(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セルの流路方向に直交する断面において、各スリットの内面に隣接する複数のセルをそれぞれ1番目のセルとして、何れのスリットの内面から数えても10番目より遠くにあるセルを区画形成する隔壁部分の厚みをT3とすると、T2>T3の関係式が常に成立する請求項1〜5の何れか一項に記載の導電性ハニカム構造体。
セルの流路方向に直交する断面において、中心から外周側壁の外面に向かって、中心から外周側壁の外面までの長さの10%の位置までの領域を中央部とし、且つ、外周側壁の外面から中心に向かって、外周側壁の外面から中心までの長さの10%の位置までの領域を外周部としたときに、中央部の開口率が、外周部の開口率の0.70〜0.95倍である請求項1〜8の何れか一項に記載の導電性ハニカム構造体。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0024】
(1)ハニカム構造体
本発明のハニカム構造体100は一実施形態において、
図1〜
図3に示すように、柱状のハニカム構造部4と、一対の電極部21とを備える。柱状のハニカム構造部4は、外周側壁3と、外周側壁3の内側に配設され、一方の底面である第一底面11から他方の底面である第二底面12まで貫通して流路を形成する複数のセル2を区画形成する隔壁1とを有する。隔壁1は多孔質とすることができる。複数のセル2の流路には、流体を流すことができる。以下、ハニカム構造部4の第一底面11及び第二底面12を総称して、単に「ハニカム構造部4の底面」ということがある。一対の電極部21は、ハニカム構造部4の中心軸を挟んで、ハニカム構造部4の外周側壁3の外面5にセルの流路方向に帯状に延設されている。そして、外周側壁3の外面5上には、セル2の流路方向に延びた開口を有する一本以上のスリット6が形成されている。
【0025】
本実施形態のハニカム構造体100のハニカム構造部4は、導電性を有する材料からなり、一対の電極部21間に電圧を印加すると通電してジュール熱により発熱することが可能である。よって、ハニカム構造部4はヒーターとして好適に用いることができる。印加する電圧は12〜900Vが好ましく、64〜600Vが更に好ましいが、印加する電圧は適宜変更可能である。また、ハニカム構造部4に触媒を担持することにより、ハニカム構造体100を触媒体として使用することが可能である。
【0026】
本実施形態のハニカム構造体100のアイソスタティック強度は、1MPa以上であることが好ましく、3MPa以上であることが更に好ましい。アイソスタティック強度は、値が大きいほど好ましいが、ハニカム構造体100の材質、構造等を考慮すると、6MPa程度が上限となる。アイソスタティック強度が1MPa未満であると、ハニカム構造体を触媒担体等として使用する際に、破損し易くなることがある。アイソスタティック強度は水中にて静水圧をかけて測定した値である。
【0027】
(1−1 ハニカム構造部)
本実施形態のハニカム構造体100において、ハニカム構造部4は、セル2の流路方向に直交する断面において、外周側壁3の平均厚みをT
1とし、各スリット6の内面に隣接する複数のセル2をそれぞれ1番目のセルとして、各スリット6の内面から近い順に1番目から3番目までのセル2を区画形成する隔壁部分(以下、「スリット内面付近の隔壁」ということがある。)の厚みをT
2とすると、1.0≦T
1/T
2≦3.0の関係式が常に成立する。すなわち、各スリット6の内面から近い順に1番目から3番目までのセル2を区画形成する隔壁はハニカム構造部4の中に複数存在するが、これらの隔壁のすべてが、上記関係式を満たす。
【0028】
図4−1には、セルへの順番の付け方を例示するために、セルの流路方向に直交する断面におけるセル2の形状が正方形の場合について、ハニカム構造部4の部分構造を例示している。また、
図4−2には、セルの流路方向に直交する断面におけるセル2の形状が正六角形の場合について、ハニカム構造部4の部分構造を例示している。各スリット6の内面からの距離が近い順にセルに番号を付している。
【0029】
図4−1及び
図4−2から理解できるように、1番目のセルと2番目のセルが隣接している箇所においては、両セルに隣接する隔壁1は1番目のセルを区画形成する隔壁でもあり、2番目のセルを区画形成する隔壁でもある。同様に、n番目のセルとn+1番目のセルが隣接している箇所においては、両セルに隣接する隔壁1はn番目のセルを区画形成する隔壁でもあり、n+1番目のセルを区画形成する隔壁でもある(nは自然数を指す。)。ハニカム構造部4のセルの流路方向に直交する断面におけるセル2の形状が複雑になると、特定の隔壁が多数のセルを区画形成することも考えられるが、本発明においては、このような場合、当該隔壁が隣接するセルの中で最も番号の小さなセル(着目しているスリットに最も近いセル)を区画形成する隔壁として取り扱うこととする。
【0030】
T
1/T
2≦3.0を満たすことで、加熱時に、スリット6の内面近傍の隔壁1がハニカム構造部4の外周側壁3からの引張りを受け難くなる。これによって、熱衝撃によるスリット最深部近傍を起点としたクラックの発生を低減することが可能となり、耐熱衝撃性を高めることが可能となる。耐熱衝撃性を高めるという観点からは、T
1/T
2≦2.9の関係式が常に成立することが好ましく、T
1/T
2≦2.8の関係式が常に成立することがより好ましく、T
1/T
2≦2.5の関係式が常に成立することが更により好ましい。
【0031】
また、1.0≦T
1/T
2を満たすことで、加熱時に、逆に外周側壁3がスリット6の近傍の隔壁1から引張りを受けるということも抑制できる。これによって、熱衝撃による外周側壁3へのクラック発生を抑制可能となり、耐熱衝撃性を高めることが可能となる。耐熱衝撃性を高めるという観点からは、1.3≦T
1/T
2の関係式が常に成立することが好ましく、1.5≦T
1/T
2の関係式が常に成立するであることがより好ましく、1.8≦T
1/T
2の関係式が常に成立するであることが更により好ましい。
【0032】
ハニカム構造部4の最外周を構成する外周側壁3の平均厚みT
1は、0.1〜0.5mmであることが好ましい。外周側壁3の平均厚みT
1を0.1mm以上、好ましくは0.15mm以上、より好ましくは0.2mm以上とすることで、ハニカム構造体100の強度が低下するのを防止することができる。外周側壁3の平均厚みT
1を0.5mm以下、好ましくは0.45mm以下、より好ましくは0.4mm以下とすることで、外壁の剛性を低くすることで外壁による引張力を抑えられるという利点が得られる。ここで、外周側壁3の厚みは、厚みを測定しようとする外周側壁の箇所をセルの流路方向に直交する断面で観察したときに、外周側壁3の外面5の当該測定箇所における接線に対する法線方向の厚みとして定義され、複数の測定箇所の平均値がT
1である。
図4−1及び
図4−2に外周側壁3の平均厚みT
1の測定箇所を例示的に示す。
【0033】
スリット内面付近の隔壁の厚みT
2は、いずれも0.1〜0.3mmであることが好ましい。スリット内面付近の隔壁の厚みT
2を0.1mm以上、好ましくは0.11mm以上、より好ましくは0.12mm以上とすることで、スリット6の最深部付近を起点としたクラックの発生を抑制する効果を高めることができる。また、スリット内面付近の隔壁の厚みT
2を0.3mm以下、好ましくは0.27mm以下、より好ましくは0.25mm以下とすることで、排ガス等の流体をハニカムの流路に流したときの圧力損失が大きくなり過ぎることを抑制できる。ここで、ハニカム構造部4の各隔壁1の厚みは、ハニカム構造部4のセル2の流路方向に直交する断面において、隣接する二つのセル2の重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁1を横切る長さとして定義される。
【0034】
また、セル2の流路方向に直交する断面において、各スリット6の内面に隣接する複数のセル2をそれぞれ1番目のセルとして、何れのスリット6の内面から数えても10番目より遠くにあるセルを区画形成する隔壁部分(以下、「スリット内面から離れた隔壁」ということがある。)の厚みをT
3とすると、T
2>T
3の関係式が常に成立することが好ましく、1.2≦T
2/T
3の関係式が常に成立することが好ましく、1.5≦T
2/T
3の関係式が常に成立することがより好ましい。すなわち、スリット内面から離れた隔壁はハニカム構造部4の中に複数存在するが、これらの隔壁のすべてが、上記関係式を満たすことが好ましい。熱衝撃によるスリット6の最深部付近を起点としたクラックの発生はスリット6の内面周辺の隔壁の厚みを確保すれば防止することができる一方で、ハニカム構造部4のすべての隔壁の厚みを大きくすると、セル2の流路に排ガス等の流体を流したときの圧力損失が大きくなりやすい。圧力損失を増大させないようにするには、ハニカム構造部4の断面積を大きくする必要がある。そのため、スリット6から離れた場所においては隔壁の厚みは小さい方がコンパクトで高流量を確保できるハニカム構造体を得る上では望ましい。但し、スリット内面付近の隔壁の厚みT
2がスリット内面から離れた隔壁の厚みT
3に対して大きすぎると、排ガス通過時や通電時の熱により膨張する際に、剛性差に基づく膨張差が発生してしまいハニカム内部にクラックが生じてしまうおそれがあることから、T
2/T
3≦2.5の関係式が常に成立することが好ましく、T
2/T
3≦2.0の関係式が常に成立することがより好ましい。
【0035】
また、1.0≦T
1/T
3≦3.0の関係式が常に成立することが好ましい。当該関係式を満たすことでT
1とT
3のバランスが良くなり、何れにも過大な引張力が掛からないため、加熱時に予期せぬクラックが発生するのを防止することができる。1.2≦T
1/T
3≦2.8の関係式が常に成立することがより好ましく、1.5≦T
1/T
3≦2.5の関係式が常に成立することが更により好ましい。
【0036】
スリット内面から離れた隔壁の厚みT
3は、いずれも0.08〜0.3mmであることが好ましい。スリット内面から離れた隔壁の厚みT
3を0.08mm以上、好ましくは0.09mm以上、より好ましくは0.1mm以上とすることで、ハニカム構造体の強度が低下するのを抑制可能である。また、スリット内面から離れた隔壁の厚みT
3を0.3mm以下、好ましくは0.25mm以下、より好ましくは0.2mm以下とすることで、排ガス等の流体をハニカムの流路に流したときの圧力損失が大きくなり過ぎることを抑制できる。
【0037】
ハニカム構造部4における隔壁1の厚みは、スリット内面付近の隔壁であるかスリット内面から離れた隔壁であるかに関わらず、何れの箇所においても0.1〜0.3mmであることが好ましく、0.15〜0.25mmであることがより好ましい。隔壁1の厚みが0.1mm以上であることで、ハニカム構造体の強度が低下するのを抑制可能である。隔壁1の厚みが0.3mm以下であることで、ハニカム構造体100を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなるのを抑制できる。
【0038】
ハニカム構造部4は、セル2の流路方向に直交する断面において、セル密度が40〜150セル/cm
2であることが好ましく、70〜100セル/cm
2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度が40セル/cm
2より低いと、触媒担持面積が少なくなることがある。セル密度が150セル/cm
2より高いと、ハニカム構造体100を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなることがある。
【0039】
本実施形態のハニカム構造体100において、ハニカム構造部4は導電性を有する限り特に材質に制限はなく、金属やセラミックス等を使用可能である。特に、耐熱性と導電性の両立の観点から、ハニカム構造部4の材質は、珪素−炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするものであることが好ましく、珪素−炭化珪素複合材又は炭化珪素であることが更に好ましい。ハニカム構造部4の材質が、珪素−炭化珪素複合材を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部4が、珪素−炭化珪素複合材(合計質量)を、ハニカム構造部4全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素−炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、ハニカム構造部4の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造部4が、炭化珪素(合計質量)を、ハニカム構造部4全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0040】
ハニカム構造部4は、ジュール熱により発熱するものであり、例えば、その電気抵抗率については特に制限はない。例えば、ハニカム構造部4の電気抵抗率は、0.01〜200Ωcmであることが好ましく、0.05〜100Ωcmであることが更に好ましい。また、ハニカム構造体100を使用する用途に合わせて、ハニカム構造部4の電気抵抗率を選択することもできる。ハニカム構造部の電気抵抗率は、四端子法により400℃で測定した値である。
【0041】
ハニカム構造部4の材質が、珪素−炭化珪素複合材である場合、ハニカム構造部4に含有される「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、ハニカム構造部4に含有される「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、ハニカム構造部4に含有される「結合材としての珪素の質量」の比率が、10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることが更に好ましい。10質量%より低いと、ハニカム構造体の強度が低下することがある。40質量%より高いと、焼成時に形状を保持できないことがある。
【0042】
ハニカム構造部4の隔壁1の気孔率は、35〜60%であることが好ましく、35〜45%であることが更に好ましい。気孔率が、35%未満であると、焼成時の変形が大きくなってしまうことがある。気孔率が60%を超えるとハニカム構造体の強度が低下することがある。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0043】
ハニカム構造部4の隔壁1の平均細孔径は、2〜15μmであることが好ましく、4〜8μmであることが更に好ましい。平均細孔径が2μmより小さいと、電気抵抗率が大きくなりすぎることがある。平均細孔径が15μmより大きいと、電気抵抗率が小さくなりすぎることがある。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0044】
セル2の流路方向に直交する断面におけるセル2の形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせ、であることが好ましい。これ等のなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造体100に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。
【0045】
ハニカム構造部4の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、底面が円形の柱状(円柱形状)、底面がオーバル形状の柱状、底面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造部4の大きさは、耐熱性(外周方向外壁部に入るクラック)の理由により、底面の面積が2000〜20000mm
2であることが好ましく、4000〜10000mm
2であることが更に好ましい。また、ハニカム構造部4の中心軸方向の長さは、耐熱性(外周側壁において中心軸方向に平行に入るクラック)の理由により、50〜200mmであることが好ましく、75〜150mmであることが更に好ましい。
【0046】
図2を参照すると、セルの流路方向に直交する断面において、中心Oから外周側壁3の外面5に向かって、中心Oから外周側壁3の外面5までの長さの10%の位置までの領域を中央部とし、且つ、外周側壁3の外面5から中心Oに向かって、外周側壁3の外面5から中心Oまでの長さの10%の位置までの領域を外周部としたときに、中央部の開口率が、外周部の開口率の0.70〜0.95倍であることが好ましく、0.80〜0.85倍であることが更に好ましい。これにより、中央部の電気抵抗率が外周部の電気抵抗率より低くなり、ハニカム構造体100に電圧を印加したときに中央部に多くの電流が流れ、中央部が早く発熱するようになる。これにより、ハニカム構造体100に電圧を印加して排ガスを浄化する際に、短時間で中央部まで、必要温度に昇温することができる。そして、外周部よりも多くの排ガスが流れる中央部において、効果的に排ガスの処理を行うことができる。更に、中央部を必要温度まで昇温する際の熱量も、少なくすることができる。また、耐熱衝撃性を向上させることができる。
【0047】
中央部及び外周部のそれぞれの好ましい開口率は、以下のとおりである。中央部の開口率は50〜80%が好ましく、55〜75%が更に好ましく、60〜70%が特に好ましい。50%より小さいと圧力損失が大きくなることがある。80%より大きいと、中央部の開口率を外周部の開口率よりも小さくすることが難しくなることがある。外周部の開口率は55〜85%が好ましく、60〜80%が更に好ましく、65〜75%が特に好ましい。55%より小さいと、外周部の開口率を中央部の開口率よりも大きくすることが難しくなることがある。85%より大きいと、ハニカム構造体100の強度が低下することがある。
【0048】
ここで、「開口率」とは、ハニカム構造部4のセル2の流路方向に直交する断面において、セルの面積を、隔壁とセルの面積の合計で除して得られた値(セル面積合計/(セル面積合計+隔壁面積合計))を、百分率で表した値である。つまり、各領域の「開口率」は、該当する領域における「開口率」の平均値であるということもできる。
【0049】
中央部の開口率を外周部の開口率よりも小さくする方法として、中央部の隔壁1の厚みを外周部の隔壁1の厚みよりも厚くする方法が挙げられる。このとき、中央部の隔壁1の厚みが、外周部の隔壁1の厚みの1.0倍より大きく2.0倍以下であることが好ましく、1.2〜1.8倍であることが更に好ましく、1.4〜1.7倍であることが特に好ましい。2.0倍を上限としたのは、2.0倍より厚いと、中央部の圧力損失が大きくなり、排ガスが流れ難くなることがあるためである。
【0050】
中央部の開口率を外周部の開口率よりも小さくする方法として、中央部のセル密度を外周部のセル密度よりも大きくする方法も挙げられる。このとき、中央部のセル密度は、外周部のセル密度の1.0より大きく1.5倍以下であることが好ましく、1.0より大きく1.4倍以下であることが更に好ましく、1.05〜1.3倍であることが特に好ましい。1.5倍を上限としたのは、1.5倍より大きいと、中央部の圧力損失が大きくなり、排ガスが流れ難くなることがあるためである。
【0051】
(1−2 スリット)
図1及び
図2に示すように、本実施形態のハニカム構造体100においては、ハニカム構造部4に、外周側壁3の外面5上にセル2の流路方向に延びた開口を有するスリット6が1本以上形成されている。スリット6は、外周側壁3の外面5上に開口を有すると共に、第一底面11及び第二底面12の一方又は両方まで延びてこれらに開口を有することができる。少なくとも1本のスリット6内には充填材7を充填してもよい。本実施形態のハニカム構造体100においては、充填材7が、スリット6の内部空間の少なくとも一部を塞ぐように充填されている。スリット6内に充填材7を充填することで、ハニカム構造体100の耐熱衝撃性及びアイソスタティック強度を向上することができると共に、セル2の流路内を流れる流体がスリット6を通じてハニカム構造部4から抜け出て行くのを防止することができる。
【0052】
図2を参照すると、少なくとも1本のスリット6は、セル2の流路方向に直交する断面において、一対の電極部21のそれぞれの周方向中央部C同士を結んだ線分(中心線)Lと交差しないように形成されたものであることが好ましい。このようにして少なくとも1本のスリット6を形成することにより、電圧を印加したときのハニカム構造部4の温度分布の偏りを抑制することができると共に、耐熱衝撃性をより向上させることができる。また、このように構成することによって、電圧を印加したときの温度分布の偏りを抑制することができる。更に、少なくとも1本のスリット6が、セル2の流路方向に直交する断面において、一対の電極部21のそれぞれの周方向中央部C同士を結んだ直線と交差しないように形成されたハニカム構造体100は、機械的強度にも優れたものとなる。本実施形態のハニカム構造体100は、6本のスリット6のそれぞれが、セル2の流路方向に直交する断面において、一対の電極部21,21のそれぞれの周方向中央部C同士を結んだ線分Lと交差しないように形成されたものである。
【0053】
以下、ハニカム構造体100のセル2の流路方向に直交する断面において、一対の電極部21のそれぞれの周方向中央部C同士を結んだ線分Lと交差しないように形成されたスリット6を「非交差スリット」と称することがある。また、ハニカム構造体100のセル2の流路方向に直交する断面において、一対の電極部21のそれぞれの周方向中央部C同士を結んだ線分Lと交差するように形成されたスリット6を「交差スリット」と称することがある。
【0054】
本実施形態のハニカム構造体100は、ハニカム構造部4に、スリット6が2本以上形成され、2本以上のスリット6の中の50%以上のスリット6が、非交差スリットであることが好ましい。そして、ハニカム構造部4に形成されたスリット6の全てが、非交差スリットであることが更に好ましい。非交差スリットが、スリット6全体の50%以上であることにより、ハニカム構造体100の機械的強度が低下することを防止できる。すなわち、本実施形態のハニカム構造体100が機械的強度に優れたものとなる。非交差スリットが、スリット6全体の50%未満であると、交差スリットが多くなることにより、ハニカム構造体100の機械的強度が低下することがある。また、非交差スリットが、スリット6全体の50%未満であると、交差スリットが多くなるため、一対の電極21間を流れる電流の流れがスリットによって大きく妨げられ、均一な発熱が阻害され、不均一な発熱となることがある。
【0055】
本実施形態のハニカム構造体100において、スリット6の深さは、ハニカム構造部4の「セル2の流路方向に直交する断面」における半径(以下、「ハニカム構造部の半径」と称することがある。)の1〜80%であることが好ましい。そして、スリット6の深さは、ハニカム構造部の半径の1〜60%であることが更に好ましく、1〜30%であることが特に好ましい。スリット6の深さが、ハニカム構造部4の半径の1%より小さいと、スリット6による耐熱衝撃性の向上効果が得られ難くなることがある。スリット6の深さが、ハニカム構造部4の半径の80%より大きいと、一対の電極21間を流れる電流の流れがスリット6によって大きく妨げられ、均一な発熱が阻害され、不均一な発熱となることがある。各スリット6の深さは、スリット6の「外周側壁3の外面5における開口部」から、スリット6の最も深い位置までの距離のことである。スリットが複数本存在する場合には、スリット6の深さは、スリットによって異なっていてもよく、全て同じでもよい。
【0056】
本実施形態のハニカム構造体100において、スリット6の開口幅は、ハニカム構造部4の「セル2の流路方向に直交する断面」における外周の長さ(以下、「ハニカム構造部の外周長」と称することがある。)の0.1〜5%であることが好ましい。そして、スリット6の開口幅は、ハニカム構造部の外周長の0.1〜3%であることが更に好ましく、0.1〜1%であることが特に好ましい。スリット6の開口幅が、ハニカム構造部の外周長の0.1%より小さいと、ハニカム構造体100の耐熱衝撃性を低減する効果が低下することがある。スリット6の開口幅が、ハニカム構造部の外周長の5%より大きいと、ハニカム構造体100の機械的強度が低下することがある。スリット6の開口幅は、スリット6の「ハニカム構造部4の周方向」における長さのことである。「ハニカム構造部4の周方向」とは、ハニカム構造部4の「セル2の流路方向に直交する断面」における、外周に沿う方向のことである。スリットが複数本存在する場合には、スリット6の開口幅は、スリットによって異なっていてもよく、全て同じでもよい。
【0057】
本実施形態のハニカム構造体100において、スリット6の「セルの流路方向」における長さは、ハニカム構造部の「セルの流路方向」における長さと同じであることが好ましい。つまり、スリット6がハニカム構造部の両底面間に亘って(全長に亘って)形成されていることが好ましい。また、スリット6の「セルの流路方向」における長さが、ハニカム構造部の「セルの流路方向」における長さの5〜70%であることも好ましい態様である。耐熱衝撃性の点では全長に亘っている方がよいが、一部形成されていない部分が残っていると、強度の点で好ましい。全長に亘っていない場合、スリットの片端は、ハニカム構造体の片方の底面に位置することが好ましい。この場合、スリットは、ハニカム構造部の片方の底面側のみに形成されていてもよいし(
図10を参照)、ハニカム構造部の両方の底面側に形成されていてもよい(
図11を参照)。スリットが、ハニカム構造部の両方の底面側に形成された場合、スリットの「セルの流路方向」における合計の長さが、ハニカム構造部の「セルの流路方向」における長さの5〜70%であることが好ましい。また、スリットが、ハニカム構造部の片方の底面側のみに形成される場合、ハニカム構造体を使用する際に、スリットが形成された底面側を、熱衝撃がより大きくかかる方向を向けて使用することが好ましい。スリットが複数本存在する場合には、スリット6の長さは、スリットによって異なっていてもよく、全て同じでもよい。
【0058】
また、スリットが複数本存在する場合には、スリット形成パターン(含:本数)、スリットの深さ、スリットの開口幅、スリットの長さは、中心線Lを対称軸とする線対称であることが均質性の観点から好ましい。
【0059】
本実施形態のハニカム構造体100において、スリット6の本数は、1〜20本が好ましく、1〜15本が更に好ましく、1〜10本が特に好ましい。スリット6の本数が20本を超えると、ハニカム構造体100の機械的強度が低下することがある。
図1及び
図2に示されるハニカム構造体100においては、6本のスリット6が形成されている。
【0060】
本実施形態のハニカム構造体100において、「外周側壁3の外面5における開口部(スリット6の開口)の位置が、電極部21に最も近い」スリット6を、「最短距離スリット」6aと称することにする。「セル2の流路方向に直交する断面」において、電極部21の周方向端部と「最短距離スリット」6aの周方向端部との外周側壁3の外面5に沿った最短距離Dは、0.1〜30mmが好ましく、0.5〜20mmが更に好ましく、1〜10mmが特に好ましい。電極部21と「最短距離スリット」6aとの最短距離Dが、0.1mmより短いと、電流の流れが妨げられることがあり、均一発熱し難くなることがある。一方、電極部21と「最短距離スリット」6aとの最短距離Dが、30mmを超えると、ハニカム構造体100の耐熱衝撃性を向上する効果が得られ難くなることがある。
【0061】
このことは、スリット6を電極部21に形成することを禁止するものではなく、電極部21の耐熱衝撃性を高めてクラックを防止する上では各電極部21にスリットを一本又は複数本設けてもよい。電極部21にスリットを設ける場合には、ハニカム構造体100のセル2の流路方向に直交する断面において、一対の電極部21のそれぞれの周方向中央部Cに設けることが、電流の妨げを最小限にする観点から望ましい。この場合、スリットは後述するように電極部21の内側に電極部21に覆われるようにして形成してもよいし(
図13参照)、電極部21の外面に開口するようにして形成してもよい(
図14参照)。電極部における耐熱衝撃性を高めるという観点からは、電極部21の外面に開口するスリットを形成することが好ましい。電極部21の外面に開口するスリットを形成する場合、スリットは電極部21のみに及ぶ深さとしてもよいし、電極部21を貫通してハニカム構造部4の外周側壁3の内側にまで及ぶような深さとしてもよい。電極部における耐熱衝撃性を高めるという観点からは、電極部21はセル2の流路方向に延びた開口を有するスリットを挟んで分割されるように、スリットがハニカム構造部の両底面間に亘って(全長に亘って)形成されていることが好ましい。
【0062】
本実施形態のハニカム構造体100は、
図1及び
図2に示されるように、ハニカム構造部4の側面5の「電極部21が配設されていない」2箇所の領域(領域A、領域B)に、3本ずつスリット6が形成されている。本実施形態のハニカム構造体100は、スリットの深さより、対向するスリット間の距離のほうが長いものである。対向するスリット間の距離とは、領域Aに形成されたスリット6と、領域Bに形成されたスリット6との間の距離である。
【0063】
本実施形態のハニカム構造体100は、6本のスリットのスリット角度が、全て90°である。ここで、「スリット角度」は、以下のように定義されるものとする。
図2に示されるように、本実施形態のハニカム構造体100のセルの流路方向に直交する断面において、スリット6と、ハニカム構造部4の外周との交点を点Pとする。そして、点Pを端点とし、点Pからハニカム構造部4の外周の外側に向かって伸びると共に、中心線Lに平行な半直線(又は、線分)を、半直線HLとする。尚、中心線Lは、上記のように、「一対の電極のそれぞれの中央部同士を結んだ直線」である。そして、そのときに、スリット6と半直線HLとにより形成される角度のうち、大きくない方の角度(180°以下の角度)を「スリット角度SA」とする。ここで、「大きくない方の角度」とは、「小さい方の角度、又は、同じ角度である場合には、同じである当該角度」を意味する。また、半直線とは、一方に端があって、他方に無限に伸びている直線のことである。また、「半直線HLが、ハニカム構造部4の外周の外側に向かって伸びる」とは、半直線HLが、ハニカム構造部4の断面内を通過しないような方向に伸びることを意味する。
【0064】
スリット6に充填材7を充填する場合、ハニカム構造部4の熱膨張係数α1に対する、充填材7の熱膨張係数α2の比率(α2/α1)が、0.6〜1.5であることが好ましい。これにより、充填材7がスリット6に配設されていることに起因する、ハニカム構造部4及び充填材7の破損を有効に防止することができる。例えば、ハニカム構造部4の熱膨張係数α1に対する、充填材7の熱膨張係数α2の比率(α2/α1)が、0.6未満であると、充填材の膨張不足により、ハニカム構造部4に縦クラックが生じることがある。ハニカム構造部4の熱膨張係数α1に対する、充填材7の熱膨張係数α2の比率(α2/α1)が、1.5超であると、充填材の膨張過剰により、ハニカム構造部4の底面にクラックが生じることがある。以下、「ハニカム構造部4の熱膨張係数α1に対する、充填材7の熱膨張係数α2の比率(α2/α1)」のことを、「熱膨張係数比率(α2/α1)」ということがある。なお、本発明において、断りのない限り、熱膨張係数という場合は、25〜800℃の熱膨張係数のことを意味する。
【0065】
充填材7は骨材とネック材とを含有することができる。「ネック材」とは、骨材粒子の粒間に入って粒子同士を結合・固定化するもののことである。ネック材の材質については、特に制限はない。例えば、ネック材は、酸化ケイ素、金属酸化物、金属、及び金属化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましい。ネック材の態様として、以下のような例を挙げることができる。ネック材は、酸化ケイ素及び金属酸化物のうちの少なくとも一方を含むものであってもよいし、ネック材は、酸化ケイ素及び金属酸化物のうちの少なくとも一方からなるものであってもよい。ネック材を構成する金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウムを挙げることができる。
【0066】
充填材7は、ネック材を2〜90質量%を含むことが好ましく、ネック材を3〜50質量%を含むことが更に好ましく、ネック材を5〜25質量%を含むことが特に好ましい。ネック材が2質量%未満であると、充填材7の強度が低下することがある。ネック材が90質量%超であると、充填材7の熱膨張係数α2が上昇することがある。また、ネック材が過剰量であると、充填材7の強度が低下することがある。
【0067】
また、骨材の材質についても特に制限はないが、骨材に含まれる好ましい成分としては、炭化珪素、コージェライト、酸化ケイ素、アルミニウムチタネート、タルク、マイカ、及びリチウムアルミニウムチタネート、モンモリロナイト、タルク、ベーマイト、フォルステライト、カオリン、ムライトからなる群から選択される少なくとも1種の成分を挙げることができる。骨材は、上述した群から選択される少なくとも1種の成分を、合計で10〜100質量%含むことが好ましく、合計で50〜97質量%含むことが更に好ましく、合計で75〜95質量%含むことが特に好ましい。複数種類の骨材を混合して使用してもよい。
【0068】
図1に示されるように、本実施形態のハニカム構造体100は、充填材7が、スリット6の空間の少なくとも一部に配設されたものである。そして、ハニカム構造部4に、スリット6が2本以上形成され、2本以上のスリット6の中の50%以上のスリットに充填材が配設されていることが好ましい。更に、ハニカム構造部4に形成された「2本以上のスリット6」の全てに充填材が配設されていることが好ましい。また、充填材7は、「スリット6の空間」の全部に配設されることが好ましい。
図1に示されるハニカム構造体100においては、6本のスリット6が形成されている。そして、全てのスリット6のそれぞれにおいて、当該スリット6の空間全体に充填材7が配設されている。「少なくとも一部に配設」とは、スリットの深さ方向における「一部」でもよく、スリットの長さ方向における「一部」でもよく、これらの組合せでもよい。
【0069】
(1−3 電極部)
本実施形態のハニカム構造体100において、一対の電極部21は、ハニカム構造部4の中心軸を挟んで、外周側壁3の外面5上にセル2の流路方向(セルの延びる方向)に帯状に延設されている。従って、本実施形態のハニカム構造体100をセル2の流路方向に直交する断面から観察すると、一方の電極部21が、他方の電極部21に対して、ハニカム構造部4の中心Oを挟んで反対側に配設されている(
図2参照)。これにより、ハニカム構造体100は、一対の電極部21間に電圧を印加した時に、ハニカム構造部4内を流れる電流の偏りを抑制することができ、ハニカム構造部4内の温度分布の偏りを抑制することができる。
【0070】
「セル2の流路方向に直交する断面から観察すると、一方の電極部21が、他方の電極部21に対して、ハニカム構造部4の中心Oを挟んで反対側に配設されている」の意味は、以下の通りである。つまり、
図5に示されるように、まず、セル2の流路方向に直交する断面において、「一方の電極部21の中央部C(「ハニカム構造部4の周方向」における中央の点)とハニカム構造部4の中心Oとを結ぶ線分」を線分L1とする。そして、セル2の流路方向に直交する断面において、「他方の電極部21の中央部C(「ハニカム構造部4の周方向」における中央の点)とハニカム構造部4の中心Oとを結ぶ線分」を線分L2とする。そのとき、線分L1と線分L2とにより形成される角度β(「中心O」を中心とする角度)が、170°〜190°の範囲となるような位置関係になるように、一対の電極部21がハニカム構造部4に配設されていることを意味する。
図5においては、隔壁及びスリットは省略されている。
【0071】
更に、
図5に示されるように、本実施形態のハニカム構造体100は、セル2の流路方向に直交する断面において、それぞれの電極部21の中心角αの0.5倍(中心角αの0.5倍の角度θ)が、15〜65°であることが好ましい。これにより、ハニカム構造部4内の発熱の偏りを、より効果的に抑制することができる。このように、電極部21の中心角αの0.5倍が15〜65°であると共に、セルの流路方向に延びているという電極部21の形状は、「帯状」の一態様である。また、「電極部21の中心角α」は、
図5に示されるように、セルの流路方向に直交する断面において、各電極部21の周方向両端とハニカム構造部4の中心Oとを結ぶ2本の線分により形成される角度である。換言すると、「電極部21の中心角α」は、セルの流路方向に直交する断面において、「電極部21」と「電極部21の周方向の一方の端部と中心Oとを結ぶ線分」と「電極部21の周方向の他方の端部と中心Oとを結ぶ線分」とにより形成される形状(扇形、等)における、中心Oの部分の内角である。
【0072】
セル2の流路方向に直交する断面において、電極部21の「中心角αの0.5倍の角度θ」の上限値は、60°が更に好ましく、55°が特に好ましい。また、セル2の流路方向に直交する断面において、電極部21の「中心角αの0.5倍の角度θ」の下限値は、20°が更に好ましく、30°が特に好ましい。また、一方の電極部21の「中心角αの0.5倍の角度θ」は、他方の電極部21の「中心角αの0.5倍の角度θ」に対して、0.8〜1.2倍の大きさであることが好ましく、1.0倍の大きさ(同じ大きさ)であることが更に好ましい。これにより、一対の電極部21間に電圧を印加した時に、ハニカム構造部4内を流れる電流の偏りを抑制することができ、これによりハニカム構造部4内の温度分布の偏りを抑制することができる。
【0073】
電極部21の厚みは、0.01〜5mmであることが好ましく、0.01〜3mmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより、均一に発熱することができる。電極部21の厚みが0.01mmより薄いと、電気抵抗が高くなり均一に発熱できないことがある。5mmより厚いと、キャニング時に破損することがある。電極部21の厚みは、厚みを測定しようとする電極部の箇所をセルの流路方向に直交する断面で観察したときに、電極部21の外面の当該測定箇所における接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0074】
電極部21は、炭化珪素粒子及び珪素を主成分とすることが好ましく、通常含有される不純物以外は、炭化珪素粒子及び珪素を原料として形成されていることが更に好ましい。ここで、「炭化珪素粒子及び珪素を主成分とする」とは、炭化珪素粒子と珪素との合計質量が、電極部全体の質量の90質量%以上であることを意味する。このように、電極部21が炭化珪素粒子及び珪素を主成分とすることにより、電極部21の成分とハニカム構造部4の成分とが同じ成分又は近い成分(ハニカム構造部の材質が炭化珪素である場合)となる。そのため、電極部21とハニカム構造部4の熱膨張係数が同じ値又は近い値になる。また、材質が同じもの又は近いものになるため、電極部21とハニカム構造部4との接合強度も高くなる。そのため、ハニカム構造体に熱応力がかかっても、電極部21がハニカム構造部4から剥れたり、電極部21とハニカム構造部4との接合部分が破損したりすることを防ぐことができる。
【0075】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態のハニカム構造体100においては、一対の電極部21のそれぞれが、ハニカム構造部4のセルの流路方向に一方の底面から他方の底面まで延びる帯状に形成されている。このように、一対の電極部21が、ハニカム構造部4の両底面間に亘って配設されていることにより、一対の電極部21間に電圧を印加した時に、ハニカム構造部4内を流れる電流の偏りをより効果的に抑制することができる。そして、ハニカム構造部4内を流れる電流の偏りを抑制することにより、ハニカム構造部4内の温度分布の偏りをより効果的に抑制することができる。「一対の電極部21のそれぞれが、ハニカム構造部4のセルの流路方向に一方の底面から他方の底面まで延びる帯状に形成されている」とは、各電極部21の一方のセル流路方向端部がハニカム構造部4の第一底面11の周縁に接し、且つ、電極部21の他方のセル流路方向端部がハニカム構造部4の第二底面12の周縁に接していることを意味する。
【0076】
本実施形態のハニカム構造体100においては、電極部21の「ハニカム構造部4のセル2の流路方向」における両端部が、ハニカム構造部4の両底面の周縁に接していない状態も好ましい態様である。すなわち、電極部21の両端部が、ハニカム構造部4の第一底面11の周縁及び第二底面12の周縁に到達していない状態も好ましい態様である。また、電極部21の一方のセル流路方向端部が、ハニカム構造部4の第一底面11に接し、電極部21の他方のセル流路方向端部が、ハニカム構造部4の第二底面12に接していない状態も好ましい態様である。このように、電極部21を配設する形態については、ハニカム構造体100の使用形態に応じて、種々の変更が可能である。
【0077】
本実施形態のハニカム構造体においては、
図1〜
図3に示されるように、電極部21は、平面状の長方形の部材を、円柱形状の外周に沿って湾曲させたような形状となっている。ここで、湾曲した電極部21を、湾曲していない平面状の部材に変形したときの形状を、電極部21の「平面形状」と称することにする。上記、
図1〜
図3に示される電極部21の「平面形状」は、長方形になる。電極部21の平面形状は、長方形の角部が曲線状に形成された形状であってもよい。また、帯状の電極部21の平面形状は、長方形の角部が直線状に面取りされた形状であってもよい。
【0078】
電極部21の電気抵抗率は、ハニカム構造部4の電気抵抗率より低いものであることが好ましく、更に、電極部21の電気抵抗率が、ハニカム構造部4の電気抵抗率の、20%以下であることが更に好ましく、1〜10%であることが特に好ましい。電極部21の電気抵抗率を、ハニカム構造部4の電気抵抗率の、20%以下とすることにより、電極部21が、より効果的に電極として機能するようになる。具体的には、電極部21の電気抵抗率は、0.1〜100Ωcmであることが好ましく、0.1〜50Ωcmであることが、更に好ましい。電極部21の電気抵抗率が0.1Ωcmより小さいと、セルの流路方向に直交する断面において、電極部21の両端付近のハニカム構造部の温度が上昇し易くなることがある。電極部21の電気抵抗率が100Ωcmより大きいと、電流が流れ難くなるため、電極としての役割を果たし難くなることがある。ここで、電極部の電気抵抗率は、四端子法により測定した400℃における値とする。
【0079】
電極部21は、気孔率が30〜60%であることが好ましく、30〜55%であることが更に好ましい。電極部21の気孔率がこのような範囲であることにより、好適な電気抵抗率が得られる。電極部21の気孔率が、30%より低いと、製造時に変形してしまうことがある。電極部21の気孔率が、60%より高いと、電気抵抗率が高くなりすぎることがある。気孔率は、水銀ポロシメータで測定した値である。
【0080】
(1−4 その他の実施形態)
次に、本発明のハニカム構造体の他の実施形態について説明する。
図6に示されるように、本実施形態のハニカム構造体120は、スリット6の深さより、対向するスリット間の距離のほうが短い点で、
図1に示すハニカム構造体100と異なる。スリット6の深さが深くなると、耐熱衝撃性は向上するが、電流が流れにくくなることにより均一発熱させ難くなる。そのため、これらのバランスを考慮して、スリットの深さを適宜決定することが好ましい。
図6に示されるハニカム構造体120は、全てのスリット6に充填材7が充填されているが、充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又は何れのスリット6にも充填されていなくてもよい。
【0081】
次に、本発明のハニカム構造体の更に他の実施形態について説明する。
図7に示されるように、本実施形態のハニカム構造体130は、セルの流路方向に直交する断面において、セルの形状が六角形になったものである点で、
図1に示すハニカム構造体100と異なる。以下、セルの流路方向に直交する断面における「セルの形状」を、単に、「セル形状」と称することがある。セル形状が六角形であると、外周からの応力が分散されるという利点がある。本実施形態のハニカム構造体130は、スリット6に充填材7が充填されているが、充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又は何れのスリット6にも充填されていなくてもよい。
【0082】
次に、本発明のハニカム構造体の更に他の実施形態について説明する。
図8に示されるように、本実施形態のハニカム構造体140は、
図7に示されるハニカム構造体130において、スリット角度を変更したものである。具体的には、セルの流路方向に直交する断面において、6本すべてのスリットの深さ方向がハニカム構造部4の中心軸へと向かっている。本実施形態のハニカム構造体140は、スリット6に充填材7が充填されているが、充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又は何れのスリット6にも充填されていなくてもよい。
【0083】
次に、本発明のハニカム構造体の更に他の実施形態について説明する。
図9に示されるように、本実施形態のハニカム構造体150は、
図7に示されるハニカム構造体130において、一部のスリットについてスリットの深さを深くしたものである。具体的には、本実施形態のハニカム構造体150は、領域A及び領域Bのそれぞれに形成された3本のスリットの中で、中央に位置するスリットの深さが、より深くなったものである。本実施形態のハニカム構造体150は、スリット6に充填材7が充填されているが、充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又は何れのスリット6にも充填されていなくてもよい。
【0084】
次に、本発明のハニカム構造体の更に他の実施形態について説明する。
図10に示されるように、本実施形態のハニカム構造体160は、
図7に示されるハニカム構造体130において、スリット6の「セル2の流路方向」の長さが短くなったものである。具体的には、本実施形態のハニカム構造体160は、スリット6が、ハニカム構造部4の側面5及び第一底面11に開口すると共に、第二底面12には開口しないように形成されたものである。これは、スリット6が、ハニカム構造部4の一方の底部のみに形成された構造であるということもできる。スリット6の「セル2の流路方向」の長さは、ハニカム構造部4の「セル2の流路方向」の長さより短くなっている。本実施形態のハニカム構造体160は、スリット6に充填材7が充填されているが、充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又は何れのスリット6にも充填されていなくてもよい。
【0085】
次に、本発明のハニカム構造体の更に他の実施形態について説明する。
図11に示されるように、本実施形態のハニカム構造体170は、
図10に示されるハニカム構造体160において、「セル2の流路方向」の長さが短いスリット6が、ハニカム構造部のセルの両底部に形成されたものである。本実施形態のハニカム構造体170は、スリット6に充填材7が充填されているが、充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又は何れのスリット6にも充填されていなくてもよい。
【0086】
次に、本発明のハニカム構造体の更に他の実施形態について説明する。
図12に示されるように、本実施形態のハニカム構造体190は、一対の電極部21のそれぞれにおけるセル流路方向の両端部が、ハニカム構造部4の底面の周縁に接していない点で
図1に示されるハニカム構造体100と異なる。また、
図12に示されるハニカム構造体190は、帯状の電極部21の平面形状が、「長方形の角部が曲線状に形成された」形状である点でも
図1に示されるハニカム構造体100と異なる。また、
図12に示されるハニカム構造体190は、スリット6に充填材7が充填されていない点でも
図1に示されるハニカム構造体100と異なる。充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又はすべてのスリット6に充填されていてもよい。
【0087】
次に、本発明のハニカム構造体の更に他の実施形態について説明する。
図13に示されるように、本実施形態のハニカム構造体200は、
図8に示されるハニカム構造体140において、「セルの流路方向」に延びる6本のスリットの中の、電極部21に近い4本のスリットが、電極部21に覆われる位置に形成されたものである。本実施形態のハニカム構造体200は、スリット6に充填材7が充填されているが、充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又は何れのスリット6にも充填されていなくてもよい。
【0088】
次に、本発明のハニカム構造体の更に他の実施形態について説明する。
図14に示されるように、本実施形態のハニカム構造体210は、
図8に示されるハニカム構造体140に対して、各電極部21の外面上にセルの流路方向に延びた開口を有する一本以上の電極部スリット8を追加した構成を有する。この場合、電極部21は電極部スリット8を挟んで分割されていてもよい。また、スリット8の深さはハニカム構造部4の外周側壁3の内側にまで及ぶことができる。このような電極部スリット8は電極部21を形成した後に形成することができる。これにより、電極部21の耐熱衝撃性を向上することができる。本実施形態のハニカム構造体210は、スリット8に充填材7が充填されているが、充填材7は、一部のスリット6にのみ充填されていてもよく、又は何れのスリット6にも充填されていなくてもよい。
【0089】
(2)ハニカム構造体の製造方法
次に、本発明のハニカム構造体を製造する方法について例示的に説明するが、本発明のハニカム構造体の製造方法については、以下に説明する製造方法に限定されることはない。本発明のハニカム構造体の製造方法は一実施形態において、電極部原料付きハニカム成形体を得るA1工程と、スリットを形成するA2工程と、ハニカム成形体を焼成する工程A3と、随意的な充填材用原料を充填するA4工程とを含む。
【0090】
A1工程は、柱状のハニカム構造部の前駆体であるハニカム成形体に、電極部形成原料を塗布して、電極部原料付きハニカム成形体を得る工程である。柱状のハニカム構造部とは、
図1〜
図3に示すような、第一底面11から第二底面12まで延びる複数のセル2を区画形成する隔壁1と、最外周に位置する外周側壁3とを有するハニカム構造部4のことである。そして、ハニカム成形体とは、上述したハニカム構造部4を作製するための、焼成前のハニカム構造部のことである。
【0091】
ハニカム成形体の作製は、公知のハニカム構造体の製造方法におけるハニカム成形体の作製方法に準じて行うことができる。例えば、まず、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素の質量との合計に対して、金属珪素の質量が10〜40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3〜50μmが好ましく、3〜40μmが更に好ましい。金属珪素(金属珪素粉末)の平均粒子径は、2〜35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素(金属珪素粒子)の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。尚、これは、ハニカム構造部の材質を、珪素−炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、ハニカム構造部の材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0092】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0〜10.0質量部であることが好ましい。
【0093】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20〜60質量部であることが好ましい。
【0094】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1〜2.0質量部であることが好ましい。
【0095】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5〜10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10〜30μmであることが好ましい。10μmより小さいと、気孔を十分形成できないことがある。30μmより大きいと、成形時に口金に詰まることがある。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径のことである。
【0096】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形してハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。加熱時の膨張収縮を考慮する必要はあるものの、T
1、T
2及びT
3は基本的に口金構造によって調整することができる。次に、得られたハニカム成形体について、乾燥を行うことが好ましい。以下、乾燥後のハニカム成形体を「ハニカム乾燥体」と称することがある。ハニカム成形体(又は、ハニカム乾燥体)の中心軸方向長さが、所望の長さではない場合は、ハニカム成形体の両底部を切断して所望の長さとすることができる。
【0097】
次に、電極部を形成するための電極部形成原料を調合する。電極部の主成分を、炭化珪素及び金属珪素とする場合、電極部形成原料は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末に、所定の添加物を添加し、混練して形成することが好ましい。次に、得られた電極部形成原料を、乾燥させたハニカム成形体(ハニカム乾燥体)の側面に塗布し、電極部原料付きハニカム成形体を得る。電極部形成原料を調合する方法、及び電極部形成原料をハニカム成形体に塗布する方法については、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができるが、電極部をハニカム構造部に比べて低い電気抵抗率にするために、ハニカム構造部よりも金属珪素の含有比率を高めたり、金属珪素粒子の粒径を小さくしたりすることができる。
【0098】
ハニカム構造体の製造方法の変更例1として、A1工程において、電極部形成原料を塗布する前に、ハニカム成形体を一旦焼成してもよい。すなわち、変更例1では、ハニカム成形体を焼成してハニカム焼成体を作製し、当該ハニカム焼成体に、電極部形成原料を塗布して、電極部原料付きハニカム成形体の代わりに電極部原料付きハニカム焼成体を得る。
【0099】
A2工程は、電極部原料付きハニカム成形体の側面に、当該側面に開口するスリットを形成する工程である。スリットは、リューター等を使用して形成することが好ましい。スリットは、電極部原料付きハニカム成形体の側面に開口するように形成する。電極部原料付きハニカム成形体に形成するスリットとしては、これまでに説明した本発明のハニカム構造体に形成されるスリットの好ましい態様と同様のスリットが好ましい。例えば、電極部原料付きハニカム成形体に、
図1に示されるハニカム構造体100に形成されるスリット6と同様のスリットを形成することが好ましい。
【0100】
A3工程は、電極部原料付きハニカム成形体を焼成して、ハニカム焼成体を得る工程である。焼成を行う前に、電極部原料付きハニカム成形体を乾燥してもよい。また、焼成の前に、充填材用原料中のバインダ等を除去するため、仮焼成を行ってもよい。焼成条件としては、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400〜1500℃で、1〜20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200〜1350℃で、1〜10時間、酸化処理を行うことが好ましい。仮焼成及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
【0101】
A4工程は、ハニカム焼成体に形成されたスリットに、充填材用原料を充填する工程である。A4工程は必須ではないが、充填材をスリットに充填する場合に必要な工程である。A4工程では、まず、充填材用原料を調製する。充填材用原料は、これまでに説明した本発明のハニカム構造体における充填材を作製するための原料である。例えば、充填材用原料は、骨材、ネック材、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を混合して得られた混合物を混練して得ることができる。充填材用原料は、スラリー状のものであることが好ましい。充填材用原料に含まれる骨材及びネック材は、これまでに説明した本発明のハニカム構造体における充填材の好ましい態様と同様のものであることが好ましい。
【0102】
充填材用原料中の骨材の含有比率、及び充填材用原料中のネック材の含有比率は、本発明のハニカム構造体における充填材の好ましい態様と同様のものであることが好ましい。骨材の含有比率及びネック材の含有比率は、充填材用原料を調製する段階で、適宜、好ましい数値範囲となるように調節することができる。骨材の平均粒子径についても、本発明のハニカム構造体における充填材の好ましい態様と同様のものであることが好ましく、充填材用原料を調製する際、好ましい平均粒子径の骨材を選択して使用することができる。
【0103】
充填材用原料に用いるバインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、グリセリン等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、骨材及びネック材の合計質量を100質量部としたときに、0〜25質量部であることが好ましい。
【0104】
水の含有量は、骨材及びネック材の合計質量を100質量部としたときに、15〜75質量部であることが好ましい。
【0105】
充填材用原料に用いる界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、骨材及びネック材の合計質量を100質量部としたときに、0〜15質量部であることが好ましい。
【0106】
充填材用原料に用いる造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、骨材及びネック材の合計質量を100質量部としたときに、0〜85質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、3〜150μmであることが好ましい。3μmより小さいと、気孔を十分形成できないことがある。150μmより大きいと、大気孔ができやすくなり、強度低下を起こすことがある。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0107】
電極部原料付きハニカム成形体に形成したスリットに、充填材用原料を充填する方法については特に制限はないが、シリンジ等を用いて、充填材用原料をスリットに充填する方法を挙げることができる。このような方法によれば、スリット内に充填材用原料を均等に充填することができる。勿論、充填材用原料を、箆(へら)等を用いてスリット内に充填してもよい。
【0108】
充填材用原料充填済みハニカム構造体に対して、熱処理を行うことで、充填材を均一化することができる。熱処理条件は例えば、大気雰囲気にて、50〜100℃の温度で2〜12時間とすることができる。
【実施例】
【0109】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0110】
<実施例1>
(1)ハニカム構造体の作製
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを80:20の質量割合で混合してセラミック原料を調製した。そして、セラミック原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに7質量部とした。造孔材の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに3質量部とした。水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素、金属珪素及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0111】
得られた円柱状の坏土を押出成形機を用いて成形し、各セルの断面形状が正六角形の柱状のハニカム成形体を得た。押出成形においては、ハニカム構造体のT
1、T
2、及びT
3、更には中央部の開口率/外周部の開口率=開口率比が表1に示す値となる構造の口金を使用した。
【0112】
得られたハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両底面を所定量切断して、ハニカム乾燥体を作製した。
【0113】
次に、炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを60:40の質量割合で混合し、これに、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、保湿剤としてグリセリン、分散剤として界面活性剤を添加すると共に、水を添加して、混合した。混合物を縦型の撹拌機で混練して電極部形成原料とした。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに0.5質量部であり、グリセリンの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに10質量部であり、界面活性剤の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに0.3質量部であり、水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部であった。炭化珪素粉末の平均粒子径は10μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。炭化珪素及び金属珪素の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0114】
次に、電極部形成原料を、ハニカム乾燥体の側面(外周側壁の外面)に、厚みが0.15mm、「セルの流路方向に直交する断面において中心角の0.5倍が50°」になるようにして、柱状ハニカム乾燥体の両底面間の全長に亘って帯状に2箇所塗布した。2箇所の電極部形成原料塗布部は、ハニカム乾燥体の中心軸を挟んで互いに反対側の位置関係となるように配置した。
【0115】
次に、ハニカム乾燥体に塗布した電極部形成原料を乾燥させて、未焼成電極部付きハニカム乾燥体を得た。乾燥温度は、70℃とした。
【0116】
次に、未焼成電極部付きハニカム乾燥体に対して、
図8に示されるように、電極部21が配設されていない対向する2箇所の外周側壁の外面上にセルの流路方向に一方の底面から他方の底面まで延びた開口を有し、ハニカム乾燥体の中心軸に向かう方向の深さを有するスリットをそれぞれ3本ずつ、合計6本形成した。スリットは、リューターを用いて形成した。次に、スリットを形成した未焼成電極部付きハニカム乾燥体を、脱脂(仮焼成)し、焼成し、更に酸化処理してハニカム構造体を得た。脱脂の条件は、酸化雰囲気下、550℃、3時間とした。焼成の条件は、アルゴン雰囲気下、1450℃、2時間とした。酸化処理の条件は、酸化雰囲気下、1300℃、1時間とした。
【0117】
(2)得られたハニカム構造体の仕様
得られたハニカム構造体は、底面が直径93mmの円形であり、セルの流路方向における長さが75mmである略円筒形状を有していた。
セルの流路方向に直交する断面における、セルの形状は、正六角形であった。
セルピッチは、1.11mmであった。セルピッチは、隣接する平行な隔壁(正六角形の向かい合う2つの辺、を構成する隔壁)の、厚み(隔壁厚み)方向における中央部分間の距離である。尚、隔壁の厚み方向における中央部分は、隔壁の厚み方向における中央の位置である。
外周側壁の平均厚みT
1は0.35mmであった。
各スリットの内面に隣接する複数のセルをそれぞれ1番目のセルとして、スリットの内面から近い順に1番目から3番目までのセルを区画形成する隔壁部分の厚みT
2はいずれの隔壁においても0.15mmであった。
セルの流路方向に直交する断面において、各スリットの内面に隣接する複数のセルをそれぞれ1番目のセルとして、何れのスリットの内面から数えても10番目より遠くにあるセルを区画形成する隔壁部分の厚みT
3はいずれの隔壁においても0.20mmであった。
各スリットの深さは、3mmであった。スリットの開口幅は、1mmであった。隣接する3本のスリット間の角度は30°であった。電極部21と「最短距離スリット」との距離Dは1mmであった。
ハニカム構造体の中央部の開口率は71.8%であり、外周部の開口率は75.8%であった。よって、外周部の開口率に対する中央部の開口率の比の値(中央部の開口率/外周部の開口率=開口率比)は0.95であった。「開口率」は、セルの流路方向に直交する断面において、セルの面積を、隔壁とセルの面積の合計で除して得られた値(セル面積合計/(セル面積合計+隔壁面積合計))を、百分率で表した値を示す。
ハニカム構造体の、2つの電極部の、セルの流路方向に直交する断面における中心角の0.5倍は、50°であった。また、2つの電極部の厚みは、いずれも0.15mmであった。電極部の電気抵抗率は、1.3Ωcmであった。
セルの流路方向に直交する断面において、スリットと、「一対の電極部のそれぞれの中央部同士を結んだ直線」(中心線)とは、交差していなかった。
得られたハニカム構造体の隔壁の平均細孔径(気孔径)は8.6μmであり、気孔率は45%であった。平均細孔径および気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
ハニカム構造体のアイソスタティック強度は2.5MPaであった。アイソスタティック強度は水中で静水圧をかけて測定した破壊強度である。
【0118】
(3)得られたハニカム構造体の耐熱衝撃性
得られたハニカム構造体について、以下に示す方法で耐熱衝撃性を評価した。「ハニカム構造体を収納する金属ケースと、当該金属ケース内に加熱ガスを供給することができるプロパンガスバーナーと、を備えたプロパンガスバーナー試験機」を用いてハニカム構造体の加熱冷却試験を実施した。上記加熱ガスは、ガスバーナー(プロパンガスバーナー)でプロパンガスを燃焼させることにより発生する燃焼ガスとした。そして、上記加熱冷却試験によって、ハニカム構造体にクラックが発生するか否かを確認することにより、耐熱衝撃性を評価した。具体的には、まず、プロパンガスバーナー試験機の金属ケースに、得られたハニカム構造体を収納(キャニング)した。そして、金属ケース内に、プロパンガスバーナーにより加熱されたガス(燃焼ガス)を供給し、ハニカム構造体内を通過するようにした。金属ケースに流入する加熱ガスの温度条件(入口ガス温度条件)を以下のようにした。まず、5分で950℃まで昇温し、950℃で10分間保持し、その後、5分で100℃まで冷却し、100℃で10分間保持した。このような昇温、保持、冷却、保持の一連のサイクルを500回繰り返した。その後、ハニカム構造体の両底面及び側面にクラックが発生していないかどうかを確認した。クラックが確認されなかった場合、耐熱衝撃性試験合格(A評価)とし、クラックが確認された場合、耐熱衝撃性試験不合格とする。耐熱衝撃性試験に合格したハニカム構造体については更に上記の冷熱操作を繰り返した。最初のサイクルから1000回以上操作を繰り返してもクラックが確認されなかった場合をAA評価とし、最初のサイクルから2000回以上操作を繰り返してもクラックが確認されなかった場合をAAA評価とし、最初のサイクルから3000回以上操作を繰り返してもクラックが確認されなかった場合をAAAA評価とした。結果を表1に示す。
【0119】
<実施例2〜9
(但し、実施例3〜5、7及び8は参考例)、比較例1〜5>
押出成形時の口金構造を変更することで、T
1、T
2、及びT
3、更には開口率比を試験番号に応じて表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。作製した各ハニカム構造体に対して、実施例1の場合と同様にして、耐熱衝撃性試験を行った。結果を表1に示す。
【0120】
<実施例10>
充填材用原料を調製した。まず、シリカからなるネック材と、炭化珪素からなる骨材、コージェライトからなる骨材を混合した。以下、炭化珪素からなる骨材を、「SiC骨材」ということがある。コージェライトからなる骨材を、「Cd骨材」ということがある。ネック材とSiC骨材とCd骨材とは、質量比が12:6:82(ネック材:SiC骨材:Cd骨材)となるように混合した。これに、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、保湿剤としてグリセリン、分散剤として界面活性剤、造孔材を添加すると共に、水を添加して、混合した。混合物を縦型の撹拌機で混練して充填材用原料とした。バインダの含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、1.0質量部とした。グリセリンの含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、4.0質量部とした。界面活性剤の含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、0.3質量部とした。造孔材の含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、6.7質量部とした。水の含有量は、ネック材とSiC骨材とCd骨材の合計を100質量部としたときに、34.5質量部とした。充填材用原料に用いたSiC骨材の平均粒子径は、3μmであった。充填材用原料に用いたCd骨材の平均粒子径は、8μmであった。SiC骨材及びCd骨材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0121】
次に、得られた充填材用原料を、実施例1と同様の手順で作製したハニカム構造体のスリット内に充填して、充填材用原料充填済みハニカム構造体を得た。充填材用原料を充填する際には、充填材用原料をシリンジ内に導入し、このシリンジを用いて、スリット内に充填(注入)した。充填材用原料は、6本のスリットの全てに充填した。充填材用原料の充填量は、スリット容積と同等とした。
【0122】
次に、得られた充填材用原料充填済みハニカム構造体を、1225℃の温度で熱処理した。熱処理は、大気雰囲気にて行った。熱処理の時間は、1時間とした。このようにして、実施例10のハニカム構造体を作製した。作製したハニカム構造体に対して実施例1の場合と同様にして、耐熱衝撃性試験を行った。結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
<考察>
実施例1〜9においてはT
1とT
2の比が適切であったことから、比較例1〜5に比べて耐熱衝撃性が向上したことが分かる。更に、T
1とT
2の比が好適化された実施例1、9及び10においては、更に耐熱衝撃性が向上した。実施例1と実施例9を比較すると、実施例9のほうが、開口率比が好適化されていたことで、耐熱衝撃性が優れていた。実施例1と実施例10を比較すると、実施例10ではスリットに充填材を充填したことで、耐熱衝撃性が向上した。なお、比較例において、底面に発生したクラックはすべてスリット最深部近傍を起点としたものであった。