【課題を解決するための手段】
【0010】
このような背景下、本発明の目的は、上述の短所を克服することができ、人工心臓弁を、特にA型解離において心臓内に確実に固定することのできる装置を提供することである。
【0011】
本発明によれば、これは、冒頭で述べたようなタイプの人工血管によって解決することができる。該人工血管は、ワイヤで形作られた少なくとも1つの細長い固定構造を近位端に有し、該固定構造は、実質的にループ形であり、2つの端部を介してステント支持体に固定または取付されており、ループ形の近位端が近位方向を指しており、かつステント支持体の近位端を越えて突出するように配置されている。
【0012】
このようにして、本発明の基礎をなす目的は完全に達成される。
【0013】
人工血管の近位端に備えられるこの特有の固定構造によって、人工血管は、心臓弁の自然な機能を妨げることなく心臓内に確実に固定される。これは、近位端が近位の方向にループ状またはアーチ状に伸びるという固定構造の特有の設計によって達成される。この固定構造によって、安全かつ意図した通りに人工血管を位置付けることができる。
【0014】
本発明の人工血管は、次いで、別途挿入され、血管内に固定されて自然の人工血管の支持または置換の役割を果たす本発明の人工血管と少なくとも部分的に重なるよう開放された人工心臓弁を固定する役割を果たす。
【0015】
人工心臓弁はそれぞれ、本発明の人工血管を介して挿入することができる。この人工心臓弁は、自己拡張型の支持体上に弁が取り付けられた形態であることが好ましい。一例として、EP 2 724 690を参照されたい。該文献の実施例に心臓弁が開示されている。専門家であれば、本発明の人工血管と共に適切に使用できる心臓弁を、利用可能な情報から検索できるであろう。
【0016】
この固定構造により、人工血管または人工心臓弁をさらに血管へと縫合することや、それによる血管の負担を、確実に回避することができる。このように、本発明の人工血管は、ある種の固定構造または受入構造を提供するものであり、第2のステップにおいてこれを通じて人工心臓弁を挿入し、心臓内にしっかりと固定することができる。その結果、心臓内に人工心臓弁をしっかりと固定するための複雑な固定要素を人工心臓弁に備える必要もなくなる。
【0017】
前記固定構造は、好ましくは大動脈弁の弁葉の、好ましくは「無冠尖(NCC)」の後方に配置される。このとき人工血管自体すなわちその残りの部分は、後退シースまたは他の圧縮手段によってカテーテル内に固定されたままとなっている。これによって、固定構造を正確に配置し、プロテーゼが近位へと移動することを防止できる。
【0018】
本発明の人工血管は、好ましくはA型大動脈解離の治療に使用され、ガイドカテーテルの適用によって低侵襲で挿入される。
【0019】
一般に、「遠位の」および「近位の」という語は人工血管および腔内ステントグラフト全般に使用され、本発明においては人工血管のそれぞれの端部を指定し、「遠位の」という語は当該部分または端部が血流に関して相対的に下流に位置することを意味する。これに対して「近位の」という語は、やはり血流に関して、相対的に上流に位置する部分または端部を意味する。言い換えると、「遠位の」という語は、血流の方向を意味し、「近位の」という語は、血流とは逆の方向を意味する。カテーテルまたは挿入システムの場合には、対照的に、「遠位の」という語は、当該カテーテルまたは送達システムの、患者に挿入される端部、すなわち使用者から遠い端部を指し、「近位の」という語は、使用者に近いほうの端部を指す。
【0020】
本発明によれば、人工血管の基体を近位部分と遠位部分とに分類することは、それぞれの部分の構造が互いに異なっていることを意味し、例えば、ステントリングの数が異なること、ステント支持体の長さが異なること、ステントリング/ステント支持体の直径が異なること、および/またはプロテーゼ材料にカバーされている(「カバー付」)か、あるいはカバーされていない(「カバーなし」)か、という点において異なっていることを意味する。プロテーゼ材料は、ステント支持体上に縫い付けられてもよく、収縮により圧着されていてもよく、あるいは他の方法によって取付(固定)されていてもよく、これはステント支持体の血管壁に面した側であってもよく、血流に面した内側であってもよい。
【0021】
プロテーゼ材料によってカバーされた「カバー付」の近位部分は、解離部でブリッジの役割を果たし、カバーされていない遠位部分は、解離の遠位に配置され、主として(カバー付の部分と同様に)人工血管を血管に固定する役割を果たす。
【0022】
「ワイヤで形作られた、実質的にループ形」の固定構造は、本発明において、該構造が、ワイヤまたはワイヤ様構造体を曲げて、2つの「自由な」端部と、該2つの自由端の反対側に位置する円弧状端部を有する円弧としたものであることを意味する。「自由端」は、これらが、(前記円弧状端部のように)互いに直接的に接続されていたり一体となっていたりはしないことを意味する。
【0023】
「実質的に/実質的な」はまた、固定構造が必ずしも正確なループ形に曲げられている必要はなく、ループとして設計され、熟練の専門家にそのようなものとして認識されるものであればよいことを意味する。
【0024】
本発明によれば、固定構造は人工血管の近位端を越えて近位方向へ突出しており、固定構造が人工血管の近位端を越えて伸びる長さは、約1cm〜3cm、好ましくは1cm、1.5cm、2cm、2.5cmまたは3cmである。
【0025】
プロテーゼ材料は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMPE)またはこれらの混合物から選択される材料を含むか、そのような材料から形成されてもよい。
【0026】
「ステント支持体」は、金属または合成繊維で作られた管または円筒形状の任意のワイヤプロテーゼと理解され、好ましくは自己拡張型であり、プロテーゼ材料を取り付けることのできる格子状または網状の骨組み/支持体である。これは例えば、ワイヤメッシュや、連なって配置される蛇行環形状のいわゆるステントスプリング/ステントリングであってもよく、場合により、ワイヤでできた接続支柱によって相互に接続されていてもよく、前記インプラント材料によって相互に「接続」されているのみであってもよい。ステント支持体は、通常は形状記憶材料、通常はニチノールから作られており、それによって、放出を目的として血管に挿入された後、該支持体は拡張状態に戻り、血管インプラントを「開大」させることができる。
【0027】
したがって、本発明の実施形態によれば、ステント支持体は、レーザ切断されたステント支持体または編組もしくは織組されたステント支持体であるか、あるいは必要であれば、部分的に(例えば、近位部分もしくは遠位部分において)のみ、プロテーゼ材料によって間接的にのみ接続され、直接には(支柱、棒などによって)互いに接続されていない個々のステントリングから構成されている。
【0028】
処置する解離および血管の状態を考慮すれば、本発明を可能な限り有利に実現するためにいずれのステント支持体を使用すべきであるかということは、熟練の専門家にとって明白であろう。したがって、近位部分は、人工血管の遠位部分とは異なるステント支持体構造を有していてもよく、あるいはいずれもが同一のステント支持体を有していてもよい。
【0029】
これに応じて、好ましい一実施形態において、ステント支持体はひし形のセルを有するか、縦に連なって配置されたひし形のセルの列から構成され、各セルはその角の部分で互いに接合または接続されている。人工血管の最も外側の端部の近位および遠位には、ひし形のセルの自由な「角」が存在することになる。
【0030】
本発明の人工血管の一実施形態によれば、固定構造は人工血管の遠位端に備えられ、これによって人工血管の遠位端を放出カテーテルに固定し、圧縮状態で保持することができる。好ましくは、固定構造は、遠位端に位置するひし形セルのうち少なくとも3つの自由な角の伸長部であり、T字形状を有する。これらのT字形構造は、放出カテーテル内の対応するT字形凹部と係合することができる。次いで、後退シースが人工血管の遠位端を覆う配置となり、T字形凹部内のT字形固定構造を保持することにより、人工血管の遠位端を放出カテーテルに固定する。人工血管を圧縮している後退シースがT字形凹部を越えて後退すると、T字形の固定構造は凹部から離れ、人工血管の遠位端を放出する。
【0031】
本発明の人工血管の一実施形態において、ワイヤで形作られた固定構造の遠位端は、人工血管の近位端の2つのひし形セルの直接隣接する角に配置されることが好ましい。
【0032】
この実施形態では、固定構造が安定して「伸長」され、ループは拡がらないことが保証される。ループが拡がると、人工血管の移動が起こりうる。ループの遠位端を比較的強く固定することで、近位のループを介した固定構造に剛性が与えられ、人工血管の安定した固定が保証される。
【0033】
別の一実施形態において、ワイヤで形作られた固定構造は、その近位端または近位端領域に台形の伸長部を含むことが好ましい。
【0034】
台形の伸長の結果、固定構造はこの領域においてさらに安定化され、血管壁におけるしっかりとした固定が、さらに確実なものとなる。
【0035】
さらなる実施形態によれば、ワイヤで形作られた固定構造の最も外側の近位端は、涙滴形であることが好ましい。
【0036】
この設計は、固定構造のさらなる安定性につながる。「涙滴形」とは、固定構造の「基礎的な」ループ形状に、近位の方向を指す付加的な小さなループが組み合わされていることを意味する。
【0037】
本発明の、一実施形態による腔内人工血管において、ステント支持体と固定構造とは一体に形成されていることが好ましい。
【0038】
「一体に」とは、ステント支持体と固定構造とが同一のワイヤまたはレーザ加工された同一の管から作られていることを意味する。
【0039】
本発明の人工血管の一発展形態では、ステント支持体の近位端に、1つ、2つまたは3つの固定構造が備えられる。
【0040】
2つ以上の固定構造を備えることによって、人工血管を心臓内へさらに確実に固定することができる。このようなさらなる固定構造において、構造および形状は同一であることが好ましいが、形状が異なることもある。そのような場合でも、ループ形の基本構造は、いずれにも共通している。
【0041】
本発明の腔内人工血管のさらなる発展形態において、ステント支持体および/またはワイヤで形作られた固定構造は、血管壁に面していない側および/または血管壁に面した側に、フックまたはスパイクを有している。
【0042】
これらの設計であれば、血管内での人工血管の固定の確実性はさらに高められる。フックおよび/またはスパイクは、固定構造またはステント支持体と同一の材料で作られていてもよく、異なる材料で作られていてもよい。
【0043】
人工血管の内側にフック/スパイクが備えられる実施形態では、これらのフック/スパイクによって、少なくとも部分的にそれらに差し込まれる人工心臓弁の固定がさらに増強されることから、有利である。本発明の人工血管の近位端において人工心臓弁を部分的に開放し、また「締め付ける」ことで、人工血管内への固定は既に確保されているが、スパイクおよびフックにより、心臓弁の人工血管への固定はさらに支持される。
【0044】
本発明の腔内人工血管のさらなる実施形態において、ステント支持体および/またはワイヤで形作られた固定構造は、X線マーカーを含むことが好ましい。
【0045】
固定構造上にX線マーカーを備えることにより、操作する医師にとって固定構造の正確な配置が容易になり、したがって、人工血管全体の正確な配置が容易になる。これは、X線による制御下で人工血管を心臓内に正確に配置できることによる。
【0046】
本発明の腔内人工血管の直径は、好ましくは約20mm〜48mm、好ましくは約24mm〜44mmである。
【0047】
一実施形態によれば、人工血管の直径は本質的/実質的にその全長にわたって一定である。
【0048】
本発明の腔内人工血管のさらなる一発展形態において、該人工血管は、さらに人工心臓弁を含むことが好ましい。この人工心臓弁は、自体の遠位端が腔内人工血管の近位端にある状態で開放され、それによって心臓弁の領域で固定されうるように設計されている。
【0049】
本発明によるこの実施形態では2つのプロテーゼが存在し、これらが共同して、大動脈解離、特にA型解離を治療するためのシステムを構成している。上述のように、本発明の人工血管は、第1のステップにおいて心臓内に固定される固定構造を備え、これによって、第2のステップにおいて挿入される人工心臓弁を心臓内にしっかりと固定することができる。これによって、人工心臓弁がずれたり移動したりする危険性が回避され、また、システムは比較的単純な構造となりうる。
【0050】
好ましい実施形態を示す添付の図面および以下の説明から、さらなる利点が理解されるであろう。
【0051】
当然のことながら、上述した特徴および以下に説明する特徴は、個々に明記した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない限りは、他の組み合わせまたは単独でも利用可能である。
【0052】
本発明の実施形態を図面によって示し、以下でより詳細に説明する。