(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830489
(24)【登録日】2021年1月28日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】耐摩擦性及び耐白錆性に優れためっき鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/28 20060101AFI20210208BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20210208BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
C23C2/28
C23C2/06
B32B15/01 Z
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-532621(P2018-532621)
(86)(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公表番号】特表2019-501296(P2019-501296A)
(43)【公表日】2019年1月17日
(86)【国際出願番号】KR2016014820
(87)【国際公開番号】WO2017111400
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年8月13日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0186574
(32)【優先日】2015年12月24日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】オ、 ミン−ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン−サン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 イル−リョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ−チョル
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−501334(JP,A)
【文献】
特開2008−138285(JP,A)
【文献】
特開平02−015152(JP,A)
【文献】
特開2004−323974(JP,A)
【文献】
特開2004−339530(JP,A)
【文献】
特開2005−320556(JP,A)
【文献】
特表2009−537697(JP,A)
【文献】
特表2009−537698(JP,A)
【文献】
特開昭58−177446(JP,A)
【文献】
特開平10−226865(JP,A)
【文献】
特開平11−172401(JP,A)
【文献】
特開昭60−125360(JP,A)
【文献】
特開2002−285311(JP,A)
【文献】
特開2006−193024(JP,A)
【文献】
特開2002−035861(JP,A)
【文献】
特開昭51−094429(JP,A)
【文献】
特開2002−309360(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0225831(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第01524326(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき層を有するめっき鋼材であって、下記数式1を満たす、めっき鋼材。
([Mg]S−[Mg]1/2)/[Mg]1/2≧0.3 [数式(1)]
(ここで、[Mg]S及び[Mg]1/2は、グロー放電分光分析機(GDS)を用いてめっき層の断面でのMg、Zn、及びFeの含量分布を測定した値に基づいて、[Mg]Sは、めっき層の表面から厚さ方向に0.5μm以内の領域のうち最大のMgの含量(重量%)を意味し、[Mg]1/2は、めっき層の表面から厚さ方向にZn及びFeの含量が互いに一致する位置の中間位置でのMgの含量(重量%)を意味する。)
【請求項2】
前記めっき層に含まれたMgの平均含量(C0、重量%)に対する、前記めっき層の表面から厚さ方向に1/7t位置までの領域に含まれたMgの含量(C1、重量%)の比(C1/C0)が1.02以上である、請求項1に記載のめっき鋼材。
【請求項3】
前記めっき層は、その微細組織として、Zn単相組織と、Zn−Al−Mg系金属間化合物と、を含む、請求項1に記載のめっき鋼材。
【請求項4】
前記Zn−Al−Mg系金属間化合物は、Zn/Al/MgZn2の三元共晶組織、Zn/MgZn2の二元共晶組織、Zn−Alの二元共晶組織、及びMgZn2の単相組織からなる群から選択される1種以上である、請求項3に記載のめっき鋼材。
【請求項5】
前記Zn単相組織は、0.03重量%以下(0重量%を含む)のMgを含む、請求項3に記載のめっき鋼材。
【請求項6】
前記めっき層は、重量%で、Al:1〜11%、Mg:1〜3%、残部Zn及び不可避不純物を含む、請求項1に記載のめっき鋼材。
【請求項7】
請求項1に記載のめっき鋼材を製造する方法であって、
重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき浴を準備する段階と、
前記めっき浴に素地鉄を浸漬し、めっきを行ってめっき鋼材を得る段階と、
前記めっき鋼材のめっき付着量を調節する段階と、
前記めっき付着量が調節されためっき鋼材にマグネシウム系リン酸塩水溶液の液滴を噴射して冷却する段階と、を含む、めっき鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記液滴噴射開始温度が405〜425℃である、請求項7に記載のめっき鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記液滴噴射において、前記液滴がめっき鋼材との静電引力によって付着されるように帯電噴射する、請求項7に記載のめっき鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記液滴噴射において、液滴の噴射量が50〜100g/m2である、請求項7に記載のめっき鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記マグネシウム系リン酸塩水溶液がMg3(PO4)2である、請求項7に記載のめっき鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記マグネシウム系リン酸塩水溶液の濃度が1〜3重量%である、請求項7に記載のめっき鋼材の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載のめっき鋼材を製造する方法であって、
重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき浴を準備する段階と、
前記めっき浴に素地鉄を浸漬し、めっきを行ってめっき鋼材を得る段階と、
前記めっき鋼材のめっき付着量を調節する段階と、
前記めっき付着量が調節されためっき鋼材を、5℃/s以下(0℃/sを除く)の1次冷却速度で380℃超過420℃以下の1次冷却終了温度まで1次冷却する段階と、
前記1次冷却されためっき鋼材を前記1次冷却終了温度で1秒以上恒温維持する段階と、
前記恒温維持されためっき鋼材を、10℃/s以上の2次冷却速度で320℃以下の2次冷却終了温度まで2次冷却する段階と、を含む、めっき鋼材の製造方法。
【請求項14】
前記めっき浴の温度が440〜460℃である、請求項7または13に記載のめっき鋼材の製造方法。
【請求項15】
前記めっき浴の温度をT1(℃)とし、前記めっき浴に引き込まれる素地鉄の表面温度をT2(℃)としたときに、前記T1に対するT2の比(T2/T1)が1.10以下である、請求項7または13に記載のめっき鋼材の製造方法。
【請求項16】
前記めっき浴は、重量%で、Al:1〜11%、Mg:1〜3%、残部Zn及び不可避不純物を含む、請求項7または13に記載のめっき鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩擦性及び耐白錆性に優れためっき鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極防食により鉄の腐食を抑える亜鉛めっき法は、防食性能及び経済性に優れるため、高耐食特性を有する鋼材の製造に広く用いられている。特に、溶融された亜鉛に鋼材を浸漬してめっき層を形成する溶融亜鉛めっき鋼材は、電気亜鉛めっき鋼材に比べて製造工程が単純であり、製品価格が安価であるため、自動車、家電製品、及び建材などの産業全般にわたってその需要が増加している。
【0003】
溶融亜鉛めっき鋼材は、腐食環境にさらされた際に、鉄に比べて酸化還元電位が低い亜鉛が先に腐食され、鋼材の腐食が抑制される犠牲防食の特性を有するとともに、めっき層の亜鉛が酸化して鋼材の表面に緻密な腐食生成物を形成させ、酸化雰囲気から鋼材を遮断することで、鋼材の耐腐食性を向上させる。
【0004】
しかし、産業の高度化に伴い、大気汚染が増大し、腐食環境が悪化しており、資源及びエネルギー節約に対する厳しい規制により、従来の亜鉛めっき鋼材に比べて、さらに優れた耐食性を有する鋼材開発に対する必要性が高まっている。
【0005】
それに関連して、亜鉛めっき浴にアルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)などの元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる亜鉛合金系めっき鋼材の製造技術に関する様々な研究が行われている。代表的な亜鉛合金系めっき材としてのZn−Alめっき組成系にMgをさらに添加したZn−Al−Mg系めっき鋼材の製造技術に関する研究が活発に行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のいくつかの目的の一つは、耐摩擦性及び耐白錆性に優れためっき鋼材と、それを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面による一実施形態は、重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき層を有するめっき鋼材であって、下記数式1を満たすめっき鋼材を提供する。
([Mg]
S−[Mg]
1/2)/[Mg]
1/2≧0.3 [数式(1)]
(ここで、[Mg]
Sは、めっき層の表面でのMgの濃度(重量%)を意味し、[Mg]
1/2は、めっき層の表面から厚さ方向に1/2t(tはめっき層の厚さ、以下、同様)位置でのMgの濃度(重量%)を意味する。)
【0008】
本発明の一側面による他の実施形態は、重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき層を有するめっき鋼材であって、上記めっき層に含まれたMgの平均含量(C
0、重量%)に対する、上記めっき層の表面から厚さ方向に1/7t位置までの領域に含まれたMgの含量(C
1、重量%)の比(C
1/C
0)が1.02以上であるめっき鋼材を提供する。
【0009】
本発明の他の側面による一実施形態は、重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき浴を準備する段階と、上記めっき浴に素地鉄を浸漬し、めっきを行ってめっき鋼材を得る段階と、上記めっき鋼材のめっき付着量を調節する段階と、上記めっき付着量が調節されためっき鋼材にマグネシウム系リン酸塩水溶液の液滴を噴射して冷却する段階と、を含む、めっき鋼材の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の他の側面による他の実施形態は、重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき浴を準備する段階と、上記めっき浴に素地鉄を浸漬し、めっきを行ってめっき鋼材を得る段階と、上記めっき鋼材のめっき付着量を調節する段階と、上記めっき付着量が調節されためっき鋼材を、5℃/s以下(0℃/sを除く)の1次冷却速度で380℃超過420℃以下の1次冷却終了温度まで1次冷却する段階と、上記1次冷却されためっき鋼材を上記1次冷却終了温度で1秒以上恒温維持する段階と、上記恒温維持されためっき鋼材を、10℃/s以上の2次冷却速度で320℃以下の2次冷却終了温度まで2次冷却する段階と、を含む、めっき鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の様々な効果の一つとして、本発明の一実施形態によるめっき鋼材は、耐摩擦性及び耐白錆性に優れるという長所があることが挙げられる。
【0012】
但し、本発明の多様で且つ有益な利点と効果は、上述の内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程で、より簡単に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、めっき鋼材のめっき層の深さによる、Al、Mg、Zn、及びFeの含量変化をGDSで測定した結果である。
【
図2】
図2は、耐白錆性の評価後、めっき鋼材の表面を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一側面によるめっき鋼材について詳細に説明する。
【0015】
本発明のめっき鋼材は、その内部から素地鉄及びめっき層を順に含む。このとき、素地鉄は素地鉄または線材であることができ、本発明では、上記素地鉄の組成、微細組織などは特に限定しない。また、めっき層は素地鉄の表面に形成され、腐食環境下における素地鉄の腐食を防止する。
【0016】
めっき層は、重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むことができる。
【0017】
Mgは、めっき層中のZn及びAlと反応してZn−Al−Mg系金属間化合物を形成することで、めっき鋼材の耐食性を向上させるために非常に重要な役割を果たす元素である。その含量が少なすぎる場合には、めっき層の微細組織中に十分な量のZn−Al−Mg系金属間化合物を確保することができず、耐食性向上の効果が十分ではない恐れがある。したがって、めっき層中に上記Mgは0.5重量%以上含まれることができ、1重量%以上含まれることが好ましい。但し、その含量が多すぎる場合には、耐食性向上の効果が飽和するだけでなく、めっき浴内にMg酸化物ドロスが形成されるため、めっき性が低下する恐れがある。また、めっき層の微細組織中に硬度の高いZn−Al−Mg系金属間化合物が過度に多く形成され、曲げ加工性が低下する恐れがある。したがって、めっき層中に上記Mgは5重量%以下含まれることができ、3重量%以下含まれることが好ましい。
【0018】
Alは、Mg酸化物のドロスが形成されることを抑えるとともに、めっき層中のZn及びMgと反応してZn−Al−Mg系金属間化合物を形成することで、めっき鋼材の耐食性を向上させるために非常に重要な役割を果たす元素である。その含量が少なすぎる場合には、Mgドロス形成の抑制能が不足し、めっき層の微細組織中に十分な量のZn−Al−Mg系金属間化合物を確保することが難しくなるため、耐食性向上の効果が十分ではない恐れがある。したがって、めっき層中に上記Alは0.5重量%以上含まれることができ、1重量%以上含まれることが好ましい。但し、その含量が多すぎる場合には、耐食性向上の効果が飽和するだけでなく、めっき浴の温度が上昇してめっき装置の耐久性に悪影響を及ぼす恐れがある。さらに、めっき層の微細組織中に、硬度の高いZn−Al−Mg系金属間化合物が過度に多く形成されるため、曲げ加工性が低下する恐れがある。したがって、めっき層中に上記Alは14重量%以下含まれることができ、11重量%以下含まれることが好ましい。
【0019】
本発明者らは、めっき鋼材の耐摩擦性及び耐白錆性を最大限にするために鋭意研究した結果、めっき層に含有されたMgをめっき層の表面付近に濃化させる場合、めっき鋼材の耐摩擦性及び耐白錆性を向上させることができることを見出した。その理由は、Mgのめっき層の表面濃化率が大きければ大きいほど、めっき層の表面の硬度が高くなってめっき鋼材の耐摩擦性が向上し、腐食初期に、安定したMg系腐食生成物がめっき層の表層部に多量形成され、めっき鋼材の耐白錆性が向上するためである。
【0020】
本発明のめっき鋼材において、めっき層中のMgの濃度は、下記数式1を満たすことができる。一方、より好ましい範囲は0.4以上であり、最も好ましい範囲は0.6以上である。
([Mg]
S−[Mg]
1/2)/[Mg]
1/2≧0.3 [数式(1)]
上記数式1において、[Mg]
Sは、めっき層の表面でのMgの含量(重量%)を意味し、[Mg]
1/2は、めっき層の表面から厚さ方向に1/2t(tはめっき層の厚さ、以下、同様)位置でのMgの含量(重量%)を意味する。
【0021】
一方、本発明では、上記[Mg]
S及び[Mg]
1/2を測定する具体的な方法を特に限定しないが、例えば、次のような方法を用いることができる。すなわち、めっき鋼材を垂直に切断した後、めっき層の断面でのMg、Zn、及びFeの含量分布をグロー放電分光分析機(GDS)を用いて測定する。ここで、めっき層の表面から厚さ方向に0.5μm以内の領域でのMgの含量(重量%)の最大値を[M]
Sと定義し、めっき層の表面からZn及びFeの含量が互いに一致する位置の中間地点でのMgの含量(重量%)を[Mg]
1/2と定義することができる。このとき、[M]
Sを、単にめっき層の表面でのMgの含量ではなく、めっき層の表面から厚さ方向に0.5μm以内の領域でのMgの含量(重量%)の最大値と定義する理由は、GDS分析の前に、めっき層の表面に微細酸化膜が形成されるか、またはその他の異物が吸着される可能性があることから、めっき層の極表層のGDSデータは、めっき層の真のデータではなくその他の異物などのデータである可能性があるためである。
【0022】
本発明のめっき鋼材は、めっき層に含まれたMgの平均含量(C
0、重量%)に対する、上記めっき層の表面から厚さ方向に1/7t位置までの領域に含まれたMgの含量(C
1、重量%)の比(C
1/C
0)が、1.02以上であることができ、1.04以上であることがより好ましく、1.10以上であることが最も好ましい。
【0023】
一方、本発明では、上記C
0及びC
1を測定する具体的な方法を特に限定しないが、例えば、次のような方法を用いることができる。すなわち、めっき鋼材を垂直に切断した後、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて3,000倍でその断面写真を撮影し、めっき層の表面から界面まで、等間隔に28箇所に対して、エネルギー分散分光法(EDS)を用いてMgの含量を点分析する。その後、めっき層の表面付近の3箇所で測定されたMgの含量の平均値をC
1と定義し、めっき層の表面付近の3箇所を含む28箇所の全部で測定されたMgの含量の平均値をC
0と定義することができる。
【0024】
上述のMgの分布を調節する方法には様々な方法があり得るため、本発明の独立請求項ではこれを特に制限しない。但し、一例として、後述のように、溶融状態のめっき層を冷却する際に、マグネシウム系リン酸塩水溶液の液滴を噴射して冷却することで、上記のような位置分布を得ることができる。
【0025】
めっき層は、その微細組織として、Zn単相組織と、Zn−Al−Mg系金属間化合物と、を含むことができる。本発明では、上記Zn−Al−Mg系金属間化合物の種類を特に限定しないが、例えば、Zn/Al/MgZn
2の三元共晶組織、Zn/MgZn
2の二元共晶組織、Zn−Alの二元共晶組織、及びMgZn
2の単相組織からなる群から選択される1種以上が挙げられるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0026】
一例によると、Zn単相組織は、0.03重量%以下(0重量%を含む)のMgを含むことができる。
【0027】
状態図上、Znに対するMgの固溶限界は0.05重量%であるため、MgはZn単相組織中に0.05重量%まで含まれることができる。ところが、このようにZn単相組織中にMgが含まれる場合は、Mgのめっき層での表面濃化にとっては不利となり、Zn単相組織の融点が下がって、スポット溶接の際に液体金属脆化(LME)クラックの発生を引き起こす可能性がある。そこで、本発明では、Zn単相組織に固溶されたMgの含量を出来る限り抑制しようとしている。本発明で目的とする効果を達成するための、Zn単相組織に含まれたMgの含量の上限は0.03重量%であり、0.01重量%であることがより好ましい。
【0028】
上述のZn単相組織中に固溶されたMgの含量を調節する方法には様々な方法があり得るため、本発明ではこれを特に制限しない。但し、一例として、後述のように、素地鉄のめっき浴への引込温度及びめっき浴の温度を適切に制御するか、または溶融状態のめっき層を冷却する際にマグネシウム系リン酸塩水溶液の液滴を噴射して冷却することにより、上記のようなMgの含量を得ることができる。
【0029】
上述のように、以上で説明した本発明のめっき鋼材は様々な方法により製造されることができ、その製造方法は特に制限されない。但し、その一例として、次のような方法により製造されることができる。
【0030】
先ず、重量%で、Al:0.5〜14%、Mg:0.5〜5%、残部Zn及び不可避不純物を含むめっき浴を準備した後、上記めっき浴に素地鉄を浸漬し、めっきを行うことでめっき鋼材を得る。
【0031】
一例によると、めっき浴の温度は440〜460℃であることが好ましく、445〜455℃であることがより好ましい。
【0032】
一例によると、めっき浴の温度をT
1(℃)とし、上記めっき浴に引き込まれる素地鉄の表面温度をT
2(℃)としたときに、上記T
1に対するT
2の比(T
2/T
1)は、1.10以下に制御することが好ましく、1.08以下に制御することがより好ましく、1.05以下に制御することがさらに好ましい。ここで、めっき浴に引き込まれる素地鋼板の表面温度とは、めっき浴に浸漬する直前若しくは直後の素地鋼板の表面温度を意味する。このように、T
1に対するT
2の比(T
2/T
1)を低く制御する場合、Zn単相がめっき層と素地鉄との界面で主に凝固されることとなり、Mgの表面濃化をより促進させることができる。
【0033】
次に、上記めっき鋼材をガスワイピング処理してめっき付着量を調節する。円滑な冷却速度の調節、及びめっき層の表面酸化の防止のために、上記ワイピングガスとしては窒素(N
2)ガスまたはアルゴン(Ar)ガスを用いることが好ましい。
【0034】
次に、めっき付着量が調節されためっき鋼材を冷却する。このとき、めっき鋼材の冷却は、次の2つの方法の何れか1つの方法により行うことができる。
【0035】
(1)マグネシウム系リン酸塩水溶液の液滴噴射による冷却
めっき付着量が調節されためっき鋼材にマグネシウム系リン酸塩水溶液の液滴を噴射して冷却する。このようにマグネシウム系リン酸塩水溶液の液滴噴射による冷却を行う場合、マグネシウムのめっき層の表面濃化率の向上に寄与するだけでなく、吸熱反応により溶融状態のめっき層を急速冷却させることで、Zn単相組織中に固溶されたMgの含量の低減にも寄与する。ここで、マグネシウム系リン酸塩水溶液は、例えば、Mg
3(PO
4)
2であることができる。
【0036】
一例によると、液滴噴射における液滴噴射開始温度は、405〜425℃であることができ、より好ましくは410〜420℃であることができる。このとき、液滴噴射開始温度とは、液滴噴射を開始する時点でのめっき鋼材の表面温度を意味する。液滴噴射開始温度が405℃未満である場合には、既にZn単相組織の凝固が開始され、Mgの表面濃化が効果的に行われない恐れがある。これに対し、425℃を超えると、液滴噴射による吸熱反応が効果的ではないため、目的とする組織を確保することが難しくなる恐れがある。
【0037】
一例によると、液滴噴射は、マグネシウム系リン酸塩の液滴がめっき鋼材との静電引力により付着するような帯電噴射であることができる。このような帯電噴射は、液滴を微細で且つ均一に形成させるために寄与するだけでなく、噴射された液滴がめっき鋼材の表面に衝突した後、弾かれて出る量が減少し、溶融状態のめっき層の急速冷却に有利であるため、マグネシウムのめっき層の表面濃化率を確保するためにより効果的である。
【0038】
一例によると、液滴噴射における液滴の噴射量は50〜100g/m
2であることができる。噴射量が50g/m
2未満である場合には、その効果が十分ではない恐れがある。これに対し、100g/m
2を超えると、その効果が飽和するため好ましくない。
【0039】
一例によると、マグネシウム系リン酸塩水溶液の濃度は1〜3重量%であることができる。リン酸塩水溶液の濃度が1重量%未満である場合には、その効果が十分ではない恐れがある。これに対し、3重量%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、連続生産する際にノズル詰まり現象が発生して生産に支障をきたす恐れがある。
【0040】
(2)多段(2段)冷却
めっき付着量が調節されためっき鋼材を1次冷却する。本段階は、Znが素地鉄とめっき層との界面付近で凝固されるように誘導するために行われる段階である。
【0041】
1次冷却の際における冷却速度は、5℃/s以下(0℃/sを除く)であることが好ましく、4℃/s以下(0℃/sを除く)であることがより好ましく、3℃/s以下(0℃/sを除く)であることがさらに好ましい。上記冷却速度が5℃/sを超えると、比較的温度が低いめっき層の表面からZnの凝固が始まって、目的とするMgの表面濃化率を確保することが難しくなる可能性がある。一方、上記冷却速度が遅ければ遅いほどMgの表面濃化率を確保するのに有利となるため、上記1次冷却の際の冷却速度の下限は特に限定しない。
【0042】
また、1次冷却の際における冷却終了温度は、380℃超過420℃以下であることが好ましく、390℃以上415℃以下であることがより好ましく、395℃以上405℃以下であることがさらに好ましい。上記冷却終了温度が380℃以下である場合には、Zn単相組織に固溶されたMgの含量が増加するか、または素地鉄とめっき層との界面付近で多量のZn−Al−Mg系金属間化合物が形成されるため、目的とするMgの表面濃化率を確保することが難しくなる可能性がある。これに対し、420℃を超えると、Znの凝固が十分に行われなくなる恐れがある。
【0043】
その後、上記1次冷却されためっき鋼材を上記1次冷却終了温度で恒温維持する。
【0044】
恒温維持のとき、維持時間は1秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがより好ましく、10秒以上であることがさらに好ましい。これは、凝固温度が低い合金相は液相に維持するとともに、Znのみの部分凝固を誘導するためである。一方、恒温維持時間が長いほど、目的とするMgの表面濃化率の確保に有利であるため、上記恒温維持時間の上限は特に限定しない。
【0045】
その後、上記恒温維持されためっき鋼材を2次冷却する。本段階は、残留液相のめっき層を凝固させ、Mgの表面濃化率を十分に確保するための段階である。
【0046】
2次冷却の際は、冷却速度は10℃/s以上であることが好ましく、15℃/s以上であることがより好ましく、20℃/s以上であることがさらに好ましい。上記のように2次冷却の際に急冷を行うことで、比較的温度が低いめっき層の表面部に残留液相の凝固を誘導することができ、これにより、Mgの表面濃化率を十分に確保することができる。上記冷却速度が10℃/s未満である場合には、目的とするMgの表面濃化率を確保することが難しくなる可能性があるため、めっき装置の上部ロールなどにめっき層がくっついて剥離される恐れがある。一方、上記冷却速度が速ければ速いほど、目的とするMgの表面濃化率を確保することが有利となるため、上記2次冷却の際における冷却速度の上限は特に限定しない。
【0047】
また、2次冷却の際に、冷却終了温度は320℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることがさらに好ましい。上記冷却終了温度が上記範囲を有する場合、めっき層の完全な凝固を達成することができ、その後の鋼板の温度変化はMgの表面濃化率に影響を及ぼさないため、特に限定しない。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、かかる実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものにすぎず、かかる実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載の事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0049】
めっき用試験片として、厚さ0.8mm、幅100mm、長さ200mmの低炭素冷延鋼板を素地鋼板として準備した後、上記素地鋼板をアセトンに浸漬し、超音波洗浄することで、表面に存在する圧延油などの異物を除去した。その後、一般の溶融めっき現場で鋼板の機械的特性を確保するために行う、750℃還元雰囲気での熱処理を行った後、2.5重量%のAl及び3重量%のMgを含む亜鉛系めっき浴(めっき浴の温度:450℃)に浸漬することで、めっき鋼材を製造した。このとき、めっき浴に引き込まれる素地鉄の表面温度は470℃に一定にした。その後、製造されたそれぞれのめっき鋼材をガスワイピングして、めっき付着量を片面当たり70g/m
2に調節し、下記表1の条件で冷却を行った。
【0050】
その後、それぞれのめっき鋼材を垂直に切断し、GDS及びEDS分析によりめっき層中のマグネシウムの分布を測定し、その結果を下記表1にともに示した。具体的な測定方法は、上述のとおりである。
【0051】
その後、それぞれのめっき鋼材の耐摩擦性、耐白錆性、及びスポット溶接性を評価し、その結果を下記表2に示した。
【0052】
耐摩擦性は次のような方法により評価した。
摩擦特性試験(linear friction test)のために、ツールヘッドで製造されたそれぞれのめっき鋼材の表面に一定の圧力を加えた状態で全20回の摩擦を加えた。このとき、目標荷重は333.3kgfであり、圧力は3.736MPaであり、1回摩擦のときのツールヘッドの移動距離は200mmであり、ツールヘッドの移動速度は20mm/sであった。
【0053】
摩擦後、それぞれのめっき鋼材に対して剥離試験を行った。より具体的には、10Rで曲げ加工されたそれぞれのめっき鋼線の曲げ加工部にセロハン粘着テープ(Ichiban社製、NB−1)を密着させた後、それを瞬間的に剥離し、光学顕微鏡(50倍率)を用いてめっき層の欠陥個数を測定した。測定結果、めっき層の欠陥個数が5個/m
2以下である場合を「◎」、めっき層の欠陥個数が10個/m
2以下である場合を「○」、めっき層の欠陥個数が10個/m
2を超える場合を「X」と評価し、その結果を下記表2にともに示した。
【0054】
耐白錆性は次のような方法により評価した。
それぞれのめっき鋼材を塩水噴霧試験機に装入し、国際規格(ASTM B117−11)に準じて赤錆発生時間を測定した。このとき、5%の塩水(温度35、pH6.8)を使用し、時間当たり2ml/80cm
2の塩水を噴霧した。72時間経過後に形成される白清の面積を画像解析器を用いて分析し、5%以下である場合を「◎」、10%以下である場合を「○」、10%を超える場合を「X」と評価した。
【0055】
スポット溶接性は次のような方法により評価した。
先端径6mmのCu−Cr電極を用いて溶接電流7kAを流しながら、加圧力2.1kNで11サイクル(ここで、1サイクルは1/60秒を意味する、以下、同様)の通電時間と11サイクルの保持時間の条件で連続して溶接を行った。鋼板の厚さをtとしたときに、ナゲット径が4vtより小さくなる打点を基準としてその直前までの打点数を連続打点数と決定した。ここで、連続打点数が大きければ大きいほど、スポット溶接性が優れていることを意味している。連続打点数が700打点以上である場合を「◎」、500打点以上である場合を「○」、500打点未満である場合を「X」と評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1及び2を参照すると、発明例1及び2は、めっき層中のMgの分布が適切であるため、耐摩擦性及び耐白錆性に優れるだけでなく、スポット溶接性にも優れることが確認された。これに対し、比較例1は、Mgの表面濃化率が低いため、耐摩擦性、耐白錆性、及びスポット溶接性が何れも劣っていることが確認された。
【0059】
一方、
図1は、めっき鋼材のめっき層の深さによる、Al、Mg、Zn、及びFeの含量変化をGDSで測定した結果であって、
図1の(a)は発明例1のGDS測定結果であり、
図1の(b)は比較例1のGDS測定結果である。
【0060】
図2は、耐白錆性の評価後、めっき鋼材の表面を観察した写真であって、
図2の(a)は発明例1の表面写真であり、
図2の(b)は比較例1の表面写真である。