(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記積層方向から見て前記大気導入孔の内側の領域における前記第1層と前記第3層の外表面から、それぞれ前記積層方向に沿って前記重心G2に向かって荷重を掛けたとき、前記第1層の破壊強度B1、前記第3層の破壊強度B2が、|B1−B2|/B2≦0.19であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、セラミック層を積層した板状のセンサ素子の内部に上述の大気導入孔510を開口した場合、大気導入孔510の上下に位置する第1層501と第3層503の強度が低いため、積層方向に荷重Fが掛かると、第1層501と第3層503のうち強度がより低い層(
図6では厚みの薄い第1層501)にクラックが入るおそれがある。
そこで、本発明は、大気導入孔を備えたセンサ素子における強度を向上させたセンサ素子、及びそれを備えたガスセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のセンサ素子は、軸線方向に延び、
電極及び該電極に接続されるリード部を有すると共に、少なくとも第1層と第2層と第3層とが積層方向に積層されてなる板状のセンサ素子であって、前記第1層と前記第3層は、いずれもセラミックを主体として構成され、前記第2層は、積層方向において前記第1層と前記第3層との間に配置され、前記第2層は、端面に開口する大気導入孔を有し、前記軸線方向に垂直な断面を見たとき、前記センサ素子の上端面と前記センサ素子の重心G1とを最短距離で結ぶ線分P1の長さL1と、前記センサ素子の上端面と前記大気導入孔の重心G2とを最短距離で結ぶ線分P2の長さL2とが、|L2−L1|/L1≦0.05の関係を満たすことを特徴とする。
【0006】
このセンサ素子によれば、センサ素子の上端面から積層方向へ向かう両重心G1,G2の距離の差が±5%以下となっている。大気導入室はセンサ素子の空隙の大部分(又は全部)を占めるので、両重心G1,G2が積層方向に近接するということは、大気導入室を挟んで積層方向の反対方向の第1層と第3層との厚み(強度)が同等であることを表す。
このため、大気導入孔の上下に位置する第1層と第3層に積層方向に荷重が掛かったとき、第1層と第3層とに応力がほぼ均等に生じるので、第1層と第3層の一方の強度が低い場合に比べ、センサ素子の破壊強度が向上する。
【0007】
本発明のセンサ素子において、L1=L2の関係を満たすとよい。
このセンサ素子によれば、第1層と第3層との厚み(強度)がより同等になるので、センサ素子の破壊強度がさらに向上する。
好ましい。
【0008】
本発明のセンサ素子において、前記積層方向から見て前記大気導入孔の内側の領域における前記第1層と前記第3層の外表面から、それぞれ前記積層方向に沿って前記重心G2に向かって荷重を掛けたとき、前記第1層の破壊強度B1、前記第3層の破壊強度B2が、|B1−B2|/B2≦0.19であるとよい。
このセンサ素子によれば、第1層と第3層との強度が同等(両破壊強度B1,B2の差が±19%以下)となるので、積層方向に荷重が掛かったときのセンサ素子の破壊強度が向上する。
【0009】
本発明のセンサ素子が限界電流式センサ素子を構成するとよい。
限界電流式センサ素子は大気導入室の大きさが大きい傾向にあるので、本発明がより有効となる。
【0010】
本発明のガスセンサは、板状のセンサ素子と、該センサ素子を保持する主体金具とを備えたガスセンサであって、前記センサ素子として、前記積層型ガスセンサ素子を用いる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、大気導入孔を備えたセンサ素子における強度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るセンサ素子を備えたガスセンサ(酸素センサ)1の一例の軸線O方向に沿う断面図、
図2はセンサ素子10の模式分解斜視図、
図3はセンサ素子10の軸線O方向に直交する断面図である。
【0014】
ガスセンサ1は、センサ素子10と主体金具20とを主に備える。センサ素子10は長尺板状の素子であり、被測定ガスである排ガス中の酸素濃度を測定するためのセンサセルを有している。センサ素子10は、センサセルが配置されている先端部10sと、リード線78、79と電気的に接続されるセンサ側電極パッド部14、15(15のみ図示)が配置されている後端部10kとを有する。センサ素子10は、先端部10sが主体金具20の先端側より突出し、後端部10kが主体金具20の後端側よりも突出した形態で、主体金具20によって保持されている。
【0015】
主体金具20は、センサ素子10を内部に保持する筒状をなし、主体金具20の先端側には金属製筒状の外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32が配置され、センサ素子10の先端部10sを覆っている。外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32は複数のガス導入孔31h、32hを有し、ガス導入孔31h、32hを通じて被測定ガスをセンサ素子10の先端部10sの周囲に導入する。
【0016】
主体金具20の内部には、センサ素子10の外周を取り囲む環状のセラミックホルダ21と、粉末充填層(以下、滑石リングともいう)22,23と、セラミックスリーブ24とが、この順に先端側から配置されている。セラミックホルダ21及び滑石リング22の外周には、金属ホルダ25が配置され、セラミックスリーブ24の後端側には加締めパッキン26が配置されている。そして、主体金具20の後端部27は、加締めパッキン26を介してセラミックスリーブ24を先端側に押圧するように加締められている。
【0017】
主体金具20の後端側には、センサ素子10の後端部10kを取り囲むように筒状の外筒51が配置されている。さらに、外筒51の内側には、セパレータ60が配置されている。セパレータ60は、センサ素子10の後端部10kを取り囲むと共に、4本のリード線78,79(
図1では2本のみ表示)を互いに離間して保持する。
セパレータ60は軸線O方向に貫通する挿入孔62を有し、挿入孔62にセンサ素子10の後端部10kが挿入されている。又、挿入孔62には4個の端子部材75,76が互いに離間して配置されており、それぞれセンサ素子10のセンサ側電極パッド部14、15及び図示しない2個のヒータ側電極パッド部16,17(17のみ図示)に電気的に接続されている。
一方、外筒51の後端側には、外筒51の後端開口部を閉塞するグロメット73が嵌合され、4本のリード線78,79がグロメット73の挿通孔を貫通して外部に引き出されている。なお、センサ素子10の後端部10kと外部の大気とは、図示しない連通路によって連通している。
【0018】
次に、
図2、
図3を参照してセンサ素子10の構成について説明する。
センサ素子10は厚さ方向(積層方向)に、
図2の上方から順に、第1セラミック層110、第2セラミック層120、第3セラミック層130、及びヒータ層140を積層してなる。各層110〜140は、アルミナ等の絶縁性セラミックからなり、外形寸法(少なくとも幅及び長さ)の等しい矩形板状をなしている。
【0019】
第1セラミック層110は、保護層110aと、測定室層110bとを積層してなり、測定室層110bの先端側(
図2の左側)には測定室111が矩形状に開口している。又、測定室層110bの長辺側の両側面には、測定室111を外部と区画する多孔質拡散層113が配置されている。一方、測定室111の先端側と後端側には、測定室111の側壁をなすセラミック絶縁層115が配置されている。
測定室111は多孔質拡散層113を介して外部と連通しており、多孔質拡散層113は外部と測定室111との間のガス拡散を所定の律速条件下で実現する。これにより、センサ素子10は限界電流式センサ素子を構成する。又、各多孔質拡散層113はセンサ素子10の長手方向(軸線O方向)に沿う両側壁を構成して外部に臨むようになっている。
【0020】
第2セラミック層120は、矩形板状の固体電解質体122を備えたセル層121と、固体電解質体122の表裏面にそれぞれ設けられた基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125とを備えている。セル層121の先端側(
図2の左側)には矩形状に開口する貫通部121hが設けられ、貫通部121hに埋め込まれるように固体電解質体122が配置されている。なお、基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125から後端側へ向かってリード部123L,125Lがそれぞれ伸びている。
固体電解質体122,基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125は、被測定ガス中の酸素濃度の検出セルを構成し、被測定ガス側電極125は測定室111に臨み、基準ガス側電極123は後述する大気導入室131に臨んでいる。
【0021】
リード部123Lは、セル層121、測定室層110b及び保護層110aに設けられたスルーホールを介してセンサ側電極パッド部14と電気的に接続されている。又、リード部125Lは、測定室層110b及び保護層110aに設けられたスルーホールを介してセンサ側電極パッド部15と電気的に接続されている。
そして、基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125の検出信号が、センサ側電極パッド部14,15から2本のリード線79を介して外部に出力され、酸素濃度が検出される。
【0022】
第3セラミック層130は、先端側(
図2の左側)から後端側へ向かって大気導入室131が平面視コの状に開口する枠体をなしている。従って、大気導入室131は後端側の面(
図2の右側の面)に開口して外部と連通している。
【0023】
ヒータ層140は、第1層140a、第2層140b、及び第1層140aと第2層140bの間に配置される発熱体141を備えている。第1層140aは第3セラミック層130と対向している。発熱体141は、蛇行状のパターンを有する発熱部141m、及び発熱部141mの両端から後端側に延びる2つのリード部141Lを備えている。
各リード部141Lは、第2層140bに設けられたスルーホールを介してヒータ側電極パッド部16,17と電気的に接続されている。そして、2本のリード線78を介してヒータ側電極パッド部16,17から発熱体141に通電することで、発熱体141が発熱し、固体電解質体122を活性化する。
【0024】
固体電解質体122は、例えばジルコニア(ZrO
2)に安定化剤としてイットリア(Y
2O
3)又はカルシア(CaO)を添加してなる部分安定化ジルコニア焼結体から構成することができる。
【0025】
基準ガス側電極123及び被測定ガス側電極125、発熱体141、センサ側電極パッド部14,15、ヒータ側電極パッド部16,17は、白金族元素で形成することができる。これらを形成する好適な白金族元素としては、Pt、Rh、Pd等を挙げることができ、これらはその一種を単独で使用することもできるし、又二種以上を併用することもできる。
【0026】
ここで、第1セラミック層110と第2セラミック層120との積層体150が特許請求の範囲の「第1層」に相当する。又、第3セラミック層130、ヒータ層140がそれぞれ特許請求の範囲の「第2層」、「第3層」に相当する。
大気導入室131が特許請求の範囲の「大気導入孔」に相当する。
なお、第1層、第3層が「セラミックを主体とする」とは、各層の構成成分のうち、セラミックの合計割合が50質量%を超えることをいう。
【0027】
そして、
図3に示すように、軸線O方向に垂直な断面を見たとき、センサ素子10の上面10aと前記センサ素子の重心G1とを最短距離で結ぶ線分P1の長さL1と、前記センサ素子の上端面と前記大気導入孔の重心G2とを最短距離で結ぶ線分P2の長さL2とが、|L2−L1|/L1≦0.05の関係を満たす。
つまり、センサ素子10の上端面10aから積層方向へ向かう両重心G1,G2の距離の差が±5%以下となっている。大気導入室131はセンサ素子10の空隙の大部分(又は全部)を占めるので、両重心G1,G2が積層方向に近接するということは、大気導入室131を挟んで積層方向の反対方向の第1層150と第3層140との厚み(強度)が同等であることを表す。
【0028】
このため、大気導入孔131の上下に位置する第1層150と第3層140に積層方向に荷重Fが掛かったとき、第1層150と第3層140とに応力がほぼ均等に生じるので、第1層150と第3層140の一方の強度が低い場合に比べ、センサ素子の破壊強度が向上する。
【0029】
特に、L1=L2であると、第1層150と第3層140との厚み(強度)がより同等になるので好ましい。
なお、センサ素子10の上面10aの代わりに、下面10b側から重心G1、G2に向かって線分P1、P2を規定しても同様に|L2−L1|/L1≦0.05の関係を満たすのはいうまでもない。従って、上面10a及び下面10bが特許請求の範囲の「上端面」に相当する。
【0030】
図4に示すように、積層方向から見て大気導入孔131の内側の領域Sにおける第1層150の外表面(上面10a)から、積層方向に沿って重心G2に向かって荷重Fsを掛けたとき、第1層150の破壊強度をB1とする。同様に、図示はしないが領域Sにおける第3層140の外表面(下面10b)から、積層方向に沿って重心G2に向かって荷重Fsを掛けたとき、第3層140の破壊強度をB2とする。
このとき、|B1−B2|/B2≦0.19であると、第1層150と第3層140との強度が同等(両破壊強度B1,B2の差が±19%以下)となるので、積層方向に荷重Fが掛かったときの破壊強度が向上する。
【0031】
本発明は上記実施形態に限定されず、大気導入孔を有するあらゆるガスセンサ(センサ素子)に適用可能であり、本実施の形態の酸素センサ(酸素センサ素子)に適用することができるが、これらの用途に限られず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、被測定ガス中のNOx濃度を検出するNOxセンサ(NOxセンサ素子)や、HC濃度を検出するHCセンサ(HCセンサ素子)等に本発明を適用してもよい。
また、大気導入孔の形状や寸法も限定されない。
第1層150、第2層130、及び第3層140はそれぞれ単層でも複数層の積層体でもよい。又、上述のように、第1層150及び/又は第3層140が大気導入孔131以外の空隙(空間)を含んでもよい。但し、この空間の積層方向の高さは大気導入孔131の高さよりも小さいものとする。
【実施例1】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
アルミナ製の第1層150、第3層140の厚みを表1に示すように種々に変え、
図2、
図3に示すセンサ素子10を製造した。なお、第1層150〜第3層140までのセンサ素子10の厚みを1.05mmとし、大気導入孔131の幅(センサ素子10の幅方向の大気導入孔131の長さ)を1.0mmとした。
このセンサ素子10につき、
図4に示すように、積層方向から見て大気導入孔131の内側の領域Sにおける第1層150の上面10aに、ロードセルのヘッド300を置き、積層方向に沿って重心G2に向かって荷重Fs=200MPaを掛け、第1層150が破壊したときの荷重を測定し、単位面積で除して破壊強度B1を求めた。同様にして、センサ素子10を上下ひっくり返し、領域Sにおける第3層140の下面10bに、ロードセルのヘッド300を置き、破壊強度B2を求めた。
得られた結果を
図5に示す。
【0034】
図5に示すように、|L2−L1|/L1≦0.05、|B1−B2|/B2≦0.19の関係を満たす場合、第1層150及び第3層140が破損しなかった。一方、この関係を満たさない場合、第1層150又は第3層140が破損した。