(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831006
(24)【登録日】2021年1月29日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】荷電粒子を検出するためのデバイス及び、それを組み込んだ質量分析用の装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/26 20060101AFI20210208BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20210208BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20210208BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20210208BHJP
【FI】
H01J49/26
H01J49/42
H01J49/02 500
G01N27/62 E
【請求項の数】18
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-511822(P2019-511822)
(86)(22)【出願日】2017年5月9日
(65)【公表番号】特表2019-516230(P2019-516230A)
(43)【公表日】2019年6月13日
(86)【国際出願番号】US2017031785
(87)【国際公開番号】WO2017196863
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2018年11月9日
(31)【優先権主張番号】62/334,126
(32)【優先日】2016年5月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514119269
【氏名又は名称】譜光儀器股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ACROMASS TECHNOLOGIES,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フン−リアン・シエ
(72)【発明者】
【氏名】チュン−イェン・チェン
(72)【発明者】
【氏名】イ−クン・リ
(72)【発明者】
【氏名】チー−シャン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リアン−チュン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ−シン・ツェン
(72)【発明者】
【氏名】ツ−ウェイ・チョウ
【審査官】
大門 清
(56)【参考文献】
【文献】
特表2000−508823(JP,A)
【文献】
特表2013−518370(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0137307(US,A1)
【文献】
特表2011−507194(JP,A)
【文献】
特表2016−506521(JP,A)
【文献】
特表2011−506994(JP,A)
【文献】
特開2011−139024(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102771194(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H01J 40/00−49/48
G01N 27/62
H01J 37/00
H01J 37/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を検出するためのデバイスであって、
基板と、
前記基板の第1の側に設置される、金属導電材料から形成される電荷検出板と、
前記電荷検出板に電気的に接続されると共に、前記基板における前記第1の側とは非同一平面にある第2の側に設置される集積回路ユニットと、
干渉遮蔽ユニットと、
を備え、
前記干渉遮蔽ユニットは、前記電荷検出板への前記荷電粒子による該干渉遮蔽ユニットの外側からの衝突を可能にさせるように、前記電荷検出板及び前記集積回路ユニットを実質的に取り囲んでおり、
前記第2の側に設置された前記集積回路ユニットは、前記第1の側に設置された前記電荷検出板とは非同一平面に位置することで、該集積回路ユニットへの前記荷電粒子による干渉を防止し、
前記基板は、第1のレイヤーと第2のレイヤーと第3のレイヤーが所定の順に積層する3層構造を有し、
前記第1のレイヤーは、前記第2のレイヤーの一部の表面を露出させる部分を有し、
前記電荷検出板は、前記第2のレイヤーの前記一部の前記表面に設置されており、
前記集積回路ユニットは、前記第3のレイヤーにおける前記第2のレイヤーとは反対の表面に設置されている、デバイス。
【請求項2】
前記干渉遮蔽ユニットは、ファラデーケージと、前記ファラデーケージに接続されるメッシュと、を具えている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記ファラデーケージは、前記基板の前記第1の側及び前記第2の側を実質的に覆うと共に、2つの開口を有し、
各前記開口は、前記電荷検出板と前記集積回路ユニットとにそれぞれ位置的に対応して、該電荷検出板と該集積回路ユニットをそれぞれ露出させる、
請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記メッシュは、前記ファラデーケージにおける、前記電荷検出板と位置的に対応して、前記電荷検出板への前記荷電粒子による前記干渉遮蔽ユニットの外側からの衝突を可能にさせる1つの前記開口を覆う、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記干渉遮蔽ユニットは、前記ファラデーケージに接続されると共に、前記ファラデーケージにおける、前記集積回路ユニットと位置的に対応する1つの前記開口を覆う伝導シートを更に具えている、請求項3に記載のデバイス。
【請求項6】
前記デバイスは、前記電荷検出板への前記荷電粒子による前記干渉遮蔽ユニットの外側からの衝突を可能にさせ、且つ前記集積回路ユニットによる信号の出力を可能にさせるように、前記基板と前記電荷検出板と前記ファラデーケージを実質的に取り囲む伝導アウターハウジングを更に備え、
前記伝導アウターハウジングにおける前記集積回路ユニットと位置的に対応する部分は、前記干渉遮蔽ユニットの一部として前記ファラデーケージに接続されている、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項7】
前記伝導アウターハウジングは、前記電荷検出板と位置的に対応する穴を有し、
前記メッシュは、前記伝導アウターハウジングに設けられて前記穴を覆う、
請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記デバイスは、前記ファラデーケージの大部分を覆う絶縁レイヤーを更に備えており、
前記メッシュは、前記ファラデーケージにおける前記絶縁レイヤーに覆われていない部分と接触するよう設置されている、
請求項2に記載のデバイス。
【請求項9】
前記基板は、窪み部分を有し、
前記電荷検出板は、前記窪み部分に設置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記第1の側と前記第2の側は、互いに反対の側であり、
前記第2の側に設置された前記集積回路ユニットは、前記第1の側に設置された前記電荷検出板とは反対になることで、前記集積回路ユニットへの前記荷電粒子による干渉を防止する、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記干渉遮蔽ユニットと前記集積回路ユニットは、独立接地経路を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記集積回路ユニットは、電流電圧変換器と、電圧増幅器とを具えている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記電荷検出板は、略5mm〜20mmの範囲の半径を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記電荷検出板は、該電荷検出板から略10mm〜50mmの範囲内の入射荷電粒子のイメージ電流を伝導できる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
質量分析用の装置であって、
イオン源からのイオンを受けて、選択されたイオンを出力するための質量分析器と、
前記選択されたイオンを前記荷電粒子として受ける請求項1に記載のデバイスと、
を備えている装置。
【請求項16】
前記質量分析器は、四重極イオントラップ及び線形イオントラップのいずれか一方である、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記デバイスの前記電荷検出板は、電荷増幅せずに作動することを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記デバイスの前記電荷検出板は、該電荷検出板から略10mm〜50mmの範囲離れている、前記質量分析器からの入射荷電粒子のイメージ電流を伝導できる、ことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願の相互参照)
本出願は、2016年5月10日に出願された米国仮特許出願第62/334126号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、荷電粒子を感知且つ検出するデバイス及び、それを組み込んだ質量分析用の装置に関する。
【背景技術】
【0003】
荷電粒子検出器は、例えば、イオン、もしくは電子の検出など、様々な応用需要において使用されている。1つの応用は質量分析である。質量分析計は、荷電粒子をその質量電荷比に基づいて分離して分析することに広く使われている。そして、多くの異なる種類の質量分析計と荷電粒子が知られている。
【0004】
荷電粒子を検出するための第1の従来の荷電粒子検出器は、ディスクリートダイノード型、もしくは連続ダイノード型電子倍増管(例えばマイクロチャンネルプレート(MCP))などの電子倍増管を備えており、該電子倍増管は、通常では10
6のスケールにおいて、電荷増幅をなすべく、“二次電子放出”と呼ばれる物理現象を利用する。しかし、二次電子放出は入って来る荷電粒子の速度に強くかかっていることで、該第1の従来の荷電粒子検出器は、通常では二次電子放出を発生させるにはあまりに遅速である大きい生体分子の混合物の質量分析には不向きである。
【0005】
イオンコレクターと呼ばれる、第2の従来の荷電粒子検出器、例えばファラデーカップは、大きいDNA断片、もしくは完全なウイルスの荷電検出用の質量分析計に使用されている。しかし、該第2の従来の荷電粒子検出器に関連する電子雑音によって、細胞または微小粒子の直接な電荷測定は実行が困難となる。
【0006】
第3の従来の荷電粒子検出器は、米国特許第8963075号に記載されているように、電磁場伝導の原理に基いたものである。該第3の従来の荷電粒子検出器は、例えば、一粒子ごと一万電荷となるようなDNA断片またはウイルスなどの、高荷電の大粒子の質量分析には適しているが、入ってくる荷電粒子に大量の小荷電粒子(イオン雲)が混ざっている場合、結果値には望まざる減衰/残留影響が出ることで、該第3の従来の荷電粒子検出器では精確な検出結果を出せない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第8963075号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、従来技術の少なくとも1つの欠点を改良できる、荷電粒子を検出するためのデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る1つの態様によれば、荷電粒子を検出するためのデバイスは、基板と、電荷検出板と、集積回路ユニットと、干渉遮蔽ユニットとを備える。前記電荷検出板は、前記基板の第1の側に設置される。前記集積回路ユニットは、前記電荷検出板に電気的に接続されると共に、前記基板における前記第1の側とは非同一平面にある第2の側に設置される。前記干渉遮蔽ユニットは、前記電荷検出板への前記荷電粒子による該干渉遮蔽ユニットの外側からの衝突を可能にさせるように、前記電荷検出板及び前記集積回路ユニットを実質的に取り囲む。前記第2の側に設置された前記集積回路ユニットは、前記第1の側に設置された前記電荷検出板とは非同一平面に位置することで、該集積回路ユニットへの前記荷電粒子による干渉を防止する。
【0010】
本発明に係る他の態様によれば、質量分析用の装置であって、イオン源からのイオンを受けて、選択されたイオンを出力するための質量分析器と、前記選択されたイオンを前記荷電粒子として受ける前述のデバイスと、を備えている装置が提供される。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照する以下の実施形態の詳細な説明において明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本開示に係る荷電粒子を検出するためのデバイスの実施形態の概要分解斜視図である。
【
図1B】
図1Aに示される前記デバイスの実施形態の概要組立斜視図である。
【
図2A】
図1Aに示される前記デバイスの実施形態の概要断面図である。
【
図2B】本開示に係る荷電粒子を検出するための前記デバイスの実施形態の概要断面図である。
【
図3】本開示に係る荷電粒子を検出するための前記デバイスの実施形態における、基板と、電荷検出板と、集積回路ユニットと、ファラデーケージと、絶縁レイヤーとの組立例の概要上面図である。
【
図5】本開示に係る荷電粒子を検出するための前記デバイスおける、前記集積回路ユニットの実装例を示す回路図である。
【
図6】前記集積回路ユニットの出力におけるホワイトノイズを示すグラフ表示である。
【
図7】本開示に係る荷電粒子を検出するための前記デバイスを組み込んだ、質量分析用の装置の実施形態を示す模式図である。
【
図8】本開示に係る質量分析用の装置の実施形態を用いて取得したADH及びCytoCの質量スペクトル例のグラフ表示である。
【
図9】本開示に係る質量分析用の装置の実施形態を用いて取得した崩壊CytoC分子のグラフ表示である。
【
図10】本開示に係る質量分析用の装置の実施形態を用いて取得したIgGのグラフ表示である。
【
図11】本開示に係る質量分析用の装置の実施形態を用いて取得したIgMのグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここでは、“荷電粒子”とは、電荷を帯びた粒子を指す。例えば、陽子に対して、余剰な電子を帯びた、もしくは電子が欠けた分子または原子といったイオンであってもよい。電子と陽子自体、または陽電子のような他の素粒子でもよい。
【0014】
本発明をより詳細に説明する前に、適切と考えられる場合において、符号又は符号の末端部は、同様の特性を有し得る対応の又は類似の要素を示すために各図面間で繰り返し用いられることに留意されたい。
【0015】
ここでは、“RC回路”または“RCネットワーク”とは、抵抗器・コンデンサの回路または抵抗器・コンデンサのネットワークを指し、そして、同様に、“CR回路”または“CRネットワーク”とは、コンデンサ・抵抗器の回路またはコンデンサ・抵抗器のネットワークを指す。それは、電圧源または電流源により駆動される、抵抗器とコンデンサからなる電子回路である。
【0016】
図1A、
図1B、
図2A、
図3と
図4を参照すると、本開示に係る荷電粒子を検出するためのデバイス1の実施形態は、基板10と、電荷検出板11と、集積回路ユニット12と、干渉遮蔽ユニット13と、を備えている。電荷検出板11は、基板10の第1の側101に設置されて飛来する荷電粒子(図示せず)に面する。集積回路ユニット12は、電荷検出板11に電気的に接続されると共に、基板10における第2の側102に設置されており、第2の側102は、第1の側101とは非同一平面にある。干渉遮蔽ユニット13は、電荷検出板11への前記荷電粒子による該干渉遮蔽ユニット13の外側からの衝突を可能にさせるように、且つ、集積回路ユニット12による信号の出力を可能にさせるように取り付けられ、そして電荷検出板11及び集積回路ユニット12を実質的に取り囲んでいる。
【0017】
基板10の第2の側102に設置された、集積回路ユニット12は、そのために基板10の第1の側101に設置された電荷検出板11とは非同一平面に位置することで、飛来する前記荷電粒子による集積回路ユニット12への干渉(例えば電磁妨害)を防止する。
【0018】
特定の実施形態において、電荷検出板11としては、例えば金属などの伝導材料により作成される。1つの実施形態において、電荷検出板11は、銅板であり、イメージ電荷/電流伝導板として機能し、近付いたイオンなどの荷電粒子を直接に感知する。
【0019】
1つの実施形態において、基板10の第1の側101と第2の側102は、互いに反対の側である。例えば、第1の側101と第2の側102はそれぞれ、
図2Aに示されているデバイス1の方位における上側と下側であってもよい。なお、本開示全文において使用された“上”や“下”などの方向的用語は、絶対的な方向を意味するものではなく、単に図面を参照する際に説明を省略するため、通常感覚に基づいて使われたものであることに留意されたい。このような構造において、基板10の第2の側102に設置された集積回路ユニット12は、そのために基板10の第1の側101に設置された電荷検出板11とは反対になることで、飛来する前記荷電粒子による集積回路ユニット12への干渉(例えば電磁妨害)を防止する。
【0020】
概して、干渉遮蔽ユニット13は、隔絶金属筐体であって、外部の電磁場を遮断し、無線周波(RF)妨害などの電磁妨害からデバイス1内の部材を守るよう機能する。
【0021】
1つの実施形態において、干渉遮蔽ユニット13は、ファラデーケージ131と、該ファラデーケージ131に接続されるメッシュ132と、を具えている。
図2Aに示されるように、ファラデーケージ131は、基板10の第1の側101及び第2の側102を実質的に覆うよう構成されると共に、2つの開口1311、1312を有する。各開口1311、1312は、電荷検出板11と集積回路ユニット12とにそれぞれ位置的に対応して、該電荷検出板11と該集積回路ユニット12をそれぞれ露出させる。メッシュ132は、ファラデーケージ131における電荷検出板11と位置的に対応する開口1311を覆うと共に、該電荷検出板11への前記荷電粒子による干渉遮蔽ユニット13の外側からの衝突を可能にさせるよう構成されている。1つの実装において、ファラデーケージ131は、中実な金属材で作成されたものであるが、本開示の他の実施形態において、ファラデーケージ131は、メッシュ構造を有してもよい。
【0022】
ファラデーケージ131とメッシュ132とを具えた干渉遮蔽ユニット13は、基板10と電荷検出板11及び集積回路ユニット12を取り囲むよう使われ、望まざる(不要な)外部の電子妨害を遮断することで、デバイス1による荷電粒子に対する検出感度を向上する。
【0023】
本開示の1つの実施形態によれば、干渉遮蔽ユニット13は、ファラデーケージ131に接続されると共に、該ファラデーケージ131における、集積回路ユニット12と位置的に対応する開口1312を覆う伝導シート133(
図2Bに参照)を更に具えている。伝導シート133としては、例えば銅テープが用いられる。
【0024】
本開示の1つの実施形態において、デバイス1は、電荷検出板11への前記荷電粒子による干渉遮蔽ユニット13の外側からの衝突を可能にさせ、且つ集積回路ユニット12による信号の出力を可能にさせるように、基板10と電荷検出板11とファラデーケージ131を実質的に取り囲む伝導アウターハウジング14を更に備えている。
【0025】
1つの実施形態おいては、
図1Aに示されるように、伝導アウターハウジング14は、保持部材141とカバー部材142が、例えば、ねじ締め具により互いに接続されて組み立てられたものである。保持部材141は、基板10と、電荷検出板11と、集積回路ユニット12と、ファラデーケージ131とを保持するための保持空間を画成している。
【0026】
伝導アウターハウジング14は、電荷検出板11と位置的に対応する穴143を有し、そしてメッシュ132は、伝導アウターハウジング14に設けられて穴143を覆っている。
図1Aに示されている実施例において、穴143は保持部材141内に形成されている。
【0027】
本開示の一部の実施形態において、伝導アウターハウジング14における集積回路ユニット12と位置的に対応する部分は、上記の伝導シート133の代わりに、干渉遮蔽ユニット13の一部としてファラデーケージ131に接続されてもよい。
図1A、
図1B及び
図2Aにおけるカバー部材142は、伝導アウターハウジング14における干渉遮蔽ユニット13の一部として機能する部分の一例ともなる。なお、本実施形態において、カバー部材142は、同様にファラデーケージ131と接触するよう設置された、メッシュ132が設けられた保持部材141に接続されていることにより、ファラデーケージ131に伝導可能に接続されている。
【0028】
干渉遮蔽ユニット13が提供されることにより、放射された電磁エネルギーのデバイス1内での望まざるカップリングは防止され、もしくは最小限に抑えられる。干渉遮蔽ユニット13は、金属のバリアに形成され、放射源とデバイス1との間の電磁波の経路に挿入されている。電磁エネルギーが、確立された遮蔽を貫通することを防止するためには、干渉遮蔽ユニット13の外表面は接地する必要がある。ケーブルシールディング及び接地の設計は、電磁妨害の軽減において重要である。
【0029】
ファラデーケージ131と、メッシュ132と、伝導シート133(もしくは伝導アウターハウジング14の前記部分)とが伝導可能に交互接続されていることで、干渉遮蔽ユニット13は一体となって独立接地経路134(
図2Bに参照)へ電気的に伝導する。この接地経路134は、集積回路ユニット12のための信号接地経路121から隔絶されている。
図2Bに示されている等価インダクタが接地経路134、121を交互接続するのは、両接地経路134、121が互いから隔絶されていることを指していると、当業者には理解されたい。これは、放射電磁エネルギーの望まざるカップリングを回避、もしくは最小限に抑えることに有利であり、よってデバイス1の検出限度をより高く設定できるようになる。
【0030】
1つの実施形態において、基板10に窪み部分103を設け、そして電荷検出板11を該窪み部分103に設置してもよい。基板10は、少なくとも1つのレイヤーを有する。窪み部分103の1つの実施方法が、具体的な参照図として
図2Bに示されており、そこで基板10は第1のレイヤー104と第2のレイヤー105と第3のレイヤー106が所定の順に積層する3層構造を有するものとして示されている。第1のレイヤー104は、第2のレイヤー105の一部の表面を露出させる部分を有し、そして電荷検出板11は、第2のレイヤー105の前記一部の表面に設置されており、一方、集積回路ユニット12は、第3のレイヤー106における第2のレイヤー105とは反対の表面に設置されている。一部の実施形態において、基板10はプリント基板であってもよい。なお、図面の明瞭さを考慮して、基板10における第1のレイヤー104と第2のレイヤー105と第3のレイヤー106を示す区分線は省略されている。
【0031】
製造の観点から、1つの実施形態において、本開示のデバイス1は、例えば、4つの印刷回路レイヤーで作成され、そのうち、第1のレイヤーが第1の側101を構成し、第2のレイヤーと第3のレイヤーとが共に基板10を構成し、第4のレイヤーが第2の側102を構成するようにしてもよい。一方、金属メッシュはイオン入り口として上部中央に位置し、プリント銅箔は基板10の上部と側面とを覆い、且つ底部のほぼ全体を覆う。
【0032】
実用上、デバイス1は、ファラデーケージ131の大部分を覆う絶縁レイヤー15を更に備えており、そしてメッシュ132は、ファラデーケージ131における絶縁レイヤー15に覆われていない部分と接触するよう設置されてもよい。
【0033】
1つの実施形態において、電荷検出板11は、略5mm〜20mmの範囲の半径を有する円形に形成され、そして基盤10に対して中央に設置されてもよい。そのため、ファラデーケージ131の開口1311と、メッシュ132と、伝導アウターハウジング14の穴143とは、全て電荷検出板11と一直線に並んで、そして、全て基板10(一部の実施形態ではデバイス1全体)に対して中央に位置する。このような構造では、穴143にメッシュ132が設けられた伝導アウターハウジング14と、デバイス1の残りの部分との組立が完了すると、絶縁レイヤー15は、露出してメッシュ132と接触しているファラデーケージ131の接触部(
図3を参照)を除いて、該ファラデーケージ131をほぼ完全に覆うようになる。ファラデーケージ131の前記接触部は、外半径が電荷検出板11の半径よりやや大きいリングに形成されてもよい。
【0034】
本開示の荷電粒子を検出するためのデバイス1の上記各種構造構成により、それぞれの検出においては、荷電粒子を直接感知して検出可能であり且つ検出感度が強化された電荷検出板11にイオンなどの荷電粒子が衝突することで検出が果たされる。更に、検出器に従来の電荷増幅器を付けることを必要とせずに、デバイス1を用いて迅速且つ直接に荷電粒子の電荷数を計測することができる。
【0035】
図5は、デバイス1の集積回路12の実施例を示す。集積回路ユニット12は、入力した電流をその電流を表す電圧に変換する電流電圧変換IC122と、電圧増幅器とを具えており、該電圧増幅器としては、ここではCR−RC−CRネットワーク123で例示され、そしてパルス整形回路は、より速いエッジ速度で受けたパルスを変換する。
【0036】
電荷検出板11に誘導され、もしくは届いた電流は、公称値1ピコファラッドのコンデンサ(C
0)に蓄積し、同時に電圧は並列の10ギガオーム抵抗器(R
0)にかかる。第1のエレクトロニクスステージ(電流電圧変換IC122)から出てきた、変換されたパルス(V
1)は、それからCR−RC−CRネットワーク123により整形されて、狭いパルス幅の結果値が出る。
【0037】
図6は、抵抗器(R
0)による熱雑音と、CR−RC−CRネットワーク123の雑音除去とにより定まる、集積ユニット12の検出限度を示す。ノイズフロアは、5.5mVのピークピーク値を計測する。
一部の実施形態において、本開示のデバイス1は、質量分析等において、荷電粒子の感知及び検出のために使用されることができる。例えば、デバイス1は、質量分析用の装置2に用いられ、電荷増幅器の実装なしで、荷電粒子を直接感知し、検出してもよい。一例として、デバイス1は、質量分析器を更に備える質量分析用の装置2に適用されてもよく、そのうち、電荷検出板11は、該電荷検出板から約10mm〜50mm離れた範囲内の入射荷電粒子のイメージ電流を伝導できる(即ち飛来する荷電粒子を提供する前記質量分析器の出力であり、該質量分析器は、前記範囲内に設置されてもよい)。ここで、約10mm〜50mmの前記範囲は単に1つの具体例として提供されたものであり、本開示は、前記質量分析器と電荷検出板11との間の距離に制限されず、即ち、本開示の一部の実施形態において前記質量分析器は、電荷検出板11からの距離が10mm以下となるよう設置されてもよく、電荷検出板11からの距離が50mm以上となるよう設置されてもよいことに留意されたい。
【0038】
一部の実施形態において、デバイス1に加えて、質量分析用の装置2は、質量分析器22を更に備えている。質量分析器22は、一部の実施形態においては装置2の一部となるイオン源21(ion Source)からのイオンを受けて、選択されたイオンを出力するために適用する。例えば、イオン源21は、被検物質(即ち分析する材料)(図示せず)をイオン化して、イオン化された被検物質の粒子を生成し、そして質量分析器22は、m/z比率の走査(scanning)範囲に基づいて、選択されたイオンをデバイス1用の入射荷電粒子として出力する。
【0039】
一部の実施形態において、質量分析用の装置2は、四重極イオントラップ質量分析計であり、そこで四重極イオントラップ(QIT)は
図7に示されるよう質量分析器22として機能する。一部の実施形態において、質量分析用の装置2は、線形イオントラップ質量分析計であり、そこで質量分析器22は線形イオントラップ(図示せず)として実施される。一部の実施形態において、質量分析器22は、四重極質量分析器、もしくは磁気セクター質量分析器であってもよい。
【0040】
図7に示されている、四重極イオントラップ質量分析計の作業の詳細な説明については、以下通りである。図示例において、荷電粒子を検出するためのデバイス1は、四重極イオントラップ22に結合されて、その四重極イオントラップ22から射出された荷電粒子における電荷の総数を検出する。
【0041】
分子イオンは、まず四重極イオントラップ22内に誘導されて、その内部に閉じ込められる。次に、各前記イオンは、それぞれの質量対電荷比に基づいて、四重極イオントラップ22に走査され出てきて、本開示の荷電粒子を検出するためのデバイス1へ直行する。イオンがデバイス1のメッシュ132に近付いてくる度に、電荷検出板11はそれらのイオンのイメージ電流をすぐに伝導する。それぞれの検出は、イオンが最終的に電荷検出板11に衝突することで完成され、そしてそのイメージ電荷を消去する。被検物質における電荷の総数(Z)は、デバイス1により検出できる。
【0042】
荷電粒子を検出するためのデバイス1、及び、そのデバイス1を組み込んだ質量分析用の装置2は、小荷電粒子及び大荷電粒子両方の検出において有用であり、そのうち、前記大荷電粒子は、例えば、たんぱく質、抗体、たんぱく質複合体、たんぱく複合体、核酸、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、多糖、及びその他の多種の生体分子であり、飛来する粒子における電荷の総数が約200を超えればよい。よって、本開示のデバイス1と装置2は、中でも、分子量と、たんぱく消化の産物と、プロテオーム解析と、メタボロミクスと、ペプチド配列との特定において有用であり、そして高い検出効率及び分解能を発揮する。
【0043】
一部の実施形態において、荷電粒子を検出するためのデバイス1、及び、そのデバイス1を組み込んだ質量分析用の装置2は、たんぱく質と、細胞小器官と、細胞との研究に使用されて、中でも、分子量と、たんぱく消化の産物と、プロテオーム解析と、メタボロミクスと、ペプチド配列とを特定することができる。
【0044】
本開示の装置2を用いて取得する質量スペクトルは、約50ナノミートル、またはそれ以上の大きさを持つナノ粒子、ウイルス、もしくは他の生物学的要素及び細胞小器官の質量スペクトルであり得る。
【0045】
一部の変化例において、本開示の装置2を用いて取得する質量スペクトルは、小分子イオンの質量スペクトルである。
【0046】
質量分析用の装置2は、少なくとも1つの周波数走査サブシステムと、任意に少なくとも1つの真空ポンプと、を更に備えてもよい。
【0047】
図8は、本開示のデバイス1を備えた3次元(3D)の四重極イオントラップ質量分析計を用いて取得したアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)(単量体)(M.W.(molecular weight分子量)〜46kDa、単荷電及び二重荷電、)の質量スペクトル、及び、シトクロムC(CytoC)(単量体)(M.W.〜12.5kDa)の多量体(例えば、二量体、三量体、四量体)の質量スペクトルと、を示しており、そこでADHとCytoCとは反対の電荷を持つ。本開示の荷電粒子を検出するためのデバイス1は、10kDaの質量範囲内のイオンを検出でき、そして正の電荷と負の電荷両方を判別できることは明らかである。よって、本開示の荷電粒子を検出するためのデバイス1を組み込んだ質量分析用の装置2は、大生体分子の質量スペクトルの取得への応用に適している。
【0048】
本開示のデバイス1を備えた、3次元(3D)の四重極イオントラップ質量分析計を使用して行われた実験によれば、その結果が
図9に示されるように、崩壊(decayed)CytoCにおいて、質量スペクトルのそれぞれの散乱している検出ピークは、類似するプロファイル特性を有しており、それは、1つの急上昇(AB:induction rise)と、1つの急崩落(BC:annihilation fall)、そして1つの残留RCテイル(CD:RC tail)である。よって、本開示の荷電粒子を検出するためのデバイス1は、背景雑音からイオン検出のプロファイル特性を判別することができる。
【0049】
図10と
図11は、本開示のデバイス1を備えた、3次元(3D)の四重極イオントラップ質量分析計を用いて取得したIgG(M.W.〜146kDa)と、IgM(多量体において、M.W.〜1MDa)と、をそれぞれ示す。本開示のデバイス1は、100kDaと1MDaとの質量範囲内のイオンを検出できることは明らかである。そのため、本開示の荷電粒子を検出するためのデバイス1を組み込んだ質量分析用の装置2は、巨大生体分子の質量スペクトルの取得に適宜する。
【0050】
本発明は、ここで開示した実施形態に限ることはない。他に定義されていない限り、ここで使用された全ての技術的用語と科学的用語は、本発明が属する技術領域において通常技術者が理解する意味と同様である。
【0051】
更なる詳細がなくても、同業者であれば、上記の内容に基づき、本開示を最大限まで利用できると考える。上記の特定の実施形態は、これによって、単なる具体例であり、本開示の制限になることはない。
【0052】
上記においては、本発明の全体的な理解を促すべく、多くの具体的な詳細が示された。しかしながら、当業者であれば、一またはそれ以上の他の実施形態が具体的な詳細を示さなくとも実施され得ることが明らかである。また、本明細書における「一つの実施形態」「一実施形態」を示す説明において、序数などの表示を伴う説明は全て、特定の態様、構造、特徴を有する本発明の具体的な実施に含まれ得るものであることと理解されたい。更に、本説明において、時には複数の変化例が一つの実施形態、図面、またはこれらの説明に組み込まれているが、これは本説明を合理化させるためのもので、また、本発明の多面性が理解されることを目的としたものである。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施形態及び変化例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、最も広い解釈の精神および範囲内に含まれる様々な構成として、全ての修飾および均等な構成を包含するものとする。
【符号の説明】
【0054】
2 質量分析用の装置
10 基板
12 集積回路ユニット
13 干渉遮蔽ユニット
14 伝導アウターハウジング
15 絶縁レイヤー
21 イオン源
22 質量分析器
101 第1の側
102 第2の側
103 窪み部分
104 第1のレイヤー
105 第2のレイヤー
106 第3のレイヤー
121 信号接地経路
122 電流電圧変換IC
123 CR−RC−CRネットワーク
131 ファラデーケージ
132 メッシュ
133 伝導シート
134 接地経路
141 保持部材
142 カバー部材
143 穴
1311 開口
1312 開口