(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830724
(24)【登録日】2021年1月29日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】木材の薬液処理装置
(51)【国際特許分類】
B27K 3/02 20060101AFI20210208BHJP
B27K 3/04 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
B27K3/02 E
B27K3/04
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-48738(P2018-48738)
(22)【出願日】2018年3月16日
(65)【公開番号】特開2019-155831(P2019-155831A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2019年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】317017036
【氏名又は名称】井川 進
(74)【代理人】
【識別番号】100083633
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏
(72)【発明者】
【氏名】井川 進
【審査官】
小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−173604(JP,A)
【文献】
特開平01−128801(JP,A)
【文献】
実開昭48−100756(JP,U)
【文献】
実開昭52−079101(JP,U)
【文献】
実開昭61−031435(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0320090(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K1/00− 9/00
A01N1/00−65/48
A01P1/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部を開口した長方形箱状の処理槽本体(1)と、その処理槽本体(1)の長手方向の各上端面(1a)と並行し一定の空間(3)を有して設けた保持部材(2)と、前記空間(3)に差し込んで使用する浮止用横木部材(4)と、この浮止用横木部材(4)と薬液処理する木材(B)との隙間に挿入する当て木(5)とから少なくとも成り、且つ、前記保持部材(2)が、長尺な角材であり、前記上端面(1a)の長さ全域にわたって複数の台駒(6)を介して設けた木材の薬液処理装置。
【請求項2】
前記浮止用横木部材(4)が、前記空間(3)に遊挿可能な角材であり、その長さが前記処理槽本体(1)の少なくとも全横幅の長さである請求項1記載の木材の薬液処理装置。
【請求項3】
前記浮止用横木部材(4)の下部に前記当て木(5)を着脱自在に接続可能とした請求項1又は2記載の木材の薬液処理装置。
【請求項4】
前記浮止用横木部材(4)の下面にアリ溝(4a)を形成し、前記当て木(5)の上面に突起(5a)を形成し、前記アリ溝(4a)に前記突起(5a)を嵌入して、前記浮止用横木部材(4)と前記当て木(5)を脱着自在に接続可能とした請求項2又は3記載の木材の薬液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を薬剤液に浸漬して防腐・防虫処理するために使用する木材の薬液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材をホウ酸等の薬剤で防腐・防虫処理する方法は、既に公知であり、例えば特許文献1及び特許文献2には、ホウ酸溶液に浸漬して防腐・防虫処理する製造方法が開示されている。
また、木材にホウ酸等の薬液を注入する方法としては、薬液を入れた浸漬槽内に木材を長時間浸漬して処理したり、あるいは、特許文献3のように、乾燥した木材を耐圧容器にいれて、該容器内の注入用液体中に木材が浸漬された状態とし、次いで、木材を軟化点以上の温度に保って注入用液体を加圧することにより木材圧縮し、その後、容器内の圧力を低下させて、低下後の圧力を常温より高い圧力に保ち、圧力低下によって木材の体積を注入用液体中で緩和させて常圧より高い圧力の注入用液体を木材に注入する、木材への液体注入方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−82533号公報
【特許文献2】特許4071825号公報
【特許文献3】特許3152894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2は、木材をホウ酸等の薬液に浸漬して処理する製造方法が開示され、処理装置のことについては何も開示されていない。
他方、木材に薬液を注入する方法として特許文献3のものは、薬液が木材に効率よく注入できてよいが、これには耐圧容器を初め種々の制御装置や駆動装置を必要とし、それらの設備費用が嵩み、特に長い木柱等の長尺木材を処理する場合に、耐圧容器等も大がかりなものになり、製造コストも高くなる問題点があった。
【0005】
そこで、設備費用や製造コストを安くするために、薬液を入れた処理槽内に木材を単に浸漬して処理する方法が一般的に行われている。
この浸漬処理に於いては、処理槽内の薬液内に木材を入れると、木材が浮力で浮き上がり、木材の一部が液面から浮上して、木材全体を薬液内に浸漬できず、木材に薬液が均一に含浸されず、不良品の発生が生じていた。
この対策として、木材の上に重い木材、あるいはコンクリート製や鉄製の重石を載せて木材の浮き上がりを防止していた。
しかし、これら木材や重石では、載せるのに手間を要し、またこれらを外すにも薬液に浸かった状態のため手作業を強いられ、いずれにしても重石の使用は作業性が悪い問題点があった。
【0006】
本発明は、処理装置が安価で、しかも束ねた多数の木材を薬液で浸漬処理する際に、木材全体を薬液内に浸漬させることが簡単にできて作業性もよく、木材全体の薬液処理が均一にできる木材の薬液処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、これを解消するために、上部を開口した長方形箱状の処理槽本体(1)と、その処理槽本体(1)の長手方向の各上端面(1a)と並行し一定の空間(3)を有して設けた保持部材(2)と、前記空間(3)に差し込んで使用する浮止用横木部材(4)と、この浮止用横木部材(4)と
薬液処理する木材(B)との隙間に挿入する当て木(5)とから少なくとも
成り、且つ、前記保持部材(2)が、長尺な角材であり、前記上端面(1a)の長さ全域にわたって複数の台駒(6)を介して設けている。
【0008】
前記保持部材(2)は、前記処理槽本体(1)の上端面(1a)の長さ全域にわたって複数の台駒(6)を介して設けるのがよく、上端面(1a)と保持部材(2)との間に一定の空間(3)を確保させている。
【0009】
前記浮止用横木部材(4)が、前記空間(3)に遊挿可能な角材であり、その長さが前記処理槽本体(1)の少なくとも全横幅の長さであるのがよい。
【0010】
前記浮止用横木部材(4)の下部に前記当て木(5)を着脱自在に接続可能とするのがよい。
【0011】
前記浮止用横木部材(4)の下面にアリ溝(4a)を形成し、前記当て木(5)の上面に突起(5a)を形成し、前記アリ溝(4a)に前記突起(5a)を嵌入して、前記浮止用横木部材(4)と前記当て木(5)を脱着自在に接続可能とするのがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、処理槽本体(1)の長手方向の各上端面(1a)には、それと並行し一定の空間(3)を有して設けた保持部材(2)を有しているので、対向する両方の空間(3)に浮止用横木部材(4)を差し込むと、この浮止用横木部材(4)は上下方向への移動が規制されているので、 薬液中の木材(B)が、その浮力で液面から浮き上ろうとしても浮止用横木部材(4)と当て木(5)によって止められ、この浮止用横木部材(4)によって木材(B)の液面からの浮き上りを防止できる。
【0013】
また、当て木(5)は、浮止用横木部材(4)と木材(B)との隙間に挿入して使用することにより、挿入した当て木(5)によって、木材(B)が完全に薬液中に埋没させることができる。
これにより木材(B)の全体が薬液に浸漬され、木材(B)の全体に薬液が均一に含浸して薬液処理のむらを防止できる。
また、この当て木(5)の他の役目は、注入する薬液(A)の液面が、処理槽本体(1)の上端面(1a)よりも低くすることができ、薬液(A)が処理槽本体(1)から溢れてこぼれ出ることもない。
【0014】
また、浮止用横木部材(4)の下面にアリ溝(4a)を形成し、当て木(5)に設けた突起(5a)をアリ溝(4a)に嵌入して、当て木(5)と浮止用横木部材(4)とを嵌合して接続したので、処理槽本体(1)に差し込んだ浮止用横木部材(4)と木材(B)との隙間を当て木(5)で丁度埋める必要がなく作業性がよい。
【0015】
更に、本発明の装置は、上記の効果の他に、処理槽本体(1)、保持部材(2)、浮止用横木部材(4)及び当て木(5)とで少なくとも構成された簡易な装置であるから、長い木柱等の長尺木材を処理する場合でも、処理装置の製作費が安価で設備費用が低減でき、そのため処理木材のコストも低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明の浮止用横木部材を示す斜視図である。
【
図4】本発明の浮止用横木部材及び当て木の接続状態を示す説明図である。
【
図6】本発明の当て木の挿入方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面1〜6を基に本発明の実施するための形態を説明する。
図1に示すように、(1)は薬液(A)及び木材(B)を収容するための上部を開口した長方形箱状の処理槽本体であり、この処理槽本体(1)は木製、プラスチック製、金属製等で上部を開口し有底の長方形箱状に形成したものであり、長い木柱等の長尺木材を束ねた状態で処理できる大きさのものである。
この処理槽本体(1)は、薬液(A)を収容しても薬液(A)が漏れないものであり、特に木製では、そのつなぎ目に接着剤を塗布したり、あるいは処理槽本体(1)の内側に防水処理を施したりするのがよい。
また、図示しないが、処理槽本体(1)の底部には、薬液(A)の排水口を設けている。
【0018】
(2)は長尺な角材の保持部材であり、この保持部材(2)は、処理槽本体(1)の長手方向の各上端面(1a)の上方に、その上端面(1a)と並行し一定の空間(3)を有して設けたものであり、しかも上端面(1a)と保持部材(2)との間に一定の空間(3)を確保するために、複数の台駒(6)を介して上端面(1a)に設けている。
この保持部材(2)は木製、プラスチック製、金属製等の材質であるが、処理槽本体(1)と同一の材質が好ましい。尚、保持部材(2)が金属製のものは角パイプ使用するのが軽量で使用し易い。
又、台駒(6)は略立方形で、上端面(1a)と保持部材(2)の間に複数設け、これにより上端面(1a)と保持部材(2)との間に一定の空間(3)を確保し、この空間(3)に後述する浮止用横木部材(4)が差し込み可能としている。
【0019】
(4)は浮止用横木部材であり、
図2の如く、前記空間(3)に差し込み可能な角材で、その長さが前記処理槽本体(1)の少なくとも全横幅の長さで、好ましくは前記横幅よりも多少長いものがよく、例えば前記処理槽本体(1)の横幅よりも10〜20cm程度長いもがよい。
その場合は浮止用横木部材(4)の一端側を手で握って前記空間(3)に差し込む際に、浮止用横木部材(4)は横幅の長さが、前記処理槽本体(1)の横幅よりも長いので握り部が確保され、浮止用横木部材(4)の差し込み作業及び撤去作業が容易で作業性がよい。
また、この浮止用横木部材(4)は、
図1の矢印で示すように、処理槽本体(1)の横幅方向から前記空間(3)に差し込んで使用するので、空間(3)に遊挿可能な縦幅のものが好ましく、両端側の少なくとも下の角を面取り、又は斜めにカットするのが隙間(3)に挿入し易く好ましい。
そして空間(3)に差し込まれた浮止用横木部材(4)は上端面(1a)と保持部材(2)とで上下移動が規制される。
尚、遊挿可能とは、浮止用横木部材(4)を空間(3)に差し込む際に、多少余裕を有した状態で挿入が可能なことである。
【0020】
(5)は当て木であり、
図3の如く、この当て木(5)は、長さが処理槽本体(1)内側の横幅よりも多少短い角材であり、この角材は木製が好ましく、横幅は浮止用横木部材(4)と略同じである。
この当て木(5)は、空間(3)に差し込まれた浮止用横木部材(4)と木材(B)とにできた隙間に挿入して宛がうものであり、これは隙間の大きさによって、
図6aの如く、一本挿入する場合と、
図6bの如く、複数本を挿入する場合がある。
そして、この当て木(5)は、注入される薬液(A)に対し、その下半部が薬液(A)の中に埋没した状態で使用される。
この当て木(5)と浮止用横木部材(4)によって、木材(B)が薬液(A)の液面から浮き上がるのを抑えられ、束ねた木材(B)の全部が薬液(A)の中に埋没して浸漬し、これにより、木材(B)の全部が薬液(A)で均一に浸漬処理される。
しかも、当て木(5)によって、薬液(A)を注入する際に、薬液(A)の液面が当て木(5)の下半部が浸かる程度まで注入すればよく、従って、薬液(A)の液面が処理槽本体(1)の上端面(1a)より下方に位置させることができ、薬液(A)が処理槽本体(1)から零れることもない。
【0021】
更に、
図4に示すように、浮止用横木部材(4)の下面にアリ溝(4a)を形成し、当て木(5)の上面に設けた突起(5a)をアリ溝(4a)に嵌入して、浮止用横木部材(4)と当て木(5)とを着脱自在に接続させるとよく、又、このアリ溝(4a)と突起(5a)は、浮止用横木部材(4)及び当て木(5)の長手方向の中央に一つか、あるいは中央から離れた位置に二つ形成すればよい。
【0022】
この浮止用横木部材(4)と当て木(5)との接続は、浮止用横木部材(4)が空間(3)に挿入された後に、その浮止用横木部材(4)のアリ溝(4a)に当て木(5)の突起(5a)を嵌入して接続すればよい。
この場合、処理槽本体(1)に差し込んだ浮止用横木部材(4)と木材(B)との隙間を当て木(5)で全部埋める必要がない。
つまり浮止用横木部材(4)に接続した状態の当て木(5)と下方の木材(B)とに隙間を呈していても、アリ溝(4a)と突起(5a)で接続した状態の当て木(5)は、下方に落ちることなく所定の接続した位置に維持されると共に、薬液(A)の注入で木材(B)が浮上すると、木材(B)が当て木(5)に当接して止まるので、浮止用横木部材(4)と木材(B)との隙間を当て木(5)で全部埋める必要がなくなり、作業性が極めてよい。
【0023】
以下、
図5を基に、本発明の薬液処理装置を使用した薬液処理の方法を説明する。
先ず、予め多数本を束ねた木材(B)を用意し、その束ねた木材(B)をクレーンで吊上げて、処理槽本体(1)の底部に敷いた台木(7)上に木材(B)を載置し収容する(
図5a参照)。
次いで、処理槽本体(1)の横幅方向から前記空間(3)に浮止用横木部材(4)を適宜間隔で複数本差し込み、並行する両上端面(1a)上に架け渡し、処理槽本体(1)の上端に横架させる(
図5b参照)。
更に、前記浮止用横木部材(4)と前記木材(B)との隙間に、前記当て木(5)を、隙間なく挿入して宛がう(
図5c参照)。
この際に、前記隙間に隈なく前記当て木(5)を挿入するために、この隙間の大きさによっては、当て木(5)は一本に限らず複数本挿入して調整することもある。
このように、処理槽本体(1)内に木材(B)を収容し、浮止用横木部材(4)と当て木(5)をセットした後、防腐、防虫等の効果のある薬液(A)、例えばホウ酸処理液を処理槽本体(1)内に木材(B)全体が浸漬する量を注入して貯留する(
図5d参照)。
この薬液(A)の貯留する量の目安は、当て木(5)の厚さ(上下幅)に対し、約半分の下部が薬液(A)に浸かる程度が好ましい。
【0024】
処理槽本体(1)内に薬液(A)が注入されると、木材(B)はその浮力で薬液(A)の液面から浮上しようとしても、浮止用横木部材(4)と当て木(5)によって木材(B)の浮上が阻止され、木材(B)全部が薬液(A)の中に浸漬状態で維持される。
【0025】
こうして木材(B)が薬液(A)に浸漬した状態を必要な時間保ち、木材(B)に薬液(A)を含浸させる。
この際、浸漬する時間は、薬液(A)によって異なるが、例えば、米国のナイサス社製のホウ酸系木部保存剤(商品名ボラケア)では、約1〜4時間程度の浸漬で薬液処理すればよい。
その後、処理槽本体(1)内の薬液(A)を抜き、当て木(5)と浮止用横木部材(4)を外し、処理木材をクレーンで吊り上げて取り出し、乾燥させればよい。
【0026】
尚、
図5cでは、浮止用横木部材(4)と木材(B)との隙間に宛がう当て木(5)を隙間なく挿入しているが、アリ溝(4a)を設けた浮止用横木部材(4)を使用し、当て木(5)に設けた突起(5a)をアリ溝(4a)に嵌入して、当て木(5)と浮止用横木部材(4)とを嵌合させるとよい。
この場合、処理槽本体(1)に差し込んだ浮止用横木部材(4)と木材(B)との隙間を当て木(5)で全部埋める必要がないので、作業性がよい。
【0027】
このように、本発明は、木材の薬液処理装置及び木材処理方法が低コストでき、処理木材のコスト低減が図られる。
【符号の説明】
【0028】
1 処理槽本体
1a 上端面
2 保持部材
3 空間
4 浮止用横木部材
4a アリ溝
5 当て木
5a 突起
6 台駒
A 薬液
B 木材