(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830503
(24)【登録日】2021年1月28日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】複合多孔質構造体の製造方法およびそれにより製造された複合多孔質構造体
(51)【国際特許分類】
C08J 7/04 20200101AFI20210208BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20210208BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20210208BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20210208BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20210208BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20210208BHJP
B01D 39/00 20060101ALI20210208BHJP
B01D 39/14 20060101ALI20210208BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20210208BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20210208BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
C08J7/04 ZCES
C08J7/04 BCEW
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
B01D71/26
B01D71/36
B01D39/00 B
B01D39/14 A
B01D39/16 C
B01D39/20 A
B01D39/20 D
B01D69/00
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-43538(P2019-43538)
(22)【出願日】2019年3月11日
(65)【公開番号】特開2019-157130(P2019-157130A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2019年3月11日
(31)【優先権主張番号】107108292
(32)【優先日】2018年3月12日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】519084696
【氏名又は名称】承鴻工業股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】李 雨霖
(72)【発明者】
【氏名】康 朝翔
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0280262(US,A1)
【文献】
台湾特許出願公開第200927994(TW,A)
【文献】
特表2017−538248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04
B32B 1/00−43/00
B01D 39/00−41/04
53/22
61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細孔、第1の面および前記第1の面と反対側の第2の面を有する多孔質基材を準備する工程(a)と、
冷却流体を、連続的に供給して前記第1の面に接触させ、前記多孔質基材の細孔を通して前記第2の面に流すと同時に、熱源によってコーティング材料を複数の溶融粒子に加熱し該溶融粒子を前記多孔質基材の第2の面に噴霧して、前記多孔質基材の第2の面に複数の微細孔を有するコーティング層を形成して、複合多孔質構造体が形成される工程(b)とを備え、
前記多孔質基材における前記複数の細孔の平均孔径は、0.1μm〜50μmであり、
前記冷却流体の流速は、0.1L/min〜10L/minであり、
前記冷却流体の流入量と流出量の比は、1:0.9〜1:1であり、
前記コーティング材料は、有機高分子コーティング材料または無機コーティング材料であり、
前記微細孔の平均孔径は、0.01μm〜5μmである
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の複合多孔質構造体の製造方法において、
前記溶融粒子の温度は、前記冷却流体の温度よりも高い
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合多孔質構造体の製造方法において、
前記工程(b)の前記熱源の温度は、100℃〜10000℃である
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の複合多孔質構造体の製造方法において、
前記工程(b)の前記冷却流体の温度は、5℃〜60℃である
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の複合多孔質構造体の製造方法において、
前記工程(a)は、
前記多孔質基材を準備する工程(a1)と、
前記多孔質基材の細孔に液体を充填する工程(a2)とを有する
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の複合多孔質構造体の製造方法において、
前記液体は、水、アルコール、ケトンまたはこれらの組み合わせである
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の複合多孔質構造体の製造方法において、
前記多孔質基材の材料は、有機高分子材料、セラミック材料または金属材料である
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の複合多孔質構造体の製造方法において、
前記有機高分子材料は、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリテトラフルオロエチレンを含む
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の複合多孔質構造体の製造方法において、
前記無機コーティング材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ケイ酸塩、アルミン酸塩、ホウ酸塩、チタン酸塩、リン酸塩、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、酸炭化物およびハロゲン化合物から選択される少なくとも1種であり、
前記有機高分子コーティング材料は、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリテトラフルオロエチレンを含む
ことを特徴とする複合多孔質構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の製造方法により製造された複合多孔質構造体であって、
複数の細孔を有する多孔質基材と、
複数の微細孔を有するコーティング層とを備え、
前記多孔質基材は、第1の面および前記第1の面とは反対側の第2の面を有しており、
前記コーティング層は、前記多孔質基材の第2の面に配置されており、有機高分子コーティング材料または無機コーティング材料を含み、
前記微細孔の平均孔径は、0.01μm〜5μmである
ことを特徴とする複合多孔質構造体。
【請求項11】
請求項10に記載の複合多孔質構造体において、
前記コーティング層の平均厚さは、5μm〜500μmである
ことを特徴とする複合多孔質構造体。
【請求項12】
請求項10または11に記載の複合多孔質構造体において、
前記多孔質基材の材料は、有機高分子材料、セラミック材料または金属材料である
ことを特徴とする複合多孔質構造体。
【請求項13】
請求項12に記載の複合多孔質構造体において、
前記有機高分子材料は、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリテトラフルオロエチレンを含む
ことを特徴とする複合多孔質構造体。
【請求項14】
請求項10乃至13の何れか1項に記載の複合多孔質構造体において、
前記無機コーティング材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ケイ酸塩、アルミン酸塩、ホウ酸塩、チタン酸塩、リン酸塩、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、酸炭化物およびハロゲン化合物から選択される少なくとも1種であり、
前記有機高分子コーティング材料は、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリテトラフルオロエチレンを含む
ことを特徴とする複合多孔質構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合多孔質構造体およびその製造方法に関し、特に、膜分離用の複合多孔質構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜分離技術は、駆動力の存在下で薄膜を通過する材料の違いを利用して、分離、濃縮または精製を達成する。それは高選択性、容易な操作、省エネルギー、容易な増幅などの利点を有するので、近年、様々な産業、特に精密化学、食品、汚染防止、生物医工学、バイオテクノロジーの産業において広く使用されており、薄膜分離技術に対する需要は急速に伸びている。
【0003】
多孔質薄膜がブロックすることができる粒径によって、薄膜分離技術は、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過および逆浸透に分類することができる。精密濾過(MF)は、0.2μm〜10μmの孔径を有する多孔質薄膜を利用して、バクテリアまたは水中の懸濁粒子のような加圧下の孔径より大きい粒子をブロックする。限外濾過(UF)は、廃水の再生、医薬品、タンパク質の分離と濃縮に適用されており、10nm〜100nmの孔径と、溶液中の分子量が1,000Da(ダルトン)〜500,000Daの範囲の高分子溶質をブロックする駆動力としての圧力差を有する多孔質薄膜を利用し、それによって溶液から溶媒または小分子を分離する。ナノ濾過(NF)は、限外濾過と逆浸透との間にある膜分離技術であり、溶液中の分子量が200Da〜1,000Daの範囲の重金属イオンまたは高原子価塩などのブロック物質に適用可能であり、産業において金属イオンの除去や海水の淡水化に使用することができる。逆浸透(RO)は、1Å(オングストローム)〜50Åの孔径を有する多孔質薄膜を利用し、ナノメートルサイズ未満の小分子のみを通過させることを可能にし、そして主に超純水の製造に使用される。
【0004】
多孔質薄膜の材料は、有機多孔質薄膜、無機多孔質薄膜および有機無機多孔質薄膜に分類することができる。なかでも、無機多孔質膜は、耐高温性、耐酸アルカリ性および高い機械的安定性といった利点を有するため、薄膜分離技術の開発の優先事項となっている。無機多孔質薄膜の典型的な製造方法は、(1)ゾルゲル、(2)固相焼結、(3)化学気相成長(CVD)などがある。これら全ての方法は、複雑な製造工程を必要とし、長い作製時間と費用増加をもたらす。プロセス要件により、特定の原料のみが許容可能であり、例えばCVD法の反応には気化可能な原料のみが許容可能である。さらに、前述した方法は、前駆体材料の調製時に有害な溶媒または有機金属化合物を頻繁に使用し、これもまた環境汚染をもたらし、現在の環境保護要求を満たさない。
【0005】
上記の問題を解決するために、溶射法により無機多孔質薄膜を製造することが提案されている。溶射法は、熱源を利用してコーティング原料を急速に加熱して溶融粒子にし、次いで高速ジェットを通して溶融粒子を駆動し基材の表面に衝突させてコーティングを形成する。このような高温処理の下では、基材表面の液体が蒸気へと気化してコーティングに染み透ることで、多孔質膜の細孔構造が形成される。
【0006】
例えば、特許文献1では、多孔質コーティング層を有する複合膜の形成方法が開示されている。この方法によれば、原料は熱源によって溶融液滴または半溶融液滴に変化し、次いで、細孔内が液体で満たされた多孔質基材の表面に噴霧される。多孔質基材の液体は、蒸気へと気化して溶融液滴または半溶融液滴に染み透り、多孔質コーティング層を有する複合膜を形成する。
【0007】
溶射技術は膜製造プロセスを単純化または短縮することができるが、従来の溶射によって得られた多孔質膜の孔径は不均一で広範な分布を有しており、その結果、ブロッキング効率が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】台湾特許第200927994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の多孔質薄膜またはその製造方法の技術的な欠点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複合多孔質構造体を製造するための簡単で経済的な方法を提供することであり、従って商業的実施の見込みが高い。
【0010】
本発明の他の目的は、ブロッキング効率が99%を超える複合多孔質構造体を製造することができる複合多孔質構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の工程を備える複合多孔質構造体の製造方法を提供する。前記製造方法は、複数の細孔、第1の面および第1の面と反対側の第2の面を有する多孔質基材を準備する工程(a)と、冷却流体を連続的に供給して前記第1の面に接触させ、前記多孔質基材の細孔を通して前記第2の面に流すと同時に、熱源によってコーティング材料を複数の溶融粒子に加熱し該溶融粒子を前記多孔質基材の第2の面に噴霧して、前記多孔質基材の第2の面に複数の微細孔を有するコーティング層を形成して、複合多孔質構造体が形成される工程(b)とを備える。ここで、コーティング材料は、有機高分子コーティング材料または無機コーティング材料である。
【0012】
本発明によれば、冷却流体がシステム内に連続的に供給されるので、冷却流体は多孔質基材の第1の面に接触し、そのため、冷却流体の一部は少なくとも多孔質基材の細孔に充填される。冷却流体の一部でさえも、多孔質基材の細孔を通って第2の面に流れる。複数の溶融粒子が多孔質基材の第2の面に衝突すると、溶融粒子に伴う熱エネルギーは細孔内の冷却流体を連続的に気化させて蒸気にすることができ、そのような蒸気は溶融粒子によって形成されるコーティング層に染み透って多くの微細孔を作ります。冷却流体が第1の面に連続的に接触しながら溶融粒子が第2の面に衝突するので、冷却流体は、過剰な熱エネルギーを除去して多孔質基材の全体温度を維持しつつ、多孔質基材の細孔を連続的に満たすことができる。そのため、溶射法のみを採用して多孔質基材を徐々に加熱した場合に、細孔内の液体量が気化して微細孔を形成するには不十分であるという不具合を解消することができる。したがって、本発明の製造方法は、製造工程が簡単であり、製造時間が大幅に短縮され、孔径の均一性が高い複合多孔質構造体を得ることができ、複合多孔質構造体のブロッキング効率を99%以上にすることができる。
【0013】
本発明によれば、溶融粒子は実質的に完全溶融の粒子または半溶融の粒子を含んでおり、そのため、溶融粒子は液体または固体の形態であり得る。溶融粒子と多孔質基材との間の温度差は、多孔質基材の第2の面に積層された溶融粒子の最終形態、ならびにコーティング層の孔径に影響を及ぼし得る。好ましくは、溶融粒子の温度は冷却流体の温度よりも高い。このようにして、冷却流体は多孔質基材に対してより良好な冷却効果を有することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、工程(b)の熱源の温度は100℃〜10000℃であり、冷却流体の温度は5℃〜60℃である。
【0015】
いくつかの実施形態において、工程(b)の冷却流体は、水、アルコール、ケトンまたはこれらの組み合わせである。例えば、水は、それだけには限定されないが、脱イオン水などである。アルコールは、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールのような炭素数1〜5を有するアルコール、およびこれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。ケトンは、アセトンのような炭素数3〜4を有するケトン、およびこれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0016】
本発明によれば、多孔質基材の材料は、有機高分子材料、セラミック材料または金属材料である。例えば、有機高分子材料は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのようなポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリロニトリル、またはポリウレタン(PU)を含むが、それらに限定されない。セラミック材料は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、二酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、またはこれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。金属材料は、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、これらの組み合わせなどを含むが、それらに限定されない。
【0017】
いくつかの実施形態では、多孔質基材の厚さは20mm未満である。好ましくは、多孔質基材の厚さは1mm〜20mmである。
【0018】
いくつかの実施形態では、多孔質基材における複数の細孔の平均孔径は50μm以下である。好ましくは、多孔質基材における複数の細孔の平均孔径は0.1μm〜50μmである。
【0019】
好ましくは、工程(a)は、細孔を有する多孔質基材を準備する工程(a1)と、前記細孔に液体を充填する工程(a2)とを含む。この技術的手段は、細孔を十分な液体で満たすことができ、それによって、孔径のより高い均一性を有する複合多孔質構造体の製造方法を提供することができる。
【0020】
本発明によれば、細孔に液体を充填する工程(a2)は、加圧充填、噴霧充填、真空吸引充填または浸漬充填であるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明によれば、工程(a2)の液体は、水、アルコール、ケトン、またはこれらの組み合わせである。例えば、水は、それだけには限定されないが、脱イオン水などである。アルコールは、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールのような炭素数1〜5を有するアルコール、およびこれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。ケトンは、アセトンのような炭素数3〜4を有するケトン、およびこれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0022】
本発明によれば、冷却流体はその成分の1つとして液体を含む、または冷却流体は液体と全く同じである。
【0023】
多孔質基材と接触し始めた冷却流体の体積流量は冷却流体の流入量であり、多孔質基板と接触しなくなった冷却流体の体積流量は冷却流体の流出量である。冷却流体の流出量に対する流入量の割合は、多孔質基材の放熱性能に影響を及ぼし、そのため、蒸気によって作られたコーティング層の細孔の孔径および孔径の均一性に影響を及ぼす。本発明によれば、冷却流体の流入量と流出量の比は、1:0.9〜1:1である。
【0024】
また、冷却流体の流速は、多孔質基材の放熱性能に影響を及ぼし、そのため、蒸気によって作られたコーティング層の細孔の孔径の均一性に影響を及ぼす。好ましくは、冷却流体の流速は0.1L/min〜10L/minである。
【0025】
本発明によれば、工程(b)の熱源は、火炎、アークまたはプラズマであるが、これらに限定されない。
【0026】
噴霧工程の数は、コーティング層における最終的なコーティング厚さおよび微細孔の孔径に影響を及ぼす。そのため、工程(b)において、溶融粒子を多孔質基材の第2の面に繰り返し噴霧することができ、必要なコーティング厚さに応じて噴霧工程の数を決定することができる。好ましくは、噴霧工程の数は2〜25である。
【0027】
熱源から多孔質基材の表面までの溶融粒子の噴霧距離は、最終的なコーティング層の特性に影響を及ぼす。噴霧距離が短すぎると、多孔質基材の表面が熱変形する可能性があり、噴霧距離が長すぎると、多孔質基材の表面の熱変形は回避することができるが、溶融粒子の温度および速度が低下し、それによって、コーティング層の密度が低下する。いくつかの実施形態では、噴霧距離は5cm〜30cmである。
【0028】
いくつかの実施形態では、コーティング層の材料は無機コーティング材料であり、コーティング層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ケイ酸塩、アルミン酸塩、ホウ酸塩、チタン酸塩、リン酸塩、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、酸炭化物およびハロゲン化合物から選択される少なくとも1種の無機コーティング材料を含む。例えば、アルカリ金属は、リチウムまたはナトリウムのような金属粉末であるが、これらに限定されない。アルカリ土類金属は、マグネシウムまたはカルシウムのような金属粉末であるが、これらに限定されない。ケイ酸塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムリチウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸ナトリウム水和物またはケイ酸マグネシウム水和物などであるが、これらに限定されない。アルミン酸塩は、アルミン酸カルシウムなどであるが、これらに限定されない。ホウ酸塩は、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウムなどであるが、これらに限定されない。チタン酸塩は、チタン酸マグネシウムまたはチタン酸カルシウムなどであるが、これらに限定されない。リン酸塩は、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムなどであるが、これらに限定されない。酸化物は、アルミナ(酸化アルミニウム)またはジルコニア(酸化ジルコニウム)のような金属酸化物であるが、これらに限定されない。窒化物は、窒化アルミニウムまたは窒化ホウ素のような金属窒化物であるが、これらに限定されない。酸窒化物は、酸窒化アルミニウムまたは酸窒化ケイ素のような金属酸窒化物であるが、これらに限定されない。炭化物は、炭化タングステンまたは炭化アルミニウムのような金属炭化物であるが、これらに限定されない。酸炭化物は、酸炭化アルミニウムのような金属酸炭化物であるが、これらに限定されない。ハロゲン化合物は、フッ化マグネシウムなどであるが、これに限定されない。他の実施形態では、コーティング材料が有機コーティング材料である場合、有機コーティング材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリテトラフルオロエチレンから選択されるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明によれば、上記の製造方法は、大気環境または真空環境で実施することができる。
【0030】
また、本発明は、上記製造方法により製造された複合多孔質構造体も提供する。 この複合多孔質構造体は、多数の細孔を有する多孔質基材と、多数の微細孔を有するコーティング層とを備え、多孔質基材は第1の面および第1の面とは反対側の第2の面を有しており、コーティング層は多孔質基材の第2の面上に配置され、コーティング層の材料は有機高分子材料または無機材料である。
【0031】
いくつかの実施形態において、多孔質基材の材料は、有機高分子材料、セラミック材料、または金属材料である。上述した製造方法に基づいて、無機コーティング有機基材の複合多孔質構造体、有機コーティング有機基材の複合多孔質構造体、無機コーティングセラミック基材の複合多孔質構造体、有機コーティングセラミック基材の複合多孔質構造体、無機コーティング金属基材の複合多孔質構造体、有機コーティング金属基材の複合多孔質構造体等を得ることができる。例えば、多孔質基材の材料は有機高分子材料であり、これには、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタンなどが含まれるが、これらに限定されない。多孔質基材の材料はセラミック材料であり、これには、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(二酸化ケイ素)、マグネシア(酸化マグネシア)、チタニア(酸化チタン)、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、またはこれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。多孔質基材の材料は金属材料であり、これには、コバルト、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、またはこれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。既存の多孔質膜と比較して、本発明の複合多孔質構造体は、より多くの材料の組み合わせを選択することができ、それによって適用可能性が増大する。
【0032】
いくつかの実施形態では、コーティング層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ケイ酸塩、アルミン酸塩、ホウ酸塩、チタン酸塩、リン酸塩、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、酸炭化物およびハロゲン化合物から選択される少なくとも1種の無機コーティング材料を含む。例えば、アルカリ金属は、リチウムまたはナトリウムのような金属粉末であるが、これらに限定されない。アルカリ土類金属は、マグネシウムまたはカルシウムのような金属粉末であるが、これらに限定されない。ケイ酸塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムリチウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸ナトリウム水和物またはケイ酸マグネシウム水和物などであるが、これらに限定されない。アルミン酸塩は、アルミン酸カルシウムなどであるが、これらに限定されない。ホウ酸塩は、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウムなどであるが、これらに限定されない。チタン酸塩は、チタン酸マグネシウムまたはチタン酸カルシウムなどであるが、これらに限定されない。リン酸塩は、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムなどであるが、これらに限定されない。酸化物は、アルミナ(酸化アルミニウム)またはジルコニア(酸化ジルコニウム)のような金属酸化物であるが、これらに限定されない。窒化物は、窒化アルミニウムまたは窒化ホウ素などの金属窒化物であるが、これらに限定されない。酸窒化物は、酸窒化アルミニウムまたは酸窒化ケイ素のような金属酸窒化物であるが、これらに限定されない。炭化物は、炭化タングステンまたは炭化アルミニウムなどの金属炭化物であるが、これらに限定されない。酸炭化物は、酸炭化アルミニウムのような金属酸炭化物であるが、これらに限定されない。ハロゲン化合物は、フッ化マグネシウムなどであるが、これらに限定されない。他の実施形態では、コーティング材料が有機コーティング材料である場合、有機コーティング材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリテトラフルオロエチレンから選択されるが、これらに限定されない。
【0033】
好ましくは、複合多孔質構造体におけるコーティング層の微細孔の平均孔径は、0.01μm〜5μmである。
【0034】
好ましくは、複合多孔質構造体におけるコーティング層の平均厚さは、5μm〜500μmである。
【0035】
いくつかの実施形態では、多孔質基材は、中空柱状体、中空錐体、中空管などの形状を有するが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、実施例1の複合多孔質構造体の製造方法における工程(b)を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1の複合多孔質構造体のコーティング層における微細孔の孔径分布図である。
【
図3】
図3は、実施例2の複合多孔質構造体のコーティング層における微細孔の孔径分布図である。
【
図4】
図4は、比較例1の複合多孔質構造体のコーティング層における微細孔の孔径分布図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る複合多孔質構造体の多孔質基材の概略斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る複合多孔質構造体の多孔質基材の概略斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明に係る複合多孔質構造体の多孔質基材の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、下記の実施例によって本発明の好ましい実施形態を説明するが、当業者は本発明による利点および効果を容易に理解することができる。本発明の意図および範囲から逸脱することなく本発明を実施または適用するために様々な修正および変更を行うことができる。
【0038】
本発明の複合多孔質構造体の製造方法は、以下の実施例1および実施例2に記載することができる。
【0039】
(実施例1)
まず、
図1に示すように、工程(a1)における中空管状の多孔質基材10を用意する。多孔質基材10は、管壁101と、軸方向流路102と、複数の細孔103とを有する。軸方向流路102は、管壁101の内側に形成され、細孔103は、管壁101に凹状に形成される。管壁101は、第1の面1011(即ち、内壁面)および第1の面1011とは反対側にある第2の面1012(即ち、外壁面)を有する。管壁101は、厚さが2.5mm、長さが300mm、内径が29.5mm、外径が30mmである。多孔質基材10は、ステンレス鋼製であり、細孔103の平均孔径が3μmである。
【0040】
続いて、工程(a2)において、多孔質基材10を脱イオン水で満たされたタンクに浸漬して、多孔質基材10の複数の細孔103内を脱イオン水で満たす。
【0041】
次に、
図1に示すように、工程(b)において、25℃の冷却流体30が3L/ minの流速で軸方向流路102に供給されるので、冷却流体30は、第1の面1011に連続的に接触し、多孔質基材10の全体の温度を維持する。冷却流体30の一部は、細孔103を通って第2の面1012に流れる。同時に、プラズマによって生成された8000℃の熱源によって、アルミナコーティング材料が大気中で約500℃の温度で複数の溶融粒子201に加熱される。熱源と間で10cmの噴霧距離を有する多孔質基材10の第2の面1012上に溶融粒子201が噴霧され、これによって複数の微細孔を有するコーティング層20が得られる。冷却流体30の流入量と流出量の比は1:0.99であり、このことは冷却流体30の脱イオン水が多孔質基材10の複数の細孔103内に連続的に充填されていることを示す。この工程では、噴霧された溶融粒子201が第2の面1012上に積層されて薄層を形成する。複数の細孔103内の脱イオン水は、溶融粒子201の熱(即ち、100℃を超える温度)によって蒸気に気化し、蒸気が薄層を染み透って微細孔を形成して、複数の微細孔を有するコーティング層20が形成される。また、この工程では、軸方向流路102を連続的に流れる冷却流体30によって溶融粒子201を連続的に冷却固化させることができ、これによって、第2の面1012にコーティング層が形成されて複合多孔質構造体1が得られる。ここで、工程(b)と同期して上記工程を3回繰り返した後のコーティング層20の平均厚さは28μmである。
【0042】
複合多孔質構造体1のコーティング層20における微細孔の孔径分布を
図2に示す。 微細孔の孔径分布は非常に狭く、孔径は高い均一性を有することが分かる。複合多孔質構造体1のコーティング層20は、孔径分析器、PMICFP−1500Aによって測定される。微細孔の平均孔径は約0.5μmであり、0.55μmよりも大きい孔径を有する微細孔は全体の微細孔の13.4%を占める。
【0043】
また、複合多孔質構造体1のブロッキング効率は、次の方法で測定される。 (1)ポリスチレン(PS)標準粒子(0.45μmまたは0.2μm)を異なる濃度の水溶液に調合し、濁度を濁度計で測定して濃度と濁度が直線関係にある検量線を作成した。(2)0.45μmのポリスチレン標準粒子を含有する100濁度(NTU)の溶液を調製した。ポリスチレン標準粒子がコーティング層の第2の面1012上にフィルターケーキを形成しなかった場合には、溶液を複合多孔質構造体1を通して濾過した。濾過後に得られた濾液の濁度は1NTUであり、このことから、複合多孔質構造体1は0.45μmのポリスチレン標準粒子に対して99%のブロッキング効率を有することが分かる。
【0044】
(実施例2)
実施例2の製造方法は実施例1の製造方法と類似しており、違いは実施例2が工程(b)を5回繰り返すことにある。実施例2の製造方法に従って得られた複合多孔質構造体は、多孔質基材と、多孔質基材の第2の面上に形成された複数の微細孔を有するコーティング層とを含む。コーティング層の平均厚さは48μmであり、コーティング層の微細孔の平均孔径は約0.32μmである。その孔径分布を
図3に示しており、0.35μmよりも大きい孔径を有する微細孔は全体の微細孔の2.7%しか占めていない。さらに、本実施例による複合多孔質構造体は、0.2μmのポリスチレン標準粒子に対して99%のブロッキング効率を有する。
【0045】
(比較例1)
比較例1の製造方法は実施例1の製造方法と類似しているが、違いは、比較例1では溶融粒子が多孔質基材の第2の面に噴霧される際、同時に多孔質基材の第1の面に接触させるための脱イオン水を含む冷却流体が連続的に供給されないことにある。実際、多孔質基材の第1の面は、脱イオン水と静的に接触しているだけである。比較例1の製造方法により得られた複合多孔質構造体は、多孔質基材と、多孔質基材の第2の面に形成された複数の微細孔を有するコーティング層とを含む。ここで、コーティング層の平均厚さは25μmであり、コーティング層における微細孔の平均孔径は約0.33μmである。複合多孔質構造体におけるこれらの微細孔の孔径は異なる。その孔径分布を
図4に示しており、0.35μmよりも大きい孔径を有する微細孔は全体の微細孔の43.6%を占め、0.55μmよりも大きい孔径を有する微細孔は全体の微細孔の23%も占める。そのため、比較例に係る複合多孔質構造体は、0.45μmのポリスチレン標準粒子に対するブロッキング効率が83%に過ぎない。実施例1の複合多孔質構造体1は、多孔質基材10として、
図5に示す中空管10を用いることができる。さらに、異なる用途の必要性に応じて、
図6に示す中空柱状体(具体的には、中空八角柱)10’または
図7に示す頂部が切除された中空錐体(具体的には、中空六角錐)10”を、本発明の複合多孔質構造体に影響を与えることなく、多孔質基材として用いることができるが、これらに限定されない。
【0046】
要するに、本発明の複合多孔質構造体の製造方法は、簡単な工程、短い製造時間およびより低コストで行うことができる。さらに、本発明の方法では、用途の可能性を高めるためにより多くの様々な材料を組み合わせて採用することができ、環境保護の要件を満たすために有毒な有機試剤を使用しない。その上、本発明の方法によって得られる複合多孔質構造体は、孔径の均一性が高く、そのため、良好なブロッキング効率を得ることができる。
【0047】
上述した説明は、本発明の多くの特徴、利点、構成および詳細な特徴について説明したものであるが、それは単なる例示的なものである。特許の一般的な意味の範囲内で本発明に従ってなされた変更、特に形状、大きさおよび配置の変更の詳細は、依然として本発明の範囲内である。