(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830323
(24)【登録日】2021年1月28日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】制振材の固定方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20210208BHJP
B63B 29/02 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
F16F15/02 S
B63B29/02
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-104596(P2016-104596)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-211023(P2017-211023A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 道雄
(72)【発明者】
【氏名】城本 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小出 竜馬
【審査官】
杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−138388(JP,A)
【文献】
実開昭57−127094(JP,U)
【文献】
特開2009−144377(JP,A)
【文献】
実開昭58−157851(JP,U)
【文献】
特開平08−068407(JP,A)
【文献】
実開昭51−089975(JP,U)
【文献】
特開2008−018710(JP,A)
【文献】
特開2008−018939(JP,A)
【文献】
船舶居住区の騒音低減に関する実証研究報告,財団法人日本船舶技術研究協会,日本,財団法人日本船舶技術研究協会,2012年 2月,p.1−p.17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
B63B 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船内に設けられている居住区を区画するスティフナー鋼壁に制振材を固定する制振材の固定方法において、
拘束層と、該拘束層における上記スティフナー鋼壁側に積層された粘弾性材からなる厚み範囲が0.5mm以上6.0mm以下の粘弾性層とを有する上記制振材を用意し、
上記制振材の上記粘弾性層を当該粘弾性層の粘着性によって上記スティフナー鋼壁に貼り付けておき、
その後、タッピングビスを上記拘束層に形成された挿通孔に挿通した後、上記スティフナー鋼壁に形成された下孔にねじ込んで上記タッピングビスの頭部を上記拘束層の上記挿通孔の周縁部に当接させることにより、上記拘束層を、上記粘弾性層を上記スティフナー鋼壁との間に介在させた状態で上記タッピングビスによって上記スティフナー鋼壁に取り付けることを特徴とする制振材の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材を鋼壁に固定する制振材の固定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の居住区は船員の生活の場となる所であることから、その居住環境を良好にすることは、船員の健康の面からも重要視されている。特に、居住区が機関室の真上に位置するような小型内航船では、居住区の騒音低減の要求が高い。
【0003】
そこで、例えば特許文献1、2に開示されているような船舶用制振材を使用することが考えられる。特許文献1、2の船舶用制振材は、鋼板等からなる拘束層と、ゴムやプラスチック等からなる樹脂層とからなり、被着体に被着された状態で使用される。拘束層を設けていることによって耐火性を向上させながら、樹脂層による制振効果が得られるようになっている。
【0004】
また、非特許文献1に開示されているように、船舶の壁は、コルゲート鋼壁やスティフナー鋼壁等からなる鋼壁に、カセットパネルやベニヤ板等からなる内装材を取り付けた構造となっている。そして、船舶用制振材は、鋼壁に対して溶接によって固定されるのが一般的となっている。このとき、制振材の端部周辺4カ所以上を、SUS溶接棒を用いて鋼壁に溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−18710号公報
【特許文献2】特開2008−18939号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】船舶居住区の騒音低減に関する実証研究報告、財団法人日本船舶技術研究協会、一般財団法人日本海事協会、2012年2月、p.2−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献1に開示されているように、制振材を鋼壁に固定する一般的な方法は溶接であることから、例えば特許文献1、2の場合、鋼板からなる拘束層を鋼壁に溶接することになる。鋼板からなる拘束層を鋼壁に溶接した場合、拘束層及び鋼壁の両方の材料が高剛性で硬度が高く、それらが剛結合されることになるので、加振力が作用した際に、拘束層と鋼壁との相対的な変位が許容されず、その結果、樹脂層による振動吸収性能を十分に高めることができないという問題があった。
【0008】
また、自動車や鉄道車両等においても同様な問題が想定される。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、制振材の拘束層と鋼壁との相対的な変位を許容させることができるようにして制振材による制振効果をより一層高めて騒音レベルを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、弾性層を拘束層と鋼壁との間に介在させ、拘束層を鋼壁に締結固定するようにした。
【0011】
第1の発明は、
船内に設けられている居住区を区画するスティフナー鋼壁に制振材を固定する制振材の固定方法において、
拘束層と、該拘束層における上記スティフナー鋼壁側に積層された粘弾性材からなる
厚み範囲が0.5mm以上6.0mm以下の粘弾性層とを有する上記制振材を用意し、
上記制振材の上記粘弾性層を当該粘弾性層の粘着性によって上記スティフナー鋼壁に貼り付けておき、
その後、
タッピングビスを上記拘束層に形成された挿通孔に挿通した後、上記スティフナー鋼壁に形成された下孔にねじ込んで上記タッピングビスの頭部を上記拘束層の上記挿通孔の周縁部に当接させることにより、上記拘束層を、上記粘弾性層を上記スティフナー鋼壁との間に介在させた状態で
上記タッピングビスによって上記スティフナー鋼壁に取り付け
ることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、拘束層が鋼壁に取り付けられた状態で粘弾性層が拘束層と鋼壁との間に介在しているので、拘束層が鋼壁に対して剛結合されなくなる。これにより、加振力が作用した際に、粘弾性層が弾性変形することで拘束層が鋼壁に対して相対的に変位可能となり、この粘弾性層の変形によって制振効果が向上する
。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、粘弾性層を拘束層と鋼壁との間に介在させ、拘束層を鋼壁に取り付けるようにしたので、制振材による制振効果をより一層高めて居住区内の騒音レベルを低減することができる
。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施形態に係る船舶用制振材の斜視図である。
【
図3】
図1におけるIII−III線断面図である。
【
図5】スタッド溶接ピンとワッシャによる固定構造を示す
図3相当図である。
【
図6】スタッド溶接ピンとワッシャによる固定構造の別の例を示す
図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0016】
(居住区の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る船舶用制振材1が固定された居住区Rの内部を示す斜視図である。居住区Rは、例えば小型内航船等の船内に設けられており、船員が生活等する場所となっている。居住区Rを区画しているのは、鋼壁10と、天井20と、図示しない床である。
図1に示す鋼壁10は、いわゆるスティフナー鋼壁であり、上下方向に延び、水平方向に所定の間隔をあけて配設された複数の縦材11、11、…と、隣り合う縦材11、11を連結するように延びる鋼板12、12、…とを備えている。この鋼板12に、複数の船舶用制振材1が互いに間隔をあけて固定されるようになっている。尚、本発明は、スティフナー鋼壁以外の鋼壁にも適用することができる。
【0017】
(船舶用制振材の構成)
船舶用制振材1は、
図2に示すように、全体として矩形の板状をなしており、拘束層2と粘弾性層3とが積層されて一体化してなるものである。拘束層2は、居住区R内側に配置される層である。拘束層2を構成する材料としては、例えば亜鉛メッキ鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム合金製板材等を挙げることができる。この拘束層2の厚みとしては、例えば0.2mm以上3.0mm以下が好ましい。拘束層2の周縁部には、複数の挿通孔2a、2a、…が互いに間隔をあけて形成されている。挿通孔2aは、船舶用制振材1の四隅にのみ設けてもよい。挿通孔2aには、後述する締結部材としてのタッピングビスA(
図4に示す)のねじ部が挿通する。
【0018】
粘弾性層3は、例えばゴム、アスファルト、熱可塑性エラストマー等の弾性材からなる層である。この粘弾性層3の厚みとしては、例えば0.5mm以上6.0mm以下が好ましく、より好ましくは、1.0mm以上4.0mm以下である。粘弾性層3は拘束層2の全体に対して固着されている。また、粘弾性層3は粘着性を持っている。尚、粘弾性層3は、少なくとも挿通孔2aの周囲と、鋼壁10の鋼板12との間に介在するように設けられていればよく、拘束層2の一部にだけ固着させてもよい。
【0019】
(船舶用制振材の固定要領)
次に、船舶用制振材1の固定要領について説明する。まず、
図4に示すように、鋼壁10を構成している鋼板12に、粘弾性層3の粘着性を利用して船舶用制振材1を貼り付ける。その後、図示しない電動ドリルの刃物を挿通孔2aに挿入して鋼板12に下孔12aを形成する。このとき、粘弾性層3にも孔が形成されることになる。下孔12aの形成部位は船舶用制振材1の拘束層2の挿通孔2aに対応する部位である。そして、船舶用制振材1の粘弾性層3を鋼壁12に密着させて船舶用制振材1を固定位置に仮固定しながら、締結部材としてのタッピングビスAのねじ部を拘束層2の挿通孔2aに挿通させる。タッピングビスAのねじ部を拘束層2の挿通孔2aに挿通させ、さらに押し込んで行くと、ねじ部が粘弾性層3を貫通して鋼板12の下孔12aに達する。
【0020】
そして、タッピングビスAを鋼板12の下孔12aにねじ込んでいく。このことでタッピングビスAの頭部が拘束層2の挿通孔2aの周縁部に当接する。このとき、タッピングビスAと、拘束層2の挿通孔2aの内周面との間には、全周に亘って隙間が形成されており、タッピングビスAの頭部によって拘束層2を押さえておく程度で固定しておく。この状態で、鋼壁10の鋼板12と拘束層2との間に粘弾性層3が介在した状態で、拘束層2がタッピングビスAによって鋼壁10の鋼板12に締結される。拘束層2は、鋼壁10の鋼板12に対して溶接等による剛結合がなされていない。ここで、剛結合とは、弾性材を介さずに拘束層2を鋼壁10の鋼板12に固定することである。
【0021】
尚、この実施形態では、締結部材としてタッピングビスAを使用しているが、これに限らず、図示しないが例えばボルトやリベット等の締結部材であってもよい。ボルトを使用する際には、ナットを鋼壁10の鋼板12に固定しておき、ボルトをナットに螺合させる方法の他、スタッドボルトを鋼壁10の鋼板12に設けておき、このスタッドボルトを拘束層2の挿通孔2aに挿通させ、ナットをスタッドボルトに螺合させるようにしてもよい。
【0022】
また、
図5に示すように、スタッド溶接ピン30とワッシャ31及びナット32とで固定部材を構成するようにしてもよい。スタッド溶接ピン30の基端部には被溶接部30aが設けられており、この被溶接部30aが鋼板12に溶接されている。スタッド溶接ピン30の被溶接部30aよりも先端側は、ねじ部30bとされている。ねじ部30bは粘弾性層3を貫通して拘束層2の挿通孔2aに挿通されている。ねじ部30bの先端側は、拘束層2の挿通孔2aから突出している。ワッシャ31は、スタッド溶接ピン30のねじ部30bにおける拘束層2から突出した部分にナット32によって固定される。この
図5に示す固定構造では、スタッド溶接ピン30のねじ部30bが、拘束層2の挿通孔2aの内周面に接触しないようになっている。
【0023】
また、
図6に示すように、スタッド溶接ピン40とワッシャ41とで固定部材を構成するようにしてもよい。スタッド溶接ピン40の基端部は鋼板12に溶接されている。スタッド溶接ピン40の先端側は粘弾性層3を貫通して拘束層2の挿通孔2aに挿通されている。また、スタッド溶接ピン40の先端側は、拘束層2の挿通孔2aから突出してワッシャ41に挿通されている。そして、スタッド溶接ピン40の先端側が、
図6に仮想線で示す直線形状から実線で示す形状となるまで折り曲げられ、これにより、スタッド溶接ピン40の先端側がワッシャ41に対して拘束層2とは反対側から接触して係合する。この係合状態にあるときには、スタッド溶接ピン40の基端側と先端側とのなす角度が略直角となるまで、スタッド溶接ピン40の先端側を折り曲げているので、ワッシャ41がスタッド溶接ピン40から抜けることはない。また、スタッド溶接ピン40は拘束層2の挿通孔2aの内周面に接触しないようになっている。
【0024】
(実施形態の作用効果)
上記のようにして船舶用制振材1が船舶の鋼壁10に固定されると、拘束層2が鋼壁10に締結固定された状態で粘弾性層3が拘束層2と鋼壁10との間に介在しているので、拘束層2が鋼壁10に対して剛結合されなくなる。これにより、加振力が作用した際に、粘弾性層3が弾性変形することで拘束層2が鋼壁10に対して相対的に変位可能となり、この粘弾性層3の変形によって制振効果が向上する。従って、居住区内の騒音レベルを低減することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0026】
実施例に係る船舶用制振材1の厚みは2.2mmであり、幅は300mmであり、長さは600mmである。また、拘束層2は、高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板であり、厚みは0.8mmである。粘弾性層3は、ブチルゴム系粘弾性体であり、厚みは1.4mmである。拘束層2の挿通孔2aは、拘束層2の4つの角部近傍と、長辺の中間部近傍にそれぞれ形成されており、合計6つある。挿通孔2aの径は5mmである。
【0027】
船舶用制振材1の振動減衰特性の試験方法は、JIS G 0602のつり下げ打撃加振法に基づいて行った。船舶用制振材1の長辺方向が上下方向となるように鋼板12に固定し、糸によって鋼板12を吊り下げた。鋼板12の厚みは8mmである。
【0028】
加速度ピックアップの取付位置は、船舶用制振材1の中心部、即ち、長辺方向の中心、かつ、短辺方向の中心である。また、加振位置は、船舶用制振材1の中心部から100mm下で、かつ、短辺方向の中心から50mmだけ短辺方向にオフセットした位置である。また、リアルタイム周波数分析器は、PULSE15.1(B&K社製)、チャージコンバータは、Type2647A(B&K社製)、インパクトハンマーは、Type8202(B&K社製)、加速度ピックアップは、Type4393(B&K社製)である。
【0029】
船舶用制振材1の4つの角部をタッピングビスAで鋼板12に固定した場合(4点ビス留め)、及び6箇所をタッピングビスAで鋼板12に固定した場合(6点ビス留め)の測定結果は表1に示す通りである。
【0030】
【表1】
【0031】
一方、比較例として、上記と同様な構成の船舶用制振材の拘束層の4つの角部を溶接により鋼板に固定した場合(4点溶接留め)、及び6箇所を溶接により鋼板に固定した場合(6点溶接留め)の測定結果は表2に示す通りである。
【0032】
【表2】
【0033】
上記測定結果から分かるように、船舶用制振材1をタッピングビスAで鋼板12に固定した場合、比較例に比べて損失係数が全域に亘って高くなっている。これは、加振力が作用した際に、粘弾性層3が弾性変形することで拘束層2が鋼板12に対して相対的に変位可能となり、この粘弾性層3の変形によって制振効果が向上したことによる。尚、
図5に示すスタッド溶接ピン30とワッシャ31とで固定部材を構成した場合や、
図6に示すスタッド溶接ピン40とワッシャ41とで固定部材を構成した場合も同様な制振効果が得られる。
【0034】
また、例えば、上記制振材1を自動車や鉄道車両の鋼壁に対して上記した構造を用いて固定することもできる。
【0035】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明に係る制振材の固定構造は、例えば船舶の鋼壁に制振材を固定する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 船舶用制振材
2 拘束層
2a 挿通孔
3 粘弾性層
10 鋼壁
R 居住区