【実施例1】
【0012】
図1は本発明の実施例1の流出解析システムの説明図である。
図1において、本発明の下水道管路ネットワークの設計システムを含む実施例1の流出解析システムSは、作業者が利用可能な情報処理装置の一例としてのパーソナルコンピュータ11を有する。パーソナルコンピュータ11は、コンピュータ本体12と、表示器の一例としてのディスプレイ13と、入力装置の一例としてのキーボード14およびマウス15と、を有する。
実施例1のパーソナルコンピュータ11は、公衆回線の一例としてのインターネットワーク21に接続されている。パーソナルコンピュータ11は、インターネットワーク21を介して、情報処理装置の一例としての複数のサーバー22との間で情報の送受信が可能になっている。
なお、実施例1では、コンピュータ本体12は、インターネットワーク21に対してケーブルを介して有線接続されているが、これに限定されず、無線通信の一例としての無線LANやBluetooth(登録商標)、携帯電話回線等、任意の通信技術を利用して、無線接続することも可能である。
【0013】
(実施例1のコンピュータの制御部の説明)
図2は実施例1のコンピュータ本体12の機能ブロック図である。
図2において、実施例1のコンピュータ本体12は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
前記コンピュータ本体12には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、図示しないオペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としての下水道管路ネットワークの設計プログラムAP1、アプリケーションプログラムの一例としての流出解析プログラムAP2、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
【0014】
(実施例1のコンピュータ本体12に接続された要素)
コンピュータ本体12には、キーボード14やマウス15等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
また、実施例1のコンピュータ本体12は、ディスプレイ13等の被制御要素へ制御信号を出力している。
【0015】
(コンピュータ本体12の機能)
実施例1の下水道管路ネットワークの設計プログラムAP1は、下記の機能手段(プログラムモジュール)M1〜M6を有する。
【0016】
図3は実施例1の地図データの一例の説明図である。
地図データの記憶手段M1は、台風や集中豪雨等での水の流出を解析する対象の地域1の地図データを記憶する。実施例1では、地図データの一例として、GISデータを記憶する。GISデータは、例えば、「東京都縮尺2500分の1地形図標準データファイル」のような、地形図データに加えて、建物や等高線などの地図情報や地図記号といった土地利用情報も含む地図データといった、従来公知の地図データを使用可能である。また、実施例1の地図データには、地
図21上における陸部と水部との境界である水涯線22を特定する水涯線データ(河道データ)と、地
図21上における橋23aを含む道路23を特定する道路データと、地図上における土地の利用状況(建物、グラウンド、公園、田畑、山林等)を特定する土地利用データと、が含まれている。また、実施例1の地図データには、標高のデータも含まれている。
【0017】
放流管の入力判別手段M2は、キーボード14やマウス15から、放流管26の位置の入力がされたか否かを判別する。実施例1では、放流管26として指定する入力として、ディスプレイ13に表示された地図データにおいて、河道(水涯線22で挟まれた領域)と道路23とを結ぶ線が入力された場合に、入力された位置を、放流管26の位置として記憶する。
【0018】
図4は実施例1の管路ネットワークを構築する一例の説明図であり、
図4Aは道路が抽出された状態の説明図、
図4Bは抽出された連絡部にマンホールが設定された状態の説明図、
図4Cは
図4Bの結果からマンホール間の距離が長い位置にマンホールが追加された場合の説明図、
図4Dは
図4Cの結果から放流管を管路ネットワークに追加した場合の説明図である。
配管手段M3は、道路抽出手段M3aを有し、地図データに基づいて、道路に沿って下水道管を配置する。実施例1の配管手段M3は、道路23に沿って下水道管が埋設されるとの現状に応じて、道路23に沿って下水道管27を配置する。
道路抽出手段M3aは、下水道管27が配置される道路23を抽出する。実施例1では、橋23aの下には下水道管27が配置されないと想定しており、実施例1の道路抽出手段M3aは、橋23aを除いた道路23を抽出する。
【0019】
マンホール設定手段M4は、連絡部抽出手段M4aと、マンホール間距離演算手段M4bと、マンホール追加手段M4cとを有する。マンホール設定手段M4は、
図4に示す配管手段M3で設定された下水道管27の管路網(管路ネットワーク)において、
図4Bに示すように、マンホール28の位置を設定する。すなわち、下水道管27どうしの連絡部(連結部、接続部)を構成すると共に、敷設後は作業者が入って下水道管27の点検や修理等の保守作業が可能なマンホール28の位置を設定する。なお、実施例1のマンホール設定手段M4は、マンホール28を設定する際に、マンホール28(ノード)どうしを接続する下水道管27(リンク)について、一方のノードから他方のノードに向かう方向(矢印)のデータを付与する。
【0020】
連絡部抽出手段M4aは、下水道管27の管路ネットワークにおいて、下水道管27どうしの連絡部を抽出する。実施例1の連絡部抽出手段M4aは、3つ以上の下水道管27が1点で連絡(合流、分岐、交差)する位置を、マンホール28を設置する連絡部として抽出する。また、実施例1の連絡部抽出手段M4aは、下水道管27の延びる方向が、予め設定された角度以上曲がる位置、すなわち、曲がり角も、連絡部として抽出する。なお、工場で製造される下水道管は直線形状なので、道路形状に沿って配管する場合はマンホール部に接合する2つの管渠の角度を調整することになる。本手順で示した曲がり角を判別するための予め設定された角度は、一例として30°を使用することが可能であるが、設計や仕様等に応じて変更可能である。
マンホール間距離演算手段M4bは、連絡部抽出手段M4aで抽出された連絡部にマンホール28を設定した後、マンホール28どうしの距離を演算する。
【0021】
マンホール追加手段M4cは、マンホール間距離演算手段M4bで演算されたマンホール28間の距離が、予め設定された距離以上離れている場合は、
図4Cに示すように、マンホール28′を追加する。実際に下水道管27が敷設される場合に、マンホール28間の距離が長過ぎると、保守作業時に作業者が下水道管27内を移動する距離が長くなったり、換気が不十分になって作業者が呼吸がしづらくなったり、換気不十分で下水道管27内に有毒ガスが滞留しやすくなったり、損傷箇所を補修する場合は損傷箇所までの距離が長くなって補修用の機材の長さが不足したりする等の恐れがある。よって、マンホール28どうしの距離が長過ぎる場合は、マンホール28間の距離が予め設定された距離未満になるように、マンホール28′が追加される。実施例1のマンホール追加手段M4cは、マンホール28間の距離が、一例として、50[m]以上離れている場合、距離が50[m]未満になるように、マンホール28どうしの間の位置にマンホール28′を追加する。なお、実施例1では、追加のマンホール28′は、50[m]以上離れたマンホール28どうしの中間の位置に配置し、追加された中間のマンホール28′と両側のマンホール28との距離が、まだ50[m]以上ある場合は、さらに中間の位置にマンホール28′を配置して、50[m]未満になるまでマンホール28′を追加していく。なお、マンホール28′の追加の仕方は、これに限定されない。例えば、50[m]以上離れたマンホール28どうしにおいて、一方のマンホール28から45[m]の位置にマンホール28′を追加し、追加されたマンホール28′と、他方のマンホール28との距離が50[m]以上ある場合は、追加されたマンホール28′から45[m]の位置にマンホール28′をさらに追加して、他方のマンホールまでの距離が50[m]未満になるまで繰り返すという方法も可能である。
【0022】
勾配設定手段M5は、放流管追加手段M5aと、流動方向の設定手段M5bと、勾配設定順の設定手段M5cと、標高情報取得手段M5dと、管底高設定手段M5eと、を有する。勾配設定手段M5は、河道と道路23との位置関係に基づいて、下水道管27の勾配を設定する。
放流管追加手段M5aは、放流管の入力判別手段M2で入力された放流管26の位置を取得して、
図4Dに示すように下水道管27の管路ネットワークに追加する。
【0023】
図5は実施例1の勾配設定の一例の説明図であり、
図5Aは
図4Dの結果において流動方向が設定された場合の説明図、
図5Bは
図5Aの結果から勾配設定順が設定された場合の説明図である。
流動方向の設定手段M5bは、下水道管27を下水が流れる方向(流動方向)を設定する。実施例1の流動方向の設定手段M5bは、放流管26の河道側の端(ノード)を最下流位置26aとして、最下流位置に向かう方向を流動方向に設定する。なお、実施例1では、マンホール設定手段M4が設定した一方のノードから他方のノードに向かう方向データを利用し、流動方向と方向データが一致している場合は方向データをそのまま使用し、一致していない場合は逆向きの方向データに更新する。
【0024】
勾配設定順の設定手段M5cは、下水道管27の勾配を設定する順番を設定する。実施例1の勾配設定順の設定手段M5cは、最下流の放流管26から始めて、流動方向の下流側から上流側に向けて、各下水道管27に順番を設定する。実施例1では、一例として、放流管26の順番を1番に設定し、放流管26の上流側のノードに接続されたリンク(下水道管27)が複数存在する場合は、ノードを中心として真北から反時計回りに2番、3番、…と順番を付与し、2番のリンクの上流側のノードを中心として真北から反時計回りにリンクに順番を付与、3番のリンクの上流側のノードを中心として真北から反時計回りにリンクに順番を付与、…、と繰り返し、全てのリンクに順番を付与する処理を行う。
標高情報取得手段M5dは、地図データから標高の情報を取得する。実施例1の標高情報取得手段M5dは、マンホール28の地表面の標高や最下流位置26aの河床高を取得する。すなわち、各ノードの標高を取得する。
【0025】
図6は実施例1の管底高の設定の説明図である。
管底高設定手段M5eは、各下水道管27の管底高を設定する。
図6において、実施例1の管底高設定手段M5eは、まず、放流管26の最下流位置26aの管底高を、以下の式(1)で設定する。
(管底高)=(河床高)+0.5[m] …式(1)
そして、放流管26の上流側のノード(マンホール28)の管底高を、以下の式(2)で演算する。なお、各下水道管27においても、上流側のノードの管底高を、下流側のノードの管底高(すなわち、下流側の下水道管27における上流側のノードの管底高)を使用して、式(2)で演算する。
(上流ノードの管底高)=(下流ノードの管底高)+(管の長さ)×(勾配設定値:1/200) …式(2)
なお、勾配設定値は、実施例1では、一例として、1/200に設定されているが、要求される傾斜や安全度、法令等に応じて任意に変更可能である。
そして、計算された上流側ノードの管底高が、以下の式(3)を満足するか否かを判別する。
1[m]≦(マンホール28の地表面の標高)−(上流ノードの管底高)≦5[m] …式(3)
すなわち、実施例1の式(3)では、マンホール28の深さが1m以上、5m以下であるか否かを判別していることとなる。式(3)を満足する場合、管26,27の上流ノードの管底高として、演算された管底高を使用する。式(3)を満足しない場合、5[m]を超えると、マンホール28が深すぎるので、上流ノードの管底高を、(上流ノードの管底高)=(標高)−5[m]に設定する。一方、1[m]未満の場合、(マンホールの地表面の標高)−1[m]>(下流ノードの管底高)であれば、(上流ノードの管底高)=(標高)−1[m]に設定する。(マンホールの地表面の標高)−1[m]<(下流ノードの管底高)の場合は、エラー終了して、勾配設定値あるいは放流管26の位置を再設定するように促す。
【0026】
このようにして、実施例1の勾配設定手段M5は、各管26,27について、下流ノード(最下流位置26a、下流側のマンホール28)と、上流ノード(上流側のマンホール28)の管底高を演算することで、結果として各管26,27の勾配(上流ノードと下流ノードとの高さの差)を設定している。すなわち、河道と道路との位置関係、すなわち、実施例1では、河道と道路23を結ぶ放流管26の位置や、道路23に沿った下水道管27やマンホール28の位置、マンホール28どうしでどちらが下流かの関係、各位置の標高、といった位置関係に基づいて、実施例1の勾配設定手段M5は、管26,27の勾配を設定する。
【0027】
図7は実施例1の管径の設定順の説明図である。
管径設定手段M6は、管径設定順の設定手段M6aと、排水面積の演算手段M6bと、流出係数の演算手段M6cと、最大管路延長の演算手段M6dと、管径演算手段M6eと、管路直径の調整手段M6fと、を有する。管径設定手段M6は、道路23に隣接する土地の利用状況に基づいて、下水道管27の管径を設定する。
管径設定順の設定手段M6aは、各管26,27の管径を設定する順番を設定する。実施例1の管径設定順の設定手段M6aは、最下流位置26aからの距離が遠い下水道管27から順に管径設定順を設定する。すなわち、勾配設定順とは逆に、管路ネットワークにおいて最上流の下水道管27から、下流側の下水道管27に向けて管径設定順を設定する。実施例1では、一例として、最下流位置26aから各管26,27の上流側ノード(マンホール28)までの管26,27の合計の距離の長い下水道管27から順に管径の設定順を設定する。
【0028】
図8は実施例1の排水面積を演算する際の一例の説明図である。
なお、
図8において、説明をわかりやすくするため、地表面の道路23や建物等は一部のみ表示している。
排水面積の演算手段M6bは、各マンホール28が地表面を流れる水を排水する排水面積Aを演算する。
図8において、実施例1の排水面積の演算手段M6bは、各マンホール28を点(ノード)とする点ボロノイ分割法で排水面積を演算する。ここで、点ボロノイ分割法は、ティーセン法とも呼ばれる公知の領域分割法であり、複数の点(マンホール28)に対して、点どうしを結ぶ線分の垂直二等分線をその点(マンホール28)の支配領域(排水領域31)の境界とする分割法である。したがって、実施例1では、点ボロノイ分割法で、マンホール28で排水される領域31ごとに、地図上で土地が分割される。そして、実施例1の排水面積の演算手段M6bは、マンホール28ごとに、点ボロノイ分割法で排水領域31を導出して、排水領域31の面積Aを演算する。
【0029】
流出係数の演算手段M6cは、各排水領域31において、降った雨のうちどのくらいの割合が土地に浸透せずに流出するか(マンホール28に流れこむか)を演算するための流出係数Cを演算する。実施例1の流出係数の演算手段M6cは、排水領域31において、道路や建物、公園やグラウンド、田畑等の土地の利用状況に基づいて、流出係数Cを演算する。実施例1の流出係数の演算手段M6cは、一例として、道路23の流出係数C1=0.90、建物の流出係数C2=0.95、その他の流出係数C3=0.30を使用して、排水領域31において、道路23の面積比率A1、建物の面積比率A2、その他の面積比率A3から、加重平均(=C1×A1+C2×A2+C3×A3)を、その排水領域31の流出係数Cとして演算する。
【0030】
最大管路延長の演算手段M6dは、各マンホール28に対して、そのマンホール28に到達する雨水の最上流のマンホール28からの下水道管27の総延長である最大管路延長Lを演算する。
図8において、マンホール28aについて、最大管路延長Lを導出する場合、マンホール28b,28c,28dまでの下水道管27の総延長を演算して、最長の下水道管27の総延長が、マンホール28cであった場合、マンホール28aからマンホール28cまでの総延長を、最大管路延長Lとする。すなわち、最大管路延長の演算手段M6dは、そのマンホール28aに、下水道管27の管路ネットワークを通じて最も長い時間をかけて到達する雨水の流下距離を導出している。
【0031】
管径演算手段M6eは、各管26,27の管径を演算する。実施例1の管径演算手段M6eは、管径(管路の直径)をD[m]とし、管内流量をQ[m
3/s]とし、管内流速をV[m/s]とした場合に、以下の式(4)に基づいて、管径Dを導出する。
Q=(πD
2V)/4 …式(4)
なお、実施例1では、管内流速Vとして、簡易的に管内平均流速V=1.2[m/s]を使用するが、平均流速を使用せず、管26,27の勾配に応じて流速をその都度設定することも可能である。また、円形管の流下能力の算定式(流量=断面×流速、断面=π(D/2)
2)に基づいて、式(4)を使用している。
そして、実施例1では、式(4)の管内流量Qとして、計画降雨時のピーク流量Qp[m
3/s]を使用する。ここで、計画降雨時のピーク流量Qpは、流出係数をCとし、降雨強度をI[mm/h]とし、排水面積をA[ha]とした場合に、ピーク流量Qpの合理式である以下の式(5)に基づいて導出される。
Qp=(1/360)・C・I・A …式(5)
【0032】
ここで、降雨強度Iは、都市ごとに計算式が異なるが、例えば、東京都では、流達時間をt[min]とした場合に、以下の算定式(6)で導出される。
I=5000/(t+40) …式(6)
なお、式(6)において、右辺の分子の5000は、想定される雨量(確率降雨)に応じて変わる数値であり、10年に1度の豪雨とか、100年に1度の豪雨といった想定される雨量によって、数値は変動する。
また、地表(排水領域31)に降った雨がマンホール28に到達するまでの流集時間をt1[min]とし、上流の下水道管27からその下水道管27まで雨水が流れ下る流下時間をt2[min]とし、最大管路延長をL[m]とし、管内平均流速をV[m/s]とした場合に、東京都では、以下の式(7−1)、(7−2)、(7−3)で流達時間t[min]が導出される。
t=t1+t2 …式(7−1)
t1=5 …式(7−2)
t2=L/(60・V) …式(7−3)
なお、管内平均流速Vは、上述のように、V=1.2[m/s]を使用する。
したがって、管径演算手段M6eは、排水面積の演算手段M6b、流出係数の演算手段M6c、最大管路延長の演算手段M6dで演算された各数値A,C,Lを使用して、式(4)〜式(7−3)から、管径D[m]を導出する。
【0033】
管路直径の調整手段M6fは、管径演算手段M6eで演算された管径に基づいて、予め設定された管径に調整する。実施例1の管路直径の調整手段M6fは、一例として、管径演算手段M6eでD=1.7と演算され、下水道管の径が予め設定された規格として、D=1.5[m]、2[m]、3[m]といったものしか現実に存在しない場合に、演算された管径D(=1.7[m])以上の大きさ且つ最小の管径であるD=2[m]に変更(調整)する。
したがって、実施例1の管径設定手段M6は、各管26,27の連絡部(マンホール28)に基づいて、管26,27で排水される領域31毎に土地を分割し、分割された排水領域31ごとに設定された仮想雨水量に基づいて、管径を設定している。
【0034】
流出解析プログラムAP2は、下水道管路ネットワークの設計プログラムAP1で作成された下水道管路ネットワークのデータに基づいて、降雨時の水の流れや、河川の氾濫といった水の流出に関する解析を行う。なお、流出解析プログラムAP2は、従来公知であり、例えば、特開2011−75386号公報や特開2016−29533号公報、特開2015−129689号公報等に記載されているように種々のプログラムを使用することが可能である。
【0035】
(実施例1の流れ図の説明)
次に、実施例1のコンピュータ本体12における制御の流れを流れ図、いわゆるフローチャートを使用して説明する。
【0036】
(コンピュータ本体12における下水道管路ネットワークの設計処理のフローチャートの説明)
図9は実施例1の下水道管路ネットワークの設計処理のフローチャートの説明図である。
図9のフローチャートの各ステップSTの処理は、コンピュータ本体12に記憶されたプログラムに従って行われる。また、この処理はコンピュータ本体12の他の各種処理と並行して実行される。
図9に示すフローチャートは、下水道管路ネットワークの設計プログラムAP1が起動された場合に開始される。
【0037】
図9のST1において、放流管26の位置の入力がされた否かを判別する。イエス(Y)の場合はST2に進み、ノー(N)の場合はST1を繰り返す。
ST2において、入力された放流管26の位置を記憶する。そして、ST3に進む。
ST3において、地図データ(GISデータ)から道路23を抽出するそして、ST4に進む。
ST4において、道路23に沿って下水道管27を配置する。そして、ST5に進む。
ST5において、下水道管の連絡部を抽出する。そして、ST6に進む。
ST6において、連絡部にマンホール28を設定する。そして、ST7に進む。
ST7において、マンホール28間の管路長を演算する。そして、ST8に進む。
ST8において、マンホール間の管路長が設定値(50[m])以上の下水道管27に対して、マンホール28間の中間位置にマンホール28′を追加する。そして、ST9に進む。
【0038】
ST9において、放流管26の位置を取得する。そして、ST10に進む。
ST10において、マンホール28をノード、下水道管27をリンクとする管路ネットワークに放流管26のリンクを追加する。そして、ST11に進む。
ST11において、放流管26の河川側の端(最下流位置26a)から河川側下流とする流動方向を設定する。そして、ST12に進む。
ST12において、最下流位置26aに近いリンク(管26,27)から順に勾配設定順を設定する。そして、ST13に進む。
ST13において、勾配設定順に基づいて、下流側のリンク(管26,27)から管底高、勾配を設定する。そして、ST14に進む。
【0039】
ST14において、最下流位置26aからの距離が遠いリンク(管26,27)から順に管径設定順を設定する。そして、ST15に進む。
ST15において、管径設定順に基づいて、上流側のリンク(管26,27)から順に、排水面積A、流出係数C、最大管路延長L、降雨強度I、ピーク流量Qp、管径Dを演算する。そして、ST16に進む。
ST16において、演算された管径Dを規格の管径に調整する。そして、ST17に進む。
ST17において、管26,27の勾配(管底高)、管径Dが設定された管路ネットワークデータを出力する。そして、ST1に戻る。
【0040】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の流出解析システムSでは、下水道管路ネットワークの設計プログラムAP1が起動されると、GISデータに基づいて、道路23が抽出され、道路23に沿って下水道管27が配置される。そして、下水道管27の管路ネットワークに対して、交差点や曲がり角にマンホール28が設定される。次に、管路ネットワークに対して、河道に接続される放流管26の河道側の端を最下流位置26aとして、下流側から順に各管26,27の管底高、勾配が設定される。次に、管路ネットワークに対して、上流側から順に各管26,27の管径が設定される。
したがって、実施例1の下水道管路ネットワークの設計プログラムAP1では、地図データから、降雨時に雨水が流れる下水道管27の管路ネットワークが自動的に生成される。すなわち、地図データから地域に応じた下水道管27の管径Dや傾斜(勾配)が自動的に設定された管路ネットワークを構築できる。そして、この生成された管路ネットワークを使用して、洪水解析を行うことができ、集中豪雨やゲリラ豪雨、長雨といった各種の気象条件に対し、洪水や浸水地域の予測、解析、シミュレーションを行うことができる。
【0041】
よって、実施例1の流出解析システムSでは、下水道管路の管路ネットワークが自動的に生成できるので、自治体等の下水道管理者が管理する電子データを使用するための許可を得る手続きを行う面倒がなくなり、許可が得られなかったりする問題の発生も防止される。また、地図から手動で電子化する場合に比べて、手間や作業時間の負担が大幅に軽減できる。
また、実施例1の流出解析システム(下水道管路ネットワークの設計システム)Sで構築された管路ネットワークは、下水道が敷設されていない地域に対しても自動構築することができる。したがって、下水道が敷設されていない地域に対して、勾配や管径において洪水対策が考慮された下水道管の管路ネットワークを提案することもできる。
【0042】
さらに、実施例1で構築された管路ネットワークでは、洪水を考慮して勾配や管径が設定されており、流出解析において、降雨時のシミュレーションも可能である。現在敷設されている下水道管の管路ネットワークでは、古い管路ほど、将来的な気候変動(ゲリラ豪雨等)と下水道管の位置や管径、勾配について検証が十分に行われていない。また、管路が敷設された後、地域の開発に伴い、土地の利用状況が変化している地域も存在する。したがって、現在敷設されている管路では、大雨時に排水が不十分で浸水が発生する恐れがある場合がある。これらに対して、実施例1の管路ネットワークでは、地域の地形や土地の利用状況(住宅地、公園、学校、グラウンド、田畑等)に応じて、管径や傾斜が設定されると共に、シミュレーション結果に応じて、管径や傾斜を変更する(例えば、式(6)や式(7)の数値を変更する等)ことも可能である。よって、現在敷設されている管路ネットワークと対比することで、現在敷設されている管路ネットワークの問題点を把握することにも貢献する。また、実施例1で構築された管路ネットワークと、既に敷設されている管路ネットワークとの差異から、既設の管路ネットワークにおいて敷設すべき配管や必要性の低い配管を特定することも期待できる。したがって、老朽化した管路ネットワークを更新する場合や、現在敷設されている管路ネットワークを洪水が発生しにくくなるように改良する際に利用することも可能であり、下水道管27の新設、更新、保守等の計画を立てる際にも貢献できる。
【0043】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H04)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、下水道管路ネットワークの設計プログラムAP1や流出解析プログラムAP2は、1つのパーソナルコンピュータ11に組み込まれた形態を例示したがこれに限定されない。すなわち、1つの情報端末で集中処理する構成に限定されず、各手段M1〜M6を、インターネットワークで接続された複数の情報端末に配置して、分散処理を行う構成とすることも可能である。例えば、地図データの記憶手段M1は、官公庁のサーバにあるものを利用したり、流出解析プログラムAP2は、各研究機関の端末に組み込む等、任意の変更が可能である。
【0044】
(H02)前記実施例において、例示した具体的な数値や土地の利用状況等は、適用される地図データの地域(都市部や地方部等)や縮尺、要求される解析の精度等に応じて、適宜変更可能である。
(H03)前記実施例において、放流管26の位置を手動で設定する構成を例示したがこれに限定されない。一例として、管路ネットワークが生成された状態で、各マンホール28の中から最も標高の低いマンホール28から河道に向けて放流管26を自動的に生成するといった方法も考えられる。
(H04)前記実施例において、下水道管の管路ネットワークとして、雨水と生活排水とを別々に流す分流式にも、雨水と生活排水を一緒に流す合流式にも適用可能である。