特許第6830462号(P6830462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830462
(24)【登録日】2021年1月28日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】抗体および抗体含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/10 20060101AFI20210208BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   C07K16/10
   A61K39/395 Y
   A61K39/395 S
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-174078(P2018-174078)
(22)【出願日】2018年9月18日
(62)【分割の表示】特願2015-227426(P2015-227426)の分割
【原出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2019-6817(P2019-6817A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2018年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-179378(P2011-179378)
(32)【優先日】2011年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508198535
【氏名又は名称】オーストリッチファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514041605
【氏名又は名称】インモータル スピリット リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康浩
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−013361(JP,A)
【文献】 特開2009−023985(JP,A)
【文献】 特表2005−537028(JP,A)
【文献】 特表平06−501851(JP,A)
【文献】 特表2004−531540(JP,A)
【文献】 Vaccine,2006年,Vol. 24,pp. 5571-5583
【文献】 ウイルス,2008年,Vol. 58, No. 2,pp. 155-164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
A61K 39/00−39/44,49/00−49/04,51/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトエイズウイルス(HIV)の表面タンパク質を抗原とするダチョウ抗体と基剤とを含む組成物であって、前記タンパク質は、HIVのgp120、gp160、gp41のいずれかを含み、前記組成物がローションであり、前記ローションが、水、グリセリン、エタノール、ポリアクリル酸Na、ヒドロキシエチルセルロース、フェノキシエタノール、EDTA−2Na、パラベン、ポリソルベート80および脂肪酸ソルビタンを含む組成物
【請求項2】
前記抗体は前記タンパク質を抗原として免疫した鳥類の卵から得られたIgYである、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
ポリクローナル抗体である、請求項1または2に記載の組成物
【請求項4】
前記タンパク質は、HIVのgp120、gp160のいずれかを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物
【請求項5】
前記タンパク質は、HIVのgp120およびgp160を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物
【請求項6】
IV感染の予防用または治療用の、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌体を抗原とする抗体とその抗体と基剤からなる抗体含有組成物に関するものである。また、ウイルスの表面タンパク質を抗原とする抗体およびその抗体と基材からなる抗体含有組成物に関するものである。
【0002】
抗体は抗原に対して選択的に結合するため、さまざまな分野に応用されている。例えば、抗原を目標とするアッセイや、抗原を失活させるためのワクチン的な利用が知られている。また、定常的に空気中に浮遊する細菌、カビ、花粉といったアレルゲン物質を補足するフィルタに応用する場合も知られている。
【0003】
特許文献1では、フィルタにこれらの有害物質を補足する抗体と、有機化合物の銀塩を担持させる発明が開示されている。ここでは、細菌等を補足し、さらにこれらの細菌を不活性化するだけでなく、この担持体上には、新たにカビも細菌も繁殖しない点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−233557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抗体を得る方法はいくつか知られており、例えば、マウスに抗原を免疫し、そのマウスから得た抗体を発生する細胞と、不死細胞を融合し、ハイブリドーマとなした後、そのハイブリドーマを培養し、抗体(モノクロナール)を得る方法が知られている。
【0006】
また、鳥類をはじめとする卵生の動物に抗原を免疫し、その卵から抗体を得る方法も知られている。しかしながら、従来は目標とする抗原に対する抗体を得る事ができるだけであった。
【0007】
一方、細菌などによる疾病の多くは、細菌自体の繁殖も症状の一因であるが、細菌の放する物質が原因である場合もあった。このような場合、抗体で疾病を治療しようとすると、そもそもの原因物質を抗原として抗体を得る必要があった。しかし、細菌の放出する物質のなかで、根本的な原因物質を探るのは容易ではなかった。
【0008】
また、最近では、様々な抗生物質や消毒剤が開発され、皮膚疾患に用いられているが、常在菌の多くを殺菌および除菌してしまうため、皮膚の細菌環境の悪化を招くことになり、皮膚疾患を増悪することが知られている。そのためには、常在菌のうちの病原体のみの抑制をすることが必要となるが、そのように選択的性のある材料は実用化されていない。
【0009】
抗体は抗原に特異的に結合する性質を有するタンパク質であり、体表や体内に多数存在する微生物のなかで、特定の病原体のみに選択的に結合し、増殖抑制や死滅させることが出来ると考えた。つまり、皮膚を保護している常在菌(善玉菌)ではなく、悪玉菌のみを抗体によって叩くことができれば、結果的に病変・症状の軽減が期待できる。
【0010】
また同様の考え方で、人体に有害なウイルスでも、皮膚若しくは粘膜を通じて感染するものは、体内に入る前に、体表で抗体を結合させることで、結果的に感染の軽減が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記のような課題に鑑みて想到された発明であり、菌体を破砕した破砕液を抗原として鳥類に免疫することで、抗原だけでなく、抗原とした菌体が分泌し、症状の悪化を促進する物質にも結合する抗体(ポリクロナール)を得ることを見出し本発明を完成させるに至った。より具体的に、本発明の抗体は、菌体の破砕液を抗原とする抗体である。
【0012】
また、ウイルスの表面のタンパク質を抗原として鳥類に免疫することで、ウイルスの表面に結合する抗体を得ることができることを見出し本発明を完成させるに至った。より具体的には、本発明の抗体は、ウイルスの表面タンパク質を抗原とする抗体である。
【0013】
また、これらの抗体を基剤に含ませた本発明の抗体含有組成物は、直接皮膚に塗ることで抗体の効果を得る事ができる。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1) 菌体の破砕液を抗原とする抗体。
(項目2) 上記抗体は上記菌体の破砕液を抗原として免疫した鳥類の卵から得られたIgYである項目1に記載の抗体。
(項目3) 上記鳥類はダチョウである項目2に記載された抗体。
(項目4) 上記菌体は、Stapylococcus aureusである請求項1乃至3のいずれかの項目に記載された抗体。
(項目5) 上記菌体は、Propionibacterium acnesである項目1乃至3のいずれかに記載された抗体。
(項目6) ウイルスの表面タンパク質を抗原とする抗体。
(項目7) 上記抗体は上記タンパク質を抗原として免疫した鳥類の卵から得られたIgYである項目6に記載の抗体。
(項目8) 上記鳥類はダチョウである項目7に記載された抗体。
(項目9) 上記タンパク質は、HIVgp120を含む項目6乃至8のいずれかの項目に記載された抗体。
(項目10) 上記タンパク質は、HPVのtype6、11、16、18のいずれかを含む項目6乃至8のいずれかの項目に記載された抗体。
(項目11) 項目1乃至10のいずれかの抗体と基剤を含む抗体含有組成物。
(項目12) 上記基剤はワセリンである項目11記載の抗体含有組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗体は、菌体だけを免疫するにもかかわらず、菌体および菌体によって症状を進行させる物質にたいしても結合する抗体を得る事ができる。したがって、さまざまな物質を抗原として抗体を得る必要が無い。
【0015】
また本発明の抗体は、ウイルスの表面のタンパク質を抗原とする抗体であるので、ウイルスの表面に結合し、人体への感染を低減させることができる。
【0016】
また、本発明の抗体と基剤を用いた抗体含有組成物は、直接皮膚に塗ることでアトピーやニキビの軽減に効果があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の抗体がバクテリアの増殖を抑制する効果を示す実験結果を示すグラフである。
図2】本発明の抗体がバクテリアの増殖を抑制する効果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の具体的な実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0019】
<バクテリア>
本発明の効果を示す実施例として対象とした細菌は、黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus (NBRC102135)(以下 S. aureus)、アクネ菌 Propionibacterium acnes (NBRC107605) (以下 P. acnes)の2種類である。
【0020】
上記バクテリアの培養懸濁液は、それぞれ遠心分離し沈殿させた。培養液を取り去り、リン酸緩衝液を加えバクテリアを浮遊させ、ホモジナイザーにてバクテリア菌体を破砕した。この破砕液(ホモジネート)を抗原としてダチョウに免疫した。
【0021】
<ダチョウへの免疫>
初回免疫は、フロイントの完全アジュバントにタンパク質量として100μgの上記それぞれのホモジネートを混和し、メスのダチョウの腰部の筋肉内に接種した。その後、追加免疫として、初回免疫後上記2種類のホモジネートは、ともに隔週毎に3回追加免疫した。なお、この追加免疫の場合も、フロイントの不完全アジュバントに100μgのバクテリアホモジネート液を混和し、すでに免疫を行っているメスのダチョウの腰部の筋肉内に接種した。
【0022】
<抗体の精製>
追加免疫2週後以降に産卵されるダチョウ卵より抗体を精製した。抗体の精製法を以下に示す。卵黄からの抗体(IgY)の精製は以下のように行った。
【0023】
まず、卵黄に5倍量のTBS(20mMTris−HCl、0.15M NaCl,0.5%NaN)と同量の10%デキストラン硫酸/TBSを加え20分攪拌する。そして1MCaCl/TBSを卵黄と同量加え攪拌し、12時間静置する。その後、15000rpmで20分遠心し上清を回収する。次に、最終濃度40%になるように硫酸アンモニウムを加え4℃で12時間静置する。その後、15000rpmで20分遠心し、沈殿物を回収する。最後に、卵黄と同量のTBSに再懸濁し、TBSにて透析する。この課程により90%以上の純度のIgYの回収が可能となった。1個の卵黄より2〜4gのIgYを精製することができた。
【0024】
<ELISA法による測定>
以下のELISAにより、得られた抗体の抗原反応性を測定した。
2μg/mLのバクテリア菌体(S.aureus、P.acnes)、S.aureusのenterotoxins(エンテロトキシン)、S.aureusのTSST−1,コアグラーゼ、プロテアーゼをそれぞれELISA用96穴マイクロプレートの各wellに100μl入れ、室温で2時間放置した。その後、PBSで3回洗浄したのち、市販のブロッキング溶液(ブロックエース:大日本住友製薬)を各wellに100μl入れ2時間放置した。その後、PBSで3回洗浄したのち、免疫前および免疫後のダチョウIgY抗体の段階希釈液(2mg/mLを原液として100倍、200倍〜と2倍段階希釈)を各wellに50μl入れ室温で1時間放置した。
【0025】
その後、PBSで3回洗浄したのちペルオキシダーゼ標識抗ダチョウIgY・ウサギポリクローナル抗体(自作)を各wellに100μl入れ45分間放置した。PBSで3回洗浄したのち市販のペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト)により30分間発色し、ELISA用プレートリーダーにより吸光度(450nm)を測定した。得ら
れた結果を、免疫前のIgYの吸光度値の2倍以上となる最高希釈倍率で示した。
【0026】
表1にS.aureus菌体のホモジネート液を免疫して得たダチョウ卵黄抗体の反応性(ELISA)の結果を示す。それぞれ数値は、免疫する前のダチョウの卵黄から得たIgYの吸光度値の2倍以上となる最高希釈倍率であるので、単位は「倍」である。例えば、エンテロトキシンに対しては、ホモジネート液で免疫しなかった場合のダチョウ卵黄抗体に比較して12,800倍に希釈しても、2倍以上の吸光度値があったことを意味する。これはそれだけ力価の高い抗体が得られていることを示す。
【0027】
【表1】
【0028】
S.aureus菌体のホモジネート液をダチョウに免疫することにより、菌体だけではなく、エンテロトキシン、スーパー抗原TSST−1、コアグラーゼ、プロテアーゼに対する高い力価の抗体が産生されていた。エンテロトキシン、スーパー抗原TSST−1、コアグラーゼ、プロテアーゼはS.aureus菌体による病変の悪化を進行させる因子であり、それらに対する抗体が菌体の接種だけで簡単に得る事ができた。
【0029】
表2には、P.acnes菌体のホモジネート液をダチョウに免疫することによって得られたダチョウ卵黄抗体についてのELISAの結果を示す。数値は上記同様、免疫前のIgYの吸光度値の2倍以上となる最高希釈倍率であるので、単位は「倍」である。エンテロトキシン等の病変を進行させる因子に対しての結果は得られていないが、P.acnes菌体については、高い力価を示した。
【0030】
【表2】
【0031】
<ダチョウ卵黄抗体のバクテリア増殖抑制効果(PFUによる評価)>
培養前のバクテリア液(S.aureus、P.acnes)に1mg/mLとなるようにダチョウ卵黄抗体を混和し、それぞれ寒天培地(半径10cmのシャーレにバクテリア液0.1mlを培養)にて18時間培養した。バクテリアのコロニーをカウントしPFU(プラークフォーミングユニット)を算出した。図1にその結果を示す。図1(a)はS.aureusの場合で、図1(b)は、P.acnesの場合である。横軸は免疫前抗体の場合と、免疫後抗体の場合を示す。縦軸はPFU(×10/100μL)である。どちらの抗体も抗原であるバクテリアの増殖を抑制していた。
【0032】
<ダチョウ卵黄抗体のバクテリア増殖抑制効果(寒天培地による評価)>
培養前のS.aureus液に1mg/mLとなるようにダチョウ卵黄抗体(S.aureusを免疫して得た抗体)を混和し、寒天培地(半径10cmのシャーレにバクテリア液0.1mlを培養)にて18時間培養した。結果は図2の写真に示す。免疫前抗体(
図2(a)左写真)および免疫後(図2(b)右写真)の抗体を混和した結果である。免疫抗体の混和により、バクテリアのコロニー(白点)数が明らかに減少していることが分かる。つまり抗体によりバクテリアの増殖が抑制されていた。
【0033】
<ダチョウ抗体のアトピーおよびニキビに対する効果>
S.aureus、P.acnesの免疫により作製したダチョウ卵黄抗体をワセリン(基剤)に混和(抗体濃度が50μg/mLになるように調整)し、アトピーおよびニキビ罹患人に軟膏として患部に塗布した。一日2回の使用を毎日連続して行い、1週間目の患部の状態を観察した。比較対象には基剤のみを使用した。結果を表3に示す。ここで、「S.aureus抗体」は、S.aureus菌体のホモジネート液を抗原として得た抗体を示し、「P.acnes抗体」は、P.acnes菌体のホモジネート液を抗原として得た抗体を示す。「混合抗体」は、「S.aureus抗体」と「P.acnes抗体」を50対50で混合したものを基剤に混和(全抗体濃度が50μg/mLになるように調整)したものである。
【0034】
【表3】
【0035】
抗体入り軟膏は症状を低減させた。また、2種類の抗体を混合した軟膏は、アトピーにもニキビにも効果があった。なお、括弧内の数字は症例数中で症状の軽減が確認された症例数を示す。例えば、(49/67)は67症例中49例に症状の軽減が見られたということを示す。これはパーセントに換算すると73%となる。
【実施例2】
【0036】
ウイルスは、感染してしまうと、細胞内に入り込んでしまうため、抗体によってその増殖や発病を抑制するのは難しい。しかし、感染前にウイルス表面に抗体を結合させ、表面状態を変えてしまうことで、ウイルスの感染自体を抑制させることが期待できる。特にウイルスは粘膜同士が接触する行為によって感染する場合が多い。したがって、これらの行為をする際に、事前に抗体を粘膜に塗布することで感染を大幅に抑制できることが期待される。
【0037】
実験の概略は以下のようである。実施例として用いたのは、エイズウイルスとパピローマウイルスである。エイズウイルスは、球状のエンベロープに包まれたウイルスで、その表面には、タンパク質であるgp120とgp41が存在する。また、パピローマウイルスは、環状構造の二本鎖ウイルスで非エンベロープタイプのウイルスである。そしてその一部にL1タンパク質を有している。
【0038】
抗体としては、エイズウイルスはgp120と、その前駆体であるgp160を用いた。パピローマウイルスはL1を用いた。ウイルスは細胞培養が容易ではないので、これらのタンパク質は遺伝子工学的にバキュロウイルスによるリコンビナントタンパク質として作製した。
【0039】
そして、作製したタンパク質を抗原として、雌のダチョウに免疫し、そのダチョウが生む卵を得た。その卵から抗体を精製し、ELISAによってその力価を調べた。以下に詳細に説明を行う。
【0040】
<ヒトエイズウイルス(Human immunodeficiency virus:以下「HIV」という。)抗原>
HIVそのものではなく、HIVの表面タンパク質を、遺伝子工学的にバキュロウイルスにより作製されたリコンビナント蛋白質HIVgp120とHIV160を抗原として用いた。HIVgp120とHIVgp160はHIVがヒト細胞に感染するのに必要な蛋白質であり、これらに対する抗体を作製すればHIVの感染を抑制できると考えられる。1匹のダチョウへの免疫はHIVgp120を50μg、HIVgp160を50μgを混合したものを用いた。
【0041】
<ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:以下「HPV」という。)抗原>
子宮頸ガンを誘発するHPV type6、11、16、18を用いた(計4種の抗原)。HPVそのものではなく、遺伝子工学的にバキュロウイルスにより作製されたウイルスのL1タンパク質(リコンビナントタンパク質)を抗原として用いた。1匹のダチョウへの免疫は上記4種類の抗原(各40μg)を混合したものを用いた。
【0042】
リコンビナントタンパク質は常法に従って作製した。具体的には、ウイルスのcDNAを用いてPCRによりL1蛋白質領域のみを増幅させ、これをバキュロウイルスベクターに組み込んだ。このベクターをカイコの細胞(Sf9)に導入し、その培養液および細胞抽出液より、リコンビナント蛋白質を精製した。
【0043】
<ダチョウへの免疫>
HIVとHPVはそれぞれ別のダチョウに免疫した。初回免疫は、フロイントの完全アジュバントにタンパク質量として100μgの上記ウイルス抗原を混和し、メスのダチョウの腰部の筋肉内に接種した。また、追加免疫として、初回免疫後、上記2パターンともに隔週毎に3回追加免疫した。フロイントの不完全アジュバントに100μgの抗原を混和し、メスのダチョウの腰部の筋肉内に接種した。
【0044】
<抗体の精製>
追加免疫2週後以降に産卵されるダチョウ卵より抗体を精製した。抗体の精製法を以下に示す。
【0045】
卵黄からの抗体(IgY)の精製は以下のように行った。まず、卵黄に5倍量のTBS(トリス緩衝生理食塩水(Tris− Buffered Saline):20mMTris−HCl、0.15M NaCl,0.5%NaN)と同量の10%デキストラン硫酸/TBSを加え20分攪拌する。そして1MCaCl/TBSを卵黄と同量加え攪拌し、12時間静置する。その後、15000rpmで20分遠心し上清を回収する。
【0046】
次に、最終濃度40%になるように硫酸アンモニウムを加え4℃で12時間静置する。その後、15000rpmで20分遠心し、沈殿物を回収する。最後に、卵黄と同量のTBSに再懸濁し、TBSにて透析する。この課程により90%以上の純度のIgYの回収が可能となった。1個の卵黄より2〜4gのIgYを精製することができた。
【0047】
<ELISA法による測定>
以下のELISAにより、得られた抗体の抗原反応性を測定した。2μg/mLのHIVgp120、HIVgp160、HPV type6、11、16、18をそれぞれE
LISA用96穴マイクロプレートの各wellに100μl入れ、室温で2時間放置した。
【0048】
その後、PBS(リン酸緩衝生理食塩水:Phosphate buffered saline)で3回洗浄したのち、市販のブロッキング溶液(ブロックエース:大日本住友製薬)を各wellに100μl入れ2時間放置した。その後、PBSで3回洗浄したのち、免疫前および免疫後のダチョウIgY抗体の段階希釈液(2mg/mLを原液として100倍、200倍、・・・と2倍段階希釈を続けた。)を各wellに50μl入れ室温で1時間放置した。
【0049】
その後、PBSで3回洗浄したのちペルオキシダーゼ標識抗ダチョウIgY・ウサギポリクローナル抗体(自作)を各wellに100μl入れ45分間放置した。PBSで3回洗浄したのち市販のペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト)により30分間発色し、ELISA用プレートリーダーにより吸光度(450nm)を測定した。得られた結果を、免疫前のIgYの吸光度値の2倍以上となる最高希釈倍率で示した。
【0050】
<ローションへの混和>
上記ダチョウ卵黄抗体(HIV、HPV)をローション(性交時に直接使用、コンドームの表面にも使用)に混和した。ダチョウ卵黄抗体1mgを10mLのローション液(成分:水、グリセリン、エタノール、ポリアクリル酸Na,ヒドロキシエチルセルロース、フェノキシエタノール、EDTA−2Na,パラベン、ポリソルベート80,脂肪酸ソルビタン)と混和した。この混和液中の抗体活性(HIV、HPVの各抗原)を上記と同様のELISAにより測定した。
【0051】
<結果>
表4にHIVgp120とHIVgp160の場合のELISAの結果を示す。表中の数値は、免疫前抗体の吸光度値の2倍以上となる最高希釈倍率である。HIV感染に重要とされるHIVgp120とHIVgp160に対して高い力価の抗体が産生されることが判明した。また、ローションに混和しても抗体活性が全く失われないことが判明した。
【表4】
【0052】
表5にHPVの場合のELISAの結果を示す。表4と同じく、表中の数値は、免疫前抗体の吸光度値の2倍以上となる最高希釈倍率である。HPV type6、11、16、18はヒトの子宮頸ガンを誘発する。ダチョウではこれらウイルスのL1タンパク質(感染に重要なタンパク)に対して高い力価の抗体が産生されることが判明した。また、ローションに混和しても各HPV抗原に対して高い反応性を示した。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の抗体は、他の皮膚常在菌であるマイクロコッカスや水虫の原因菌であるトリコフィトンでの応用性や、交尾感染(接触感染)する病原体、たとえばHIV、クラミジア、ヘルペスウイルスなどの感染抑制や治療、さらには花粉(スギ、ヒノキ、ブタクサ)に起因するアレルギーに対する緩和剤、治療剤(軟膏や点鼻、点眼剤)への応用も可能である。
【0054】
また、エイズウイルスやパピローマウイルスだけでなく、表面タンパク質が既知のウイルスに対する感染抑制剤として広く利用可能である。
図1
図2