特許第6830304号(P6830304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6830304フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物の精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830304
(24)【登録日】2021年1月28日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/44 20060101AFI20210208BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   C07C41/44
   C07C43/23 A
   C07C43/23 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-217962(P2016-217962)
(22)【出願日】2016年11月8日
(65)【公開番号】特開2018-76245(P2018-76245A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘行
【審査官】 高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−316963(JP,A)
【文献】 特開2009−234998(JP,A)
【文献】 特開2001−206863(JP,A)
【文献】 特開2004−137201(JP,A)
【文献】 特開2009−256342(JP,A)
【文献】 特開2004−091414(JP,A)
【文献】 特開2017−141182(JP,A)
【文献】 実験化学講座(続)2 分離と精製,丸善株式会社,1967年 1月25日,p.159-162,184-193
【文献】 平山令明編著,有機化合物結晶作製ハンドブック −原理とノウハウ−,2008年,p.17-23,37-40,45-51,57-65
【文献】 平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック −原理とノウハウ−,丸善株式会社,2008年 7月25日,p.57-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、分岐を有しても良い脂肪族鎖状である、炭化水素類、ケトン類、アルコール類、エーテル類、ニトリル類及びグリコールエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物とを、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶を、前記有機化合物に完全に溶解させることなく混合させる工程を含む、下記式 (1)で表されるジヒドロキシ化合物の精製方法。
【請求項2】
混合させる温度が65℃以上である、請求項1記載のジヒドロキシ化合物の精製方法。
【請求項3】
更に、混合後、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶と有機化合物とを分
離する工程を含む、請求項1または2記載のジヒドロキシ化合物の精製方法。
【請求項4】
更に、分離された結晶を乾燥する工程を含む、請求項3記載のジヒドロキシ化合物の精
製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズや光学フィルムに代表される光学部材を構成する樹脂(光学樹脂)を形成するモノマーとして好適で、加工性、生産性に優れた新規なフルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物を原料モノマーとするポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタン、エポキシなどの樹脂材料は、光学特性、耐熱性等に優れることから、近年、光学レンズや光学シートなどの新たな光学材料として注目されている。この中でも下記式(1)
【0003】
【化1】
で表される構造を有するジヒドロキシ化合物は、該ジヒドロキシ化合物から製造される樹脂が屈折率等の光学特性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、電気特性、機械特性、溶解性等の諸特性に優れることから、特に光学樹脂の原材料として着目されている(例えば特許文献1〜4)。
【0004】
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の製造方法としては、塩基触媒存在下、下記式(2)
【0005】
【化2】
で表されるフェノール化合物とエチレンオキサイドとを反応させる方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、該方法で得られる上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物はその純度が低く、エチレンオキサイドが3分子以上付加した化合物(以下、多量体と称することもある)が多量に副生し、目的とする上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を高純度で得ることは困難である。
【0006】
一方、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の改良製法として、酸触媒及びチオール類存在下、下記式(3)
【0007】
【化3】
で表されるアルコールと9−フルオレノンとを反応させ上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を得る方法が提案され(特許文献3)、また、該製法による着色の問題を改善する手法として、酸触媒及び9―フルオレノン類100重量部に対して3重量部以上のチオール類存在下、上記式(3)で表されるアルコールと9―フルオレノンとを反応させ上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を得る方法が提案されている(特許文献4)。
【0008】
しかしながら、該方法でもその着色改善は十分ではなく、また、反応時に多量のチオール類を必要とすることから、生成物からチオール類を完全に除去することが困難であり、該ジヒドロキシ化合物から樹脂を製造する際、チオール類に由来する硫黄分が樹脂の更なる着色を引き起こすといった問題がある。
【0009】
また、本願発明者らが上記特許文献2及び4に記載される方法を追試したところ、得られる上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は、反応や反応後の取り出し操作(晶析操作)で使用した溶媒(芳香族炭化水素類)を取り込み、包接体となることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07―149881号公報
【特許文献2】特開2001−122828号公報
【特許文献3】特開2001−206863号公報
【特許文献4】特開2009−256342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶から、包接された化合物(ゲスト分子)を除去又は低減させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と特定の有機化合物とを、該結晶を完全に溶解させることなく混合させることによって、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶から、ゲスト分子を除去又は低減させることが可能であることを見出した。具体的には以下の発明を含む。
【0013】
〔1〕
下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、分岐を有しても良い脂肪族鎖状である、炭化水素類、ケトン類、アルコール類、エーテル類、ニトリル類及びグリコールエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物とを、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶が前記有機化合物に完全に溶解することなく混合させる工程を含む、下記式 (1)で表されるジヒドロキシ化合物の精製方法。

【0014】
〔2〕
混合させる温度が65℃以上である、〔1〕記載のジヒドロキシ化合物の精製方法。
【0015】
〔3〕
更に、混合後、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶と有機化合物とを分
離する工程を含む、〔1〕または〔2〕記載のジヒドロキシ化合物の精製方法。
【0016】
〔4〕
更に、分離された結晶を乾燥する工程を含む、〔3〕記載のジヒドロキシ化合物の精
製方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶からゲスト分子を除去又は低減させることが可能となる。ゲスト分子を有する、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶を樹脂原料として使用すると、該結晶の溶融中に包接されていたゲスト分子が放出されるため、放出されたゲスト分子を安全に系外へと除去する必要があったり、包接されているゲスト分子の影響で、得られる樹脂の品質が一定とならない等の問題を引き起こすことがある。更には、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶を保管や輸送する際、ゲスト分子に起因する引火可能性等を考慮する必要があり、より厳密な防災上の対策も必要となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、後述する特定の有機化合物とを完全に溶解させることなく混合させることにより実施される。本発明にて精製に供される上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶は、例えば、前述した特許文献に記載される製造方法にて製造されたものを使用することができる。
【0019】
包接体であるか否かは、例えば、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定)分析、X線回折、NMR分析といった方法の他、得られた結晶を、ゲスト分子の沸点以上となる条件で重量変化がない程度に十分に乾燥させた後、得られた結晶を溶媒に溶解させ、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用いて分析し、ゲスト分子に相当するピークがあるか否かで判断することができる。また、前記TG−DTA分析を用いる方法では、測定サンプルを一定の速度で昇温した際の重量変化と、それに伴う吸熱・発熱挙動を測定でき、重量変化と吸熱(又は発熱)とが同時に観測された時点で、ゲスト分子が放出されたことを判断することもできる。
【0020】
本発明において、「上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶が後述する有機化合物に完全に溶解することなく」とは、少なくとも本発明の精製方法を実施する間、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の少なくとも一部が結晶として存在することを意味する。本発明の精製方法を実施する際、結晶が後述する有機化合物に完全に溶解すると、その後冷却等により上記式(1)で表されるアルコール化合物の結晶を析出させてもゲスト分子の含量が低減されない場合がある。
【0021】
本発明において、「上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と後述する有機化合物とを混合させる」とは、後述する有機化合物と上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶とが接触できるような状態とすることを言い、具体的に例えば、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と、後述する有機化合物の混合物を、該混合物が撹拌できる程度に容器に入れ、ゲスト分子が所望の含量まで減少するまで一定時間撹拌をする操作が挙げられる。ゲスト分子の含量は、混合物中の上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の一部を分離し、分離した結晶を、後述する条件にて、ガスクロマトグラフィーを用いて分析することにより確認可能である。また、混合させる結晶は結晶以外の物質を含んでいても良く、例えば、該結晶を製造する際に用いた溶媒等と該結晶とのスラリー状のものを本発明に用いることも可能である。
【0022】
本発明で用いられる有機化合物としては、分岐を有しても良い脂肪族鎖状である、炭化水素類、ケトン類、アルコール類、エーテル類、ニトリル類及びグリコールエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物が挙げられる。分岐を有しても良い脂肪族鎖状である炭化水素類として例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等、炭素数6以上の液状の炭化水素類や、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、ジブロモエタン等の含ハロゲン炭化水素類が挙げられる。分岐を有しても良い脂肪族鎖状であるケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。分岐を有しても良い脂肪族鎖状であるアルコール類として例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等が挙げられる。分岐を有しても良い脂肪族鎖状であるエーテル類として例えばジブチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等が挙げられる。分岐を有しても良い脂肪族鎖状であるニトリル類として例えばアセトニトリル、ブチロニトリル等が挙げられる。分岐を有しても良い脂肪族鎖状であるグリコールエーテル類として例えばエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテルが挙げられる。これら有機化合物の中でもヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ジブチルエーテルが安価であるので好適に用いられる。これら有機化合物は1種、あるいは必要に応じ2種以上混合しても良いし、これら有機化合物の他、他の有機化合物を含んでいても良い。本発明における前記有機化合物の使用量は、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と後述する有機化合物とが混合でき、かつ、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶が本発明の精製方法を実施している間、完全に溶解しない量であれば良く、例えば下限量は上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶1重量部に対し0.1重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、更に好ましくは1重量部以上であり、また上限量は上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の前記有機化合物に対する溶解度によっても異なるが、通常30重量部以下、好ましくは20重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。
【0023】
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶と前述した有機化合物とを混合させる温度は特に限定されないが、ゲスト分子をより速く減少させる為には、65℃以上、好ましくは80℃以上、また、前述した有機化合物の沸点以下とすることが好ましい。
【0024】
前述した本発明の精製方法を実施した後、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶と本発明で用いた有機化合物とを分離することが好ましい。分離する方法として例えば、ろ過等の固液分離操作や、前記混合物を本発明で用いた有機化合物の沸点以上の温度とすることで、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶から本発明で用いた有機化合物を除去する方法等が挙げられる。
【0025】
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶と本発明で用いた有機化合物とを分離した後、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶に付着した有機化合物を除去するため、得られた結晶を乾燥しても良い。具体的に例えば、分離して得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を風乾したり、該結晶を本発明で用いた有機化合物の沸点以上の温度で一定時間乾燥させる方法が挙げられる。
【0026】
こうして得られた本発明の結晶は必要に応じ、吸着、水蒸気蒸留、再結晶などの通常の精製操作を繰り返し実施しても良い。また、結晶中に芳香族炭化水素等のゲスト分子を包接していない為、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタン、エポキシなどの樹脂材料として好適に用いられることは勿論のこと、包接しているゲスト分子が問題となる分野、例えば医農薬用の原料(中間体)としても好適に用いることができる。
【0027】
なお、本発明の精製法は、前述した公知の方法にて製造される芳香族炭化水素類をゲスト化合物として取り込んだ、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶のみならず、後述する実施例等でも示す通り、芳香族炭化水素類以外の特定の化合物(例えば環状ケトン類、エステル類)をゲスト化合物として取り込んだ包接体に対しても適用可能である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。例中、各種測定は下記の方法で実施した。
【0029】
(1)HPLC純度
上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体の結晶に含まれる、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物のHPLC純度は下記条件に基づく液体クロマトグラフィーの面積百分率である(但し、ゲスト分子由来のピークは除した修正面百値に基づく)。
装置 :島津製作所製 LC−2010A、
カラム:SUMIPAX ODS A−211(5μm、4.6mmφ×250mm)、
移動相:純水/アセトニトリル(アセトニトリル30%→100%)、
流量 :1.0ml/min、カラム温度:40℃、検出波長:UV 254nm。
【0030】
(2)ゲスト分子の含量及び精製で用いた有機化合物含量の分析
ゲスト分子の含量、及び精製にて用いた有機化合物の含量については下記条件に基づくガスクロマトグラフィーにより定量を行った。
装置 :島津製作所製 GC−2014、
カラム:DB−1(0.25μm、0.25mmID×30m)、
昇温:40℃(10分保持)→20℃/min→300℃(20分保持)、
Inj温度:200℃、Det温度:300℃、スプリット比 1:10、
キャリアー:窒素55.0kPa(一定)、
サンプル調製方法:十分に乾燥させた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶100mgを10mlメスフラスコに量り取り、そこへあらかじめ調製していた1,2−ジメトキシエタンのアセトニトリル溶液(1,2−ジメトキシエタン400mgをアセトニトリル200mlに溶解したもの)をホールピペットで5ml加え、アセトニトリルでメスアップさせ溶解したものを試料溶液とした。
一方、含量を測定したい化合物10mgを10mlメスフラスコに量り取り、上述と同量の1,2−ジメトキシエタンのアセトニトリル溶液を加え、アセトニトリルでメスアップさせ溶解したものを標準溶液とした。
試料溶液及び標準溶液を上述の条件にて分析し、得られた各成分のピーク面積をデータ処理装置で求め、各成分の含量(重量%)を算出した(内部標準法)。
なお、精製を実施する際に有機化合物としてアセトニトリルを用いた場合、上記の試料溶液および標準溶液の作成の際にアセトニトリルの代わりにトリエチレングリコールジメチルエーテルを用いた。
【0031】
<比較例1>
攪拌器、加熱冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、9,9’−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン120.0g(0.240mol)、エチレンカーボネート48.3g(0.549mol)、炭酸カリウム2.4g(0.018mol)およびトルエン120.0gを仕込み、110℃で11時間撹拌し反応液を得た。
得られた反応液を85℃まで冷却した後、水204gを加え、80〜85℃で30分撹拌し、静置後、水層を分離した。同じ操作を3回繰り返した後、得られた有機溶媒層をディーンスターク装置を用いて還流下で脱水することで晶析溶液を得た。
得られた晶析溶液を冷却した所、65℃で結晶が析出し、結晶析出後、同温度で2時間撹拌した。更に26℃まで冷却した後、濾過し、結晶を得た。得られた結晶を、12時間、内圧1.1kPaの減圧下、110℃〜112℃で乾燥した。
【0032】
得られた結晶を上述した方法により分析した所、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、トルエンをゲスト分子とする包接体であることを確認した。以下に分析結果を示す。
得られた結晶の重さ:118.2g
HPLC純度:97.2%
トルエン(ゲスト分子)含量:4.83重量%
【0033】
<比較例2>
攪拌器、加熱冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、9,9’−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン90.0g(0.180mol)、エチレンカーボネート36.0g(0.408mol)、炭酸カリウム2.1g(0.015mol)、およびシクロヘキサノン90.0gを仕込み、140℃で7時間撹拌し反応液を得た。
得られた反応液を90℃まで冷却した後、シクロヘキサノン69g、ノルマルヘプタン81gを加え、有機溶媒層を90℃に保ちながら洗浄水が中性となるまで水洗を行った。水洗後、得られた有機溶媒層をディーンスターク装置を用いて還流下で脱水することで、晶析溶液を得た。
その後、得られた晶析溶液を70℃まで冷却し、70℃で1時間保温することで結晶を析出させた後、同温度で2時間撹拌した。撹拌後、更に19℃まで冷却した後、濾過し、結晶を得た。 得られた結晶を内圧1.1kPaの減圧下、90℃で3時間乾燥した。
【0034】
得られた結晶を上述した方法により分析した所、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、シクロヘキサノンをゲスト分子とする包接体であることを確認した。以下に分析結果を示す。
得られた結晶の重さ:99.6g
HPLC純度:97.5%
シクロヘキサノン(ゲスト分子)含量:15.3重量%
【0035】
<実施例1>
攪拌器、加熱冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、比較例1で得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、トルエンをゲスト分子とする包接体10g、メタノール70gを仕込んだ後、25℃で3時間撹拌を行った。撹拌中、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は完全に溶解していなかった。
撹拌後、25℃でろ過し、結晶を得た。得られた結晶を内圧0.13kPaの減圧下、90℃で3時間乾燥し、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。
【0036】
得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:9.2g(回収率92%)
トルエン(ゲスト分子)含量:0.01重量%
メタノール(精製で用いた有機化合物)含量:0.10重量%
【0037】
<実施例2>
撹拌温度を68℃(メタノール還流下)、メタノールの使用量を50gとする以外は実施例1と同様に実施して上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:8.6g(回収率86%)
トルエン(ゲスト分子)含量:0.01重量%
メタノール(精製で用いた有機化合物)含量:0.08重量%
【0038】
<実施例3>
メタノールをオクタノールに変え、オクタノールの使用量を20g、撹拌温度を100℃とする以外は実施例2と同様に実施して上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:6.3g(回収率63%)
トルエン(ゲスト分子)含量:0.01重量%
オクタノール(精製で用いた有機化合物)含量:0.07重量%
【0039】
<実施例4>
撹拌子を入れた試験管に、比較例1で得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、トルエンをゲスト分子とする包接体1g、ジイソブチルケトンを5g仕込んだ後、27℃で48時間撹拌を行った。撹拌中、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は完全に溶解していなかった。
その後、結晶をろ過し、得られた結晶をろ紙状で十分乾燥させた後、得られた結晶をガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析値を表1に示す。
【0040】
<実施例5〜21>
用いる有機化合物、使用量、撹拌温度、撹拌時間を表1〜3に示すものに変更した以外は実施例4と同様の方法にて実施し、得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶をガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析値を表1〜3に示す。なお、すべての実施例において、撹拌中、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は完全に溶解していなかった。
【0041】
<比較例3〜6>
用いる有機化合物、使用量、撹拌温度、撹拌時間を表4に示すものに変更した以外は実施例4と同様の方法にて実施し、得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶をガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析値を表4に示す。なお、すべての比較例において、撹拌中、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は完全に溶解していなかった。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
上記結果から明らかな通り、分岐を有しても良い脂肪族鎖状である、炭化水素類、ケトン類、アルコール類、エーテル類、ニトリル類及びグリコールエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を用いて上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、トルエンをゲスト分子とする包接体を精製した場合、包接されていたトルエンが減少、あるいは殆ど検出されなくなるまで除去可能であることが判明した。
【0047】
一方、分岐を有しても良い脂肪族鎖状である、炭化水素類、ケトン類、アルコール類、エーテル類、ニトリル類及びグリコールエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物以外の有機化合物を用いた場合、包接されていたトルエンに変わり、用いた有機化合物が包接され、新たな包接体となることが判明した。
【0048】
<実施例22>
攪拌器、加熱冷却器、および温度計を備えたガラス製反応器に、比較例2で得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、シクロヘキサノンをゲスト分子とする包接体10g、メタノール50gを仕込んだ後、25℃で3時間撹拌を行った。撹拌中、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は完全に溶解していなかった。
撹拌後、25℃でろ過し、結晶を得た。得られた結晶を内圧0.13kPaの減圧下、90℃で3時間乾燥し、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。
【0049】
得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:8.1g(回収率81%)
シクロヘキサノン(ゲスト分子)含量:1.56重量%
メタノール(精製で用いた有機化合物)含量:0.10重量%
【0050】
<実施例23>
撹拌温度を68℃(メタノール還流下)とする以外は実施例22と同様に実施して上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶を得た。得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶の各分析値は以下の通り。
得られた結晶の重さ:5.1g(回収率51%)
シクロヘキサノン(ゲスト分子)含量:0.53重量%
メタノール(精製で用いた有機化合物)含量:0.10重量%
【0051】
<実施例24>
撹拌子を入れた試験管に、比較例2で得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とし、シクロヘキサノンをゲスト分子とする包接体1g、ジイソブチルケトンを5g仕込んだ後、27℃で72時間撹拌を行った。撹拌中、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は完全に溶解しなかった。
その後、ろ過し、得られた結晶をろ紙状で十分乾燥させた後、得られた結晶をガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析値を表5に示す。
【0052】
<実施例25〜29>
用いる有機化合物、使用量、撹拌温度、撹拌時間を表5に示すものに変更した以外は実施例24と同様の方法にて実施し、得られた上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶をガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析値を表1〜3に示す。なお、すべての実施例において、撹拌中、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の結晶は完全に溶解していなかった。
【0053】
【表5】
【0054】
トルエンを包接する、上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物をホスト分子とする包接体と同様、シクロヘキサノンを包接した結晶であっても、分岐を有しても良い脂肪族鎖状である、炭化水素類、ケトン類、アルコール類、エーテル類、ニトリル類及びグリコールエーテル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を用いると、包接されていたシクロヘキサノンが減少、あるいは殆ど検出されなくなるまで除去可能であることが判明した。