(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831179
(24)【登録日】2021年2月1日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 17/04 20060101AFI20210208BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20210208BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20210208BHJP
【FI】
B32B17/04 Z
B32B27/00 101
B32B7/027
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-59767(P2016-59767)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-170769(P2017-170769A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】金子 政秀
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 満
(72)【発明者】
【氏名】光永 敏勝
【審査官】
塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−051099(JP,A)
【文献】
特開平09−202663(JP,A)
【文献】
特開2014−193598(JP,A)
【文献】
特開2012−106480(JP,A)
【文献】
特開2015−233104(JP,A)
【文献】
特開2011−057884(JP,A)
【文献】
特開2012−056818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C39/00−73/34
B29D 1/00−29/10
33/00
99/00
B32B 1/00−43/00
B33Y10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状ガラスクロスの層と、硬化性シリコーン樹脂及び前記硬化性シリコーン樹脂100質量部に対する含有量が240〜1300質量部である熱伝導性充填材を含む熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層とが積層し、前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化度を70〜95%の範囲に予備硬化させた前駆シートを準備し、さらに前記前駆シートを、ロールの線圧50N/mm〜300N/mmのロールプレス装置を用いて連続的にプレス加工処理して巻き取る、高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法。
【請求項2】
帯状ガラスクロスの層が、帯状ガラスクロスの表面に、硬化性シリコーン樹脂と熱伝導性充填剤と有機溶剤とを含むスラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を塗布した後、有機溶剤を除去及び加熱したものである、請求項1記載の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法。
【請求項3】
前駆シートが、1層の帯状ガラスクロスの両面に、熱伝導性シリコーン樹脂組成物層が積層している、請求項1または2記載の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法。
【請求項4】
熱伝導性充填剤が、アグリゲート状の六方晶窒化ホウ素粉末である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品と、その冷却のために接合する、例えばヒートシンクのような冷却器との界面間に密着させ、電気的な絶縁性を保ちつつ、電子部品が発する熱を冷却器に伝える、特に高い熱伝導性を有する放熱シート製品を得るためのシート素材であって、ロール状に形成されているもの、即ち高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放熱シート製品は、電子材料分野において、発熱する電子部品の冷却のために様々な形状に加工された、電子部品と、例えばヒートシンクなどの冷却器との界面に密着させて使用されるシート状の製品である。放熱シート製品は、熱伝導性、電気絶縁性、ハンドリング性などの特性に優れることが求められており、一般的には、ガラスクロスなどの補強材と、熱伝導性及び電気絶縁性を有する充填材を含有するシリコーン樹脂(以下、熱伝導性シリコーン樹脂組成物と記載する)とを、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層がいずれも外側になるように積層させた前駆シートを準備し、さらに前記前駆シートの表面をプレス加工処理するなどして製造された放熱シート素材から、用途に適した形状に切り出し加工して得られた製品である。
【0003】
放熱シート製品は、電子部品の高電力化、或いはそれら電子部品を実装する基板や装置をさらに小型化しようとする要望に対応するため、高い電気絶縁性を保持させながらさらなる熱伝導率の向上が求められている。例えば3ACkV以上の絶縁破壊電圧を保持しつつ、熱伝導率が3W/mK以上の熱伝導性(本願では、「3W/mK以上の熱伝導性」を「高熱伝導性」という)を有する放熱シート製品の取得を目的とする場合には、高い熱伝導性を有する充填材を用いることは当然のことながら、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の内部に、熱伝導性や電気絶縁性の妨げとなる微少な空隙を内部に含まない放熱シート素材を製造する必要がある。そのため、これまで高熱伝導性の放熱シート素材を製造する場合には、熱伝導性シリコーン樹脂組成物内部の微少な空隙を可能な限り除くため、平板プレス装置を用い、枚葉状として準備した前駆シートを長時間加熱プレス加工処理する方法が採用されてきた。従って、この方法で得られる放熱シート素材は枚葉状となる。
【0004】
一方、放熱シート製品を放熱シート素材から切り出す工程等では、枚葉状よりも連続作業が可能な長尺ロール状の放熱シート素材を用いる方がより効率的である。但し放熱シート素材を長尺ロール状とするためには、工業的にはロールプレス装置を用いて製造することになるため、前駆シートを長時間プレス加工処理し、十分確実に脱気して放熱シート素材内部の微少な空隙を除くことは、実際には不可能であった。即ち、これまで高熱伝導性ロール状放熱シート素材の工業的な製造方法が確立されてなかった。
【0005】
放熱シート素材に関する従来の技術として、特許文献1には、熱伝導性、密着性共に優れ、オイルブリードもなく、大量生産に適し、且つ電子部品等の組立作業性を低下させない放熱用絶縁シートとして好適な、熱伝導性充填剤を含有し、アスカーC硬度が5〜50であり、且つ厚さが0.4mm以下であり、表面が粘着性である熱伝導性シリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層内に配置された少なくとも1枚の補強性シートと、前記シリコーンゴム層の粘着性を有する2つの表面の少なくとも一方に被覆された離型性保護シート層とを有してなる、熱伝導性複合シリコーンゴムシート素材が記載されている。
【0006】
また特許文献2には、熱伝導性及び柔軟性に優れた熱伝導性複合シート素材であって、大量生産に適しており、電子機器の組立作業にも適している、アスカーC硬度が5〜50であるシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層中に含まれた、直径0.3mm以上の孔を有する多孔性補強材層とを備えてなる熱伝導性複合シート素材が記載され、さらに熱伝導性充填材を含有し硬化後のアスカーC硬度が5〜50である液状付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物層の上、下又は内部に多孔性補強材層を配置し、次に前記組成物層と多孔性補強材層とを上下から加熱下でプレス成形する工程を有する、該シート素材の製造方法を提供することが記載されている。
【0007】
さらに特許文献3及び4には、補強材で補強されたフィラー含有樹脂シート素材、例えば放熱シート素材を押し出し法で製造する方法が記載されている。
【0008】
特許文献5には、熱伝導性に優れ、発熱性素子と放熱器の種々の隙間に設置可能で、組立作業に適合した熱伝導性複合シート素材の大量生産が容易な製造方法を見出すことを目的として、網目状補強材に熱伝導性充填剤配合のシリコーンゴムを被覆硬化させた放熱絶縁シートと、熱伝導性充填剤を配合した硬化後の硬さがアスカーF硬度計で10〜95の範囲である未硬化の付加型液状シリコーンゴムを一体化し、液状シリコーンゴムを成形硬化させ放熱絶縁シートと複合化することを特徴とする、熱伝導性複合シート素材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−001738号公報
【特許文献2】特開平07−266356号公報
【特許文献3】特開平08−336878号公報
【特許文献4】特開平07−125137号公報
【特許文献5】特開平06−155517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術に鑑み、高い電気絶縁性を保持しつつ高熱伝導性を両立する高熱伝導性放熱シート製品を得ることができ、さらに切り出し工程等の効率を上げることができるロール状とした放熱シート素材、即ち高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ロールプレス装置を使用して放熱シート素材を製造する場合には、帯状ガラスクロスと、シリコーン樹脂と熱伝導性充填材を含む前駆シートを、ロールプレス装置を用いてプレス加工処理する前に、適正範囲内に予備硬化させておくことが必要であり、さらにロールの線圧を適正に設定する必要があることを見出した。
【0012】
即ち、上記知見に基づいて完成した本発明は、帯状ガラスクロスの層と、硬化性シリコーン樹脂と熱伝導性充填材を含む熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層とが積層し、前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化度を70〜95%の範囲に予備硬化させた前駆シートを準備し、さらに前記前駆シートを、ロールの線圧50N/mm〜300N/mmのロールプレス装置を用いて連続的にプレス加工処理して巻き取る、高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法である。
【0013】
また本発明は、前記帯状ガラスクロスが、帯状ガラスクロスの表面に、硬化性シリコーン樹脂と熱伝導性充填剤と有機溶剤とを含むスラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を塗布した後、有機溶剤を除去及び加熱したものである、前記高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法である。
【0014】
また本発明は、前駆シートが、1層の帯状ガラスクロスの両面に、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層が積層している、前記高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法である。
【0015】
さらに本発明は、熱伝導性充填剤が、アグリゲート状の六方晶窒化ホウ素粉末である、前記高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施により、高い電気絶縁性を保持しつつ高熱伝導性を示す放熱シート製品を得ることができ、さらに切り出し工程等の効率を上げることができるロール状の放熱シート素材、即ち高熱伝導性ロール状放熱シート素材を、工業的な規模で市場に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】高熱伝導性ロール状放熱シート素材の前駆シートを、プレス加工処理する装置の一例を、横から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る高熱伝導性ロール状放熱シート素材において、その補強材となるのは帯状ガラスクロスである。帯状ガラスクロスは、高温窯で溶融したガラスの素地をノズルから高速で引き出した糸状のガラス長繊維を帯状に編んだ製品であり、電気的絶縁性に優れながら、柔軟性及び強度にも優れる素材である。なお、ガラス長繊維には熱処理が加えてあると不純物が少なくてより好ましく、また、ガラス長繊維にはシラン系カップリング剤による表面処理が施してあってもよい。帯状ガラスクロスの厚みや編み方、ガラス長繊維の種類や太さに特に制限はなく、一般に市販されている帯状ガラスクロスを使用することができる。但し、本発明の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法で用いられる帯状ガラスクロスとしては、厚みが0.04mm以上0.10mm以下の帯状ガラスクロスが好ましく用いられる。また、帯状ガラスクロスの幅や長さにも特に制限はないが、幅は通常5cm以上、200cm以下、長さは通常5m以上200m以下のものが好ましく用いられる。
【0019】
本発明に係る高熱伝導性ロール状放熱シート素材において、熱伝導性シリコーン樹脂組成物に用いられるシリコーン樹脂は、硬化性シリコーン樹脂である。硬化性シリコーン樹脂の種類に特に制限はないが、過酸化物硬化型、縮合反応硬化型、付加反応硬化型、紫外線硬化型の硬化性シリコーン樹脂が好適に使用可能である。また前記硬化性シリコーン樹脂の、硬化前の粘度としては、25℃で1000Pa・sec以上100000Pa・sec以下のものが好ましく使用できる。
【0020】
さらに、帯状ガラスクロスの層と熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層とが積層する形態、即ち帯状ガラスクロスの層や硬化性樹脂組成物の層の数に制限はない。但し、一般には、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層が最も外側に積層される形態が好ましい。複数の帯状ガラスクロスの層を有する場合、帯状ガラスクロスは全て同じ種類でなくてもよい。また組成の種類やその配合比率が異なるシリコーン樹脂組成物の層を重ね合わせたりするなど、ひとつの熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層の内部は必ずしも均一でなくてもよい。一般には、1層の帯状ガラスクロスの層の両面に、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層が積層する形態が好ましい。
【0021】
また、前記熱伝導性シリコーン樹脂組成物中に含まれる、熱伝導性充填材の種類に、特に制限はないが、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末、酸化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末、酸化ケイ素粉末、酸化亜鉛粉末等が使用可能であるが、熱伝導性および加工性の理由により、六方晶窒化ホウ素粉末が好ましい。さらに前記六方晶窒化ホウ素粉末の形態は、良好な熱伝導性を有する、鱗片状の一次粒子が配向せずに凝集してなるアグリゲート状であることが好ましい。
【0022】
熱伝導性シリコーン樹脂組成物においては、硬化性シリコーン樹脂成分の合計100質量部に対して、熱伝導性充填材を100〜1300質量部含有するものであることが好ましく、より好ましくは240〜730質量部である。熱伝導性充填材が100質量部未満の場合は、熱伝導率が低くなり、放熱性が低下する。一方、熱伝導性充填材が1300質量部より大きい場合は、硬化性シリコーン樹脂と熱伝導性充填材の混合が良好でなく、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層の厚みが不均一となることがある。
【0023】
また熱伝導性シリコーン樹脂組成物中には、本発明の実施を妨げない限り、及び放熱シート製品の物性低下を招かない限り、シランカップリング剤、着色剤、硬化性シリコーン樹脂の硬化触媒、過酸化物等を加えることも可能である。
【0024】
帯状ガラスクロスの層と熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層とを積層させる方法としては、例えば帯状ガラスクロスの表面に、有機溶剤をさらに含むスラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を塗布し、そのあとで加熱乾燥して有機溶剤を除去する方法が一般には好ましい。さらに、乾燥と同時に、硬化性シリコーン樹脂の硬化反応を進めることも可能である。
【0025】
前記スラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物中に含まれる、有機溶剤の種類は、硬化性シリコーン樹脂や熱伝導性充填剤と反応したり、分離しなければ特に制約はないが、スラリーの安定性や、有機溶剤の除去しやすさの観点から、例えばトルエンが好ましく用いられる。
【0026】
前記スラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物においては、硬化性シリコーン樹脂成分の合計100質量部に対して、有機溶剤を200〜250質量部含有するものであることが好ましく、より好ましくは220〜240質量部である。有機溶剤が200質量部未満の場合は、熱伝導性充填剤の割合が必要最小限の場合においても、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の粘度が高すぎて、所定の厚みに塗布することが困難である。一方、有機溶剤が250質量部より大きい場合は、熱伝導性充填剤の割合が最大限添加した場合においても熱伝導性シリコーン樹脂組成物の粘度が低く、帯状ガラスクロスから液だれするため放熱シートの製造が困難である。
【0027】
帯状ガラスクロス表面への、前記スラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を塗布する方法は、コンマコーター法、ロールコーター法等の公知の塗布方法を採用することができるが、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層の厚み精度を考慮すると、コンマコーター法が好ましい。なお、本発明では、スラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物は、帯状ガラスクロスの表裏両面に、同時に塗布しても、片面ずつ塗布してもよい。
【0028】
帯状ガラスクロスに塗布した、スラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物中に含まれる有機溶剤を、加熱乾燥して除去する方法に特に制限はないが、恒温器を用い、加熱乾燥する方法を好ましく採用することができる。
【0029】
帯状ガラスクロスの表面に塗布または積層させた、熱伝導性シリコーン樹脂組成物を所定範囲の硬化度まで予備硬化させる方法に特に制限はないが、恒温器での加熱乾燥する方法を好ましく採用することができる。従って、スラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物中に含まれる有機溶剤を加熱乾燥すると同時に予備硬化させることも可能である。なお、本願でいう熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化度は相対的な指数であり、
プレス加工処理する前の前駆シート、即ち熱伝導性シリコーン樹脂組成物を完全に硬化する前の硬度の測定値を、熱伝導性シリコーン樹脂組成物を完全硬化させて得られた放熱シート素材の硬度の測定値で除することにより得た値である。なお、ここでいう完全硬化させて得られた放熱シート素材とは、前駆シートをプレス加工処理し、同シートをさらに150℃で4時間加熱して得られた放熱シート素材である。なお、帯状ガラスクロスの層は、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の層に比べて相対的に著しく硬度が高いため、本願でいう硬化度は、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化の進行程度にのみ反映され、前駆シートのガラスクロスの層の厚みや、硬化性シリコーン樹脂の厚みが変化したり、前駆シートを重ねて硬度を測定しても、普遍的な値として算出される。
【0030】
本発明の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法においては、ロールプレス装置を用いてプレス加工処理する前の前駆シートの硬化度が70〜95%、好ましくは75〜85%となるように予備硬化させておく。前駆シートの予備硬化度が70%より小さい場合は、熱伝導性シリコーン樹脂組成物と、ロールプレス装置に備わるロールまたはロール付着防止用フィルムとが密着して剥がせなくなり、ロールプレス装置を用いた放熱シート素材の製造は困難である。なお、前記ロール付着防止用フィルムは、プレス加工処理時に、熱伝導性シリコーン樹脂組成物がロールに付着することを防止するために、予備硬化させたシリコーン樹脂組成物の表面を一時的に覆う、例えばポリエチレン樹脂製のフィルムである。前記ロール付着防止用フィルムは、シリコーン樹脂組成物に対しては剥離容易である特性を有し、本願の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法でも好ましく用いることができる。一方、前駆シートの予備硬化度が95%より大きい場合は、ロールプレス装置によるプレス加工処理を行っても熱伝導性シリコーン樹脂組成物内の微少な空隙を減少させることができず、放熱シート素材の電気絶縁性の向上が望めない。
【0031】
本発明の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法においては、帯状ガラスクロスへのスラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物の塗布及び塗布後の熱伝導性シリコーン樹脂組成物の乾燥及び予備硬化の順序は特に制限はない。例えば、塗布及び乾燥と予備硬化を片面ずつ実施しても良く、或いは両面同時に並列的に塗布及び乾燥と予備硬化を実施してもよい。
【0032】
本発明の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法において、ロールプレス装置を用いたプレス加工処理には、通常2本のロールを上下に備える装置が好ましく用いられる。前記ロールの直径や幅に特に制約はないが、十分にプレス加工処理するためには、一般にロールの直径200mm〜600mmであることが好ましい。また、プレス加工処理時のロール表面の周速に特に制約はないが、一般には0.1m/秒〜10m/秒であることが好ましい。0.1m/秒以下では生産性が低いといった問題があり、10m/秒以上では十分にプレス加工処理ができないという問題がある。さらにロールの表面温度は、通常0℃〜100℃であることが好ましい。0℃以下では前駆シートの熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化が進まず、100℃以上では、熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化が逆に過度に進むため、プレス加工処理中に空隙を減少させることができず、放熱シートの電気絶縁性の向上が望めない。
【0033】
また本発明において、プレス加工処理時のロールの線圧は、50N/mm〜300N/mmに設定する。ロールの線圧が50N/mmより小さいとプレス加工処理しても熱伝導性シリコーン樹脂組成物内の微少空隙を減少させることができず、放熱シート製品の電気絶縁性の向上が望めない。ロールの線圧が300N/mmより大きいと、放熱シート素材の補強材として用いている帯状ガラスクロスが破壊される。なお、前記ロールの線圧とは、ロールによるプレス荷重(単位;N)を、ロールの幅(単位:mm)で除した値であり、一般に用いられている装置ではプレス加工処理中においても変動を常に抑えるように自動制御されている。
【0034】
プレス加工処理した後の放熱シート素材の厚みは特に限定されないが、0.1〜1mm程度が一般的であり、薄すぎると電気絶縁性が低下し、厚すぎると熱伝導性が不足することから0.2〜0.45mmが好ましい。
【0035】
本発明の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法において、プレス加工処理が完了した段階における熱伝導性シリコーン樹脂組成物の硬化度は、80%〜100%であることが好ましい。80%以下であると輸送時などにシリコーン樹脂組成物表面に傷が生じる恐れがある。なお、プレス加工処理が終了した後に、シリコーン樹脂組成物完全に硬化してない(即ち硬化度が95%以上100%未満)場合には、さらにこれを二次加熱させて硬化度をさらに上げることも可能である。最終的な硬化度は98〜100%であることが好ましい。放熱シート素材のシリコーン樹脂組成物を最終的に好ましい硬化度まで硬化させる方法としては、一般的には二次加熱することが好ましい。例えば放熱シート素材を恒温器中に置いたり、温風加熱が好ましい。また、二次加熱は、放熱シー素材の表面間が融着しなければ、ロール状とした後に実施しても構わない。
【0036】
本発明の高熱伝導性ロール状放熱シート素材の製造方法において、ロールプレス装置を用いて得た、長尺帯状の放熱シートを巻き取る方法に特に制約はない。公知の巻取り機を好適に使用して、ロール状に巻き取ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例、比較例を挙げて更に具体的に説明するが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために記載するものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0038】
実施例1〜11、比較例1〜4
熱硬化性シリコーン樹脂であるポリオルガノシロキサンベースポリマー(旭化成・ワッカーシリコーン社製 商品名「LR3303/20」)100質量部と、熱伝導性充填剤であるアグリゲート状窒化ホウ素粉末(商品名「SGPS」、デンカ社製)350質量部と、有機溶剤であるトルエン500質量部とを攪拌機で15時間混合して分散させ、スラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を調製した。
【0039】
連続塗工機(製品名「コンマコーター(登録商標)」、ヒラノテクシード社製)を用いて、厚さ0.04mm、幅54cm、長さ50mのガラスクロス(製品名「H 25 F104」、ユニチカ社製)の片面(1層目)上に、前記スラリー状の熱伝導性シリコーン樹脂組成物を、塗布厚みが0.175mm、塗布幅が約50cmになるよう塗布し、さらに表1、2の条件で乾燥させた。その後、塗布した層とは反対側の面(2層目)に、前記シリコーン樹脂組成物を、1層目と同じ方法で、塗布厚みが0.175mm、塗布幅が約30cmになるよう塗布し、表1、2の条件で乾燥し、ロールプレス前の前駆シートを得た。
【0040】
前記プレス加工処理前の前駆シートを、直径30cmのロールプレス装置を用い、表1、2に示した条件でプレス加工処理して厚さ0.2mmとし、これを直径10cmの管に巻き取り後、さらに恒温器中で150℃で4時間加熱し、最終的なロール状放熱シート素材を得た。
【0041】
試作された実施例1〜11、比較例1〜4の放熱シート素材に関し、下記(1)〜(3)の項目について評価した。その結果を表1及び2に示す。
【0042】
(1)樹脂硬化度
ロールプレス装置によるプレス加工処理後、さらに150℃で4時間の加熱を行った後の放熱シート素材の硬度に対して、プレス加工処理前の前駆シートの硬度を除した値を樹脂硬化度(%)として算出した。それぞれの硬度は、25mm×25mmのサイズに切った前記放熱シート素材を高さ12mm以上となるように重ね、デュロメータタイプA(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0043】
(2)絶縁破壊電圧
JIS C2110に記載の方法に準拠し、実施例及び比較例の放熱シート素材の絶縁破壊電圧を、短時間破壊試験にて評価した。
【0044】
(3)熱伝導率
放熱シート素材の熱伝導率H(W/(m・K))は、放熱シート素材の厚み方向に対して評価した値であり、熱拡散率A(m
2/sec)と密度B(kg/m
3)、比熱容量C(J/(kg・K))から、H=A×B×Cとして算出した値である。
熱拡散率Aは、レーザーフラッシュ法により求めた。測定装置として、キセノンフラッシュアナライザー(「LFA447NanoFlash」NETZSCH社製)を用いた。なお、実施例、比較例の各放熱シート素材の測定用試料には、測定用レーザー光の反射防止のため両面にカーボンブラックを塗布し、幅10mm×長さ10mmに切り出し加工したものを用いた。
密度Bは、アルキメデス法を用いて求めた。
比熱容量Cは、JIS K 7123:1987に記載の方法に準拠して求めた。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1の実施例と表2の比較例から、本発明の高熱伝導性ロール状放熱シート素材は、高い熱伝導性と優れた電気絶縁性(絶縁破壊電圧)を示していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の高熱伝導性ロール状放熱シート素材は、高い熱伝導性と優れた電気絶縁性を有することから、急速に高性能化が進み作動温度が高まる電子部品から熱を効率よく放出させるためのTIM(Thermal Interface Material)などに使用できる。またロール状であることから、放熱シート製品とするための工業的な2次加工も効率的に実施することが可能である。