(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非共振型のノッキングセンサにおいては、エンジンのノッキング振動がウェイトを介して圧電素子を圧縮し、圧電素子の出力信号からノッキングを検出するようになっている。そして、ノッキングセンサは、その構成部品や形状により固有の共振周波数を持っており、この共振周波数を避け、比較的平坦な出力特性を持つ周波数帯にてノッキングを検出している。従来、ノッキング周波数帯は1k〜20kHz程度とされており、ノッキングセンサの共振周波数はこれより高周波の約28kHz以上になるように設計されている。
しかしながら、近年、エンジンの高回転等の理由により、特に2輪エンジンのノッキング周波数帯をより高周波領域に設定したいという要望があり、それに伴ってノッキングセンサの共振周波数を高くすることが必要になってきている。
【0005】
そこで、本発明は、ノッキングセンサの共振周波数を高くし、より高周波のノッキング周波数帯での測定を可能としたノッキングセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のノッキングセンサは、筒状部と、該筒状部の一端側に位置し、筒状部の周方向外側に向かって突出する鍔部とを有する主体金具と、前記筒状部の外周に嵌め込まれ、前記鍔部に面する側と反対側に天面を有する環状のウェイトと、前記筒状部の外周に嵌め込まれ、前記鍔部と前記ウェイトとの間に挟まれる環状の圧電素子と、前記ウェイトの天面に接すると共に前記筒状部の外周に固定され、該ウェイトを係止する環状の
皿バネからなる係止部材と、
前記筒状部の外周から周方向外側に向かって突出し、前記係止部材の上面に接する突出部と、前記鍔部と前記圧電素子との間に介在する絶縁体と、を備えたノッキングセンサであって、
前記筒状部の軸方向の断面画像において、前記係止部材は、当該係止部材の内周部の
角部から周方向外側にそれぞれ延びる2つの輪郭と前記筒状部の外周面との2つの接点P1,P2を結ぶ線分よりも、該筒状部の内部に自身が介在するように前記筒状部の外周面に食い込んでいることを特徴とする。
【0007】
このノッキングセンサによれば、係止部材の内周部の少なくとも一部を筒状部の外周面に食い込ませることで、係止部材、ひいてはウェイトを含む積層構造体(圧電素子、絶縁体等)が筒状部(主体金具)によりしっかりと固定される。これにより、ノッキングセンサの共振周波数が高くなり、より高周波のノッキング周波数帯での測定が可能となる。
【0008】
本発明のノッキングセンサにおいて、前記係止部材を前記ウェイトの前記天面側から見たとき、前記内周部は、円環部と、該円環部より径方向外側に位置して前記円環部に繋がる1つ以上の拡径部とを有し、前記拡径部と前記円環部との接続部における前記筒状部の外周面への食い込み量L1よりも、隣接する前記接続部の間の前記円環部の周方向中央における前記筒状部の外周面への食い込み量L2が大きくてもよい。
このノッキングセンサによれば、円環部の周方向中央にて、係止部材が筒状部(主体金具)により強固に固定されるので、ノッキングセンサの共振周波数をより一層高くすることができる。
【0009】
本発明のノッキングセンサにおいて、前記係止部材の厚みが1mm以上であってもよい。
このノッキングセンサによれば、係止部材の剛性がより高くなるので、ノッキングセンサの共振周波数をより一層高くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ノッキングセンサの共振周波数を高くし、より高周波のノッキング周波数帯での測定が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1〜
図5を参照し、本発明の実施形態に係るノッキングセンサについて説明する。
図1はノッキングセンサの外観を示し、
図2はノッキングセンサを軸方向に破断した断面図を示し、
図3はノッキングセンサの内部構造の分解図を示している。又、
図4は
図2の部分拡大断面図、
図5は係止部材(皿バネ)29の上面図である。
図1において、ノッキングセンサ1は、内燃機関のシリンダブロック等へ取付けるための取付孔11(
図2参照)を中心部に有する、いわゆるセンターホール式非共振型のノッキングセンサである。ノッキングセンサ1は、樹脂モールド材料である合成樹脂(例えばナイロン66)製のケース3により覆われている。このケース3は、上部がテーパ状に成形された円柱形状の素子収納部5と、図示しない点火時期制御装置からのコネクタを接続するコネクタ部7とから構成されている。
【0013】
図2及び
図3に示すように、ノッキングセンサ1は、金属材料(例えばSPHD、SWCH25K)からなる主体金具9を備えており、主体金具9は、ボルトを挿通するための取付孔11を有する円筒形状の筒状部13と、筒状部13の一端側(
図1の下側)にて外周面から周方向外側に張り出す鍔部15とを有している。
この主体金具9の鍔部15の厚み方向の一面(
図1の上面)側には、筒状部13の外周に嵌められる環状(円筒形状)で、圧電セラミックス(例えばPZT)からなる圧電素子17が載置されている。
また、圧電素子17の上面側には、筒状部13の外周に嵌められる環状(円筒形状)で、錘としての効果を発揮する比重を有する金属材料(例えばSMF4050)からなるウェイト19が載置されている。
【0014】
鍔部15と圧電素子17との間、及びウェイト19と圧電素子17との間、即ち圧電素子17の厚み方向の両側には、導電材料(例えば黄銅)からなる出力端子21、23が、それぞれ圧電素子17と接するように配置されている。なお、出力端子21、23のうち圧電素子17と接する部分は環状である。
また、鍔部15と出力端子21との間、及び出力端子23とウェイト19との間には、絶縁性を有するフィルム状の合成樹脂(例えばPET)からなる環状の絶縁体25、27がそれぞれ配置され、出力端子21、23が主体金具9の鍔部15やウェイト19と短絡しないようにされている。
【0015】
なお、圧電素子17とウェイト19と出力端子21、23(環状部分)と絶縁体25、27との内周部と、筒状部13の外周面との間には、環状の空間20が形成されており、この環状の空間20にも上記合成樹脂が充填されている。更に、主体金具9には、金属材料(例えばSK−5M)からなり、ウェイト19を鍔部15方向(同図下方)へ押圧する環状の皿バネ(座金)29が取り付けられている。
図3に示すように、皿バネ29は、外周面から円錐台状に斜めに立ち上がり、径方向内側へ向かって水平に延びる形状になっていて、この水平部の中央が開口している。
なお、ウェイト19の上面(
図1の上面)19aに皿バネ29の下面の少なくとも一部が接しており、ウェイト19の上面19aが特許請求の範囲の「天面」に相当する。又、皿バネ29が特許請求の範囲の「係止部材」に相当する。又、鍔部15と出力端子21との間の絶縁体25が特許請求の範囲の「絶縁体」に相当する。
【0016】
さらに、皿バネ29の上側の位置において、筒状部13の外周面には、筒状部13の内面13aから周方向外側に向かって塑性変形して突出する突出部13pが設けられている。又、突出部13pに対応する筒状部13の内面13aには凹部13rが形成されている。
そして、突出部13pが皿バネ29の上面に接することによって、皿バネ29が下方に押圧され、さらに皿バネ29の弾性力によりウェイト19が係止され、ウェイト19と鍔部15との間の積層構造体(圧電素子17、出力端子21、23、絶縁体25、27)が主体金具9に固定される。
つまり、突出部13pが皿バネ29を介してウェイト19の天面19aに接し、主体金具9の鍔部15に向けてウェイト19を押圧するようにして、ウェイト19を間接的に主体金具9に係止している。
なお、突出部13pは、筒状部13の外周面から0.1〜0.2mm程度突出していればよい。
【0017】
さらに、
図2、
図4に示すように、皿バネ29の内周部29iの上側の部位29sが筒状部13の外周面13bに食い込んでいる。
このように、皿バネ29の内周部29iの一部(部位29s)を筒状部13の外周面13bに食い込ませることで、皿バネ29、ひいてはウェイト19を含む積層構造体(圧電素子17、出力端子21、23、絶縁体25、27)が筒状部13(主体金具9)によりしっかりと固定される。これにより、ノッキングセンサ1の共振周波数が高くなり、より高周波のノッキング周波数帯での測定が可能となる。
特に、皿バネ29の厚みが1mm以上であると、皿バネ29の剛性がより高くなるので、ノッキングセンサ1の共振周波数をより一層高くすることができる。
皿バネ29としては、上述のSK−5Mの他、例えばS25C等の炭素鋼を用いることができる。
【0018】
なお、特開2013−7612号公報に記載されているように、ウェイトの内周面に設けられた凸部を筒状部の外周面に押し付けることにより固定する方法では、固定力が十分ではない。又、筒状部の外周面に予め切り欠きや凹部を形成し、その切り欠きや凹部にバネ部材を嵌めて固定することや、係止部材の一部を配置して固定する方法もある。しかし、これらの方法は、予め切り欠きや凹部を形成し、その部分に嵌る寸法の部材を準備した上で、それらを嵌合するよう制御する工程が必要となり、生産性及びコストの問題がある。
これに対し、本実施形態のように、予め切り欠きや凹部が形成されていない筒状部13の外周面13bに皿バネ29を食い込ませることで、容易に皿バネ29、ひいてはウェイト19を含む積層構造体(圧電素子17、出力端子21、23、絶縁体25、27)を筒状部13(主体金具9)により確りと固定できる。
【0019】
なお、皿バネ29の内周部29iの一部29sが筒状部13の外周面13bに食い込んでいるか否かは、皿バネ29を含む筒状部13の軸方向の断面画像により判定する。つまり、
図4に示すように、皿バネ29の輪郭と筒状部13の外周面13bとの2つの接点P1,P2を求め、P1,P2を結ぶ線分よりも筒状部13の内部に皿バネ29(部位29s)が介在していれば、「食い込んでいる」とみなす。もちろん、接点が1つしかない場合は、食い込んでいない。
【0020】
図8は、従来のように皿バネ29を筒状部の外周面の雄ネジ部にナットでネジ締めした場合、及び本実施形態において皿バネ29の厚みを変えたときのノッキングセンサ1の共振周波数をそれぞれ示す。
本実施形態のように皿バネ29の一部を筒状部13の外周面13bに食い込ませることで、従来のネジ締め法よりも共振周波数が高くなることがわかる。又、皿バネ29の厚みが厚くなるほど、共振周波数も高くなる。
【0021】
図5に示すように、本実施形態では、皿バネ29の内周部29iは、円環部29i1と、円環部29i1より径方向外側に位置して円環部29i1に繋がる3つの拡径部29i2とを有している。3つの拡径部29i2は半円形状であり、それぞれ周方向に等間隔に離間している。
ここで、拡径部29i2と円環部29i1との接続部C1,C2における筒状部13の外周面13bへの食い込み量L1よりも、隣接する接続部C1,C2の間の円環部29i1の周方向中央Ceにおける筒状部13の外周面13bへの食い込み量L2が大きい。
これにより、円環部29i1の周方向中央Ceにて、皿バネ29が筒状部13(主体金具9)により強固に固定されるので、ノッキングセンサ1の共振周波数をより一層高くすることができる。
【0022】
食い込み量L2が食い込み量L1よりも大きい理由は、拡径部29i2と筒状部13との間に隙間が生じるため、皿バネ29を筒状部13へ押圧したとき、円環部29i1の周方向中央Ceから拡径部29i2へ筒状部13の材料Mが流動し易く、周方向中央Ceで食い込み易くなるためである。
又、食い込み量L1、L2は径方向への食い込み長さである。
なお、
図5では、押圧して変形する前の皿バネ29の形状を表したが、実際には、周方向中央Ceが筒状部13へより一層食い込むので、周方向中央Ceが径方向内側へ縮径し、円環部29i1が真円よりも歪んでいる。
【0023】
又、本実施形態では、ナットを用いず、筒状部13に設けた突出部13pによって皿バネ29を主体金具9に固定するので、ナットの部品コストを削減し、ノッキングセンサ1のコストを低下することができる。
但し、筒状部13の外周面13bに雄ネジを切り、ナットを用いてナットの下面側の皿バネ29を主体金具9に固定してもよいが、ナットと皿バネ29の2つの部材が必要で、部品コストはアップする傾向にある。
なお、突出部13pは、筒状部13の内面13aから周方向外側に向かって加工(塑性変形)を施して形成してもよく、筒状部13の外周面に直接プレス加工等を行って形成してもよい。
【0024】
次に、
図6、
図7を参照し、本実施形態のノッキングセンサ1の製造方法の一例を説明する。
まず、主体金具粗形材9xを用意する。この主体金具粗形材9xは、内面13aに凹部13rが形成されず、外周面に突出部13pが形成されていない筒状部13xと、筒状部13xの一端側(下側)に上述の鍔部15とを有している(
図3参照)。そして、筒状部13xの外周側に嵌めるようにして、鍔部15上に、絶縁部材25、出力端子21、圧電素子17、出力端子23、絶縁部材27、ウェイト19、皿バネ29を順次載置する。さらに、筒状部13xの内面に、鍔部15側(下方)からプレス治具110を挿入する(
図6(a))。プレス治具110は、後述する4つの切り欠き部110sによって4つに分割された個片から構成され、各個片の下端側に位置する張出部110fを1つの環状保持リング140によって保持させた集合体より形成されており、内側に後述するピストン130を内挿可能な略円形の孔を有する略円筒状の形態をなしている。なお、プレス治具110を構成する各個片の張出部110fが鍔部15の下面に当接して挿入深さを位置決めするようになっている。
【0025】
又、
図7に示すように、プレス治具110(各個片)の上端側には周方向外側に突出する凸部110pと、軸方向に延びる4つの切り欠き部110sとが形成されており、凸部110pは切り欠き部110sで周方向に4つに分離されている。従って、切り欠き部110sが閉じたり開いたりすることにより、凸部110pが周方向に縮径及び拡径可能になっていて、プレス治具110を筒状部13xの内面に挿入した際には筒状部13xの内面に押圧されて凸部110pが周方向に縮径する。
【0026】
次に、円筒ピン120を上方から下ろし、円筒ピン120の下面にて皿バネ29を押圧し、皿バネ29の内周部29iの少なくとも一部が、筒状部13xの外周面に食い込むように弾性変形させる(
図6(b))。なお、皿バネ29を押圧した際、内周部29iが筒状部13xの外周面に届くよう、内周部29iの直径が筒状部13xの外径に近くなる(筒状部13xの外径よりやや大きくなる)ように設定する。
【0027】
次に、円筒ピン120を下ろした状態で、プレス治具110の上端側(プレス治具110の内側の孔)に、上方からピストン130を挿入する(
図6(c))。ピストン130は先端に向かって狭まるテーパ状をなし、プレス治具110にピストン130を挿入すると、プレス治具110の上端側が押し広げられ、各個片が周方向外側に向かって移動し、凸部110pが拡径する(
図6(d))。このため、凸部110pに接する筒状部13xの内面が周方向外側に向かって塑性変形して突出し、凹部13rを形成する。この際、凹部13rの位置(すなわち、凸部110pの位置)は、押圧された状態の皿バネ29の上面とほぼ同一であるので、皿バネ29の上面側に突出部13pが形成される。そして、円筒ピン120を離すと、皿バネ29が弾性的に戻り、突出部13pに接しながら皿バネ29の弾性力によりウェイト19の天面19aを鍔部15側へ押圧し、上述の積層構造体が主体金具9に固定される。
又、皿バネ29の内周部29iの少なくとも一部が筒状部13xの外周面に食い込んだ状態が維持される。
このようにしてノッキングセンサ1を組み立てた後、主体金具9を含む上述の積層構造体を覆うように樹脂モールド材料(合成樹脂)を射出し固化させることにより、ケース3を形成し、ノッキングセンサ1が完成する。
【0028】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
絶縁体の種類としては、上述のフィルム状の合成樹脂の他、セラミック材でもよく、絶縁性接着剤を塗布してもよい。
又、係止部材の形状は、皿バネ29に限られない。