【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築〜安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現〜」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記壁パネルは、鉛直方向に延びるように設けられ、前記貫通孔近傍に、水平方向に対して−45°以上45°以下の傾きの繊維を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の壁パネルの取付構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、上記特許文献1の構造では、耐震性が十分でないため、建築物へ適用できる範囲が限定されてしまうという課題があることを見出した。
【0006】
本発明は、建物への適用範囲を広くする壁パネルの取付構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、FRPを含有する壁パネルを建物の壁形成部に取り付けると、FRPが脆性材料であることに起因して、地震力などの力が建物に入力されると、あまり変形しないうちに破壊してしまうことに着目した。そして、変形能力の低いFRPを含有する壁パネルを建物の壁形成部に取り付けた構造において、建物に入力されたときの力と変形量との積であるエネルギー吸収量を高める手段について鋭意研究し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の壁パネルの取付構造は、建物の壁形成部に壁パネルが取り付けられた壁パネルの取付構造であって、FRPを含有する壁パネルと、壁形成部の上端部に固定される上部固定手段と、壁形成部の下端部に固定される下部固定手段とを備えている。壁パネルは、上部固定手段及び下部固定手段を介して壁形成部に取り付けられている。壁パネルの上端部及び下端部の少なくとも一方には、上部固定手段または下部固定手段を貫通させるための貫通孔が形成されている。所定以上の荷重に対して、上端部及び下端部の少なくとも一方の貫通孔が上下方向に
延びることを許容するように構成されている。
【0009】
本発明の耐震構造は、建物の壁形成部に壁パネルが取り付けられた耐震構造であって、FRPを含有する壁パネルと、壁形成部の上端部に固定される上部固定手段と、壁形成部の下端部に固定される下部固定手段とを備えている。壁パネルは、上部固定手段及び下部固定手段を介して壁形成部に取り付けられている。壁パネルの上端部及び下端部の少なくとも一方には、上部固定手段または下部固定手段を貫通させるための貫通孔が形成されている。所定以上の荷重に対して、上端部及び下端部の少なくとも一方の貫通孔が上下方向に伸びることを許容するように構成されている。
【0010】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造によれば、所定以上の荷重が建物に加えられると貫通孔の上下方向の破壊が開始されることが許容されているので、荷重が継続して加えられると、貫通孔を形成しているFRP中の繊維が徐々に破断する、逐次破壊を起こす。これにより、壁パネルに含有されるFRPの変形量を増加することができる。このため、建物の壁形成部に壁パネルが取り付けられた構造において、エネルギー吸収量を向上できる。したがって、FRPを含有する壁パネルであっても、耐震性を向上できるので、建物への適用範囲を広くすることが可能になる。
【0011】
ここで、上記特許文献1には、耐震壁と、建物の柱、梁などの躯体との接合強度を十分に確保するために、接着剤及びボルトで接合部材を耐震壁に取り付けており、補強フレームと耐震壁との間には隙間があったとしてもクリアランス程度であることが開示されている。これらの開示から、上記特許文献1の構造は、耐震壁のボルト孔が上下方向に動くことはできない点で本発明と異なり、耐震性が十分でない。
【0012】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造において好ましくは、上部固定手段及び下部固定手段の少なくとも一方は、壁パネルの上端部または下端部に連結された固定部材を含み、壁パネルと固定部材とを接着する接着剤をさらに備えている。
【0013】
固定部材と壁パネルとの間の接着剤により、小さな荷重を受けることができる。このため、小さな荷重に対して貫通孔が上下方向に
延びることを防止できる。したがって、弱い地震力による壁パネルの破損を防ぐことができるので、建物への適用範囲をより広くすることが可能になる。
【0014】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造において好ましくは、上部固定手段及び下部固定手段の少なくとも一方は、ボルトを含み、所定以上の荷重の吸収機構は、壁パネルの貫通孔と、この貫通孔を貫通するボルトとで構成されている。
【0015】
これにより、所定以上の荷重が建物に加えられると、壁パネルの貫通孔を貫通するボルトが貫通孔を上下方向に破壊するように動くので、エネルギー吸収量を向上できる構造を容易に実現できる。
【0016】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造において好ましくは、壁パネルの貫通孔に設けられた筒状部材をさらに備えている。
【0017】
これにより、所定以上の荷重が建物に加えられると、壁パネルの貫通孔に設けられた筒状部材が貫通孔を上下方向に破壊するように動くので、エネルギー吸収量を向上できる構造を容易に実現できる。
【0018】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造において好ましくは、壁パネルは、織布を用いたFRPを含有している。
【0019】
これにより、壁パネルに含有されるFRP中の繊維による逐次破壊を効果的に生じさせる。このため、建物への適用範囲をより広くすることが可能になる。
【0020】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造において好ましくは、壁パネルは、貫通孔近傍に、水平方向に対して−45°以上45°以下の傾きの繊維を含有している。
【0021】
これにより、壁パネルに含有されるFRP中の繊維の逐次破壊を高い荷重を維持して生じさせることができる。このため、建物への適用範囲をより広くすることが可能になる。
【0022】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造において好ましくは、壁パネルは、CFRPを含有している。
【0023】
FRPの中でもCFRPは強度が高いため、壁パネルの強度を向上できる。このため、建物への適用範囲をより広くすることが可能になる。
【0024】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造において好ましくは、壁パネルは、表面層と、この表面層と反対側の裏面層と、表面層と裏面層との間に形成された中間層とを含み、表面層及び裏面層は、CFRP及び/またはガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)で形成され、中間層は、CFRP及びまたはGFRPで形成されたリブを含んでいる。
【0025】
これにより、中間層のCFRP及びまたはGFRPで形成されたリブにより強度を向上しつつ、表面層及び裏面層のCFRP及び/またはGFRPで覆われた壁パネルを実現できる。
【0026】
本発明の壁パネルの取付構造及び耐震構造において好ましくは、中間層は、リブの間に配置された断熱材をさらに含んでいる。
【0027】
これにより、耐力に加えて、断熱性能を高める壁パネルを実現できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の壁パネルの取付構造によれば、建物への適用範囲を広くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0031】
図1〜
図6を参照して、本発明の一実施の形態の壁パネルの取付構造及び耐震構造について説明する。本実施の形態の壁パネルの取付構造及び耐震構造(以下、構造1ともいう)は、建物の壁形成部に壁パネル10が取り付けられた構造である。
【0032】
図1及び
図2に示すように、構造1は、壁パネル10と、上部固定手段20と、下部固定手段30とを備えている。壁パネル10の上端部には、上部固定手段20が連結されている。壁パネル10の下端部には、下部固定手段30が連結されている。壁パネル10は、上部固定手段20及び下部固定手段30を介して、建物の壁形成部に取り付けられる。
【0033】
壁パネル10は、上下方向に
延びる壁を構成する部材である。壁は、建物の外壁であってもよく、仕切壁であってもよい。建物の壁形成部に取り付けられる壁パネル10は、1枚のパネル部材であってもよく、複数のパネル部材で形成されていてもよい。
【0034】
壁パネル10は、繊維強化プラスチック(樹脂)を含有し、CFRPを含有することが好ましい。FRPは、繊維をプラスチック(樹脂)の中に入れて強度を向上させた複合材料であり、繊維及び樹脂は特に限定されない。繊維として、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維などを用いることができ、樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0035】
壁パネル10が含有するFRPは、連続繊維を用いていることが好ましく、織布を用いていることが好ましい。本実施の形態では、壁パネル10は、マット材を用いたFRPを含有している。
【0036】
また、壁パネルは、少なくとも貫通孔近傍に、水平方向と交差する方向の傾きの繊維を含有していることが好ましく、水平方向に対して−45°以上45°以下の傾きの繊維を含有していることがより好ましく、水平方向に対して−45°以上45°以下の傾きの連続繊維を含有していることがより一層好ましい。ここで、繊維の傾きとは、水平方向に
延びる場合を0°とし、水平方向から鉛直方向上向きに
延びる場合をプラスの角度とし、水平方向から鉛直方向下向きに
延びる場合をマイナスの角度としている。
【0037】
図3に示すように、この壁パネル10の上端部及び下端部には、貫通孔11が形成されている。この貫通孔11は、上部固定手段または下部固定手段を貫通させるために設けられている。なお、所定以上のエネルギー(荷重と変形量との積)を吸収するために、貫通孔11と、この貫通孔11を貫通する上部固定手段20及び下部固定手段30の少なくとも一方とが設けられている。貫通孔11は、上端部及び下端部のそれぞれの水平方向(
図1における左右方向)に沿って複数形成されており、上端部及び下端部の両端部(四隅)、すなわちコーナー部には、鉛直方向(
図1における上下方向)に沿って複数形成されている。
【0038】
壁パネル10の貫通孔11のそれぞれには、筒状部材12が設けられている。筒状部材12は、外力が加わったときに形状を維持できる材料で形成されている。また、筒状部材12とは、内部が空洞の中空構造であり、外形及び内形は、断面視において多角形であっても円であってもよい。中空部には、上部固定手段及び下部固定手段が挿通される。本実施の形態の筒状部材12は、貫通孔11に嵌合されたスリーブである。
【0039】
ここで、本実施の形態の壁パネル10の具体的構造を説明する。壁パネル10は、
図5に示すように、表面層13と、裏面層14と、表面層13と裏面層14との間に形成された中間層15とを含んでいる。
【0040】
表面層13及び裏面層14は、1層で構成されていてもよく、複数層で構成されていてもよいが、CFRP及び/またはGFRPで形成された層を有していることが好ましい。表面層13及び裏面層14は、例えば、種類の異なる炭素繊維を用いた複数のCFRP層と、種類の異なるガラス繊維を用いた複数のGFRP層とを有しており、例えば4〜6層を有している。なお、表面層13と裏面層14とは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0041】
図4に示す中間層15は、リブ16と、このリブ16の間に配置された断熱材17とを含んでいる。リブ16は、FRPで形成されていることが好ましく、CFRP及び/またはGFRPで形成されていることがより好ましく、CFRPで形成されていることがより一層好ましい。リブ16は、
図6に示すように外郭をなす枠体と、この枠体の内部に格子状に配置された内蔵リブとを有している。なお、内蔵リブの配置は特に限定されず、例えば、ブレース状(対角線に延びる形状)などに配置されてもよい。
【0042】
断熱材17は、リブ16の空隙部に設けられており、断熱性能、遮音性能などを有していることが好ましく、また軽量であることが好ましい。断熱材17として、例えば発泡アクリルなどの発泡体が用いられる。
【0043】
なお、
図5に示す壁パネル10の構造は一例であって、要求される性能に応じて適宜変更され得る。
【0044】
図1及び
図2に戻って、壁パネル10の上端部と締結されるように上部固定手段20が設けられると共に、壁パネル10の下端部と締結されるように下部固定手段30が設けられている。上部固定手段20は、建物の壁形成部の上端部に固定され、下部固定手段30は、建物の壁形成部の下端部に固定される。上部固定手段20は、固定部材21と、ボルト22とを含んでいる。下部固定手段30は、固定部材31と、ボルト32とを含んでいる。上部固定手段20において固定部材21とボルト22とは一体であり、下部固定手段30において固定部材31とボルト32とは一体である。
【0045】
固定部材21、31は、板状であり、壁パネル10の上端部及び下端部の水平方向に沿って重なり合うように延びる。固定部材21、31は、壁パネル10の表面及び裏面(パネル面)にのみ接しており、上端面及び下端面には接していない。本実施の形態の固定部材21、31は、壁パネル10の上端部及び下端部を挟み込むように設けられた一対の補強部材である。補強部材は、壁パネル10の耐力を補強し、例えば、形鋼である(
図2はC形鋼)。
【0046】
固定部材21、31のそれぞれは、例えば、建物の壁形成部とボルトなどの締結部材で締結されることにより、壁形成部に固定される。
【0047】
また、固定部材21、31のそれぞれには、壁パネル10と締結するためのボルト22、32が固着されている。このボルト22、32は、壁パネル10の上端部及び下端部に形成された貫通孔11に貫通されている。このため、壁パネル10の貫通孔11は、本実施の形態ではボルト孔である。
【0048】
図2に示すように、本実施の形態の構造1は、接着剤23、33をさらに備えている。接着剤23、33は、固定部材21、31と壁パネル10とを連結するために、固定部材21、31と壁パネル10の上端部及び下端部との間に設けられている。接着剤23、33は、固定部材21、31における壁パネル10と対向する面に設けられており、対向する面全体に設けられていることが好ましい。
【0049】
このように、本実施の形態の壁パネル10は、ボルト22、32と、接着剤23、33とによって、固定部材21、31と連結されている。そして、この固定部材21、31は、建物の壁形成部とボルトで連結されている。このため、壁パネル10は、上部固定手段20及び下部固定手段30を介して壁形成部に取り付けられている。一方、本実施の形態では、壁パネル10の両側端部は、建物の壁形成部に固着されていない。このため、建物に衝撃荷重などの荷重が加えられたときには、壁パネル10の両側端部は、建物の壁形成部と連動しない。このように、構造1における壁パネル10の上下方向は拘束されているが、壁パネル10の側方は解放されている。
【0050】
構造1は、所定以上の荷重に対して、壁パネル10の上端部または下端部の少なくとも一方の貫通孔11が上下方向に
延びることを許容するように構成されている。換言すると、所定以上の荷重が加えられたときに、上部固定手段20及び下部固定手段30は、壁パネル10に対して相対移動する。さらに換言すると、所定以上の荷重が加えられたときに、少なくとも一方の貫通孔11の上下方向への破壊が開始される。本実施の形態では、所定以上の荷重の吸収機構は、壁パネル10の貫通孔11と、この貫通孔11を貫通するボルト22、32とで構成されている。このため、所定以上の衝撃荷重などの荷重が加えられると、壁パネル10を
延ばそうとする力に対して、ボルト22、32が貫通孔11を移動するので、FRPの貫通孔11が潰されながら衝撃エネルギーなどのエネルギーを吸収する。
【0051】
所定以上の荷重とは、壁パネル10が含有するFRPの繊維によって逐次破壊を発生させることを意図する荷重であり、例えば所定の地震力などであり、具体的には80kN以上、好ましくは100kN以上である。なお、荷重とは、建物外部から建物に加わる力であり、衝撃荷重に限定されない。
【0052】
ここで、本実施の形態の構造1は、壁パネル10の上端部及び下端部のそれぞれに上部固定手段20及び下部固定手段30を貫通させるための貫通孔11が形成され、所定以上の荷重に対して、上端部及び下端部の両方の貫通孔11が上下方向に
延びることを許容するように構成されている。しかし、本発明の構造は、壁パネルの上端部または下端部に上部固定手段または下部固定手段を貫通させるための貫通孔が形成され、所定以上の荷重に対して、上端部または下端部の貫通孔が上下方向に
延びることを許容するように構成されていてもよい。
【0053】
また、本実施の形態では、貫通孔11が上下方向に
延びるために、貫通孔11にボルト22、32を貫通させているが、本発明の貫通孔11を上下方向に
延ばす手段はボルトに限定されず、例えば固定軸となる軸部材などであってもよい。
【0054】
また、本実施の形態では、上部固定手段20及び下部固定手段30は、建物の壁形成部に締結部材によって固定される固定部材21、31を含んでいるが、本発明の上部固定手段及び下部固定手段は、固定部材を含んでいなくてもよい。この場合、例えば、壁パネル10の貫通孔11を貫通する軸部材が、建物の壁形成部に直接固着されている。
【0055】
また、本実施の形態では、壁パネル10と固定部材21、31とは、ボルト22、32及び接着剤23、33との2つの手段で連結されているが、接着剤23、33が省略されてもよい。接着剤23、33の小さな荷重を受ける役割を省略してもよく、他の部材で担ってもよい。小さな荷重を受ける接着剤23、33と同様の役割を担うために、例えば、FRPを構成する樹脂として熱硬化性樹脂を用いてもよく、スポット溶接などを用いてもよい。
【0056】
続いて、本実施の形態の構造1の効果として、建物の壁形成部に壁パネル10が取り付けられた構造1に、所定以上の荷重が加えられたときの動作を説明する。
【0057】
所定以上の荷重として、例えば地震力が構造1に加えられると、壁パネル10に対して水平力が働く。上端部及び下端部では、壁パネル10の貫通孔11に、ボルト22、32が貫通されているので、ボルト22、23の動きによって、貫通孔11が上下方向に
延びていき、貫通孔11の上下方向への破壊が開始される。継続して所定以上の荷重が加えられると、貫通孔11の端縁を構成する壁パネル10に含有されるFRPの繊維束が徐々に破断していく逐次破壊が生じる。
【0058】
この点について、
図7を主に参照して、説明する。
図7は、本実施の形態の壁パネル10に対して加えられた荷重とその変形量を示している。
図7において、縦軸は、壁パネル10に加えられる荷重を示し、横軸は、各荷重に対する変形量を示す。
【0059】
FRPは脆性材料であるため、
図7に示す荷重がx1以下である場合には、弾性域であるので破壊しないが、FRP自体には塑性域がないので荷重がx1を超えると破壊する。しかし、本実施の形態では、所定以上の荷重に対して、壁パネル10の上端部または下端部の少なくとも一方の貫通孔11が上下方向に
延びることを許容するように構成されているので、建物に加えられた荷重を建物に固定されたボルト22、32が受け、このボルト22、32が壁パネル10の貫通孔11を上下方向に破壊するように動く。このため、所定以上の荷重が継続して加えられると、貫通孔11を構成しているFRP中の繊維が徐々に破壊されていくので、
図7に示す変形量がy1からy2までの見掛け上の塑性域を有することになる。すなわち、壁パネル10が破壊するまでの変形量をy1からy2に増加する領域を形成できる。
【0060】
本発明者は、上下方向の長さが3000mmで左右方向の長さが1820mmの壁パネル10において、上下端にそれぞれ22mmの直径の貫通孔11を
図3のように10個ずつ(四隅には上下方向に2個)形成し、荷重を加えると、100〜120kNの荷重(
図7のx1)までは弾性域であり、その荷重で10〜20(1/1000rad)のせん断変形角(
図7のy1)を有し、逐次破壊により40〜55(1/1000rad)のせん断変形角(
図7のy2)まで見掛け上の塑性域を有することを確認している。
【0061】
このように、本実施の形態の構造1は、FRPに設けた貫通孔の逐次破壊によって見掛けの塑性変形を生じさせて、FRPパネルの変形能を獲得しているので、FRPを含有する壁パネル10を用いても、FRPの脆性材料であることによる変形性能が小さいという問題を克服している。建物に地震力などが入力された際のエネルギー吸収量は、荷重と変形量との積で求められるため、本実施の形態の構造1は変形性能を向上できることから、エネルギー吸収量を向上できる。エネルギー吸収量を向上できると、建物の倒壊などの最終破壊を防止できる。このため、変形性能が小さいことに起因してFRPを含有する壁パネルを取り付ける建物への適用範囲が制限されていた従来技術に対して、本実施の形態の構造1は、建物への適用範囲を広くすることができる。
【0062】
特に、壁パネル10の四隅には応力が集中するが、本実施の形態では、壁パネル10の上端部の両端部及び下端部の両端部に、貫通孔11を上下方向に間隔を隔てて形成している。このため、応力が集中する箇所に逐次破壊を効果的に発生させることができるので、変形量を増加することで、エネルギー吸収量を向上している。なお、上述した条件で所定以上の荷重を加えたときに、四隅に上下方向に間隔を隔てて設けた貫通孔11が連通することを本発明者は確認している。
【0063】
また、繊維の逐次破壊をより確実に発生するために、本実施の形態では、連続繊維、より具体的には織布を用いたFRPを含有する壁パネルを用い、この壁パネルは、少なくとも貫通孔11近傍に、水平方向に対して−45°以上45°以下の傾きの繊維を含有している。
【0064】
また、繊維の逐次破壊を発生させやすくするために、ボルト22、32によって貫通孔11を大きくする動作を、ボルト22、32を貫通させた筒状部材12を用いている。
【0065】
また、本実施の形態の構造1は、耐震構造を意図しているので、耐震設計における一次設計として接着接合を、二次設計としてボルト接合を実現している。つまり、接着剤23、33により小さな荷重を受けるとともに、ボルト22、32により大きな荷重を受けるように設計されている。例えば、震度5以下の地震力に対しては接着剤23、22で耐えることができ、震度5を超える地震力に対してはボルト22、32が貫通孔11を上下方向に
延びるように動くことで耐えることができる。このため、小さな荷重による貫通孔11の破壊開始を防止ことができるので、弱い地震力による壁パネル10の破損を防止できる。
【0066】
また、繊維の逐次破壊を発生させやすくするために、本実施の形態では、壁パネル10の上端部及び下端部の少なくとも一方は、建物の壁形成部に連結されるが、壁パネル10の側方は、建物の壁形成部に連結されていない。
【0067】
このように、本実施の形態の壁パネルの取付構造及び耐震構造は、建物への適用範囲を広くすることができるので、例えば、建物として、住宅、ビル、病院、駅などに適用可能である。本発明者は、FRPを含有する壁パネルを用いることから、本実施の形態の構造1を集合住宅に適用することを考えた。以下、本実施の形態の構造1を適用した集合住宅の一例について
図8及び
図9を参照して説明する。
【0068】
図8に示すように、本実施の形態の集合住宅40は、構造体50と、住宅ユニット60とを備えている。本実施の形態の壁パネル10は、住宅ユニット60の壁パネルとして用いられている。
【0069】
構造体50は、スケルトン・インフィル住宅におけるスケルトンに相当し、柱、梁、床などで構成された構造躯体51を含んでいる。また、構造体50は、複数の居住空間52を形成している。
【0070】
各々の居住空間52には、住宅ユニット60が着脱可能である。住宅ユニット60は、スケルトン・インフィル住宅におけるインフィルに相当する。
【0071】
図9に示すように、住宅ユニット60は、箱体であり、床パネル61と、この床パネル61と連結された壁パネル10と、この壁パネル10と連結された天井パネル62とを有している。床パネル61、壁パネル10及び天井パネル62は、住宅ユニット60の外郭をなしている。床パネル61、壁パネル10及び天井パネル62のそれぞれは、構造体50において居住空間52を形成する構造躯体51の床部、側壁部及び天井部と重なる。
【0072】
床パネル61及び天井パネル62の少なくとも1枚のパネルは、FRPを含有していることが好ましく、CFRPを含有することがより好ましい。
図5に示す壁パネル10の構造は、床パネル61及び天井パネル62にも適用可能であるが、要求される性能に応じて適宜変更され得る。
【0073】
本実施の形態の集合住宅40は、耐力を高めるFRPを含有する壁パネル10を備えているので、住宅ユニット60の耐力を向上できる。住宅ユニット60の耐力を向上することにより、構造体50の耐力を住宅ユニット60に負担させることができる。したがって、構造体50の要する耐力を低減しても集合住宅40の耐力を維持できる。
【0074】
また、FRPは軽量であるので、本実施の形態の住宅ユニット60は軽量にも関わらず耐力を有する箱体である。このため、住宅ユニット60は、内装などを箱体の内部に収容した状態で移設可能であるので、
図8に示すように、クレーンを用いて住宅ユニット60を構造体50の居住空間52に装着することも容易である。
【0075】
ここで、
図8及び
図9に示す建物の壁形成部は、住宅ユニット60の外郭をなす壁パネルが取り付けられる部分であるが、本発明の壁形成部は特に限定されず、柱、梁などの躯体であってもよい。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。