【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例及び比較例により制限されない。
【0060】
[実施例1]
本実施例では、まず、熱可塑性樹脂と、CNFと、更にブロック共重合体を含有する樹脂ペレットを製造し、製造した樹脂ペレットを成形して成形体を得た。そして、得られた成形体に、エッチング、無電解メッキ触媒の付与、及び無電解メッキをこの順を行い、本実施例のメッキ部品を得た。
【0061】
熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂(東レ製、トヨラック125‐X82)を用い、CNFとしては、水中対向衝突法により作製されたCNF(中越パルプ製、竹漂白パルプB解繊、CNF10重量%含有のCNF水スラリー)を用いた。また、ブロック共重合体としては、ナイロンとポリエチレンオキシドのブロック共重合体(三洋化成工業製、ペレスタットNC6321)を用いた。
【0062】
(1)樹脂ペレットの製造装置
まず、本実施例で樹脂ペレットの製造に用いた製造装置1000について説明する。
図2に示すように、製造装置1000は、可塑化シリンダ210を有する押出成形機200と、水(液体A)を可塑化シリンダ210に供給する供給機構100と、制御装置(不図示)を備える。制御装置は、押出成形機200と、供給機構100の動作を制御する。
【0063】
(a)押出成形機
本実施例では、熱可塑性樹脂が可塑化溶融する高温下においても、CNFの分散した高粘度スラリー及び溶融樹脂に添加した水を液体の状態で溶融樹脂に混練可能な押出成形機200を用いる。
図2に示す押出成形機200は、可塑化シリンダ210と、可塑化シリンダ210の先端に設けられるダイ29と、可塑化シリンダ210内に回転自在に配設されたスクリュ20と、スクリュ20を駆動させるスクリュ駆動機構(不図示)と、可塑化シリンダ210内に配置される上流側シール機構S1及び下流側シール機構S2と、可塑化シリンダ210に接続する真空ポンプPを備える。本実施例では、可塑化シリンダ210内において、可塑化溶融された溶融樹脂は、
図2における右手から左手に向かって流動する。したがって、本実施例の可塑化シリンダ210の内部においては、
図2における右手を「上流」又は「後方」、左手を「下流」又は「前方」と定義する。尚、本実施例の押出成形機200は、従来公知の押出成形機の構成と同様に、可塑化シリンダ210の後方側から見た場合に、スクリュ20を反時計回りに回転させると溶融樹脂を前方(ノズル部側)に送る正回転をし、時計回りに回転させると逆回転するように構成されている。
【0064】
可塑化シリンダ210の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ210に供給するための樹脂供給口201、液体Aを可塑化シリンダ210内に導入するための導入口202、及び可塑化シリンダ210内からガス化したCNFスラリーの溶媒及び液体Aを排気するためのベント203が形成されている。樹脂供給口201には、フィーダースクリュ121を介して樹脂供給用ホッパ211が、導入口202には逆流防止弁を内蔵する導入バルブ212が、それぞれ、配設されており、ベント203には、ベント容器213を介して、真空ポンプPが接続されている。また導入バルブ212は、押出成形機200の外に設けられる供給機構100と接続される。可塑化シリンダ210の外壁面には、バンドヒータ(不図示)が配設されており、これにより可塑化シリンダ210が加熱されて、熱可塑性樹脂が可塑化される。
【0065】
このような構造の押出成形機200では、樹脂供給口201から可塑化シリンダ210内に熱可塑性樹脂及びCNFスラリーが供給され、熱可塑性樹脂がバンドヒータによって可塑化されて溶融樹脂となり、スクリュ20が正回転することにより下流に送られる。そして、導入口202近傍まで送られた溶融樹脂は、導入された液体Aと高圧下、接触混練される。次いで、液体Aと接触混練された溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、ガス化したスラリーの溶媒、及び液体Aが溶融樹脂から分離し、ベント203から排気される。そして、さらに前方に送られた溶融樹脂は、ダイ29から押し出される。
【0066】
これにより、可塑化シリンダ210内では、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化して溶融樹脂とする可塑化ゾーン21、溶融樹脂と導入口202から導入される液体Aを高圧下、接触混練する高圧混練ゾーン22、及び溶融樹脂の樹脂内圧を低下させることにより、溶融樹脂から分離されたスラリーの溶媒及び液体Aをベント203から排気する減圧ゾーン23が形成される。更に、減圧ゾーン23の下流には、再圧縮ゾーン24が設けられる。
【0067】
以下に各ゾーンについて、更に説明する。可塑化ゾーン21には、上流側から、フィード部21Aと、圧縮部21Bが設けられる。フィード部21Aには、樹脂ペレット材料が供給される樹脂供給口201が設けられており、そこから供給される樹脂ペレット材料に余熱を与える。圧縮部21Bでは、余熱が与えられた樹脂ペレット材料が可塑化溶融される。圧縮部21Bに位置するスクリュ20は、下流に向かうに伴ってスクリュフライト深さが浅くなる構造を有する。このスクリュ20の構造により、圧縮部21Bでは、溶融樹脂は、下流に流動するに伴い加圧される。
【0068】
高圧混練ゾーン22の上流側及び下流側には、それぞれ、上流側シール機構S1及び下流側シール機構S2が配設されている。上流側シール機構S1は、樹脂の上流側への逆流を抑制できれば任意のシール機構を用いることができ、本実施例では、従来の発泡成形等に用いるシールリングを採用した。下流側シール機構S2は、上流側の高圧混練ゾーン22において、溶融樹脂の圧力をほぼ一定に調整した状態で、下流側の減圧ゾーン23へ溶融樹脂を流動させることができる。下流側シール機構S2の詳細な構造及び機能については後述する。
【0069】
減圧ゾーン23には、上流側から、徐減圧部23Aと、飢餓減圧部23Bとが設けられる。徐減圧部23Aに位置するスクリュ20は、スクリュフライト深さが浅い部分と、深い部分とが交互に配置され、徐減圧部23Aの下流側に続く飢餓減圧部23Bでは、そこに位置するスクリュ20のスクリュフライトの深さが深い。徐減圧部23A及び飢餓減圧部23Bのスクリュ20の形状により、徐減圧部23Aから飢餓減圧部23Bへ流動する溶融樹脂は、徐減圧部23Aにおいて、徐々に圧力が低下する。これにより、溶融樹脂の急減圧を防ぎ、飢餓減圧部23Bに設けられたベント203からのベントアップを抑制できる。また、スクリュフライトの深さが深い飢餓減圧部23Bでは、溶融樹脂の飢餓状態が促進され、これによってもベントアップが抑制される。ここで、「飢餓状態」とは、溶融樹脂が飢餓減圧部23B内に充満せずに未充満となる状態を意味する。
【0070】
(b)液体Aの供給機構
次に、
図2に示す液体Aの供給機構100について説明する。供給機構100は、押出成形機200の導入バルブ212に接続しており、液体Aを成形機200に供給する。供給機構100は、液体Aの収容容器(液相タンク)10と、収容容器10から液体Aを吸引後、所定の圧力に昇圧し、更に流量一定で液送可能なダブルプランジャーポンプ11と、ダブルプランジャーポンプ11から送られる液体Aを成形機200に供給する前に圧力調整する背圧弁12とから構成される。更に、背圧弁12の上流側(ダブルプランジャーポンプ11側)と下流側(押出成形機200側)には、それぞれ、圧力計13及び14が設けられている。圧力計13は、背圧弁12によって調整される、背圧弁12より上流側の溶液Aの圧力(ダブルプランジャーポンプ11側の圧力、1次圧力)を示し、圧力計14は、背圧弁12により下流側の溶液Aの圧力(成形機200側の圧力、2次圧力)を示す。
【0071】
(c)下流側シール機構
押出成形機200に備えられる下流側シール機構S2について説明する。下流側シール機構S2は、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23(徐減圧部23A)との境界領域に設けられる。下流側シール機構S2は、高圧混練ゾーン22の溶融樹脂の圧力をほぼ一定に調整した状態で、高圧混練ゾーン22から減圧ゾーン23へ溶融樹脂を流動させることができる圧力保持機構である。本実施例では、溶融樹脂に液体(CNFスラリーの溶媒及び液体A)が混合されるため、溶融樹脂の粘度が低下する。このように低粘度化した溶融樹脂の圧力を高めるためには、以下に説明するような機械的なシール機構が有効である。一方で、例えば、スクリュフライトの形状設計によって溶融樹脂の圧力を制御する等の手法では、低粘度化した溶融樹脂の圧力制御は難しいと考える。
【0072】
図3に示すように、スクリュ20は、高圧混練ゾーン22と減圧ゾーン23との境界領域において、内部に溶融樹脂が流動可能なスクリュ内流路30が形成された圧力保持部20Aを有する。下流側シール機構S2は、この圧力保持部20Aと、圧力保持部20Aの外周に設けられた半割シールリング31と、スクリュ20内部に設けられ、スクリュ内流路30を流動する溶融樹脂の流動抵抗となるポペット弁33と、スクリュ20内部に設けられ、ポベット弁33を上流側に付勢する皿バネ34とから主に構成される。
【0073】
スクリュ内流路30は、高圧混練ゾーン22と、減圧ゾーン23とを連通している。一方、半割シールリング31によって、圧力保持部20A(スクリュ20)の外側を通って、高圧混練ゾーン22から減圧ゾーン23へ溶融樹脂が流動することが妨げられている。したがって、下流側シール機構S2においては、溶融樹脂は、圧力保持部20A内に形成されるスクリュ内流路30を通過して、高圧混練ゾーン22から減圧ゾーン23へ流動しようとする。
【0074】
このとき、溶融樹脂の圧力(高圧混練ゾーン22の圧力)が所定圧力未満であると、スクリュ内流路30はポベット弁33により遮断され、溶融樹脂は減圧ゾーン23へ流動することができない。そして、スクリュ内流路30がポベット弁33によって遮断された状態のまま、スクリュ20が正回転し、溶融樹脂が可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22へ流動し続けると、高圧混練ゾーン22の圧力が上昇する。そして、高圧混練ゾーン22の圧力が所定の圧力以上になると、溶融樹脂が皿バネ34のバネ力以上の圧力でポペット弁33を下流方向(
図3の左方向)に加圧し、スクリュ内流路30が開放される。これにより、溶融樹脂が、高圧混練ゾーン22から減圧ゾーン23へ流動することができる。
【0075】
下流側シール機構S2は、高圧混練ゾーン22が一定圧力に達したときにのみ、スクリュ内流路30を開放し、溶融樹脂を高圧混練ソーン22から減圧ゾーン23で流動させる。そして、高圧混練ゾーン22が一定圧力未満となると、再び、ポベット弁33によりスクリュ内流路30が遮断される。このように、下流側シール機構S2は、高圧混練ゾーン22における溶融樹脂の圧力を圧力変動の少ない高圧力に維持できる。この結果、高圧混練ゾーン22では、CNFスラリーは、その液相を維持したまま、溶融樹脂に十分に混練、分散される。本実施例では、高圧混練ゾーン22を8〜10MPaに維持できるように、下流側シール機構S2を設計した。
【0076】
(2)樹脂ペレットの製造
以上説明した
図2に示す製造装置1000を用いて、熱可塑性樹脂と、CNFと、ブロック共重合体とを含む樹脂ペレットを製造した。
【0077】
水(液体A)を収容容器10に収容した。そして、液体Aをダブルプランジャーポンプ11により吸引、昇圧、液送し、導入バルブ212までの系を加圧した。背圧弁12により、1次圧力(背圧弁12より上流側の液体A圧力)を12MPaに設定し、これにより、2次圧力(背圧弁12より下流側の液体A圧力)を8〜11MPaの範囲に調整した。
【0078】
押出成形機200において、バンドヒータ(不図示)により、フィード部21Aを220℃、圧縮部21Bを240℃、高圧混練ゾーン22を190℃、減圧ゾーン23を220℃、再圧縮ゾーン24を220℃に調整した。高圧混練ゾーン22は、液体Aが導入されて溶融樹脂の粘度が急激に低下する。溶融樹脂温度を低温にして、樹脂密度及び樹脂内圧を高く維持するため、高圧混練ゾーン22の温度は他のゾーンよりも低い温度に設定した。
【0079】
まず、ABS樹脂、ブロック共重合体、CNFスラリー(CNF濃度:10重量%)を100重量部、3重量部、40重量部(CNF:4重量部)の割合で混合し、次に、水(CNFスラリーの溶媒)を一部乾燥させた。その後、樹脂供給用ホッパ211から、上記混合物(樹脂ペレット材料)を押出成形機200に供給した。樹脂ペレット材料の押出成形機200への供給は、フィーダースクリュ121により供給量を抑制しながら行った。供給量を抑制することで、フィード部21Aにおいて、樹脂ペレット材料が未充満の状態(飢餓状態)を維持した。
【0080】
スクリュ20を正回転させながら、フィード部21Aで余熱を与え、圧縮部21Bにて、熱可塑性樹脂及びブロック共重合体を可塑化溶融した。更に、スクリュ20を正回転することにより、CNFスラリーを含む溶融樹脂を可塑化ゾーン21から高圧混練ゾーン22に流動させた。
【0081】
次に、導入バルブ212を開放して、高圧混練ゾーン22に液体A(水)を8〜11MPa(約10MPa)の導入圧力で導入した。液体Aの導入量は、樹脂ペレット材料に対して液体Aが約10重量%となるように調整した。
【0082】
高圧混練ゾーン22内の圧力は、下流側シール機構S2により所定の圧力に調整し、導入口202に対向する位置に設けられた圧力センサー(不図示)によって、8〜10MPaの範囲で維持されていることを確認した。190℃に調整された高圧混練ゾーンにおいて、液相(水)を安定に維持する圧力は、約3〜5MPaである。したがって、8〜10MPaに調整された高圧混練ゾーンでは、CNFスラリーをその液相を維持した状態で溶融樹脂に混合できた。また、更に、溶融樹脂に液体A(水)を混合することで、CNFの凝集を抑制した。
【0083】
スクリュ20を更に正回転させることにより、高圧混練ゾーン22を所定の圧力(8〜10MPa)に保持した状態で、溶融樹脂を高圧混練ゾーン22から、下流側シール機構S2を通過させて、減圧ゾーン23へ流動させた。減圧ゾーン23において、徐減圧部23Aから飢餓減圧部23Bへ溶融樹脂を流動させながら徐々に減圧し、飢餓減圧部23Bにおいて溶融樹脂に含まれるスラリーの溶媒(水)及び液体A(水)をガス化して分離した。ガス化した水(水蒸気)は、真空ポンプPにより吸引されて、ベント203からベント容器213を介して可塑化シリンダ210の外部へ排出され、真空ポンプPに接続する回収容器(不図示)に回収された。
【0084】
スクリュ20を更に回転することにより、溶融樹脂を更に下流の再圧縮ゾーン24へ流動させ、その後、可塑化シリンダ210の先端に設けられたダイ29から紐状に押し出し、紐状の成形体を得た。得られた紐状の押出成形体を図示しないペレタイザにてペレット化し、樹脂ペレットを得た。
【0085】
(3)成形体の成形
次に、得られた樹脂ペレットを汎用の射出成形機を用いて射出成形し、60mm×80mm×2mmの平板状の成形体を得た。樹脂温度は230℃、金型温度は70℃とした。得られた成形体の表面には黒点が観察された。この観察結果から、成形体中のCNFの少なくとも一部は凝集したと推測される。
【0086】
(4)エッチング
次に、得られた成形体を40℃のジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGM)に、10分間浸漬し、その後、水洗した。成形体表面には、微細孔が形成された。これは、成形体に含まれるABS樹脂のブタンジエン成分が溶出したためと推測される。
【0087】
(5)無電解メッキ触媒の付与
まず、無電解メッキ触媒液として、50mg/Lの塩化パラジウムを含む、2.0Nの塩酸(塩酸水溶液)を調製した。無電解メッキ触媒液を30℃に調整し、成形体を5分間浸漬した。その後、無電解メッキ触媒液から、成形体を取り出して水洗した。
【0088】
(6)無電解メッキ
界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)を0.2重量%溶解した無電解ニッケルリンメッキ液(奥野製薬工業製、トップニコロンHMB)を70℃に調整し、成形体を10分間浸漬し(無電解メッキ時間10分)、膜厚1μmの無電解ニッケルリンメッキ膜を形成した。無電解メッキ膜は、成形体表面の全面に形成された。次に、無電解ニッケルリン膜を形成した成形体を置換銅メッキ液(奥野製薬液工業製、ANCアクチ)に常温で1分間浸漬し、更に、汎用の電解銅メッキ法により、40μmの銅メッキ膜を形成し、本実施例のメッキ成形体を得た。
【0089】
得られたメッキ成形体のメッキ膜の密着強度を引っ張り試験機を用いて測定した。メッキ膜の密着強度は、8N/cmであった。この結果は、成形体上に形成されたメッキ膜の密着強度の目標値である10N/cmに近い値であった。
【0090】
[比較例1]
本比較例では、ABS樹脂とブロック共重合体をドライブレントしたものを射出成形し、得られた成形体に、実施例1と同様の方法により、エッチング、無電解メッキ触媒の付与、及び無電解メッキをこの順を行いメッキ部品を得た。ABS樹脂とブロック共重合体は、実施例1と同様のものを同様に比率で用いた。即ち、本比較例は、成形体中にCNFを含まない以外は実施例1と同様の組成の成形体を成形し、実施例1と同様の方法により、メッキ部品を製造した。
【0091】
本比較例では、無電解メッキ膜は成形体表面の60%〜80%程度しか形成されなかった。また、実施例1と同様の方法により、メッキ膜の密着強度を測定した。その結果、メッキ膜の密着強度は3N/cmであった。
【0092】
実施例1と比較例1との比較から、CNFを成形体中に含有することによって、メッキ反応性及びメッキ膜の密着強度が向上することが確認できた。また、実施例1のメッキ成形体のように、成形体中でCNFが多少凝集している場合も、メッキ反応性及びメッキ膜の密着強度が向上することがわかった。
【0093】
[実施例2]
本実施例では、CNFを含有した樹脂ペレット(ユニチカ製)を成形し、得られた成形体に無電解メッキ触媒の付与、及び無電解メッキをこの順を行い、メッキ部品を得た。本実施例では、実施例1異なり、ブロック共重合体は用いず、また、成形体のエッチングは行なわなかった。
【0094】
本実施例で用いたCNF含有樹脂ペレットは、特開2013‐79334号公報に開示される方法により、ポリアミド6(PA6)のモノマー重合反応過程で、CNFを分散させて製造した樹脂ペレットであり、CNFを約2重量%含む。熱可塑性樹脂であるPA6は、表面修飾していないCNFを分散可能であり、本実施例の樹脂ペレット中に含まれるCNFは表面修飾をしていない。
【0095】
(1)成形体の成形
CNF含有樹脂ペレットを汎用の射出成形機を用いて射出成形し、60mm×80mm×2mmの平板状の成形体を得た。樹脂温度は270℃、金型温度は100℃とした。得られた成形体の表面は、平滑であり、CNFの浮きは殆ど目立たなかった。
【0096】
(2)無電解メッキ触媒の付与及び無電解メッキ
本実施例では、無電解メッキ時間を実施例1よりも短い5分とした以外は、実施例1と同様の方法により、無電解メッキ触媒の付与、無電解メッキ、置換銅メッキ及び電解銅メッキを行い、メッキ成形体を得た。無電解メッキ膜は、成形体表面の全面に形成された。
【0097】
実施例1と同様の方法により、メッキ膜の密着強度を測定した。その結果、メッキ膜の密着強度は、15N/cmであった。この結果は、成形体上に形成されたメッキ膜の密着強度の目標値である10N/cmを大幅に超える高い値であった。
【0098】
更に、成形体を高温90℃に30分保持と、低温−35℃に30分保持とを交互に100回繰り返す(100サイクル)ヒートショック試験を行った。ヒートショック試験の結果、メッキ膜の膨れ及び割れは発生しなかった。
【0099】
[比較例2]
本比較例では、CNFを分散しない汎用非強化PA6ペレット(ユニチカ製、ユニチカナイロンA1030BRF−BA)を成形し、得られた成形体に、実施例2と同様の方法により、無電解メッキ触媒の付与、及び無電解メッキをこの順を行い、メッキ部品を得た。即ち、本比較例は、成形体中にCNFを含まない以外は実施例2と同様の組成の成形体を用いて、実施例2と同様の方法により、メッキ部品を製造した。
【0100】
本比較例では、無電解メッキ膜は成形体表面の全面に形成されず、成形体端部に一部、メッキ膜が成形されない箇所が発生した。また、実施例1と同様の方法により、メッキ膜の密着強度を測定した。その結果、メッキ膜の密着強度は7N/cmであった。更に、実施例2と同様の方法により、ヒートショック試験を行った。その結果、本比較例のメッキ成形体は、ヒートショック試験の5サイクル目で、メッキ膜に膨れが生じた。
【0101】
実施例2と比較例2との比較から、CNFを成形体中に含有することによって、メッキ反応性及びメッキ膜の密着強度と共に、ヒートサイクル耐性が向上することが確認できた。
【0102】
[実施例3]
本実施例では、物理発泡剤として加圧窒素を用いて、実施例2で用いた樹脂ペレット(ユニチカ製)を発泡成形した。得られた発泡成形体に無電解メッキ触媒の付与、及び無電解メッキをこの順を行い、本実施例のメッキ部品を得た。
【0103】
(1)発泡成形体の製造装置
まず、本実施例で用いる発泡成形体を製造する製造装置について説明する。本実施例では、
図4に示す製造装置(射出成形装置)2000を用いて発泡成形体を製造する。製造装置2000は、主に、スクリュ(可塑化スクリュ)40が回転及び進退自在に内設された可塑化シリンダ410と、物理発泡剤を可塑化シリンダ410に供給する物理発泡剤供給機構であるボンベ400と、金型が設けられた型締めユニット(不図示)と、可塑化シリンダ410及び型締めユニットを動作制御するための制御装置(不図示)を備える。可塑化シリンダ410内において可塑化溶融された溶融樹脂は、
図4における右手から左手に向かって流動する。したがって本実施例の可塑化シリンダ410内部においては
図4における右手を「上流」または「後方」、左手を「下流」または「前方」と定義する。
【0104】
可塑化シリンダ410の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ410に供給するための樹脂供給口401及び物理発泡剤を可塑化シリンダ410内に導入するための物理発泡剤導入口402が形成される。これらの樹脂供給口401及び物理発泡剤導入口402にはそれぞれ、樹脂供給用ホッパ411、容器412が配設される。容器412には、ボンベ400が、減圧弁451及び圧力計452を介して接続する。可塑化シリンダ410のノズル先端49には、エアシリンダの駆動により開閉するシャットオフバルブ48が設けられ、可塑化シリンダ410の内部を高圧に保持できる。ノズル先端49には金型(不図示)が密着し、金型が形成するキャビティ内にノズル先端49から溶融樹脂が射出充填される。
【0105】
可塑化シリンダ410内では、上流側から順に、フィード部41、圧縮部42、流動速度調整部43、飢餓部44、再圧縮部45が形成され、圧縮部42と流動速度調整部43の間には、溶融樹脂及び発泡剤の逆流を防止するシールリングS3が設けられる。フィード部41には樹脂供給口401か形成され、樹脂供給口401からフィード部41に供給された樹脂ペレットは、圧縮部42において、可塑化溶融され、加圧される。圧縮部42に位置するスクリュ40は、下流に向かうに伴ってスクリュフライト深さが浅くなる構造を有する。このスクリュ40の構造により、圧縮部42では、溶融樹脂が流動しながら加圧され、そして、下流へ供給される樹脂量が制限される。圧縮部42において溶融樹脂の下流への供給量を制限することで、下流の飢餓部44において溶融樹脂は飢餓状態となる。飢餓部44に設けられた物理発泡剤導入口402からは、常時一定圧力の物理発泡剤(加圧窒素)が可塑化シリンダ410内に導入され、流動速度調整部43及び飢餓部44において溶融樹脂と接触し、溶融樹脂内に浸透する。物理発泡剤が浸透した溶融樹脂は、再圧縮部45で再加圧された後、金型内に射出充填され発泡成形体が得られる。
【0106】
飢餓部44では、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)であるため、溶融樹脂が存在しない空間に常時、一定圧力の物理発泡剤(加圧窒素)が物理発泡剤導入口402から供給され溶融樹脂と接触する。物理発泡剤は、一定圧力で溶融樹脂を加圧しながら、溶融樹脂に溶解する。このように、本実施例の成形装置2000では、高剪断力により物理発泡剤と樹脂を混錬するのではなく、低密度の溶融樹脂に物理発泡剤を接触させることにより、低圧の溶融樹脂に対する飽和溶解度まで物理発泡剤を溶解させることができる。飢餓部44のスクリュフライトの深さは他の部分より深く設定し、溶融樹脂の飢餓状態を促進した。
【0107】
また、飢餓部44では、溶融樹脂を飢餓状態とするため、圧縮部42等と比較して速い流速で溶融樹脂を下流に送ることが好ましい。このため、飢餓部44では、溶融樹脂と物理発泡剤との接触面積は増大するが、接触時間が短縮する。この溶融樹脂と物理発泡剤との接触時間を補い、十分に物理発泡剤を溶融樹脂に溶解させるため、本実施例の成形装置2000では、飢餓部44の上流に流動速度調整部43を設けた。流動速度調整部43では、そこに位置するスクリュ40に、スクリュフライトの深さが浅い部分と、深い部分とを交互に設けた。このスクリュ構造が溶融樹脂の流動抵抗となり、流動速度調整部43では溶融樹脂の流動速度が低下し、溶融樹脂と物理発泡剤との接触時間を長くすることができる。
【0108】
(2)発泡成形体の成形
本実施例では、ボンベ400として、窒素が15MPaで充填された窒素ボンベを用いた。まず、ボンベ400を開放し、圧力計452の示す圧力が2MPaとなるように減圧弁451により窒素の圧力を調整し、容器412を介して飢餓部44へ加圧窒素を供給した。
図4において、成形装置2000中に供給した加圧窒素(物理発泡剤)をPFAとして示す(
図4中、ドット模様の領域)。成形体の製造中、ボンベ400は常時、開放した状態とした。
【0109】
本実施例の発泡成形は、スクリュ回転数50rpm、樹脂温度250〜280℃、背圧5MPaの条件で、樹脂ペレットの可塑化溶融及び計量を行った。まず、可塑化シリンダ410の樹脂供給口401からフィード部41に樹脂ペレットを供給し、圧縮部42にて可塑化溶融して加圧した。その後、スクリュ40の回転により、溶融樹脂を流動速度調整部43及び飢餓部44へ流動させた。流動速度調整部43及び飢餓部44において、一定圧力(2MPa)の物理発泡剤を溶融樹脂に接触させることで、溶融樹脂内に物理発泡剤を浸透させた。
図4において、成形装置2000中の溶融樹脂をRとして示す(
図4中、可塑化シリンダ410内の斜線領域)。
【0110】
物理発泡剤が浸透した溶融樹脂を再圧縮部45に送り再圧縮し、可塑化シリンダ410の先端部において1ショット分の溶融樹脂を計量した。その後、シャットオブバルブ48を開放して、金型のキャビティ内に、キャビティ内容積の90%の充填率となるように溶融樹脂を射出充填し、保圧をかけず、60mm×80mm×2mmの平板状の発泡成形体を成形した(ショートショット法)。
【0111】
得られた発泡成形体の表面に確認されたスワールマークは小さいものであり、発泡成形が成形体の外観に与える悪影響は小さいことが確認できた。また、成形体の断面をSEMにて観察した。その結果、平均セル径は約30μmと微細であった。
【0112】
(3)無電解メッキ触媒の付与及び無電解メッキ
本実施例では、無電解メッキ時間を実施例1よりも短い3分とした以外は、実施例1と同様の方法により、無電解メッキ触媒の付与、無電解メッキ、置換銅メッキ及び電解銅メッキを行い、メッキ成形体を得た。無電解メッキ膜は、成形体全面に形成された。
【0113】
メッキ膜の密着強度を実施例1と同様の方法により測定した。その結果、メッキ膜の密着強度は、10N/cmであった。この結果は、実施例2よりも低い値であるが、実用的には十分な強度である。本発明者らの検討によれば、CNFの含有の有無に関わらず、発泡成形体は無発泡成形体と比較して、その表面に形成されるメッキ膜の密着強度が低下する傾向にある。この原因は定かでないが、次のように推測される。密着強度測定後(引張試験後)のメッキ成形体を観察すると、メッキ膜の剥離界面は、発泡成形体(樹脂)とメッキ膜の界面ではなく、発泡成形体内部に存在している。この結果から、発泡成形体では、成形体のスキン層が脆弱化し、このため、メッキ膜の密着強度が低下すると推測される。