特許第6830904号(P6830904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830904
(24)【登録日】2021年1月29日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20210208BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20210208BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20210208BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20210208BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20210208BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210208BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210208BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20210208BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20210208BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20210208BHJP
   C30B 29/18 20060101ALI20210208BHJP
   C30B 29/08 20060101ALI20210208BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20210208BHJP
   C30B 29/02 20060101ALI20210208BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20210208BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20210208BHJP
【FI】
   H01M4/36 A
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   H01M4/587
   H01M4/48
   H01M4/58
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01G11/86
   H01G11/46
   C30B29/06 Z
   C30B29/18
   C30B29/08
   C30B29/16
   C30B29/02
   H01M4/13
   H01M4/139
【請求項の数】20
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-554885(P2017-554885)
(86)(22)【出願日】2016年4月19日
(65)【公表番号】特表2018-518014(P2018-518014A)
(43)【公表日】2018年7月5日
(86)【国際出願番号】AU2016050284
(87)【国際公開番号】WO2016168892
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2019年4月17日
(31)【優先権主張番号】2015901413
(32)【優先日】2015年4月20日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】512290632
【氏名又は名称】アンテオ テクノロジーズ プロプライエタリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ANTEO TECHNOLOGIES PTY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ファン、チャン−イー
(72)【発明者】
【氏名】マエジ、ノブヨシ ジョー
(72)【発明者】
【氏名】ソン、クァンシェン
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/041327(WO,A1)
【文献】 特開2007−095494(JP,A)
【文献】 特開平11−260360(JP,A)
【文献】 特開2014−078492(JP,A)
【文献】 特開2015−018788(JP,A)
【文献】 特開2002−319400(JP,A)
【文献】 特開2014−053307(JP,A)
【文献】 特開2013−222534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−62
C30B 29/02
C30B 29/06
C30B 29/08
C30B 29/16
C30B 29/18
H01G 11/46
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する活物質と、
前記活物質の表面に結合した金属‐配位子錯体であって、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含む金属‐配位子錯体とを備え、
前記金属イオンが配位結合によって前記活物質の表面に結合している、電極。
【請求項2】
前記表面は金属‐配位子錯体の層によって包囲されている、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記金属‐配位子錯体の層は厚さ約1000nm未満である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
第2の活物質をさらに含んでおり、前記第2の活物質の表面は前記金属‐配位子錯体に結合していない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記金属‐配位子錯体の金属は、クロム、ルテニウム、鉄、コバルト、アルミニウム、ジルコニウム、及びロジウムからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記配位子は、前記金属イオンに配位結合した窒素、酸素、又は硫黄から選択される配位結合形成原子を含んでいる、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
前記配位子は、単原子配位子、二原子配位子、又は三原子配位子である、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極。
【請求項8】
前記配位子は、酸化物、水酸化物、又は水のような酸素含有化学種であり、前記配位結合は酸素原子と金属イオンとの間で形成される、請求項に記載の電極。
【請求項9】
前記配位子は、少なくとも2つの金属イオンに配位結合した架橋化合物である、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
前記金属‐配位子錯体はオキソ架橋型のクロム(III)錯体である、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極。
【請求項11】
前記活物質の表面は酸化物表面である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電極。
【請求項12】
前記活物質は、金属、金属間化合物、メタロイド、及び炭素からなる群から選択される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電極。
【請求項13】
前記活物質は、シリコンと、シリコン含有材料と、スズと、スズ含有材料と、ゲルマニウムと、ゲルマニウム含有材料と、炭素と、黒鉛と、硫黄と、LiFePO(LFP)と、コバルト、リチウム、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの1以上を含有する混合金属酸化物とからなる群から選択される、請求項12に記載の電極。
【請求項14】
電極が負極である場合、前記活物質はシリコン及び炭素からなる群から選択される、請求項12に記載の電極。
【請求項15】
電極が正極である場合、前記活物質は、LiFePO(LFP)と、コバルト、リチウム、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの1以上を含有する混合金属酸化物とからなる群から選択される、請求項12に記載の電極。
【請求項16】
前記金属‐配位子錯体はオリゴマー状の金属‐配位子錯体である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の電極。
【請求項17】
前記活物質は、シリコンと、シリコン含有材料と、スズと、スズ含有材料と、ゲルマニウムと、ゲルマニウム含有材料と、炭素と、黒鉛と、硫黄と、LiFePO(LFP)と、コバルト、リチウム、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの1以上を含有する混合金属酸化物とからなる群から選択され、
前記金属‐配位子錯体はオリゴマー状の金属‐配位子錯体であり、前記オリゴマー状の金属‐配位子錯体の金属は、クロム、ルテニウム、鉄、コバルト、アルミニウム、ジルコニウム、及びロジウムからなる群から選択される、請求項1に記載の電極。
【請求項18】
負極と、
正極と、
前記負極と前記正極の間に設けられた電解質と
を備え、前記負極及び前記正極のうちの少なくとも一方が請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載の電極である、電気化学電池。
【請求項19】
活物質を含有する前駆体組成物を形成するステップと、
前駆体組成物から電極を製作するステップと
を含む電極を製作するための方法であって、該方法は、金属‐配位子錯体を前記活物質の表面に接触させるステップを含み、前記金属‐配位子錯体は、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含み、
該方法は、配位結合によって前記金属イオンを前記活物質の表面に結合するステップをさらに含み、前記電極を製作するステップは、前記前駆体組成物から電極を鋳造することを含む、方法。
【請求項20】
前記活物質は、シリコンと、シリコン含有材料と、スズと、スズ含有材料と、ゲルマニウムと、ゲルマニウム含有材料と、炭素と、黒鉛と、硫黄と、LiFePO(LFP)と、コバルト、リチウム、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの1以上を含有する混合金属酸化物とからなる群から選択され、
前記金属‐配位子錯体はオリゴマー状の金属‐配位子錯体であり、前記オリゴマー状の金属‐配位子錯体の金属は、クロム、ルテニウム、鉄、コバルト、アルミニウム、ジルコニウム、及びロジウムからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極組成物と、電極組成物を調製するための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリー又はキャパシタ及びスーパーキャパシタ、並びにその他のエネルギー貯蔵及び変換システム用などの電気材料の性能を改善する簡単なプロセスが必要とされている。そのような例の1つは、リチウムイオンバッテリーにおけるシリコン系の負極であり、従来の黒鉛リチウム電池(350〜370mAh/g)と比較して高い理論上のエネルギー貯蔵密度(3,400〜4,200mAh/g)を有しているために、それは非常に有望な技術と目されている。
【0003】
リチウムイオンバッテリーの容量は、正極及び負極にどれだけのリチウムイオンを貯蔵できるかによって決まる。電気伝導性を助ける炭素粒子とともに負極においてシリコンを使用すると、1個のシリコン原子が最大3.75個のリチウムイオンに結合することができるためにバッテリーの容量が劇的に高まる一方、黒鉛負極を用いるとリチウム原子ごとに6個の炭素原子が必要とされる。
【0004】
残念ながら、この容量増大がもたらす結果は、充電/放電サイクルの間に負極中のシリコンが最大で400%膨張及び収縮するということである。充電/放電でこのような伸縮が繰り返されると、構造の不安定化がもたらされる。これにより、シリコン電極が少ない再充電サイクル数で安定性を失って物理的に崩壊するため、容量の低下及びバッテリー寿命の短縮が引き起こされる。リチオ化における寸法安定性の維持という課題は、シリコンの様々な酸化物、複合材及び合金を含むあらゆる種類のシリコン材料について存在している。充電/放電において同様の伸張/縮小特性を有する電極活物質の他の例には、スズ及びゲルマニウム系の負極材料並びに硫黄系の正極材料が挙げられる。
【0005】
充電/放電中の負極活物質の構造的完全性を維持することは、電極材料が直面する唯一の制限ではない。より高いエネルギー密度を有する新しい正極活物質も、結果として生じる完全性の問題を有している。マンガン及びニッケルのうちの少なくともいずれか一方の溶解が、リチウム・マンガン・ニッケル酸化物材料を基にした正極において生じる。構造上の損失とは別に、電解液によるそのような溶解は、厚い固体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase:SEI)層の形成と、電解液の消費とを引き起こす可能性がある。これらの問題はどちらもバッテリーの性能及びサイクル寿命を制限する。
【0006】
本発明は、先行技術の前記欠点のうちの少なくとも一部に対処する。
本明細書中における任意の先行技術への言及は、この先行技術がいかなる管轄区域においても共通の一般知識の一部を形成するということ、又はこの先行技術が当業者によって理解されるか、関連性ありとみなされるか、他の先行技術の一部と組み合わされるかのうちの少なくともいずれかが合理的に予想されることができたことを認識又は示唆するものではない。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一態様では、表面を有する活物質と、前記活物質の表面に結合した金属‐配位子錯体であって、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含む金属‐配位子錯体とを備える電極が提供され、前記金属イオンは配位結合によって前記活物質の表面に結合している。
【0008】
電極は負極又は正極であってよい。
本発明の別の態様では、負極と、正極と、前記負極及び前記正極の間に設けられた電解質とを備える電気化学電池が提供され、前記負極又は前記正極のうちの少なくとも一方は先に定義されるような電極である。
【0009】
したがって、前記負極及び前記正極のうちの少なくとも一方は、表面を有する活物質と、前記活物質の表面に結合した金属‐配位子錯体であって、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含む金属‐配位子錯体とを備え、前記金属イオンは配位結合によって前記活物質の表面に結合している。
【0010】
本発明のさらに別の態様では、電極を製作するための前駆体組成物が提供され、その前駆体組成物は、表面を有する活物質と、前記活物質の表面に結合した金属‐配位子錯体であって、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含む金属‐配位子錯体とを含有し、前記金属イオンは配位結合によって前記活物質の表面に結合している。
【0011】
本発明のさらなる態様では、電極を製作するための上述の前駆体組成物の使用が提供される。
本発明のなお一層の態様では、上述の前駆体組成物から電極を製作するステップを含む電極を製作するための方法が提供される。
【0012】
本発明のさらに別の態様では、活物質を含有する前駆体組成物を形成するステップと、前駆体組成物から電極を製作するステップとを含む電極を製作するための方法が提供され、該方法は、金属‐配位子錯体を前記活物質の表面に接触させるステップを含み、前記金属‐配位子錯体は、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含み、前記金属イオンは配位結合によって活物質表面に結合している。
【0013】
本発明のさらなる一層の態様では、電極の活物質の表面を金属‐配位子錯体に接触させるステップを含む電極の性能を改善する方法が提供され、前記金属‐配位子錯体は、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を備え、前記金属イオンは配位結合によって前記活物質の表面に結合している。
【0014】
本発明のさらなる態様及び先行する段落に記載された態様のさらなる実施形態は、例として、かつ添付図面に関して示される、以降の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】金属錯体被覆Si及びコントロールのゼータ電位分布を示すグラフ。左側のピークは金属‐配位子錯体被覆の前のSiナノ粒子を示す。右側のピークは、金属錯体被覆Siナノ粒子のゼータ電位の負から正への変化を示す。
図2】同様の質量担持量を有する金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールの充電/放電サイクル安定性を示すグラフ。
図3】ボールミル粉砕混合を使用した金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールの充電/放電サイクルのデータを示すグラフ。
図4】金属‐配位子錯体で被覆されたマイクロサイズのSi(1〜3um)及びコントロール(1〜3um)の充電/放電サイクル安定性を示すグラフ。
図5】Si:Super‐P(登録商標):PAA=70:20:10(重量%)の異なるスラリー処方を用いた金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールの充電/放電サイクルのデータを示すグラフ。
図6】洗浄を伴う場合及び伴わない場合のSi上の様々な濃度(10、25及び50mM)の金属錯体被覆及びコントロールの充電/放電サイクル安定性を示すグラフ。
図7】0.1Cで活性化後の金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールの0.5Cでの充電/放電サイクル安定性を示すグラフ。
図8】金属‐配位子錯体被覆金属酸化物正極の長期間サイクル安定性を、金属‐配位子錯体を伴わないもの(コントロール)の長期間サイクル安定性と比較して示すグラフ。
図9】水性結合剤を用いた金属‐配位子錯体被覆金属酸化物正極の長期間サイクル安定性を、金属‐配位子錯体を伴わないもの(コントロール)の長期間サイクル安定性と比較して示すグラフ。
図10】金属‐配位子錯体被覆Siを基にした電池のスーパーキャパシタ充電/放電サイクル安定性を、金属‐配位子錯体を伴わないもの(コントロール)と20Cにおいて比較して示すグラフ。
図11】金属‐配位子錯体被覆Siを基にした電池のスーパーキャパシタ充電/放電サイクル安定性を、金属‐配位子錯体を伴わないもの(コントロール)と60Cにおいて比較して示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態の詳細な説明
本発明は、少なくとも部分的には、電極活物質内に金属‐配位子錯体を含む電極が、この特徴を備えていない従来の電極に優るいくつかの有益性を有するという知見に基づいている。
【0017】
理論に束縛されることは望まないが、本発明者らは、金属‐配位子錯体を電極の活物質への添加剤として使用することにより活物質の表面への能動的かつ強力な結合をもたらし、かつこれにより、これらの電極を備えたバッテリー、キャパシタ、スーパーキャパシタに加え他のエネルギー貯蔵及び変換システムのようなデバイスの性能が改善されると考えている。そのような性能の増強には、より高いエネルギー密度、より迅速な充放電サイクル、充電及び放電のうちの少なくともいずれか一方の間の活物質の安定化をもたらすこと、並びにより長いサイクル寿命をもたらすことが挙げられる。
【0018】
金属‐配位子錯体は、例えば電気化学電池において典型的に使用されるリチウムのようなわずかな電荷を担持するイオンなどの電解質の周期的インターカレーションから活物質粒子上に生じた歪みを緩和するように作用すると考えられる。すなわち、金属‐配位子錯体は、活物質粒子の表面を有効に架橋し、かつ亀裂又は割れのような活物質中の何らかの表面欠陥の形成を防止するか又は該表面欠陥の影響を緩和することにより、活物質の伸縮に関連した応力及び歪みを緩和するように作用する。加えて、金属‐配位子錯体は、活物質の構造的完全性を維持するための一般的なバリア被覆として作用することもできる。
【0019】
本発明の一態様では、表面を有する活物質と、前記活物質の表面に結合した金属‐配位子錯体であって、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含む金属‐配位子錯体とを備える電極が提供され、前記金属イオンは配位結合によって前記活物質の表面に結合している。
【0020】
用語「活物質」は、本明細書で使用されるように、電気化学的な充放電反応に関与する電極の任意の成分を包含するように意図されている。活物質は、インターカレーション材料又はインターカレーション化合物と呼ばれる場合もあり、充放電サイクルをもたらすために電解質イオンのインターカレーション及びデインターカレーションの両方を経験することができる材料又は化合物である。
【0021】
用語「表面」は、上記に定義されるような活物質の表面に関して本明細書で使用されるように、電気化学的な充放電反応に関与する任意の粒子、ファイバー又は他の形状の任意の材料、例えば多孔質材料などの表面を包含するように意図されている。一実施形態において、活物質の表面は、金属イオンが配位結合することができる電子供与性基を提示している活物質の一部分となるであろう。例えば、活物質がシリコンである場合、適切な表面は個々のシリコン粒子の外側表面であってよい。
【0022】
用語「結合した(associated)」は、活物質表面に結合している金属‐配位子錯体及び配位結合により活物質表面に結合している金属イオンに関して本明細書中で使用されるように、金属‐配位子錯体の金属イオンが活物質の表面への直接的な配位結合を有する状態と、さらには金属‐配位子錯体の金属イオンが、少なくとも1つの仲介物質又は仲介化合物であってそれ自体が活物質の表面と相互作用している仲介物質又は仲介化合物に対して配位結合を有する状態との両方の状態を包含するように意図されている。例えば、後者の状態では、金属‐配位子錯体の金属イオンは、脂肪酸のような疎水性配位子又はフェニルブタジエンセグメントのような他の疎水性の実体を組み込んでもよい。この状況では、比較的疎水性の活物質と、置換型の金属‐配位子錯体の疎水性セグメントとの間に疎水的相互作用が存在することができる。別例として、金属‐配位子錯体の金属イオンは1以上の結合剤物質に対する配位結合を有し、かつこの結合剤物質が、1以上の他の非共有結合性相互作用、例えばイオン性、疎水性、ファンデルワール相互作用及び水素結合によって活物質の表面に結合する。いずれの状況においても、1つの活物質粒子の表面上に形成された金属‐配位子錯体は、他の活物質粒子表面に結び付いて本明細書中に記載された有益性を提供することができる。好ましい実施形態において、金属イオンは活物質表面に対する配位結合を有する。
【0023】
したがって、本発明は、電極の構成要素として、特に電極の活物質に結合するか又は活物質を被覆するために、使用することが可能な、金属‐配位子錯体組成物に関する。様々な実施形態において、本発明に従って形成される活物質に結合した金属‐配位子錯体は、
* バッテリー中の様々な構成要素又は他の材料の接着又は結合を改善すること、
* 同時に、適切な形状へと巻回又は圧延されるのに十分な可撓性をなおも有すること、
* イオン伝導率及び電気伝導率を改善又は増大させること、
* 活物質の安定性を改善又は維持すること、
* ある種の活物質の溶解度を低下させること、
* バッテリー、キャパシタ、スーパーキャパシタなどのサイクル寿命を延長すること、並びに
* 全体的な材料浪費を低減すること
が可能である。
【0024】
概して、金属‐配位子錯体は、配位子が占める1以上の配位部位と、直接又は仲介物質を介した電極の活物質の表面への結合に利用可能な1以上の配位部位とを有する金属イオンを備えている。
【0025】
実施形態では、活物質の表面は、金属‐配位子錯体の層によって部分的に被覆される。しかしながら、代替実施形態では、表面は金属‐配位子錯体の層によって完全に被覆される。活物質粒子の周りにおける金属‐配位子錯体の被覆又は層形成の程度は、添加される金属‐配位子錯体の量、及びさらには活物質表面上の電子供与性部位の数の両方に応じて変化することになることが認識されよう。いずれの状況においても、金属‐配位子錯体は、活物質内でネットワークを形成するのに十分なだけ結合することにより、活物質の個々の粒子間を架橋し、かつ充放電操作中の繰返応力への対応がより良好になされることを可能にする。
【0026】
金属‐配位子錯体が活物質粒子の周りに比較的完全な層又は被覆を形成する場合、一実施形態では、金属‐配位子錯体の層は厚さ約750nm未満、好ましくは約500nm未満、より好ましくは約250nm未満、さらにより好ましくは約100nm未満、さらに好ましくは約50nm未満、一層さらにより好ましくは約20又は約10nm未満、最も好ましくは約5nm未満である。この範囲の下端にある層は、金属‐配位子錯体が活物質に直接結合される層になろう。しかしながら、金属‐配位子錯体が本明細書中に後述されるようなポリマー状錯体の一部である実施形態において、層は必然的に非常に厚くなるが、それでも5000nm未満及び好ましくは1000nm未満、より好ましくは500nm未満であると予想される。したがって、被覆の厚さは特定の用途に合わせて調整することが可能である。
【0027】
以前に議論されたように、電極は金属‐配位子錯体で少なくとも部分的に被覆された活物質を含んでいる。しかしながら、電極はさらなる活物質を含んでもよい。さらなる活物質は第1の活物質とは異なる活物質であってよく、その場合、さらなる活物質は金属‐配位子錯体で被覆されていてもよいし、被覆されていなくてもよい。別例として、又は追加として、さらなる活物質は活物質と同一の物質であってもよいが、被覆はされていない。よって、一実施形態において、電極は第2の活物質をさらに含んでいる。第1の活物質及び第2の活物質は同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0028】
第1の例示の実施形態において、第1の活物質及び第2の活物質は同一である。この実施形態では、第1の活物質だけが金属‐配位子錯体で被覆される。すなわち、第2の活物質は金属‐配位子錯体で被覆されない。
【0029】
第2の例示の実施形態では、第1の活物質及び第2の活物質は異なっている。この実施形態では、第1の活物質及び第2の活物質はいずれも金属‐配位子錯体で被覆される。
第3の例示の実施形態では、第1の活物質及び第2の活物質は異なっている。この実施形態では、第1の活物質は金属‐配位子錯体で被覆される。第2の活物質は金属‐配位子錯体で被覆されない。
【0030】
これらの実施形態は例示であり、限定するようには意図されていないことは当業者が読めば明らかであろう。第3又は第4の活物質のようなさらなる活物質も含まれうることは理解されよう。第1の活物質は少なくとも部分的に被覆される一方、第2、第3、及び第4の活物質は被覆されているか又はされていないかの任意の組み合わせで電極の一部として存在しうることは認識されよう。
【0031】
一般に、少なくとも第1の活物質及び第2の活物質が存在するこれらの実施形態については、第1の活物質と第2の活物質との重量比は約10:1〜約1:10であることが好ましい。より好ましくは、その比は約5:1〜約1:5である。さらにより好ましくは、その比は約3:1〜約1:3である。
【0032】
一実施形態において、活物質は、例えば活物質の表面と直接結合するように設計された結合剤又は配位子などの仲介物質を介して金属‐配位子錯体に結合してもよい。
一実施形態において、金属‐配位子錯体の金属は、クロム、ルテニウム、鉄、コバルト、アルミニウム、ジルコニウム及びロジウムからなる群から選択される。好ましくは、金属はクロムである。
【0033】
金属は任意の適切な酸化状態で存在しうる。例えば、クロムは以下の酸化状態I、II、III、IV、V、又はVIを有することが知られている。金属イオンがクロムイオンである実施形態では、クロムがIIIの酸化状態を有することが好ましい。
【0034】
金属イオンは、活物質と接触させられたときに配位性であることもあれば非配位性であることもある対イオン(例えば、クロリド、アセタート、ブロミド、硝酸、過塩素酸、アラム、フルオリド、フォルマート、スルフィド、ヨージド、ホスファート、亜硝酸、ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、亜塩素酸、炭酸、重炭酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、シアン酸、シュウ酸、及び硫酸からなる群から選択される陰イオンなど)に結合することができる。一実施形態において、対イオンは非配位性の陰イオンである。別の実施形態において、対イオンは配位性の陰イオンである。本発明は対イオンの選択によっては限定されず、無数のそのような対イオンは、当業者には知られているであろうし、かつ幾分かは金属イオンの選択に応じて変わることになろう。
【0035】
ある実施形態では、異なる金属イオンの混合物が、例えば複数の異なる金属‐配位子錯体を形成するために使用されてもよい。そのような場合、少なくとも1つの金属イオンはクロムであることが好ましい。
【0036】
一実施形態において、金属‐配位子錯体を形成している金属は、活物質を形成している金属とは同一ではない。例えば、金属クロム‐配位子錯体が使用される場合、負極を形成する活物質は金属クロムではない。
【0037】
一実施形態において、電極組成物(集電体上に鋳造された乾燥して完全に形成された電極材料によって定義される)中の金属‐配位子錯体の重量%は、0.01%〜10%である。好ましくは、金属‐配位子錯体の重量%は0.1%〜5%である。最も好ましくは、金属‐配位子錯体の重量%は0.5%〜3%である。
【0038】
好ましい実施形態では、金属‐配位子錯体は溶融プロセスによって活物質に組み込まれない。すなわち、金属‐配位子錯体の金属は活物質と一緒に溶融されない。というのもこれは、必要とされる金属‐配位子錯体の形成、及び本明細書中に記載されるような活物質表面との結合を、もたらさないからである。金属‐配位子錯体が液相の活物質に、すなわち液相を形成する適切な溶媒の存在下で、組み込まれることが好ましい。
【0039】
特定の実施形態において、金属‐配位子錯体が金属クロム‐配位子錯体である場合、活物質は追加材料としてアルミニウム又は鉄を含まない。
金属は一連の金属‐配位子錯体を形成することが知られている。金属‐配位子錯体を形成するための好ましい配位子は、配位結合を形成する基として窒素、酸素、又は硫黄を含む配位子である。より好ましくは、配位結合を形成する基は酸素又は窒素を含む。さらにより好ましくは、配位結合を形成する基は酸素を含有する基である。なおさらにより好ましくは、酸素を含有する基は、酸化物、水酸化物、水、硫酸、炭酸、リン酸、又はカルボン酸からなる群から選択される。
【0040】
一実施形態において、配位子は、単原子配位子、二原子配位子、又は三原子配位子である。好ましくは、配位子は、酸化物、水酸化物、又は水のような酸素含有化学種であり、配位結合を形成する基は酸素である。
【0041】
好ましくは、配位子はオキソ配位子である。
金属‐配位子錯体の層は、金属イオンを互いに架橋してより大きなオリゴマー状の金属‐配位子錯体を形成することにより、さらに安定させることも可能である。よって、好ましい実施形態において、金属‐配位子錯体はオリゴマー状の金属‐配位子錯体である。
【0042】
一実施形態において、金属‐配位子錯体の配位子は、オキソ‐、ヒドロキシ‐、カルボキシ‐、スルホ‐、及びホスホ‐配位子のような少なくとも2個の金属イオンに配位結合される架橋性部分である。好ましくは、これはオリゴマー状の金属‐配位子錯体の形成をもたらす。例示の実施形態において、金属‐配位子錯体はオキソ架橋型クロム(III)錯体である。好ましくは、金属‐配位子錯体はオリゴマー状のオキソ架橋型クロム(III)錯体である。
【0043】
オリゴマー状の金属‐配位子錯体は、オプションとして、オリゴマー状の金属‐配位子錯体のクラスターからポリマー状の金属‐配位子錯体を形成するために、カルボン酸、硫酸、リン酸及びその他の多座ポリマー配位子のような1以上の架橋性カップリングを用いてさらに重合させてもよい。
【0044】
一実施形態において、金属‐配位子錯体は電極のさらなる構成要素への配位結合を形成する。そのようなさらなる構成要素には、別の活物質又は結合剤が挙げられる。いくつかの例において、例えば、活物質が粒子集団の形態であるとき、金属‐配位子は粒子集団内の隣接した粒子とともに配位結合を形成する。別の例において、2つの活物質が存在する場合、金属‐配位子は第2の活物質とのさらなる配位結合を形成する。あるいは、この配位結合は金属イオンと電極の構成要素との間で形成されてもよい。
【0045】
ある実施形態では、様々な配位子の混合物が使用されてもよい。様々な配位子は、様々な機能、例えば、複数の様々な金属‐配位子錯体を形成するための機能、金属‐配位子錯体の間を架橋するための機能、金属イオンを架橋するための機能、金属‐配位子錯体の疎水性/親水性を変更するための機能、又は電極の構成要素との配位結合を形成するための表面を提供するための機能を有しうる。これらの実施形態のうちいくつかは、金属‐配位子錯体であって、配位子を経由して別のそのような配位子(同一の性質のものであってもよいし異なる性質のものであってもよい)であって活物質表面に結合しているものへの配位共有結合を介して間接的に活物質に結合している、金属‐配位子錯体をもたらしうる。
【0046】
当業者であれば、電極は負極でも正極でもよく、どちらにも典型的に使用される材料から形成されうることを認識するであろう。いずれの場合にも、活物質は表面を備え、金属イオンは該表面と共に直接的又は間接的に配位結合を形成することができる。一実施形態において、活物質の表面は、配位結合を形成するための孤立電子対を有している窒素種、酸素種、硫黄種、ヒドロキシル種、又はカルボン酸種を備えている。好ましくは、表面は酸素種を備えている。酸素種が一般に好ましく、活物質の表面は容易に酸化されて酸化物層を備えることが可能であるか、又は既に酸化物とみなされてもよい。よって、好ましい実施形態では、活物質表面は酸化物表面であるか、又は酸化物表面になるように適応可能である。
【0047】
一実施形態において、活物質(又は第1若しくは第2の活物質)は、金属、金属間化合物、メタロイド、及び炭素からなる群から選択される。電極は負極であってよく、その場合、活物質は典型的には、シリコン、シリコン含有材料(シリコンの酸化物、複合材及び合金)、スズ、スズ含有材料(スズの酸化物、複合材及び合金)、ゲルマニウム、ゲルマニウム含有材料(ゲルマニウムの酸化物、複合材及び合金)、炭素、並びに黒鉛から選択される。好ましくは、電極が負極である場合、活物質はシリコン及び炭素のうちの少なくともいずれか一方を含んでなる。シリコンは、純粋なシリコン、その様々な酸化物(SiO、SiOなど)、その合金(Si‐Al、Si‐Snなど)、及び複合材(Si‐C、Si‐グラフェンなど)の形態であってよい。炭素は、黒鉛、super‐P炭素、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンカーボンブラック、ケッチェンブラック(KB)の形態であることが好ましく、より好ましくは黒鉛である。
【0048】
一実施形態において、電極が負極である場合、第1の活物質はシリコンを含んでなる。
電極が負極であるさらなる実施形態では、第1及び第2の活物質が存在し、そのうちの少なくとも1つはシリコンを含んでなる。好ましくは、この実施形態では第1の活物質はシリコンを含んでなり、第2の活物質は炭素を含んでなる。
【0049】
電極が正極である場合、活物質(又は第1若しくは第2の活物質)は、硫黄と、LiFePO(LFP)と、コバルト、リチウム、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの少なくともいずれかを含有する混合金属酸化物と、炭素とから選択される。炭素は、黒鉛、super‐P炭素、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンカーボンブラック、ケッチェンブラック(KB)から選択される1以上の炭素粒子の形態であることが好ましく、より好ましくは黒鉛である。
【0050】
本明細書中の開示から十分理解されることであるが、負極及び正極のうちの少なくともいずれか一方を形成するための活物質は特に限定されず、先行技術で使用される任意のそのような材料、特にリチウムイオン二次電池及びより具体的にはシリコン系の負極を用いるものに使用されるものが適切であるかもしれない。
【0051】
一実施形態において、金属‐配位子錯体は、活物質の離れた部分どうし、例えば活物質が微粒子の形態である場合は、隣接した粒子又は1個の粒子の領域間を架橋する。理論に束縛されることは望まないが、本発明者らは、電極中の活物質の離れた部分の間を架橋することが、充電/放電操作時の電極の嵩の伸縮に起因する繰返応力を減弱する助けとなると考えている。活物質の離れた部分の間の架橋は、活物質の離れた部分上の金属‐配位子錯体間の直接的な相互作用に起因してもよいし、又は金属‐配位子錯体と結合剤のようなさらなる中間化合物との間の相互作用を通じて間接的に生じてもよい。よって、好ましくは、電極は結合剤化合物をさらに含む。
【0052】
上記に議論されるように、いくつかの状況においては、架橋相互作用は金属‐配位子錯体と結合剤との間に生じうる。よって、ある実施形態では、金属‐配位子錯体は、結合剤部分への配位結合を備えている。好ましくは、配位結合は、金属‐配位子錯体の金属イオンと結合剤部分との間で形成される。
【0053】
ある実施形態では、結合剤は、活物質に結合することができる金属‐配位子/結合剤複合体を形成するために金属‐配位子錯体の層内の金属イオンを架橋することができる。好ましい結合剤部分には、カルベン、共役ジエン、多環芳香族及びヘテロ芳香族、窒素を含有する基、酸素を含有する基、又は硫黄を含有する基が挙げられる。さらにより好ましくは、結合剤部分は酸素を含有する基である。最も好ましくは、結合剤部分は、カルボキシル、ヒドロキシル、アルデヒド及びカルボニルのうちの少なくとも1つである。
【0054】
一実施形態において、結合剤化合物はポリマーである。金属‐配位子錯体と結合剤との間に配位結合を形成することが望ましい実施形態では、好ましいポリマーは、アクリラート、カルボキシル、ヒドロキシル、又はカルボニル部分のような酸素種を含むポリマーである。これらの基は金属イオンとの配位結合を形成することができる。しかしながら、これらの基を持たない他のポリマーも具体的な基準次第で有用となる場合があり、例えば適切なポリマーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はスチレン‐ブタジエンゴムであってもよい。いかなる場合でも、金属‐配位子錯体と結合剤との間で配位結合が望まれる場合には、結合剤は、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(メタクリル酸)、ポリメチルメタクリラート、ポリアクリルアミド、ポリピロール、ポリアクリロニトリド、ポリ(エチレン及び無水マレイン酸)を含む無水マレイン酸コポリマー及びその他のコポリマー、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルキトサン、天然多糖類、キサンタンガム、アルギナート、ポリイミド、から選択されることがさらにより好ましい。最も好ましくは、結合剤はPAAである。別の実施形態では、結合剤部分が窒素原子を含有することが望ましい場合、適切なポリマーはポリアクリロニトリルである。
【0055】
結合剤は、典型的には集電体上の電極材料の約2〜約40重量%、好ましくは約5〜約30重量%、及び最も好ましくは約5〜約20重量%の量で存在する。
ある実施形態では、電極は、元は一次粒径を有する一次粒子として提供される活物質から形成される。活物質は他の成分と組み合わされ、次いで適切な集電体の周りで電極へと形成されうる。電極を(鋳造又はその他の製作プロセスによって)形成するプロセスの間、活物質の一次粒子は凝集して二次粒径を有する集塊二次粒子を形成しうる。
【0056】
粒子という用語は一般に、一連の様々な成形材料を包含するように意図されている。一次粒子は、球体、筒体、桿状体、ワイヤ、チューブのような任意の形状のものであってよい。一次粒子は多孔性であってもよいし非多孔性であってもよい。
【0057】
好ましくは、活物質の一次粒子はナノサイズである。用語「ナノサイズ」は、約1nm〜約1000nmの数平均粒子径を包含するように意図されている。この場合、活物質の一次粒子は、ナノ粒子、カーボンナノチューブ、グラフェンシート、炭素系ナノ複合材、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノアレイ、コアシェル型ナノ構造体及びその他の中空ナノ構造体のような、ナノ形状の(nanoshaped)微粒子材料である。一次粒子はほぼ球形の形状であることが一般に好ましい。
【0058】
好ましくは、一次粒子は少なくとも10nmの数平均粒子径を有する。より好ましくは、粒子は少なくとも30nmの数平均粒子径を有する。さらにより好ましくは、粒子は少なくとも50nmの数平均粒子径を有する。最も好ましくは、粒子は少なくとも70nmの数平均粒子径を有する。
【0059】
好ましくは、一次粒子は最大で10μmの数平均粒子径を有する。より好ましくは、粒子は最大で5μmの数平均粒子径を有する。さらにより好ましくは、粒子は最大で4μmの数平均粒子径を有する。本発明の利点は、金属‐配位子錯体を含むことで、より大きいか又は粗大な活物質粒子及びより小さな粒子と共に使用される時の操作面において有益性をもたらすことである。例えば、負極の生産に使用されるシリコン粒子のサイズを数百nmの範囲に縮小することはよくあることである。本明細書中の実施例の部は、そのような縮小は本発明の作業には必要でないこと、及び実際に驚くべき好結果が数マイクロメートルの粒径範囲のシリコンを用いて達成可能であることを示す。
【0060】
当然のことであるが、一次粒子は、約10、30、50、又は70nmのうちのいずれか1つから選択される下限、及び約10μm、5μm、4μm又は1000、900、700、500若しくは300nmのうちのいずれか1つから選択される上限の範囲の数平均直径を有する。その選択は、活物質及び電極の用途に応じて変化しうる。
【0061】
上記に議論されるように、電極の製作後、活物質の一次粒子は凝集して集塊二次粒子を形成することができる。
ある実施形態では、金属‐配位子錯体はいかなる凝集にも先立って一次粒子に適用され、その場合には一次粒子の表面の少なくとも一部分が金属‐配位子錯体で被覆される。好ましくは、一次粒子は金属‐配位子錯体によって包囲される。
【0062】
別の実施形態では、金属‐配位子錯体は一次粒子のうちの少なくとも一部の凝集の後に適用される。この場合、二次粒子の表面の少なくとも一部分が金属‐配位子錯体で被覆される。好ましくは、二次粒子は金属‐配位子錯体によって包囲される。二次粒子は多孔性であってもよいし非多孔性であってもよい。
【0063】
同様に当然のことであるが、活物質が微粒子として提供されるもの以外の他の電極構造も企図される。例えば、活物質は多孔性の形態を有しうる。この実施形態では、多孔性活物質の表面は金属‐配位子錯体によって少なくとも部分的に被覆される。
【0064】
さらに別の実施形態では、活物質の表面はナノ構造化又はナノパターン化されたフィーチャを示す。用語「ナノパターン化」は、大きさが1〜1000nmの範囲にあるフィーチャを包含するように意図されている。これらの実施形態では、これらのナノ構造又はナノパターン化されたフィーチャの表面は、金属‐配位子錯体で少なくとも部分的に被覆される。
【0065】
上記に議論されるように、金属‐配位子錯体と結合されることになる電極材料又は構成要素は、活物質である。活物質は、電気化学的な充放電反応に必要な電極の任意の部分又は構成要素である。電極は負極であってよく、その場合活物質は、典型的には、シリコン、シリコン含有材料(シリコンの酸化物、複合材及び合金)、スズ、スズ含有材料(スズの酸化物、複合材及び合金)、ゲルマニウム、ゲルマニウム含有材料(ゲルマニウムの酸化物、複合材及び合金)、炭素、又は黒鉛から選択される。あるいは、電極は正極であってもよく、その場合活物質は、典型的には金属酸化物若しくは混合金属酸化物、炭素又は黒鉛から選択される。特に、混合リチウム酸化物材料(ここではリチウム酸化物がマンガン、コバルト、ニッケルなどの他の酸化物と混合されている)が使用される。
【0066】
金属‐配位子錯体は、活物質の表面上の任意の電子供与性基に配位結合して金属‐配位子錯体を活物質に結合させることができる。電子供与性基を持たないとされる活物質でも、本発明者らの酸化雰囲気の結果としてそのような基を有することが多い。従って、活物質は電子供与性基を有する表面を備え、かつ金属‐配位子錯体層の金属イオンは配位結合を介して活物質のこれらの電子供与性基に結合する。適切な電子供与性表面部分は酸化物を備えている。
【0067】
活物質の表面上に電子供与性基がほとんど又は全く存在しない場合、金属‐配位子錯体の配位子は疎水性配位子(R‐X)であることも可能であり、この場合Xが金属イオンに配位結合し、かつそのようにXは金属イオンと配位結合を形成することができる任意の電子供与性基であってよい。基「R」は、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルシクロアルキル、ヘテロアルキルシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルであって、オプションで置換されている基から独立に選択されうる。この実施形態に従えば、「R」はより疎水性の高い性質を有することが好ましい。さらに、R基は、共役ジエンを含有する基、多環芳香族若しくはヘテロ芳香族を含有する基、窒素を含有する基、酸素を含有する基、又は硫黄を含有する基から選択された構成部分を組み込むこともできる。好ましくは「R」基は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(スチレンブタジエン)、ポリエチレン及びそのコポリマー、ポリプロピレン及びそのコポリマー、並びにポリ塩化ビニルのようなポリマー結合剤のうちより短いもののような短いポリマーである。
【0068】
金属‐配位子錯体層は活物質を部分的に被覆する場合もあれば、被覆層が活物質を完全に包囲する場合もある。このようにして活物質の特性は調整されうる。例えば、完全な包囲層は、活物質が分解又は溶解するのを防止する場合があり、またバッテリーの他の構成要素における望ましからぬ反応(例えば、マンガンが溶解して電解質中に入ると負極において過剰に成長したSEI層を堆積させる場合)を防ぐ役割を果たす場合もある。しかしながら、系/材料/構成要素の特性の改変は最小限にすることが望ましい場合(例えば、導電率の乱れを最小限にする場合)、部分的な被覆だけが必要とされる場合もある。
【0069】
金属‐配位子錯体組成物は、電極の活物質上に被覆又は塗布されてその活物質の表面に薄い被膜を形成することができる。被膜は単層として形成されてもよい。しかしながら、必要な場合にはより厚い被膜も調製可能である。使用される処方に応じて、かつ/又は結合剤のようなポリマー配位子を伴うと、これらの被覆の厚さは増大されてもよい。これは、活物質の表面上で金属‐配位子錯体及び結合剤のようなポリマー配位子を組み合わせる、より大きな錯体を形成すること、並びに、別の被覆層、例えば追加の金属‐配位子錯体、ポリマー、若しくは結合剤、又は酸化アルミニウム、酸化チタンのようなナノ粒子を適用して、活物質の表面上に多層のラミネート構造を形成することのうちの少なくともいずれか一方により達成されるかもしれない。追加の被覆層は全体的な被覆特性を変更するのに有用となりうる。よって、活物質及び電極の、例えばその構造的完全性のような特性は、金属‐配位子錯体組成物の層の厚さを制御することにより調整可能である。
【0070】
本発明はここで、シリコン負極材料上で被覆を形成することに特に言及して説明されることになる。しかしながら、本発明の基本的概念は、限定するものではないが、本願のバッテリー材料又は構成要素の先在する構造物及び特性のうちの少なくともいずれか一方を維持又は増強するために被覆が必要とされる場合の任意の他の材料又は構成要素に適用可能であることが認識されよう。
【0071】
金属‐配位子錯体を含むシリコン負極は、様々な方法で生産することができる。例としては、一般にシリコン負極スラリーの生産では3つの重要な構成要素、すなわち(i)シリコン粒子、(ii)炭素粒子、及び(iii)ポリアクリル酸(PAA)のような結合剤、が必要とされる。金属‐配位子錯体はシリコン粒子に添加されて活性化シリコン材料を形成することが可能であり、活性化シリコン材料はその後、炭素粒子及びPAAと組み合わされてもよい。あるいは又はさらに、炭素粒子が金属‐配位子錯体で被覆され、次いでシリコン粒子及びPAAと組み合わされてもよい。あるいは、金属‐配位子錯体はPAAと組み合わされてポリマー系の金属‐配位子錯体を形成し、次いで、任意の順序で、シリコン及び炭素粒子と組み合わされることが可能である。あるいは、金属‐配位子錯体は、シリコン粒子、炭素粒子、及びPAAの先在する混合物に直接添加されて混合されてもよい。
【0072】
シリコン系の負極の場合、金属‐配位子錯体が隣接した粒子と配位結合を形成する能力は、動的な化学的環境内においてそれらの結合を形成及び修正する能力を備えた安定した構造を生じさせる。負極及び正極の両電極は、それらの電極を構成する活性粒子の内部にリチウムイオンが出入りすることを可能にする。挿入(又はインターカレーション)の際、イオンは電極の中へと移動する。逆プロセスである脱離(又はデインターカレーション)の際、イオンは電極から外へと移動する。リチウムイオン系電池が放電しているときには、正のリチウムイオンは負極(この場合はシリコン)から移動して正極(リチウム含有化合物)に入る。電池が充電しているときには逆のことが起きる。
【0073】
電荷を蓄積しているとき、シリコンはリチウムイオンを貯蔵するために膨張する。リチウム吸収に伴う膨張への対応は、高容量リチウムイオン負極材料を設計するときには常に課題であった。シリコンはリチウムイオン貯蔵材料中でも最も高い容量を有するが、完全に充電されるとその体積が3〜4倍まで増大する。この膨張は、負極の電気接点を急速に破壊する。本発明で記載されるような金属‐配位子錯体はシリコン負極材料の様々な構成要素の間に配位力を形成する。理論に束縛されることは望まないが、本発明者らは、この組み合わされた結合が活物質内の伸縮に抵抗することができると考えている。さらに、伸張時にこれらの配位結合のうち一部の破壊が生じても、配位結合は縮小後に修正することができる。従って、本発明はより高い安定性かつより長寿命の電極を提供する。さらに、金属‐配位子錯体は絶縁体としては働かず、電子が自由に移動することを可能にする。
【0074】
金属‐配位子錯体被覆の有益性は負極に限られない。上述の有益性はさらに、正極のより有効な性能を可能にする。コバルト、リチウム及びニッケルの混合物を含有する混合リチウム酸化物を基にした新たな正極材料は、安定性の問題を有している。これらは、主としてマンガン及びニッケルのうちの少なくともいずれか一方の固体から電解液中への溶解に関係し、これは負極材料上に堆積し、かつ上記に議論されるように負極において過剰なSEI層の成長を引き起こす。正極材料上での酸化アルミニウムの薄い堆積は安定性を増大させることが示されているが、そのような被覆を達成するための現行の費用効率の高いプロセスは存在しない。本発明の金属‐配位子錯体は、拡散障壁として作用して酸化マンガンを表面近くに化学的に固定するために、活物質に適用されることが可能である。加えて、電極の様々な構成要素間の相互作用がより強いと、より長いバッテリー寿命をもたらす電子伝達効率の向上が可能となる。
【0075】
本発明はバッテリーに制限されず、キャパシタ及びスーパーキャパシタ並びにその他のエネルギー貯蔵及び変換システムにも同様に適用可能である。事実、電極を使用する任意の配置構成が、本明細書中に記載されるような金属‐配位子錯体を含めることにより利益を得ることができる。金属‐配位子錯体の基本的概念の結果としての、増強された性能の同じ特性も当てはまる。
【0076】
金属‐配位子錯体については以下に議論されることになる。
本発明者らは、一般に、金属‐配位子錯体が、2以上の金属イオンを架橋又はそうでなければ連結若しくは結合するための電子供与性基を形成するための条件を提供することによって形成可能であることを見出した。1つの方法は、金属‐配位子錯体と活物質の表面との接触から形成された組成物にpH7未満、好ましくは約1.5〜6、好ましくは約2〜5のpHを提供することによる、クロム(III)イオンのオール化であってよい。
【0077】
様々なクロム塩、例えば塩化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、過塩素酸クロムは、金属‐配位子錯体を形成するために使用されうる。これらの塩は、アルカリ性溶液、例えば水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びアンモニアなどと混合されて様々な金属‐配位子錯体を形成する。塩基として働くことができる有機試薬、例えばエチレンジアミン、ビス(3‐アミノプロピル)ジエチルアミン、ピリジン、イミダゾールなども使用可能である。金属‐配位子錯体のサイズ及び構造は、pH、温度、溶媒及びその他の条件の変化で制御可能である。
【0078】
特に、金属塩及び反応環境を変更することによって、(シリカ中などの)酸化物及びその他の固体基材への金属‐配位子錯体の結合を変調すること、並びに他の成分に結合するための配位層、例えば基材の表面へのナノ粒子、すなわち追加の活物質粒子又は電極の第2若しくはさらなる活物質の粒子を与えること、が可能である。金属‐配位子錯体と所与の活物質との間いずれの個々の配位相互作用も比較的弱い一方、非常に多数の配位力は極めて強い相互作用をもたらす。個々には、各配位相互作用はある時点で局所的ストレッサー(local stressor)の結果壊れる可能性が高い。しかしながら、この局所的ストレッサーが複数の配位結合全てを破壊する可能性は少ない。したがって、緩和状態では、例えば破壊された活物質表面への結合を修正することにより将来のサイクルを通じた応力を軽減することができる。
【0079】
金属‐配位子錯体は、金属イオンを互いに架橋してより大きなオリゴマー状の金属‐配位子錯体を形成することによりさらに安定させることが可能である。したがって、一実施形態において、金属‐配位子錯体はオリゴマー状の金属‐配位子錯体である。そのようなオリゴマー状の金属‐配位子錯体は、あらかじめ形成されて活物質に適用されてもよいし、活物質の表面上でその場で形成されてもよい。この場合、配位子は、金属イオンを効率的に架橋又は橋架けするために、多数の金属イオンとの多数の配位結合を形成することができる。すなわち、配位子は、2以上の金属イオンとの配位結合を形成することにより、1つの金属イオンを別の金属イオンに連結することができる。
【0080】
例示のオキソ架橋型のクロム構造を以下に提示する。
【0081】
【化1】
活物質への適用については、各々の金属‐配位子錯体上の水又はヒドロキシル基のうちの少なくとも1つが活物質(例えばシリカ/シリコン粒子)の表面との配位結合によって置き換えられる。これは以下に例証されており、
【0082】
【化2】
ここで「X」は活物質の表面への配位結合を表わしている。
【0083】
さらに当然のことであるが、多数の水又はヒドロキシル基が活物質の表面との配位結合によって置き換えられる場合があり、例えば各々のクロムイオンが活物質の表面との配位結合を形成してもよい。
【0084】
【化3】
加えて、水及びヒドロキシル基のうちの少なくともいずれか一方は、電極の別の構成要素、例えばさらなる活物質又は結合剤などとの配位結合によって置き換えられてもよい。
【0085】
多数のオリゴマー状の金属‐配位子錯体は、結合剤のようなより大きな多座配位子を使用してさらに相互に架橋されて、より大きなオリゴマー状の金属‐配位子錯体を形成することができる。したがって、別の実施形態において、金属‐配位子錯体はポリマー系の金属‐配位子錯体である。そのようなポリマー系の金属‐配位子錯体は、あらかじめ形成されて活物質に適用されてもよいし、活物質の表面上でその場で形成されてもよい。この場合、多座配位子は多数の金属‐配位子錯体中に多数の配位結合を形成して、より大きな距離を越えて、又は第1及び第2の活物質の間で、金属イオンを効率的に架橋又は橋架けすることができる。
【0086】
金属‐配位子錯体、オリゴマー状の金属‐配位子錯体及びポリマー状の金属‐配位子錯体は、これらの錯体の全体的な親水性/疎水性を変更するために様々な疎水性の配位子によってさらにマスキングされることが可能である。したがって、別の実施形態において、金属‐配位子錯体、オリゴマー状の金属‐配位子錯体及びポリマー状の金属‐配位子錯体は、そのような金属‐配位子錯体がマスキングされたものであることが可能である。そのようなマスキングされた金属‐配位子錯体は、あらかじめ形成されて活物質に適用されてもよいし、活物質の表面特性を変更するためにその場で形成されてもよい。この場合、マスキング配位子は、第1の活物質の表面特性を、第2の活物質により効率的に結合するように変更することができる。
【0087】
本発明の別の態様では、負極と、正極と、前記負極及び正極の間に設けられた電解質とを備える電気化学電池が提供され、前記負極又は前記正極のうちの少なくとも一方は先に定義されるような電極である。
【0088】
したがって、前記負極及び前記正極のうちの少なくとも一方は、表面を有する活物質と、前記活物質の表面に結合した金属‐配位子錯体であって、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含む金属‐配位子錯体とを備え、前記金属イオンは配位結合によって前記活物質の表面に結合している。
【0089】
本発明のさらに別の態様では、電極を製作するための前駆体組成物が提供され、その前駆体組成物は、表面を有する活物質と、前記活物質の表面に結合した金属‐配位子錯体であって、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含む金属‐配位子錯体とを含有し、前記金属イオンは配位結合によって前記活物質の表面に結合している。前駆体組成物の様々な特徴は電極に関して先に記載されたとおりである。
【0090】
前駆体組成物は、先述されたように、結合剤化合物をさらに含んでなることができる。
一実施形態において、活物質は、先に定義されるような一次粒径を有する粒子の形態で提供される。
【0091】
本発明のさらなる態様では、電極を製作するための上述された前駆体組成物の使用が提供される。
本発明のさらに一層の態様では、上述の前駆体組成物から電極を製作するステップを含む電極を製作するための方法が提供される。
【0092】
本発明のさらに別の態様では、活物質を含有する前駆体組成物を形成するステップと、前駆体組成物から電極を製作するステップとを含む電極を製作するための方法が提供され、該方法は、金属‐配位子錯体を前記活物質の表面に接触させるステップを含み、前記金属‐配位子錯体は、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を含み、前記金属イオンは配位結合によって活物質表面に結合される。
【0093】
電極を製作する方法は、電極を形成するために集電体上で前駆体組成物を鋳造するステップをさらに含みうる。
金属‐配位子錯体はプロセスの間の任意の段階で活物質の表面に適用されうることは理解されよう。例えば、第1の例証の実施形態では、活物質は前駆体組成物を形成するステップに先立って金属‐配位子錯体で被覆される。第2の例証の実施形態では、金属‐配位子錯体は前駆体組成物中に混合される。第3の例証の実施形態では、金属‐配位子錯体は電極を製作するステップの間に添加される。第4の例証の実施形態では、金属‐配位子錯体は電極を製作するステップに先立って金属‐結合剤複合体を形成するために結合剤に添加される。第5の例証の実施形態では、金属‐配位子錯体は電極の形成後に活物質上に被覆される。
【0094】
一実施形態において、電極を製作するステップは前駆体組成物から電極を鋳造することを含む。
本発明のさらなる一層の態様では、電極の活物質の表面を金属‐配位子錯体の層で被覆するステップを含む電極の性能を改善する方法が提供され、前記金属‐配位子錯体は、金属イオンに配位結合した少なくとも1つの配位子を備え、前記金属イオンは活物質の表面との配位結合を形成する。
【0095】
電極の活物質の表面を被覆する結果として、電極は、未被覆の電極と比較して改善された性能を示す。ある実施形態において、性能の改善は、初回サイクルの放電容量が高いことと、初回サイクルの効率が高いことと、100%の深充電で500回の充電/放電ディープサイクルの後の容量が高いこととからなる群から選択される少なくとも1つである。好ましくは、性能の改善は、500回の充電/放電ディープサイクルの後の容量が高いことである。
【0096】
一実施形態において、100%の深充電で500回の充電/放電ディープサイクルの後の容量は、未被覆の電極よりも少なくとも5%大きく、さらにより好ましくは少なくとも7%大きく、最も好ましくは少なくとも9%大きい。
【0097】
別の実施形態において、100%の深充電で500回の充電/放電ディープサイクルの後の容量は、未被覆の電極よりも少なくとも30%大きく、さらにより好ましくは少なくとも50%大きく、最も好ましくは少なくとも70%大きい。
【0098】
当然のことであるが、本明細書中において開示及び定義された発明は、言及されるか又は本文若しくは図面から明白な個々の特徴のうち2以上の別例の組み合わせ全てについて及ぶものである。これらの様々な組み合わせの全てが本発明の種々の代替の態様を構成する。
【0099】
実施例
実施例1:金属‐配位子錯体溶液の調製
3種の異なる金属‐配位子錯体の溶液について述べる。使用される塩、塩基、最終pH、及び他の配位子に応じて、金属‐配位子錯体溶液は、被覆される活物質に合わせて調整可能な様々な結合特性を示す。
【0100】
溶液1
この実施例では、過塩素酸クロム六水和物(45.9g)が480mLの精製水に溶解され、固形物がすべて溶けるまで徹底的に混合された。同様に、8mlのエチレンジアミン溶液が490mLの精製水に添加された。これらの溶液が合わされて室温で一晩撹拌され、次いで放置されてpHおよそ4.5に平衡化された。
【0101】
溶液2
この実施例では、塩化クロム六水和物(26.6g)が500mLの精製水に溶解され、固形物がすべて溶けるまで徹底的に混合された。pHは、1MのNaOH又はLiOHを用いてゆっくり4.5に調整された。
【0102】
溶液3
この実施例では、塩化クロム六水和物(45.9g)が480mLの精製水に溶解され、固形物がすべて溶けるまで徹底的に混合された。同様に、8mlのエチレンジアミン溶液が490mLの精製水に添加された。これらの溶液が合わされて室温で一晩撹拌され、次いで放置されてpHおよそ3.8に平衡化された。
【0103】
実施例2:金属‐配位子錯体で被覆されたシリコンナノ粒子の調製
A. 金属‐配位子錯体シリコンスラリーの形成
この実施例では、50mM(終濃度)の金属錯体(溶液1)が使用された。シリコン(Si)ナノパウダー(粒径100nm)は米国のエムティーアイ・コーポレイション(MTI Corporation)から購入された。20%(w/v)のシリコンナノ粒子スラリーは、乾燥シリコンナノパウダーを、丸底フラスコ中でpH4.3の7.5%イソプロパノールddHO溶液と混合することにより調製された。該スラリーは真空下に5分間置かれ、その後100mMの金属‐配位子錯体溶液が添加された。フラスコは40℃に加熱され、スラリーは軸流型撹拌翼を備えた機械式オーバーヘッドミキサによって400rpmで5分間混合された。撹拌翼が取り出され、溶液はさらに10分間真空吸引処理された。撹拌翼が元に戻され、スラリーは40℃、400rpmにて一晩放置混合された。一晩経たスラリーは遠心分離管に移され、溶液から固体を分離するために10,000gで10分間遠心分離処理された。開始時体積から70%の上清が取り除かれ、pH4.3のddHOに置き換えられた。ペレットは、物理的な撹拌及び10分間の「強」設定での超音波浴槽処理を使用して再懸濁された。この洗浄ステップは繰り返され、3回目の遠心分離ステップの後に上清が溶液から取り除かれた。pH4.3のddHOがスラリーに、20%(w/v)固形分含量に到達するまで添加された。スラリーは、粒子を完全に分散させるためにさらに10分間、超音波浴槽処理された。様々な濃度(50、25および10mM)の金属‐配位子錯体と様々な回数の洗浄ステップとの組み合わせが、Siナノ粒子を被覆するために使用された。
【0104】
B. 金属‐配位子錯体被覆シリコンナノ粒子のゼータ電位、SEM及びICP‐AES分析
ゼータ電位の分析は、マルバーン(Malvern)のゼータ電位分析装置を使用して、金属‐配位子錯体被覆Siナノ粒子及びコントロール(水中のSiナノ粒子)について行なわれた。ゼータ電位分布曲線は図1に示されており、同図は金属‐配位子錯体被覆Siのゼータ電位がコントロール(負に荷電)と比較してより正の側の値へ変化したことを示している。これはSiナノ粒子の表面上における正に荷電した金属錯体被覆の形成を支持しており、かつ、使用される条件によって、ゼータ電位の全体的な変化は変わる可能性がある。走査型電子顕微鏡法(SEM)での研究はさらに、該被覆がSEM機器で解像するには(解像度<10nm)薄すぎることを示している。金属錯体で活性化されたシリコンナノ粒子の誘導結合プラズマ発光分析法(ICP‐AES)による分析は、スペクトロメータ・サービス株式有限責任会社(Spectrometer Services Pty Ltd )(オーストラリア国ビクトリア州)によって実施された。出発材料の見掛け密度に基づき、金属‐配位子錯体層は、元の金属‐配位子錯体溶液の取込み推定1%に基づいて厚さ<5nmであると推定された。
【0105】
実施例3:金属‐配位子錯体被覆シリコンナノ粒子を使用したコイン電池における金属‐配位子錯体を有するSi負極及び有していないSi負極の製作並びに試験
A. バッテリー用スラリーの調製
金属‐配位子錯体被覆シリコンナノ粒子は実施例2において概説されるようにして調製された。ティムカル・グラファイト・アンド・SuperP導電性カーボンブラック(TIMCAL Graphite and Super P Conductive Carbon Black)は米国のエムティーアイ・コーポレイションから購入され、ポリアクリル酸(PAA)(平均Mw450,000ダルトン)はシグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)から購入された。金属‐配位子錯体被覆シリコンナノ粒子は、磁気撹拌子を備えたサイドアーム付フラスコに移された。金属‐配位子錯体被覆シリコンナノ粒子の乾燥重量と等しい質量のSuperPカーボンが計量されて同じフラスコ内に移された。スラリーはddHO中15%のイソプロパノールを加えることにより15%(w/v)の固形分含量まで希釈された。スラリーのフラスコは加熱された撹拌機上に置かれ、40℃、400rpmで5分間混合された。フラスコは真空下に置かれ、混合がさらに5分間継続された。真空装置は取り除かれ、スラリーはさらに1時間放置混合された。SuperPカーボンの質量の半分に等しい450kDaポリアクリル酸が計量されてスラリーに添加された。スラリーは、40℃、400rpmで一晩放置混合された。これにより、40:40:20(重量%)のSi:Super‐P:PAA比を備えたスラリーが得られた。Si、Super‐P及びPAAの量は調整されて、様々なスラリーの処方が生み出された。
【0106】
B. コイン電池バッテリー中の金属‐配位子錯体被覆Si負極の製作及び試験
Si粒子は、50mMの金属‐配位子錯体濃度を使用し、未反応の金属‐配位子錯体溶液を除去するために2回の洗浄を伴って被覆された。スラリーの混合手順は、先の実施例に記載されているのと同じであり、Si:Super‐P:PAAの比は40:40:20(重量%)に設定された。Siスラリーは電極製作及びコイン電池組み立てのために送られた。Siスラリーは、Si電極を形成するための集電体として使用される銅(Cu)箔の上に鋳造された。Si電極はその後真空下で乾燥され、カレンダ加工され、コイン電池組み立て用に切断された。活物質として被覆されていないSiを備えたSi電極が製作されてコントロールとして使用されたが、これは金属‐配位子錯体被覆Si電極と同様の質量担持量(2.22〜2.37mg/cm)を有していた。リチウム(Li)金属が対向電極として使用され、かつ1M LiPF/EC:DEC:DMC=1:1:1に10%FECを含めたものがコイン電池組み立て用の電解質として使用された。充電/放電サイクル試験については、コイン電池は2サイクルについては0.01C(1C=4,200mAh/g)で活性化され、次に長期間安定度試験については0.5C(1C=4,200mAh/g)でサイクルが繰り返された。Cレートは電極中のSi粒子の質量に基づいた。充電/放電試験用の電圧範囲は0.005〜1.50V vs. Liであった。充電/放電試験は、コンピュータ制御されたニューアー(Neware)のマルチチャネル式バッテリー試験機において行なわれた。各条件について3個の同型の電池が作製及び試験された。
【0107】
表1は、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての充電/放電サイクル試験のデータを概括しており、また図2は、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての長期的なサイクル安定性の比較を示している。データは、金属‐配位子錯体被覆Siがより高い放電容量、より高い充電/放電効率及びより良好な高レート容量維持率を有していたことを示す。サイクル安定性試験は、金属‐配位子錯体被覆Siが優れた長期間安定度を有していたこと、及び金属‐配位子錯体被覆Siの容量は、0.5C(1C=4,200mAh/g)での500回のディープサイクル(100%DOD(放電深度))の後にコントロールの容量よりもなお著しく高かったことを示している。
【0108】
【表1】
実施例4:金属‐配位子錯体を備えかつボールミル粉砕を伴うSi負極の製作及び試験
本実施例は、Siスラリーを混合するための処理を最適化し、かつ金属‐配位子錯体を備えたSi負極の充電/放電サイクル性能に対するボールミル粉砕の効果を調べることを狙いとしている。
【0109】
Si粒子は、上記のように、50mMの金属‐配位子錯体を使用して2回の洗浄を伴って被覆された。スラリーの混合手順は先の実施例に記載されているのと同じであり、Si:Super‐P:PAAの比は40:40:20(重量%)に設定された。ボールミル粉砕は、金属‐配位子錯体を含むSiスラリー及び含まないSiスラリーを処理するために使用された。Si電極を製作してコイン電池を組み立てるための手順は、先の実施例に記載されているのと同じであった。充電/放電サイクル試験については、コイン電池は2サイクルについては0.03C(1C=4200mAh/g)で活性化され、次に長期間安定度試験については0.5C(1C=4,200mAh/g)でサイクルが繰り返された。充電/放電試験についての電圧範囲は0.005〜1.50V vs. Liであった。
【0110】
表2は、金属錯体被覆Si及びコントロールについての充電/放電サイクル試験のデータを概括しており、また図3は、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての長期的なサイクル安定性の比較を示している。データは、Si負極の性能がボールミル粉砕の使用により著しく増強されたこと、並びに金属‐配位子錯体被覆Si(27%大きい質量担持量を伴う)は、放電容量、充電/放電効率及び高レート容量保持率という点でコントロールよりも性能が良かったことを示している。0.5Cでの500回の充電/放電ディープサイクル(100%DOD)の後、金属‐配位子錯体被覆Siの容量はコントロールの容量よりもなお著しく高かった。
【0111】
【表2】
実施例5:マイクロサイズ及びナノサイズの粒子の性能を比較するための、より大きな粒径(1〜3um)を備えたシリコン粒子の使用。
【0112】
本実施例は、より大きなマイクロサイズのシリコン粒子の充電/放電サイクル性能を金属‐配位子錯体を備えたもの及び備えていないものについて比較する。
スラリーの作製、コイン電池の製作、及びコイン電池の試験の手順は、実施例3及び4について説明されたのと同じであった。1〜3umの粒径を備えたマイクロサイズのシリコン粒子は、ユーエス・リサーチ・ナノマテリアルズ(US Research Nanomaterials)から調達され、25mMの金属‐配位子錯体を使用して1回の洗浄を伴って被覆された。表3は、金属‐配位子錯体被覆Si(1〜3um)及びコントロール(1〜3um)についての充電/放電サイクル試験のデータを概括し、また図4は、金属‐配位子錯体被覆Si(1〜3um)及びコントロール(1〜3um)についての長期的なサイクル安定性の比較を示している。データは、金属‐配位子錯体被覆Siが、コントロールよりも、より高い放電容量、より高い充電/放電効率及びより良好な高レート容量維持率を有していたことを示す。サイクル安定性試験は、金属‐配位子錯体被覆Siが良好な安定性を有していたこと、及び金属‐配位子錯体被覆Siの容量は、0.5C(1C=4,200mAh/g)での100回の充電/放電ディープサイクル(100%DOD(放電深度))の後にコントロールの容量よりもなお著しく高かったことを示している。
【0113】
実施例4で使用された100nmのSiナノ粒子と比較して、マイクロサイズ(1〜3um)のSi粒子ははるかに高い初期放電容量及び充電/放電効率を有していた。マイクロサイズのSi粒子はさらに、ナノサイズの粒子と比較して、より低コスト、より容易な取扱い及びより少ない安全上の懸念という有益性を有する。したがって、マイクロサイズのSi粒子は、バッテリー産業における実用化の観点から好ましい。大型のマイクロサイズのSi粒子の使用に伴う大きな課題は、膨張及び安定性の問題の悪化である。本データは、マイクロサイズのSi粒子のサイクル安定性を金属‐配位子錯体被覆の使用により著しく増強させることが可能であることを示した。
【0114】
【表3】
実施例6:金属‐配位子錯体及びSi:Super‐P:PAA=70:20:10のスラリー処方を備えたSi負極の製作及び試験
本実施例は、金属‐配位子錯体を備えたSi負極の充電/放電サイクル性能に対するスラリー処方の変化の効果について調査する。
【0115】
Si粒子は、上記のように、50mMの金属‐配位子錯体を使用して、2回の洗浄を伴って被覆された。スラリー混合手順は実施例4に記載されているのと同じであったがSi:Super‐P:PAAの比は70:20:10(重量%)に調整された。シリコン電極を製作し、コイン電池を組み立てるための手順は、先の実施例に記載されているのと同じであった。充電/放電サイクル試験については、コイン電池は2サイクルについては0.03C(1C=4,200mAh/g)で活性化され、次に長期間安定度試験については0.5C(1C=4,200mAh/g)でサイクルが繰り返された。充電/放電試験のための電圧範囲は0.005〜1.50V vs. Liであった。
【0116】
表4は、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての充電/放電サイクル試験のデータを概括しており、また図5は、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての長期的なサイクル安定性の比較を示している。データは、金属‐配位子錯体被覆Siが、0.03C及び0.5Cのいずれにおいてもコントロールよりはるかに高い初期容量を有しており、該容量は0.5Cで200回を超えるディープサイクル(100%DOD)の後は金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについて同様であったことを示している。これは、スラリーの処方が金属‐配位子錯体を備えたSi負極の性能の最適化において重要な役割を果たしており、かつ性能についてのある程度の制御を可能にすることを示している。
【0117】
【表4】
実施例7:様々な濃度の金属‐配位子錯体被覆Si負極の製作及び試験
本実施例は、Si負極の充電/放電サイクル性能に対する金属‐配位子錯体濃度の効果及び洗浄ステップの必要性について調べる。
【0118】
Si粒子は、それぞれ50mM、25mM及び10mMの様々な濃度の金属‐配位子錯体で被覆された。被覆ステップ後の洗浄ステップの効果についても調査された。50mMの金属‐配位子錯体の実験については、2回の洗浄が、被覆ステップの後に過剰な金属‐配位子錯体を除去するために行なわれた。25mMの金属錯体の実験については、1回洗浄及び無洗浄がそれぞれ行なわれた。10mMの金属‐配位子錯体の実験については、洗浄は行なわれなかった。スラリーの混合手順は先の実施例に記載されているのと同じであり、Si:Super‐P:PAAの比は40:40:20(重量%)に設定された。スラリーは、ボールミル粉砕処理、電極製作及びコイン電池の組み立てのために送られた。Si電極を製作し、コイン電池を組み立てるための手順は、先の実施例に記載されているのと同じであった。充電/放電サイクル試験については、コイン電池は2サイクルについては0.03C(1C=4200mAh/g)で活性化され、次に長期間安定度試験については0.5C(1C=4,200mAh/g)でサイクルが繰り返された。充電/放電試験のための電圧範囲は0.005〜1.50V vs. Liであった。
【0119】
表5は、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての充電/放電サイクル試験のデータを概括しており、また図6は、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての長期的なサイクル安定性の比較を示している。データは、金属‐配位子錯体被覆Si(質量担持量は20〜27%大きい)が、コントロールよりも高い放電容量、より良好な充電/放電効率、より良好な高レート容量維持率、及びより良好な長期的サイクル安定性を有していたことを示している。金属錯体濃度が低下すると、金属‐配位子錯体被覆の有益な効果は低下する傾向があったが、このことは金属‐配位子錯体被覆がSi負極の充電/放電性能を改善するのに有効であることを表わしていた。データはさらに、金属‐配位子錯体濃度及び洗浄ステップの両方がSi負極の性能に対して著しい効果を有していたことも示している。1回の洗浄を伴って25mMの金属錯体で被覆されたSi負極は、2回の洗浄を伴って50mMの金属‐配位子錯体で被覆されたものと同様の0.5Cにおける長期的なサイクル安定性を示したが、25mM/1回洗浄の0.03Cでの放電容量は、50mM/2回洗浄の放電容量よりも著しく低かった。該データは、使用されるスラリー処方にとって最適な被覆条件(濃度、pH及び温度など)が、洗浄ステップの必要をなくすことができると同様にSi負極の性能を最大限にすることができることを示唆している。
【0120】
【表5】
実施例8:様々な充電/放電レートで活性化されたコイン電池のSi負極の製作及び試験
本実施例は、金属‐配位子錯体を備えたSi負極の迅速な活性化又は迅速な充電/放電能力について調査する。
【0121】
Si粒子は、実施例2に記載されているようにして50mMの金属‐配位子錯体を使用して2回の洗浄を伴って被覆された。スラリーの混合手順は実施例3に記載されているのと同じであり、Si:Super‐P:PAAの比は40:40:20(重量%)に設定された。シリコン電極を製作し、コイン電池を組み立てるための手順は、先の実施例に記載されているのと同じであった。充電/放電試験については、コイン電池はそれぞれ0.01C及び0.03C(1C=4200mAh/g)で充電/放電された。充電/放電試験のための電圧範囲は0.005〜1.50V vs. Liであった。金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールの容量及び充電/放電効率は、比較のために2つの異なるレート(0.01C及び0.03C)において得られた。
【0122】
表6は、2つの異なるレート(0.01C及び0.03C)における金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての充電/放電試験のデータを概括している。該データは、金属‐配位子錯体被覆Si(20〜27%高い質量担持量を伴う)が0.01C及び0.03Cのいずれにおいてもコントロールよりも高い放電容量及び良好な充電/放電効率を有していたことを示している。充電/放電レートが0.01Cから0.03Cに高められたとき、金属‐配位子錯体被覆Siの容量維持率はコントロールの58%より著しく高い88%であった。これは、金属‐配位子錯体被覆がSi負極について、より迅速な活性化又はより迅速な充電/放電を可能にすることを示している。
【0123】
【表6】
実施例9:様々な分子量の結合剤を使用するコイン電池のSi負極の製作及び試験
本実施例は、金属‐配位子錯体を備えたSi負極の充電/放電サイクル性能に対する様々な分子量のポリアクリル酸結合剤(100kD及び450kD)の効果を比較する。スラリーの作製、コイン電池の製作、及びコイン電池の試験の手順は、実施例3及び4に示されたのと同じであった。表7のデータは、より高い分子量のPAA結合剤が、放電容量、充電/放電効率及び高レート容量維持率を改善するという点で金属‐配位子錯体とともにより良好に機能したことを示している。より高い分子量を備えたPAA結合剤は、金属‐配位子錯体及びSi粒子両方との結合のための結合部位をより多く有しており、このことが結合剤とSi粒子との間の多重相互作用及び結果としてより強力な結合をもたらす。よって、結合剤の分子量は、ある程度までは、Si粒子の構造を安定させてSi負極の性能を改善する金属‐配位子錯体の効率及び強さに影響を及ぼす。
【0124】
【表7】
実施例10:様々な結合剤を使用するコイン電池のSi負極の製作及び試験
本実施例は、金属‐配位子錯体被覆Si負極の充電/放電サイクル性能に対するポリアクリル酸(PAA)及びポリビニルアルコール(PVA)結合剤の効果を比較する。スラリーの作製、コイン電池の製作、及びコイン電池の試験の手順は、実施例2、3及び4に示されたのと同じであった。表8のデータは、PVA結合剤が、同様の分子量のPAA結合剤と比較して同様又はわずかに良好な充電/放電性能を有していたことを示している。本実施例はさらに、金属‐配位子錯体が様々なポリマー結合剤とともにSi負極の充電/放電性能を改善するように機能することも示している。実施例9及び10から、結合剤の種類及び分子量のいずれの選択も金属‐配位子錯体の使用と積極的に組み合わせて使用可能であることが理解可能である。
【0125】
【表8】
実施例11:様々な順序での金属‐配位子錯体の添加を使用するSi負極の製作及び試験
本実施例は、Si負極の充電/放電サイクル性能に対する様々な順序での金属‐配位子錯体の添加の効果を比較する。スラリーの作製、コイン電池の製作、及びコイン電池の試験の手順は、実施例2、3及び4に示されたのと同じであった。3つの異なる順序での金属‐配位子錯体の添加及び金属‐配位子錯体を含まないコントロールが比較された。Si活性化は、50mM/2回洗浄の金属‐配位子錯体の手順を使用してSi粒子を被覆することにより行なわれ、予混合(Si+SPC)は、最初にSi及びSPC粒子を予混合して次に4mMの金属‐配位子錯体を添加することにより行われ、SPC活性化は、50mM/2回洗浄の金属‐配位子錯体の手順を使用してSPC粒子を被覆することにより実施された。表9のデータは、金属‐配位子錯体を使用して放電容量、充電/放電効率及び高レート容量維持率を改善するという点で最適な性能は、複合材活物質が形成される順序によっても制御可能であることを示している。
【0126】
【表9】
実施例12:様々な金属‐配位子錯体を使用するコイン電池のSi負極の製作及び試験
本実施例では、様々な金属‐配位子錯体中に存在する異なる陰イオン(ClとClO)の影響について調査された。実施例1に記載されるような2つの異なる金属‐配位子錯体(溶液1及び3)が100nmのSi粒子を被覆するために使用され、スラリーの作製、コイン電池の製作及びコイン電池の試験の手順は実施例2及び3に示されたのと同じであった。表10のデータは、CrCl系の金属‐配位子錯体が0.03Cでは放電容量及びクーロン効率の点でCr(ClO系と同様の性能を有し、かついずれもコントロールより良好な性能を示したことを示している。充電/放電レートが0.5Cまで増大した時、Cr(ClO系の金属‐配位子錯体は放電容量及び容量維持率の点でCrCl系よりも良好な性能を示した。これは、金属‐配位子錯体の使用が、負極の性能改善を達成するために、対イオンの選択に応じて変動はあるものの左右されるわけではないことを示している。
【0127】
【表10】
実施例13:コイン電池のSi負極を用いた0.1Cでのより迅速な活性化の試験
充電/放電による活性化/化成は、バッテリー電池の製造における重要なステップである。Si負極に基づくバッテリーでは、Si負極に伴う抵抗が高いためバッテリーの活性化には非常に低い充電/放電レート(0.1C未満)が通常必要とされる。バッテリー製造の観点からすると、より迅速な活性化はバッテリー化成時間を短縮して製造原価を低減することができるので好ましいであろう。
【0128】
本実施例は、0.1Cの充電/放電レートでSi負極に基づくコイン電池を活性化することの実現可能性について調査し、0.1Cでの活性化後の金属‐配位子錯体を伴うSi電池及び伴わないSi電池の0.5Cでのサイクル性能を比較した。スラリーの作製及びコイン電池の製作の手順は、実施例3及び4に示されたのと同じであった。充電/放電サイクル試験については、コイン電池は2サイクルについては0.1C(1C=4,200mAh/g)で活性化され、次に長期間安定度試験については0.5C(1C=4,200mAh/g)でサイクルが繰り返された。Cレートは電極中のSi粒子の質量に基づいた。充電/放電試験のための電圧範囲は0.005〜1.50V vs. Liであった。図7は、0.1Cでの活性化後の、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールについての0.5Cでの長期的なサイクル安定性の比較を示している。0.1Cというより迅速なレートで活性化されたSi負極は、より遅いレート(図3の0.03C)で活性化されたものと同様の性能を示したことが分かる。サイクル安定性試験はさらに、金属‐配位子錯体被覆Siが優れた長期間安定度を有していたこと、及び金属‐配位子錯体被覆Siの容量は、0.5C(1C=4,200mAh/g)で500回のディープサイクル(100%DOD(放電深度))の後にコントロールの容量よりもなお著しく高かったことを示している。
【0129】
実施例14:PVDF/NMPに基づく処理を使用する、コイン電池中の金属‐配位子錯体を備えた金属酸化物正極及び備えていない金属酸化物正極の製作及び試験
金属酸化物正極の性能の安定化に対する金属‐配位子錯体の効果を調査するために、リチウム混合金属酸化物粒子が金属‐配位子錯体で被覆され、電極及びコイン電池が充電/放電サイクル試験のために製作された。
【0130】
リチウム混合金属酸化物粒子は、Li(NiCoMn)O(Ni:Co:Mn=1:1:1)の組成のものが米国のエムティーアイ・コーポレイションから購入された。金属‐配位子錯体で金属酸化物粒子を被覆するための手順は、実施例2‐Aに記載されているのと同じであった。スラリーの混合については、いずれもエムティーアイ・コーポレイションから購入されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)が結合剤として、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)が溶媒として、またsuper‐C45カーボンが電導体として、使用された。酸化物:super‐C45:PVDFの比は85:7:8(重量%)であった。スラリーを混合するための手順は実施例3‐Aに記載されているのと同じであった。
【0131】
金属酸化物スラリーは電極製作及びコイン電池の組み立てのために送られた。該スラリーは、電極を形成するために集電体として使用されたアルミニウム(Al)箔上に鋳造された。鋳造された電極はその後真空下で乾燥され、カレンダ加工され、コイン電池組み立て用に切断された。活物質として被覆されていない金属酸化物を備えた電極が製作されてコントロールとして使用されたが、これは金属‐配位子錯体被覆電極と同様の質量担持量(〜13mg/cm)を有していた。リチウム(Li)金属が対向電極として使用され、かつ1M LiPF/EC:DEC:DMC=1:1:1がコイン電池組み立て用の電解質として使用された。充電/放電サイクル試験については、コイン電池は3サイクルについては0.1C(1C=150mAh/g)で活性化され、次に長期間安定度試験については0.5C(1C=150mAh/g)でサイクルが繰り返された。Cレートは電極中の金属酸化物粒子の質量に基づいた。充電/放電試験のための電圧範囲は2.5〜4.2V vs. Liであった。充電/放電試験は、コンピュータ制御されたニューアー(Neware)のマルチチャネル式バッテリー試験機において行なわれた。各条件について3個の同型の電池が作製及び試験された。
【0132】
図8は、金属‐配位子錯体被覆金属酸化物正極及びコントロールについての長期的なサイクルプロファイルの比較を示す。本実施例では、最初の100〜150サイクルではコントロールが金属‐配位子錯体被覆金属酸化物正極よりもわずかに高い放電容量を有しており、これは恐らくは、より効率的なリチウムイオン拡散のために被覆条件をさらに最適化することによって対処可能であろうとも考えられた。200回のサイクルの後、金属‐配位子錯体被覆正極は、安定性においてコントロールを上回る著しい改善を示し始めた。0.5Cでの450回のディープサイクル(100%のDOD(放電深度))の後、金属‐配位子錯体被覆正極の容量はなおもコントロールの容量より著しく大きかった。金属‐配位子錯体を用いたサイクル安定性における改善は、金属酸化物粒子上の金属‐配位子錯体被覆の結果としての、構造変化の抑制及び金属元素の電解液中への溶解の低減のうちの少なくともいずれか一方における金属‐配位子錯体の効果によると考えられる。
【0133】
実施例15:水性結合剤による処理を使用するコイン電池の金属‐配位子錯体を伴う金属酸化物正極及び伴わない金属酸化物正極の製作及び試験
有機溶媒による処理は、リチウムイオンバッテリー産業において金属酸化物正極を製作するために広く使用されている。しかし費用及び環境へのやさしさの点では、水溶性結合剤を用いた水性処理がはるかに好ましい。本実施例は、金属‐配位子錯体と、正極を製作するための水性結合剤による処理との併用可能性、及び結果として生じる金属酸化物正極の性能の安定化に対する金属‐配位子錯体の効果について調べた。
【0134】
450,000ダルトンの分子量を備えたポリアクリル酸(PAA)はシグマ・アルドリッチから購入され、金属酸化物スラリーを混合するための水性結合剤として使用された。スラリーの作製、コイン電池の製作、及びコイン電池の試験の手順は、実施例14に示されたのと同じであった。表11は、金属‐配位子錯体被覆金属酸化物正極及びコントロールについての充電/放電サイクル試験のデータを概括しており、また図9は、金属‐配位子錯体被覆正極及びコントロールについての長期的なサイクル安定性の比較を示している。該データは、金属‐配位子錯体被覆正極が高い充電/放電レートにおいてより高い放電容量及びより良好な容量維持率を有していたことを示している。サイクル安定性試験は、金属‐配位子錯体被覆正極がコントロールよりも優れた安定度を有していたこと、及び金属‐配位子錯体被覆正極の容量は、0.1C(1C=150mAh/g)で250回のディープサイクル(100%DOD(放電深度))の後にコントロールの容量よりもなお著しく高かったことを示している。
【0135】
【表11】
実施例16:正極として活性炭(AC)を備えたスーパーキャパシタ中のSi負極の製作及び試験
本実施例は、Si負極及び正極として活性炭(AC)を使用したスーパーキャパシタの製作、並びにSi‐ACスーパーキャパシタの電気化学的性能に対する金属‐配位子錯体被覆の効果の調査に関する。
【0136】
Si粒子は、実施例3に記載されているようにして、50mMの金属‐配位子錯体を使用して2回の洗浄を伴って被覆された。スラリー混合の手順は、先の実施例に記載されているのと同じであり、Si:Super‐P:PAAの比は40:40:20(重量%)に設定された。ボールミル粉砕は金属‐配位子錯体を備えたSiスラリー及び備えていないSiスラリーを処理するために使用された。Si電極を製作するための手順は先の実施例に記載されているのと同じであった。90%の活性炭(AC、Norit(登録商標)30)は10%のPVDF結合剤とともに溶媒としてNMPを使用して混合されて正極スラリーが形成され、次いて該スラリーは正極を形成するためにAl箔上で鋳造された。AC電極はその後真空下で乾燥され、カレンダ加工され、コイン電池組み立て用に切断された。Si電極の質量担持量は0.32〜0.76mg/cmに制御され、AC電極の質量担持量は3.69〜8.73mg/cmに制御された。コイン電池を組み立てるために、AC電極が正極として、Siが負極として使用され、かつ1M LiPF/EC:DEC:DMC(1:1:1)に10%FECを含めたものが電解質として使用された。充電/放電サイクル試験については、コイン電池は3サイクルについては0.08A/gの電流密度で活性化されたが、これは負極上及び正極上の両方の活物質の全質量に基づき約2.0Cであった。活性化の後、コイン電池は長期間安定度試験のためにそれぞれ20C及び60Cでサイクルを繰り返された。充電/放電試験のための電圧範囲は2.0〜4.5Vであった。
【0137】
図10及び11は、金属‐配位子錯体被覆Si及びコントロールを備えたSi‐AC電池についての、それぞれ20C(500回サイクル用)及び60C(1,000回サイクル用)での長期的なサイクル安定性の比較を示す。データは、Si‐AC電池の充電/放電サイクル安定性が金属‐配位子錯体被覆Siの使用により著しく増強されたことを示している。20Cでの1000回の充電/放電ディープサイクル(100%DOD)及び60Cでの10,000回の充電/放電ディープサイクル(100%DOD)の後、金属‐配位子錯体被覆Siに基づく電池の容量維持率はコントロールの容量維持率よりも著しく高かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11