(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830422
(24)【登録日】2021年1月28日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】スクリュー圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/16 20060101AFI20210208BHJP
【FI】
F04C18/16 B
F04C18/16 R
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-179126(P2017-179126)
(22)【出願日】2017年9月19日
(65)【公開番号】特開2019-52629(P2019-52629A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2019年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝二
(72)【発明者】
【氏名】今城 貴徳
【審査官】
井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−075993(JP,A)
【文献】
特開2008−106740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の螺旋状の歯部を備える雄ロータと、
複数の螺旋状の歯部を備え、隣接する前記歯部間に螺旋状の歯溝が画定された雌ロータと
を備え、
前記雄ロータと前記雌ロータは、前記雄ロータの前記歯部が前記雌ロータの歯溝に入り込んだ状態で噛み合って回転し、
前記雄ロータの前記歯部の前記雄ロータの回転方向前方側の歯面である前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記雌ロータの回転方向後側の歯面である後進面とのうち、一方に少なくとも1個の第1の永久磁石が固定され、
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記第1の永久磁石と対応する部分が、前記第1の永久磁石に対して磁気被吸引性を有する磁気被吸引性部であり、
前記第1の永久磁石は、前記雄ロータ又は前記雌ロータの吸込側の端部と、前記端部からロータ長の1/4離れた位置との間に配置されている、スクリュー圧縮機。
【請求項2】
前記第1の永久磁石の先端面は、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの後進面とのうちの一方と同一面を構成している、請求項1に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項3】
前記第1の永久磁石は、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面との隙間が最も狭くなる位置に配置されている、請求項1又は2に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項4】
前記第1の永久磁石は耐熱性磁石である、請求項1から3のいずれか1項に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項5】
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの一方に、複数の前記第1の永久磁石が固定されている、請求項1から4のいずれか1項に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項6】
前記第1の永久磁石は、前記雄ロータ又は前記雌ロータの前記歯部のねじれ角に沿った経路上の、前記雄ロータ又は前記雌ロータの吸込側の端部から前記雄ロータ又は前記雌ロータの軸線回りに等しい角度間隔隔てた複数位置に配置されている、請求項5に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項7】
前記角度間隔は以下で定義される、請求項6に記載のスクリュー圧縮機。
θ=α/β
θ:角度間隔(度)
α:基準角度(度)
α=360/n(n:雄ロータ又は雌ロータの歯部の総数)
β:係数(1以上)
【請求項8】
前記係数βは2以上の整数である、請求項7に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項9】
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方は、少なくとも前記第1の永久磁石と対応する部分が、磁性体からなる、請求項1から8のいずれか1項に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項10】
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記歯部が磁性体からなる、請求項9に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項11】
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記歯部が非磁性体からなり、
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記第1の永久磁石と対応する部分に、磁性体部材が固定されている、請求項9に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項12】
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記第1の永久磁石と対応する部分に、第2の永久磁石が固定され、
前記第1の永久磁石と前記第2の永久磁石の姿勢は、それらの異極が互いに対向するように設定されている、請求項9に記載のスクリュー圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スクリュー圧縮機において、雄ロータのシャフトにねじれを与えることで、雌ロータに負のトルクが発生した際の、雌雄ロータのロータ軸に固定されたタイミングギア対間の歯部の歯面分離を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−233893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているように雄ロータにねじれを与えても、雄ロータとモータとを連結するカップリングによってねじれが吸収されてしまう。従って、特許文献1に開示された手法では、歯面分離を確実に抑制することはできない。
【0005】
特許文献1に開示されたものを含め、従来のスクリュー圧縮機には、雌雄ロータ間の歯面分離を効果的に抑制するための有効な手法は採用されていない。
【0006】
本発明は、スクリュー圧縮機において、雌雄ロータ間の歯面分離を効果的に抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数の螺旋状の歯部を備える雄ロータと、複数の螺旋状の歯部を備え、隣接する前記歯部間に螺旋状の歯溝が画定された雌ロータとを備え、前記雄ロータと前記雌ロータは、前記雄ロータの前記歯部が前記雌ロータの歯溝に入り込んだ状態で噛み合って回転し、前記雄ロータの前記歯部の前記雄ロータの回転方向前方側の歯面である前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記雌ロータの回転方向後側の歯面である後進面とのうち、一方に少なくとも1個の第1の永久磁石が固定され、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記第1の永久磁石と対応する部分が、前記第1の永久磁石に対して磁気被吸引性を有する磁気被吸引性部であ
り、前記第1の永久磁石は、前記雄ロータ又は前記雌ロータの吸込側の端部と、前記端部からロータ長の1/4離れた位置との間に配置されている、スクリュー圧縮機を提供する。
【0008】
雄ロータの歯部と雌ロータの歯溝により構成される閉じ込み空間内で圧縮されるガスからの反力(ガス圧縮反力)により、雌ロータに対する正転方向のトルク(負のトルク)が発生する。この負のトルクの発生に起因するトルク変動によって、雌ロータの歯部の後進面が雄ロータの歯部の前進面に対して離反と接近の繰り返す現象(雌雄ロータ間の歯面分離)が生じ得る。雌雄ロータ間の歯面分離は、振動及び騒音の原因となる。第1の永久磁石と磁気被吸引性部との間に生じる磁力によって、雄ロータの歯部の前進面と、雌ロータの歯部の後進面とが互いに吸引される。この磁気的吸引によって雌ロータに対して逆転方向のトルクが作用するので、負のトルクが相殺ないし抑制されてトルク変動が抑制される。その結果、雌ロータの歯部の後進面の雄ロータの歯部の前進面に対する離反が防止ないし抑制され、雌雄ロータ間の歯面分離を、効果的に抑制できる。
雄ロータ又は雌ロータの吐出側の端部に近い位置では、歯溝空間のガス温度が高温となり、使用可能温度の低い磁石を第1の永久磁石として使用できない。しかし、第1の永久磁石の設置範囲を、吸込側の端部と吸込側の端部からロータ長の1/4離れた位置との間に設定すること、つまり吐出側の端部に近い位置には第1の永久磁石を配置しないことで、使用可能温度が低い磁石を第1の永久磁石として使用できる。
【0009】
前記第1の永久磁石の先端面は、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの後進面とのうちの一方と同一面を構成してもよい。
【0010】
この構成により、第1の永久磁石と磁気被吸引性部との最小距離をより縮めることができる。また、この構成によれば、第1の永久磁石の先端面と磁気被吸引性部との間に遮蔽物が介在しない。これらにより、雄ロータの歯部の前進面と、雌ロータの歯部の後進面との間の磁気的吸引力を増大し、より効果的に歯面分離を抑制できる。
【0011】
前記第1の永久磁石は、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面との隙間が最も狭くなる位置に配置されてもよい。
【0012】
この構成により、第1の永久磁石と磁気被吸引性部との最小距離をより縮めることができるので、雄ロータの歯部の前進面と、雌ロータの歯部の後進面との間の磁気的吸引力を増大し、より効果的に歯面分離を抑制できる。
【0013】
前記第1の永久磁石は耐熱性磁石であってもよい。
【0014】
耐熱性磁石を用いることにより、ガス温度が300℃を超える条件も存在する吐出直前の歯溝空間にも第1の永久磁石を配置できる。つまり、第1の永久磁石を配置できる範囲が広がり、配置する第1の永久磁石の総数を増やすことができる。その結果、雄ロータの歯部の前進面と、雌ロータの歯部の後進面との間の磁気的吸引力を増大し、より効果的に歯面分離を抑制できる。
【0015】
耐熱性磁石としては、例えばサマリウムコバルト磁石とフェライト磁石がある。
【0018】
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの一方に、複数の前記第1の永久磁石が固定されてもよい。
【0019】
この場合、前記第1の永久磁石は、前記雄ロータ又は前記雌ロータの前記歯部のねじれ角に沿った経路上の、前記雄ロータ又は前記雌ロータの吸込側の端部から前記雄ロータ又は前記雌ロータの軸線回りに等しい角度間隔隔てた複数位置に配置されてもよい。
【0020】
前記角度間隔は以下で定義され得る。
θ=α/β
θ:角度間隔(度)
α:基準角度(度)
α=360/n(n:雄ロータ又は雌ロータの歯部の総数)
β:係数(1以上)
【0021】
前記係数βは2以上の整数であってもよい。
【0022】
前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方は、少なくとも前記第1の永久磁石と対応する部分が、磁性体からなってもよい。
【0023】
例えば、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記歯部が磁性体であってもよい。
【0024】
また、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記歯部が非磁性体からなり、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記第1の永久磁石と対応する部分に、磁性体部材が固定されていてもよい。
【0025】
さらに、前記雄ロータの前記歯部の前記前進面と、前記雌ロータの前記歯部の前記後進面とのうちの他方の前記第1の永久磁石と対応する部分に、第2の永久磁石が固定され、前記第1の永久磁石と前記第2の永久磁石の姿勢は、それらの異極が互いに対向するように設定されてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、スクリュー圧縮機における雌雄ロータ間の歯面分離を、効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る無給油式スクリュー圧縮機の断面図。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る無給油式スクリュー圧縮機の模式的な横断面図。
【
図5】雌ロータに作用するトルクを説明するための模式的なグラフ。
【
図6】本発明の第2実施形態における雌雄スクリューの
図4と同様の断面図。
【
図7】本発明の第3実施形態における雌雄スクリューの
図4と同様の断面図。
【
図8】本発明の第4実施形態における雌雄スクリューの
図4と同様の断面図。
【
図9】本発明の第5実施形態における雌雄スクリューの
図4と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
図1及び
図2に示す本発明の第1実施形態に係る無給油式スクリュー圧縮機1は、ロータ室2aが形成されたケーシング2を備える。ロータ室2aには、スクリューロータ対、すなわち雄ロータ3と雌ロータ4とが収容されている。ケーシング2には、吸込口2bと吐出口2cが設けられている。
【0029】
雄ロータ3は、ロータ軸6と、ロータ軸6の外周に設けられた複数(本実施形態では4個)の螺旋状の歯部7a〜7dを備える。雌ロータ4は、ロータ軸8と、ロータ軸8の外周に設けられた複数(本実施形態では5個)の螺旋状の歯部9a〜9fを備える。互いに隣接する歯部9a〜9fの対の間には、螺旋状の歯溝10がそれぞれ画定されている。
【0030】
雄ロータ3のロータ軸6は、吸込口2b側と吐出口2c側が、それぞれ軸受11A,11Bによって回転自在に支持されている。軸受11A,11Bとロータ室2aとの間には、軸封装置12A,12Bがそれぞれ配置されている。同様に、雌ロータ4のロータ軸8は、吸込口2b側と吐出口2c側が、それぞれ軸受13A,13Bによって回転自在に支持され、軸受13A,13Bとロータ室2aとの間には、軸封装置14A,14Bがそれぞれ配置されている。
【0031】
雄ロータ3のロータ軸6の吸込口2b側には、入力ギア16が固定されている。この入力ギア16は、モータを含む駆動機構17の出力軸18に固定された駆動ギア19と噛合している。また、雄ロータ3のロータ軸6の吐出口2c側に固定されたタイミングギア20Aと、雌ロータ4のロータ軸8の吐出口2c側に固定されたタイミングギア20Bとが互いに噛合している。これらのギア16,19,20A,20Bによって、駆動機構17の出力軸18の回転が雄ロータ3と雌ロータ4に伝動される。雄ロータ3と雌ロータ4は、雄ロータ3の歯部7a〜7dが雌ロータ4の歯溝10に入り込んだ状態で噛み合って同期回転する。
図3及び
図4には、雄ロータ3と雌ロータ4の回転方向(正転方向)を矢印Rm,Rfで示している。雄ロータ3の個々の歯部7a〜7dと、雌ロータ4の個々の歯部9a〜9fとは、それらが最も接近したときでも接触しない。つまり、雄ロータ3と雌ロータ4は、歯部7a〜7dと歯部9a〜9fが非接触状態を維持したままで回転する。
【0032】
吸込口2bから吸い込まれたガス(例えば空気)は、雄ロータ3の歯部7a〜7dと雌ロータ4の歯溝10により構成される閉じ込み空間内に閉じ込められ、雄ロータ3と雌ロータ4の回転に伴って雌雄ロータ3,4の軸方向に移動しつつ圧縮され、吐出口2cから吐出される。
【0033】
本実施形態では、雄ロータ3のロータ軸6と歯部7a〜7dは一体構造であり、磁性体(例えば炭素鋼、SUSのような鋼材)からなる。また、雌ロータ4のロータ軸8と歯部9a〜9fも一体構造であり、磁性体(例えば炭素鋼、SUSのような鋼材)からなる。
【0034】
雄ロータ3のすべての歯部7a〜7dには、雄ロータ3の回転方向Rmの前方側の歯面である前進面21に、それぞれ複数個(本実施形態では4個)の永久磁石22A〜22Dが埋め込まれている。
図4を参照すると、個々の歯部7a〜7dの永久磁石22A〜22Dが埋め込まれた部分が雌ロータ4の歯溝10に入り込むと、雌ロータ4の歯部9a〜9fの雌ロータ4の回転方向Rfの後方側の面である後進面23に永久磁石22A〜22Dによる磁気的吸引力が作用する(矢印F)。前述のように、本実施形態では、雌ロータ4の歯部9a〜9fは磁性体からなり、個々の歯部9a〜9fの後進面23は永久磁石22A〜22Dに対して磁気被吸引性を有する磁気吸引性部を構成している。
【0035】
雄ロータ3の歯部7a〜7dと雌ロータ4の歯溝10a〜fにより構成される閉じ込み空間内で圧縮されるガスからの反力(ガス圧縮反力)により、雌ロータ4に対して正転方向Rfのトルク(負のトルク)が発生する。仮に永久磁石22A〜22Dが備えられていないとすると、この負のトルクの発生に起因するトルク変動によって、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23が雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21に対して離反と接近の繰り返す現象(雌雄ロータ間の歯面分離)が生じ得る。また、雌雄ロータ間の歯面分離に伴い、雌ロータ4側のタイミングギア20Bの後進面が雄ロータ3側のタイミングギア20Aの前進面から離反と接近の繰り返す現象(タイミングギア間の歯面分離)が生じ得る。雄ロータ3側のタイミングギア20Aの前進面と雌ロータ4側のタイミングギア20Bの後進面は、通常状態では互いに接触している。タイミングギア間の歯面分離が生じると、タイミングギア20Bの後進面がタイミングギア20Aの前進面に対して衝突を繰り返すことになり、この繰り返しの衝突は、振動及び騒音の原因となる。
【0036】
本実施形態では、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21に埋め込まれた永久磁石22A〜22Dと雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23との間に生じる磁力によって、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23とが互いに吸引される。この磁気的吸引によって雌ロータ4に対して逆転方向(正転方向Rfと反対向き)のトルクが作用するので、ガス圧縮反発力に起因する負のトルクが相殺ないし抑制されてトルク変動が抑制される。その結果、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23の雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21に対する離反が防止ないし抑制され、雌雄ロータ間の歯面分離を、効果的に抑制できる。また、雌雄ロータ間の歯面分離が抑制されることで、タイミングギア20A,20Bにおける歯面分離も抑制されるので、振動及び騒音が防止ないし低減される。
【0037】
永久磁石22A〜22Dの先端面22aは、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と同一面を構成している。この構成により、永久磁石22A〜22Dと雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23との最小距離をより縮めることができる。また、この構成によれば、永久磁石22A〜22Dの先端面22aと雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23との間に遮蔽物が介在しない。これらにより、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23との間の磁気的吸引力を増大し、より効果的に歯面分離を抑制できる。
【0038】
また、永久磁石22A〜22Dは、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23との隙間が最も狭くなる位置に配置されている。この構成により、永久磁石22と雌ロータ4の歯部9a〜9dの後進面23との最小距離をより縮めることができるので、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23との間の磁気的吸引力を増大し、より効果的に歯面分離を抑制できる。
【0039】
前述のように、本実施形態では、雄ロータ3のすべての歯部7a〜7dの前進面21に、それぞれ4個の永久磁石22A〜22Dが埋め込まれている。以下、永久磁石22A〜22Dの配置について説明する。
【0040】
図2及び
図3を参照すると、雄ロータ3の吸込口2b側の端部3aから雄ロータ3の軸線L1方向に等間隔を隔てて、軸線L1に対して垂直な4個の仮想平面P1〜P4が設定される。
図4を併せて参照すると、これらの仮想平面P1〜P4のそれぞれにおいて、個々の歯部7a〜7dの前進面21に1個の永久磁石が埋め込まれている。具体的には、仮想平面P1では、個々の歯部7a〜7dの前進面21に1個の永久磁石22Aが埋め込まれている。また、仮想平面P2では、個々の歯部7a〜7dの前進面21に1個の永久磁石22Bが埋め込まれている。さらに、仮想平面P3では、個々の歯部7a〜7dの前進面21に1個の永久磁石22Cが埋め込まれている。さらにまた、仮想平面P4では、個々の歯部7a〜7dの前進面21に1個の永久磁石22Dが埋め込まれている。
【0041】
雄ロータ3の軸線L1方向に等間隔を隔てて設定された仮想平面P1〜P4において、歯部7a〜7dに永久磁石22A〜22Dを配置している。この配置により、永久磁石22A〜22Dの磁気的吸引力に起因して雄ロータ3のロータ軸6と雌ロータ4のロータ軸8とに作用する力は、雄ロータ3の軸線L1及び雌ロータ4の軸線L2方向に均一化され、偏りが生じない。その結果、永久磁石22A〜22Dの磁気的吸引力による、ロータ軸6,8の撓みを回避できる。
【0042】
等間隔を隔てた仮想平面P1〜P4の設定手法の一例を以下に説明する。以下の説明では、雄ロータ3の歯部7a〜7dのねじれ角度θmaxは200°である。
【0043】
仮想平面P1〜P4の位置、すなわち個々の歯部7a〜7dにおける永久磁石22A〜22Dの位置は、雄ロータ3の歯部7a〜7dのねじれ角に沿った経路上の、雄ロータ3の吸込口2b側の端部3aから雄ロータ3の軸線L1回りに等しい角度間隔θだけ互い隔てられた位置に設定されている。角度間隔θは、一般に以下で定義される。
【0044】
θ=α/β
θ:角度間隔(度)
α:基準角度(度)
α=360/n(n:雄ロータの歯部の総数)
β:係数(1以上)
【0045】
本実施形態では、雄ロータ3は4個の歯部7a〜7bを備えるので(n=4)、基準角度αは90°である。また、本実施形態では、係数βを2に設定している。従って、角度間隔θは45°である。さらに、雄ロータ3の吸込口2b側の端部3aを基準とした仮想平面P1〜P4の角度位置δ1〜δ4は、それぞれ45°、90°、135°、及び180°である。
【0046】
係数βは1以上であれば、整数でなくてもよい。係数βを増加させていくと、回転中に永久磁石が雌ロータ3の歯部9a〜9fに接近する頻度が増加し、雌ロータ3に対してより大きな逆回転方向のトルクを作用させることができる。
【0047】
係数βは2以上の整数であることが好ましい。係数βを2以上の整数とすることにより、1歯溝分の回転を行う間に、永久磁石と雌ロータ3の歯部9a〜9fの接近が生じるので、トルク変動を抑制し得る頻度が増加し、より安定して歯面分離を抑制できる。
【0048】
図5において、符号100は永久磁石22A〜22Dがないと仮定した場合の、雌ロータ3のロータ軸8に作用するトルクの波形を示す。また、符号101は、永久磁石22A〜22Dの磁気的吸引力に起因して雌ロータ3のロータ軸8に作用するトルクのパルス波形である。
図5において、横軸は雌ロータの回転角度、縦軸は雌ロータ4のロータ軸8に作用するトルクである。また、縦軸の符号は正転方向Rfとは反対の逆転方向を正としている。これらの波形100,101の重畳により得られる波形102より、永久磁石22A〜22Dを設けることで、歯面分離の原因となる正転方向Rfのトルク(負のトルク)が低減されることが理解できる。
【0049】
永久磁石22A〜22Dとして、サマリウムコバルト磁石、フェライト磁石のような耐熱性磁石を採用し得る。永久磁石22A〜22Dとして耐熱性磁石を用いることにより、ガス温度が300℃を超える条件も存在する吐出口2c直前の歯溝空間にも永久磁石22を配置できる。つまり、永久磁石22A〜22Dを配置できる範囲が広がり、配置する永久磁石の総数を増やすことができる。その結果、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23との間の磁気的吸引力を増大し、より効果的に歯面分離を抑制できる。
【0050】
本実施形態では、永久磁石22A〜22Dは四角柱状であるが、必要な磁気的吸引力が得られる限り、永久磁石の形状及び寸法はと特に限定されない。また、永久磁石は、物理的に単一の永久磁石ではなく、近接して配置された複数の永久磁石で構成されてもよい。
【0051】
図2を参照すると、永久磁石22A〜22Dは、雄ロータ3の吸込口2b側の端部3aと、端部3aから雄ロータ3のロータ長の1/4離れた位置との間に配置することが好ましい。雄ロータ3の吐出口2c側の端部3bに近い位置では、歯溝空間のガス温度が高温となり、使用可能温度の低い磁石を永久磁石22A〜22Dとして使用できない。しかし、永久磁石22A〜22Dの設置範囲を、この範囲にすること、つまり吐出口2c側の端部3bに近い位置には永久磁石22A〜22Dを配置しないことで、使用可能温度が低い磁石を永久磁石22A〜22Dとして使用できる。
【0052】
以下の第2から第5実施形態については、特に言及しない構造、機能、及び動作は、第1実施形態と同様である。また、これらの実施形態に関する図面では、第1実施形態と同一ないし同様の要素には、同一の符号を付している。
【0053】
(第2実施形態)
図6に示す本発明の第2実施形態では、雄ロータ3の歯部7a〜7dと、雌ロータ4の歯部9a〜9fはいずれも非磁性体である樹脂製である。雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21には、第1実施形態と同様に、永久磁石22A〜22Dが埋め込まれている。また、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23には、永久磁石22A〜22Dと対応する位置に例えばSUSからなる磁性体部材32A〜32Fが埋め込まれている。磁性体部材32A〜32Fの配置は、第1実施形態において説明した、永久磁石22A〜22Dの配置(仮想平面P1〜P4の配置)を設定する手法を雌ロータ4に適用することで決定できる。
【0054】
本実施形態では、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21に埋め込まれた永久磁石22A〜22Dと雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23に埋め込まれた磁性体部材32A〜32Fとの間に生じる磁力によって、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23とが互いに吸引される。この磁気的吸引によって雌ロータ4に対して逆転方向(正転方向Rfと反対向き)のトルクが作用するので、ガス反発力に起因する負のトルクが相殺ないし抑制されてトルク変動が抑制される。その結果、歯面分離が抑制される。
【0055】
(第3実施形態)
図7に示す本発明の第3実施形態では、雄ロータ3の歯部7a〜7dと、雌ロータ4の歯部9a〜9fはいずれも磁性体からなる。雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21には、第1実施形態と同様に、永久磁石22A〜22Dが埋め込まれている。また、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23には、永久磁石22A〜22Dと対応する位置に永久磁石33A〜33Fが埋め込まれている。永久磁石33A〜33Fの姿勢は、永久磁石22A〜22Dと異極が対向するように設定されている。永久磁石33A〜33Fの配置は、第1実施形態において説明した、永久磁石22A〜22Dの配置(仮想平面P1〜P4の配置)を設定する手法を雌ロータ4に適用することで決定できる。
【0056】
本実施形態では、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21に埋め込まれた永久磁石22A〜22Dと雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23に埋め込まれた永久磁石33A〜33Fとの間に生じる磁力によって、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23とが互いに吸引される。この磁気的吸引によって雌ロータ4に対して逆転方向(正転方向Rfと反対向き)のトルクが作用するので、ガス反発力に起因する負のトルクが相殺ないし抑制されてトルク変動が抑制される。その結果、歯面分離が抑制される。
【0057】
(第4実施形態)
図8に示す本発明の第3実施形態では、雄ロータ3の歯部7a〜7dと、雌ロータ4の歯部9a〜9fはいずれも磁性体からなる。雄ロータ3の歯部7a〜7dには永久磁石は埋め込まれていない。一方、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23には、第3実施形態と同様に、永久磁石33A〜33Fが埋め込まれている。
【0058】
本実施形態では、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23に埋め込まれた永久磁石33A〜33Fと、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21との間に生じる磁力によって、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23とが互いに吸引される。この磁気的吸引によって雌ロータ4に対して逆転方向(正転方向Rfと反対向き)のトルクが作用するので、ガス反発力に起因する負のトルクが相殺ないし抑制されてトルク変動が抑制される。その結果、歯面分離が抑制される。
【0059】
(第5実施形態)
図9に示す本発明の第5実施形態では、雄ロータ3の歯部7a〜7dと、雌ロータ4の歯部9a〜9fはいずれも非磁性体である樹脂製である。雌ロータ4の歯部9a〜9dの後進面23には、第3及び第4実施形態と同様に、永久磁石33A〜33Fが埋め込まれている。また、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21には、永久磁石33A〜33Fと対応する位置に例えばSUSからなる磁性体部材34A〜34Dが埋め込まれている。
【0060】
本実施形態では、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23に埋め込まれた永久磁石33A〜33Fと雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21に埋め込まれた磁性体部材34A〜34Dとの間に生じる磁力によって、雄ロータ3の歯部7a〜7dの前進面21と、雌ロータ4の歯部9a〜9fの後進面23とが互いに吸引される。この磁気的吸引によって雌ロータ4に対して逆転方向(正転方向Rfと反対向き)のトルクが作用するので、ガス反発力に起因する負のトルクが相殺ないし抑制されてトルク変動が抑制される。その結果、歯面分離が抑制される。
【0061】
無給油式スクリュー圧縮機を例に本発明を説明したが、本発明は給油式スクリュー圧縮機にも適用できる。給油式スクリュー圧縮機では、雄ロータの歯部の前進面と雌ロータとの歯部の後進面が接触した状態で、雄ロータと雌ロータとが同期回転する。第1から第5実施形態の永久磁石等の要素の配置を給油式スクリュー圧縮機に適用することで、雄ロータの歯部と雌ロータの歯部の歯面分離を抑制できる。その結果、雌ロータの歯部の後進面が雄ロータの歯部の前進面に衝突を繰り返すことによる、振動及び騒音を低減できる。
【符号の説明】
【0062】
1 無給油式スクリュー圧縮機
2 ケーシング
2a ロータ室
2b 吸込口
2c 吐出口
3 雄ロータ
3a,3b 端部
4 雌ロータ
6 ロータ軸
7a〜7d 歯部
8 ロータ軸
9a〜9f 歯部
10 歯溝
11A,11B 軸受
12A,12B 軸封装置
13A,13B 軸受
14A,14B 軸封装置
16 入力ギア
17 駆動機構
18 出力軸
19 駆動ギア
20A,20B タイミングギア
21 前進面
22A〜22D 永久磁石
22a 先端面
23 後進面
32A〜32F 磁性体部材
33A〜33F 永久磁石
34A〜34D 磁性体部材