特許第6831009号(P6831009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6831009患者の心臓内または心臓血管内に埋め込むための腔内人工血管
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831009
(24)【登録日】2021年1月29日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】患者の心臓内または心臓血管内に埋め込むための腔内人工血管
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20210208BHJP
   A61F 2/07 20130101ALI20210208BHJP
【FI】
   A61F2/24
   A61F2/07
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-521708(P2019-521708)
(86)(22)【出願日】2017年10月24日
(65)【公表番号】特表2019-531828(P2019-531828A)
(43)【公表日】2019年11月7日
(86)【国際出願番号】EP2017077044
(87)【国際公開番号】WO2018077821
(87)【国際公開日】20180503
【審査請求日】2019年6月17日
(31)【優先権主張番号】202016105963.1
(32)【優先日】2016年10月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513301919
【氏名又は名称】エヌヴィーティー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】チェントラ,マルコス
(72)【発明者】
【氏名】カヴァ,エミリア
(72)【発明者】
【氏名】キュティング,マキシミリアン
【審査官】 寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0256270(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
A61F 2/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓(70)内および/または心臓血管内に埋め込むための、心臓の弁尖(71)の領域に固定するための、遠位端(11)および近位端(12)を有する腔内人工血管(10)であって、
該人工血管(10)が、ステント支持体(14)とプロテーゼ材料(16)とを含み、該プロテーゼ材料(16)がステント支持体(14)の少なくとも一部をカバーすることによってカバーされた近位部分(15)とカバーされていない遠位部分(17)とが形成されていること、ならびに
該人工血管(10)が、ワイヤで形作られた少なくとも1つ〜3つの細長い固定構造(20)を近位端(12)に有し、該固定構造が、実質的にループ形であり、2つの端部(23;24)を介してそれぞれステント支持体(14)に固定されており、ループ形(21)の近位端(22)が近位方向(12’)を指しており、かつステント支持体(14)の近位端(12)を越えて突出するようにそれぞれ配置されており、
前記ワイヤで形作られた固定構造(20)が、ループ(21)の領域に台形の伸長部(25)を含むことを特徴とする腔内人工血管(10)。
【請求項2】
前記ワイヤで形作られた固定構造(20)の遠位端(23;24)が、2つのひし形セル(18)の直接隣接する角(18’;18”)に配置されている、請求項1に記載の腔内人工血管(10)。
【請求項3】
前記ワイヤで形作られた固定構造の最も外側の近位端(26)が涙滴形である、請求項1または2に記載の腔内人工血管(10)。
【請求項4】
前記ステント支持体(14)が、レーザ切断されたステント支持体または編組もしくは織組されたステント支持体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の腔内人工血管(10)。
【請求項5】
前記ステント支持体(14)と前記固定構造(20)とが一体に形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の腔内人工血管(10)。
【請求項6】
前記ステント支持体(14)および/または前記ワイヤで形作られた固定構造(20)がそれぞれ、血管壁に面していない側にフックまたはスパイクを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の腔内人工血管(10)。
【請求項7】
前記ステント支持体(14)が、血管壁に面した側にフックまたはスパイクを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の腔内人工血管(10)。
【請求項8】
前記ステント支持体(14)および/または前記ワイヤで形作られた固定構造がX線マーカーを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の腔内人工血管(10)。
【請求項9】
直径が20mm〜48mmである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の腔内人工血管(10)。
【請求項10】
人工心臓弁(40)をさらに含み、該人工心臓弁(40)が、その遠位端(41)が腔内人工血管(10)の近位端(12)にある状態で開放されるとともに、腔内人工血管(10)の近位端(12)を介して心臓弁の領域で固定されるように設計されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の腔内人工血管(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の心臓および/または心臓血管内に埋め込むための、特に心臓の弁葉の領域に固定するための腔内人工血管に関する。この人工血管は、遠位端および近位端ならびにステント支持体およびプロテーゼ材料を有し、プロテーゼ材料によってステント支持体が少なくとも部分的にカバーされ、カバーされた近位部分およびカバーされていない遠位部分が形成されている。
【背景技術】
【0002】
一般に、最先端技術の腔内人工血管は、特に動脈瘤の治療のために、または生来の血管もしくは心臓弁をも代替もしくは支持するために使用される。
【0003】
動脈瘤は、先天的または後天的な壁の変化の結果、血管断面が局所的に広がって紡錘形または嚢状になるような、動脈の拡張または風船様拡大である。人工血管は、動脈瘤を治療するために使用される。真性動脈瘤、仮性動脈瘤および解離性動脈瘤(大動脈解離)の区別があり、解離性動脈瘤は、血管壁の解離の結果生じるものである。解離性動脈瘤は大動脈の壁層が分離するものであり、これは通常、血管の内壁に裂け目ができ、次いで層間への出血が起こることによって引き起こされる。大動脈解離につながる危険因子として、血管壁の構造的な弱さと動脈硬化とが挙げられる。
【0004】
大動脈解離は通常、直ちに生命を脅かすが、これは大動脈解離が大動脈破裂や様々な器官における急性循環障害につながりうることによる。したがって、この疾患を直ちに診断することは、極めて重要である。
【0005】
統計的に、大動脈解離は、上行大動脈(Aorta ascendens)の、大動脈弁からわずか数センチメートル上の部分で起こることが最も多い(約65%)。次いで頻繁に(約20%)大動脈解離が起こるのは、下行大動脈(Aorta descendens)の、左鎖骨下動脈(Arteria subclavia sinistra)の分岐の直後である。また、大動脈弓の罹患が10%、腹部大動脈(Aorta abdominalis)の罹患が5%である。
【0006】
大動脈解離は、解離の発生する部位によって「A型」または「B型」に分類され、上行大動脈の関与の有無によって厳密に区別されている。通常、エントリーが上行大動脈の領域にある解離はA型解離と呼ばれ、エントリーが左鎖骨下動脈よりも遠位にある解離はB型解離と呼ばれる。先述のように、大動脈解離は、心臓病学および心臓外科における最も緊急度の高い事態の1つである。急性期のA型解離の場合、時間当たりの死亡率が1〜2パーセントと高いことから、疑いがある場合には、直ちに明確な診断を下す必要がある。
【0007】
したがって、急性のA型解離では、大動脈破裂の危険性を早急に回避することが極めて重要であり、直ちに上行大動脈の外科的置換を行うために、人工血管が現在一般に使用されている。しかしながら、緊急の場合、大動脈弁の再構成はさほど一般的ではない。したがって通常、大動脈弁は、大動脈のうち大動脈弁に近い部分の解離において、また先天性結合組織疾患の患者においては除去され、人工弁の組み込まれたプロテーゼが挿入され、そこに冠状血管も再び「接続」される。基本的に、人工心臓弁には2つのタイプがある。人工的に製造され、主として金属から構成されている機械弁と、ヒトまたは動物から得て移植する生体弁である。
【0008】
プロテーゼは、観血療法あるいは低侵襲療法のいずれかによって導入されうる。
【0009】
治療する部位にプロテーゼを正確に挿入することは、担当医にとって困難なことである。これは、プロテーゼのわずかなずれが、「遮断」された動脈瘤を血液循環に再び組み入れ、破裂の危険性が再発することによる。さらに、プロテーゼがずれたり移動したりする危険性は、留置後にも、特に心臓の自然な動きを考慮すれば、存在すると言える。これらの理由から、プロテーゼは通常、近位および遠位での縫合によって血管壁に固定される。しかしながら、この縫合による固定には、何らかの形で損傷を受けていることの多い血管壁にさらに負担がかかるという短所がある。血管壁が重度に損傷している患者の場合、縫合による固定はそもそも不可能である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような背景下、本発明の目的は、上述の短所を克服することができ、人工心臓弁を、特にA型解離において心臓内に確実に固定することのできる装置を提供することである。
【0011】
本発明によれば、これは、冒頭で述べたようなタイプの人工血管によって解決することができる。該人工血管は、ワイヤで形作られた少なくとも1つの細長い固定構造を近位端に有し、該固定構造は、実質的にループ形であり、2つの端部を介してステント支持体に固定または取付されており、ループ形の近位端が近位方向を指しており、かつステント支持体の近位端を越えて突出するように配置されている。
【0012】
このようにして、本発明の基礎をなす目的は完全に達成される。
【0013】
人工血管の近位端に備えられるこの特有の固定構造によって、人工血管は、心臓弁の自然な機能を妨げることなく心臓内に確実に固定される。これは、近位端が近位の方向にループ状またはアーチ状に伸びるという固定構造の特有の設計によって達成される。この固定構造によって、安全かつ意図した通りに人工血管を位置付けることができる。
【0014】
本発明の人工血管は、次いで、別途挿入され、血管内に固定されて自然の人工血管の支持または置換の役割を果たす本発明の人工血管と少なくとも部分的に重なるよう開放された人工心臓弁を固定する役割を果たす。
【0015】
人工心臓弁はそれぞれ、本発明の人工血管を介して挿入することができる。この人工心臓弁は、自己拡張型の支持体上に弁が取り付けられた形態であることが好ましい。一例として、EP 2 724 690を参照されたい。該文献の実施例に心臓弁が開示されている。専門家であれば、本発明の人工血管と共に適切に使用できる心臓弁を、利用可能な情報から検索できるであろう。
【0016】
この固定構造により、人工血管または人工心臓弁をさらに血管へと縫合することや、それによる血管の負担を、確実に回避することができる。このように、本発明の人工血管は、ある種の固定構造または受入構造を提供するものであり、第2のステップにおいてこれを通じて人工心臓弁を挿入し、心臓内にしっかりと固定することができる。その結果、心臓内に人工心臓弁をしっかりと固定するための複雑な固定要素を人工心臓弁に備える必要もなくなる。
【0017】
前記固定構造は、好ましくは大動脈弁の弁葉の、好ましくは「無冠尖(NCC)」の後方に配置される。このとき人工血管自体すなわちその残りの部分は、後退シースまたは他の圧縮手段によってカテーテル内に固定されたままとなっている。これによって、固定構造を正確に配置し、プロテーゼが近位へと移動することを防止できる。
【0018】
本発明の人工血管は、好ましくはA型大動脈解離の治療に使用され、ガイドカテーテルの適用によって低侵襲で挿入される。
【0019】
一般に、「遠位の」および「近位の」という語は人工血管および腔内ステントグラフト全般に使用され、本発明においては人工血管のそれぞれの端部を指定し、「遠位の」という語は当該部分または端部が血流に関して相対的に下流に位置することを意味する。これに対して「近位の」という語は、やはり血流に関して、相対的に上流に位置する部分または端部を意味する。言い換えると、「遠位の」という語は、血流の方向を意味し、「近位の」という語は、血流とは逆の方向を意味する。カテーテルまたは挿入システムの場合には、対照的に、「遠位の」という語は、当該カテーテルまたは送達システムの、患者に挿入される端部、すなわち使用者から遠い端部を指し、「近位の」という語は、使用者に近いほうの端部を指す。
【0020】
本発明によれば、人工血管の基体を近位部分と遠位部分とに分類することは、それぞれの部分の構造が互いに異なっていることを意味し、例えば、ステントリングの数が異なること、ステント支持体の長さが異なること、ステントリング/ステント支持体の直径が異なること、および/またはプロテーゼ材料にカバーされている(「カバー付」)か、あるいはカバーされていない(「カバーなし」)か、という点において異なっていることを意味する。プロテーゼ材料は、ステント支持体上に縫い付けられてもよく、収縮により圧着されていてもよく、あるいは他の方法によって取付(固定)されていてもよく、これはステント支持体の血管壁に面した側であってもよく、血流に面した内側であってもよい。
【0021】
プロテーゼ材料によってカバーされた「カバー付」の近位部分は、解離部でブリッジの役割を果たし、カバーされていない遠位部分は、解離の遠位に配置され、主として(カバー付の部分と同様に)人工血管を血管に固定する役割を果たす。
【0022】
「ワイヤで形作られた、実質的にループ形」の固定構造は、本発明において、該構造が、ワイヤまたはワイヤ様構造体を曲げて、2つの「自由な」端部と、該2つの自由端の反対側に位置する円弧状端部を有する円弧としたものであることを意味する。「自由端」は、これらが、(前記円弧状端部のように)互いに直接的に接続されていたり一体となっていたりはしないことを意味する。
【0023】
「実質的に/実質的な」はまた、固定構造が必ずしも正確なループ形に曲げられている必要はなく、ループとして設計され、熟練の専門家にそのようなものとして認識されるものであればよいことを意味する。
【0024】
本発明によれば、固定構造は人工血管の近位端を越えて近位方向へ突出しており、固定構造が人工血管の近位端を越えて伸びる長さは、約1cm〜3cm、好ましくは1cm、1.5cm、2cm、2.5cmまたは3cmである。
【0025】
プロテーゼ材料は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMPE)またはこれらの混合物から選択される材料を含むか、そのような材料から形成されてもよい。
【0026】
「ステント支持体」は、金属または合成繊維で作られた管または円筒形状の任意のワイヤプロテーゼと理解され、好ましくは自己拡張型であり、プロテーゼ材料を取り付けることのできる格子状または網状の骨組み/支持体である。これは例えば、ワイヤメッシュや、連なって配置される蛇行環形状のいわゆるステントスプリング/ステントリングであってもよく、場合により、ワイヤでできた接続支柱によって相互に接続されていてもよく、前記インプラント材料によって相互に「接続」されているのみであってもよい。ステント支持体は、通常は形状記憶材料、通常はニチノールから作られており、それによって、放出を目的として血管に挿入された後、該支持体は拡張状態に戻り、血管インプラントを「開大」させることができる。
【0027】
したがって、本発明の実施形態によれば、ステント支持体は、レーザ切断されたステント支持体または編組もしくは織組されたステント支持体であるか、あるいは必要であれば、部分的に(例えば、近位部分もしくは遠位部分において)のみ、プロテーゼ材料によって間接的にのみ接続され、直接には(支柱、棒などによって)互いに接続されていない個々のステントリングから構成されている。
【0028】
処置する解離および血管の状態を考慮すれば、本発明を可能な限り有利に実現するためにいずれのステント支持体を使用すべきであるかということは、熟練の専門家にとって明白であろう。したがって、近位部分は、人工血管の遠位部分とは異なるステント支持体構造を有していてもよく、あるいはいずれもが同一のステント支持体を有していてもよい。
【0029】
これに応じて、好ましい一実施形態において、ステント支持体はひし形のセルを有するか、縦に連なって配置されたひし形のセルの列から構成され、各セルはその角の部分で互いに接合または接続されている。人工血管の最も外側の端部の近位および遠位には、ひし形のセルの自由な「角」が存在することになる。
【0030】
本発明の人工血管の一実施形態によれば、固定構造は人工血管の遠位端に備えられ、これによって人工血管の遠位端を放出カテーテルに固定し、圧縮状態で保持することができる。好ましくは、固定構造は、遠位端に位置するひし形セルのうち少なくとも3つの自由な角の伸長部であり、T字形状を有する。これらのT字形構造は、放出カテーテル内の対応するT字形凹部と係合することができる。次いで、後退シースが人工血管の遠位端を覆う配置となり、T字形凹部内のT字形固定構造を保持することにより、人工血管の遠位端を放出カテーテルに固定する。人工血管を圧縮している後退シースがT字形凹部を越えて後退すると、T字形の固定構造は凹部から離れ、人工血管の遠位端を放出する。
【0031】
本発明の人工血管の一実施形態において、ワイヤで形作られた固定構造の遠位端は、人工血管の近位端の2つのひし形セルの直接隣接する角に配置されることが好ましい。
【0032】
この実施形態では、固定構造が安定して「伸長」され、ループは拡がらないことが保証される。ループが拡がると、人工血管の移動が起こりうる。ループの遠位端を比較的強く固定することで、近位のループを介した固定構造に剛性が与えられ、人工血管の安定した固定が保証される。
【0033】
別の一実施形態において、ワイヤで形作られた固定構造は、その近位端または近位端領域に台形の伸長部を含むことが好ましい。
【0034】
台形の伸長の結果、固定構造はこの領域においてさらに安定化され、血管壁におけるしっかりとした固定が、さらに確実なものとなる。
【0035】
さらなる実施形態によれば、ワイヤで形作られた固定構造の最も外側の近位端は、涙滴形であることが好ましい。
【0036】
この設計は、固定構造のさらなる安定性につながる。「涙滴形」とは、固定構造の「基礎的な」ループ形状に、近位の方向を指す付加的な小さなループが組み合わされていることを意味する。
【0037】
本発明の、一実施形態による腔内人工血管において、ステント支持体と固定構造とは一体に形成されていることが好ましい。
【0038】
「一体に」とは、ステント支持体と固定構造とが同一のワイヤまたはレーザ加工された同一の管から作られていることを意味する。
【0039】
本発明の人工血管の一発展形態では、ステント支持体の近位端に、1つ、2つまたは3つの固定構造が備えられる。
【0040】
2つ以上の固定構造を備えることによって、人工血管を心臓内へさらに確実に固定することができる。このようなさらなる固定構造において、構造および形状は同一であることが好ましいが、形状が異なることもある。そのような場合でも、ループ形の基本構造は、いずれにも共通している。
【0041】
本発明の腔内人工血管のさらなる発展形態において、ステント支持体および/またはワイヤで形作られた固定構造は、血管壁に面していない側および/または血管壁に面した側に、フックまたはスパイクを有している。
【0042】
これらの設計であれば、血管内での人工血管の固定の確実性はさらに高められる。フックおよび/またはスパイクは、固定構造またはステント支持体と同一の材料で作られていてもよく、異なる材料で作られていてもよい。
【0043】
人工血管の内側にフック/スパイクが備えられる実施形態では、これらのフック/スパイクによって、少なくとも部分的にそれらに差し込まれる人工心臓弁の固定がさらに増強されることから、有利である。本発明の人工血管の近位端において人工心臓弁を部分的に開放し、また「締め付ける」ことで、人工血管内への固定は既に確保されているが、スパイクおよびフックにより、心臓弁の人工血管への固定はさらに支持される。
【0044】
本発明の腔内人工血管のさらなる実施形態において、ステント支持体および/またはワイヤで形作られた固定構造は、X線マーカーを含むことが好ましい。
【0045】
固定構造上にX線マーカーを備えることにより、操作する医師にとって固定構造の正確な配置が容易になり、したがって、人工血管全体の正確な配置が容易になる。これは、X線による制御下で人工血管を心臓内に正確に配置できることによる。
【0046】
本発明の腔内人工血管の直径は、好ましくは約20mm〜48mm、好ましくは約24mm〜44mmである。
【0047】
一実施形態によれば、人工血管の直径は本質的/実質的にその全長にわたって一定である。
【0048】
本発明の腔内人工血管のさらなる一発展形態において、該人工血管は、さらに人工心臓弁を含むことが好ましい。この人工心臓弁は、自体の遠位端が腔内人工血管の近位端にある状態で開放され、それによって心臓弁の領域で固定されうるように設計されている。
【0049】
本発明によるこの実施形態では2つのプロテーゼが存在し、これらが共同して、大動脈解離、特にA型解離を治療するためのシステムを構成している。上述のように、本発明の人工血管は、第1のステップにおいて心臓内に固定される固定構造を備え、これによって、第2のステップにおいて挿入される人工心臓弁を心臓内にしっかりと固定することができる。これによって、人工心臓弁がずれたり移動したりする危険性が回避され、また、システムは比較的単純な構造となりうる。
【0050】
好ましい実施形態を示す添付の図面および以下の説明から、さらなる利点が理解されるであろう。
【0051】
当然のことながら、上述した特徴および以下に説明する特徴は、個々に明記した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない限りは、他の組み合わせまたは単独でも利用可能である。
【0052】
本発明の実施形態を図面によって示し、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の人工血管の一実施形態の、導入されていない拡張状態を示す概略図であり、長手方向を上方から見た図である。
【0054】
図2図1の人工血管の段階的開放を、概略的に描かれた放出カテーテルと共に示す概略図であり、(A)完全に装填された状態;(B)圧縮構造体が部分的に後退しているものの、人工血管の近位端および遠位端は放出カテーテルになお固定されている状態;ならびに(C)近位端が開放された状態を示す。
【0055】
図3】心臓血管系内で完全に開放された本発明の人工血管の一実施形態を示す概略図である。
【0056】
図4】本発明のシステムを示す概略図であり、本発明の人工血管の内部に固定された人工心臓弁を、該心臓血管の外側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図中、同一の構成要素には同一の参照符号を付しているが、簡潔に示すため、必ずしもすべての参照符号をすべての図に記載しているわけではない。
【0058】
図1図4において、参照符号10は、遠位端11および近位端12を有する進歩的な人工血管を表している。この人工血管は管状のステント支持体14を有し、該支持体の近位部分15にはプロテーゼ材料16が取り付けられており、近位部分15がカバーされている。人工血管10はさらに、プロテーゼ材料を有さない遠位部分17を含む。
【0059】
本発明によれば、ステント支持体14は、レーザ切断されたステント支持体であってもよく、編組または織組されたステント支持体であってもよく、編組または織組されたステント支持体は、複数のワイヤから構成されていてもよく、縦に連なって配置され、プロテーゼ材料のみによって互いに(間接的に)接続されている個々の蛇行ステントリングから構成されていてもよい。
【0060】
図で示される実施例において、人工血管10は18個のひし形セルを有し、これらは列をなすようにして、管状または円筒状のステント支持体14を形成する。遠位端11において、ひし形セル18の3つの自由な角に取付構造19が備えられており、これによって、人工血管10の遠位端11を、放出カテーテル(図示せず)内の対応する受入部または凹部内で受け止めることができ、放出カテーテルを覆うように設けられた後退シース(図示せず)によって放出カテーテルに固定することができる。固定構造19は、図1に示すようなT字形である。
【0061】
ワイヤで形作られた固定構造20は、人工血管10の近位端12に備えられ、近位の方向12’に向かうループ21を形成している。固定構造20は、人工血管10の全長の約1/3であり、その近位端12を越えて伸びている。
【0062】
固定構造20は近位端22を有し、近位端22の領域ではループ21が形成されている。固定構造20はさらに、2つの遠位端23および24を含み、これらは人工血管の近位端12に存在するひし形セル18の2つの自由な角18’,18”に固定されているか、あるいは該自由な角18’,18”と一体化されている。
【0063】
図1に示すように、固定構造20の遠位端23,24は、人工血管10の近位端12に存在するひし形セル18の直接的に隣接する角18’,18”に対して固定/一体化されている。
【0064】
ここで、ひし形セルの「自由端」とは、本発明の人工血管のあらゆる実施形態に関して、これらの角が他のひし形セルに接続されておらず、遠位方向11’または近位方向12’に自由に突出していることを意味する。
【0065】
図1はさらに、固定構造20に、ループ21の領域において外側を指す台形の伸長部25が存在することを示す。これは、人工血管10の近位端12への固定/取付領域にある固定構造20の遠位端23と24との距離が、近位領域22において対向しているループ21のワイヤの間の距離よりも小さいことを意味する。
【0066】
図1に示すように、固定構造20のループ21の最も外側には、涙滴形の近位端26が存在する。
【0067】
固定構造20およびステント支持体14は、例えば、適切な管または円筒をレーザ切断することによって、一体に形成することができる。
【0068】
固定構造20および/またはステント支持体14はそれぞれ、血管壁に面していない側にフックまたはスパイク(図示せず)を有してもよく、1つ以上のX線マーカーを含んでいてもよい。
【0069】
本発明の人工血管の直径は、好ましくは20〜48mm、好ましくは約24〜44mmである。
【0070】
図2に、放出カテーテル30に装填された人工血管10の開放を概略的に示す。人工血管10は、その遠位端11に備えられている固定構造19によって放出カテーテル内の対応する凹部に固定されるとともに、それを覆う後退スリーブ31によっても固定されている。人工血管10は、さらにその近位端12においても、適切なシステム(図示せず)によって、放出カテーテル30に取り外し可能に固定されている。人工血管10が完全に圧縮されて固定された状態を、図2Aに示す。
【0071】
圧縮状態にある人工血管を保持する後退シース31を後退させると、人工血管10の中心領域が風船状に膨張するが、人工血管10の近位端12および遠位端11は、放出カテーテル30に固定されたままとなっている(図2B参照)。
【0072】
人工血管10の近位端12が放出されると、該近位端は拡大しうるが、一方人工血管10の遠位端11は、なお圧縮されたまま後退シース31を通る状態で放出カテーテル30に固定されている(図2C参照)。この状態において、本発明の人工血管10は、所望の位置、好ましくは大動脈弁の弁葉の(図3参照)、好ましくは「無冠尖(NCC)」の後方で開放され、配置される。これによって、固定構造20を正確に配置し、人工血管が近位へと移動することを防止できる。
【0073】
固定構造20の位置付けが確実であれば、後退シース31を完全に後退させることにより、人工血管の残りの部分を開放することができる。心臓70の内部で人工血管10が完全に開放された状態を図3に示す。この図では、見やすさのために、人工血管は破線で示されている。固定構造20が大動脈弁71の弁葉の後ろに位置し、人工血管10の残りの部分は上行大動脈72に向かって/上行大動脈72まで遠位方向に伸びていることが理解されるであろう。
【0074】
最後に、図4に、人工血管10および人工心臓弁40からなる本発明のシステム50の組み立てられた形態の概要を、心臓の外側から見た状態で示す。
【0075】
人工血管10が心臓内にアンカーとして配置された後、人工心臓弁40がその上に挿入され、人工心臓弁40の遠位端41が人工血管10の近位端12において少なくとも部分的に係合するよう開放されてもよく、あるいは人工心臓弁40は、拡張によってあらかじめそのように固定されていてもよい。
図1
図2
図3
図4