(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831104
(24)【登録日】2021年2月1日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】転倒スイッチ
(51)【国際特許分類】
H01H 35/02 20060101AFI20210208BHJP
【FI】
H01H35/02 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-74565(P2017-74565)
(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-181449(P2018-181449A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】591071274
【氏名又は名称】株式会社生方製作所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 重己
【審査官】
北岡 信恭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7−176246(JP,A)
【文献】
特開平8−185775(JP,A)
【文献】
実開昭54−120985(JP,U)
【文献】
中国特許出願公開第1567500(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 35/02
H01H 1/26
G01H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板のほぼ中央に穿たれた貫通穴に金属製の導電端子ピンを電気絶縁性の充填材によって気密に貫通固定した蓋板と、
有底円筒形の金属製ハウジングを有し、
前記蓋板の金属板に金属製ハウジングの開口部を全周気密に固着することで蓋板を上にした状態を正規姿勢とする密閉容器を構成し、
密閉容器中には固定接点と可動接点が配置されるとともに球状の慣性子が配置され、この金属製ハウジング底面にはその円筒形の内面に沿って円周状段部が設けられ、
該慣性子は正規姿勢では前記金属製ハウジングの前記段部内側に構成されるくぼみの底面上を転動可能に配置されるとともに段部に当接することにより水平方向への移動範囲を制限されており、
前記導電端子ピンには剛性の高い金属性の固定接点支持体の一端が導電的に接続固定されており、この固定接点支持体の他端近傍には前記固定接点が固定され、
前記蓋板の金属板には充分な弾性を有する導電性の可動接点支持体の一端が接続固定されており、この可動接点支持体の前記固定接点と対向する位置に前記可動接点が配置されており、
この可動接点が正規姿勢において前記固定接点に弾性的に接触するように付勢され常閉接点を構成している転倒スイッチにおいて、
容器が所定の設定角度の傾斜に至るまでは前記くぼみの底面を転動する慣性子は段部によりくぼみの底面に沿った方向への転動範囲を制限されるとともにその上方にある前記可動接点支持体とは接触しないように隙間を有しており、
容器が所定の角度以上に傾くことで慣性子の重心から延びる鉛直線が段部と慣性球との接触位置の外側に位置することで転動した慣性子が可動接点支持体に接触するとともに押し上げることで可動接点支持体に固定された可動接点を固定接点から解離して電路を断つ構造とされ、
前記蓋板の金属板には容器内側に前記導電端子ピンの先端部を覆い且つ慣性子と可動接点支持体先端がその下に位置するように構成された金属製の制限部材が固定され、
この制限部材は慣性子の移動範囲を所定範囲に抑えるとともに所定範囲外に異電位部を配置することで、慣性子が可動接点支持体を過度にたわめて塑性変形させることを防止するとともに転倒時などに通電を起こさないようにしたことを特徴とする転倒スイッチ。
【請求項2】
制限部材は導電端子ピンの先端部をまたぐように固定された両持ち梁とされていることを特徴とする請求項1に記載の転倒スイッチ。
【請求項3】
可動接点支持体は固定端近傍に可動接点の移動中心が位置するように弾性を持たせ、可動接点の移動中心から可動接点までの距離よりも該移動中心から可動接点支持体先端部までの距離を長くしたことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の転倒スイッチ。
【請求項4】
可動接点支持体は固定された一端から可動接点を配置した中間部までが弾性的に構成されているのに対して先端部側は剛性を高められたことを特徴とする請求項3に記載の転倒スイッチ。
【請求項5】
可動接点支持体は固定された一端から可動接点を配置した中間部までを細く撓みやすくする一方、先端部側は幅を広くすることで剛性を高められていることを特徴とする請求項4に記載の転倒スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気ストーブやファンヒーターなどが使用時に大きく傾いたり転倒した場合に、自動的に通電停止したり消火したりできるようにするための、転倒スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からストーブやファンヒーターなどの暖房機器、特に小型で移動が容易な暖房機器において、使用中に転倒した場合に火災などの発生を防ぐための安全装置として、転倒スイッチや感震スイッチなどが存在している。
【0003】
例えば電気ストーブなど制御対象機器の底面に可動式の突出片が配置された転倒検知スイッチがある。この転倒検知スイッチは制御対象機器が傾いて底面が設置面から離れることにより、通常は機器内部に押し込まれてスイッチを閉じている突出片がバネなどにより押し出されることでスイッチの接点が解放される。
【0004】
またハウジング内に球体や円柱状の錘を配置して、所定の傾きでこれらが動き出すことによって接点を開閉する転倒・傾斜スイッチも多く提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−106744
【特許文献2】特開平7−105803
【特許文献3】特開平7−176246
【特許文献4】特開平8−193874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ストーブなどの筐体の底面に突出片を設けたものの場合、設置面に凹凸があると傾斜とは関係なく突出片が充分に押し込まれず誤作動を起こす可能性がある。また突出片が接点を直接駆動させる場合には突出片の摺動部などに隙間が生じて接点部分を気密構造にできないので、長期間使用している間に接点間に汚れなどがついて導通状態が悪くなる可能性がある。
【0007】
また樹脂ケース中に鋼球などの慣性球を配置し、この慣性球の重量で駆動される接点機構を配置した傾斜スイッチにおいては、前述の突出片を持つものと比較して構造上の隙間は生じにくいが、内部に接点汚損防止のガスの封入保持を可能にするほどの気密性を持たせることはできない。
【0008】
一方、金属製の密閉容器を使用する場合には慣性球である鋼球そのものがスイッチの接点として使われる転倒・傾斜スイッチとすることで、その構造を比較的シンプルにすることができる。特に常時オフ型のスイッチとすることで部品数の少ない構成とすることができるが、スイッチを通した電流を運転信号として常に監視するタイプの回路には使えないと言う問題がある。また、常時オン型の傾斜スイッチとするためには、接点間がオフになった時に鋼球が不必要に回路を導通させないために電気絶縁部を金属容器内に設けるなど内部の部品による短絡を防ぐ必要があり、その結果部品数が増えて構造が複雑になりスイッチを安価に提供することが難しかった。さらに鋼球を接点として使用するものにおいては鋼球の動きを阻害しないためにも、電極との接触圧力を高くすることが難しく接触抵抗を安定させることが難しいと言う問題がある。
【0009】
本発明の目的は、金属製の密閉容器を使用した常時オン型の転倒スイッチをできるだけシンプルな構造で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は可動接点が通常姿勢において固定接点に弾性的に接触するように付勢され常閉接点を構成する転倒スイッチにおいて、動作時に慣性子が可動接点支持体に接触するとともに押し上げることで可動接点支持体に固定された可動接点を固定接点から解離して電路を断つ構造とされるとともに、密閉容器内に慣性子の移動範囲を所定範囲に抑えるために金属製の制限部材が配置され、さらに所定範囲外に異電位部を配置することにより、慣性子が他部品を過度にたわめて塑性変形させることを防止するとともに転倒時などに慣性子により異電位の部分が接触して通電を起こすことが無いようにしたことを特徴とする。
【0011】
また可動接点支持体は密閉容器の蓋板に固定された一端から可動接点を配置した中間部までが弾性的にされているのに対して先端部側は剛性を高めるとともに、可動接点の移動中心から可動接点までの距離よりも該移動中心から可動接点支持体先端部までの距離を長くしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転倒スイッチによれば、慣性子の重量を利用して接点を駆動する構造でありながら、動作直前まで慣性子が接点機構に接触しないので接点機構の反発力に影響されることなく所定の角度で動作を行うことができ、さらに転倒時などにおいても慣性子の動作範囲を適切な範囲に抑える制限部材を設けた事により、可動接点支持体などの過度な変形を防ぎ、長期的に安定した動作を得ることができる。また制限部材によって、転倒時にも慣性子と導電端子ピンや固定接点支持体との接触による短絡のみならず導電端子ピンと可動接点支持体との接触も起こさない構造とすることで、スイッチの再接続を防止できる。またこの制限部材を金属製としたことで、制限部材が溶接などで直接固定できるようになり製造が容易になる。
【0013】
また、傾斜を検知する慣性子と接点機構をすべて金属製とし、さらにこれらの部品を金属製の密閉容器中に配置するとともに汚損防止ガスなどの封入をすることにより、長期間の使用においても接点の汚損による接触不良や部品の劣化などを抑えられる。
【0014】
さらに可動接点の動作に拡大機構を設けた事により、接点の接触圧力を充分に高くした場合でも比較的小型で質量の少ない慣性子によって駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の転倒スイッチの一実施例を示す縦断面図
【
図5】
図1の転倒スイッチに使用される可動接点支持体および固定接点支持体の例を示す斜視図
【
図6】
図1の転倒スイッチの動作状態を説明するための縦断面図
【実施例】
【0016】
本発明の具体的な形態について
図1ないし
図5を参照しながら説明する。この転倒スイッチ1は蓋板2と、一方を塞がれた円筒形の金属製ハウジング3を有する。蓋板2は円形の金属板4とこの金属板のほぼ中央に穿たれた貫通穴4Aに挿通固定された導電端子ピン5を有しており、導電端子ピン5はガラスなどの電気絶縁性充填材6によって気密に絶縁固定されている。またハウジング3は塞がれた側が底部となり、この底部には円筒内周面に沿って円周状の段差3Aが設けられている。このハウジング3の開口部が前記金属板4に全周にわたって溶接などの方法で気密に固着されることにより、蓋板を上にする姿勢を正規姿勢とする密閉容器が構成される。
【0017】
導電端子ピン5の密閉容器内側には比較的剛性の高い金属製の固定接点支持体7の一端7Aが溶接により導電的に固定されており、この固定接点支持体の他端7B近傍には固定接点8が固定されている。この例の固定接点支持体は
図5(A)に示すように後述の可動接点支持体との干渉を避けるために回り込むように曲げられており、その先端部近傍に固定接点8が接触面を図示上方に向けて固定されている。
【0018】
蓋板2の金属板4の密閉容器内側には前述の固定接点8と対向する可動接点9が配置された可動接点支持体10の固定端10Aが溶接固定されている。この可動接点支持体10は銅合金などの導電性の板バネで作られ、可動接点9を固定接点8に接触させている。実施例の可動接点支持体では固定接点支持体7との接触を避けて回り込む屈曲部10Cを設けており、前記固定接点8に対向する中間部に可動接点9が導電的に固着されている。可動接点が固着された中間部から先は導電端子ピン5や後述する制限部材である保護板12を避けるように曲げられ、さらに先端部10Bが保護板12とこれも後述する鋼球11との間に配置されるように曲げられることで、中間部から先端部へは段差が設けられた形状となっている。
【0019】
本実施例の可動接点支持体10は、
図5(B)に示すように固定端10A側の屈曲部10Cを含む可動接点9の取付位置までの中間部分を細くすることでたわみやすくされており、一方で可動接点の取付位置付近から先端部10Bにかけては幅を広くすることで剛性を上げている。可動接点支持体10は正規姿勢で所定の傾斜角度以下とされた状態(以下、通常時と呼ぶ)にあっては可動接点9が固定接点8と所定の接触圧力で弾性的に接触するように付勢されている。
【0020】
ハウジング3の内部には慣性子である鋼球11が配置されている。実施例では鋼球11はハウジング底部に設けられた円周状段部3Aの内側に構成されたくぼみ3Bの底面を転動可能に載置されており、通常時にはくぼみを取り囲む段部3Aに当接することにより鋼球の転動範囲はくぼみの底面上に制限されている。前述の可動接点支持体の先端部10Bはこの鋼球11の上部に配置され、通常時には鋼球11とは接触しないようにされており、スイッチの動作時にはこの先端部が鋼球と接触するようにされている。この転倒スイッチ1の動作角度は、段部3Aの底面からの高さと鋼球11の直径で決まる接触角を転動する閾値として決められる。
【0021】
導電端子ピン5の先端と可動接点支持体先端部10Bとの間には、鋼球11の移動範囲を所定の範囲内に抑えるための制限部材である保護板12が配置されている。この保護板12は比較的剛性の高い金属で構成されており、さらに実施例ではその両端に設けた脚部12Aを蓋板の金属板4に溶接固定された両持ち梁形状とすることで、導電端子ピン先端を覆うように配置された制限部12Bが鋼球11の移動範囲を制限するように配置されている。
【0022】
この保護板12により慣性子である鋼球の移動範囲を制限することで、同時に可動接点支持体のたわみ量が制限される。そのためスイッチが上下逆転状態となったときも、鋼球11やそれによってたわめられた可動接点支持体10が異電位である導電端子ピン5や固定接点支持体7に接触したり変形させたりすることはない。また保護板12を金属板で構成し、ハウジング3や可動接点支持体10と同電位である金属板4に溶接固定されているため、スイッチ内への保護板の配置が容易になる。さらに本実施例では保護板を両持ち梁形状にして導電端子ピンを覆う構造としたことにより、比較的薄い金属板で構成することができる。このように保護板を配置することにより、転倒などによる通電遮断後の不要な再通電を防ぐことができる。またスイッチが落下などによる衝撃を受けた時などにも可動接点支持体が過度にたわめられることを防ぎ、その塑性変形やそれによる動作特性の変化も防止することができる。
【0023】
次にこの転倒スイッチの動作について
図6を参照しながら説明する。転倒スイッチ1を取り付けた電気ストーブなどの保護対象機器が正規姿勢にある間は、先に示した
図1のように転倒スイッチ1内の鋼球11はくぼみ3Bの底面上に転動可能に位置しており、この時点では鋼球11は可動接点支持体とは接触していない。そのため可動接点支持体10はその弾性により可動接点9を固定接点8に接触させており、導電端子ピン5−固定接点支持体7−固定接点8−可動接点9−可動接点支持体10−金属板4のルートでの電路が構成される。保護対象機器が何らかの原因で傾いた場合にも、所定の角度までは
図6に破線で示す鋼球11はその重心Gが段部3Aとの接触点から延びる鉛直線Vの内側(くぼみ側)に位置する。そのため段部3Aによって鋼球11は外側への転動を阻まれてくぼみ内に留まり、この状態では鋼球は可動接点支持体とは隙間を保ち接触することは無い。こうして動作直前まで鋼球は稼働接点支持体に接触することはない。傾斜角度が所定の角度(実施例では約30°)を超えると鋼球の重心Gが段部3Aとの接触部から延びる鉛直線Vを越えてくぼみの外側に位置するようになる。この時、鋼球11は自重により実線で示す位置にまでくぼみから段部に乗り上げるように転動し、重心もまたGaにまで移動する。ここで段部3Aの鋼球11と接触する端縁部の断面半径は、スイッチの傾斜変化途中に鋼球が動作の閾値付近であいまいな動きをすることがないように充分に小さくされており、傾斜に対するスイッチの切り替えが明確になる。
【0024】
スイッチの傾斜角度が閾値を越えることによって転動した鋼球11は段部3Aに乗り上げ蓋板2の方向に動くため、可動接点支持体の先端部10Bに接触するとともに、この先端部を鋼球が直接押し上げて可動接点支持体10をたわめる。この時、可動接点支持体10はたわみやすくされた屈曲部10Cを中心に弾性的に曲げられるため、可動接点支持体とともに押し上げられた可動接点9が屈曲部10Cを移動中心として固定接点8から離れることにより電路が遮断される。
【0025】
本実施例の転倒スイッチは慣性体として比較的小型の鋼球を使っているため、鋼球の質量に依存する可動接点を駆動する力は限られるが、その一方で接点の接触抵抗を抑えるためには一定以上の接触圧力が必要となる。そのため固定接点8と可動接点9をクロスバー接点とすることにより、単位面積当たりの接触圧力を高めて導通不良の発生を防いでいる。
【0026】
さらに鋼球により可動接点支持体の先端部を駆動するとともに、可動接点を支点に近い中間部側に配置することにより、鋼球による駆動力をテコの原理によって拡大している。そのため鋼球による先端部の持ち上げ量に対して可動接点の変位量は小さくなるが、従来よりも小型の鋼球によって可動接点を駆動することができる。また前述したように接点をクロスバー接点とすることにより、接触面の単位面積当たりの接触圧力を充分に高めたとともに、金属製の密閉容器を使用して汚損防止ガスを封入することで接点表面の汚損や部品の劣化などを防ぐことができ、接点間抵抗などを長期的に安定させることができる。またこうして接点間に充分な接触圧力を持たせることにより接点間の抵抗が安定し、さらにはスイッチを通る信号が安定する。また本発明では通常時には鋼球が可動接点支持体に接触しないため、通常の生活振動で鋼球が動いても可動接点支持体に力を掛けることはなく不要な開閉を起こさないようにすることができる。
【0027】
ここで本発明のようにその力点である先端部10Bと作用点である可動接点9との位置を離すために可動接点支持体10を長くした場合、鋼球による可動接点支持体の可動端側の変位が可動接点支持体全体のたわみにより吸収されてしまい、支点となる移動中心に近い可動接点の変位量が充分に取れなくなる可能性がある。そこで本発明においては可動接点支持体の固定端側を細くたわみやすい構造としておく一方で先端部側の剛性を高くすることにより、可動接点支持体の先端部側のたわみを低減して鋼球による変位量が可動接点に対してより直接的に反映される。本実施例では
図5(B)に示した可動接点支持体10のように先端側の幅を広くすることによって相対的に剛性を上げているが、例えば
図5(C)に示す可動接点支持体20のように先端部側に剛性を上げるためのリブ20Aを設けたり、
図5(D)に示す可動接点支持体30のような切り起こし30Aを設けたりすることで補強してもよい。
【0028】
また本実施例においては、ハウジング内部の段部3Aの上面は傾斜の無い平面とされるとともに、鋼球の半径Rが段部の端面からハウジング内周面までの距離Lよりも大きくなるようにされている。そのため鋼球は動作時にも段部3Aに完全に乗り上げるのではなく段部の端面とハウジング内周面とで支えられる形となるので、復帰時にも鋼球の重心Gがくぼみと鋼球との接触点から延びる鉛直線上のどちらに位置するかによって安定状態が決まる。そのため転倒スイッチが傾斜状態から水平状態に戻る途中の所定の角度で重心Gがくぼみの内側に位置するようになり、鋼球がくぼみ3Bの底面に移動することで可動接点への押圧を解除し接点間の接続が再開される。傾斜時には復帰直前まで鋼球は位置を変化しないので可動接点支持体が移動される量は変化せず、それに伴う接点間距離もまた一定状態に保つことができる。
【0029】
さらに本実施例は傾斜角度が動作の閾値を越えるまでは鋼球と可動接点支持体との間に隙間がある。例えば所定の角度以下の傾きによって鋼球が円周状段部に接した状態で安定しているときにも、鋼球は可動接点支持体に接触しないので接点の接触状態に変化は生じない。
【0030】
その一方で鋼球が可動接点支持体に接触する時には、転倒スイッチの傾く速度がゆっくりであっても鋼球が閾値を越えて反対側の安定点へと転がっていく途中で接触してそのまま可動接点支持体の先端を移動させる。そのため可動接点が接点の接触状態の境目に留まることはなく、可動接点は鋼球の動きに合わせて素早く押し上げられる。こうして転倒スイッチを取り付けられた保護対象機器がゆっくり傾く場合であっても接点間が不安定な接触状態になることなく、確実に通電を遮断することができる。
【0031】
こうして転倒スイッチにより通電が遮断されることにより、例えば電気ストーブでは制御回路で転倒スイッチを通る信号が途切れたことを検知するとストーブが転倒したと判定して通電を遮断するようにすることができる。またハウジング3の内周面が鋼球11の横方向への移動を制限しており、前述したように段差からハウジング内周面までの距離Lは鋼球の半径Rよりも小さくなるようにされている。そのため転倒スイッチ1が傾斜状態から正規姿勢に戻る過程で所定の角度(実施例では約15°以下)になると、鋼球11の重心Gが前述した鉛直線Vよりも内側に位置することで鋼球は転動してくぼみ3Bに戻る。こうして転倒スイッチが傾斜状態から復帰すると、自動的に鋼球11は正規位置に戻るとともに可動接点支持体10から離れることにより、可動接点9もまた所定の位置に復帰して固定接点8に接触する。そのため転倒などによる通電遮断後も、対象機器を正規姿勢に戻すことにより特別な復旧作業をすることなく転倒スイッチの機能を復帰させることができる。
【0032】
さらに接点表面を清浄に保つためにスイッチの容器を密閉容器とし内部に汚損防止用のガスを封入することにより、長期にわたり接点被膜の形成を防止し安定した電気的接触状態を得ることができる。その結果、微小な電流を確実に流すことができる信頼性の高い転倒スイッチを得ることができる。
【0033】
本発明の転倒スイッチ1においては、制限部材として配置された金属製の保護板12が鋼球11のストッパーとして蓋板2の方向への鋼球の動きを制限している。この保護板により、輸送工程や転倒時などに転倒スイッチが横倒しにされたり上下逆さまにされたりしても、鋼球による可動接点支持体10の動きは制限される。そのため可動接点支持体への過大な曲げは発生せず、可動接点支持体の塑性変形やそれによるスイッチとしての特性変化を防ぐことができる。
【0034】
また、使用時に転倒スイッチが逆さまになった場合などに可動接点支持体10が鋼球の重量によりたわめられ保護板12と接触しても、保護板は可動接点支持体と同電位であり、接触しても接点部により遮断された電路が再通電されてしまうことはない。
【0035】
さらに保護板で鋼球の移動範囲を制限することにより、鋼球が異電位となる導電端子ピンや固定接点支持体とも直接接触しないようにされている。そのため転倒時に鋼球を介した再通電を防止することはもちろん、転倒スイッチ1が衝撃を受けて鋼球が転動した場合にも固定接点支持体を変形させることはなく、スイッチとしての特性が変化してしまうこともない。
【0036】
また保護板とハウジング底部との距離は、鋼球が同時に接触しない距離とされている。そのため例えば転倒スイッチの輸送時や取付工程において横にされたり転倒時に衝撃力を受けたりしても、鋼球はその移動可能範囲において保護板とハウジングとの間に挟まれることはない。
【0037】
本発明の保護板は金属で構成しているためスイッチ内部への溶接による固定が可能であり、合成樹脂などの電気絶縁材料を導電端子ピンなどの部品に嵌め込むものと比べて製造が確実かつ容易になる。また、実施例において保護板は強度を得るために導電端子ピンをまたぐように構成した両持ち梁形状の金属板で構成されているが、慣性子の質量や想定される衝撃などに対して充分な強度を得られるのであれば片持ち梁形状であってもいい。
【0038】
実施例においてハウジング底面に設けられた段部はその内周面に沿ってハウジングを円周状に成形しているが、例えば円環状に成形してもよいし、リング状の別部品を溶接や嵌入によって固定してもよい。
【0039】
上述した各実施例では慣性子として重量と強度を兼ね備えた鋼球が使用されているが、材質はこれに限るものではなく、可動接点を駆動させるために充分な質量と硬度を持ちひずみの無い球体形状をしていればよい。また構造上、慣性子への通電は必要ないことから、絶縁材料を使用してもよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の転倒スイッチによれば、商用電源を有する家庭用のファンヒーターなどの燃焼器による転倒検出のための電気信号の開閉はもちろん、たとえば携帯用のストーブやファンヒーターなど電池または熱電対の起電力などでの燃焼制御が求められる装置に使用して確実な動作を得ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1:転倒スイッチ
2:蓋板
3:ハウジング
3A:段部
3B:くぼみ
4:金属板
5:導電端子ピン
6:電気絶縁性充填材
7:固定接点支持体
8:固定接点
9:可動接点
10:可動接点支持体
11:鋼球
12:保護板(制限部材)