特許第6830093号(P6830093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830093
(24)【登録日】2021年1月27日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/195 20060101AFI20210208BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20210208BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   C04B35/195
   B01D39/20 D
   B01J35/04 301N
【請求項の数】1
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-501729(P2018-501729)
(86)(22)【出願日】2017年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2017006537
(87)【国際公開番号】WO2017146087
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-35905(P2016-35905)
(32)【優先日】2016年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】柴山 卓芳
(72)【発明者】
【氏名】岡 英樹
(72)【発明者】
【氏名】植田 修司
(72)【発明者】
【氏名】末信 宏之
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/097703(WO,A1)
【文献】 特開平07−275712(JP,A)
【文献】 特開昭48−026553(JP,A)
【文献】 特開平03−080147(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/040874(WO,A1)
【文献】 特開2015−187044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84,38/00−38/10
B01D 39/20
B01J 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コージェライト形成材料、及び無機バインダを含有する成形原料を調製し、調製した前記成形原料を混練し、成形して、ハニカム形状の成形体を作製する成形工程と、
作製された前記ハニカム形状の成形体を焼成して、コージェライトを主成分とするハニカム構造体を得る焼成工程と、を備え、
前記成形工程において、前記無機バインダとして、層間金属陽イオンの少なくとも一部を非金属陽イオンとイオン交換したスメクタイトを用い、
前記スメクタイトは、当該スメクタイトに含まれるナトリウムの総量が、当該スメクタイト100質量%に対して、酸化物換算で1.6質量%以下のものであり、且つ、
前記成形原料における前記スメクタイトの含有割合を、前記コージェライト形成材料100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質量部以下とする、ハニカム構造体の製造方法であって、
イオン交換前の前記スメクタイトとして、前記層間陽イオンがナトリウムイオンであるNa型スメクタイトを用い、
前記成形工程において、前記スメクタイトとして、前記Na型スメクタイトの前記層間金属陽イオンの少なくとも一部をアンモニウムイオンでイオン交換したイオン交換スメクタイトを用いる、ハニカム構造体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関する。さらに詳しくは、脱脂時や焼成時の温度域における、切れ等の欠陥の発生を有効に抑制し、且つ、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を製造することが可能な、ハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学、電力、鉄鋼等の様々な分野において、環境対策や特定物資の回収等のために使用される触媒装置用の担体として、セラミック製のハニカム構造体が採用されている。また、セラミック製のハニカム構造体は、排ガス浄化用のフィルタとしても用いられている。このようなセラミック製のハニカム構造体は、耐熱性、耐食性に優れたものであり、上述したような種々の用途に採用されている。ハニカム構造体は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有する構造体である。
【0003】
このようなハニカム構造体の製造方法としては、例えば、コージェライト形成材料、水、有機バインダ等を混練し、可塑性を向上させた成形原料を押出成形し、乾燥し、焼成するハニカム構造体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
有機バインダは、ハニカム構造体の成形性を向上させるために、可塑性や保形性を付与するものであり、添加量が多くなるほど、成形性は向上する。近年需要が増加している、大型の構造体や、セル構造の複雑な構造体を成形するためには、小型あるいは単純構造のハニカム構造体を製造する場合よりも、成形性の良好な坏土が必要となり、結果として多くの有機バインダを添加せざるを得ないことになる。
【0005】
セラミック成形体中の有機バインダは、乾燥時に水分が奪われるとゲル化(即ち、離水)する。このゲル化により、セラミック成形体は硬化し、その強度が向上する。しかしながら、焼成時に有機バインダは焼失するため、構造体としての機械的強度が低下してしまう。また、有機バインダが占有していた空間が欠陥となり易い。このため、有機バインダの添加量を増加させると、得られるハニカム構造体の機械的強度が低下してしまう。更に、大型のハニカム構造体においては、焼成時に有機バインダが燃焼する際に、燃焼熱により構造体内部の方が高温になり易い。このため、ハニカム構造体の内外温度差による熱応力によって、クラック等の欠陥が生じ易くなり、ハニカム構造体の機械的強度を低下させるだけでなく、歩留まりを大幅に低下させてしまう。さらに、焼成時に、有機バインダの燃焼によってCOや有害ガスが発生して大気に放出され、大気汚染や地球温暖化等の環境面で問題となっていた。
【0006】
上記のような問題に対して、成形原料に、無機バインダや各種の成形助剤を加えることにより、クラック等の欠陥の発生を抑制し、高強度、低熱膨張を維持したハニカム構造体を製造する技術が開示されている(例えば、特許文献2,3参照)。また、セラミック成形体の表面の少なくとも一部に、所定の電解質水溶液を塗布することで、有機バインダや無機バインダを多量に含有させることなく、強度を向上させたハニカム構造体を製造する技術も開示されている(例えば、特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−292616号公報
【特許文献2】特許第4745963号
【特許文献3】特許第5001892号
【特許文献4】特許第5647051号
【特許文献5】特許第5658067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2及び3に記載された製造方法は、クラック等の欠陥の発生を抑制する効果が得られるものの、脱脂時や焼成時の温度域における、成形体の表面と内部との温度差や収縮差による切れ等の欠陥の発生抑制効果が十分ではないという問題があった。特許文献2に記載された製造方法においては、成形原料として、コージェライト形成材料及び有機バインダに加えて、スメクタイト(Smectite)を予め水に分散させた分散液の状態でさらに含有したものが用いられている。特許文献2においては、スメクタイトとして、例えば、モンモリロナイト(Montmorillonite)等の粘土鉱物が挙げられている。モンモリロナイトを成形原料に含むことにより、ハニカム構造体の熱膨張係数が増加する傾向となり、単に、スメクタイトとしてモンモリロナイトを加えたのみでは、耐熱衝撃性が悪化してしまう。また、特許文献2に記載された製造方法においては、焼成時の昇温速度などを遅くすることなどにより、切れ等の欠陥の発生を、ある程度であれば抑制することは可能である。しかしながら、このような方法では、ハニカム構造体の製造時間及び製造コストが増大するという別の問題が生じてしまう。
【0009】
また、モンモリロナイトのような粘土鉱物は、層間に金属陽イオンを有する層状粘土鉱物である。以下、粘土鉱物の層間に存在する金属陽イオンを「層間金属陽イオン」ということがある。モンモリロナイトの層間金属陽イオンとしては、ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどを挙げることができる。ハニカム構造体を製造する際に、成形原料にナトリウムイオンやカルシウムイオンが含まれていると、得られるハニカム構造体の耐熱衝撃性が低下することが知られている。ここで、特許文献2には、層間陽イオンであるナトリウムイオン又はカルシウムイオンを、マグネシウムイオンでイオン交換したスメクタイトを用いることが提案されている。しかしながら、マグネシウムイオンでのイオン交換量には限界があり、イオン交換したスメクタイトには、未だナトリウムイオン又はカルシウムイオンが一定量以上含まれていた。したがって、特許文献2に記載された製造方法によって製造されたハニカム構造体は、耐熱衝撃性が低いという問題があった。
【0010】
また、特許文献4及び5に記載された製造方法は、所定の陽イオンを含有する電解質水溶液をハニカム成形体の表面に塗布する工程を備えており、製造方法が煩雑であるという問題があった。
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものである。本発明は、脱脂時や焼成時の温度域における、成形体の表面と内部との温度差や収縮差による切れ等の欠陥の発生を有効に抑制することが可能な、ハニカム構造体の製造方法を提供する。本発明は、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を製造することが可能な、ハニカム構造体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下のハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0013】
[1] コージェライト形成材料、及び無機バインダを含有する成形原料を調製し、調製した前記成形原料を混練し、成形して、ハニカム形状の成形体を作製する成形工程と、
作製された前記ハニカム形状の成形体を焼成して、コージェライトを主成分とするハニカム構造体を得る焼成工程と、を備え、
前記成形工程において、前記無機バインダとして、層間金属陽イオンの少なくとも一部を非金属陽イオンとイオン交換したスメクタイトを用い、
前記スメクタイトは、当該スメクタイトに含まれるナトリウムの総量が、当該スメクタイト100質量%に対して、酸化物換算で1.6質量%以下のものであり、且つ、
前記成形原料における前記スメクタイトの含有割合を、前記コージェライト形成材料100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質量部以下とする、ハニカム構造体の製造方法であって、
イオン交換前の前記スメクタイトとして、前記層間陽イオンがナトリウムイオンであるNa型スメクタイトを用い、
前記成形工程において、前記スメクタイトとして、前記Na型スメクタイトの前記層間金属陽イオンの少なくとも一部をアンモニウムイオンでイオン交換したイオン交換スメクタイトを用いる、ハニカム構造体の製造方法
【発明の効果】
【0016】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、脱脂時や焼成時の温度域における、成形体の表面と内部との温度差や収縮差による切れ等の欠陥の発生を有効に抑制することができる。本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を製造することができる。更に、本発明のハニカム構造体の製造方法は、焼成時にCOや有害ガスの発生を防止又は低減することによって、環境汚染、地球温暖化を防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態によって製造されたハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示すハニカム構造体を第一端面側からみた模式的な平面図である。
図3図2のA−A’断面を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態は、ハニカム形状の成形体を作製する成形工程と、作製されたハニカム形状の成形体を焼成する焼成工程と、を備えたものである。ここで、本実施形態のハニカム構造体の製造方法によって製造されるハニカム構造体について、図1図3を参照しつつ説明する。図1は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態によって製造されたハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示すハニカム構造体を第一端面側からみた模式的な平面図である。図3は、図2のA−A’断面を示す模式的な断面図である。
【0020】
図1図3に示すように、ハニカム構造体100は、多孔質の隔壁1を有する柱状のハニカム構造部4を備えたハニカム構造体100である。ハニカム構造部4には、隔壁1によって、ハニカム構造部4の第一端面11から第二端面12まで延びる複数のセル2が区画形成されている。図1図3に示すハニカム構造体100は、ハニカム構造部4の最外周に位置する外周壁3を更に有している。本実施形態のハニカム構造体の製造方法は、このようなハニカム構造体100を製造する方法に関するものである。以下、本実施形態のハニカム構造体の製造方法を、単に、本実施形態の製造方法ということがある。
【0021】
本実施形態の製造方法における成形工程においては、まず、コージェライト形成材料、及び無機バインダを含有する成形原料を調製する。その後、調製した成形原料を混練し、成形して、ハニカム形状の成形体を作製する。本実施形態の製造方法においては、成形工程において、無機バインダとして、層間金属陽イオンの少なくとも一部を非金属陽イオンとイオン交換したスメクタイトを用いる。この際、スメクタイトは、当該スメクタイトに含まれるナトリウムの総量が、当該スメクタイト100質量%に対して、酸化物換算で1.6質量%以下のものとする。また、本実施形態の製造方法においては、成形原料におけるスメクタイトの含有割合を、コージェライト形成材料100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質量部以下とする。成形原料には、コージェライト形成材料、及び無機バインダ以外のその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、有機バインダ、分散媒としての水、分散剤、造孔剤等を挙げることができる。
【0022】
本実施形態の製造方法における焼成工程においては、作製されたハニカム形状の成形体を焼成して、コージェライトを主成分とするハニカム構造体を得る。このようにして、図1図3に示すようなハニカム構造体100を製造することができる。
【0023】
本明細書において、以下、層間金属陽イオンの少なくとも一部を非金属陽イオンとイオン交換したスメクタイトを、「イオン交換スメクタイト」ということがある。また、イオン交換スメクタイトのうち、当該イオン交換スメクタイトに含まれるナトリウムの総量が、当該イオン交換スメクタイト100質量%に対して、酸化物換算で1.6質量%以下のものを、「特定イオン交換スメクタイト」ということがある。本実施形態の製造方法においては、成形工程において、無機バインダとして、特定イオン交換スメクタイトを用いる。また、成形工程においては、成形原料におけるスメクタイトの含有割合を、コージェライト形成材料100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質量部以下とすることが重要である。なお、本実施形態の製造方法においては、成形原料における特定イオン交換スメクタイトの含有割合を、コージェライト形成材料100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質量部以下とすることが好ましい。
【0024】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法によれば、脱脂時や焼成時の温度域における、成形体の表面と内部との温度差や収縮差による切れ等の欠陥の発生を有効に抑制することができる。また、本実施形態のハニカム構造体の製造方法によれば、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体を製造することができる。更に、本実施形態のハニカム構造体の製造方法は、焼成時にCOや有害ガスの発生を防止又は低減することによって、環境汚染、地球温暖化を防止又は抑制することができる。
【0025】
スメクタイトとは、膨潤性の粘土鉱物の総称である。特に、本明細書において、スメクタイトとは、層間に金属陽イオンを有する層状粘土鉱物を指す。以下、粘土鉱物の層間に存在する金属陽イオンを、「層間金属陽イオン」という。このような層状粘土鉱物であるスメクタイトは、成形原料におけるバインダとして作用する。例えば、成形原料を押出成形した成形体において、層状粘土鉱物が成形体中に折り重なるように配置されることにより、成形体の形状維持に寄与するものと考えられる。このようなスメクタイトを無機バインダとして用いることにより、有機バインダのみを用いた場合に比して、有機バインダの量を少なくすることが可能となり、焼成時における、COや有害ガスの発生を防止又は低減することができる。
【0026】
上述したようにスメクタイトは、層状粘土鉱物であり、天然物として存在するスメクタイトは、層間金属陽イオンとして、ナトリウムイオンやカルシウムイオンが含まれている。このような天然物のスメクタイトを用いると、最終製造物であるハニカム構造体を構成するコージェライトに、ナトリウムが不純物として存在することになる。ハニカム構造体を構成するコージェライトにナトリウムが不純物として混入すると、コージェライトの特長である低熱膨張を阻害することになる。従来、スメクタイトに含まれるナトリウムイオンを、マグネシウムイオンでイオン交換する技術が提案されている。しかしながら、マグネシウムイオンでのイオン交換量には限界があり、マグネシウムイオンでイオン交換したスメクタイトには、未だナトリウムイオンが一定量以上含まれおり、低熱膨張を阻害するものとなっていた。
【0027】
本実施形態の製造方法においては、層間金属陽イオンの少なくとも一部を非金属陽イオンとイオン交換したイオン交換スメクタイトを用いる。特に、本実施形態の製造方法においては、イオン交換スメクタイトとして、イオン交換スメクタイトに含まれるナトリウムの総量が、当該イオン交換スメクタイト100質量%に対して、酸化物換算で1.6質量%以下の特定イオン交換スメクタイトを用いる。ここで、天然物のスメクタイトは、そのスメクタイトに含まれるナトリウムの総量が、当該スメクタイト100質量%に対して、酸化物換算で1.6質量%を超えるものである。また、天然物のスメクタイトを、マグネシウムイオンでイオン交換したスメクタイトは、マグネシウムイオンでのイオン交換量に限界があり、ナトリウムの総量を十分に低減することができないことがある。一方で、非金属陽イオンは、層間金属陽イオンの大部分とのイオン交換が可能であり、例えば、99%超の層間金属陽イオンがイオン交換されたイオン交換スメクタイトの作製が可能である。本実施形態の製造方法は、成形工程において使用する「特定イオン交換スメクタイト」を調製する工程を有していてもよい。即ち、本実施形態の製造方法は、スメクタイトの層間金属陽イオンを、種々の非金属陽イオンとイオン交換する工程を有していてもよい。
【0028】
イオン交換スメクタイトに含まれるナトリウムの総量が、当該イオン交換スメクタイト100質量%に対して、酸化物換算で1.6質量%を超えると、成形体中のナトリウム量が多くなり、コージェライトの耐熱衝撃性が悪化する。その結果、得られるハニカム構造体の熱膨張係数が高くなる。イオン交換スメクタイトに含まれるナトリウムの総量は、当該イオン交換スメクタイト100質量%に対して、酸化物換算で1.6質量%以下であることが好ましく、酸化物換算で1.0質量%以下であることが更に好ましく、酸化物換算で0.5質量%以下であることが特に好ましい。イオン交換スメクタイトは、ナトリウムが含まれていないものであってもよい。即ち、イオン交換スメクタイト中のナトリウムの総量が、測定装置の検出限界以下であってもよい。イオン交換スメクタイト中のナトリウム量を測定する測定装置の検出限界値としては、0.01質量%を挙げることができる。
【0029】
イオン交換スメクタイトに含まれるナトリウムの総量の比率については、JIS R 2216の「耐火物製品の蛍光X線分析方法」に準じて測定を実施し求めることができる。
【0030】
成形原料におけるスメクタイトの含有割合が、コージェライト形成材料100質量部に対して、0.5質量部未満であると、無機バインダの量が少なくなり、成形体の形状維持が困難になることがある。また、成形体の形状維持のために有機バインダの量を増量すると、COや有害ガスの発生量が増大してしまう。スメクタイトの含有割合が、コージェライト形成材料100質量部に対して、4.0質量部を超えると、ハニカム構造体の熱膨張係数が増大してしまう。成形原料におけるスメクタイトの含有割合は、コージェライト形成材料100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であることが更に好ましく、1.0質量部以上であることが特に好ましい。成形原料におけるスメクタイトの含有割合は、コージェライト形成材料100質量部に対して、4.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることが更に好ましく、2.0質量部以下であることが特に好ましい。特に、本実施形態のハニカム構造体において、上記した「スメクタイトの含有割合」は、「特定イオン交換スメクタイトの含有割合」であることがより好ましい。
【0031】
コージェライト形成材料は、成形原料の主成分となる。成形工程においては、コージェライト形成材料、及び無機バインダを含有する成形原料を混練し、この成形原料を坏土とする。成形原料には、有機バインダを含有させてもよい。このような坏土を成形して、ハニカム形状の成形体を作製する、以下、ハニカム形状の成形体を、「ハニカム成形体」ということがある。コージェライト形成材料は、ハニカム成形体の焼成後、隔壁の主成分であるコージェライトとなる。コージェライト形成材料としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム及びシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一の元素を含む酸化物、水酸化物又は炭酸塩などを挙げることができる。このようなものとしては、例えば、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、マグネシアなどを挙げることができる。
【0032】
コージェライト形成材料の含有割合は、コージェライト形成材料、無機バインダ及び必要に応じて含有される有機バインダの合計質量に対して、94.8〜99.4質量%とすることが好ましい。94.8質量%未満であると、ハニカム構造体の熱膨張や強度の面で問題となることがあり、99.4質量%を超えると、ハニカム形状に成形することが困難になることがある。コージェライト形成材料の含有割合は、コージェライト形成材料、無機バインダ及び有機バインダの合計質量に対して、95.5〜99.2質量%とすることが更に好ましく、96.1〜99.0質量%とすることが特に好ましい。
【0033】
有機バインダは、成形原料を混練して得られる坏土の可塑性、成形性を向上させるとともに、成形体の形状を保持する保形剤としての機能を果たすものである。一方、有機バインダは、焼成時に、COや有害ガスの発生源となる。このため、有機バインダを大量に含む成形体を焼成してハニカム構造体を製造すると、環境汚染や地球温暖化を促進する可能性がある。また、有機バインダは、成形時において、有機バインダが占有していた空間が欠陥となることがある。このため、得られるハニカム構造体にクラック等の欠陥が発生したり、得られるハニカム構造体の強度が低下したりすることがある。このようなことから、成形原料中の有機バインダの含有量については、必要最小限に抑える必要がある。本実施形態の製造方法においては、有機バインダの含有割合が、コージェライト形成材料、無機バインダ及び有機バインダの合計100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることが更に好ましい。また、用途によっては、成形原料に、有機バインダを含有させなくともよい。即ち、有機バインダの含有割合の下限値は、0質量部であってもよい。
【0034】
有機バインダとしては、例えば、有機高分子を挙げることができる。具体的には、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。有機バインダは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
スメクタイトとしては、その層間にアルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンを保持した構造を有する層状粘土鉱物を挙げることができる。特に、スメクタイトは、八面体層の上下を四面体層で挟持したシートを1単位として、その層間に上述したイオンを保持した構造を有する粘土鉱物群を意味する。八面体層としては、アルミニウム(Al)又はマグネシウム(Mg)と、酸素(O)と、を含むものを挙げることができる。四面体層としては、ケイ素(Si)又はアルミニウム(Al)と、酸素(O)と、を含むものを挙げることができる。スメクタイトとして、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト(Hectorite)、サポナイト(Saponite)等を挙げることができる。また、モンモリロナイトを多く含む粘土を一般的にベントナイト(Bentonite)ということがある。本実施形態の製造方法において、無機バインダとしてのスメクタイトは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本実施形態の製造方法においては、スメクタイトとして、層間金属陽イオンを非金属陽イオンとイオン交換したイオン交換スメクタイトを用いる。非金属陽イオンとしては、例えば、アンモニウムイオンを挙げることができる。また、スメクタイトの層間金属陽イオンを非金属陽イオンとイオン交換することが可能な有機塩として、以下のような有機塩を挙げることができる。ジメチルジステアリルアンモニウム塩、トリメチルステアリルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩。ホスホニウム塩。イミダゾリウム塩。また、以下のような有機分子は、低いpHにおいて、プロトン化により陽イオンとして振舞うため、スメクタイトの層間金属陽イオンを非金属陽イオンとイオン交換する物質として使用することができる。アトラジン、シアナジン、シマジン等のトリアジン除草剤。キノリン等のN−複素環化合物。アンモニア。染料や合成樹脂の原料となるアニリン。ピリジン。尿素。
【0037】
「非金属」とは、金属以外の無機物、及び有機物のことを意味する。従って、「非金属陽イオン」としては、金属以外の無機物の共役酸である陽イオンや、有機物から陰イオンが遊離した陽イオンを挙げることができる。また、「非金属陽イオン」は、水素イオンであってもよい。ただし、層間金属陽イオンとイオン交換する「非金属陽イオン」としては、水素イオン以外の非金属陽イオンであることが好ましい。本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、イオン交換する非金属陽イオンがアンモニウムイオンである。
【0038】
ここで、スメクタイトの層間金属陽イオンを非金属陽イオンとイオン交換する方法について説明する。以下の方法では、スメクタイトとしてモンモリロナイトを用い、イオン交換する非金属陽イオンがアンモニウムイオンである場合の例を説明する。まず、1Nの塩化アンモニウム水溶液中に、モンモリロナイトをよく撹拌し分散させ、24時間放置する。次に、モンモリロナイトの粒子が沈澱したら、その上澄み液を取り去り、新たに、1Nの塩化アンモニウム水溶液を加える。そして、これまでの操作を3回繰り返して行う。即ち、撹拌、24時間放置、上澄み液の除去、及び新たな塩化アンモニウム水溶液の添加を、3回繰り返して行う。次に、上記操作を3回繰り返した溶液(モンモリロナイトを含む溶液)を遠心分離し、モンモリロナイトと塩化アンモニウム水溶液を分離する。次に、分離したモンモリロナイトに蒸溜水を加えて洗浄する。10回洗浄した後、試料であるモンモリロナイトを透析膜に入れて、蒸溜水に含浸する。蒸溜水中の塩素イオンが検出されなくなるまで、蒸溜水を取り変えて洗浄する。このようして得られたモンモリロナイトは、層間金属陽イオンがアンモニウムイオンとイオン交換されたモンモリロナイトとなる。このような方法によれば、モンモリロナイト等のスメクタイトに含まれるナトリウムの総量が、極めて少ない、イオン交換スメクタイトを良好に得ることができる。なお、1Nは、1規定を意味し、1規定は、水1Lに対し、溶質1gの溶液のことを意味する。
【0039】
本実施形態の製造方法においては、スメクタイトを、予め水に分散させた分散液の状態で用いることが、少量でも効果的に、坏土に可塑性、成形性を付与することができることから好ましい。すなわち、スメクタイトを水に分散させた分散液の状態で用いると、スメクタイトの層間に水が入り込み、層が1枚ずつバラバラに解離することとなる。そして、スメクタイトが膨潤して、次第に粘性が高くなり、分散液がゼリー状になる。この状態で成形原料に添加することにより、スメクタイトが実質的に少量でも坏土に十分な可塑性、成形性を発現させることができる。
【0040】
オン交換前のスメクタイトとして、層間陽イオンがナトリウムイオン又はカルシウムイオンであるNa型スメクタイト又はCa型スメクタイトを挙げることができる。本実施形態の製造方法においては、イオン交換前のスメクタイトとして、層間金属陽イオンがナトリウムイオンであるNa型スメクタイトを用いる。
【0041】
本実施形態の製造方法においては、成形原料中に、造孔剤を更に含有させてもよい。このような造孔剤は、気孔の鋳型となるもので、所望の形状、大きさ、分布の気孔を、ハニカム構造体に形成し、気孔率を増大させ、高気孔率のハニカム構造体を得ることができる。このような造孔剤としては、例えば、グラファイト、小麦粉、澱粉、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、又は発泡樹脂等を挙げることができる。発泡樹脂としては、アクリロニトリル系プラスチックバルーンを挙げることができる。これらは気孔を形成する代わりに自身は焼失するため、中でも、COや有害ガスの発生及びクラックの発生を抑制する観点から、発泡樹脂が好ましい。なお、造孔剤を用いる場合、有機バインダ及び造孔剤の含有割合の合計を、成形原料100質量部に対して、5質量部以下とすることが好ましく、4質量部以下とすることが更に好ましい。
【0042】
分散媒としての水を含有させる割合は、成形時における坏土が適当な硬さを有するものとなるように水の量を調整することが好ましい。
【0043】
成形原料を混練して坏土を得る方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0044】
成形工程では、成形原料を混練した坏土を成形して、ハニカム成形体を作製する。得られたハニカム成形体を乾燥させて、当該ハニカム成形体を乾燥させたハニカム乾燥体を得てもよい。
【0045】
ハニカム成形体の形状としては特に制限はなく、例えば、ハニカム形状の隔壁によって一方の端面である第一端面から他方の端面である第二端面まで延びる複数のセルが区画形成されたものを挙げることができる。ハニカム構造体をDPF等のフィルタ用途に用いる場合は、セルのいずれか一方の端部が目封止部によって目封止されていることが好ましい。なお、DPFは、「Diesel Particulate Filter」の略である。ハニカム成形体の全体形状としては特に制限はなく、例えば、円柱状、四角柱状、三角柱状等を挙げることができる。また、ハニカム成形体のセル形状についても特に制限はなく、例えば、四角形、六角形、三角形等を挙げることができる。セル形状とは、ハニカム構造体のセルの延びる方向に対して直交する断面における、セルの形状のことである。
【0046】
ハニカム成形体を成形する方法としては、特に制限はなく、押出成形、射出成形、プレス成形等の従来公知の成形法を用いることができる。中でも、上述のように調製した坏土を、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形する方法等を好適例として挙げることができる。乾燥の方法も特に制限はなく、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥法を用いることができる。中でも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0047】
次に、焼成工程において、上述のようにして得られたハニカム成形体を仮焼することによって仮焼体としてもよい。仮焼とは、成形体中の有機物を燃焼させて除去する操作を意味する。仮焼は、脱脂と言われることがある。成形体中の有機物としては、バインダ、分散剤、造孔剤等を挙げることができる。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔剤の燃焼温度200〜800℃程度である。このため、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間としては特に制限はないが、通常は、1〜10時間程度である。
【0048】
上述のようにして得られた仮焼体を焼成することによってハニカム構造体を得る。焼成は、仮焼と区別するため、本焼成と言われることがある。本焼成とは、成形体又は仮焼体中の成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するための操作を意味する。焼成温度や焼成時間等の焼成条件は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。本実施形態の製造方法においては、ハニカム成形体を、1300〜1500℃で焼成することが好ましい。1350〜1450℃で焼成することがさらに好ましい。1300℃未満であると、目的の結晶相(コージェライト)が得られないことがあり、1500℃を超えると、融解してしまうことがある。
【0049】
本実施形態の製造方法によって製造されたハニカム構造体は、欠陥やクラックの少ない、高強度及び低熱膨張性を維持した高品質の、コージェライトを主成分とする構造体である。コージェライトの好適な組成としては、例えば、2MgO・2Al・5SiOを挙げることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
実施例1においては、まず、以下の方法で、成形原料を調製した。まず、コージェライト形成材料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカを用意した。このコージェライト形成材料に、有機バインダと無機バインダを加えた。有機バインダとしては、メチルセルロースを用いた。無機バインダとしては、層間金属陽イオンの少なくとも一部をアミンイオンとイオン交換したモンモリロナイトを用いた。モンモリロナイトは、スメクタイトの一種である。以下、層間金属陽イオンの少なくとも一部をアミンイオンとイオン交換したモンモリロナイトを、「アミン置換モンモリロナイト」ということがある。実施例1にて用いたアミン置換モンモリロナイトは、アミン置換モンモリロナイトに含まれるナトリウムの総量が、当該アミン置換モンモリロナイト100質量%に対して、酸化物換算で1.58質量%のものであった。表1に、無機バインダとして用いたスメクタイトの化学組成(質量%)を示す。なお、「アミン(amine)」とは、アンモニア、及びアンモニアの水素原子を炭化水素基又は芳香族原子団で置換した化合物の総称である。「アミンイオン」は、上記した化合物に、水素イオンが1つ付加した陽イオンである。実施例1においては、層間金属陽イオンとイオン交換したアミンイオンは、アンモニウムイオンである。
【0052】
無機バインダとして用いたスメクタイトの化学組成(質量%)は、多元素同時測定型蛍光X線分析装置を用いて測定した。分析装置としては、PHILIPS社製の「PW2606/10(商品名)」を用いた。
【0053】
成形原料におけるアミン置換モンモリロナイトの含有割合は、コージェライト形成材料100質量部に対して、4.0質量部とし、コージェライト組成に近くなるよう、コージェライト形成材料のタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカの量を、適宜調整した。表1の「スメクタイトの含有割合(質量部)」の欄に、コージェライト形成材料100質量部に対する、スメクタイトの質量の割合を示す。
【0054】
成形原料におけるメチルセルロースの含有割合は、コージェライト形成材料及びアミン置換モンモリロナイトの合計100質量部に対し、4質量部とした。また、このような成形原料に対して、更に、界面活性剤及び水を加えた。界面活性剤は、成形原料100質量部に対し、1質量部加えた。水は、成形原料100質量部に対し、37質量部加えた。界面活性剤及び水を加えた成形原料を混練することによって、坏土の圧密体を得た。
【0055】
得られた坏土を、押出成形機にてハニカム形状に成形して、ハニカム成形体を得た。成形の際には、押出成形機の口金のつまりや、成形不良を発生させることなく、良好に成形を行うことができた。
【0056】
次に、得られたハニカム成形体を、マイクロ波及び熱風にて乾燥させ、その後、1420℃の温度雰囲気において、7時間焼成して、ハニカム構造体を製造した。各実施例及び比較例においては、ハニカム構造体を10個作製し、ハニカム構造体の端面における切れ欠陥の有無を確認した。表1の「焼成時の切れ欠陥の評価」の欄に、ハニカム構造体の端面における切れ欠陥の評価結果を示す。表1に示す評価結果において、「0/10」という場合は、10個のハニカム構造体において、切れ欠陥が0個であったことを示す。例えば、切れ欠陥が1個の場合は、「1/10」となる。実施例1のハニカム構造体は、端面における切れ欠陥が確認されなかった。
【0057】
また、得られたハニカム構造体の熱膨張係数を測定した。実施例1のハニカム構造体の熱膨張係数は、0.62×10−6/℃であった。表1の「熱膨張係数(×10−6/℃)」の欄に、ハニカム構造体の熱膨張係数の値を示す。ハニカム構造体の熱膨張係数は、リガク社製の「Thermo plus TG8120(商品名)」によって測定した。
【0058】
また、得られたハニカム構造体に含まれる、スメクタイト由来のNaOの総量(質量%)を求めた。実施例1のハニカム構造体は、スメクタイト由来のNaOの総量が、0.06質量%であり、スメクタイト由来のNaOによる悪影響が極めて少ないものであったと推測される。表1の「スメクタイト由来のNaOの総量(質量%)」の欄に、スメクタイト由来のNaOの総量の値を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(実施例2〜6,8〜11)
実施例2〜6,8〜11においては、表1に示すような化学組成のアミン置換モンモリロナイトを用いた。そして、成形原料におけるアミン置換モンモリロナイトの含有割合を、表1に示すように変更し、コージェライト組成に近くなるよう、コージェライト形成材料のタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカの量を、適宜調整した。それ以外の製造方法については、実施例1と同様にして、ハニカム構造体を10個製造した。得られたハニカム構造体について、焼成時の切れ欠陥の評価、及び熱膨張係数の測定を行った。結果を、表1に示す。
【0061】
(実施例7)
実施例7においては、まず、以下の方法で、成形原料を調製した。コージェライト形成材料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカを用意した。このコージェライト形成材料に、有機バインダと無機バインダを加えた。有機バインダとしては、メチルセルロースを用いた。無機バインダとしては、層間金属陽イオンの少なくとも一部をアミンイオンとイオン交換したヘクトライトを用いた。ヘクトライトは、スメクタイトの一種である。以下、層間金属陽イオンの少なくとも一部をアミンイオンとイオン交換したヘクトライトを、「アミン置換ヘクトライト」ということがある。実施例7にて用いたアミン置換ヘクトライトは、アミン置換ヘクトライトに含まれるナトリウムの総量が、当該アミン置換ヘクトライト100質量%に対して、酸化物換算で0.76質量%のものであった。表1に、無機バインダとして用いたスメクタイトの化学組成(質量%)を示す。
【0062】
成形原料におけるアミン置換ヘクトライトの含有割合は、コージェライト形成材料100質量部に対して、4.0質量部とし、コージェライト組成に近くなるよう、コージェライト形成材料のタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカの量を、適宜調整した。表1の「スメクタイトの含有割合(質量部)」の欄に、コージェライト形成材料100質量部に対する、スメクタイトの質量の割合を示す。
【0063】
成形原料におけるメチルセルロースの含有割合は、コージェライト形成材料及びアミン置換ヘクトライトの合計100質量部に対し、4質量部とした。また、このような成形原料に対して、更に、界面活性剤及び水を加えた。界面活性剤は、成形原料100質量部に対し、1質量部加えた。水は、成形原料100質量部に対し、37質量部加えた。界面活性剤及び水を加えた成形原料を混練することによって、坏土の圧密体を得た。
【0064】
得られた坏土を、押出成形機にてハニカム形状に成形して、ハニカム成形体を得た。成形の際には、押出成形機の口金のつまりや、成形不良を発生させることなく、良好に成形を行うことができた。
【0065】
次に、得られたハニカム成形体を、マイクロ波及び熱風にて乾燥させ、その後、1420℃の温度雰囲気において、7時間焼成して、ハニカム構造体を10個製造した。得られたハニカム構造体について、焼成時の切れ欠陥の評価、及び熱膨張係数の測定を行った。結果を、表1に示す。
【0066】
また、得られたハニカム構造体に含まれる、スメクタイト由来のNaOの総量(質量%)を求めた。実施例7のハニカム構造体は、スメクタイト由来のNaOの総量が、0.03質量%であり、スメクタイト由来のNaOによる悪影響が極めて少ないものであったと推測される。表1の「スメクタイト由来のNaOの総量(質量%)」の欄に、スメクタイト由来のNaOの総量の値を示す。
【0067】
(比較例1)
比較例1においては、まず、以下の方法で、成形原料を調製した。コージェライト形成材料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカを用意した。このコージェライト形成材料に、有機バインダを加えた。有機バインダとしては、メチルセルロースを用いた。コージェライト形成材料の各成分の含有割合は、コージェライト組成に近くなるようタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカの量を調整した。
【0068】
成形原料におけるメチルセルロースの含有割合は、コージェライト形成材料100質量部に対し、4質量部とした。また、このような成形原料に対して、更に、界面活性剤及び水を加えた。界面活性剤は、成形原料100質量部に対し、1質量部加えた。水は、成形原料100質量部に対し、37質量部加えた。界面活性剤及び水を加えた成形原料を混練することによって、坏土の圧密体を得た。
【0069】
得られた坏土を、押出成形機にてハニカム形状に成形して、ハニカム成形体を得た。成形の際には、押出成形機の口金のつまりや、成形不良を発生させることなく、良好に成形を行うことができた。
【0070】
次に、得られたハニカム成形体を、マイクロ波及び熱風にて乾燥させ、その後、1420℃の温度雰囲気において、7時間焼成して、ハニカム構造体を10個製造した。得られたハニカム構造体について、焼成時の切れ欠陥の評価、及び熱膨張係数の測定を行った。結果を、表2に示す。比較例1のハニカム構造体の熱膨張係数は、0.49×10−6/℃であり、熱膨張係数の低いハニカム構造体を製造することができた。しかしながら、比較例1のハニカム構造体は、作製した10個のハニカム構造体の全てに、切れ欠陥が確認された。
【0071】
【表2】
【0072】
(比較例2)
比較例2においては、まず、以下の方法で、成形原料を調製した。コージェライト形成材料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカを用意した。このコージェライト形成材料に、有機バインダと無機バインダを加えた。有機バインダとしては、メチルセルロースを用いた。無機バインダとしては、Na型モンモリロナイトを用いた。比較例2にて用いたNa型モンモリロナイトは、Na型モンモリロナイトに含まれるナトリウムの総量が、当該Na型モンモリロナイト100質量%に対して、酸化物換算で3.25質量%のものであった。表2に、無機バインダとして用いたスメクタイトの化学組成(質量%)を示す。
【0073】
成形原料におけるNa型モンモリロナイトの含有割合は、コージェライト形成材料100質量部に対して、2.0質量部とし、コージェライト組成に近くなるよう、コージェライト形成材料のタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカの量を、適宜調整した。表2の「スメクタイトの含有割合(質量部)」の欄に、コージェライト形成材料100質量部に対する、スメクタイトの質量の割合を示す。
【0074】
比較例2においては、上述したように、無機バインダとしてNa型モンモリロナイトを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、ハニカム構造体を10個製造した。得られたハニカム構造体について、焼成時の切れ欠陥の評価、及び熱膨張係数の測定を行った。結果を、表2に示す。比較例2のハニカム構造体は、端面における切れ欠陥が確認されなかった。しかしながら、比較例2のハニカム構造体の熱膨張係数は、0.67×10−6/℃であり、実施例1〜11のハニカム構造体に比して、熱膨張係数の上昇が確認された。
【0075】
(比較例3,4)
比較例3,4においては、表2に示すような化学組成のアミン置換モンモリロナイトを用いた。そして、成形原料におけるアミン置換モンモリロナイトの含有割合を、表2に示すように変更し、コージェライト組成に近くなるよう、コージェライト形成材料のタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカの量を、適宜調整した。それ以外の製造方法については、実施例1と同様にして、ハニカム構造体を10個製造した。得られたハニカム構造体について、焼成時の切れ欠陥の評価、及び熱膨張係数の測定を行った。結果を、表2に示す。比較例3にて用いたアミン置換モンモリロナイトは、アミン置換モンモリロナイトに含まれるナトリウムの総量が、当該アミン置換モンモリロナイト100質量%に対して、酸化物換算で2.45質量%のものであった。比較例4にて用いたアミン置換モンモリロナイトは、アミン置換モンモリロナイトに含まれるナトリウムの総量が、当該アミン置換モンモリロナイト100質量%に対して、酸化物換算で2.23質量%のものであった。比較例3,4のハニカム構造体は、端面における切れ欠陥が確認されなかった。しかしながら、比較例3のハニカム構造体の熱膨張係数は、0.75×10−6/℃であり、実施例1〜11のハニカム構造体に比して、熱膨張係数の上昇が確認された。同様に、比較例4のハニカム構造体の熱膨張係数は、0.71×10−6/℃であり、実施例1〜11のハニカム構造体に比して、熱膨張係数の上昇が確認された。
【0076】
(比較例5,6)
比較例5,6においては、まず、以下の方法で、成形原料を調製した。コージェライト形成材料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカを用意した。このコージェライト形成材料に、有機バインダと無機バインダを加えた。有機バインダとしては、メチルセルロースを用いた。無機バインダとしては、層間金属陽イオンの少なくとも一部をマグネシウムイオンとイオン交換したモンモリロナイトを用いた。以下、層間金属陽イオンの少なくとも一部をマグネシウムイオンとイオン交換したモンモリロナイトを、「マグネシウム置換モンモリロナイト」ということがある。比較例5,6にて用いたマグネシウム置換モンモリロナイトは、マグネシウム置換モンモリロナイトに含まれるナトリウムの総量が、当該マグネシウム置換モンモリロナイト100質量%に対して、酸化物換算で1.43質量%のものであった。表2に、無機バインダとして用いたスメクタイトの化学組成(質量%)を示す。
【0077】
比較例5においては、上述したように、無機バインダとしてマグネシウム置換モンモリロナイトを6.0質量部用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、ハニカム構造体を10個製造した。また、比較例6においては、上述したように、無機バインダとしてマグネシウム置換モンモリロナイトを4.0質量部用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、ハニカム構造体を10個製造した。得られたハニカム構造体について、焼成時の切れ欠陥の評価、及び熱膨張係数の測定を行った。結果を、表2に示す。比較例5のハニカム構造体は、端面における切れ欠陥が確認されなかった。しかしながら、比較例5のハニカム構造体の熱膨張係数は、0.73×10−6/℃であり、実施例1〜11のハニカム構造体に比して、熱膨張係数の上昇が確認された。比較例6のハニカム構造体は、作製した10個のハニカム構造体の全てに、切れ欠陥が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、化学、電力、鉄鋼、産業廃棄物処理等の種々の分野において、環境汚染、地球温暖化を防止する対策として有効な、各種分離・浄化装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0079】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、4:ハニカム構造部、11:第一端面、12:第二端面、100:ハニカム構造体。
図1
図2
図3