特許第6830332号(P6830332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830332
(24)【登録日】2021年1月28日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20210208BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20210208BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210208BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   C09J7/38
   C09J153/02
   C09J11/06
   C09J11/08
【請求項の数】8
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-175607(P2016-175607)
(22)【出願日】2016年9月8日
(65)【公開番号】特開2018-39928(P2018-39928A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】岡原 快
(72)【発明者】
【氏名】大竹 宏尚
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−289857(JP,A)
【文献】 特開2015−187188(JP,A)
【文献】 特開2013−216852(JP,A)
【文献】 特開平04−359079(JP,A)
【文献】 特開昭62−43478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層を含む粘着シートであって、
前記粘着剤層は、不飽和ゴムと粘着付与樹脂とを含む粘着剤により構成されており、
前記不飽和ゴムはスチレンイソプレンブロック共重合体であり、該スチレンイソプレンブロック共重合体のジブロック体比率は60重量%以上であり、前記不飽和ゴムの含有量は前記粘着剤の50重量%以上であり、
前記粘着付与樹脂は、フェノール系粘着付与樹脂を含み、該フェノール系粘着付与樹脂の含有量は前記不飽和ゴム100重量部に対して5重量部以上60重量部以下であり、
前記粘着剤は、老化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤を含み、
前記粘着剤は、ゲル浸透クロマトグラフ測定に基づく分子量分布曲線からポリスチレン換算の分子量が10,000g/mol以上の領域について算出される重量平均分子量Mwが、80℃で4週間の老化試験において維持率70%以上である、粘着シート。
【請求項2】
前記粘着付与樹脂の含有量は、前記不飽和ゴム100重量部に対して10重量部以上120重量部以下である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂の軟化点は40℃以上である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂はフェノール系粘着付与樹脂を含み、
前記フェノール系粘着付与樹脂は、水酸基価20mgKOH/g以上のテルペンフェノール樹脂を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤は、前記不飽和ゴム100重量部に対するフェノール系粘着付与樹脂の含有量が30重量部以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記不飽和ゴムのモノマー組成に占める共役ジエン化合物の割合が70重量%以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記粘着剤層の厚さが30μm以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項8】
基材と、該基材の両面にそれぞれ支持された前記粘着剤層としての第一粘着剤層および第二粘着剤層と、を備える両面粘着性の粘着シートとして構成されている、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。かかる性質を活かして、粘着剤は、典型的には該粘着剤により構成された粘着剤層を含む粘着シートの形態で、作業性がよく接着の信頼性の高い接合手段として、家電製品から自動車、OA機器等の各種産業分野において広く利用されている。粘着剤のベースポリマーとしては、常温でゴム弾性を示すポリマーが好ましく採用される。そのようなポリマーの一例として、炭素−炭素不飽和結合を含む単量体単位を有するポリマー(例えば、共役ジエン化合物に基づく単量体単位を有するポリマー)が挙げられる。特許文献1には、ビニル芳香族単量体単位と共役ジエン単量体単位を有する部分水添ブロック共重合体(部分水添スチレンブタジエンブロック共重合体等)を含む粘接着組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−35039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着シートの利用分野や使用態様の広がりに伴い、製造後の粘着シートの長期的な品質安定性(以下、単に「品質安定性」ともいう。)に対する要求レベルが高まっている。この点において、不飽和ゴムを用いた粘着剤(特に、不飽和ゴムの含有量が比較的多い粘着剤)を含む粘着シートは、なお改良の余地があった。特に、不飽和ゴムに粘着付与樹脂を配合すると、凝集力(凝集性)の低下等の劣化が進みやすくなる傾向にあり、粘着シートの品質安定性が低下しがちであった。
【0005】
そこで本発明は、不飽和ゴムに粘着付与樹脂が配合された組成の粘着剤を備えた構成において、長期的な品質安定性に優れた粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書により提供される粘着シートは、不飽和ゴムと粘着付与樹脂とを含む粘着剤により構成された粘着剤層を含む。上記粘着剤は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定に基づく分子量分布曲線からポリスチレン換算の分子量が10,000g/mol以上の領域について算出される重量平均分子量Mwが、80℃で4週間の老化試験において維持率70%以上である。ここに開示される技術によると、上記重量平均分子量Mwを指標とすることにより、粘着剤の劣化の程度を的確に把握することができる。上記老化試験におけるMwの維持率(以下「Mw維持率」ともいう。)が70%以上である粘着シートは、品質安定性に優れたものとなり得る。また、不飽和ゴムに粘着付与樹脂を配合することが許容されているので、上記粘着シートによると、優れた粘着特性(例えば、タックや剥離強度)と長期的な品質安定性とを両立することができる。
【0007】
いくつかの態様において、上記粘着剤における上記不飽和ゴムの含有量は、該粘着剤の30重量%以上であり得る。このように不飽和ゴムを比較的多く含む粘着剤は、粘着特性の向上に有利である一方、上記不飽和ゴム中の不飽和結合のため劣化が進みやすい傾向にある。ここに開示される技術によると、このような構成においても品質安定性のよい粘着シートを提供することができる。
【0008】
いくつかの態様において、上記粘着付与樹脂の含有量は、上記不飽和ゴム100重量部に対して10重量部以上120重量部以下であり得る。かかる組成の粘着剤によると、優れた粘着特性(例えば、タックや剥離強度)が得られやすい。ここに開示される技術によると、このような組成の粘着剤を用いる構成においても、品質安定性のよい粘着シートを提供することができる。
【0009】
いくつかの態様において、上記粘着付与樹脂はフェノール系粘着付与樹脂を含み得る。フェノール系粘着付与樹脂は、粘着特性の向上に寄与し得る一方、粘着剤の劣化を促進する要因となりやすい。ここに開示される技術によると、フェノール系粘着付与樹脂を含む構成においても品質安定性のよい粘着シートを提供することができる。フェノール系粘着付与樹脂の含有量は、例えば、上記不飽和ゴム100重量部に対して5重量部以上60重量部以下とすることができる。このような組成において、フェノール系粘着付与樹脂の使用による粘着特性の向上効果が好適に発揮され得る。フェノール系粘着付与樹脂としては、例えば、テルペンフェノール樹脂を好ましく採用し得る。
【0010】
ここに開示される技術は、上記粘着付与樹脂がフェノール粘着付与樹脂を含み、該フェノール系粘着付与樹脂が水酸基価20mgKOH/g以上のテルペンフェノール樹脂を含む態様で好ましく実施され得る。このような構成によると、優れた粘着特性と品質安定性とを好適に両立することができる。
【0011】
上記粘着剤は、不飽和ゴムおよび粘着付与樹脂に加えて、さらに老化防止剤を含み得る。老化防止剤の使用により、不飽和ゴムと粘着付与樹脂とを組み合わせて含む粘着剤のMw維持率を効果的に高め、粘着シートの長期的な品質安定性の向上(長寿命化)を図ることができる。老化防止剤としては、例えば、ラジカル捕捉剤とイオウ系酸化防止剤とを組み合わせて用いることが効果的である。また、老化防止剤としてリン系酸化防止剤を用いてもよい。ラジカル捕捉剤(例えば、フェノール系酸化防止剤)とイオウ系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を組み合わせて用いることにより、より高い効果が発揮され得る。
【0012】
いくつかの態様において、上記粘着剤は、上記不飽和ゴム100重量部に対するフェノール系粘着付与樹脂の含有量が30重量部以下であることが好ましい。フェノール系粘着付与樹脂の含有量が0重量部、すなわちフェノール系粘着付与樹脂を含まない粘着剤であってもよい。このように、粘着付与樹脂のなかでもフェノール系粘着付与樹脂の量に着目してその含有量の上限を制限することにより、粘着剤のMw維持率を効果的に高め、品質安定性のよい(長寿命な)粘着シートを提供することができる。
【0013】
いくつかの態様において、上記不飽和ゴムは、共役ジエン化合物を含むモノマー組成を有し、該モノマー組成に占める共役ジエン化合物の割合が70重量%以上であり得る。このように共役ジエン化合物が多く用いられた不飽和ゴムを含む粘着剤は、粘着付与樹脂を含む組成において優れた粘着特性を発揮し得る一方、劣化が進みやすい傾向にある。ここに開示される技術によると、このような構成においても品質安定性のよい粘着シートを提供することができる。
【0014】
いくつかの態様において、上記不飽和ゴムは、モノビニル置換芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体を含み得る。このようなブロック共重合体と粘着付与樹脂とを含む粘着剤は、優れた粘着特性を発揮するものとなり得る。したがって、かかる粘着剤を備える粘着シートによると、優れた粘着特性と品質安定性とを好適に両立することができる。上記ブロック共重合体としては、タックや低温特性向上等の観点から、ジブロック体比率が60重量%以上であるものを好ましく採用し得る。
【0015】
いくつかの態様において、上記粘着剤層の厚さは30μm以上であり得る。粘着剤層が厚くなると、粘着シートの剥離強度は向上する傾向にある一方、粘着剤層の内部での構造破壊(凝集破壊)が起こりやすくなることがあり得る。したがって、ここに開示される技術を適用して凝集性の低下を抑制することが特に有意義である。
【0016】
ここに開示される技術は、基材と、該基材の両面にそれぞれ支持された上記粘着剤層としての第一粘着剤層および第二粘着剤層と、を備える両面粘着性の粘着シートの形態で好ましく実施され得る。両面粘着性の粘着シート、すなわち両面粘着シートは、部材を固定する用途に適している。部材の固定においては、該部材の位置ズレや脱落(固定状態の解消)を防ぐ観点から、粘着シートの貼付け後、長期間にわたって粘着剤の凝集性の低下を抑制することが好ましい。したがって、ここに開示される技術を適用して粘着剤の凝集性の低下を抑制することが特に有意義である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る粘着シート(基材付き両面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
図2】他の実施形態に係る粘着シート(基材レス両面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
図3】他の実施形態に係る粘着シート(基材付き片面粘着シート)の構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を正確に表したものではない。
【0019】
この明細書において「粘着剤」とは、前述のように、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料をいう。ここに開示される技術における粘着剤は、粘着剤組成物の固形分または粘着剤層の構成成分としても把握され得る。
【0020】
この明細書において「不飽和ゴム」とは、炭素−炭素不飽和結合を含む単量体単位を有し、室温(例えば23℃)においてゴム弾性を示すポリマーをいう。典型的な不飽和ゴムは、主鎖に炭素−炭素不飽和結合を含む。
【0021】
この明細書において「モノビニル置換芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体」とは、モノビニル置換芳香族化合物を主モノマー(50重量%を超える共重合成分をいう。以下同じ。)とするセグメント(以下「Aセグメント」ともいう。)と、共役ジエン化合物を主モノマーとするセグメント(以下「Bセグメント」ともいう。)とを、それぞれ少なくとも一つ有するポリマーをいう。一般に、Aセグメントのガラス転移温度はBセグメントのガラス転移温度よりも高い。かかるポリマーの代表的な構造として、Bセグメント(ソフトセグメント)の両端にそれぞれAセグメント(ハードセグメント)を有するトリブロック構造の共重合体(A−B−A構造のトリブロック体)、一つのAセグメントと一つのBセグメントとからなるジブロック構造の共重合体(A−B構造のジブロック体)等が挙げられる。
【0022】
この明細書において「スチレン系ブロック共重合体」とは、少なくとも一つのスチレンブロックを有するポリマーを意味する。上記スチレンブロックとは、スチレンを主モノマーとするセグメントを指す。実質的にスチレンのみからなるセグメントは、ここでいうスチレンブロックの典型例である。また、「スチレンイソプレンブロック共重合体」とは、少なくとも一つのスチレンブロックと、少なくとも一つのイソプレンブロック(イソプレンを主モノマーとするセグメント)とを有するポリマーをいう。スチレンイソプレンブロック共重合体の代表例として、イソプレンブロック(ソフトセグメント)の両端にそれぞれスチレンブロック(ハードセグメント)を有するトリブロック構造の共重合体(トリブロック体)、一つのイソプレンブロックと一つのスチレンブロックとからなるジブロック構造の共重合体(ジブロック体)等が挙げられる。「スチレンブタジエンブロック共重合体」とは、少なくとも一つのスチレンブロックと、少なくとも一つのブタジエンブロック(ブタジエンを主モノマーとするセグメント)とを有するポリマーをいう。
【0023】
この明細書において、スチレン系ブロック共重合体の「スチレン含有量」とは、当該ブロック共重合体の全体重量に占めるスチレン成分の重量割合をいう。上記スチレン含有量は、NMR(核磁器共鳴スペクトル法)により測定することができる。
また、スチレン系ブロック共重合体に占めるジブロック体の割合(以下「ジブロック体比率」または「ジブロック比」ということがある。)は、次の方法により求められる。すなわち、スチレン系ブロック共重合体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、東ソー(株)製GS5000HおよびG4000Hの液体クロマトグラフ用カラムをそれぞれ2段ずつ計4段を直列につなぎ、移動相にTHFを用いて、温度40℃、流量1mL/分の条件下で高速液体クロマトグラフィを行う。得られたチャートからジブロック体に対応するピーク面積を測定する。そして、全体のピーク面積に対する上記ジブロック体に対応するピーク面積の百分率を算出することにより、ジブロック体比率が求められる。
【0024】
この明細書において、分子量または重量平均分子量を表す数値は、特記しない場合、「g/mol」の単位を伴う数値として理解される。また、GPC測定に関連する分子量は、特記しない場合、ポリスチレン換算の分子量を意味するものとする。
【0025】
<粘着シートの構造例>
ここに開示される粘着シート(テープ状等の長尺状の形態であり得る。)は、例えば、図1に示す断面構造を有する両面粘着シートの形態であり得る。この両面粘着シート1は、基材(例えばプラスチックフィルムや不織布)15と、その基材15の両面にそれぞれ支持された第一粘着剤層11および第二粘着剤層12とを備える。より詳しくは、基材15の第一面15Aおよび第二面15B(いずれも非剥離性)に、第一粘着剤層11および第二粘着剤層12がそれぞれ設けられている。使用前(被着体への貼り付け前)の両面粘着シート1は、図1に示すように、前面21Aおよび背面21Bがいずれも剥離面である剥離ライナー21と重ね合わされて渦巻き状に巻回された形態であり得る。かかる形態の両面粘着シート1は、第二粘着剤層12の表面(第二粘着面12A)が剥離ライナー21の前面21Aにより、第一粘着剤層11の表面(第一粘着面11A)が剥離ライナー21の背面21Bにより、それぞれ保護されている。あるいは、第一粘着面11Aおよび第二粘着面12Aが2枚の独立した剥離ライナーによりそれぞれ保護された形態であってもよい。
【0026】
ここに開示される技術は、図1に示すような基材付き両面粘着シートに好ましく適用されるほか、図2に示すような基材レスの(すなわち、基材を有しない)両面粘着シート2にも適用され得る。使用前の両面粘着シート2は、例えば図2に示すように、基材レスの粘着剤層11の第一粘着面11Aおよび第二粘着面11Bが、少なくとも該粘着剤層側の表面(前面)が剥離面となっている剥離ライナー21,22によってそれぞれ保護された形態であり得る。あるいは、剥離ライナー22を省略し、両面が剥離面となっている剥離ライナー21を用い、これと粘着剤層11とを重ね合わせて渦巻き状に巻回することにより第二粘着面11Bが剥離ライナー21の背面に当接して保護された形態であってもよい。
【0027】
ここに開示される技術は、また、図3に示すように、基材15と該基材の第一面(非剥離面)15Aに支持された粘着剤層11とを備える片面粘着タイプの基材付き粘着シート3にも適用され得る。使用前の粘着シート3は、例えば図3に示すように、その粘着剤層11の表面(粘着面)11Aが、少なくとも該粘着剤層側の表面(前面)が剥離面となっている剥離ライナー21で保護された形態であり得る。あるいは、剥離ライナー21を省略し、第二面15Bが剥離面となっている基材15を用い、基材付き粘着シート3を巻回することにより第一粘着面11Aが基材15の第二面15Bに当接して保護された形態であってもよい。
【0028】
ここに開示される粘着シートは、不飽和ゴムおよび粘着付与樹脂を含む粘着剤により構成された粘着剤層を含み、かつ該粘着剤のMw維持率が70%以上であることによって特徴付けられる。粘着剤のMw維持率は、80℃で4週間の老化試験後における粘着剤の重量平均分子量Mw(老化後Mw)の、該老化試験の前における粘着剤の重量平均分子量Mw(老化前Mw)に対する比として定義される。上記老化試験は、粘着剤層の表面(粘着面)に剥離ライナーを貼り合わせた粘着シートを、80℃の大気雰囲気下に4週間保管することにより行う。剥離ライナーとしては、剥離紙(例えば、剥離処理されたポリラミ紙)を好ましく利用し得る。剥離ライナーの厚さは特に限定されず、例えば20μm〜150μm程度(典型的には25μm〜100μm程度)の厚さのものを適宜選択して使用することができる。老化試験は、より具体的には後述する実施例に記載の方法で行うことができる。
【0029】
<Mw維持率>
この明細書において,粘着剤の重量平均分子量Mw(単に「Mw」と表記することもある。)とは、GPC測定により得られる分子量分布曲線から、ポリスチレン換算の分子量が10,000以上の領域について算出される重量平均分子量をいう。これに対して、上記分子量分布曲線の全体について(すなわち、ポリスチレン換算の分子量が10,000未満の領域を含めて)算出される重量平均分子量を、重量平均分子量Mwということがある。GPC測定用のサンプルとしては、粘着シートから採取した粘着剤をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して0.1重量%の溶液とし、これを一晩静置した後、0.45μmのメンブレンフィルターで濾過した濾液を使用する。GPC測定は、以下の条件またはこれと同等の結果が得られる条件で行うことができる。後述する実施例においても同様の方法が用いられる。
・分析装置:東ソー社製、HLC−8120GPC
・カラム:TSKgel SuperHZM−H/HZ4000/HZ3000/HZ2000
・カラムサイズ:6.0mmI.D.×150mm
・溶離液:THF
・流量:0.6mL/min
・検出器:示差屈折計(RI)
・カラム温度:40℃
・注入量:20μL
・標準試料:ポリスチレン
【0030】
不飽和ゴムおよび粘着付与樹脂を含む粘着剤において、粘着付与樹脂としては、通常、不飽和ゴムよりも重量平均分子量Mwの低いものが用いられる。このような粘着剤のGPC測定により得られる分子量分布曲線において、上記粘着付与樹脂に対応するピークは、典型的には、分子量が数百〜数千程度の領域に現れる。ここに開示される技術によると、かかる領域を除いた高分子量領域(具体的には、分子量10,000以上の領域)の分子量分布曲線についての重量平均分子量Mwに着目することによって、粘着シートの品質低下を引き起こし得る不飽和ゴムの変質や劣化を的確に把握することができる。この重量平均分子量Mwの老化試験後における維持率(Mw維持率)が70%以上である粘着シートによると、優れた粘着特性と長期的な品質安定性(例えば、経時による凝集性の低下が少ない性質)とを両立することができる。
【0031】
いくつかの態様において、Mw維持率は、凡そ75%以上であってよく、凡そ80%以上であってもよく、凡そ85%以上であってもよい。ここに開示される技術は、Mw維持率が凡そ87%以上である態様や、凡そ90%以上である態様でも好適に実施され得る。Mw維持率が100%に近いほど、粘着シートの品質安定性は高くなる傾向にある。したがって、ここに開示される技術において、Mw維持率の上限は100%であり得る。あるいは、他の粘着特性とのバランスや経済性を考慮して、実用上の観点から、Mw維持率が100%未満(例えば99%以下)であってもよい。Mw維持率は、例えば、不飽和ゴムの選択、不飽和ゴムの使用量、粘着付与樹脂の選択、粘着付与樹脂の使用量等により調節することができる。また、粘着剤が老化防止剤を含む組成では、老化防止剤の選択や、老化防止剤の使用量によってもMw維持率を調節することができる。
【0032】
特に限定するものではないが、ここに開示される粘着シートのMw(すなわち、老化前Mw)は、通常、凡そ80,000以上であることが適当であり、凡そ100,000以上であってもよく、凡そ130,000以上であってもよく、凡そ150,000以上であってもよい。粘着シートのMwが高くなると、凝集性は概して向上する傾向にある。また、粘着シートのMwは、例えば凡そ1,000,000以下であってよく、凡そ800,000以下であってもよく、凡そ600,000以下であってもよい。粘着シートのMwが低くなると、タックや剥離強度(特に、低温下におけるこれらの特性、すなわち低温特性)は概して向上する傾向にある。かかる観点から、いくつかの態様において、粘着シートのMwは、凡そ400,000以下であってよく、凡そ300,000以下であってもよく、凡そ250,000以下であってもよく、凡そ200,000以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、Mwが凡そ130,000以上凡そ200,000以下である粘着シートの形態で好適に実施され得る。粘着シートのMwは、不飽和ゴムの選択等により調節することができる。また、架橋剤を含む組成では、架橋剤の種類や、架橋剤の使用量によっても調節することができる。
【0033】
特に限定するものではないが、ここに開示される粘着シートは、老化試験後のMw(すなわち、老化後Mw)が凡そ70,000以上であることが適当であり、凡そ90,000以上であることが好ましく、凡そ100,000以上(例えば凡そ120,000以上)であることがより好ましい。老化後Mwが高くなると、長期間経過後においてもより良好な粘着特性(例えば凝集性)が発揮される傾向にある。
【0034】
<不飽和ゴム>
不飽和ゴムとしては、炭素−炭素不飽和結合を含む単量体単位を有する各種のゴム状ポリマーを用いることができる。いくつかの態様において、上記不飽和ゴムは、共役ジエン化合物の単独重合体や共重合体であり得る。共役ジエン化合物の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。ここでいう共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。そのような不飽和ゴムの非限定的な例には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソブテン−イソプレンゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンイソプレンブロック共重合体、およびスチレンブタジエンブロック共重合体等が含まれる。いくつかの態様において、イソプレンを含むモノマー組成の不飽和ゴムを好ましく採用し得る。かかるモノマー組成の不飽和ゴムは、イソプレン構造の存在により自動酸化反応が進みやすくなる傾向にあるため、ここに開示される技術を適用する意義が大きい。
【0035】
共役ジエン化合物を含むモノマー組成の不飽和ゴムにおいて、該モノマー組成に占める共役ジエン化合物の割合は、特に限定されない。粘着特性向上の観点から、上記共役ジエン化合物の割合は、例えば60重量%以上とすることができ、通常は65重量%以上が適当であり、70重量%以上であることが好ましく、75重量%以上であってもよく、80重量%以上(典型的には80重量%超、例えば82重量%以上)であってもよい。ここに開示される技術によると、このように共役ジエン化合物を多く含むモノマー組成の不飽和ゴムを用いた粘着剤においても、品質安定性のよい粘着シートが提供され得る。
【0036】
(モノビニル置換芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体)
いくつかの態様において、上記不飽和ゴムは、モノビニル置換芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体を含有し得る。上記モノビニル置換芳香族化合物とは、ビニル基を有する官能基が芳香環に一つ結合した化合物を指す。上記芳香環の代表例として、ベンゼン環(ビニル基を有しない官能基(例えばアルキル基)で置換されたベンゼン環であり得る。)が挙げられる。上記モノビニル置換芳香族化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等が挙げられる。上記共役ジエン化合物の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。このようなブロック共重合体は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて、ここに開示される技術における不飽和ゴムとして用いられ得る。
【0037】
上記ブロック共重合体におけるAセグメント(ハードセグメント)は、上記モノビニル置換芳香族化合物(2種以上を併用し得る。)の共重合割合が70重量%以上(より好ましくは90重量%以上であり、実質的に100重量%であってもよい。)であることが好ましい。上記ブロック共重合体におけるBセグメント(ソフトセグメント)は、上記共役ジエン化合物(2種以上を併用し得る。)の共重合割合が70重量%以上(より好ましくは90重量%以上であり、実質的に100重量%であってもよい。)であることが好ましい。かかるブロック共重合体によると、より高性能な粘着シートが実現され得る。
【0038】
上記ブロック共重合体は、ジブロック体、トリブロック体、放射状(radial)体、これらの混合物、等の形態であり得る。トリブロック体や放射状体においては、ポリマー鎖の末端にAセグメント(例えばスチレンブロック)が配されていることが好ましい。ポリマー鎖の末端に配されたAセグメントは、集まってドメインを形成しやすく、これにより疑似的な架橋構造が形成されて粘着剤の凝集性が向上するためである。
ここに開示される技術におけるブロック共重合体としては、被着体に対する粘着力(剥離強度)の観点から、ジブロック体比率が30重量%以上(より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは60重量%以上、典型的には65重量%以上)のものを好ましく用いることができる。剥離強度の観点から、ジブロック体比率が70重量%以上のブロック共重合体が特に好ましい。また、凝集性等の観点から、ジブロック体比率が90重量%以下(より好ましくは85重量%以下、例えば80重量%以下)のブロック共重合体を好ましく用いることができる。例えば、ジブロック体比率が60〜85重量%のブロック共重合体が好ましく、70〜85重量%(例えば70〜80重量%)のものがより好ましい。
【0039】
(スチレン系ブロック共重合体)
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記不飽和ゴムがスチレン系ブロック共重合体である。例えば、上記不飽和ゴムがスチレンイソプレンブロック共重合体およびスチレンブタジエンブロック共重合体の少なくとも一方を含む態様が好ましい。粘着剤に含まれるスチレン系ブロック共重合体のうち、スチレンイソプレンブロック共重合体の割合が70重量%以上であるか、スチレンブタジエンブロック共重合体の割合が70重量%以上であるか、あるいはスチレンイソプレンブロック共重合体とスチレンブタジエンブロック共重合体との合計割合が70重量%以上であることが好ましい。好ましい一態様では、上記スチレン系ブロック共重合体の実質的に全部(例えば95〜100重量%)がスチレンイソプレンブロック共重合体である。他の好ましい一態様では、上記スチレン系ブロック共重合体の実質的に全部(例えば95〜100重量%)がスチレンブタジエンブロック共重合体である。このような組成によると、ここに開示される技術を適用することの効果がよりよく発揮され得る。
【0040】
上記スチレン系ブロック共重合体は、ジブロック体、トリブロック体、放射状(radial)体、これらの混合物、等の形態であり得る。トリブロック体および放射状体においては、ポリマー鎖の末端にスチレンブロックが配されていることが好ましい。ポリマー鎖の末端に配されたスチレンブロックは、集まってスチレンドメインを形成しやすく、これにより疑似的な架橋構造が形成されて粘着剤の凝集性が向上するためである。ここに開示される技術において用いられるスチレン系ブロック共重合体としては、被着体に対する粘着力(剥離強度)の観点から、ジブロック体比率が30重量%以上(より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは60重量%以上、典型的には65重量%以上)のものを好ましく用いることができる。ジブロック体比率が70重量%以上(例えば75重量%以上)のスチレン系ブロック共重合体であってもよい。また、凝集性等の観点から、ジブロック体比率が90重量%以下(より好ましくは85重量%以下、例えば80重量%以下)のスチレン系ブロック共重合体を好ましく用いることができる。粘着特性と凝集性とをバランス良く両立させる観点から、ジブロック体比率が60〜85重量%のスチレン系ブロック共重合体が好ましく、70〜85重量%(例えば70〜80重量%)のスチレン系ブロック共重合体がより好ましい。
【0041】
上記スチレン系ブロック共重合体のスチレン含有量は、例えば、5〜40重量%であり得る。凝集性の観点から、スチレン含有量が10重量%以上(より好ましくは10重量%超、例えば12重量%以上)のスチレン系ブロック共重合体が好ましい。また、剥離強度の観点から、スチレン含有量は35重量%以下(典型的には30重量%以下、より好ましくは25重量%以下)が好ましく、20重量%以下(典型的には20重量%未満、例えば18重量%以下)が特に好ましい。ここに開示される技術を適用することの効果をよりよく発揮させる観点から、スチレン含有量が12重量%以上20重量%未満のスチレン系ブロック共重合体を好ましく採用し得る。
【0042】
(不飽和ゴムの含有量)
ここに開示される粘着剤において、上述のような不飽和ゴム(例えば、スチレンイソプレンブロック共重合体)の含有量は、例えば、上記粘着剤全体の凡そ10重量%以上であってよく、凡そ20重量%以上であってもよい。いくつかの態様において、粘着剤における不飽和ゴムの含有量は、該粘着剤の凡そ30重量%以上であってよく、凡そ40重量%以上であってもよく、凡そ50重量%以上であってもよい。このことによって、より粘着特性に優れた粘着シートが形成されやすくなる。また、粘着剤における不飽和ゴムの含有量が多くなるにつれて該粘着剤の劣化は進みやすくなる傾向にあるため、ここに開示される技術を適用することによる効果がよりよく発揮され得る。かかる観点から、上記不飽和ゴムの含有量は、凡そ55重量%以上であってもよく、凡そ60重量%以上であってもよい。一方、粘着付与樹脂の使用効果を好適に発揮する観点から、粘着剤における不飽和ゴムの含有量は、通常、凡そ95重量%以下とすることが適当であり、凡そ90重量%以下であってもよく、凡そ80重量%以下であってもよく、凡そ75重量%以下であってもよく、凡そ70重量%以下であってもよい。ここに開示される技術は、上記不飽和ゴムの含有量が凡そ65重量%以下(例えば凡そ60重量%以下)である態様でも好ましく実施され得る。
【0043】
<粘着付与樹脂>
ここに開示される粘着剤層は、不飽和ゴムに加えて粘着付与樹脂を含む。粘着付与樹脂としては、フェノール系粘着付与樹脂、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、ロジン系粘着付与樹脂、石油樹脂、スチレン樹脂、クマロン・インデン樹脂、ケトン系樹脂等の、公知の各種粘着付与樹脂から選択される1種または2種以上を用いることができる。粘着付与樹脂としては、特に限定されないが、例えば軟化点が40℃以上のものを用いることができ、軟化点が60℃以上または80℃以上のものが好ましい。粘着付与樹脂の軟化点は、例えば200℃以下(典型的には180℃以下)であり得る。
【0044】
ここでいうフェノール系粘着付与樹脂とは、フェノール骨格を含む分子構造を有する粘着付与樹脂を意味し、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペンフェノール樹脂、フェノール樹脂、ロジンフェノール樹脂等を包含する概念である。
テルペンフェノール樹脂とは、テルペン残基およびフェノール残基を含むポリマーを指し、テルペン類とフェノール類との共重合体(テルペン−フェノール共重合体樹脂)と、テルペン類の単独重合体または共重合体をフェノール変性したもの(フェノール変性テルペン樹脂)との双方を包含する概念である。このようなテルペンフェノール樹脂を構成するテルペン類の好適例としては、α−ピネン、β−ピネン、リモネン(d体、l体およびd/l体(ジペンテン)を包含する。)等のモノテルペン類が挙げられる。水素添加テルペンフェノール樹脂とは、このようなテルペンフェノール樹脂を水素化した構造を有する水素添加テルペンフェノール樹脂をいう。水添テルペンフェノール樹脂と称されることもある。なお、上記フェノール類としては、例えば、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、p−アルキルフェノール、レゾルシン等が挙げられる。
フェノール樹脂は、典型的には、前述のような各種フェノール類とホルムアルデヒドから得られる樹脂である。具体的には、フェノール樹脂には、例えば、アルキルフェノール樹脂、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂等が含まれる。フェノール樹脂の例には、前述のフェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒で付加反応させたレゾールタイプのものや、前述のフェノール類とホルムアルデヒドとを酸触媒で縮合反応させて得られるノボラックタイプのものが含まれる。
ロジンフェノール樹脂は、典型的には、ロジン類またはロジン誘導体(ロジンエステル類、不飽和脂肪酸変性ロジン類および不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類を包含する。)のフェノール変性物である。ロジンフェノール樹脂の例には、ロジン類またはロジン誘導体に前述のようなフェノール類を酸触媒で付加させ熱重合する方法等により得られるロジンフェノール樹脂が含まれる。
【0045】
テルペン樹脂の例には、α−ピネン、β−ピネン、d−リモネン、l−リモネン、ジペンテン等のテルペン類(典型的にはモノテルペン類)の重合体が含まれる。1種のテルペン類の単独重合体であってもよく、2種以上のテルペン類の共重合体であってもよい。1種のテルペン類の単独重合体としては、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、ジペンテン重合体等が挙げられる。
【0046】
変性テルペン樹脂の例としては、上記テルペン樹脂を変性したものが挙げられる。具体的には、スチレン変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が例示される。
【0047】
ここでいうロジン系粘着付与樹脂の概念には、ロジン類およびロジン誘導体樹脂の双方が包含される。
ロジン類の例には、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水素添加、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);が含まれる。
ロジン誘導体樹脂は、典型的には上記のようなロジン類の誘導体である。ここでいうロジン系樹脂の概念には、未変性ロジンの誘導体および変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジンおよび重合ロジンを包含する。)の誘導体が包含される。例えば、未変性ロジンとアルコール類とのエステルである未変性ロジンエステルや、変性ロジンとアルコール類とのエステルである変性ロジンエステル等のロジンエステル類;例えば、ロジン類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;例えば、ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;例えば、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体(ロジンエステル類、不飽和脂肪酸変性ロジン類および不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類を包含する。)のカルボキシ基を還元処理したロジンアルコール類;例えば、ロジン類または上記の各種ロジン誘導体の金属塩;等が挙げられる。ロジンエステル類の具体例としては、未変性ロジンまたは変性ロジン(水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)のメチルエステル、トリエチレングリコールエステル、グリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。
【0048】
石油樹脂の例としては、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系(C5/C9系)石油樹脂、これらの水素添加物(例えば、芳香族系石油樹脂に水素添加して得られる脂環族系石油樹脂)等が挙げられる。
【0049】
スチレン樹脂の例としては、スチレンの単独重合体を主成分とするもの、α−メチルスチレンの単独重合体を主成分とするもの、ビニルトルエンの単独重合体を主成分とするもの、スチレン、α−メチルスチレンおよびビニルトルエンのうち2種以上をモノマー組成に含む共重合体を主成分とするもの(例えば、α−メチルスチレン/スチレン共重合体を主成分とするα−メチルスチレン/スチレン共重合体樹脂)等が挙げられる。
【0050】
クマロン・インデン樹脂としては、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分としてクマロンおよびインデンを含む樹脂を用いることができる。クマロンおよびインデン以外に樹脂の骨格に含まれ得るモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエン等が例示される。
【0051】
ケトン系樹脂としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類と、ホルムアルデヒドとの縮合物等が挙げられる。
【0052】
好ましい一態様として、粘着剤層が、1種または2種以上のフェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)を含む態様が挙げられる。不飽和ゴム(例えば、スチレン系ブロック共重合体)にフェノール系粘着付与樹脂を配合することにより、粘着特性が効果的に改善され得る。このことによって、粘着特性に優れ、かつ長期的な品質安定性のよい(長寿命な)粘着シートが実現され得る。
粘着剤層がフェノール系粘着付与樹脂を含む場合、その含有量は特に制限されない。フェノール系粘着付与樹脂の含有量は、不飽和ゴム100重量部に対して、例えば1重量部以上とすることができ、通常は5重量部以上が適当であり、10重量部以上であってもよく、15重量部以上であってもよい。いくつかの態様において、不飽和ゴム100重量部に対するフェノール系粘着付与樹脂の含有量は、20重量部以上であってもよく、30重量部以上(例えば35重量部以上)であってもよい。また、粘着剤の低温特性や相溶性の観点から、不飽和ゴム100重量部に対するフェノール系粘着付与樹脂の含有量は、通常、60重量部以下であることが適当であり、50重量部以下であってもよい。より品質安定性を重視する観点から、いくつかの態様において、不飽和ゴム100重量部に対するフェノール系粘着付与樹脂の含有量は、例えば40重量部未満であってよく、35重量部以下であってもよく、30重量部以下であってもよく、25重量部以下であってもよい。
【0053】
フェノール系粘着付与樹脂を用いる場合、粘着付与樹脂全体に占めるフェノール系粘着付与樹脂量は、例えば25重量%以上であってよく、30重量%以上であってもよく、50重量%以上であってもよく、80重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)がフェノール系粘着付与樹脂であってもよい。このような構成において、フェノール系粘着付与樹脂の使用による効果が好適に発揮され得る。また、いくつかの態様において、粘着付与樹脂全体に占めるフェノール系粘着付与樹脂量は、低温特性や品質安定性向上等の観点から、例えば70重量%以下であってよく、60重量%以下であってもよく、45重量%以下であってもよい。
【0054】
いくつかの態様において、使用するフェノール系粘着付与樹脂全体に占めるテルペンフェノール樹脂の量は、例えば50重量%以上とすることができ、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。フェノール系粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)がテルペンフェノール樹脂であってもよい。ここに開示される技術は、このような態様で好適に実施されて、粘着特性がよくかつ長寿命な粘着シートを提供し得る。
【0055】
(粘着付与樹脂T
ここに開示される粘着剤層は、上記粘着付与樹脂として、軟化点が100℃以上の粘着付与樹脂Tを含有する。凝集性の観点から、粘着付与樹脂Tの軟化点は、120℃以上が好ましく、125℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましく、135℃以上(例えば140℃以上)が特に好ましい。また、被着体に対する剥離強度等の観点から、粘着付与樹脂Tの軟化点は、200℃以下が適当であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下(例えば160℃以下)である。
【0056】
ここで、この明細書において粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K5902およびJIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、泡ができないように注意して満たす。冷えたのち、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。つぎに、径85mm以上、高さ127mm以上のガラス容器(加熱浴)の中に支持器(環台)を入れ、グリセリンを深さ90mm以上となるまで注ぐ。つぎに、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにしてグリセリン中に浸し、グリセリンの温度を20℃プラスマイナス5℃に15分間保つ。つぎに、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。つぎに、環の上端からグリセリン面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの浴温の上昇する割合は、毎分5.0プラスマイナス0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。
【0057】
粘着付与樹脂Tとしては、上述のフェノール系粘着付与樹脂、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、ロジン系粘着付与樹脂、石油樹脂、スチレン樹脂、クマロン・インデン樹脂、ケトン系樹脂等の1種または2種以上を用いることができる。なかでも、テルペンフェノール樹脂、ロジンフェノール樹脂、テルペン樹脂、重合ロジン、重合ロジンのエステル化物が好ましい。
【0058】
好ましい一態様として、粘着付与樹脂TH1として1種または2種以上のテルペンフェノール樹脂を用いる態様が挙げられる。例えば、粘着付与樹脂Tの25重量%以上(より好ましくは30重量%以上)がテルペンフェノール樹脂(粘着付与樹脂TH1)である態様が好ましい。また、粘着付与樹脂Tにおけるテルペンフェノール樹脂量は、凡そ70重量%以下(例えば60重量%以下、典型的には50重量%以下)であり得る。あるいは、粘着付与樹脂Tの50重量%以上がテルペンフェノール樹脂(粘着付与樹脂TH1)であってもよく、80重量%以上(例えば90重量%以上)がテルペンフェノール樹脂(粘着付与樹脂TH1)であってもよく、粘着付与樹脂Tの実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)がテルペンフェノール樹脂(粘着付与樹脂TH1)であってもよい。軟化点が120℃以上200℃以下(典型的には130℃以上180℃以下、例えば135℃以上170℃以下)のテルペンフェノール樹脂を好ましく採用することができる。
【0059】
ここに開示される粘着剤層に含まれる全粘着付与樹脂のうち粘着付与樹脂TH1の占める割合は、特に限定されない。上記割合は、例えば30重量%以上(典型的には40重量%以上)とすることができ、また例えば70重量%以下(典型的には60重量%以下)とすることができる。あるいは、全粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)が粘着付与樹脂TH1であってもよい。
【0060】
また、ここに開示される技術は、粘着付与樹脂Tとして、粘着付与樹脂TH1(典型的にはテルペンフェノール樹脂)とは異なる粘着付与樹脂TH2を含む態様でも好ましく実施され得る。粘着付与樹脂TH2の軟化点は、粘着付与樹脂TH1の軟化点よりも低いことが好ましく、粘着付与樹脂TH1の軟化点よりも凡そ10℃以上(例えば20℃以上)低いことがより好ましい。かかる態様によると、例えば、より剥離強度に優れた粘着シートが実現され得る。凝集性と剥離強度とを高レベルで両立させる観点から、軟化点が100℃以上120℃未満の粘着付与樹脂TH2を好ましく採用することができる。なかでも、軟化点が110℃以上120℃未満の粘着付与樹脂TH2の使用が好ましい。
【0061】
粘着付与樹脂TH2としては、上述した各種の粘着付与樹脂(フェノール系粘着付与樹脂、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、ロジン系粘着付与樹脂、石油樹脂、スチレン樹脂、クマロン・インデン樹脂、ケトン系樹脂等)を適宜選択して用いることができる。ここに開示される技術は、上記粘着剤が、石油樹脂およびテルペン樹脂の少なくとも一方を上記粘着付与樹脂TH2として含む態様で好ましく実施され得る。例えば、粘着付与樹脂TH2の主成分(すなわち、粘着付与樹脂TH2のうちの50重量%超を占める成分)が、石油樹脂である組成、テルペン樹脂である組成、石油樹脂とテルペン樹脂との組み合わせである組成、等を好ましく採用し得る。粘着力および相溶性の観点から、粘着付与樹脂TH2の主成分がテルペン樹脂(例えば、α−ピネン重合体やβ−ピネン重合体)である態様が好ましい。粘着付与樹脂TH2の実質的に全部(例えば95重量%以上)がテルペン樹脂であってもよい。
【0062】
ここに開示される粘着剤層が粘着付与樹脂Tとして、粘着付与樹脂TH1と粘着付与樹脂TH2とを含む場合、それらの使用量の関係は、TH1:TH2の重量比が25:75〜70:30(より好ましくは30:70〜60:40)となるように設定することが好ましい。ここに開示される技術は、上記粘着剤が、粘着付与樹脂としてTH2よりもTH1を多く含む態様で好ましく実施され得る。かかる態様によると、より高性能な粘着シートが実現され得る。
【0063】
ここに開示される技術は、例えば、粘着付与樹脂Tとして、水酸基価が80mgKOH/g以上(例えば90mgKOH/g以上)の粘着付与樹脂(THO1)を含む態様で好ましく実施され得る。粘着付与樹脂THO1の水酸基価は、典型的には200mgKOH/g以下であり、好ましくは180mgKOH/g以下(例えば160mgKOH/g以下)である。粘着付与樹脂THO1を含む粘着剤によると、より高性能な粘着シートが実現され得る。凝集性と他の特性(例えば、低温初期背接着性等)とをより高レベルで両立する粘着シートが実現され得る。
【0064】
ここで、上記水酸基価の値としては、JIS K0070:1992に規定する電位差滴定法により測定される値を採用することができる。具体的な測定方法は以下に示すとおりである。
〔水酸基価の測定方法〕
1.試薬
(1)アセチル化試薬としては、無水酢酸約12.5g(約11.8mL)を取り、これにピリジンを加えて全量を50mLにし、充分に攪拌したものを使用する。または、無水酢酸約25g(約23.5mL)を取り、これにピリジンを加えて全量を100mLにし、充分に攪拌したものを使用する。
(2)測定試薬としては、0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を使用する。
(3)その他、トルエン、ピリジン、エタノールおよび蒸留水を準備する。
2.操作
(1)平底フラスコに試料約2gを精秤採取し、アセチル化試薬5mLおよびピリジン10mLを加え、空気冷却管を装着する。
(2)上記フラスコを100℃の浴中で70分間加熱した後、放冷し、冷却管の上部から溶剤としてトルエン35mLを加えて攪拌した後、蒸留水1mLを加えて攪拌することにより無水酢酸を分解する。分解を完全にするため再度浴中で10分間加熱し、放冷する。
(3)エタノール5mLで冷却管を洗い、取り外す。次いで、溶剤としてピリジン50mLを加えて攪拌する。
(4)0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を、ホールピペットを用いて25mL加える。
(5)0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行う。得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
(6)空試験は、試料を入れないで上記(1)〜(5)を行う。
3.計算
以下の式により水酸基価を算出する。
水酸基価(mgKOH/g)=[(B−C)×f×28.05]/S+D
ここで、
B: 空試験に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、
C: 試料に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、
f: 0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、
S: 試料の重量(g)、
D: 酸価、
28.05: 水酸化カリウムの分子量56.11の1/2、
である。
【0065】
粘着付与樹脂THO1としては、上述した各種の粘着付与樹脂のうち所定値以上の水酸基価を有するものを、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。好ましい一態様では、粘着付与樹脂THO1として、少なくともテルペンフェノール樹脂を使用する。テルペンフェノール樹脂は、フェノールの共重合割合によって水酸基価を任意にコントロールすることができるので好ましい。粘着付与樹脂THO1に占めるテルペンフェノール樹脂の割合は、凡そ50重量%以上(例えば80重量%以上、典型的には90重量%以上)であることがより好ましく、粘着付与樹脂THO1の実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)がテルペンフェノール樹脂であることがさらに好ましい。
【0066】
ここに開示される技術が、粘着付与樹脂THO1を含む粘着剤層を用いる態様で実施される場合、全粘着付与樹脂のうち粘着付与樹脂THO1の占める割合は、特に限定されない。上記割合は、例えば10重量%以上(典型的には20重量%以上)とすることができ、また例えば70重量%以下(典型的には60重量%以下)とすることができる。あるいは、全粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)が粘着付与樹脂THO1であってもよい。
【0067】
ここに開示される粘着剤層は、粘着付与樹脂Tとして、水酸基価が0以上80mgKOH/g未満の粘着付与樹脂(THO2)を含有してもよい。粘着付与樹脂THO2は、粘着付与樹脂THO1に代えて用いてもよく、粘着付与樹脂THO1と組み合わせて用いてもよい。好ましい一態様として、水酸基価が80mgKOH/g以上の粘着付与樹脂THO1と、粘着付与樹脂THO2とを含む態様が挙げられる。
【0068】
粘着付与樹脂THO2としては、上述した各種の粘着付与樹脂のうち水酸基価が上記範囲にあるものを、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。例えば、水酸基価が0以上80mgKOH/g未満のフェノール系粘着付与樹脂(例えば、テルペンフェノール樹脂やロジンフェノール樹脂)、石油樹脂(例えば、C5系石油樹脂)、テルペン樹脂(例えば、β−ピネン重合体)、ロジン類(例えば重合ロジン)、ロジン誘導体樹脂(例えば、重合ロジンのエステル化物)等を用いることができる。好ましい一態様では、粘着付与樹脂THO2として、少なくともテルペンフェノール樹脂を使用する。テルペンフェノール樹脂は、フェノールの共重合割合によって水酸基価を任意にコントロールすることができるので好ましい。粘着付与樹脂THO2に占めるテルペンフェノール樹脂の割合は、凡そ50重量%以上(例えば80重量%以上、典型的には90重量%以上)であってもよく、粘着付与樹脂THO2の実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)がテルペンフェノール樹脂であってもよい。
【0069】
ここに開示される技術が、粘着付与樹脂THO2を含む粘着剤層を用いる態様で実施される場合、全粘着付与樹脂のうち粘着付与樹脂THO2の占める割合は、特に限定されない。上記割合は、例えば10重量%以上(典型的には20重量%以上)とすることができ、また例えば70重量%以下(典型的には60重量%以下)とすることができる。あるいは、全粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)が粘着付与樹脂THO2であってもよい。
【0070】
ここに開示される技術は、上記粘着剤層が水酸基価80mgKOH/g以上(典型的には80〜160mgKOH/g、例えば80〜140mgKOH/g)の粘着付与樹脂THO1と、水酸基価40mgKOH/g以上80mgKOH/g未満の粘着付与樹脂THO2とを組み合わせて含む態様で好ましく実施され得る。この場合において、THO1とTHO2との使用量の関係は、例えば、重量比(THO1:THO2)が1:5〜5:1の範囲となるように設定することができ、1:3〜3:1(例えば1:2〜2:1)の範囲となるように設定することが適当である。好ましい一態様として、THO1,THO2がいずれもテルペンフェノール樹脂である態様が挙げられる。
【0071】
ここに開示される技術の一態様において、上記粘着付与樹脂Tは、粘着付与樹脂THO1,HO2とは異なる粘着付与樹脂として、芳香環を有しかつ水酸基価が30mgKOH/g以下である粘着付与樹脂THR1をさらに含有し得る。芳香環を有する粘着付与樹脂の例としては、上述の芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、スチレン樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン変性テルペン樹脂、テルペン−フェノール共重合体樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ロジンフェノール樹脂等が挙げられる。これらのうち、軟化点が120℃以上(好ましくは130℃以上、例えば135℃以上)かつ水酸基価30mgKOH/g以下(好ましくは5mgKOH/g未満、例えば1mgKOH/g未満)であるものを粘着付与樹脂THR1として採用することができる。なかでも好ましい粘着付与樹脂THR1として、芳香族系石油樹脂およびスチレン樹脂(例えば、α−メチルスチレン/スチレン共重合体樹脂)が挙げられる。なお、ここに開示される技術は、粘着剤層が粘着付与樹脂THR1を実質的に含まない態様でも実施され得る。
【0072】
ここに開示される粘着剤の他の一態様において、上記粘着付与樹脂Tは、粘着付与樹脂THO1,HO2とは異なる粘着付与樹脂として、芳香環を有しかつイソプレン単位、テルペン骨格およびロジン骨格を実質的に含まない粘着付与樹脂THR2を含有し得る。ここで粘着付与樹脂THR2がイソプレン単位、テルペン骨格およびロジン骨格を実質的に含まないとは、これらの構造部分(すなわち、イソプレン単位、テルペン骨格およびロジン骨格)が粘着付与樹脂THR2に占める割合が合計10重量%未満(より好ましくは8重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満、例えば3重量%未満)であることをいう。上記割合が0重量%であってもよい。なお、粘着付与樹脂THR2に占めるイソプレン単位、テルペン骨格およびロジン骨格の割合は、例えばNMR(核磁器共鳴スペクトル法)により測定することができる。
【0073】
芳香環を有しかつイソプレン単位、テルペン骨格およびロジン骨格を実質的に含まない粘着付与樹脂の例としては、上述の芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、スチレン樹脂、クマロン・インデン樹脂等が挙げられる。これらのうち軟化点が120℃以上(好ましくは130℃以上、例えば135℃以上)であるものを粘着付与樹脂THR2として採用することができる。なかでも好ましい粘着付与樹脂THR2として、芳香族系石油樹脂およびスチレン樹脂(例えば、α−メチルスチレン/スチレン共重合体樹脂)が挙げられる。特に限定するものではないが、粘着付与樹脂THR2としては、粘着付与樹脂THR1と同様の理由により、水酸基価が30mgKOH/g以下(好ましくは5mgKOH/g未満、例えば1mgKOH/g未満)のものを好ましく採用し得る。したがって、ここに開示される技術における粘着付与樹脂THR2としては、粘着付与樹脂THR1にも該当するものを好ましく使用し得る。同様に、ここに開示される技術における粘着付与樹脂THR1としては、粘着付与樹脂THR2にも該当するものを好ましく使用し得る。なお、ここに開示される技術は、粘着剤層が粘着付与樹脂THR2を実質的に含まない態様でも実施され得る。
【0074】
また、不飽和ゴム100重量部に対する粘着付与樹脂Tの総量(すなわち、軟化点100℃以上の粘着付与樹脂の総量)は、凝集性向上の観点から、10重量部以上とすることが適当であり、20重量部以上(例えば25重量部以上)が好ましい。また、不飽和ゴム100重量部に対する粘着付与樹脂Tの含有量は、例えば、60重量部とすることができる。タックや低温特性の観点から、不飽和ゴム100重量部に対する粘着付与樹脂Tの含有量は、好ましくは50重量部以下、より好ましくは45重量部以下(例えば40重量部以下)である。
【0075】
粘着付与樹脂の総量に占める粘着付与樹脂Tの割合は、凝集性と低温特性(例えば低温初期接着性)とをバランスよく両立する観点から、凡そ50重量%以上とすることが適当であり、好ましくは80重量%以上(例えば90重量%以上)である。ここに開示される技術は、粘着付与樹脂の実質的に全部(例えば95〜100重量%、さらには99〜100重量%)が粘着付与樹脂Tである態様で好ましく実施され得る。
【0076】
(粘着付与樹脂T
ここに開示される粘着剤層は、軟化点100℃未満の粘着付与樹脂Tを含んでもよい。粘着付与樹脂Tの軟化点の下限は特に制限されない。軟化点が40℃以上(典型的には60℃以上)のものを用いることができる。粘着付与樹脂Tの水酸基価や構造(例えば、芳香環の有無、イソプレン単位の有無、テルペン骨格の有無、ロジン骨格の有無等)は特に限定されない。上述した各種の粘着付与樹脂(フェノール系粘着付与樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、ロジン系粘着付与樹脂、石油樹脂、スチレン系樹脂、クマロン・インデン樹脂、ケトン系樹脂等)であって軟化点が100℃未満のものを適宜選択して用いればよい。
【0077】
(粘着付与樹脂の含有量)
ここに開示される技術において、粘着付与樹脂の総量(合計含有量)は特に限定されず、目的や用途に応じて所望の性能が得られるように設定することができる。粘着付与樹脂の総量は、不飽和ゴム100重量部に対して、例えば1重量部以上とすることができ、5重量部以上であってもよく、10重量部以上であってもよい。より高い粘着性能(例えば粘着力)を得る観点から、不飽和ゴム100重量部に対する粘着付与樹脂の総量は、15重量部以上であってもよく、20重量部以上であってもよく、25重量部以上であってもよく、30重量部以上であってもよい。いくつかの態様において、不飽和ゴム100重量部に対する粘着付与樹脂の総量は、40重量部以上であってもよく、55重量部以上であってもよい。また、良好なタックや低温性能(例えば、低温における初期接着性)を発揮する粘着剤を実現しやすくする観点から、不飽和ゴム100重量部に対する粘着付与樹脂の総量は、通常、120重量部以下が適当であり、100重量部以下が好ましく、80重量部以下がより好ましい。いくつかの態様において、不飽和ゴム100重量部に対する粘着付与樹脂の総量は、60重量部以下であってよく、50重量部以下であってもよく、45重量部以下(例えば40重量部以下)であってもよい。
【0078】
<老化防止剤>
ここに開示される粘着剤には、必要に応じて老化防止剤を含有させることができる。老化防止剤の使用により、不飽和ゴムと粘着付与樹脂とを組み合わせて含む粘着剤のMw維持率を高め、粘着シートの長期的な品質安定性の向上(長寿命化)を図ることができる。老化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、3種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
(ラジカル捕捉剤)
いくつかの態様において、老化防止剤は、ラジカル捕捉剤(ラジカルトラップ剤)を含み得る。ラジカル捕捉剤の例としては、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤等の、不飽和ゴムの分野において用いられ得る公知のラジカル捕捉剤が挙げられる。ラジカル捕捉剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
ここに開示される技術において好ましく使用し得るラジカル捕捉剤の例として、フェノール系酸化防止剤が挙げられる。フェノール系酸化防止剤の非限定的な例としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール等のモノフェノール系酸化防止剤;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤;1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン等の高分子フェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。
【0081】
フェノール系酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であってもよい。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤の非限定的な例としては、ペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、4−[[4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イル]アミノ]−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重縮合物(コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物)、等が挙げられる。
【0082】
ラジカル捕捉剤(例えばフェノール系酸化防止剤)の使用量は、不飽和ゴム100重量部に対して、例えば0.01重量部以上とすることができ、通常は0.05重量部以上とすることが適当であり、0.1重量部以上(例えば0.5重量部以上)としてもよい。ラジカル捕捉剤の使用量の増大により、Mw維持率が高くなり、粘着シートの品質安定性が向上する傾向にある。粘着性能への好ましくない影響(例えば、老化前における粘着剤の凝集性低下)を抑制する観点から、不飽和ゴム100重量部に対するラジカル捕捉剤の使用量は、通常、10重量部以下とすることが適当であり、5重量部以下(例えば3重量部以下)とすることが好ましい。
【0083】
(イオウ系酸化防止剤)
いくつかの態様において、老化防止剤は、イオウ系酸化防止剤を含み得る。イオウ系酸化防止剤は、粘着剤中において発生し得る過酸化物を分解および/または安定な化合物に変換する過酸化物分解剤として持続的に機能することで、Mw維持率の向上(ひいては粘着シートの品質安定性の向上)に寄与し得る。不飽和ゴムとフェノール系粘着付与樹脂(例えばテルペンフェノール樹脂)とを含む粘着剤では、イオウ系酸化防止剤を用いることが特に効果的である。
【0084】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、分子内にチオエーテル構造を有するチオエーテル系酸化防止剤が用いられ得る。イオウ系酸化防止剤の非限定的な例としては、2,2−ビス({[3−(ドデシルチオ)プロピオニル]オキシ}メチル)プロパンジイル=ビス[3−(ドデシルチオ)プロピオナート、ビス[2−メチル−4−(3−n−ドデシルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]スルフィド、3−ドデシルスルファニルプロパン酸=2−t−ブチル−4−[(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)スルファニル]−5−メチルフェニル、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトララウリルチオプロピオネート、等が挙げられる。イオウ系酸化防止剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。いくつかの態様において、芳香環を含まない構造のイオウ系酸化防止剤(典型的にはチオエーテル系酸化防止剤)を好ましく採用し得る。また、一分子内に「−CH−OC(O)−CHCH−S−CH−」構造を1つまたは2つ以上(例えば、3つまたは4つ)有するチオエーテル系酸化防止剤を好ましく採用し得る。
【0085】
1分子のチオエーテル系酸化防止剤に含まれるチオエーテル性イオウ原子の数は、1つでもよく、2つ以上でもよい。効果の持続性の観点から、1分子中に2つ以上(典型的には2つ以上4つ以下)のチオエーテル性イオウ原子を含むチオエーテル系酸化防止剤が好ましい。いくつかの態様において、チオエーテル当量(チオエーテル性イオウ原子当たりの分子量)が1000以下(好ましく700以下、より好ましくは500以下、例えば350以下)のチオエーテル系酸化防止剤を用いることにより、粘着性能への影響を抑えつつMw維持率を効果的に向上させ得る。また、効果の持続性の観点から、チオエーテル当量は、150以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましい。チオエーテル当量は、分子量をチオエーテル性イオウ原子の数で除することにより算出することができる。
【0086】
イオウ系酸化防止剤の分子量は、2000以下であることが適当であり、1500以下(例えば1250以下)であることが好ましい。かかるイオウ系酸化防止剤の使用により、粘着性能への影響(例えば、タックや低温初期接着性)を抑えつつMw維持率を効果的に向上させ得る。また、効果の持続性の観点からた、イオウ系酸化防止剤の分子量は、150以上であることが適当であり、200以上であることが好ましく、350以上であることがより好ましい。
【0087】
不飽和ゴムの量に対するイオウ系酸化防止剤の使用量は、例えば、該イオウ系酸化防止剤に含まれるチオエーテル性イオウ(S)のモル数が、上記不飽和ゴム100g当たり0.01mmol以上となるように設定することができる。以下、不飽和ゴム100g当たりのチオエーテル性イオウのモル数を「Sモル数」といい、mmol/100gの単位で表すことがある。Sモル数は、通常、0.05mmol/100g以上とすることが適当であり、0.1mmol/100g以上とすることが好ましく、0.2mmol/100g以上としてもよく、0.5mmol/100g以上(例えば0.8mmol/100g以上)としてもよい。イオウ系酸化防止剤のSモル数の増大により、Mw維持率が高くなり、品質安定性が向上する傾向にある。ここに開示される技術は、Sモル数が1mmol/100g以上(例えば2mmol/100g以上)である態様や、4mmol/100g以上(例えば5mmol/100g以上)である態様でも好適に実施され得る。また、Sモル数は、例えば100mmol/100g以下とすることができ、粘着性能への好ましくない影響(例えば、タックや低温初期接着性の低下)を抑制する観点から、通常は50mmol/100g以下とすることが適当であり、30mmol/100g以下とすることが好ましい。ここに開示される技術は、Sモル数が20mmol/100g以下である態様や、15mmol/100g以下(例えば10mmol/100g以下)である態様でも好適に実施され得る。
【0088】
イオウ系酸化防止剤の使用量は、不飽和ゴム100重量部に対して、例えば0.01重量部以上とすることができ、通常は0.01重量部以上が適当であり、0.05重量部以上(例えば0.1重量部以上)としてもよい。イオウ系酸化防止剤の使用量の増大により、Mw維持率が向上する傾向にある。また、粘着性能への好ましくない影響(例えば、タックや低温初期接着性の低下)を抑制する観点から、不飽和ゴム100重量部に対するイオウ系酸化防止剤の使用量は、通常、10重量部以下が適当であり、7重量部以下が好ましく、5重量部以下(例えば3重量部以下)とすることがより好ましい。
【0089】
イオウ系酸化防止剤の使用量は、不飽和ゴム100重量部に対するSモル比として、例えば0.01以上とすることができ、通常は0.05以上が適当であり、0.1以上(例えば0.5以上)としてもよい。イオウ系酸化防止剤のSモル比の増大により、Mw維持率が高くなり、品質安定性が向上する傾向にある。また、粘着性能への好ましくない影響(例えば、タックや低温初期接着性の低下)を抑制する観点から、不飽和ゴム100重量部に対するイオウ系酸化防止剤の使用量は、Sモル比として、通常、15以下が適当であり、10以下が好ましく、7以下(例えば6以下)とすることが好ましい。Sモル比を小さくすることは、老化による粘着剤の着色(例えば黄変)を抑制する観点からも有利となり得る。ここでSモル比とは、不飽和ゴム100重量部に対するイオウ系酸化防止剤の使用量の重量部数に、該イオウ系酸化防止剤の1分子中に含まれるチオエーテル性イオウの数を乗じた値をいう。例えば、不飽和ゴム100重量部に対して1重量部のイオウ系酸化防止剤を含み、該イオウ系酸化防止剤が1分子中にチオエーテル性イオウを2つ含む場合、この組成物における上記イオウ系酸化防止剤のSモル比は2と計算される。
【0090】
(リン系酸化防止剤)
いくつかの態様において、老化防止剤は、リン系酸化防止剤を含み得る。リン系酸化防止剤は、粘着剤中において発生し得る過酸化物を分解または安定な化合物に変換する過酸化物分解剤として機能することで、Mw維持率の向上(ひいては粘着シートの品質安定性の向上)に寄与し得る。リン系酸化防止剤の非限定的な例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリフェニルフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、等が挙げられる。
【0091】
リン系酸化防止剤の使用量は、不飽和ゴム100重量部に対して、例えば0.05重量部以上とすることができ、通常は0.1重量部以上が適当であり、0.5重量部以上(例えば1重量部以上)としてもよい。イオウ系酸化防止剤の使用量の増大により、Mw維持率が向上する傾向にある。また、粘着性能への好ましくない影響(例えば、タックや低温初期接着性の低下)を抑制する観点から、不飽和ゴム100重量部に対するリン系酸化防止剤の使用量は、通常、15重量部以下が適当であり、10重量部以下が好ましく、7重量部以下(例えば5重量部以下)とすることがより好ましい。
【0092】
いくつかの態様において、老化防止剤としては、イオウ系酸化防止剤(例えばチオエーテル系酸化防止剤)とリン系酸化防止剤とを組み合わせて使用し得る。かかる態様によると、粘着性能への好ましくない影響を抑えてMw維持率を効果的に向上させ得る。その理由は、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、イオウ系酸化防止剤に比べてリン系酸化防止剤は、概して、より素早く過酸化物と反応する傾向にある。一方、リン系酸化防止剤は、過酸化物との反応により不可逆的に消費されるため、80℃で4週間という厳しい老化試験においては効果の持続性が不足気味となり得る。イオウ系酸化防止剤とリン系酸化防止剤という2種類の過酸化物分解剤を併用することにより、粘着特性への影響を抑えつつ、良好な過酸化物分解機能を持続的に発揮することができる。また、イオウ系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを併用することにより、イオウ系酸化防止剤の使用量を低減し得、このことは粘着剤の経時的な着色の抑制に寄与し得る。イオウ系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを組み合わせて使用することにより、さらに好適な結果が実現され得る。
【0093】
特に限定するものではないが、リン系酸化防止剤とチオエーテル系酸化防止剤とを併用する場合、不飽和ゴム100重量部に対するチオエーテル系酸化防止剤の使用量A[Sモル比]の、該不飽和ゴム100重量部に対するリン系酸化防止剤の使用量A[重量部]に対する比、すなわちA/Aは、例えば0.1〜10の範囲とすることができる。この範囲とすることにより、イオウ系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とを併用することの効果が好適に発揮される傾向にある。より良好な効果を得る観点から、いくつかの態様において、A/Aは、0.2以上であってもよく、0.5以上であってもよい。また、A/Aは、5以下であってもよく、3以下であってもよい。なお、AおよびAは、それぞれ、不飽和ゴム100重量部に対する使用量を重量部およびSモル比で表したときの数値部分を意味し、AおよびAの値自体は無次元数であるものとする。
【0094】
ここに開示されるラジカル捕捉剤は、リン系酸化防止剤およびチオエーテル系酸化防止剤の一方または両方と組み合わせて、あるいはこれらの酸化防止剤に代えて、過酸化物分解剤として機能し得る他の酸化防止剤を含んでもよい。そのような他の酸化防止剤の例として、アミン系酸化防止剤(フェニル−α−ナフチルアミン、ジフェニルアミン等)、ベンズイミダゾール系酸化防止剤等が挙げられる。上記他の酸化防止剤は、単独でも使用し得るが、通常はラジカル捕捉剤(例えばフェノール系酸化防止剤)と組み合わせて用いることが好ましい。
【0095】
(老化防止剤の含有量)
特に限定するものではないが、ここに開示される粘着剤に含まれる老化防止剤の総量は、不飽和ゴム100重量部に対して、例えば概ね20重量部以下とすることができ、通常は15重量部以下とすることが適当であり、10重量部以下としてもよい。ここに開示される技術は、不飽和ゴム100重量部に対して用いられる老化防止剤の総量が7重量部以下(例えば5重量部以下、または4重量部以下)である態様でも好適に実施され得る。また、上記老化防止剤の総量は、不飽和ゴム100重量部に対して、例えば0.5重量部以上とすることができ、1重量部以上としてもよく、1.5重量部以上としてもよく、2重量部以上としてもよい。
【0096】
<イソシアネート化合物>
ここに開示される粘着剤層は、不飽和ゴムおよび粘着付与樹脂に加えてイソシアネート系化合物を含む粘着剤組成物から形成されたものであり得る。かかる粘着剤組成物によると、より長期的な品質安定性に優れた(例えば、凝集性の低下が抑制された)粘着シートが実現され得る。イソシアネート化合物としては、多官能イソシアネート(1分子当たり平均2個以上のイソシアネート基を有する化合物をいい、イソシアヌレート構造を有するものを包含する。)が好ましく使用され得る。かかる多官能イソシアネートとしては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する各種のイソシアネート化合物(ポリイソシアネート)から選択される1種または2種以上を用いることができる。かかる多官能イソシアネートの例として、脂肪族ポリイソシアネート類、脂環族ポリイソシアネート類、芳香族ポリイソシアネート類等が挙げられる。
【0097】
脂肪族ポリイソシアネート類の具体例としては、1,2−エチレンジイソシアネート;1,2−テトラメチレンジイソシアネート、1,3−テトラメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート等のテトラメチレンジイソシアネート;1,2−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,5−ヘキサメチレンジイソシアネート等のヘキサメチレンジイソシアネート;2−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0098】
脂環族ポリイソシアネート類の具体例としては、イソホロンジイソシアネート;1,2−シクロヘキシルジイソシアネート、1,3−シクロヘキシルジイソシアネート、1,4−シクロヘキシルジイソシアネート等のシクロヘキシルジイソシアネート;1,2−シクロペンチルジイソシアネート、1,3−シクロペンチルジイソシアネート等のシクロペンチルジイソシアネート;水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0099】
芳香族ポリイソシアネート類の具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、キシリレン−1,3−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0100】
好ましいイソシアネート化合物として、1分子当たり平均して3個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートが例示される。かかる3官能以上のイソシアネートは、2官能または3官能以上のイソシアネートの多量体(典型的には2量体または3量体)、誘導体(例えば、多価アルコールと2分子以上の多官能イソシアネートとの付加反応生成物)、重合物等であり得る。例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの2量体や3量体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(イソシアヌレート構造の3量体付加物)、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート、等の多官能イソシアネートが挙げられる。かかる多官能イソシアネートの市販品としては、旭化成ケミカルズ社製の商品名「デュラネートTPA−100」、東ソー社製の商品名「コロネートL」、同「コロネートHL」、同「コロネートHK」、同「コロネートHX」、同「コロネート2096」等が挙げられる。
【0101】
イソシアネート化合物を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、例えば不飽和ゴム100重量部に対して0重量部を超えて10重量部以下(典型的には0.01〜10重量部)とすることができる。不飽和ゴム100重量部に対するイソシアネート化合物の使用量を0.1重量部以上(典型的には0.3重量部以上、例えば0.5重量部以上)とすることが好ましく、また10重量部以下とすることが適当であり、5重量部以下(典型的には3重量部以下、例えば1重量部以下)とすることが好ましい。かかる範囲でイソシアネート化合物を用いることにより、特に性能バランスに優れた粘着シートが実現され得る。
【0102】
<その他成分>
ここに開示される粘着剤層は、本発明の効果を損なわない限度で、必要に応じて、不飽和ゴム以外のゴム状ポリマーを1種または2種以上含んでもよい。かかるゴム状ポリマーは、粘着剤の分野において公知のゴム系、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ポリエーテル系、シリコーン系、ポリアミド系、フッ素系等の各種ポリマーであり得る。ここに開示される技術は、上記粘着剤層が不飽和ゴム以外のゴム状ポリマーを実質的に含有しない態様(例えば、不飽和ゴム100重量部当たりの含有量が0〜1重量部である態様)で好ましく実施され得る。
【0103】
ここに開示される粘着剤組成物(粘着剤層でもあり得る。)は、必要に応じて、レベリング剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の、粘着剤の分野において一般的な各種の添加剤を含有するものであり得る。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができる。
【0104】
ここに開示される粘着剤は、ポリブテン等の液状ゴムを実質的に含有しない(例えば、不飽和ゴム100重量部当たりの含有量が1重量部以下であり、0重量部であってもよい。)態様で好ましく実施され得る。かかる態様は、剥離強度や凝集性を向上する観点から有利となり得る。
いくつかの態様において、上記粘着剤組成物は、キレート化合物を実質的に含まない組成であり得る。ここで、上記キレート化合物とは、例えば、アルカリ土類金属の酸化物と、該酸化物が配位可能な官能基(水酸基、メチロール基等)を有する樹脂(アルキルフェノール樹脂等)とのキレート化合物を指す。ここに開示される技術は、上記粘着剤組成物が、このようなキレート化合物を全く含まないか、あるいは該キレート化合物の含有割合が1重量%以下である態様で好ましく実施され得る。かかる態様によると、より粘着力に優れた粘着シートが実現され得る。
【0105】
いくつかの態様において、上記粘着剤は、不飽和ゴムと粘着付与樹脂との合計量が、該粘着剤の全重量(すなわち、この粘着剤により構成される粘着剤層の重量)の75重量%以上を占める組成であり得る。例えば、不飽和ゴムと粘着付与樹脂との合計量が上記粘着剤の全重量の80重量%以上(例えば85重量%以上、または90重量%以上)であり、また99.8重量%以下(典型的には、例えば99.5重量%以下)である態様を好ましく採用し得る。
【0106】
<粘着剤組成物>
ここに開示される粘着剤層は、該粘着剤層に対応する成分を含む粘着剤組成物から形成されたものであり得る。粘着剤組成物の形態は特に限定されず、例えば、上述のような組成の粘着剤(粘着成分)を有機溶媒中に含む形態(溶剤型)の粘着剤組成物、粘着剤が水性溶媒に分散した形態(水分散型、典型的には水性エマルション型)の粘着剤組成物、ホットメルト型の粘着剤組成物等であり得る。塗工性および基材の選択自由度等の観点から、溶剤型または水分散型の粘着剤組成物を好ましく採用し得る。より高い粘着性能を実現する観点から、溶剤型の粘着剤組成物が特に好ましい。
【0107】
溶剤型粘着剤組成物は、典型的には、上述した各成分を有機溶媒中に含む溶液の形態に調製される。上記有機溶媒は、公知ないし慣用の有機溶媒から適宜選択することができる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族化合物類(典型的には芳香族炭化水素類);酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素類;1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン類;メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;等から選択されるいずれか1種の溶媒、または2種以上の混合溶媒を用いることができる。特に限定するものではないが、上記溶剤型粘着剤組成物を不揮発分(NV)30重量%以上(例えば40重量%以上)に調製することが適当であり、また65重量%以下(例えば55重量%以下)に調製することが適当である。NVが低すぎると製造コストが高くなりがちであり、NVが高すぎると塗工性等の取扱性が低下することがある。
【0108】
粘着剤組成物から粘着シートを得る方法としては、従来公知の種々の方法を適用し得る。例えば、粘着剤組成物を基材に直接付与(典型的には塗布)して乾燥させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を好ましく採用することができる。また、上記粘着剤組成物を剥離性のよい表面(例えば、剥離ライナーの表面、離型処理された支持基材背面等)に付与して乾燥させることにより該表面上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の、公知ないし慣用のコーターを用いて行うことができる。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。例えば、凡そ40℃以上(例えば50℃以上、さらには70℃以上)程度であり、また凡そ150℃以下(典型的には120℃以下、さらには100℃以下)程度の乾燥温度を好ましく採用することができる。乾燥時間は特に限定されないが、数十秒から数分程度(例えば凡そ5分以内、好ましくは30秒〜2分程度)とすればよい。その後、必要に応じて追加の乾燥工程を設けてもよい。粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、目的および用途によっては点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。
【0109】
(粘着剤層の厚さ)
特に限定するものではないが、粘着剤層の厚さは、凡そ4μm以上(典型的には20μm以上、例えば30μm以上)程度が適当であり、また凡そ150μm以下(典型的には120μm以下、例えば100μm以下)程度が適当である。いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上(例えば60μm以上)であり得る。かかる厚さの粘着剤層を有する粘着シートは、該粘着剤層が不飽和ゴムと粘着付与樹脂とを含む構成において、優れた粘着性能(例えば剥離強度)が発揮され得る。したがって、粘着性能と品質安定性(長寿命)を高度に両立した粘着シートが提供され得る。基材付き両面粘着シートの場合、基材の両面それぞれに上記厚さの粘着剤層が設けられた構成とするとよい。各粘着剤層の厚さは同じであってもよく異なっていてもよい。
【0110】
<粘着シート>
(基材)
ここに開示される技術を基材付き両面粘着シートまたは基材付き片面粘着シートに適用する場合、基材としては、例えば、ポリプロピレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリクロロプレンフォーム等の発泡体からなる発泡体シート;各種の繊維状物質(麻、綿等の天然繊維、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維、等であり得る。)の単独または混紡等による織布および不織布(和紙、上質紙等の紙類を包含する意味である。);アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等を、粘着シートの用途に応じて適宜選択して用いることができる。上記プラスチックフィルム(典型的には非多孔質のプラスチック膜を指し、織布や不織布とは区別される概念である。)としては、無延伸フィルムおよび延伸(一軸延伸または二軸延伸)フィルムのいずれも使用可能である。また、基材のうち粘着剤層が設けられる面には、下塗剤の塗布、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0111】
好ましい一態様では、基材として不織布(不織布基材)が用いられる。不織布基材を用いることによって、低温初期接着性や凝集性(例えば、保持力試験において落下せずに耐える性能)が向上する傾向がある。基材に用いられる不織布としては、例えば、木材パルプ等のパルプ類、綿、麻等の天然繊維から構成される不織布;ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維等のポリエステル繊維、レーヨン、ビニロン、アセテート繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等の化学繊維(合成繊維)から構成される不織布;材質の異なる2種以上の繊維を併用して構成された不織布;等を使用することができる。なかでも、粘着剤の含浸性や耐反撥性(曲面追従性)の観点から、パルプや麻(例えば麻パルプ)から構成される不織布、PET繊維から構成される不織布等が好ましい。不織布基材の使用はまた、粘着シートの柔軟性向上や手切れ性向上にも寄与する。
【0112】
不織布(不織布基材)としては、坪量が凡そ30g/m以下(例えば25g/m以下、典型的には20g/m以下)のものを好ましく採用し得る。かかる坪量の不織布は、軽量でかつ粘着性能に優れた粘着シートを作製するのに適している。耐反撥性の観点からは、坪量が18g/m未満(例えば16g/m以下、典型的には15g/m以下)の不織布が好ましい。基材自体の強度を向上する観点からは、上記坪量は10g/m以上(例えば12g/m以上、典型的には13g/m以上)であることが好ましい。
【0113】
不織布基材の嵩密度(坪量を厚さで除して算出され得る。)は、凡そ0.20g/cm以上が適当であり、0.25g/cm以上(例えば0.30g/cm以上)が好ましく、また凡そ0.50g/cm以下が適当であり、0.40g/cm以下(例えば0.35g/cm以下)が好ましい。嵩密度が上記の範囲内であることにより、基材自体が適当な強度を有し、良好な粘着剤含浸性が得られる。耐反撥性の観点からは、嵩密度0.25〜0.40g/cm(例えば0.30〜0.35g/cm)程度の不織布基材の使用が特に好ましい。
【0114】
不織布基材は、上述のような構成繊維の他に、デンプン(例えば、カチオン化デンプン)、ポリアクリルアミド、ビスコース、ポリビニルアルコール、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン等の樹脂成分を含有し得る。上記樹脂成分は、当該不織布基材の紙力増強剤として機能するものであり得る。かかる樹脂成分を必要に応じて使用することにより、不織布基材の強度を調整することができる。ここに開示される技術における不織布基材は、その他、歩留まり向上剤、濾水剤、粘度調整剤、分散剤等の、不織布の製造に関する分野において一般的な添加剤を必要に応じて含有し得る。
【0115】
基材の厚さは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には概ね2μm以上(典型的には10μm以上)とすることが適当であり、また、500μm以下(典型的には200μm以下)とすることが好ましい。基材として不織布を用いる場合には、不織布基材の厚さは、凡そ150μm以下であることが適当である。粘着剤を基材全体に充分に含浸させる観点からは、上記厚さは100μm以下(例えば70μm以下)であることが好ましい。また、粘着シート作製時の取扱い性を考慮すると、上記厚さは10μm以上(例えば25μm以上)であることが好ましい。耐反撥性の観点からは、上記厚さは30μm以上(例えば35μm以上、典型的には40μm以上)であることが好ましく、また60μm以下(例えば50μm以下、典型的には45μm以下)であることが好ましい。ここに開示される不織布基材は、上記好ましい範囲の坪量、厚さおよび嵩密度のうち2つ以上(例えば坪量および厚さ、より好ましくは坪量、厚さおよび嵩密度のすべて)を満たすことが好ましい。これによって、複数の粘着特性(例えば耐反撥性や凝集性、剥離強度等)が高度にバランスした粘着シートが実現され得る。
【0116】
(剥離ライナー)
剥離ライナーとしては、慣用の剥離紙等を使用することができ、特に限定されない。例えば、プラスチックフィルムや紙等の基材の表面に剥離処理層を有する剥離ライナー、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。上記剥離処理層は、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離処理剤により上記基材を表面処理して形成されたものであり得る。
【0117】
(粘着シートの厚さ)
ここに開示される粘着シートの総厚さは、特に限定されず、薄膜化、軽量化、省資源化等の観点から、凡そ1000μm以下(例えば500μm以下、典型的には300μm以下)とすることが好ましい。また、良好な粘着特性を確保する等の観点から、50μm以上(例えば70μm以上、典型的には100μm以上)とすることが適当である。
【0118】
(特性)
ここに開示される粘着シートは、上記老化試験後の粘着シートの保持力試験において、試験片が落下しないことが好ましい。すなわち、老化試験後の粘着剤層において、上記の保持力を示すレベルの凝集性が維持されていることが好ましい。上記の特性を満足する粘着シートは、長期的な品質安定性に優れている。ここに開示される粘着シートは、上記老化試験後の保持力試験において、初期位置からのズレ距離が1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0119】
また、ここに開示される粘着シートは、上記老化試験に供する前の粘着シートの保持力試験において、試験片が落下しないレベルの凝集性を示すことが好ましい。上記保持力試験において、初期位置からのズレ距離が1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることがさらに好ましい。
上記老化試験後および老化試験前の保持力試験は、後述の実施例に記載の方法で行われる。なお、片面粘着シートを試験片として保持力試験を実施する場合には、試験片の第一粘着面にPETフィルムを貼り合わせる必要はない。
【0120】
<用途>
ここに開示される粘着シートは、各種のOA機器(例えばPC)、家電製品(例えば炊飯器、冷蔵庫)、自動車、建築材料(例えば住宅建材)等における部材間の接合(例えば、かかる製品における各種部品や銘板等の固定用途)に有用である。ここに開示される粘着シートは、長期的な品質安定性に優れるという特長を活かして、例えば、建物内壁をデコレーションするために用いられる化粧シートを、該化粧シートの貼付け位置(内壁)に固定する用途に好ましく用いられ得る。
【0121】
この明細書により開示される事項には以下のものが含まれる。
(1) 粘着剤層を含む粘着シートであって、
上記粘着剤層は、不飽和ゴムと粘着付与樹脂とを含む粘着剤により構成されており、
上記粘着剤は、GPC測定に基づく分子量分布曲線から分子量10,000g/mol以上の領域について算出される重量平均分子量Mwが、80℃で4週間の老化試験において維持率70%以上(例えば、70%〜100%)である、粘着シート。
(2) 上記不飽和ゴムの含有量は、上記粘着剤の凡そ30重量%以上である、上記(1)に記載の粘着シート。
(3) 上記粘着付与樹脂の含有量は、上記不飽和ゴム100重量部に対して凡そ10重量部以上凡そ120重量部以下である、上記(1)または(2)に記載の粘着シート。
(4) 上記粘着付与樹脂は、フェノール系粘着付与樹脂、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、ロジン系粘着付与樹脂、石油樹脂、スチレン樹脂、クマロン・インデン樹脂およびケトン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の粘着シート。
(5) 上記粘着付与樹脂はフェノール系粘着付与樹脂を含み、該フェノール系粘着付与樹脂の含有量は、上記不飽和ゴム100重量部に対して凡そ5重量部以上凡そ60重量部以下である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の粘着シート。
(6) 上記粘着付与樹脂はフェノール系粘着付与樹脂を含み、該フェノール系粘着付与樹脂は、水酸基価20mgKOH/g以上のテルペンフェノール樹脂を含む、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着シート。
(7) 上記粘着付与樹脂はフェノール系粘着付与樹脂を含み、該フェノール系粘着付与樹脂は、水酸基価80mgKOH/g以上のテルペンフェノール樹脂を含む、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の粘着シート。
(8) 上記粘着付与樹脂の軟化点は40℃以上(例えば60℃以上)である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の粘着シート。
【0122】
(9) 上記粘着剤は老化防止剤を含み、該老化防止剤はラジカル捕捉剤およびイオウ系酸化防止剤を含む、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の粘着シート。
(10) 上記粘着剤は老化防止剤を含み、該老化防止剤はリン系酸化防止剤を含む、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の粘着シート。
(11) 上記粘着剤は老化防止剤を含み、該老化防止剤は、イオウ系酸化防止剤としてのチオエーテル系酸化防止剤と、リン系酸化防止剤とを含み、
上記不飽和ゴム100重量部に対するチオエーテル系酸化防止剤の使用量A[Sモル比]の、該不飽和ゴム100重量部に対するリン系酸化防止剤の使用量A[重量部]に対する比(A/A)が0.1〜10である、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の粘着シート。
(12) 上記老化防止剤の総量は、上記不飽和ゴム100重量部に対して1.5重量部以上10重量部以下である、上記(8)〜(11)のいずれかに記載の粘着シート。
(13) 上記粘着剤は、上記不飽和ゴム100重量部に対するフェノール系粘着付与樹脂の含有量が30重量部以下である、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の粘着シート。
(14) 上記粘着剤層を形成するための粘着剤組成物は、イソシアネート化合物を含む、上記(1)〜(13)のいずれかに記載の粘着シート。
(15) 上記粘着剤は、上記不飽和ゴムと上記粘着付与樹脂との合計量が、該粘着剤の全重量の凡そ85重量%以上99.8重量%以下である、上記(1)〜(14)のいずれかに記載の粘着シート。
【0123】
(16) 上記不飽和ゴムは、共役ジエン化合物の単独重合体または共重合体である、上記(1)〜(15)のいずれかに記載の粘着シート。
(17) 上記不飽和ゴムは、イソプレンの単独重合体または共重合体である、上記(1)〜(16)のいずれかに記載の粘着シート。
(18) 上記不飽和ゴムは、共役ジエン化合物を含むモノマー組成を有し、該モノマー組成に占める共役ジエン化合物の割合が凡そ70重量%以上である、上記(1)〜(17)のいずれかに記載の粘着シート。
(19) 上記不飽和ゴムは、モノビニル置換芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体を含む、上記(1)〜(18)のいずれかに記載の粘着シート。
(20) 上記ブロック共重合体のジブロック体比率は凡そ60重量%以上である、上記(19)に記載の粘着シート。
(21) 上記粘着剤層の厚さが凡そ30μm以上である、上記(1)〜(20)のいずれかに記載の粘着シート。
(22) 基材と、該基材の両面にそれぞれ支持された上記粘着剤層としての第一粘着剤層および第二粘着剤層と、を備える両面粘着性の粘着シートとして構成されている、上記(1)〜(21)のいずれかに記載の粘着シート。
【0124】
(23) 粘着剤層を含む粘着シートであって、
上記粘着剤層を構成する粘着剤は、不飽和ゴムと、軟化点60℃以上の粘着付与樹脂とを含み、
上記不飽和ゴムは、モノビニル置換芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体を含み、上記ブロック共重合体は、モノマー組成に占める共役ジエン化合物の割合が70重量%以上であり、かつジブロック体比率が凡そ60重量%以上であり、
上記不飽和ゴムの含有量は、上記粘着剤の凡そ30重量%以上であり、
上記粘着付与樹脂は、フェノール系粘着付与樹脂、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、ロジン系粘着付与樹脂、石油樹脂およびクマロン・インデン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
上記粘着付与樹脂の総量は、上記不飽和ゴム100重量部に対して凡そ10重量部以上凡そ120重量部以下であり、
上記粘着剤は、GPC測定に基づく分子量分布曲線から分子量10,000g/mol以上の領域について算出される重量平均分子量Mwが、80℃で4週間の老化試験において維持率70%以上(例えば、70%〜100%)である、粘着シート。
(24) 上記粘着剤は老化防止剤を含み、該老化防止剤はラジカル捕捉剤およびイオウ系酸化防止剤を含む、上記(23)に記載の粘着シート。
【実施例】
【0125】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。また、各材料の使用量等の記載は、特に断りがない限り、溶媒を考慮しない量を基準とする。
【0126】
<両面粘着シートの作製>
(例1)
スチレンイソプレンブロック共重合体(日本ゼオン社製、製品名「クインタック(Quintac)3520」、スチレン含有量15%、ジブロック体比率78%)100部と、テルペンフェノール樹脂40部と、テルペン樹脂30部と、イソシアネート化合物(東ソー社製品、製品名「コロネートL」)0.75部と、ラジカル捕捉剤としてのヒンダードフェノール系酸化防止剤(Eutec Chemical社製の製品名「EUNOX AO−565」、4−[[4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イル]アミノ]−2,6−ジ−t−ブチルフェノール)1部と、リン系酸化防止剤(BASF社製の製品名「IRGAFOS 168」、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト)2部と、チオエーテル系酸化防止剤(ADEKA社製の製品名「アデカスタブAO−503」、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート)2部と、溶媒としてのトルエンとを撹拌混合して、NV50%の粘着剤組成物を調製した。
ここで、テルペンフェノール樹脂としては、ヤスハラケミカル社製の商品名「YSポリスターS145」(軟化点145℃、水酸基価100mgKOH/g)と、同社製の商品名「YSポリスターT145」(軟化点145℃、水酸基価60mgKOH/g)との二種類を、1:1の重量比で、それらの合計が40部となるように使用した。テルペン樹脂としては、ヤスハラケミカル社製の製品名「YSレジンPX1150N」(軟化点115℃、水酸基価1mgKOH/g未満)を使用した。
【0127】
上記で得た粘着剤組成物を、剥離ライナーに塗布し、120℃で3分間乾燥処理して、厚さ12μmのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」)に貼り合わせ、厚さ64μmの粘着剤層(第一粘着剤層)を形成した。次いで、上記PETフィルムの第二面(第一面とは反対側の面)に、第一面と同様にして厚さ64μmの粘着剤層(第二粘着剤層)を形成した。このようにして、本例に係る両面粘着シートを作製した。なお、剥離ライナーとしては、第一面側、第二面側ともに、片面(粘着剤層側の面)がシリコーン系剥離剤により剥離処理された厚さ約89μmの剥離紙(王子エフテックス株式会社製、上質紙の片面にポリエチレンがラミネートされたポリラミ紙、製品名「セパレート75EPS(M)クリーム改」)を使用した。
【0128】
(例2)
チオエーテル系酸化防止剤をADEKA社製の製品名「アデカスタブAO−412S」(2,2−ビス({[3−(ドデシルチオ)プロピオニル]オキシ}メチル)プロパンジイル=ビス[3−(ドデシルチオ)プロピオナート)2部に変更した他は例1と同様にして、本例に係る両面粘着シートを作製した。
【0129】
(例3)
各テルペンフェノール樹脂およびテルペン樹脂の使用量を表1に示す内容に変更した他は例1と同様にして、例3に係る両面粘着シートを作製した。
【0130】
(例4)
チオエーテル系酸化防止剤を使用しない他は例1と同様にして、例4に係る両面粘着シートを作製した。
【0131】
<老化試験>
各例に係る粘着シートを、両粘着面を覆う剥離ライナーごと縦30cm、横20cmの長方形状に裁断して、老化試験用のサンプルを作製した。80℃に保持された大気雰囲気の乾燥機中に上記サンプルを4週間保管した。サンプルは、上記乾燥機中に吊り下げた状態で、互いに重ならないように保管した。
【0132】
<Mw維持率>
老化試験前および老化試験後の粘着シートの第二粘着剤層を構成する粘着剤について、上述した方法でGPC測定を行い、GPC測定装置に付帯の解析ソフトを用いて老化前Mwおよび老化後Mwを算出した。さらに、次式:(老化後Mw/老化前Mw)×100;によりMw維持率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0133】
<保持力試験>
老化試験前および老化試験後の粘着シートの各々について、該粘着シートの第一粘着面(第一粘着剤層の粘着面)に厚さ25μmのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」)を貼り合わせ、これを幅10mmの帯状にカットすることにより試験片を作製した。上記試験片の第二粘着面(第二粘着剤層の粘着面)を露出させ、23℃、50%RHの環境下において、上記試験片を被着体としてのベークライト板(フェノール樹脂板)に、幅10mm、長さ20mmの貼付け面積にて、2kgのローラーを1往復させて圧着した。このようにして被着体に貼り付けた試験片を同環境下に30分間放置した後、試験片の長さ方向が鉛直方向となるように被着体を垂下し、該試験片の自由端に500gの荷重を付与し、JIS Z0237に準じて、該荷重が付与された状態で40℃の環境下に30分間放置した。当該放置後の試験片について、最初の貼付け位置からずれた距離(ズレ距離)を測定した。測定は、各粘着シートにつき3つの試験片を用いて行い(すなわちn=3)、それらの試験片に係るズレ距離の算術平均値を表1の「保持力」の欄に示した。なお、一つでも試験片が落下した場合には「落下」と表記した。
【0134】
【表1】
【0135】
表1に示されるように、Mw維持率が70%以上である例1〜3の粘着シートでは、80℃で4週間という厳しい老化試験の後にも、上記保持力試験において落下しないレベルの良好な凝集性が維持されていた。これに対して、Mw維持率が70%に満たない例4の粘着シートは、当初(老化試験前)の凝集性は例1,2と同等であったが、上記老化試験により凝集性が大幅に低下し、老化試験後の保持力試験に耐えることができなかった。具体的には、3つの試験片のすべてが30分経過前に落下した。なお、例1に係る粘着シートでは、老化試験後において粘着剤に若干の着色がみられた。
【0136】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0137】
1,2,3 粘着シート
11 第一粘着剤層
12 第二粘着剤層
15 基材
21,22 剥離ライナー
図1
図2
図3