(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、撮像用の光学系を備えた撮像装置(カメラ、カメラ装置)の一例を示している。このカメラ1は、光学系(撮像光学系、結像光学系、レンズシステム)10と、光学系10の像面側(画像側、撮像側、結像側)12に配置された撮像素子(撮像デバイス、像面)5とを有する。光学系10は、開口絞り(絞り)Sを挟んで物体側11に配置された、全体として正の屈折力の第1のレンズ群G1と、像面側12に配置された、全体として負の屈折力の第2のレンズ群G2とから構成されている。
【0011】
第1のレンズ群G1は、物体側11から順番に配置された負の屈折力の第1のサブグループG11と、正の屈折力の第2のサブグループG12とを含む。第2のレンズ群G2は、少なくとも1枚の負の屈折力のレンズと少なくとも1枚の正の屈折力のレンズとを含む第3のサブグループG21と、正の屈折力の最終前の正レンズL10および最終の負のメニスカスレンズL11を含む第4のサブグループG22とを含む。
【0012】
この光学系10は、全体としてテレフォトタイプのパワー配置を備えており、バックフォーカスを短くしやすい。一方、第1のレンズ群G1は、負のパワーの第1のサブグループG11と、正のパワーの第2のサブグループG12とを備えたレトロフォーカス型であり、周辺光量を確保しやすく、広画角を得やすい。
【0013】
第1のレンズ群G1に着目すると、レトロフォーカス型であるので、第1のレンズ群G1としてのバックフォーカスは、すなわち開口絞りSから像面5までの距離は長くなるが、本例の光学系10においては、開口絞りSを挟んで、第1のレンズ群G1の像面側12に第2のレンズ群G2を配置している。したがって、光学系10全体としてはバックフォーカスが短く、さらに、対称型に対してレトロフォーカス型を採用することにより不足する収差補正能力を、第2のレンズ群G2により補うことができる。さらに、第2のレンズ群G2の後方(像面側12)に、正の屈折力の最終前の正レンズL10と、最終の負のメニスカスレンズL11とを配置し、第1のレンズ群G1のレトロフォーカス型と対称なパワー配置により収差補正を行うとともに、最終の負のメニスカスレンズL11により光束を広げ、大きなイメージサークルが得られるようにしている。
【0014】
第1のサブグループG11は、最も物体側11に配置された物体側11に凸の正の屈折力の、最先の正のメニスカスレンズL1を含む。この光学系10において、開口絞りSから最終の負のメニスカスレンズL11の像面側12の面までの光軸15の上の距離LAと、最先の正のメニスカスレンズL1の物体側11の面から開口絞りSまでの光軸15の上の距離LBと、当該光学系の焦点距離fとが以下の条件(1)および(2)を満たすことが望ましい。
0.6<LB/LA<1.5 ・・・(1)
1.0<LA/f<1.7 ・・・(2)
【0015】
条件(1)の上限は1.3であることが望ましい。条件(2)の下限は1.1であることが望ましく、上限は1.5であることがさらに望ましい。
【0016】
条件(1)の下限未満であると、光学系10の全長をある程度の範囲に収めようとすると、相対的に第1のレンズ群G1を配置するスペースが狭くなりレンズ間隔が確保しにくく収差補正能力が低下する。また、開口絞りSの位置にレンズシャッターを配置しにくくなる。条件(1)の上限を超えると、逆に、第2のレンズ群G2を配置するスペースが狭くなりレンズ間隔が確保しにくく収差補正能力が低下する。特に、レンズL10とL11との間隔を確保できなくなるので、像面湾曲、コマ収差の補正が不十分になる。したがって、画角が大きな入射光を大きなイメージサークルに結像するためには、開口絞りSを挟んで配置される第1のレンズ群G1の長さと第2のレンズ群G2の長さとがほぼ等しい、条件(1)の範囲であることが望ましい。
【0017】
条件(2)の下限未満であると、第2のレンズ群G2を配置するスペースが狭くなりレンズ間隔が確保しにくく収差補正能力が低下する。条件(2)の上限を超えると、光学系10の全長が長くなり、コンパクトな光学系10を提供しにくい。
【0018】
この光学系10において、第1のレンズ群G1の合成焦点距離f1と、第1のサブグループG11の合成焦点距離fnとが以下の条件(3)を満たすことが望ましい。
0.4<|fn|/f1<0.7 ・・・(3)
【0019】
条件(3)の下限は0.5であることがさらに好ましい。条件(3)の下限未満であると、レトロフォーカス型のパワー配置となる第1のレンズ群G1の第1のサブグループG11の負のパワーが不足し、開口絞りSから像面5までの空間が狭くなり、第2のレンズ群G2を配置しにくくなる。一方、条件(3)の上限を超えると、第1のサブグループG11の負のパワーが強すぎて、収差補正が難しくなる。
【0020】
この光学系10において、第1のレンズ群G1の合成焦点距離f1と、第2のレンズ群G2の合成焦点距離f2とは以下の条件(4)を満たすことが望ましい。
−0.23<f1/f2<−0.04 ・・・(4)
【0021】
第2のレンズ群G2は、第1のレンズ群G1で補正しきれない収差をさらに補正する機能を含むが、条件(4)の下限未満であると第2のレンズ群G2の負のパワーが強すぎて諸収差の補正が難しくなる。一方、条件(4)の上限を超えると、第2のレンズ群G2のパワーが小さすぎて諸収差の補正が不十分となり、光学系10が大型になりやすい。
【0022】
また、最終前の正レンズL10と最終の負のメニスカスレンズL11との空気間隔DEと、バックフォーカスBFとが以下の条件(5)を満たすことが望ましい。空気間隔DEは、レンズL10の像面側12の面と、レンズL11の物体側11の面との光軸15の上の距離である。
0.4<DE/BF<1.4 ・・・(5)
【0023】
条件(5)の下限未満であると、空気間隔DEが小さすぎて第2のレンズ群G2のパワーが不足し、収差補正が困難となり、光学系10が大型になりやすい。条件(5)の上限を超えると、レンズL11の径が大きくなりすぎて光学系10が大型になり、また、像面湾曲の補正が難しくなる。
【0024】
この光学系10においては、さらに、射出瞳EPから最終の負のメニスカスレンズL11の像面側12の面までの距離LCが以下の条件(6)を満たすことが望ましい。
0.1<LC/LA<1.0 ・・・(6)
【0025】
条件(6)の下限は0.4であることが好ましく、上限は0.8であることが好ましい。条件(6)の下限未満であると、第2のレンズ群G2のパワーが大きくなりすぎて諸収差の補正が難しくなる。また、光学系10の全体の長さ(レンズ長)が長くなったり、バックフォーカスが長くなる要因にもなる。条件(6)の上限を超えると、第1のレンズ群G1のパワーが強すぎて、最も物体側11のレンズL1の径がさらに大きくなり、対称性が崩れるので歪曲収差、像面湾曲の補正が難しくなる。
【0026】
この光学系10においては、最先の正のメニスカスレンズL1の有効径を最終の負のメニスカスレンズL11の有効径よりも大きくすることができ、より広画角の光学系10を提供できる。また、第2のレンズ群G2の物体側11に配置される第3のサブグループG21は、物体側11から負の屈折力のレンズL6と、正の屈折力のレンズL7と、正の屈折力のレンズL8と、負の屈折力のレンズL9とを含むことが望ましい。対称的な配置とすることにより収差補正が容易になる。また、これらのレンズの正負の組み合わせは接合レンズとして実装してもよく、接合レンズとせずに、レンズの両面を補正に活かしてもよく、非球面とすることも可能である。
【0027】
光学系10は、固定焦点であり、フォーカスの際に、第1のレンズ群G1と第2のレンズ群G2とが独立して移動するものであってもよい。この場合、開口絞りSは第1のレンズ群G1とともに移動することが望ましい。
【0028】
図1に示した実施例1の光学系10は、全体として11枚構成で、物体側11の第1のレンズ群G1はレンズL1〜L5の5枚で構成され、開口絞りSを挟んで像面側12に配置された第2のレンズ群G2はレンズL6〜L11の6枚で構成されている。第1のレンズ群G1は、光軸15に沿って物体側11から順番に配置された、物体側11に凸の正のパワーのメニスカスレンズ(最先の正のメニスカスレンズ)L1と、物体側11に凸の負のパワーのメニスカスレンズL2と、両凹の負レンズL3と、物体側11に凸の正のパワーのメニスカスレンズL4と、両凸の正レンズL5とを含む。レンズL1〜L3が、負のパワーの第1のサブグループG11を構成し、レンズL4およびL5が、正のパワーの第2のサブグループG12を構成している。
【0029】
第2のレンズ群G2は、光軸15に沿って物体側11(開口絞りSの側)から順番に配置された、両凹の負レンズL6と、両凸の正レンズL7と、両凸の正レンズL8と、両凹の負レンズL9と、物体側11に凸の正のパワーのメニスカスレンズ(最終前の正レンズ)L10と、像面側12に凸の負のパワーのメニスカスレンズ(最終の負のメニスカスレンズ)L11とを含む。正レンズL8と負のレンズL9との組み合わせは接合レンズであり、両凸の正レンズL7の両面S14およびS15は非球面である。
【0030】
この光学系10は、焦点調整(フォーカシング)の際に、第1のレンズ群G1が一体で、第2のレンズ群G2とは独立して移動する。開口絞りSは第1のレンズ群G1と一体で動く。具体的には、焦点を合わせる際に、第1のレンズ群G1と第2のレンズ群G2とは独立して物体側11に移動する。
【0031】
図2に光学系10を構成する各レンズのデータを示している。曲率半径(R)は物体側11から順に並んだ各レンズの各面の曲率半径(mm)、間隔dは各レンズ面の間の距離(mm)、有効径Deは各レンズ面の有効径(mm)、屈折率ndは各レンズの屈折率(d線)、アッベ数νdは各レンズのアッベ数(d線)を示している。なお、最終の間隔、本例においてはd22が光学系10と撮像デバイス5との距離(バックフォーカス、BF)を示す。以下においても同様である。
【0032】
図3には、レンズL7の両面S14およびS15の非球面係数を示す。非球面は、Xを光軸方向の座標、Yを光軸と垂直方向の座標、光の進行方向を正、Rを近軸曲率半径とすると、
図3に示した係数K、A、B、C、DおよびEを用いて次式で表わされる。以降の実施形態においても同様である。なお、「en」は、「10のn乗」を意味する。
X=(1/R)Y
2/[1+{1−(1+K)(1/R)
2Y
2}
1/2]
+AY
4+BY
6+CY
8+DY
10+EY
12
【0033】
図4に、光学系10の球面収差、非点収差、歪曲収差を示している。球面収差は、波長406.0000nm(長破線)と、波長435.8340nm(二点鎖線)と、波長486.1330nm(中破線)と、波長546.0740nm(実線)と、波長587.5620nm(一点鎖線)と、656.2730nm(短破線)とを示している。非点収差はタンジェンシャル光線Tとサジタル光線Sとを示している。
図5に、光学系10の倍率色収差(横収差)をタンジェンシャル光線およびサジタル光線のそれぞれについて波長435.8340nm(二点鎖線)と、波長486.1330nm(中破線)と、波長546.0740nm(実線)と、波長587.5620nm(一点鎖線)と、656.2730nm(短破線)とで示している。以下に示す収差図においても同様である。
【0034】
この光学系10の主な性能を示す数値は以下の通りである。
全体の合成焦点距離(f): 30.98(d線基準の計算、以下同様)
F値: 3.5
最大画角(半画角): 42.73度
イメージサークル: φ56mm
バックフォーカス(BF): 18.64mm
第1のレンズ群G1の焦点距離(パワー、f1): 32.3mm
第2のレンズ群G2の焦点距離(パワー、f2): −271.32mm
第1のサブグループG11の焦点距離(fn): −20.98mm
間隔DE(d20): 10.78mm
距離LA: 34.93mm
距離LB: 40.83mm
距離LC: 21.39mm
条件(1): 1.17
条件(2): 1.13
条件(3): 0.65
条件(4): −0.12
条件(5): 0.58
条件(6): 0.61
【0035】
この光学系(レンズシステム)10は、最先(最も物体側11)の正のメニスカスレンズL1と最終(最も像面側12)の負のメニスカスレンズL11とが開口絞りSに対してほぼ等距離に配置された、最終の負のメニスカスレンズL11よりも有効径が大きな正のメニスカスレンズL1を最先に配置し、焦点距離が30.98mm、画角が半画角で42.73度という広角レンズで、バックフォーカスBFが18.64mmと短く、さらにF値が3.5という明るいレンズシステムとなっている。バックフォーカスBFが短いにも関わらず、イメージサークルは直径56mmと大きい。さらに、この光学系10は、上述した各条件を満たし、収差図に示すように、諸収差は良好に補正されており、鮮明な像を得ることができる。
【0036】
また、開口絞りSは、光学系10のほぼ中央に位置しており、開口絞りSの場所にレンズシャッターを配置することが可能な構成となっている。したがって、この光学系10は、コンパクトデジタルカメラに適した、標準から広角をカバーするレンズシステムとなっている。
【0037】
図6に、異なる撮像用の光学系10を備えたカメラ1の例を示している。この光学系10も実施例1の光学系(レンズシステム)と同様に広角から標準をカバーするのに適したレンズシステムであり、開口絞り(絞り)Sを挟んで物体側11に配置された、全体として正の屈折力の第1のレンズ群G1と、像面側12に配置された、全体として負の屈折力の第2のレンズ群G2とから構成されている。
【0038】
第1のレンズ群G1は、5枚構成で、光軸15に沿って物体側11から順番に配置された、物体側11に凸の正のパワーのメニスカスレンズ(最先の正のメニスカスレンズ)L1と、物体側11に凸の負のパワーのメニスカスレンズL2と、物体側11に凸の負のパワーのメニスカスレンズL3と、物体側11に凸の正のパワーのメニスカスレンズL4と、両凸の正レンズL5とを含む。レンズL1〜L3が、負のパワーの第1のサブグループG11を構成し、レンズL4およびL5が、正のパワーの第2のサブグループG12を構成し、第1のレンズ群G1は全体としてレトロフォーカス型のパワー配置となっている。
【0039】
第2のレンズ群G2は6枚構成で、光軸15に沿って物体側11(開口絞りSの側)から順番に配置された、両凹の負レンズL6と、両凸の正レンズL7と、両凸の正レンズL8と、両凹の負レンズL9と、物体側11に凸の正のパワーのメニスカスレンズ(最終前の正レンズ)L10と、像面側12に凸の負のパワーのメニスカスレンズ(最終の負のメニスカスレンズ)L11とを含む。正レンズL8と負のレンズL9との組み合わせは接合レンズであり、負レンズL6と正レンズL7とは最小の空気間隔で配置され、正レンズL7の両面S14およびS15は非球面である。
【0040】
第2のレンズ群G2は、全体として第1のレンズ群G1に対して弱い負のパワーのレンズ群であり、非対称なレトロフォーカス型の第1のレンズ群G1で発生した諸収差を補正する機能を含む。第2のレンズ群G2の物体側11の第3のサブグループG21は、物体側11から並んだ負レンズL6と、正レンズL7と、正レンズL8と、負レンズL9とで構成された対称的なパワー配置を含み、倍率色収差を含めた諸収差を補正しやすい構成となっている。第2のレンズ群G2の像面側12の第4のサブグループG22は、物体側11から順番に配置された、正レンズL10と、像面側12に凸の負のパワーのメニスカスレンズL11とで構成されており、第1のレンズ群G1のレトロフォーカス型と対称なパワー配置となっている。したがって、第4のサブグループG22により第1のレンズ群G1で発生した諸収差を補正しやすい。
【0041】
さらに、最も像面側12を正のパワーのレンズL10と負のパワーのレンズL11とで構成することにより像面側12のレンズ径を抑えて大きなイメージサークルを形成することができる。特に、最も像面側12のレンズL11は、像面側12に凸の負のメニスカスレンズであり、像面側12の最終の正レンズL10の像面側12の面と向かい合った面の組み合わせを形成している。これらの面により負のパワーを確保するとともに、収差補正に要する面の数を確保し、さらに、ペッツバール和が大きくなりすぎて像面湾曲が増加することも抑制できている。
【0042】
図7に光学系10を構成する各レンズのデータを示している。
図8には、非球面のデータを示し、
図9に、光学系10の球面収差、非点収差、歪曲収差を示し、
図10に、光学系10の倍率色収差(横収差)をタンジェンシャル光線およびサジタル光線のそれぞれについて示している。
【0043】
この光学系10の主な性能を示す数値は以下の通りである。
全体の合成焦点距離(f): 31.00
F値: 3.5
最大画角(半画角): 42.72度
イメージサークル: φ56mm
バックフォーカス(BF): 13.3mm
第1のレンズ群G1の焦点距離(パワー、f1): 27.69mm
第2のレンズ群G2の焦点距離(パワー、f2): −141.38mm
第1のサブグループG11の焦点距離(fn): −17.24mm
間隔DE(d20): 14.30mm
距離LA: 42.41mm
距離LB: 29.69mm
距離LC: 26.6mm
条件(1): 0.7
条件(2): 1.37
条件(3): 0.62
条件(4): −0.20
条件(5): 1.07
条件(6): 0.62
【0044】
この撮像光学系10も条件(1)〜(6)をすべて満足する光学系であり、全体としてテレフォトタイプでありながら、焦点距離が31mmと短く広角で、画角も半画角で42.72度と大きく、F値も3.5と明るく、イメージサークルも56mmと大きく、さらに、バックフォーカスBFが13.3mmと小さい、コンパクトで明るい撮像光学系10となっている。また、収差図に示すように諸収差も良好に補正されている。
【0045】
また、この光学系10においても、開口絞りSは、光学系10のほぼ中央に位置しており、開口絞りSの場所にレンズシャッターを配置することが可能な構成となっている。したがって、この光学系10も、コンパクトデジタルカメラに適した、主に広角をカバーするレンズシステムとなっている。