特許第6830992号(P6830992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830992
(24)【登録日】2021年1月29日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】基板上に金属ホウ炭化物層を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20210208BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   C23C14/06 K
   F16C33/12 A
【請求項の数】3
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-202423(P2019-202423)
(22)【出願日】2019年11月7日
(62)【分割の表示】特願2015-530317(P2015-530317)の分割
【原出願日】2013年9月9日
(65)【公開番号】特開2020-23754(P2020-23754A)
(43)【公開日】2020年2月13日
【審査請求日】2019年11月11日
(31)【優先権主張番号】102012017809.3
(32)【優先日】2012年9月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507269681
【氏名又は名称】エーリコン・サーフェス・ソリューションズ・アーゲー・プフェフィコン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミリヤム・アーント
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート・リュディゲール
(72)【発明者】
【氏名】ハミド・ボルヴァルディ
(72)【発明者】
【氏名】ヨッヘン・シュナイダー
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−534524(JP,A)
【文献】 特開2010−222655(JP,A)
【文献】 Emmerlich J et al.,A proposal for an unusually stiff and moderately ductile hard coating material: Mo2BC,JOURNAL OF PHYSICS D: APPLIED PHYSICS,2009年 9月 3日,Vol.42,p.185406(6pp)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
F16C 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ結晶金属ホウ炭化物相を少なくとも含む被膜で基板を被覆するためのPVD方法であって、前記PVD方法がHIPIMS法であり、
前記PVD方法において電源をパルス化し、
セラミックス複合物中に金属ホウ炭化物として金属が存在するターゲットを用いてPVD方法を実施し、
金属ホウ炭化物が、一般式MeBC、式中MeはCr、Zr、およびMoからなる群の中の元素、で示される材料であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記HIPIMS法を、100W/cmより大きな電流密度で少なくとも一部に実施することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも前記PVD方法の一部の間に、被覆される基板に負バイアスを印加することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスPVD法を用いた基板上への金属ホウ炭化物層の堆積に関する。好ましくは、カソードからスパッタされた材料が、被膜材料として基板上に気相から堆積される、パルスカソードスパッタリング法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ホウ炭化物材料は、優れた機械特性および化学特性のために、原料物質として利用される。そのために、さまざまな製造方法が知られているが、以降において詳細には記載していない。しかし、これらの材料は製造に関して高価であり、作業に関して問題がある。
【0003】
1つの取り組みとして部品の改良が挙げられ、その基材は、一般的には例えばサーメット、鋼、硬質金属、または高速度鋼などの材料である。このような改良は、金属ホウ炭化物層での被覆を含み得る。したがって、PVD法に立ち戻ることもある。本文脈において、PVDとは物理気相成長を意味するものであり、気相からの堆積を対象とする。Schierは、特許文献1(WO2012/052437)において、スパッタリングPVD法、特にHIPIMS法について記載している。HIPIMSとは、ハイパワーインパルスマグネトロンスパッタリング(High Power Impulse Magnetron Sputtering)を意味するものであり、マグネトロンを利用して高電流密度でカソードからのスパッタリングが実施されるスパッタリング法である。 Schierは、必要とされるプロセスガス流の制御が困難であると考えられているため、スパッタリングは不利であると記載している。Schierが酸化アルミニウムの例に関して述べているように、この問題以外には、被膜の望ましい結晶相の実現に関するものがある。
【0004】
そのため、特許文献1には、そのような層を堆積するためのアーク蒸発法について記載されている。この方法では、アークが発生し、被覆材料用に提供されるいわゆるターゲット上をそのアークスポットが移動することによって、ターゲット材料が蒸発する。ターゲット材料として、少なくとも2つの異なる金属を含むターゲットが使用され、そこでは、最も低い融点を有する金属が少なくとも、セラミックス複合物中に存在する。この方法では、アークPVDにおいてしばしば起こる液滴の発生が抑制される。それにもかかわらず、この方法は完全に上手くいくわけではない。実質的に液滴のないやり方で被覆することが望ましい場合、アークPVD法では、一般的に困難なフィルタ技術が必要であるが、被覆速度を著しく低下させるため多くの場合には経済的でない。
【0005】
今日では、希土類のホウ炭化物は、興味深い超伝導材料として知られている。2000年にドレスデンでのNATOワークショップにおいて発表された非特許文献1“Borocarbide Thin Films and Tunneling Measurement”において、Iavaroneらは、Re−NiC(式中ReはY,Er,Luからなる群の中の元素を意味する)を製造するための方法としてマグネトロンスパッタリングを記載している。そこでは、スパッタリング法は約800℃で適用され、ディアマンテ基板を使用しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/052437号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Borocarbide Thin Films and Tunneling Measurement,Iavarone,NATOワークショップ,2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、基板上に金属ホウ炭化物の層を、中程度の温度で経済的に堆積することを可能にする方法であって、層が、好ましくは所望のマイクロおよび/またはナノ結晶相を、少なくとも実質的な部分に含む、方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の目的は、上記方法を提供することにある。
【0010】
本発明によると、対象の目的は、パルスPVD法を適用することによって達成される。アークPVD法では、パルス化によってプロセス安定性が高まり、液滴の形成が著しく低減する。スパッタリングでは、イオン化の程度が、従来のスパッタリングと比較して著しく高まる。本願発明者らは、パルス化によって、600℃未満の基板温度で驚くほど金属ホウ炭化物のマイクロ結晶相が形成されることを確認した。これは、金属がセラミックス複合物中に存在するターゲットが使用される場合に、100W/cm以下の適度な電流密度がもたらされるパルス化スパッタ電源でのケースである。
【0011】
それにもかかわらず、好ましくは、ターゲット表面で100W/cmより大きな電流密度が適用される、いわゆるHIPIMS技術が使用される。このような電流密度は、ターゲットを過度に加熱しすぎないように、パルスとともに適用される。HIPIMS法を使用することによって、金属ホウ炭化物の結晶相は、金属がセラミックス複合物の形態以外で存在するターゲットからも確認されることを発明者らは認識している。好ましくは、またHIPIMS法を使用した場合、セラミックス複合物中に、特に金属ホウ炭化物として金属が存在するターゲットからスパッタされる。
【0012】
本発明の特に好ましい実施形態によると、HIPIMS工程の間、基板に負バイアスが印加される。このバイアスは、−30Vから−400Vの間であり、その他の考慮事項を除いた絶対値の上限は、バイアス値の増加にともなう基板表面の温度によって決定され、それは加速されたイオンに起因し、またはエネルギー帰属を増加させる。
【0013】
600℃未満でマイクロ結晶相が形成されることによって、本発明による方法は、高温(>600℃)を維持できるように被覆プラントを実現するために、追加の技術的手段を予測する必要がないため、経済産業的な方法で利用され得る。特に、本方法は、それ自体は高温にさらされない被覆基板の場合において特に有利に利用され得る。周知の例は、HSS鋼である。
【0014】
金属ホウ炭化物材料の群の中で、それらは特に関心をあつめており、半金属(メタロイド)で形成される。超伝導材料では、それらの金属ホウ炭化物は、少なくとも1つの希土類元素が存在する点で興味深い。摩耗保護を提供する、かつ/または低い摩擦値を有する表面をもたらす、改良された応用では、遷移金属、特にTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群の中の元素のホウ炭化物が特に適当なものとして挙げられる。好ましくは、Mo、Zr、および/またはCrが使用される。このような改良処理は、滑るような面を有する自動車技術の道具および部品に特に、有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】さまざまな基板温度で被覆した表面のX線回折スペクトル(2θ)を示す。
図2】パルス電源を使用した場合の比較を示すX線回折スペクトルを示す。
図3】HIPIMSを適用した場合の比較を示すX線回折スペクトルを示す。
図4】類似の基板温度における異なる手法でのX線解説スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、MoBCに関して、図面を参照して本発明を、詳細に例示および説明する。
【0017】
まず初めに、比較の目的で、小さな被覆チャンバにおいて、DCスパッタリングによってMoBCを堆積した。被覆パラメータは以下のとおりである。
【0018】
【表1】
【0019】
基板温度の効果、粗度、および硬度、ならびに弾性係数を検討する。
【0020】
被膜は、さまざまな温度で適用した。図1は、300℃、450℃、550℃、650℃、および700℃の基板温度で被覆した表面のX線回折スペクトル(2θ)をそれぞれ示す。600℃を超えた場合のみに結晶相が存在することが考えられることが明らかである。550℃未満では、非晶質またはナノ結晶相が存在している。基板温度の低下に伴って弾性係数および硬度が増加する。
【0021】
逆に、図2における比較が示すように、パルス電源を使用して堆積した場合、580℃で既に実質的なピークが測定された。適用した方法は、パルスマグネトロンスパッタリングであった。パルス時にプラズマ密度が増加し、イオン衝撃の増加および吸着原子の移動度の増加により相転移の程度が増加する。
【0022】
図3によって明確に示されるように、HIPIMSを適用した場合、580℃の基板温度で既に結晶相が優勢である。本文脈において、HPPMSおよびHIPIMSは、同一の技術を指す。この場合に、最も高い結晶化度および組織化された構造がもたらされる。図4には、類似の基板温度(560℃から580℃)で異なる手法でのX線スペクトルを示す。HIPIMS被覆は、2つの異なる商業利用可能なソースを利用して実施した。鋼基板を被覆する場合、同一の温度挙動が現れる。したがって、この場合基板の選択は影響を及ぼさない。
【0023】
600℃未満の基板温度では、基板に−100Vのバイアスを印加しても非パルスDCスパッタリングでの相形成に対して著しい効果はない。逆に、HIPIMS技術を適用し、同時に例えば−100Vの負バイアスを基板に印加した場合、少なくとも480℃の基板温度でMoBCの結晶相が現れる。
【0024】
マイクロ結晶金属ホウ炭化物相を少なくとも含む層で基板を被覆するPVD方法が記載されており、該方法は、600℃未満の基板温度で堆積された層のX線スペクトルにおいて、金属ホウ炭化物のマイクロ結晶相が存在するという結論が得られる半値幅を有する少なくとも1つのピークが特定されるように、PVDプロセスにおいて電源をパルス化することを特徴とする。
【0025】
本方法は、パルスアークPVD法であり得るが、好ましくは、パルススパッタリング法であり得る。
【0026】
本発明によるスパッタリング法は、HIPIMS法として100W/cmより大きな電流密度で少なくとも一部に実施され得る。
【0027】
本発明によるPVD法は、金属が、セラミックス複合物の形態で、例えば金属ホウ炭化物として存在するターゲットを用いて実施され得る。
【0028】
本発明の方法では、金属ホウ炭化物は、一般式MeBC(式中MeはCr、Zr、およびMoからなる群の中の元素である)で示される材料とすることができる。
【0029】
本方法は、2θX線スペクトルにおいて20°から70°で、ナノ結晶および/または非晶質相の存在が示唆される、測定値の最大振幅に対して少なくとも二倍の振幅を少なくとも1つのピークが有するように実現され得る。このことは、図に示されるように、例えばHIPIMS法でそれぞれ選択された基板のバイアスによって成し遂げられ得る。
【0030】
新規な本方法を利用することによって、被膜のX線スペクトルにおいて、金属ホウ炭化物のマイクロ結晶相の存在を示唆する半値幅を有する少なくとも1つのピークが特定される、金属ホウ炭化物被膜が製造され得る。金属ホウ炭化物は、一般式MeBC(式中、MeはCr、Zr、およびMoからなる群の中の元素である)で示される材料とすることができる。
図1
図2
図3
図4