特許第6830586号(P6830586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6830586オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6830586
(24)【登録日】2021年1月29日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6581 20060101AFI20210208BHJP
   C07F 9/6593 20060101ALI20210208BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20210208BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210208BHJP
   C08K 5/5399 20060101ALI20210208BHJP
   C08G 79/025 20160101ALI20210208BHJP
【FI】
   C07F9/6581
   C07F9/6593CSP
   C09K21/12
   C08L101/00
   C08K5/5399
   C08G79/025
【請求項の数】14
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2020-125556(P2020-125556)
(22)【出願日】2020年7月22日
【審査請求日】2020年7月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591286270
【氏名又は名称】株式会社伏見製薬所
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】多田 祐二
(72)【発明者】
【氏名】砂田 淳志
(72)【発明者】
【氏名】内海 圭一郎
【審査官】 高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】 特表2019−531262(JP,A)
【文献】 特開2017−122077(JP,A)
【文献】 特開2012−116842(JP,A)
【文献】 特開2014−189489(JP,A)
【文献】 特開2013−075940(JP,A)
【文献】 台湾特許出願公開第201542575(TW,A)
【文献】 特開2019−023263(JP,A)
【文献】 特開2019−044031(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/198766(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2019/0367727(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2020/0071477(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第110204862(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/547
C07F 9/6564
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される、オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物。
【化1】
(式(1)中、
nは3から8の整数であり、
およびRは、(i)それぞれ独立して、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルキル基若しくはアルコキシ基、および、炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基若しくはアリールオキシ基のうちのいずれか、または、(ii)炭素数が1〜6のアルキル基若しくはカルボニル基により置換されていてもよい飽和の若しくは不飽和の環状構造を相互間で形成しており、
aおよびbは、それぞれ独立して0〜4の整数であり、
各繰り返し単位のオキサホスホリン環含有構造の種類は独立している。)
【請求項2】
式(1)のnが3または4である、請求項1に記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物。
【請求項3】
式(1)において、nが3であり、かつ、aおよびbが0である、請求項1に記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物。
【請求項4】
ジアステレオマーの混合物である請求項3に記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物。
【請求項5】
隣接し合う前記オキサホスホリン環含有構造の立体配置がcis−cis−cis型である、請求項3に記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物。
【請求項6】
隣接し合う前記オキサホスホリン環含有構造の立体配置がtrans−cis−trans型である、請求項3に記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物を二種類以上含む、オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物混合物。
【請求項8】
アジド化剤を用いて下記の式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物をアジド化中間体に誘導する工程1と、
前記アジド化中間体を環化反応させる工程2と、
を含むオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の製造方法。
【化2】
(式(2)中、
およびRは、(i)それぞれ独立して、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルキル基若しくはアルコキシ基、および、炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基若しくはアリールオキシ基のうちのいずれか、または、(ii)炭素数が1〜6のアルキル基若しくはカルボニル基により置換されていてもよい飽和の若しくは不飽和の環状構造を相互間で形成しており、
aおよびbは、それぞれ独立して0〜4の整数である。)
【請求項9】
工程2において用いる前記アジド化中間体が二種類以上の前記アジド化中間体の混合物である、請求項8に記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の製造方法。
【請求項10】
前記アジド化中間体の前記混合物が工程1において二種類以上の前記クロロジベンゾオキサホスホリン系化合物を用いることで得られたものである、請求項9に記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の製造方法。
【請求項11】
樹脂成分と、
請求項1から6のいずれかに記載のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の一種類または二種類以上と、
を含む樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂成分が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアリレート樹脂およびこれらの変性樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項11または12に記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体。
【請求項14】
請求項13に記載の樹脂成形体を含む電気・電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物、特に、特定のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
第五世代高速移動通信システム(5G)やその次世代の高速移動通信システムを担う大容量・高速通信機器において用いられる材料は、誘電特性として、信号の伝播の遅延を低減可能な低い誘電率(Dk)と信号の減衰を低減可能な低い誘電正接(Df)とを同時に充足すること(いわゆる、Low Dk/Dfであること。)が求められる。Low Dk/Dfを達成可能な材料として種々の樹脂材料が提案されているが、樹脂材料は一般に燃え易いことから、通常、難燃剤の添加による難燃化が求められる。
【0003】
しかし、難燃剤は、樹脂材料の難燃性を高めることができる一方で、樹脂材料の物性を変化させ、機械的特性、電気特性または誘電特性を劣化させる可能性がある。例えば、特許文献1〜3には、樹脂に非相溶な難燃剤としてホスフィンオキシドが記載されており、このホスフィンオキシドは樹脂材料のLow Dk/Dfを達成可能なものと解釈される。しかし、ホスフィンオキシドは、樹脂材料の難燃化機構に関わるリン原子の含有率が低いことから、必要な難燃性を達成するために樹脂材料に対する添加量を増やす必要がある。また、その製法上、微量の塩化物イオンの混入が避けられないことから、樹脂材料への添加量を増やしたときにこの塩化物イオンによって樹脂材料の電気物性を劣化させる可能性がある。
【0004】
また、特許文献4〜7には、難燃剤としてトリオキシビフェニルシクロトリホスファゼン類が記載されており、このホスファゼン化合物は高融点であってLow Dk/Dfを達成可能なものと解釈される。しかし、このホスファゼン化合物は、クロロシクロトリホスファゼンを出発原料として合成されるものであることから、ホスファゼン環に未置換の塩素が残留する可能性がある。トリオキシビフェニルシクロトリホスファゼンは、ホスファゼン環に残留した塩素が加水分解によりP−OH基に変換されることから、樹脂材料中での経時安定性が低下し、樹脂材料の電気物性を劣化させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】台湾特許出願公開第2015/42575号
【特許文献2】特開2019−023263号公報
【特許文献3】特開2019−044031号公報
【特許文献4】国際公開第2019/198766号
【特許文献5】米国特許出願公開第2019/0367727号
【特許文献6】中国特許出願公開第110204862号
【特許文献7】米国特許出願公開第2020/0071477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、樹脂材料の難燃剤として有用で新規な環状ホスファゼン化合物、特に、樹脂材料の物性劣化を抑えながら難燃性を高めることができるとともにLow Dk/Dfを達成可能で新規な環状ホスファゼン化合物を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の環状ホスファゼン化合物は、オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物であり、下記の式(1)で表される。
【0008】
【化1】
【0009】
式(1)中、nは3から8の整数である。RおよびRは、(i)それぞれ独立して、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルキル基若しくはアルコキシ基、および、炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基若しくはアリールオキシ基のうちのいずれか、または、(ii)炭素数が1〜6のアルキル基若しくはカルボニル基により置換されていてもよい飽和の若しくは不飽和の環状構造を相互間で形成している。aおよびbは、それぞれ独立して0〜4の整数である。なお、各繰り返し単位のオキサホスホリン環含有構造の種類は独立している。
【0010】
本発明の環状ホスファゼン化合物の一形態は、式(1)のnが3または4のものである。
【0011】
本発明の環状ホスファゼン化合物の他の一形態は、式(1)において、nが3であり、かつ、aおよびbが0のものである。この形態に係る本発明の環状ホスファゼン化合物の一例は、ジアステレオマーの混合物である。また、この形態に係る本発明の環状ホスファゼン化合物の他の例は、隣接し合うオキサホスホリン環含有構造の立体配置がcis−cis−cis型である。この形態に係る本発明の環状ホスファゼン化合物のさらに他の例は、隣接し合うオキサホスホリン環含有構造の立体配置がtrans−cis−trans型である。
【0012】
他の観点に係る本発明は、オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物混合物に関するものであり、この混合物は、本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物を二種類以上含む。
【0013】
さらに他の観点に係る本発明は、本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の製造方法に関するものである。この製造方法は、アジド化剤を用いて下記の式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物をアジド化中間体に誘導する工程1と、先の工程で得られたアジド化中間体を環化反応させる工程2とを含む。
【0014】
【化2】
【0015】
式(2)中、RおよびRは、(i)それぞれ独立して、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルキル基若しくはアルコキシ基、および、炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリール基若しくはアリールオキシ基のうちのいずれか、または、(ii)炭素数が1〜6のアルキル基若しくはカルボニル基により置換されていてもよい飽和の若しくは不飽和の環状構造を相互間で形成している。また、aおよびbは、それぞれ独立して0〜4の整数である。
【0016】
この製造方法の一形態では、工程2において用いる上記アジド化中間体が二種類以上の上記アジド化中間体の混合物である。この形態において、上記アジド化中間体の上記混合物が工程1において二種類以上の上記クロロジベンゾオキサホスホリン系化合物を用いることで得られたものである。
【0017】
さらに他の観点に係る本発明は樹脂組成物に関するものであり、この樹脂組成物は、樹脂成分と、本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の一種類または二種類以上とを含む。
【0018】
本発明に係る樹脂組成物において、樹脂成分は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアリレート樹脂およびこれらの変性樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一つである。
【0019】
さらに他の観点に係る本発明は、樹脂成形体に関するものであり、この樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物からなる。
【0020】
さらに他の観点に係る本発明は、電気・電子部品に関するものであり、この電気・電子部品は、本発明の樹脂成形体を含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する新規な環状ホスファゼン化合物および当該環状ホスファゼン化合物の混合物は、樹脂材料の難燃剤として有用である。
【0022】
本発明に係る製造方法は、本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する含有構造新規な環状ホスファゼン化合物を製造することができる。
【0023】
本発明に係る樹脂組成物は、本発明に係る新規な環状ホスファゼン化合物の一種類または二種類以上を含むものであることから、樹脂材料の物性劣化を抑えながら難燃性を高めることができるとともにLow Dk/Dfを達成可能である。
【0024】
本発明に係る樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物からなるため、樹脂材料の物性劣化を抑えながら難燃性が高められるとともにLow Dk/Dfを達成可能である。
【0025】
本発明に係る電気・電子部品は、本発明の樹脂成形体を含むものであることから、樹脂材料の物性劣化を抑えながら難燃性が高められるとともにLow Dk/Dfを達成可能である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物>
本発明の環状ホスファゼン化合物は、オキサホスホリン環含有構造を有するものであり、下記の式(1)で表される。
【0027】
【化3】
【0028】
式(1)において、nは、3から8の整数を示す。したがって、式(1)で表されるオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物は、nが3であるオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物(3量体)、nが4であるオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物(4量体)、nが5であるオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物(5量体)、nが6であるオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物(6量体)、nが7であるオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物(7量体)またはnが8であるオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物(8量体)である。
【0029】
本発明の環状ホスファゼン化合物は、例えば電気・電子部品用の樹脂成形体を製造するための樹脂組成物の成分として用いられた場合、nが小さいものの方が誘電特性に優れた樹脂成形体を実現しやすい。したがって、本発明の環状ホスファゼン化合物は、電気・電子部品用の樹脂成形体の製造用材料として用いる場合、式(1)のnが3から4の整数のものが好ましく、nが3のものが特に好ましい。また、本発明の環状ホスファゼン化合物は、nが異なる二種以上のものの混合物である場合、nが小さいものの含有量が多いものほど誘電特性に優れた樹脂成形体を実現しやすい。したがって、本発明の環状ホスファゼン化合物は、nが異なるものの混合物であって電気・電子部品用の樹脂成形体の製造用材料として用いる場合、nが3から4のものを質量比率で95%以上含む混合物が好ましく、nが3のものを質量比率で95%以上含む混合物が特に好ましい。
【0030】
式(1)中のRおよびRは、それぞれ独立しており、ニトロ基、下記のR−1若しくは下記のR−2、または、下記のR−3を示している。また、式(1)において、置換基RおよびRの数を示すaおよびbは、それぞれ独立しており、0〜4の整数である。
【0031】
R−1:
炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていても良い、炭素数が1〜8のアルキル基若しくはアルコキシ基。
【0032】
該当するアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、2−エチルへキシル基、ベンジル基および2−フェニルエチル基を挙げることができる。また、該当するアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、2−エチルへキシルオキシ基、ベンジルオキシ基および2−フェニルエチルオキシ基を挙げることができる。
【0033】
本発明の環状ホスファゼン化合物を電気・電子部品用の樹脂成形体の製造用材料として用いる場合、R−1は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ベンジル基またはメトキシ基が好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
【0034】
R−2:
炭素数1〜6のアルキル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていても良い、炭素数6〜20のアリール基若しくはアリールオキシ基。
【0035】
該当するアリール基の例としては、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、エチルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、n−プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、イソプロピルメチルフェニル基、イソプロピルエチルフェニル基、ジイソプロピルフェニル基、n−ブチルフェニル基、sec−ブチルフェニル基、tert−ブチルフェニル基、n−ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、フェニルフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基を挙げることができる。また、該当するアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基、メチルフェニルオキシ基、ジメチルフェニルオキシ基、エチルフェニルオキシ基、エチルメチルフェニルオキシ基、ジエチルフェニルオキシ基、n−プロピルフェニルオキシ基、イソプロピルフェニルオキシ基、イソプロピルメチルフェニルオキシ基、イソプロピルエチルフェニルオキシ基、ジイソプロピルフェニルオキシ基、n−ブチルフェニルオキシ基、sec−ブチルフェニルオキシ基、tert−ブチルフェニルオキシ基、n−ペンチルフェニルオキシ基、n−ヘキシルフェニルオキシ基、フェニルフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基およびフェナントリルオキシ基を挙げることができる。
【0036】
本発明の環状ホスファゼン化合物を電気・電子部品用の樹脂成形体の製造用材料として用いる場合、R−2は、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、フェニルフェニル基、ナフチル基またはフェニルオキシ基が好ましく、フェニル基またはメチルフェニル基が特に好ましい。
【0037】
R−3:
とRとの相互間で形成された飽和の若しくは不飽和の環状構造であり、この環状構造は炭素数が1〜6のアルキル基またはカルボニル基により置換されていても良い。
【0038】
該当する飽和の環状構造を有するオキサホスホリン環含有構造を備えた式(1)の繰り返し単位の例として、次の式(3)および(4)で表されるものを挙げることができる。
【0039】
【化4】
【0040】
また、該当する不飽和の環状構造を有するオキサホスホリン環含有構造を備えた式(1)の繰り返し単位の例として、次の式(5)で表されるものを挙げることができる。
【0041】
【化5】
【0042】
本発明の環状ホスファゼン化合物は、各繰り返し単位のオキサホスホリン環含有構造の種類が独立している。したがって、本発明の環状ホスファゼン化合物は、全てのオキサホスホリン環含有構造が同じものであってもよいし、二種類以上のオキサホスホリン環含有構造を有するものであってもよい。
【0043】
式(1)で表される本発明の環状ホスファゼン化合物の具体例としては、式(1)のnが3であるオキサホスホリン環含有構造を有するシクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるオキサホスホリン環含有構造を有するシクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるオキサホスホリン環含有構造を有するシクロペンタホスファゼン化合物、式(1)のnが6であるオキサホスホリン環含有構造を有するシクロヘキサホスファゼン化合物、式(1)のnが7であるオキサホスホリン環含有構造を有するシクロヘプタホスファゼン化合物または式(1)のnが8であるオキサホスホリン環含有構造を有するシクロオクタホスファゼン化合物のいずれかであって、a、b、RおよびRが下記の表1の組合せのものが挙げられる。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明の環状ホスファゼン化合物を電気・電子部品用の樹脂成形体の製造用材料として用いる場合、上記例のうち、式(1)のnが3であるシクロトリホスファゼン化合物または式(1)のnが4であるシクロテトラホスファゼン化合物であって、組合せ例1、2または3のものが好ましく、式(1)のnが3であるシクロトリホスファゼン化合物であって組合せ例1または2のものが特に好ましい。
【0046】
上記例のうち、式(1)のnが3であるシクロトリホスファゼン化合物であって組合せ例1のものは、下記の式(6)で表される構造となる。
【0047】
【化6】
【0048】
式(6)で表されるオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物は、通常、後記する製造方法により製造するとジアステレオマーの混合物として得られる。すなわち、隣接し合う前記オキサホスホリン環含有構造の立体配置において、下記の式(7)で表されるcis−cis−cis型のもの(以下、「cis型」と称する。)と下記の式(8)で表されるtrans−cis−trans型のもの(以下、「trans型」と称する。)との混合物として得られる。
【0049】
【化7】
【0050】
【化8】
【0051】
このようなジアステレオマーの混合物は、そのまま混合物として用いることができるが、cis型のものとtrans型のものとをそれぞれ単離し、それぞれの型のものの単一物として用いることもできる。単離方法としては、例えば、トルエン等の溶媒への溶解度を利用した分離と濾過との組合せによる方法、溶媒抽出、再結晶またはカラムクロマトグラフィーによる分離等を採用することができる。
【0052】
<オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物混合物>
本発明の環状ホスファゼン化合物混合物は、本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物を二種類以上含むものである。この混合物の例としては、本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の具体例として挙げたものの任意の混合物が挙げられる。本発明の環状ホスファゼン化合物を電気・電子部品用の樹脂成形体の製造用材料として用いる場合、式 (1)のnが3であるシクロトリホスファゼン化合物および式(2)のnが4であるシクロテトラホスファゼン化合物であって、組合せ例1、2および3の群から選択した任意の組合せの混合物が好ましい。
【0053】
なお、本発明に係る環状ホスファゼン化合物混合物は、上述のシクロトリホスファゼン化合物についてのジアステレオマーの混合物のような異性体の混合物であってもよい。式 (1)のnが4以上の本発明に係る環状ホスファゼン化合物は、通常、後記する製造方法により製造すると、多くのジアステレオマーおよびエナンチオマーを有する立体構造異性体の混合物として得られる。
【0054】
<オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の製造方法>
本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物は、例えば、下記の非特許文献1および2に記載されているような環状ホスファゼン化合物の製造方法、すなわち、クロロジベンゾオキサホスホリン系化合物を原料とし、それをアジド化する工程1と、工程1で得られたアジド化中間体を環化する工程2とを含む製造方法に従って製造することができる。
【0055】
【非特許文献1】G.Tesi,C.P.Haber,C.M.Douglas,Proc.Chem.Soc.,London,1960,p.219.
【非特許文献2】R.H.Kratzer,K.L.Paciorek,Inorg.Chem.,1965,Vol.4,p.1767.
【0056】
クロロジベンゾオキサホスホリン系化合物:
本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の製造においては、先ず、原料として使用する、下記の式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物を用意する。
【0057】
【化9】
【0058】
式(2)中のRおよびRは、それぞれ独立しており、ニトロ基、または、下記のR−1、R−2若しくはR−3を示している。また、式(2)において、置換基RおよびRの数を示すaおよびbは、それぞれ独立しており、0〜4の整数である。
【0059】
R−1:
式(1)のR−1と同様である。
【0060】
R−2:
式(1)のR−2と同様である。
【0061】
R−3:
とRとの相互間で形成された飽和の若しくは不飽和の環状構造であり、この環状構造は炭素数が1〜6のアルキル基またはカルボニル基により置換されていても良い。
【0062】
該当する飽和の環状構造を有するオキサホスホリン環含有構造を備えた式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物の例として、次の式(9)および(10)で表されるものを挙げることができる。
【0063】
【化10】
【0064】
また、該当する不飽和の環状構造を有するオキサホスホリン環含有構造を備えた式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物の例として、次の式(11)で表されるものを挙げることができる。
【0065】
【化11】
【0066】
本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物として既述の具体例に係るものを製造する場合、原料となるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物として式(2)のa、b、RおよびRが先の表1の組合せに対応するものを選択する。
【0067】
式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物は、下記の式(12)で表されるフェノール類と三塩化リンを反応させた後、塩化亜鉛等の触媒を添加して環化反応させることで製造することができる。
【0068】
【化12】
【0069】
式(12)中のRおよびR並びにaおよびbは、式(2)と同様である。
【0070】
このようなクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物の製造方法は、下記の特許文献8、9や非特許文献3、4をはじめとする文献に記載されている。
【0071】
【特許文献8】米国特許第3702878号
【特許文献9】米国特許第5391798号
【非特許文献3】Stephen D.Pastor,John D.Spivack,Leander P.Steinhuebel,Phosphorus and Sulfur,1987,Vol.31,p.71.
【非特許文献4】Asfia Qureshi,Allan S.Hay,J.Chem.Res(M),1998,p.1601.
【0072】
式(12)で表されるフェノール類としては、目的のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物のRおよびR並びにaおよびbに対応するRおよびR並びにaおよびbを有するものが用いられる。該当するフェノール類としては、例えば、2−フェニルフェノール、2−メチル−6−フェニルフェノール、3−メチル−6−フェニルフェノール、3−メチル−2−フェニルフェノール、4−メチル−2−フェニルフェノール、2−(2−メチルフェニル)フェノール、2−(3−メチルフェニル)フェノール、2−(4−メチルフェニル)フェノール、2,3−ジメチル−6−フェニルフェノール、2,5−ジメチル−6−フェニルフェノール、3,5−ジメチル−2−フェニルフェノール、4,5−ジメチル−2−フェニルフェノール、2−(2,3−ジメチルフェニル)フェノール、2−(2,4−ジメチルフェニル)フェノール、2−(2,5−ジメチルフェニル)フェノール、2−(3,5−ジメチルフェニル)フェノール、2’−ヒドロキシ−2,3’−ジメチル−ビフェニル、2’−ヒドロキシ−2,5’−ジメチル−ビフェニル、2’−ヒドロキシ−3,5’−ジメチル−ビフェニル、2’−ヒドロキシ−4,5’−ジメチル−ビフェニル、2’−ヒドロキシ−3,3’−ジメチル−ビフェニル、2−エチル−6−フェニルフェノール、4−エチル−2−フェニルフェノール、2−(2−エチルフェニル)フェノール、2−(4−エチルフェニル)フェノール、2−tert−ブチル−6−フェニルフェノール、4−tert−ブチル−2−フェニルフェノール、2−tert−ブチル−4−メチル−6−フェニルフェノール、5−ベンジル−2−フェニルフェノール、2−(2−メトキシフェニル)フェノール、2−(3−メトキシフェニル)フェノール、2−(4−メトキシフェニル)フェノール、2−(2−メトキシ−5−メチルフェニル)フェノール、2−(4−メトキシ−2−メチルフェニル)フェノール、2−(4−メトキシ−3−メチルフェニル)フェノール、2−(4−エトキシ−2−メチルフェニル)フェノール、2,3−ジフェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、4−ニトロ−2−フェニルフェノール、4−ヒドロキシフルオレン、4−ヒドロキシフルオレノンおよび4−フェナントロール等が挙げられる。
【0073】
目的のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物が一種類のオキサホスホリン環含有構造を有する場合、上述のフェノール類として目的のオキサホスホリン環含有構造に対応する一種類のものを用いればよいが、目的のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物が二種類以上のオキサホスホリン環含有構造を有する場合、上述のフェノール類として目的のオキサホスホリン環含有構造に対応する二種類以上のものを混合して用いることができる。
【0074】
式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物は、上述のフェノール類を用いる方法の他に、非特許文献5に記載されているように、三塩化リンでジベンゾオキサホスホリンオキシドを塩素化することで製造することもできる。
【0075】
【非特許文献5】P.Abranyi−Balogha,G.Keglevich,Synthetic Communications,2011,vol.41,p.1421.
【0076】
工程1:
本工程においてアジド化の対象となる式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物は、目的の環状ホスファゼン化合物が有するオキサホスホリン環含有構造の種類により、一種類のものまたは二種類以上のものの混合物が用いられる。二種類以上のものの混合物は、個別に用意された式(2)で表される二種類以上のクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物を混合することで調製された混合物であってもよいし、式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物の調製時において二種類以上のフェノール類を混合使用することで得られる混合物であってもよい。
【0077】
クロロジベンゾオキサホスホリン系化合物のアジド化においては、公知の様々なアジド化剤を使用することができる。使用可能なアジ化剤の例としては、アジ化リチウム、アジ化ナトリウムおよびアジ化カリウムのような金属アジ化物、トリメチルシリルアジド、p−トルエンスルホニルアジドおよびトシルアジド(TsN3)のような有機アジ化合物、並びに、アジ化ジフェニルホスホリル(DPPA)のようなアジ化ホスホリル化合物を挙げることができる。このようなアジ化剤のうち、汎用性の点においてアジ化ナトリウム、トリメチルシリルアジドまたはDPPAを用いるのが好ましく、アジ化ナトリウムを用いるのが特に好ましい。アジド化剤は2種類以上のものを混合等することで併用することもできる。
【0078】
アジド化剤の使用量は、アジド化反応を十分に進行させる観点から、式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物に対して1〜2当量程度に設定するのが好ましく、1.1〜1.3当量程度に設定するのがより好ましい。
【0079】
本工程では、通常、式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物とアジ化剤とを溶媒中に添加し、アジド化反応を進行させる。この際、40〜250℃程度に加熱してもよい。ここで使用する溶媒は、特に種類が限定されるものではないが、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒の例としては、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドのような有機溶媒や水を挙げることができる。このような非プロトン性極性溶媒のうち、特に比誘電率が高く、安価に入手可能なN,N−ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシドを用いるのが好ましい。溶媒は、2種類以上のものが混合等することで併用されてもよい。
【0080】
本工程のアジド化反応により、式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物は、アジド化中間体に誘導される。
【0081】
本工程において式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物の混合物を用いた場合、本工程では式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物の混合物に対応したアジド化中間体の混合物が得られる。
【0082】
工程2:
工程1において得られたアジド化中間体を環化反応させ、目的のオキサホスホリン環を有する環状ホスファゼン化合物に誘導する。本工程において環化反応の対象となるアジド化中間体は、目的の環状ホスファゼン化合物が有するオキサホスホリン環含有構造の種類により、一種類のものまたは二種類以上のものの混合物が用いられる。二種類以上のものの混合物は、工程1において個別に調製された二種類以上のアジド化中間体を混合することで調製された混合物であってもよいし、工程1において式(2)で表されるクロロジベンゾオキサホスホリン系化合物の二種類以上のものの混合物を用いることで得られる混合物であってもよい。
【0083】
本工程では、基本的には工程1において得られた反応液を撹拌または静置することで環化反応を進行させることができる。この際、反応系を加熱してもよい。反応系の加熱温度は、通常、40〜100℃に設定するのが好ましい。環化反応の進行、すなわち、アジド化中間体の三量体化、四量体化等、n量体化の程度は、本工程で利用可能な後記の溶媒の種類の選択や反応温度の調整によりある程度の範囲で制御することができる。
【0084】
環化反応は、無溶媒下で進行させてもよいし、溶媒中において進行させてもよい。使用可能な溶媒の種類は、環化反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではないが、通常は非プロトン性極性溶媒が好ましい。好ましい非プロトン性極性溶媒の例としては、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドのような有機溶媒が挙げられるが、特に比誘電率が高く、安価に入手可能なN,N−ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシドが好ましい。溶媒は、2種類以上のものを混合等することで併用してもよい。溶媒を用いる場合、環化反応のための加熱温度は溶媒の沸点を超えない範囲に制御する。
【0085】
本工程において得られる目的のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物は、通常、式(1)の繰り返し単位数が異なる複数の種類のものの混合物として得られる。また、本工程において一種類のアジド化中間体を用いた場合は目的の環状ホスファゼン化合物において式(1)の各繰り返し単位のオキサホスホリン環含有構造が同じものとなり、また、本工程において二種類以上のアジド化中間体を用いた場合は目的の環状ホスファゼン化合物において式(1)の各繰り返し単位のオキサホスホリン環含有構造が二種類以上のものとなる。
【0086】
本工程において得られる目的のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物は、通常、濾過、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィーによる分離または再結晶等の通常の方法により、反応系から単離精製することができる。
【0087】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、本発明に係るオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物と樹脂成分とを含むものである。本発明のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物は、二種類以上のものが併用されてもよい。
【0088】
樹脂成分は、特に限定されるものではなく、各種の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とは併用されてもよい。また、樹脂成分は、天然のものであっても良いし、合成のものであっても良い。なお、樹脂成分の範疇にはゴムおよびエラストマーも含まれるものとする。
【0089】
利用可能な熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、マレイミド樹脂、マレイミド−シアン酸エステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンイソプレンブタジエンゴムおよびクロロプレンゴムが挙げられる。熱硬化性樹脂は、二種類以上のものが併用されてもよい。また、上記の例示のうち、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、マレイミド樹脂またはマレイミドーシアン酸エステル樹脂等のポリイミド系樹脂は、その取り扱い加工性および接着性の向上の観点から、熱可塑性や溶媒可溶性を有するそれぞれの樹脂との併用も可能である。
【0090】
熱硬化性樹脂の例に挙げたエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば、種々のものを用いることができる。具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−Aノボラック型エポキシ樹脂およびナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のフェノール類とアルデヒド類との反応により得られるノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビスフェノール−F型エポキシ樹脂、ビスフェノール−AD型エポキシ樹脂、ビスフェノール−S型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、シクロペンタジェン型エポキシ樹脂、アルキル置換ビフェノール型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン等のフェノール類とエピクロルヒドリンとの反応により得られるフェノール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン、オリゴプロピレングリコールおよび水添ビスフェノール−A等のアルコール類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる脂肪族エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸若しくはフタル酸とエピクロルヒドリン若しくは2−メチルエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル系エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンやアミノフェノール等のアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン系エポキシ樹脂、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られる複素環式エポキシ樹脂、グリシジル基を有するホスファゼン化合物、エポキシ変性ホスファゼン樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂並びにウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。本発明の樹脂組成物を電気・電子部品の製造材料とする場合、上記したエポキシ樹脂の中でも、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるフェノール型エポキシ樹脂を用いるのが特に好ましい。エポキシ樹脂は、二種類以上のものが併用されてもよい。
【0091】
利用可能な熱可塑性樹脂の例としては、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイソプレン樹脂、ポリブチレン樹脂、環状ポリオレフィン(COP)樹脂および環状オレフィン・コポリマー(COC)樹脂等。)、塩素化ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル樹脂およびポリ塩化ビニリデン樹脂等。)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS樹脂)およびアクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)等。)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキシレン・ジメチレン・テレフタレート樹脂およびポリ乳酸樹脂等。)、脂肪族ポリアミド樹脂(例えば、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド6樹脂とポリアミド66樹脂との共重合体(ポリアミド6/66樹脂)およびポリアミド6樹脂とポリアミド12樹脂との共重合体(ポリアミド6/12樹脂)等。)、半芳香族ポリアミド樹脂(例えば、ポリアミドMXD6樹脂、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂およびポリアミド10T樹脂等の芳香環を有する構造単位と芳香環を有さない構造単位とからなる樹脂等。)、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリチオエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテル芳香族ケトン樹脂(例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂およびポリエーテルエーテルケトン樹脂等。)、熱可塑性ポリイミド(TPI)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂(液晶ポリエステル樹脂等)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーおよびポリベンズイミダゾール樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、二種類以上のものが併用されてもよい。
【0092】
熱可塑性樹脂の例に挙げたポリフェニレンエーテル系樹脂としては、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂を用いることもできる。変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂の一部または全部に、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、スチリル基、ビニル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、水酸基および無水ジカルボキシル基などの反応性官能基の一種類または複数種類をグラフト反応、共重合またはその他の方法により導入したものであるが、炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基によって末端変性されたものであってもよい。末端変性のための炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、ビニルフェニル基、ビニルベンジル基、アクリロイル基およびメタアクリロイル基から選ばれる少なくとも1種の置換基が挙げられる。炭素−炭素不飽和二重結合を有する置換基によって末端変性された変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する他の化合物を添加して使用することもできる。
【0093】
本発明の樹脂組成物を電気・電子部品の製造材料、特に、各種IC素子の封止材、配線板の基板材料、層間絶縁材料や絶縁性接着材料等の絶縁材料、Si基板やSiC基板の絶縁材料、導電材料若しくは表面保護材料またはOA機器、AV機器、通信機器若しくは家電製品の筐体や部品の用途に用いる場合、それらに利用可能な熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアリレート樹脂またはこれらの変性樹脂を用いるのが好ましい。これらの樹脂成分は、必要により二種類以上のものが併用されてもよい。
【0094】
本発明の樹脂組成物において、オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の使用量は、樹脂成分の種類や樹脂組成物の用途等の各種条件に照らして適宜設定することができるが、通常、固形分換算での樹脂成分100質量部に対して0.1〜200質量部に設定するのが好ましく、0.5〜100質量部に設定するのがより好ましく、1〜50質量部に設定するのが特に好ましい。オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の使用量が0.1質量部未満の場合は、当該樹脂組成物からなる樹脂成形体が十分な難燃性を示さない可能性がある。逆に、200質量部を超えると、樹脂成分本来の特性を損ない、当該特性を期待した樹脂成形体が得られなくなる可能性がある。
【0095】
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分の種類や樹脂組成物の用途等に応じ、その目的とする物性を損なわない範囲で各種の添加剤を配合することができる。利用可能な添加剤の例としては、天然シリカ、焼成シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、ホワイトカーボン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛、天然マイカ、合成マイカ、アエロジル、カオリン、クレー、タルク、焼成カオリン、焼成クレー、焼成タルク、ウオラストナイト、ガラス短繊維、ガラス微粉末、中空ガラスおよびチタン酸カリウム繊維等の無機充填剤、シランカップリング剤などの充填材用の表面処理剤、ワックス類、脂肪酸およびその金属塩、酸アミド類およびパラフィン等の離型剤、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、リン酸アミド、リン酸アミドエステル、ホスフィンオキサイド、ビス(ジフェニルホスフィン)オキサイド、ホスファゼン、ホスフィネート、ホスフィネート塩、リン酸アンモニウムおよび赤リン等のリン系難燃剤、メラミン、メラミンシアヌレート、メラム、メレム、メロンおよびサクシノグアナミン等の窒素系難燃剤、塩素化パラフィン、シリコーン系難燃剤および臭素系難燃剤等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のドリッピング防止剤、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダートフェノールおよびスチレン化フェノールなどの酸化防止剤、チオキサントン系などの光重合開始剤、スチルベン誘導体などの蛍光増白剤、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化剤、染料、顔料、着色剤、光安定剤、光増感剤、増粘剤、滑剤、消泡剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤、チクソ性付与剤可塑剤並びに帯電防止剤を挙げることができる。添加剤は、必要により二種類以上のものが併用されてもよい。
【0096】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分として熱硬化性樹脂を用いる場合、硬化剤や硬化促進剤を併用するのが一般的である。使用可能な硬化剤や硬化促進剤は、熱硬化性樹脂に対して一般に使用されるものであれば種類が特に限定されるものではなく、代表的な例として、芳香族ポリアミン、ポリアミドポリアミンおよび脂肪族ポリアミン等のポリアミン化合物、フェノールノボラックおよびクレゾールノボラック等のフェノール化合物、無水ヘキサヒドロフタル酸および無水メチルテトラヒドロフタル酸等の酸無水物、水酸基を有するホスファゼン化合物、三フッ化ホウ素等のルイス酸およびそれらの塩類、イミダゾール類、ジシアンジアミド類および有機金属塩が挙げられる。これらは2種類以上を適宜混合して使用することも可能である。
【0097】
本発明の樹脂組成物を電気・電子部品の製造材料として用いる場合、エポキシ樹脂が典型的な樹脂成分として用いられる。エポキシ樹脂を樹脂成分として含む樹脂組成物(以下、「エポキシ樹脂組成物」という。)に含まれる硬化剤の量は、通常、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.5〜1.5当量になるよう設定するのが好ましく、0.6〜1.2当量になるよう設定するのがより好ましい。
【0098】
エポキシ樹脂組成物は、通常、既述の硬化剤や添加剤に加えて硬化促進剤を含むものが好ましい。硬化促進剤としては、公知の種々のものを利用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、2−メチルイミダゾール若しくは2−エチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3アミン系化合物またはトリフェニルホスフィン化合物を用いることができる。硬化促進剤の使用量は、通常、エポキシ樹脂100質量部に対して0.01〜15質量部に設定するのが好ましく、0.1〜10質量部に設定するのがより好ましい。
【0099】
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて公知の反応性希釈剤が配合されていてもよい。反応性希釈剤としては、公知の種々のものを利用することができ、特に限定されるものではないが、例として、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルおよびアリルグリシジルエーテル等の脂肪族アルキルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレートおよび3級カルボン酸グリシジルエステル等のアルキルグリシジルエステル、スチレンオキサイドおよびフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−s−ブチルフェニルグリシジルエーテルおよびノニルフェニルグリシジルエーテル等の芳香族アルキルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらの反応性希釈剤は、二種類以上が併用されてもよい。
【0100】
エポキシ樹脂組成物等の本発明の樹脂組成物は、各成分を均一に混合することで調製される。熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物は、樹脂成分に応じて100〜250℃程度の温度範囲で1〜36時間放置すると、充分な硬化反応が進行し、硬化物を形成する。例えば、エポキシ樹脂組成物は、通常、150〜250℃の温度で2〜15時間放置すると、充分な硬化反応が進行し、硬化物を形成する。本発明のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物は、融点が高く、溶解性が低いことから、樹脂組成物による硬化物の機械的特性(特に、ガラス転移温度)を損なわずに難燃性を高めることができ、良好な誘電特性、特に、Low Dk/Dfを達成可能である。このため、本発明の樹脂組成物は、各種の樹脂成形体の製造用、塗料用、接着剤用およびその他の用途用の材料として、広く用いることができる。特に、本発明の樹脂組成物は、電気・電子部品の製造用材料、例えば、半導体封止用や回路基板(特に、金属張り積層板、プリント配線板用基板、プリント配線板用接着剤、プリント配線板用接着剤シート、プリント配線板用絶縁性回路保護膜、プリント配線板用導電ペースト、多層プリント配線板用封止剤、回路保護剤、カバーレイフィルムおよびカバーインク。)形成用の材料として好適である。
【実施例】
【0101】
以下に実施例や比較例等を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。また、以下において、特に断りがない限り、「%」および「部」とあるのは、それぞれ「質量%」および「質量部」を意味する。
【0102】
実施例や合成例等で得られたホスファゼン化合物は、H−NMRスペクトルおよび31P−NMRスペクトルの測定、CHN元素分析、アルカリ溶融後の硝酸銀を用いた電位差滴定法による塩素元素(残留塩素)の分析、マイクロウエーブ湿式分解後のICP発光分光分析法(ICP−AES)によるリン元素の分析並びにエレクトロスプレーイオン化(ESI)による高分解能質量分析計(HRMS)を用いた分析等の結果に基づいて同定した。
【0103】
また、実施例および比較例において用いたリン系難燃剤は次のとおりである。
リン系難燃剤Y:リン酸エステル(大八化学工業株式会社の商品名「CR−741」)
リン系難燃剤Z:ホスフィンオキシド(台湾晋一化工社製の商品名「PQ−60」)
【0104】
[合成例1(6−クロロ−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリンの合成)]
Stephen D.Pastor,John D.Spivack,Leander P.Steinhuebel,Phosphorus and Sulfur,1987,Vol.31,p.71.(先に掲げた非特許文献3)に記載されている方法に従い、6−クロロ−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリンの合成を試みた。得られた化合物は、融点が81−83℃であること、並びに、H−NMRスペクトルおよび31P−NMRスペクトルの測定結果から、目的の6−クロロ−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリンであることを確認した(収率:85%)。
【0105】
[合成例2(6−クロロ−4−フェニル−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリンの合成)]
Asfia Qureshi,Allan S.Hay,J.Chem.Res(M),1998,p.1601.(先に掲げた非特許文献4)に記載されている方法に従い、6−クロロ−4−フェニル−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリンの合成を試みた。得られた化合物は、融点が101−103℃であること、並びに、H−NMRスペクトルおよび31P−NMRスペクトルの測定結果から、目的の6−クロロ−4−フェニル−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリンであることを確認した(収率:81%)。
【0106】
[実施例1(オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の製造)]
温度計、撹拌機および冷却管を備え付けた5,000mLの四つ口フラスコに、窒素気流下で合成例1で合成した6−クロロ−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリン234.6g(1.0mol)、トリメチルシリルアジド115.2g(1.0mol)およびトルエン2,000mLを仕込み、50℃で24時間撹拌した。この反応混合物を室温に冷却後、1,000mLのイオン交換水を加え、室温で1時間撹拌した。これにより得られたスラリー液を濾過して得られた濾物をトルエンおよびイオン交換水で洗浄し、得られた湿結晶を乾燥することで177.8gの白色粉末を得た(収率:83.4%)。この白色粉末の分析結果は以下の通りであった。
【0107】
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
6.0〜8.3(m)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
−10〜0(m),1.8〜3.5(m),15.8(d),17.5(s),17.9(dd)
◎CHNP元素分析:
理論値 C:67.61%,H:3.78%,N:6.57%,P:14.53%
実測値 C:67.49%,H:3.79%,N:6.55%,P:14.49%
◎残留塩素分析:
<0.01%
◎HRMS(ESI,m/z):
理論値 三量体:[C3624+H]:640.1109,四量体:[C4832+H]:853.1452,五量体:[C6040+H]:1066.1796
実測値 640.1097,853.1444,1066.1797
【0108】
以上の分析結果から、得られた白色粉末は、N(OC−C、N(OC−CおよびN(OC−Cの混合物であり、その平均組成が[NP(OC−C)]3.6のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物であることを確認した。
【0109】
[実施例2(実施例1で得られた環状ホスファゼン化合物から三量体−cis型異性体の単離)]
温度計、撹拌機および冷却管を備え付けた2,000mLの四つ口フラスコに、実施例1で得られた白色粉末150.0gとトルエン1,500mLとを仕込み、3時間還流撹拌した後に室温に冷却し、さらに2時間撹拌した。これにより得られたスラリー液を濾過することで得られた濾物をトルエンで洗浄し、得られた結晶を乾燥することで36.6gの無色結晶を得た。この無色結晶の分析結果は以下の通りであった。
【0110】
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
7.17(3H,td),7.35(3H,td),7.40(3H,dd),7.47(3H,t),7.61(3H,td),7.85(3H,dd),7.89(3H,m)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
17.5(s)
◎CHNP元素分析:
理論値 C:67.61%,H:3.78%,N:6.57%,P:14.53%
実測値 C:67.59%,H:3.80%,N:6.61%,P:14.55%
◎残留塩素分析:
<0.01%
◎HRMS(ESI,m/z):
理論値 三量体:[C3624+H]:640.1109
実測値 640.1097
【0111】
以上の分析結果から、得られた無色結晶は、cis型N(OC−Cのオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物であることを確認した。
【0112】
[実施例3(実施例1で得られた環状ホスファゼン化合物から三量体−trans型異性体および四量体の単離)]
実施例2においてスラリーを濾過することで得られた濾過母液をエバポレーターで濃縮し、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=9/1)で分離精製し、実施例1で得られた環状ホスファゼン化合物に含まれる三量体−trans型異性体および四量体のそれぞれのフラクションを得た。それぞれのフラクションを減圧濃縮後にメタノールを加えて濾過し、濾物をメタノールで洗浄することで得られた結晶を乾燥した。これにより、三量体−trans型異性体の無色結晶を86.7g、四量体の白色粉末を15.9gそれぞれ得た。これらの分析結果は以下の通りであった。
【0113】
三量体−trans型異性体の無色結晶:
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
7.18(3H,m),7.33(3H,m),7.52(2H,m),7.63(4H,m),7.88(6H,m),8.03(2H,m),8.25(1H,ddd)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
15.8(d),17.9(dd)
◎CHNP元素分析:
理論値 C:67.61%,H:3.78%,N:6.57%,P:14.53%
実測値 C:67.51%,H:3.81%,N:6.54%,P:14.48%
◎残留塩素分析:
<0.01%
◎HRMS(ESI,m/z):
理論値 三量体:[C3624+H]:640.1109
実測値 640.1097
【0114】
以上の分析結果から、得られた無色結晶は、trans型N(OC−Cのオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物であることを確認した。
【0115】
四量体の白色粉末
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
6.5〜7.8(m)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
1.8〜3.5(m)
◎CHNP元素分析:
理論値 C:67.61%,H:3.78%,N:6.57%,P:14.53%
実測値 C:67.52%,H:3.83%,N:6.52%,P:14.51%
◎残留塩素分析:
<0.01%
◎HRMS(ESI,m/z):
理論値 四量体:[C4832+H]:853.1452
実測値 853.1444
【0116】
以上の分析結果から、得られた白色粉末は、N(OC−Cのオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物のcis型、α−trans型、β−trans型およびγ−trans型並びにエナンチオマーを含む五種類の異性体の混合物であることを確認した。なお、四量体の立体構造異性体の名称は、下記の非特許文献6における命名法を参考にした。
【0117】
【非特許文献6】Bernard Grushkin,Alvin J. Berlin,James L.McClanaham, Rip G.Rice,Inorg.Chem.,1966,Vol.5,p.172.
【0118】
[実施例4(オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物の製造)]
合成例1で合成した6−クロロ−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリンに代えて合成例2で合成した6−クロロ−4−フェニル−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリン310.7g(1.0mol)を用いた点以外は実施例1と同様に操作し、274.2gの白色粉末を得た(収率:94.8%)。この白色粉末の分析結果は以下の通りであった。
【0119】
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
6.0〜8.3(m)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
−10〜0(m),1.5〜3.2(m),15.5(d),17.1(s),17.8(dd)
◎CHNP元素分析:
理論値 C:74.74%,H:4.18%,N:4.84%,P:10.71%
実測値 C:74.70%,H:4.19%,N:4.72%,P:10.66%
◎残留塩素分析:
<0.01%
◎HRMS(ESI,m/z):
理論値 三量体:[C5436+H]:868.2048,四量体:[C7248+H]:1157.2704,五量体:[C9060+H]:1446.3361
実測値 868.2039,1157.2712,1146.3372
【0120】
以上の分析結果から、得られた白色粉末は、N[OC(C)−C、N[OC(C)−CおよびN[OC(C)−Cの混合物であり、その平均組成が{NP[OC(C)−C]}3.5のオキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物であることを確認した。
【0121】
[実施例5〜10および比較例1〜2(樹脂成形体の製造)]
末端がビニル基で変性されたポリフェニレンエーテルオリゴマー(SABIC社の商品名「SA−9000」)、スチレン−ブタジエン共重合体(CRAY VALLEY社の商品名「RICON184」)、実施例1〜4で製造したホスファゼン化合物、リン系難燃剤Y若しくはZ、重合開始剤(東京化成株式会社の試薬「t−Butyl Peroxide」)およびメチルエチルケトン(MEK)を表1に示す割合で配合して撹拌し、ワニスを調製した。このワニスをポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム上に塗布して室温で1時間放置した後、90℃で30分さらに乾燥処理した。乾燥後の塗膜を剥離してポリテトラフルオロエチレン樹脂製のスペーサー内に入れ、真空下、120℃で30分、150℃で30分および180℃で100分の順に段階的に加熱、加圧して硬化させることで後記の評価に適した大きさの成形体を得た。
【0122】
[実施例11〜15および比較例3〜4(樹脂成形体の製造)]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパン・エポキシ・レジン社の商品名「エピコート1001」/エポキシ当量456g/eq.、樹脂固形分70%)651部、クレゾールノボラックエポキシ樹脂(東都化成株式会社の商品名「YDCN−704P」/エポキシ当量210g/eq.、樹脂固形分70%)300部、ノボラック型フェノール樹脂(昭和高分子株式会社の商品名「BRG−558」/水酸基当量106g/eq.、樹脂固形分70%)303部、水酸化アルミニウム361部および2−エチル−4−メチルイミダゾール0.9部の混合物に対し、実施例1〜4で製造したホスファゼン化合物およびリン系難燃剤Y若しくはZを表3に示す割合で添加し、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)をさらに加えて樹脂固形分65%のエポキシ樹脂ワニスを調製した。
【0123】
次に、調製したエポキシ樹脂ワニスを180μmガラス織布に塗布して含浸させ、160℃の温度で乾燥してプリプレグを製造した。このプリプレグを8枚積層し、この積層体を温度170℃、圧力4MPaで100分間加熱・加圧し、後記の評価に適した大きさの樹脂成形体を得た。
【0124】
[実施例16〜21および比較例5〜6(樹脂成形体の製造)]
予め100℃で8時間乾燥処理した熱可塑性樹脂(ポリフタルアミド:SOLVAY社の商品名「アモデルAE−1133」)と実施例1〜4で製造したホスファゼン化合物およびリン系難燃剤Y若しくはZを表4に示す割合で二軸混練押出装置(東洋精機株式会社製)に対して供給し、310℃で混練して樹脂ペレットを得た。射出成形機(デジタルファクトリー株式会社製)を用い、得られた樹脂ペレットを樹脂温度300℃、金型温度120℃の条件で成形し、後記の評価に適した大きさの樹脂成形体を得た。
【0125】
[評価]
実施例5〜21および比較例1〜6で得られた樹脂成形体について、難燃性、誘電特性および耐熱性を評価した。評価方法は次のとおりである。結果を表2〜4に示す。
【0126】
<燃焼性>
長さ125mm、幅12.5mmおよび厚み1.5mmの樹脂成形体を試験片とし、この試験片の燃焼性を評価した。ここでは、アンダーライターズラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格垂直燃焼試験に基づき、10回接炎時の合計燃焼時間と燃焼時の滴下物による綿着火の有無により、V−0、V−1、V−2および規格外の四段階で燃焼性を判定した。各段階の評価は以下のとおりである。難燃性のレベルはV−0が最も高く、V−1、V−2、規格外の順に低下する。
【0127】
V−0:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が50秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が5秒以内。
(C)すべての試験片で滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がない。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは30秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0128】
V−1:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が250秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が30秒以内。
(C)すべての試験片で滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がない。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは60秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0129】
V−2:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が250秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が30秒以内。
(C)試験片5本のうち、少なくとも1本は、滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がある。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは60秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0130】
<誘電特性:比誘電率および誘電正接>
長さ80mm、幅3mmおよび厚さ1.0mmの樹脂成形体を試験片とし、この試験片の比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)をJIS R1641「ファインセラミックス基板のマイクロ波誘電特性の測定方法」に従って温度25℃、周波数10GHzの条件で測定した。
【0131】
<ガラス転移温度(Tg)>
樹脂成形体の動的粘弾性(DMA)を測定し、tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大値をガラス転移温度(Tg)とした。ここでは、動的粘弾性測定装置(パーキンエルマージャパン社の商品名「DMA8000」)を用い、引張モジュールで5℃/分の昇温条件で測定した。
【0132】
<耐熱性>
試験条件1:
樹脂成形体を160℃で100時間加熱し、樹脂成形体表面でのブリードアウト状態(樹脂成形体内部からのブリードアウト状態)を目視により観察して評価した。評価の基準は次の通りである。ブリードアウトが見られにくいほど樹脂成形体の耐熱性が高いことを示している。
AA:ブリードアウトが全く見られない。
A :ブリードアウトがほとんど見られない。
B :若干のブリードアウトが見られる。
C :著しいブリードアウトが見られる。
【0133】
試験条件2:
樹脂成形体を290℃で20分間処理した後、ブリードアウトによる外観変化の有無を観察した。外観変化が無い場合は耐熱性が有るものと評価し、外観変化が有る場合は耐熱性が無いものと評価した。
【0134】
【表2】
【0135】
表2によると、実施例5〜10の樹脂成形体は、比較例1、2の樹脂成形体に比べ、難燃性が高く、比誘電率Dkおよび誘電正接Dfが低いことからLow Dk/Dfであって誘電特性に優れており、しかも、耐熱性に関して評価した環状ホスファゼン化合物のブリードアウトが実質的に見られないことから高温下での信頼性が高い。
【0136】
【表3】
【0137】
表3によると、実施例11〜15の樹脂成形体は、比較例3、4の樹脂成形体に比べ、難燃性が高く、ガラス転移温度が高いことから機械特性も良好であり、さらに、耐熱性に関して評価した環状ホスファゼン化合物のブリードアウトが実質的に見られないことから高温下での信頼性が高い。
【0138】
【表4】
【0139】
表4によると、実施例16〜21の樹脂成形体は、比較例5、6の樹脂成形体に比べ、難燃性が高く、比誘電率Dkおよび誘電正接Dfが低いことからLow Dk/Dfであって誘電特性に優れており、しかも、耐熱性に関して評価した環状ホスファゼン化合物のブリードアウトが実質的に見られないことから高温下での信頼性が高い。
【要約】      (修正有)
【課題】樹脂材料の物性劣化を抑えながら難燃性を高めることができ、かつ良好な誘電特性を有す、新規な環状ホスファゼン化合物の提供。
【解決手段】式(1)で表される、オキサホスホリン環含有構造を有する環状ホスファゼン化合物。(nは3から8の整数;RおよびRは、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基やアリール基;aおよびbは、0〜4の整数。)

【選択図】なし