、クッション材13を介してパッド14,15に起因した異物感を足裏で認識することが可能である。
【0030】
また、クッション材13の反発力をf1、内側パッド14の反発力をf2、外側パッド15の反発力をf3としたとき、次式が成立するように各部材が成形されている。
f3<f1<f2 …(1)
特に、本実施形態では、次式のように設定している。
f3<1/3×f2 …(2)
【0031】
内側パッド14は、履用者の足のうち母趾球から母趾の爪先に亙る第1足趾骨に対応した領域を支持している。この内側パッド14は、略台形状に形成され、第1趾の基節骨と末節骨の下側に配設されている。外側パッド15は、履用者の足のうち第2〜第5足趾骨に対応した領域を支持している。この外側パッド15は、略台形状に形成され、第2〜5趾の基節骨、中節骨、及び末節骨の下側に配設されている。
以上により、芯部材5の付勢力にて爪先部4bを上方に引き上げ、内側パッド14を介して第1足趾骨に対応した領域に芯部材5の付勢力を作用させている。それ故、歩行中において、履用者の疲労に拘らず、距骨下の動作である背屈と内かえしの複合運動が促進される。
【0032】
次に、
図8に基づき、靴1の製造手順について説明する。
中底貼付工程では、
図8(a)に示す靴1の木型(ラスト)20の底面に、例えば、両面テープを用いて中底11を貼り付ける(
図8(b))。木型20は、合成樹脂材、或いはアルミ合金材等によって構成されている。尚、両面テープに代えて別の固定手段(例えば、タックス等)を用いて中底11を木型20に固定しても良い。
【0033】
甲皮接着工程では、木型20に甲皮2を被せ、下縁部を中底11の裏面に巻き込むように引っ張りながら甲皮2を木型20に馴染ませて吊り込みを行う。次に、甲皮2の下縁部を中底11の裏面に接着剤を用いて接着し、第1中間体1aを成形する(
図8(c))。
芯部材貼付工程では、第1中間体1aの中底11の裏面全域に接着剤を塗布し、芯部材5が貼り付けられる(
図8(d))。
図9に示すように、接着剤が塗布された中底11の後部に芯部材5の踵部を貼り付けた後、踵部から前方に向かって貼付領域を拡大して芯部材5が貼り付けられた第2中間体1bを成形する。
【0034】
本底圧着工程では、甲皮2の下縁部の表面をバフがけした後、第2中間体1bの芯部材5を含む裏面全域に接着剤を塗布し、本底4が貼り付けられる(
図8(e))。
図10に示すように、接着剤が塗布された第2中間体1bの前端部裏面に接着剤が塗布された本底4の爪先部を貼り付けた後、爪先部から後方に向かって貼付領域を拡大して本底4が貼り付けられた第3中間体1cを成形する。
中敷配置工程では、第3中間体1cを木型20から外し、両パッド14,15が接着された中敷12を甲皮2の履き口から挿入して靴1を完成する(
図8(f))。
【0035】
次に、上記履物の底部材の作用、効果について説明する。
この履物の底部材によれば、インソール10が第1足趾骨を支持可能な内側パッド14を有しているため、母趾球から爪先に亙る第1足趾骨領域に内側パッド14を用いて押圧力を作用させることができ、履用者の条件反射を用いて親指を強制的に下向きに動かして歩行改善を図ることができる。本底4とインソール10の間に配設され且つ本底4の先端部分を上方に引き上げると共に内側パッド14を上方に付勢する芯部材5を設けているため、本底4の爪先部分を強制的に引き上げることができ、躓き防止を図ることができる。また、履用者の踏付力に拘らず母趾球よりも爪先側の第1足趾骨領域に上向きの押圧力を作用させるため、履用者による躓き防止動作を距骨下の背屈と内かえしによる最小限の複合運動で実行することができる。
【0036】
インソール10は、本底4に芯部材5を介在させて固着された中底11と、中底11上面に着脱可能に装着された中敷12とを有し、内側パッド14は、中敷12に固着されたため、躓き防止動作である背屈と内かえしの複合運動の実行可否を中敷12の装着によって切り替えることができる。
【0037】
中敷12が第2足趾骨から第5足趾骨までの外側部分を支持可能な外側パッド15を有し、内側パッド14は、外側パッド15よりも高反発材料で形成されたため、内かえしを促進することができ、履き心地を確保しつつ躓き防止を図ることができる。
【0038】
芯部材5は、前半部が後半部に対して上方に屈曲形成され、前半部は、靴1の重量を引き上げ可能に構成されたため、本底4の爪先部分を確実に引き上げることができる。
【0039】
芯部材5は、カーボンファイバからなる不織シートによって構成されたため、簡単な構成で付勢機能付き芯部材5を成形することができる。
【実施例2】
【0040】
次に、実施例2に係るスリッパ1Aについて
図11に基づき説明する。
尚、実施例1と同様の部材には、同じ符号を付している。
【0041】
実施例1では、踵部を有する本底4を備えた履物である靴1であったのに対し、実施例2では、踵部を有していない本底4Aを備えた履物である部屋履きスリッパ1Aを対象としている。
図11に示すように、スリッパ1Aは、履用者の足を包み込む甲皮2Aと、床面に接する本底4Aと、この本底4Aの上に配置されて履用者の足裏に伝わる力を分散するインソール10Aと、本底4Aとインソール10Aの間に配設された芯部材5等を主な構成要素としている。
【0042】
本底4Aは、床面に沿った平坦状に形成され、踵部が省略されている。
この本底4Aは、屈曲性に富み、反発弾性に優れ且つ圧縮永久歪が少ない材料、例えば、革によって成形される。芯部材5は、カーボンファイバを用いて成形され、爪先部分に所定の反発力を付与する反発力付与機構が形成されている。
【0043】
インソール10Aは、本底4Aの上面に一体的に接着される中底11と、この中底11の上面に着脱可能に装着されて履用者の足裏に直接接触する中敷12A等を備えている。
中敷12Aは、クッション材13Aと、内側パッド14と、外側パッド15とを有している。内側パッド14と外側パッド15の反発力は、前述した式(1)及び式(2)を満たすように成形されている。
【0044】
次に、スリッパ1Aの製造手順について説明する。
まず、木型20の底面に中底11を貼り付け、甲皮2Aの吊り込みを行う。
次に、甲皮2Aと中底11からなる第1中間体の中底11の裏面に接着剤を用いて芯部材5を貼り付ける。芯部材5が貼り付けられた第2中間体の底面に接着剤を用いて本底4Aを貼り付ける。最後に、本底4Aが貼り付けられた第3中間体を木型20から取り外し、両パッド14,15が接着された中敷12Aを甲皮2Aの履き口から挿入する。
これにより、踵部を有していないスリッパ1Aにおいて、履用者の足部に背屈と内かえしによる最小限の複合運動を誘発させることができ、履用者の疲労に拘らず歩行改善効果を確保することができる。
【0045】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、踵部を有する靴1及び踵部を有していない部屋履きスリッパ1Aの例を説明したが、少なくとも躓き防止を目的とする履物であれば良く、踵部を有していないサンダル等の履物にも適用可能である。
【0046】
2〕前記実施例においては、インソール10が中底11と中敷12によって構成され、中敷12を後から装着する履物の例を説明したが、中底と中敷が予め一体化されたインソールを用いても良い。
【0047】
3〕前記実施例においては、本底4と中底11との間に芯部材5を設けた例を説明したが、少なくとも、本底4と中敷12を上方に付勢する付勢力を付与可能な芯部材5であれば良く、中底11と中敷12との間に芯部材5を設けても良い。この場合、中底11と中敷12を予め一体化されたインソールを用いる必要がある。
【0048】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。