【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴を有するガラス溶融部材の製造方法又は請求項7の特徴を有するガラス溶融部材により解決される。有利な実施形態は、従属請求項に提示されている。
【0008】
ガラス溶融部材に対するガラス溶融物の腐食作用は、局所的圧縮応力が適用されることによりガラス溶融部材の表面縁部帯域(oberflaechlichen Randzone)が少なくとも部分的に緻密化され、その空隙率が、表面縁部帯域の下側にあり残留空隙率を有する本体部分に比較して、減少することにより、著しく減少することができる。空隙率が減少された縁部帯域は、ガラス溶融物による腐食作用の機会が少なくなり、それ故、腐食作用に対する耐性が大きくなる。
【0009】
本発明において、耐熱金属とは、周期律表の第4族(チタン、ジルコニウム及びハフニウム)、第5族(バナジウム、ニオブ、タンタル)及び第6族(クロム、モリブデン、タングステン)の金属並びにレニウム並びに上記元素の合金(耐熱金属合金)を意味する。耐熱金属合金とは、当該元素を少なくとも50原子%有する合金を意味する。
【0010】
これらの材料は、なかんずく、高い使用温度において優れた形状安定性を有し、多くの溶融物に対して耐薬品性を有する。モリブデン及びモリブデン合金は、多くのガラス溶融物に対し極めて高い耐性を示す。この出願においてガラス溶融物とは、例えばケイ酸塩ガラス(例えば石英ガラス)、ホウ酸ガラス(例えばホウケイ酸ガラス)並びに酸化アルミニウムの溶融物などの酸化物材料の溶融物を意味する。
【0011】
この出願においてガラス溶融部材とは、ガラス溶融物と接触して使用される部材を意味する。
【0012】
これには、例えば、ガラス溶融電極、ガラス製造におけるタンクの被覆材又は溶融るつぼがある。石英ガラス又はサファイア単結晶製造用のるつぼは、特に重視する価値がある。
【0013】
本発明方法の適用により、表面縁部帯域における空隙率の減少とともに、圧縮応力が適用される縁部帯域の表面の平滑化も生じる。このようにして平滑化された表面は、ガラス溶融物による腐食作用の機会を低減させる。更に、ガラス溶融物における気泡の形成が減少させられる。
【0014】
本発明は、特に、残留空隙率を有する粉末冶金法で製造された部材への適用に好適である。本発明において、残留空隙率とは、部材中に存在する空孔の割合を意味するが、これは、製造過程で本体中に残るものであり、特に粉末冶金法により製造された部材において当てはまる。
【0015】
粉末冶金法による製造は、一般に、粉末混合物の押圧とこれに続く焼結を含んでいる。
【0016】
1つ又は複数の成形工程が焼結に続くことがある。賦形部品は、例えば、このように成形された半完成品から作ることができる。その例としては、鍛造及び/又は圧延された棒の長さを、主として切断で短くしたガラス溶融電極が挙げられる。
【0017】
半完成品を経由するガラス溶融部材の製造の別の例は、圧延金属板の曲げ、押出又は押圧により、るつぼを作ることである。
【0018】
粉末を押圧して、直接、将来の賦形部品の形状とし、続いて焼結して賦形部品を作ることも可能である。このようにして作られた賦形部品は、p/s(押圧/焼結:英語pressed/sinteredから)賦形部品と呼ばれている。p/s賦形部品は、一般にその焼結状態で、場合によっては所望の許容誤差を調整するための機械的加工後に、使用に供される。この意味で、最終形状に近い加工(英語では、near net shape manufacturing:ニア・ネット・シェイプ加工)という言葉も使われている。p/s賦形部品の典型的な相対密度は、92%〜97%で、残留空隙率3〜8%に対応する。押圧/焼結された部材は、通常、殆ど塑性変形をしない。
【0019】
多くの用途に対しては、押圧及び焼結により部材の最終形状を与える製造方法が極めて経済的な方法であるから、3〜8%の残留空隙率が許容可能である。このようにして、例えば、るつぼが良好に製造され得る。
【0020】
本発明方法によれば、ガラス溶融部材−残りの本体部分は残留空隙率を有するのだが−の表面縁部帯域が、緻密化され、表面縁部帯域の空隙率は減少する。
【0021】
圧延体による局所的圧縮応力の適用は、平滑圧延プロセスで行なわれると有利である。圧延体は、被加工材の表面に押し付けられ、重畳軌道により表面上を案内される。平滑圧延では、被加工材の縁部帯域は圧延体により塑性変形される。圧延体は、この場合、一般に被加工材に比して小さい。例えば圧延におけるような大量変形は行なわれない。変形は、表面近くの縁部帯域に留まっている。
【0022】
平滑圧延は、通常は、被加工材の粗さを低く設定し被加工材表面に残留圧縮応力を誘起することにより疲労特性を改良するために、使用される。
【0023】
平滑圧延は、残留空隙率を有するガラス溶融部材、有利には粉末冶金法で製造されたガラス溶融部材、への提案された適用において、残りの本体部分に残留空隙率を有するガラス溶融部材の表面縁部帯域における残留空隙率を減少させる作用をし、これによりガラス溶融部材は、ガラス溶融物により、攻撃されにくくなる。
【0024】
局所的圧縮応力の適用は、ショットブラストにより行なうことができる。ショットブラストによっても、表面縁部帯域の空隙率の減少が観察できるが、これは、平滑圧延の場合よりも浅いところまでである。
【0025】
局所的圧縮応力の適用により、緻密化された表面縁部帯域の空隙率は、有利には1%未満に減少させられる。緻密化された表面縁部帯域の空隙率は、好適には0%〜1%、特に好適には0.1%〜1%である。
【0026】
適用される局所的圧縮応力は、好ましくは耐熱金属の降伏点以上である。これにより、耐熱金属の表面縁部帯域における塑性変形が達成される。
【0027】
ガラス溶融部材は、縁部帯域の緻密化後に、好適には耐熱金属の再結晶温度を超える温度で、熱処理される。表面硬度の向上及び残留圧縮応力の導入が求められる平滑圧延との関係での教示とは全く反して、この有利な代替方法は、前以って縁部帯域が塑性変形したガラス溶融部材を耐熱金属の再結晶温度を超える温度で熱処理するという一見逆説的なルートを取る。再結晶温度を超える温度での熱処理は、いずれにしても、冷間固化により生じ得る硬度の上昇及び存在し得る残留圧縮応力を解消することになる。それ故、再結晶温度を超える温度での熱処理は、硬度の向上及び/又は残留圧縮応力の導入の目的で予め処理された部材に対しては、通常は実施されないであろう。
【0028】
しかし、出願人の実験によれば、再結晶温度を超える温度での熱処理は、その前に局所的圧縮応力の適用により緻密化されそれによって塑性変形を被った表面縁部帯域に、多大の粒子成長をもたらすことが判明した。これは、縁部帯域の塑性変形によりもたらされる粒子成長の促進力の向上により、説明できる。粗粒組織の有利な形成は変形の度合いが小さいところで生じる。何故なら、その場合には、再結晶の萌芽がごく僅かしか利用可能でないからである。
【0029】
この有利な代替方法により作られた縁部層における粗粒組織は、ガラス溶融物による腐食作用に対するガラス溶融部材の耐性を著しく改良する。粒界の数の減少により、部材中へのガラス溶融物の拡散は、より困難になる。
【0030】
再結晶温度を超える温度では、組織は、欠陥格子の解消及び粒子の新規形成により、変化する。公知のように、再結晶温度は変形度の関数であり、再結晶温度は、通常は、変形度の上昇に伴い低下する。その理由は、変形によりエネルギーが材料にもたらされ、このエネルギーが再結晶への駆動力として作用することにある。
【0031】
再結晶温度TR
xxの基準値は、0.3T
s<TR
xx<0.5T
sである。T
sは材料の融点(ケルビン)である。
【0032】
熱処理温度は、有利には、緻密化された縁部帯域の再結晶温度には到達するが残りの変形していない本体では再結晶が生じないように、設定される。
【0033】
耐熱金属の再結晶温度を超える温度での熱処理は、ガラス溶融部材の最初の使用時に行なわれると特に有利である。それにより、ガラス溶融部材を別個にアニーリングする必要は無くなり、粒子成長を促進する熱処理はインサイチュで行なわれる。これは、当該耐熱金属の個々の再結晶温度を超える使用温度、より厳密には、緻密化された縁部帯域における再結晶温度を超える温度、での適用に対して、実現され得る。サファイア単結晶成長及び石英ガラスの製造の用途に対して、これは常に当てはまる。ここでは、典型的な使用温度は2,000℃以上であり、従って、確実に関連材料の再結晶温度を超える。
【0034】
ガラス溶融部材全体を熱処理せずに縁部帯域のみを加熱することも考えられる。例えば誘導加熱により縁部帯域のみを加熱することもできよう。
【0035】
また、少なくとも部分的に、表面縁部帯域を有し、この帯域が、表面縁部帯域の下側にあり残留空隙率を有する本体部分に比べて、緻密化され空隙率が減少した耐熱金属から成るガラス溶融部材も本発明の対象である。
【0036】
ガラス溶融部材が粉末冶金法、好適には押圧及び焼結、により製造されると有利である。
【0037】
表面縁部帯域の空隙率は、0%〜1%、残りの本体の残留空隙率は3%〜8%であると有利である。表面縁部帯域の空隙率が0.1%〜1%であると特に有利である。
【0038】
表面縁部帯域の空隙率がその下側の本体部分の空隙率より少なくとも1.5パーセントポイント低いと有利である。換言すれば空隙率の差は、少なくとも1.5パーセントポイントとする。数値例を挙げれば下側の本体部分の空隙率が2.5%であれば、表面側の縁部帯域の空隙率は1%以下である。これは表面縁部帯域には、その下側の本体に比べて、空隙率に明白な差があるということである。
【0039】
表面縁部帯域は、ガラス溶融部材の使用時にガラス溶融物に曝されるガラス溶融部材の各領域に形成されると有利である。
【0040】
空孔の無い縁部帯域は、ガラス溶融部材の下側の本体部分よりも粗い粒子構造を有すると有利である。例えば表面縁部帯域における平均粒径は、その下側の本体部分よりも有利には少なくとも50%大きく、特に有利には少なくとも2倍の大きさにすることができる。表面縁部帯域の粗い粒子構造は、ガラス溶融物の腐食作用に対しより強い耐性を示す。これは粗粒組織における粒界の数が微粒組織におけるよりも少ないことにより明らかである。このようにして形成されたガラス溶融部材は、その下側の本体部分に微粒組織を有する。これに対し表面縁部帯域では、ガラス溶融部材は、ガラス溶融物による腐食作用に対して特に強い抵抗を示す粗粒組織を有する。
【0041】
好適には表面縁部帯域の平均粒径が40〜1,000μmの範囲、好ましくは100〜300μmの範囲、であるのに対し、その下側の本体部分の平均粒径は、例えば15〜40μmである。
【0042】
表面縁部帯域の深さは、好適には50μm〜1,000μm、有利には300μm〜500μmを有する。換言すれば、表面縁部帯域は、少なくとも50μmから1,000μmまで、有利には300μm〜500μmの距離だけ、ガラス溶融部材の本体に入り込む。
【0043】
表面縁部帯域は、好適には、その表面に0.30μm未満の粗さRa、有利には0.20μm未満、特に有利には0.15μm未満、のRaを有する。押圧/焼結された部材の未処理表面は、これに対して、典型的には0.70μmの粗さRaを有する。粗さが小さければ、表面の腐食作用に対する耐性が改良される。更に平滑な表面では気泡発生の核が少なくなるので、表面における気泡形成が減少させられる。
【0044】
有利な例では、ガラス溶融部材は、るつぼ、特に石英ガラス又はサファイア単結晶製造用のるつぼ、であり得る。本発明によるガラス溶融部材の上述の特性は、るつぼ用として特に有利である。これで作られた石英ガラス又はサファイア単結晶の品質が、改良されるとともに、るつぼの寿命は延長される。
【0045】
別の有利な例では、ガラス溶融部材はガラス溶融電極であり得る。この場合、本発明によるガラス溶融部材の特徴が特に発揮される。特に指摘すべきことは、このようにして形成されたガラス溶融電極の気泡発生が少ないことと寿命が延長されることである。
【0046】
ガラス溶融部材は、内壁にも外壁にも緻密化された表面縁部帯域を有すると有利である。この有利な実施形態では、ガラス溶融部材、特にるつぼ、の内壁及び外壁の両方が、表面縁部帯域において、機械的圧縮応力の適用により圧縮される。この変形例は、特に空洞を形成するガラス溶融部材、即ち、例えばるつぼ又はタンク、に適用される。このようにして得られたガラス溶融部材は、表面縁部帯域の下側にある本体部分に比較して、内壁でも外壁でも空隙率が減少した表面縁部帯域を有することになる。
【0047】
この変形例の特別な利点は、これにより外側も内側も緻密化された縁部帯域を備えたサンドイッチ構造が作られることである。再結晶後には、このようなガラス溶融部材は、内側及び外側両方の縁部帯域に粗粒組織を備えた組織を示す。これに対し、これらの間には、より小さい粒子を有する領域が残る。
【0048】
片側だけが緻密化された縁部帯域では、再結晶により、壁厚全体に亘って粒子が形成され得る。このようないわば壁を貫通する粒子又はその粒界は、ガラス溶融部材の気密性に関しては不利となり得る。再結晶に際しては、この実施形態では粒子が両側から互いに成長するので、外側及び内側で緻密化された縁部帯域により、ガラス溶融部材の壁厚全体に広がる粒界の発生を避けることができる。
【0049】
ガラス溶融物の収容又は処理用にガラス溶融部材を利用すると有利である。処理とは、例えば加熱、撹拌又は賦形を意味する。ガラス溶融物とは、酸化物材料の溶融物を意味する。
【0050】
[製造例]
押圧/焼結されたモリブデン製の円形粗材の上側及び下側の表面縁部帯域が、平滑圧延法で局所的圧縮応力の適用により、緻密化された。それぞれ、工具は、圧延体として、2つの球体寸法(直径φ6mm及びφ13mm)を有するセラミック製の圧延球体が使用された。圧延球体は、静水圧的に可変圧延圧力を適用し得る。
【0051】
表1に要約したように、押圧/焼結された円形粗材の各側面が1つの球体寸法で処理された。粗材側面毎に4つの異なる圧力(50、150、250、350バール)で試験された。素材の各側面に異なる圧延圧力を用いて同心部分の実験が行なわれた。
【0052】
表1:実験マトリックス
【表1】
【0053】
圧延圧力は流体静水圧力として圧延球体に作用し、球体直径及び表面における球体圧により、有効圧縮応力(球体圧の面積あたりの有効力)に変換される。有効圧縮応力の評価に必要な球体圧の面積を顕微鏡写真から求めることは、当業者によく知られている。次表には、φ6mmの圧延球体の例で決定した有効圧縮応力(面圧)の値が示されている。
【0054】
表2:φ6mmの圧延球体に対する圧延圧力及び有効圧縮応力
【表2】
【0055】
表2には、6mmの球体直径で約250バール以降の圧延圧力で既に1,000MPaを超える有効圧縮応力が生じ得ることが示されている。押圧/焼結されたモリブデンの降伏点と見做される0.2%オフセット降伏応力は、最大で約400MPaである。従って、及ぼされた圧縮応力は明瞭に材料の降伏点を超えている。
【0056】
有効圧縮応力は、球体が材料表面と接触する面積と逆比例する。圧延圧力が約250バール以降上昇すると、有効圧縮応力は、更にごく僅か増大する。
【0057】
次表には、加工済み円形粗材の粗さ測定の結果をまとめた。
表3:粗さ測定結果
【表3】
【0058】
測定距離5.6mmのMahr社の粗さ測定器MarsurfPS1が使用された。すべての値は個別測定であり、測定誤差は典型的には10%の範囲であった。処理前の初期状態は,“0バール”の行で示されており、0.70μmであった。表面の最良の平滑度はφ6mm球体による加工により与えられ(最小Ra0.11μm)、100〜200バールの範囲の圧力が良好と示された。φ13mm球体では、最小粗さはφ6mm球体のものより小さい圧力で達成されたが、しかしφ6mm球体で得られた粗さ以上であった。
【0059】
約200バール以降では、φ13mm球体では粗さは初期状態よりも悪化しており、350バールでは明らかに表面の破損に至っていた。
【0060】
圧延された表面の再結晶状態の検査のため押圧/焼結したMo円形粗材の試料が、それぞれの圧延圧力について採取された。これらの試料は、水素雰囲気中で1,700〜2,200℃の最高温度に加熱された。保持時間は2時間であった。組織変化は光学顕微鏡で横断面に基づいて分析された。ここでは、板状の試料(円形粗材)に対して述べたが、この方法は、ガラス溶融部材の任意の形状に適用可能である。
【0061】
本発明を以下に図面により詳細に説明する。