特許第6830318号(P6830318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6830318蓄電素子管理装置、蓄電素子モジュール、車両および蓄電素子管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830318
(24)【登録日】2021年1月28日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】蓄電素子管理装置、蓄電素子モジュール、車両および蓄電素子管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/3842 20190101AFI20210208BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20210208BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20210208BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   G01R31/3842
   G01R31/388
   H01M10/48 P
   H02J7/00 M
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-6353(P2016-6353)
(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公開番号】特開2017-125813(P2017-125813A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2018年10月9日
【審判番号】不服2019-15635(P2019-15635/J1)
【審判請求日】2019年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬島 賢一
【合議体】
【審判長】 中塚 直樹
【審判官】 岸 智史
【審判官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−134962(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/104752(WO,A1)
【文献】 特開2011−169817(JP,A)
【文献】 特開2014−59206(JP,A)
【文献】 特開2002−58171(JP,A)
【文献】 特開2012−239290(JP,A)
【文献】 特開2012−57998(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/140235(WO,A1)
【文献】 特開2013−57537(JP,A)
【文献】 特開2016−9657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の充電状態を示すSOC範囲を決定する蓄電素子管理装置であって、
第1の方法により決定される第1SOC範囲と、前記第1SOC範囲が決定される段階において第2の方法により決定される第2SOC範囲とに基づいてSOC範囲を決定する情報処理部を備え、
前記第1の方法は、前記蓄電素子の電流積算値に基づいてSOCを推定する電流積算法であり、
前記第2の方法は、前記蓄電素子の電圧と前記蓄電素子のSOC−V相関関係とに基づいてSOCを推定する方法であり、
前記情報処理部は、前記第1SOC範囲と前記第2SOC範囲とが重複する場合には、前記第1SOC範囲と前記第2SOC範囲との重複範囲を、前記SOC範囲に決定する蓄電素子管理装置。
【請求項2】
前記情報処理部は、前記第1SOC範囲と前記第2SOC範囲とが重複しない場合には、前記第2SOC範囲を前記SOC範囲として決定する請求項1に記載の蓄電素子管理装置。
【請求項3】
前記情報処理部は、前記蓄電素子の電圧と電圧計測誤差とに基づいて、前記蓄電素子の電圧の上限値と下限値をそれぞれ求め、
求めた上限値と下限値をもとに、前記蓄電素子のSOC−V相関関係から前記第2SOC範囲を決定する、請求項1又は請求項2に記載の蓄電素子管理装置。
【請求項4】
前記SOC−V相関関係は、無電流状態の前記蓄電素子における開放電圧と充電状態との相関関係であるSOC−OCV相関関係であり、
前記情報処理部は、前記SOC−OCV相関関係に基づいて、前記第2SOC範囲を決定する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の蓄電素子管理装置。
【請求項5】
前記情報処理部は、前記蓄電素子の充電後におけるSOC−OCV相関関係および前記蓄電素子の放電後におけるSOC−OCV相関関係に基づいて、前記第2SOC範囲を決定する請求項4に記載の蓄電素子管理装置。
【請求項6】
前記情報処理部は、前回のSOC範囲の上限値と下限値に対して、前記電流積算法により推定したSOCの増減量と電流計測値の累積誤差をそれぞれ加算することによって、前記第1SOC範囲を決定する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の蓄電素子管理装置。
【請求項7】
蓄電素子と、
前記蓄電素子に流れる電流を検出する電流計測部と、
前記蓄電素子の電圧を検出する電圧計測部と、
前記蓄電素子の電圧とSOCとの相関関係の情報を記憶するメモリと、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の蓄電素子管理装置とを備えた蓄電素子モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の蓄電素子モジュールと、
前記蓄電素子モジュールから電力供給される車両負荷と、
前記車両負荷を制御し、かつ前記蓄電素子モジュールと通信可能な車両側電子制御部とを有する車両。
【請求項9】
蓄電素子の充電状態を示すSOC範囲を決定するための蓄電素子管理方法であって、
第1の方法により決定される第1SOC範囲と、第2の方法により決定される第2SOC範囲とに基づいてSOC範囲を決定し
前記第1の方法は、前記蓄電素子の電流積算値に基づいてSOCを推定する電流積算法であり、
前記第2の方法は、前記蓄電素子の電圧と前記蓄電素子のSOC−V相関関係とに基づいてSOCを推定する方法であり、
前記第1SOC範囲と前記第2SOC範囲とが重複する場合には、前記第1SOC範囲と前記第2SOC範囲との重複範囲を、前記SOC範囲に決定する、蓄電素子管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、蓄電素子管理装置、蓄電素子モジュール、車両および蓄電素子管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、リチウムイオン二次電池などの二次電池における蓄電素子のSOC(State Of Charge)を推定する方法として、二次電池の開放電圧であるOCV(Open Circuit Voltage)とSOCとの相関関係に基づいて決定されるOCV法や、蓄電素子の充放電電流を積算して決定される電流積算法がある。このような技術としては、特開2007−178215号公報(下記特許文献1)に記載のものが知られている。
【0003】
ところで、電流積算法においてSOCを算出する場合、電流積算が長期継続されると、電流センサの計測誤差が蓄積してSOCの推定誤差が大きくなる。そのため、電流積算が長期継続した場合には、OCV法によりSOCを推定して、誤差の蓄積をリセットする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−178215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蓄電素子のSOC−OCV特性において、OCVの変化が小さいプラトー領域が存在する場合、このプラトー領域においてOCV法によりSOCを推定すると、SOCの推定誤差が大きくなってしまう。このため、SOC−OCV特性においてOCVの変化に傾きのある領域で、OCV法によりSOC値を推定することが考えられる。ところが、このような場合、OCV法の適用は、OCVの変化に傾きのある場合にのみ限られるため、OCV法の適用頻度が低下し、結局、電流積算法の累積誤差が大きくなってしまう。
【0006】
本明細書では、蓄電素子のSOCの推定精度を向上させる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書によって開示される技術は、蓄電要素の充電状態を示すSOC範囲を決定する蓄電要素管理装置であって、第1の方法により決定される第1SOC範囲と、前記第1SOC範囲が決定される段階において第2の方法により決定される第2SOC範囲とに基づいてSOC範囲を決定する情報処理部を備える構成とした。
【発明の効果】
【0008】
本明細書によって開示される技術によれば、蓄電素子のSOCの推定誤差が低減され、SOCの推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1における自動車を示す図
図2】電池モジュールの斜視図
図3】電池モジュールの斜視断面図
図4】電池モジュールのブロック図
図5】二次電池のSOC−OCV相関関係を示す図
図6】二次電池のSOC−OCV相関関係における各領域のSOC範囲を示す図
図7】SOC決定処理を示すフローチャート図
図8】電流積算法処理を示すフローチャート図
図9】SOC範囲の決定過程を示す図
図10図9の(a)におけるSOC−OCV相関関係を示す図
図11図9の(b)におけるSOC−OCV相関関係を示す図
図12図9の(c)におけるSOC−OCV相関関係を示す図
図13図9の(d)におけるSOC−OCV相関関係を示す図
図14】SOC領域変更処理を示すフローチャート図
図15】二次電池の放電SOC−OCV相関関係と充電SOC−OCV相関関係を示す図
図16図15の一部拡大図
図17】実施形態2における二次電池の充電中におけるRC−V1相関関係を示す図
図18】二次電池の放電中におけるRC−V2相関関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態にて開示する蓄電素子管理装置および蓄電素子管理方法の概要について説明する。
本明細書により開示される蓄電素子管理装置は、例えばリチウムイオン電池等の蓄電要素の充電状態を示すSOC範囲を決定する蓄電要素管理装置であって、第1の方法により決定される第1SOC範囲と、第1SOC範囲が決定される段階において第2の方法により決定される第2SOC範囲とに基づいて新たなSOC範囲を決定する情報処理部を備える。
【0011】
また、本明細書により開示される蓄電素子モジュールは、蓄電素子と、前記蓄電素子に流れる電流を検出する電流計測部と、前記蓄電素子の電圧を検出する電圧計測部と、前記蓄電素子の電圧とSOCとの相関関係の情報を記憶するメモリと、前記蓄電素子管理装置とを備える構成とした。
【0012】
また、本明細書により開示される車両は、前記蓄電素子モジュールと、前記蓄電素子モジュールからの電力供給される車両負荷と、前記車両負荷を制御し、かつ前記蓄電素子モジュールと通信可能な車両側電子制御部とを有する構成とした。
【0013】
また、本明細書により開示される蓄電素子管理方法は、蓄電素子の充電状態を示す値であるSOCの推定値を決定するための蓄電素子管理方法であって、第1の方法により決定される第1SOC範囲と、第2の方法により決定される第2SOC範囲とに基づいてSOC範囲を決定する構成とした。
【0014】
一方、各種の蓄電素子の中には、例えばリチウムイオン電池等のように、その電圧(V)と充電状態(SOC)との間に比較的再現性が高い相関関係を有するものがある。そこで、そのような蓄電素子について予めその相関関係をSOC−V相関関係としてテーブル化してメモリに記憶させてある。そして、例えばCPUと、所要の動作プログラムを記憶したメモリとを備えた情報処理部が設けられている。そして、情報処理部は、電流センサにより検出した電流の時間積算により充放電電力量を求めて蓄電素子のSOCを決定する電流積算法と、電圧センサの検出結果から前記SOC−V相関関係に基づきSOCを決定するOCV法とが実行可能である。そして、情報処理部は、それぞれの方法によって決定された各SOCが、どのような関係にあるかによってSOC推定値を決定する。
【0015】
しかしながら、蓄電素子のSOC−V相関関係において、OCVの変化が小さいプラトー領域が存在する場合、このプラトー領域においてOCV法によりSOCを推定すると、SOCの推定誤差が大きくなってしまう問題があり、SOC−V相関関係においてOCVの変化に傾きのある領域でのみOCV法を適用する場合、適用頻度が低下するといった問題があった。
【0016】
そこで、本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来は、機器の誤差範囲などを含む幅をもったSOC範囲内における特定の値(平均値など)をSOCとして捉えていたところを、機器の誤差範囲などを含むSOCのデータ範囲をSOC範囲として捉えることを試みた。
【0017】
そして、発明者は、第1の方法により決定される第1SOC範囲と、第2の方法により決定される第2SOC範囲との双方のSOC範囲に基づいてSOC範囲を決定する着想に至り、プラトー領域を有する蓄電素子であっても、SOC範囲の推定誤差が大きくなることを防ぎつつ、高頻度にSOC範囲を推定することができることを突き止めた。そして、蓄電素子におけるSOC範囲の推定精度を向上させることができることを見いだした。
【0018】
本明細書によって開示される蓄電素子管理装置は、以下の構成としてもよい。
本明細書により開示される技術の一実施態様として、前記情報処理部は、前記第1SOC範囲と前記第2SOC範囲とが重複する場合には、前記第1SOC範囲と、前記第2SOC範囲との重複範囲を前記SOC範囲に決定する構成にしてもよい。
【0019】
このような構成によると、第1SOC範囲と前記第2SOC範囲とが重複する場合には、第1SOC範囲と第2SOC範囲との重複範囲をSOC範囲として絞り込んでSOC範囲に設定するから、SOC範囲の推定誤差が大きくなることを防ぎつつ、高頻度にSOC範囲を推定することができ、蓄電素子におけるSOC範囲の推定精度を向上させることができる。
【0020】
また、本明細書により開示される技術の一実施態様として、前記第1の方法は、前回のSOC範囲から時間経過に伴う前記蓄電素子の状態に基づいて第1SOC範囲を決定し、前記第2の方法は、前記第1SOC範囲が決定された段階の前記蓄電要素の状態に基づいて前記第2SOC範囲を決定し、前記第1SOC範囲と前記第2SOC範囲とが重複しない場合には、前記第2SOC範囲を前記SOC範囲として決定する構成としてもよい。
【0021】
このような構成によると、第1SOC範囲と第2SOC範囲とが重複しない場合には、第1SOC範囲が決定される段階において決定される第2SOC範囲がSOC範囲として決定される。つまり、第1SOC範囲と第2SOC範囲とが重複しない場合には、直近に得られた第2SOC範囲をSOC範囲として採用することにより、蓄電素子におけるSOC範囲の推定誤差が大きくなることを防ぐことができる。
【0022】
また、本明細書により開示される技術の一実施態様として、前記第1SOC範囲は、前記蓄電素子に流れる電流の時間積算により決定され、前記第2SOC範囲は、前記蓄電素子の電圧と、前記蓄電素子のSOC−V相関関係とにより決定される構成としてもよい。
【0023】
また、前記情報処理部は、無電流状態の前記蓄電素子の開放電圧と充電状態との相関関係であるSOC−OCV相関関係に基づいて第2SOC範囲を決定する構成としてもよい。
すなわち、電流の時間積算に基づく第1の方法(電流積算法)により決定される第1SOC範囲と、電圧とSOC−OCV相関関係とに基づく第2の方法(OCV法)により決定される第2SOC範囲とが重複する場合には、その重複部分をSOC範囲として決定することで、SOC範囲の推定誤差が大きくなることを防ぐことができる。
【0024】
また、第1SOC範囲と第2SOC範囲とが重複しない場合には、第1の方法(電流積算法)による累積誤差などに問題があるとして、第2の方法(OCV法)により得られた直近の第2SOC範囲をSOC範囲として決定し、蓄電素子におけるSOC範囲の推定誤差が大きくなることを防ぐことができる。ここで、「第1SOC範囲」の具体例としては、計測機器の誤差範囲や電流の時間積算による自己放電および暗電流などの累積など含むSOCのデータ範囲をいい、「第2SOC範囲」の具体例としては、計測機器の誤差などを含むSOCのデータ範囲をいう。
【0025】
また、本明細書により開示される技術の一実施態様として、前記情報処理部は、前記蓄電素子の充電後における充電SOC−OCV相関関係および前記蓄電素子の放電後における放電SOC−OCV関係に基づいて第2SOC範囲を決定する構成にしてもよい。
【0026】
ところで、蓄電素子において電圧とSOCとの対応関係が、電圧の検出前における蓄電素子の充放電の履歴によって影響を受けることが知られている。具体的には、蓄電素子の電流が放電傾向であった場合の方が、充電傾向であった場合よりもSOCに対する開放電圧が低くなる傾向にある。しかしながら、一般に、蓄電素子における充放電は、電流値や通電時間など様々な要因によって決定されるため、充放電の履歴を推定することは困難である。したがって、充放電の履歴の影響によっては、実際のSOCが含まれないSOC範囲を推定してしまう虞がある。
【0027】
ところが、上記のような構成によると、SOC範囲の上限値を放電SOC−OCV関係、下限値を充電SOC−OCV関係から求めることで、SOC範囲が実際のSOCを含まない範囲に決定されることを防ぐことができる。
【0028】
また、本明細書により開示される技術の一実施態様として、前記情報処理部は、前記蓄電要素の充電中における充電電圧と残存容量との相関関係であるC−V相関関係に基づいて第2SOC範囲を決定するようになっており、充電電流が所定の電流値よりも低く、かつ充電電圧が所定の電圧値よりも高い場合、前記第2SOC範囲を、前記蓄電素子が満充電状態に近い状態である満充電SOC範囲に決定する構成としてもよい。
【0029】
また、前記情報処理部は、充電電流が所定の電流値よりも高く、かつ充電電圧が所定の電圧値よりも低い場合、前記第2SOC範囲を、前記満充電SOC範囲とは異なる範囲である非満充電SOC範囲に決定する構成としてもよい。
【0030】
このような構成によると、充電中における蓄電素子の充電電圧および充電電流を検出し、充電電流が所定の電流値よりも低く、かつ充電電圧が所定の電圧値よりも高いか判定することにより、第2SOC範囲が満充電SOC範囲であるか否かを容易に決定することができる。また、充電電流が所定の電流値よりも高く、かつ充電電圧が所定の電圧値よりも低いか判定することにより、第2SOC範囲が非満充電SOC範囲であるか否かを決定することができる。これにより、充電中の蓄電素子であっても高頻度にSOC範囲を推定し、SOC範囲の推定精度をさらに高めることができる。
【0031】
また、本明細書により開示される技術の一実施態様として、前記情報処理部は、前記蓄電素子の放電中における放電電圧と残存容量の相関関係であるC−V相関関係に基づいて第2SOC範囲を決定するようになっており、放電電流が所定の電流値よりも低く、かつ放電電圧が所定の電圧値よりも低い場合、前記第2SOC範囲を、前記蓄電素子が放電終止状態に近い状態である放電終止SOC範囲に決定する構成にしてもよい。
【0032】
また、前記情報処理部は、放電電流が所定の電流値よりも高く、かつ放電電圧が所定の電圧値よりも高い場合、前記第2SOC範囲を、前記放電終止SOC範囲とは異なる範囲である非放電終止SOC範囲に決定する構成にしてもよい。
【0033】
このような構成によると、放電中における蓄電素子の放電電圧および放電電流を検出し、放電電流が所定の電流値よりも低く、かつ放電電圧が所定の電圧値よりも低いか判定することにより、第2SOC範囲が放電終止SOC範囲であるか否かを容易に決定することができる。また、放電電流が所定の電流値よりも高く、かつ放電電圧が所定の電圧値よりも高いか判定することにより、第2SOC範囲が非放電終止SOC範囲であるか否かを決定することができる。これにより、放電中の蓄電素子であっても高頻度にSOC範囲を推定し、SOC範囲の推定精度をさらに高めることができる。
【0034】
また、本明細書により開示される技術の一実施態様として、前記情報処理部は、前記蓄電素子の蓄電状態を複数のSOC領域に区分し、前記複数のSOC領域のうちSOCの変化量に対する電圧の変化量が他よりも小さいSOC領域を低変化領域としたとき、前記第1SOC範囲が、所定期間の間、前記低変化領域に属する場合には、前記蓄電素子を充放電し、前記第2SOC範囲を前記第1SOC範囲と異なる範囲となるように変化させる構成としてもよい。
このような構成によると、意図的に蓄電素子に対して充放電を行うことで、第1SOC範囲から第2SOC範囲に移動した分、新たなSOC範囲が絞り込まれることになり、SOC範囲の推定精度を向上させることができる。
また、本明細書により開示される技術の一実施態様として、前記情報処理部は、前記第2SOC範囲を、現在属している前記低変化領域とは異なる領域に属するように変化させる構成にしてもよい。
【0035】
このような構成によると、意図的に蓄電素子に対して充放電を行うことで、電圧を、現在属している低変化領域とは異なる領域に変化させ、蓄電素子のSOC範囲を決定するから、SOC範囲の推定精度をさらに向上させることができる。
【0036】
<実施形態1>
本明細書で開示される技術を自動車10などの車両に適用した実施形態1について図1から図16を参照して説明する。
本実施形態の自動車10は、図1に示すように、エンジンルーム11に設置されるエンジン始動用のスターターモータや電装品などの車両負荷12と、車両負荷12に接続されたバッテリモジュール20と、車両負荷12およびバッテリモジュール20に接続された図示しないオルターネータと、車両負荷12の動作を制御する車両側電子制御部(以下、「ECU」という)13などを備えて構成されている。
【0037】
車両負荷12は、バッテリモジュール20およびオルターネータから電力供給されることで動作するようになっており、オルターネータからの電力供給量が少ない場合にバッテリモジュール20から電力供給を受けることで動作する。
オルターネータは、自動車10のエンジンの駆動に伴って回転することで発電し、車両負荷12およびバッテリモジュール20に電力供給を行う。
【0038】
車両側電子制御部13は、車両負荷12、オルターネータ、バッテリモジュール20などと通信線Wによって接続されており、自動車10の状態やバッテリモジュール20の状態などに基づいてエンジンや車両負荷12の動作制御を行う。
【0039】
バッテリモジュール20は、図2および図3に示すように、ブロック状の電池ケース21を有しており、電池ケース21内には、図3および図4に示すように、直列に接続された複数の二次電池(「蓄電素子」の一例)30と、これら二次電池30を管理する電池管理装置(以下、「BMU」という)50と、二次電池30に流れる電流を検出する電流センサ40などが収容されている。
【0040】
なお、BMU50が「蓄電素子管理装置」の一例であり、図3では、電池ケース21構成を分かりやすくするために、電流センサ40を図示省略すると共に、電池ケース21の内部構造を図示簡略化している。また、以下の説明において、図2および図3を参照する場合、電池ケース21が設置面に対して傾きなく水平に置かれた時の電池ケース21の上下方向をY方向とし、電池ケース21の長辺方向に沿う方向をX方向とし、電池ケース21の奥行き方向をZ方向として説明する。
【0041】
電池ケース21は、合成樹脂製であって、電池ケース21の上面壁21Aは、図2および図3に示すように、平面視略矩形状をなし、Y方向に高低差を付けた形状とされている。上面壁21Aにおいて低い部分のX方向両端部には、図示しないハーネス端子が接続される一対の端子部22が上面壁21Aに埋設された状態で設けられている。一対の端子部22は、例えば、鉛合金等の金属からなり、一対の端子部22のうち、一方が正極側端子部22Pとされ、他方が負極側端子部22Nとされている。そして、各端子部22の下端部が、電池ケース21内に収容された二次電池30に接続されている。
【0042】
また、電池ケース21は、図3に示すように、上方に開口する箱型のケース本体23と、複数の二次電池30を位置決めする位置決め部材24と、ケース本体23の上部に装着される中蓋25と、中蓋25の上部に装着される上蓋26とを備えて構成されている。
ケース本体23内には、図3に示すように、複数の二次電池30が個別に収容される複数のセル室23AがX方向に並んで設けられている。
【0043】
位置決め部材24は、図3に示すように、複数のバスバー27が上面に配置されており、位置決め部材24がケース本体23内に配置された複数の二次電池30の上部に配置されることで、複数の二次電池30が、位置決めされると共に複数のバスバー27によって直列に接続されるようになっている。
中蓋25は、図3に示すように、BMU50が内部に収容可能とされており、中蓋25がケース本体23に装着されることで、二次電池30とBMU50とが接続されるようになっている。
【0044】
二次電池30は、例えばグラファイト系材料の負極活物質と、LiFePO4などのリン酸鉄系の正極活物質を使用したリチウムイオン電池であって、例えばその開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)と充電状態(SOC:State Of Charge)との間には図5に示す相関関係(以下、「SOC−OCV相関関係」という)がある。このSOC−OCV相関関係では、図5および図6に示すように、二次電池30の充電状態を次の5つの領域に分けて考えることができる。
【0045】
これらの領域のうち3つの領域I,III,Vは、二次電池30のOCVの変化がSOCに対して所定値以上変化する右上がりの傾きを有する、すなわち、OCVの変化がSOCに対して比較的大きい(以下、これらの領域を「電圧傾斜領域」I,III,Vという)。具体的には、電圧傾斜領域は、例えば、SOCが1%変化するのに対して、OCVの変化が2〜6mV以上の領域である。
【0046】
これに対して、領域II、IV(電圧傾斜領域I,III,V以外の領域)では、二次電池30のOCVの変化が、SOCに対して所定値未満の傾斜を有する、すなわち、OCVの変化がSOCの変化に対して極めて小さい、(以下、これらの領域を「電圧平坦領域」II,IVという)。具体的には、電圧平坦領域は、例えば、SOCが1%変化するのに対して、OCVの変化が2〜6mV未満の領域である。
【0047】
BMU50は、図4に示すように、制御部60と、電圧計測部70と、電流計測部80とを備えて構成されている。制御部60は、情報処理部としての中央処理装置(以下、「CPU」という)61と、メモリ63とを有する。メモリ63には、BMU50の動作を制御するための各種のプログラムが記憶されており、CPU61はメモリ63から読み出したプログラムに従って、後述する「SOC決定処理」、「電流積算法処理」、「電圧参照法処理」および「SOC領域変更処理」等からなるSOC決定処理を実行する。
【0048】
また、メモリ63には、SOC決定処理の実行に必要なデータ、例えば、二次電池30のテーブル化したSOC−OCV相関関係、各領域I〜Vの充電状態の上限値および下限値、二次電池30の満充電容量等が記憶されている。
【0049】
電圧計測部70は、電圧検知線を介して二次電池30の両端にそれぞれ接続されており、各二次電池30の電圧Vを所定期間毎に測定する。
電流計測部80は、電流センサ40を介して二次電池30に流れる電流を計測する。
【0050】
さて、次に二次電池30のSOCを決定するSOC決定処理について図7を参照して説明する。
SOC決定処理は、例えば、自動車10が始動され、ECU13から出力された実行指令をBMU50が受信することにより開始される。
【0051】
処理開始後は、制御部60の指令により、まず、測定機器の誤差範囲などを含む幅をもった初期のSOC範囲を決定する。
そして、図9に示すように、この初期のSOC範囲(a)を基に、電流の時間積算により二次電池のSOC範囲(b)を決定する電流積算法と、電流積算法によってSOC範囲(b)が決定された段階における二次電池のSOC範囲(c)を決定する電圧参照法との2つの方法によって決定されたSOC範囲の重複範囲を新たなSOC範囲(d)に決定する。
【0052】
そして、この操作を繰り返すことにより、累積誤差や機器の計測誤差を含む幅を持ったSOC範囲を絞り込み、SOC範囲の推定精度を向上させる。
【0053】
以下にSOC決定処理を図7から図9を参照しつつ詳しく説明する。
初期のSOC範囲(a)を決定する場合、まず、制御部60の指令により、前回決定されたSOC範囲がメモリに記憶されているか判定する(S10)。
【0054】
メモリにSOC範囲が記憶されていれば、メモリからSOC範囲を読み出し、初期のSOC範囲として決定する(S11)。メモリにSOC範囲が記憶されていない場合、電圧参照法(OCV法)により決定する。
【0055】
以下に、電圧参照法(OCV法)により初期のSOC範囲を決定する方法を説明する。
電圧参照法(OCV法)では、まず、充放電が停止されて安定した状態の二次電池30のOCV(電流が流れていない状態の開放電圧)を電圧計測部70によって計測する(S12)。ここで、電圧計測部70の計測では、セル電圧計測誤差が生じるため、セル電圧計測誤差を考慮してOCV範囲を決定する。つまり、二次電池30のOCVの計測値とセル電圧計測誤差からOCV範囲の上限値と下限値を算出する。算出したOCV範囲の上限値と下限値をもとに図5に示すSOC−OCVの相関関係を参照することにより、SOC範囲の上限値と下限値を求めて、初期のSOC範囲R0として決定する(S13)。つまり、図9に示すように、初期のSOC範囲R0を、SOC推定誤差Mを含む幅をもったデータとして取り扱う。

【0056】
具体的には、図10に示すように、二次電池30のOCVが3.31Vであり、セル電圧計測誤差が例えば、10mVだった場合、OCV範囲の上限値は、3.31V+0.01V=3.32Vとなり、OCV範囲の下限値は、3.31V−0.01V=3.3Vとなる。
【0057】
そして、このOCV範囲の上限値および下限値をもとに、図10に示すSOC−OCVの相関関係を参照することで、初期のSOC範囲R0は下限値が35%、上限値が65%(SOC範囲35−65%)と決定される。また、このときの初期のSOC範囲R0の平均値は50%、SOC推定誤差は±15%として決定される。そして、この初期のSOC範囲R0が、図9の(a)の状態に相当する。
【0058】
次に、初期のSOC範囲R0が決定したところで、制御部60は、初期のSOC範囲R0に基づいて電流積算法処理により電流積算SOC範囲R1を決定する(S20)。
電流積算法処理は、図8に示すように、S21からS23の動作を規定周期Tで繰り返し実行する。
【0059】
電流積算法処理では、まず、制御部60が、電流計測部80に指令を与え、二次電池30に流れる電流を電流センサ40により検出して電流を計測する処理を実行する(S21)。そして、電流計測部80にて計測された電流値はメモリ63に記憶される。
【0060】
次に、制御部60は、電流計測部80で計測した電流値Iに規定周期Tを乗算して電流積算値ZIを算出する。
そして、この算出した電流積算値ZIを、放電をプラス、充電をマイナスとして、加算又は減算することで、累積充放電量Cを算出する(S22)。このとき、累積充放電量Cには、電流計測部80の誤差が累積することに起因した累積誤差m1が含まれることになる。
【0061】
次に、累積充放電量Cが算出されたところで、二次電池30が放電もしくは充電により通電中であるか判定する(S23)。そして、二次電池30に対して放電もしくは充電が継続され、二次電池30に対して所定値よりも大きな電流が流れている通電中の間は、規定周期Tで、S21からS23の動作を繰り返し実行する。
【0062】
一方、例えば、自動車10が停止するなど二次電池30の充電もしくは放電が終了したことによって、制御部60が、二次電池30に流れる電流Iが所定値(電流が概ねゼロとみなせる値)よりも小さくなったと判定した場合、無電流状態になったとして経過時間のカウントを開始する(S24)。
【0063】
そして、制御部60は、二次電池30の放置により、予め設定された所定時間(安定時間)が経過したかどうか判定する(S25)。ここで、安定時間は、二次電池30のOCVが安定するのを待つための時間であり、例えば、制御部60は、メモリ63に記憶された所定時間を安定時間として採用してもよく、二次電池30の温度状況により、メモリ63に記憶された温度と安定時間の相関関係から、安定時間を採用することもできる。
【0064】
経過時間が安定時間に至ると、経過時間が安定時間に至るまでの間に、積算された暗電流(例えば、車両負荷12による微弱な電力消費や自己放電などに基づいて積算された電流)を、累積充放電量Cに加え、暗電流を含んだ累積充放電量Cとして更新する(S26)。
【0065】
そして、累積充放電量Cが更新されたところで、累積充放電量Cを、メモリ63に記憶された満充電容量Cfで除算することにより、SOCの増減量ΔSOCを算出(C/Cf=ΔSOC)し(S27)、このSOCの増減量ΔSOCを初期のSOC範囲R0に加えることで、電流積算法による電流積算SOC範囲R1を決定する(S28)。つまり、電流積算SOC範囲R1は、図9に示すように、電流計測部80による累積誤差m1を含むと共に、SOC推定誤差Mを含む幅をもったデータとなる。なお、電流積算SOC範囲を、以後、「SOC範囲(i)」と表記する。
【0066】
具体的には、図11に示すように、初期のSOC範囲R0の下限値が35%、上限値が65%であり、そのときのSOC範囲R0の平均値が50%、SOC推定誤差が±15%であると、電流積算法により算出されたΔSOCが15%、電流積算法による累積誤差が±3%の場合、SOC範囲(i)R1は、下限値が50%±3%、上限値が80%±3%となる。つまり、SOC範囲(i)R1は、47−83%であり、平均値65%、その時のSOC推定誤差は±18%となる。そして、このSOC範囲(i)R1が、図9の(b)の状態に相当する。
【0067】
次に、制御部60は、SOC範囲(i)R1が決定された段階における二次電池30の電圧参照SOC範囲R2を電圧参照法処理(OCV法処理)により決定する(S30)。
電圧参照法処理では、初期のSOC範囲R0を求めるのと同様に、制御部60の指令により、充放電が停止されて安定した状態の二次電池30のOCVを電圧計測部70によって計測し、図5に示すSOC−OCVの相関関係を参照することによりOCV範囲を決定する。そして、OCV範囲が領域IからVのうちのどの領域に属するか判定し、判定された領域の上限から下限までの範囲を電圧参照SOC範囲R2として決定する。なお、以後、電圧参照SOC範囲R2を、「SOC範囲(i)」と表記する。
【0068】
具体的には、図12に示すように、二次電池30のOCVが3.34Vであり、セル電圧計測誤差が例えば、10mVだった場合、OCV範囲の上限値は、3.34V+0.01V=3.35Vとなり、OCV範囲の下限値は、3.34V−0.01V=3.33Vとなる。
【0069】
そして、このOCV範囲の上限値および下限値をもとに、図12に示すSOC−OCVの相関関係を参照することで、SOC範囲(v)R2は、67−98%と決定され、SOC範囲(v)R2の平均値82.5%、SOC推定誤差±15.5%と決定される。そして、このSOC範囲(v)R2が、図9の(c)の状態に相当する。
【0070】
次に、SOC範囲(i)R1と、SOC範囲(v)R2とが決定されたところで、これら2つのSOC範囲が重複するか判定する(S14)。
【0071】
SOC範囲(i)R1と、SOC範囲(v)R2とが重複する場合、その重複部分を新たなSOC範囲R3として決定する(S15)。つまり、図13SOC範囲(i)R1の47−83%と、SOC範囲(v)R2の67−98%との重複範囲は、図9および図13に示すように、67−83%で、新たなSOC範囲R3の平均値は、75%、推定誤差は±8%となる。そして、この新たなSOC範囲R3が、図9の(d)の状態に相当する。
【0072】
一方、例えば、SOC決定処理の電流積算処理において、累積誤差m1が大きくなるなどして、SOC範囲(i)R1と、SOC範囲(v)R2が重複しない場合は、直近に得られた電圧参照SOC範囲であるSOC範囲(v)R2を新たなSOC範囲R3として決定する(S16)。
【0073】
そして、このようにして決定されたSOC範囲をメモリに記憶し、SOC決定処理は終了する。そして、このSOC決定処理は、規定の周期で繰り返し実行される。
【0074】
すなわち、例えば、電流積算による累積誤差をリセットするために、電圧参照法(OCV法)を用いることで、SOCの値を、幅をもった範囲とせず、重複範囲を新たなSOC範囲として取り扱わない場合には、電圧参照法でリセットすると、新たなSOCが82.5%、推定誤差が±15。5%(最大31%)となってしまうところ、本実施形態によると、SOC範囲が67−83%、平均値75%でその推定誤差が±8%(最大16%)となる。つまり、本実施形態によると、SOCの値を、幅を持ったSOC範囲として採用し、2つの方法によって得られたSOC範囲の重複部分を新たなSOC範囲として捉えているから、上記のケースの場合によると、電圧参照法(OCV法)でリセットする場合に比べて、SOCの推定誤差を約半分にすることができ、SOC推定精度を飛躍的に向上させることができる。
【0075】
また、仮に、SOC決定処理の電流積算処理において、累積誤差が大きくなるなどして、SOC範囲(i)R1と、SOC範囲(v)R2とが重複しない場合には、SOC範囲(v)R2を新たなSOC範囲として決定することで、その累積誤差を解消することができる。
【0076】
さらに、例えば、電圧参照法のみ用いてリセットする場合、電圧参照法を適用できる領域が、電圧傾斜領域I,III,Vに限られてしまうところ、本実施形態によると、電圧傾斜領域I,III,Vのみに限られず、電圧平坦領域II,IVを含む全ての領域においてSOC決定処理を実施することができるから、SOC決定処理の実施頻度を向上させることができ、SOC推定精度をさらに向上させることができる。
【0077】
ところで、SOC決定処理において、SOC範囲(i)R1と、SOC範囲(v)R2との重複部分を新たなSOC範囲R3として決定する際に、電流積算法処理によって算出されるSOC範囲(i)R1と、電圧参照法処理によって算出するSOC範囲(v)R2とがSOC−OCV相関関係において、同一の電圧平坦領域に属する場合がある。このような場合、SOC範囲(i)R1と、SOC範囲(v)R2とにより、新たなSOC範囲R3を絞り込むことができるものの、重複範囲が大きくなり、その結果、新たに決定されるSOC範囲R3が大きくなってしまう。
【0078】
具体的には、SOC決定処理の電流積算処理過程における二次電池30のOCVが電圧平坦領域IIに属しており、例えば、オルターネータによる発電量と、車両負荷12による電力消費とがほぼ同じ場合、SOC範囲が長時間の間、同一の電圧平坦領域IIに属することとなる。
そこで、本実施形態では、制御部60は、SOC領域変更処理を行うことができるようになっている。
【0079】
以下に、SOC領域変更処理について、図14を参照しつつ、説明する。
SOC領域変更処理は、電流積算法処理においてSOC範囲(i)R1が算出され、無電流状態になってからの経過時間が安定時間に至ったところで、制御部60が、電圧計測部70に指令を与え、電圧計測部70が各二次電池30の電圧を計測する処理を実行する(S31)。
そして、電圧が所定の期間の間、同一の電圧平坦領域に属しているか判定し(S32)、SOC範囲(i)R1が、同一の電圧平坦領域に属していない場合には、SOC領域変更処理を終了する。
【0080】
一方、SOC範囲(i)R1が、所定の期間の間、同一の電圧平坦領域に属している場合には、SOC範囲を現在属している電圧平坦領域とは異なる領域に属するように二次電池30を充放電させる(S33)。
【0081】
具体的には、SOC決定処理の電流積算処理中に計測されたOCVが、電圧平坦領域IIに属しており、所定の期間の間、OCVが同一の電圧平坦領域IIに属している場合には、制御部60が、図示しない放電回路によって二次電池30を放電させたり、ECU13を通じてオルターネータにより二次電池30を充電したりする。
【0082】
つまり、意図的に二次電池30に対して充放電を行うことで、電圧を、現在属している低変化領域とは異なる領域に変化させ、異なる領域に変化した電圧を基に電圧参照法処理によってSOC範囲(v)R2を決定するから、新たなSOC範囲がより絞り込まれることになり、SOC範囲の推定精度をさらに向上させることができる。
なお、充放電した結果、異なる領域に変化しない場合においても、SOC範囲(i)R1は充放電により移動する。そのため、移動後のSOC範囲(i)R1とSOC範囲(v)R2は、同じ範囲を示すことはなく、SOC範囲(i)R1が移動した分、新たなSOC範囲がより絞り込まれる。すなわち、充放電によって必ずしも異なる領域に変化しなくても、SOC範囲の推定精度を向上させることができる。
【0083】
ところで、二次電池における開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)と充電状態(SOC:State Of Charge)との間には、図5に示すSOC−OCV相関関係があるものの、二次電池のOCVとSOCとの対応関係が、開放電圧の検出前における二次電池の充放電の履歴によって影響を受けることが知られている。
【0084】
具体的には、図15に示すように、二次電池30の電流が放電傾向であった場合の放電SOC−OCV相関関係L2が、充電傾向であった場合の充電SOC−OCV相関関係L1よりもOCVに対するSOCが高くなる傾向にある。
【0085】
しかしながら、一般に、二次電池における充放電が、電流値や通電時間など様々な要因によって決定されるため、本実施形態のように、車両などに搭載されるバッテリモジュールにおいて、充放電の履歴を推定することは困難であり、充放電の履歴によっては、実際のSOCを含まない範囲に逸脱したSOC範囲を推定してしまう虞がある。
【0086】
そこで、本実施形態は、図15および図16に示すように、二次電池30の放電の傾向を示す放電SOC−OCV相関関係L2と、充電の傾向を示す充電SOC−OCV相関関係L1とを予めメモリに記憶しておく。そして、SOC−OCVの相関関係を参照する際に、SOC範囲の上限値は、放電の傾向を示す放電SOC−OCV関係を参照することで推定でき、SOC範囲の下限値は、充電の傾向を示す充電SOC−OCV関係を参照することで推定できるようになっている。
【0087】
つまり、例えば、二次電池30のOCVの傾向が放電側になっているにも関わらず、SOC範囲が実際の値よりも低い値に決定されたり、二次電池30のOCVの傾向が充電側になっているにも関わらず、SOC範囲が実際の値よりも高い値に決定されることを防ぐことができる。
【0088】
具体的には、図16に示すように、制御部60の指令により、電圧計測部70によって計測されたOCVが3.27Vで、セル電圧計測誤差が10mVの場合、OCVの上限値は、放電SOC−OCV相関関係により、35%と決定され、OCVの下限値は、充電SOC−OCV相関関係により、19%と決定される。
【0089】
これにより、例えば、放電SOC−OCV相関関係と、充電SOC−OCV相関関係との平均値であるSOC−OCV相関関係を参照する場合に比べて、SOC範囲が実際のSOCを含まない範囲に逸脱してしまうことを防ぐことができる。
【0090】
<実施形態2>
次に、実施形態2について図17および図18を参照して説明する。
実施形態2のSOC決定処理における電圧参照SOC範囲の決定方法は、実施形態1と異なり、二次電池30の充電中もしくは放電中における電圧および電流に基づいてSOCを決定するものであって、実施形態1と共通する構成、作用、および効果については重複するため、その説明を省略する。また、実施形態1と同じ構成については同一の符号を用いるものとする。
【0091】
ところで、二次電池30は、実施形態1に示す開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)と充電状態(SOC:State Of Charge)との間の相関関係以外にも、充電電圧V1と残存容量RCとの間、放電電圧V2と残存容量RCとの間に、図17および図18に示すように、C−V相関関係がある。ここで、残存容量RCとは、二次電池30が所定の放電終止電圧まで低下する間に電池から放電できる電気量であり、電流と時間の積からなるアンペア時[Ah]で表される。
【0092】
そこで、この充電電圧V1と残存容量RCとの間のRC−V1相関関係に対して、満充電状態に近い状態であるか否か判定するための基準となる電流閾値および電圧閾値を設定し、電流計測部70において計測された電流および電圧を基に二次電池30の残存容量RCの状態を決定する。そして、決定された残存容量RCを、満充電容量Cfで除算することにより、二次電池30のSOC範囲の状態を決定する。
【0093】
以下に、充電中の二次電池30におけるSOC範囲の決定方法ついて説明する。
二次電池30の充電中において、電流計測部80によって計測された電流が電流閾値よりも小さく、かつ、電圧計測部70によって計測された電圧が電圧閾値よりも高い場合には、二次電池30の残存容量RCが満充電状態に近い状態であると決定し、二次電池30のSOC範囲が満充電SOC範囲であると決定する。
【0094】
また、二次電池30の充電中において、電流計測部80によって計測された電流が電流閾値よりも大きく、かつ、電圧計測部70によって計測された電圧が電圧閾値よりも低い場合には、二次電池30の残存容量RCが満充電状態ではないと決定し、二次電池30のSOC範囲が満充電SOC範囲とは異なる非満充電SOC範囲であると決定する。
【0095】
具体的には、図17に示すように、25℃における充電電圧V1と残存容量RCとの間のRC−V1相関関係において、電流閾値を60[A]、電圧閾値SVを3.45[V]とした場合、二次電池30の電流が電流閾値よりも小さいにも関わらず、二次電池30の電圧が電圧閾値よりも高い時には、二次電池30の残存容量RCが満充電状態から約8Ah以内の満充電に近い状態R10であると決定される。
【0096】
つまり、例えば、充電中に計測した電流が58[A]で、かつ、電圧が3.47[V](二次電池30の電流が電流閾値よりも小さいにも関わらず、二次電池30の電圧が電圧閾値よりも高い)とすると、二次電池30の残存容量RCが満充電状態から約8Ah以内の満充電に近い状態であると決定される。そして、二次電池30のSOC範囲は、例えば90%を超える満充電SOC範囲であると決定される。
【0097】
また、例えば、充電中に計測した電流が62[A]で、電圧が3.40[V](二次電池30の電流が電流閾値よりも大きいにも関わらず、二次電池30の電圧が電圧閾値よりも低い)とすると、二次電池30の残存容量RCが満充電状態とは異なる非満充電状態(満充電状態ではない)R11であると決定し、二次電池30のSOC範囲が満充電SOC範囲とは異なる範囲である90%以下の非満充電SOC範囲であると決定される。
【0098】
なお、充電中に計測された電流が電流閾値よりも小さく、かつ、計測された電圧が電圧閾値よりも低い場合や、充電中に計測された電流が電流閾値よりも大きく、かつ、計測された電圧が電圧閾値よりも高い場合は、OCVがいずれの状態であるか決定できず、SOC範囲を決定することができないため、SOC決定処理では、SOC範囲(i)R1を新たなSOC範囲として決定する。
【0099】
次に、放電中の二次電池30におけるSOC範囲の決定方法ついて説明する。
二次電池30が放電中の場合、電流計測部80によって計測された電流が電流閾値よりも小さく、かつ、電圧計測部70によって計測された電圧が電圧閾値よりも低い時には、二次電池30の残存容量RCが放電終止状態に近い状態であると決定し、二次電池30のSOC範囲が放電終止SOC範囲であると決定する。
【0100】
また、二次電池30の放電中において、電流計測部80によって計測された電流が電流閾値よりも大きく、かつ、電圧計測部70によって計測された電圧が電圧閾値よりも高い時には、二次電池30の残存容量RCが放電終止状態ではないと決定し、二次電池30のSOC範囲が放電終止SOC範囲とは異なる非放電終止SOC範囲であると決定する。
【0101】
具体的には、図18に示すように、0℃における放電電圧V2と残存容量RCとの間のRC−V2相関関係において、電流閾値を55[A]、電圧閾値SVを2.8[V]とした場合、二次電池30の電流が電流閾値よりも小さいにも関わらず、二次電池30の電圧が電圧閾値よりも低い時には、二次電池30の残存容量RCが放電終止状態から約13Ah以内の放電終止状態R20に近い状態であると決定される。
【0102】
つまり、例えば、放電中に計測した電流が54[A]で、電圧が2.6[V](二次電池30の電流が電流閾値よりも小さいにも関わらず、二次電池30の電圧が電圧閾値よりも低い)とすると、二次電池30の残存容量RCが放電終止状態から約13Ah以内の放電終止状態に近い状態であると決定される。そして、二次電池30のSOC範囲が、例えば17%を下回る放電終止SOC範囲であると決定される。
【0103】
そして、例えば、放電中に計測した電流が57[A]で、電圧が3.0[V](二次電池30の電流が電流閾値よりも大きいにも関わらず、二次電池30の電圧が電圧閾値よりも高い)とすると、二次電池30の残存容量RCが放電終止状態とは異なる非放電終止状態(放電終止状態ではない)R21と決定し、二次電池30のSOC範囲が放電終止SOC範囲とは異なる範囲である17%以上の非放電終止SOC範囲であると決定される。
【0104】
なお、放電中に計測された電流が電流閾値よりも小さく、かつ、計測された電圧が電圧閾値よりも高い場合や、充電中に計測された電流が電流閾値よりも大きく、かつ、計測された電圧が電圧閾値よりも低い場合は、OCVがいずれの状態であるか決定できず、SOC範囲も決定することができないため、SOC決定処理では、SOC範囲(i)R1を新たなSOC範囲として決定する。
【0105】
すなわち、本実施形態によると、充電電圧V1と残存容量RCとの間のRC−V1相関関係に基づいて二次電池30のSOC範囲の状態を決定しているものの、その基準は、電流閾値および電圧閾値となっているから、充電中の電流と電圧を計測するだけで、二次電池30のSOC範囲が、満充電SOC範囲や非満充電SOC範囲であるか決定することができる。
【0106】
また、二次電池30が放電中の場合においても、電流閾値および電圧閾値を基準に、放電中の電流と電圧を計測するだけで、二次電池30のSOC範囲が、放電終止SOC範囲や非放電終止SOC範囲であるか決定することができる。
すなわち、満充電SOC範囲、非満充電SOC範囲、放電終止SOC範囲または非放電終止SOC範囲であるか決定できる場合には、SOCの推定誤差を解消し、SOC推定精度を向上させることができる。
【0107】
<他の実施形態>
本明細書で開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
【0108】
(1)上記実施形態では、蓄電素子の一例としてリン酸鉄系の正極活物質を使用したリチウムイオン二次電池を示した。しかしながら、これに限らず、蓄電素子としては、リチウムイオン二次電池以外の二次電池や、電気化学現象を伴うキャパシタ等でもよく、SOC−V相関関係において電圧平坦領域を有するものに好適であり、その電圧平坦領域が二カ所にあるものに限らず、1種類の電圧平坦領域のみ有するタイプの蓄電素子であってもよいし、3種類以上の電圧平坦領域を有するタイプの蓄電素子であってもよい。
【0109】
(2)上記実施形態では、制御部60の一例としてCPU61を例示した。しかしながら、これに限らず、制御部は、複数のCPUを備える構成や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハード回路でもよく、マイコン、FPGA、MPU、また、それらが組み合わされた構成でもよい。つまり、制御部は、SOC決定処理を、ソフトウェアまたはハード回路を利用して実行するものであればよい。
【0110】
(3)上記実施形態では、二次電池30のOCVがSOC−OCV相関関係においてどの領域にあるかを判定する際に、測定したOCVから領域を判断している。しかしながら、これに限らず、測定したOCVからSOCを求め、求めたSOCから領域を判定する構成にしてもよい。
【0111】
(4)上記実施形態では、第1の方法として、計測した電流値Iから算出する電流積算法を用い、第2の方法として電圧参照法(OCV法)や充放電中の電圧および電流を利用したSOC推定法を用いた構成とした。しかしながら、これに限らず、第1の方法として、電流値が一定と見なせる場合の時間積算法などを用いてもよく、第2の方法としては、カルマンフィルタを用いたOCV法などを用いてもよい。
【0112】
(5)上記実施形態では、SOC範囲(i)R1とSOC範囲(v)R2との2つのSOC範囲から新たなSOC範囲R3を決定する構成とした。しかしながら、これに限らず、2つのSOC範囲から新たなSOC範囲を決定し、新たなSOC範囲と、他の方法によって算出されたSOC範囲とから、さらに新たなSOC範囲を推定する構成にしてもよい。
【0113】
(6)上記実施形態では、2つのSOC範囲を決定し、それらの重複範囲を新たなSOC範囲R3とする構成とした。しかしながら、これに限らず、2つのSOC範囲とは異なる範囲を特定し、これら2つの異なる範囲ではない範囲を特定することにより、SOC範囲を特定してもよい。
【符号の説明】
【0114】
10:自動車(「車両」の一例)
12:車両負荷
13:車両側電子制御部
20:バッテリモジュール(「蓄電素子モジュール」の一例)
30:二次電池(「蓄電素子」の一例)
50:電池管理装置(「蓄電素子管理装置」の一例)
61:中央処理装置(「情報処理部」の一例)
63:メモリ
70:電圧計測部
80:電流計測部
R1:SOC範囲(i)(「第1SOC範囲」の一例)
R2:SOC範囲(v)(「第2SOC範囲」の一例)
R3:SOC範囲
図1
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