(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
設計上のビーム軌道に沿って配置され、前記ビーム軌道に沿って輸送されるイオンビームを加速させるよう構成される複数段の高周波共振器と、各段の高周波共振器の間に配置され、前記ビーム軌道と直交するx方向およびy方向の少なくとも一方にイオンビームを収束させ、輸送されるイオンビームの前記ビーム軌道と直交する平面視でのビームプロファイルを整えるよう構成される複数段の収束レンズと、を含む、多段線形加速ユニットと、
前記多段線形加速ユニットの途中に設けられ、前記ビーム軌道と直交する平面視において少なくとも前記ビーム軌道の中心付近を避けて配置され、前記イオンビームのうち前記ビーム軌道の中心付近のビーム部分を通過させる一方、前記イオンビームのうち前記ビーム軌道の中心付近より外側の別のビーム部分を遮蔽して電流量を計測するよう構成される電極体を含む第1ビーム計測部と、
前記多段線形加速ユニットの下流に設けられ、前記多段線形加速ユニットから出射されるイオンビームの電流量を計測するよう構成される第2ビーム計測部と、
前記第1ビーム計測部および前記第2ビーム計測部の計測結果に基づいて、前記第1ビーム計測部が計測する電流量が最小化し、前記第2ビーム計測部が計測する電流量が最大化するように、前記複数段の収束レンズの制御パラメータを調整するよう構成される制御装置と、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
前記制御装置は、前記第1ビーム計測部が計測する電流量が低減し、前記第2ビーム計測部が計測する電流量が増加するように前記電極体より上流側の収束レンズの制御パラメータを調整することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記第1ビーム計測部が計測する電流量が増加するように前記電極体より上流側の収束レンズの制御パラメータを調整した後、前記第1ビーム計測部が計測する電流量が低減し、かつ、前記第2ビーム計測部が計測する電流量が増加するように前記電極体より上流側の収束レンズの制御パラメータを調整することを特徴とする請求項2に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記電極体より上流側の収束レンズの制御パラメータを調整した後、前記第2ビーム計測部が計測する電流量が増加するように前記電極体より下流側の収束レンズの制御パラメータを調整することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記第1ビーム計測部および第2ビーム計測部にて同時に計測される前記第1ビーム計測部の計測結果である第1電流量と前記第2ビーム計測部の計測結果である第2電流量との比に基づいて前記複数段の収束レンズの制御パラメータを調整することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記電極体の開口は、前記多段線形加速ユニット内を輸送されるイオンビームの輸送効率が設計上最大化される場合に前記イオンビームが前記電極体の位置において有する理想ビームプロファイルに対応した形状を有することを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記第1ビーム計測部は、開口寸法の異なる複数の開口を有する単一の電極体、または、それぞれが開口寸法の異なる開口を有する複数の電極体を備え、前記ビーム軌道の中心付近に位置する開口の開口寸法を切り替え可能となるよう構成されることを特徴とする請求項7から11のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記電極体は、前記ビーム軌道の中心付近を通過するビーム部分の前記x方向の寸法および前記y方向の寸法の少なくとも一方が可変となるように構成されることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記電極体は、前記イオンビームのうち前記ビーム軌道の中心付近のビーム部分を通過させる一方、前記イオンビームのうち前記ビーム軌道の中心付近より外側の別のビーム部分を遮蔽する挿入位置に前記電極体が配置される状態と、前記イオンビームが前記電極体により遮蔽されない退避位置に前記電極体が配置される状態との間で移動可能となるよう構成されることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記電極体が前記挿入位置に配置された状態で前記複数段の収束レンズの制御パラメータを調整し、前記電極体が前記退避位置に配置された状態でウェハへのイオン注入処理を実行することを特徴とする請求項14に記載のイオン注入装置。
前記制御装置は、前記電極体が前記挿入位置に配置された状態でウェハへのイオン注入処理を実行し、前記第1ビーム計測部の計測結果に基づいてウェハに照射されるイオンビームをモニタすることを特徴とする請求項14に記載のイオン注入装置。
前記多段線形加速ユニットは、複数段の周波数共振器を有する第1線形加速器と、前記第1線形加速器の下流に設けられ、複数段の周波数共振器を有する第2線形加速器とを含み、
前記電極体は、前記第1線形加速器と前記第2線形加速器の間の位置に設けられることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記第1ビーム計測部は、前記複数段の高周波共振器の異なる段数に対応する位置にそれぞれが配置される複数の電極体を含み、前記複数の電極体のそれぞれは、前記ビーム軌道と直交する平面視において少なくとも前記ビーム軌道の中心付近を避けて配置され、前記イオンビームのうち前記ビーム軌道の中心付近のビーム部分を通過させる一方、前記イオンビームのうち前記ビーム軌道の中心付近より外側の別のビーム部分を遮蔽して電流量を個別に計測するよう構成され、
前記制御装置は、前記複数の電極体のそれぞれで計測される電流量に基づいて前記複数段の収束レンズの制御パラメータを調整することを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
前記複数の電極体のそれぞれは、前記中心付近のビーム部分を通過させるための開口を有し、上流側に配置される電極体の開口寸法よりも下流側に配置される電極体の開口寸法が小さいことを特徴とする請求項19に記載のイオン注入装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
図1は、ある実施の形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。イオン注入装置100は、いわゆる高エネルギーイオン注入装置に適する。高エネルギーイオン注入装置は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置であり、イオンソース10で発生したイオンを加速し、そうして得られたイオンビームBをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハ40)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0013】
図1には、イオン注入装置100のビームライン部の構成要素のレイアウトが示されている。イオン注入装置100のビームライン部は、イオンソース10と、被処理物にイオン注入処理をするための処理室21と、を備えており、イオンソース10から被処理物に向けてイオンビームBを輸送するよう構成されている。
【0014】
図1に示すように、高エネルギーイオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段線形加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、基準軌道補正、エネルギー分散の制御を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハ40まで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニット20とを備える。
【0015】
イオンビーム生成ユニット12は、イオンソース10と、引出電極11と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオンソース10から引出電極11を通してビームが引き出されると同時に加速され、引出加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有している。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段線形加速ユニット14の入り口部内に配置している。質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段線形加速ユニット14に導かれる。
【0016】
図2は、高エネルギー多段線形加速ユニット14の概略構成を含む全体レイアウトを示す平面図である。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置、すなわち、一つ以上の高周波共振器を挟む加速ギャップを備えている。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高周波(RF)電場の作用により、イオンを加速することができる。
【0017】
高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の複数段の高周波共振器14aを備える第1線形加速器15aを備える。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器14aを備える第2線形加速器15bを備えてもよい。高エネルギー多段線形加速ユニット14により、さらに加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
【0018】
高周波(RF)加速を用いたイオン注入装置においては、高周波のパラメータとして電圧の振幅V[kV]、周波数f[Hz]を考慮しなければならない。更に、複数段の高周波加速を行う場合には、お互いの高周波の位相φ[deg]がパラメータとして加わる。加えて、加速の途中や加速後にイオンビームの上下左右への広がりを収束・発散効果によって制御するための磁場レンズ(例えば、四極電磁石)や電場レンズ(例えば、電場四極電極)が必要であり、それらの運転パラメータは、そこを通過する時点でのイオンのエネルギーによって最適値が変わることに加え、加速電界の強度が収束・発散に影響を及ぼすため、高周波のパラメータを決めた後にそれらの値を決めることになる。
【0019】
図3は、複数の高周波共振器先端の加速電場(ギャップ)を直線状に並べた高エネルギー多段線形加速ユニット及び収束発散レンズの制御部50の構成を示すブロック図である。
【0020】
高エネルギー多段線形加速ユニット14には一つ以上の高周波共振器14aが含まれている。高エネルギー多段線形加速ユニット14の制御に必要な構成要素としては、オペレータが必要な条件を入力するための入力装置52、入力された条件から各種パラメータを数値計算し、更に各構成要素を制御するための制御演算装置54、高周波の電圧振幅を調整するための振幅制御装置56、高周波の位相を調整するための位相制御装置58、高周波の周波数を制御するための周波数制御装置60、高周波電源62、収束発散レンズ64のための収束発散レンズ電源66、運転パラメータを表示するための表示装置68、決定されたパラメータを記憶しておくための記憶装置70が必要である。また、制御演算装置54には、あらかじめ各種パラメータを数値計算するための数値計算コード(プログラム)が内蔵されている。
【0021】
高周波線形加速器の制御演算装置54では、内蔵している数値計算コードによって、入力された条件を基にイオンビームの加速並びに収束・発散をシミュレーションし、最適な輸送効率が得られるよう高周波パラメータ(電圧振幅、周波数、位相)を算出する。また同時に、効率的にイオンビームを輸送するための収束発散レンズ64のパラメータ(Qコイル電流、またはQ電極電圧)も算出する。計算された各種パラメータは、表示装置68に表示される。高エネルギー多段線形加速ユニット14の能力を超えた加速条件に対しては、解がないことを意味する表示が表示装置68に表示される。
【0022】
電圧振幅パラメータは、制御演算装置54から振幅制御装置56に送られ、振幅制御装置56が、高周波電源62の振幅を調整する。位相パラメータは、位相制御装置58に送られ、位相制御装置58が、高周波電源62の位相を調整する。周波数パラメータは、周波数制御装置60に送られる。周波数制御装置60は、高周波電源62の出力周波数を制御するとともに、高エネルギー多段線形加速ユニット14の高周波共振器14aの共振周波数を制御する。制御演算装置54はまた、算出された収束発散レンズパラメータにより、収束発散レンズ電源66を制御する。
【0023】
イオンビームを効率的に輸送するための収束発散レンズ64は、高周波線形加速器の内部あるいはその前後に、必要な数が配置される。すなわち、複数段の高周波共振器14aの先端の加速ギャップの前後には交互に発散レンズまたは収束レンズが備えられている。また、第2線形加速器15bの終端の横収束レンズの後方には追加の縦収束レンズが配置され、高エネルギー多段線形加速ユニット14を通過する高エネルギー加速イオンビームの収束と発散を調整して、後段のビーム偏向ユニット16に最適な二次元ビームプロファイルのイオンビームを入射させるようにしている。
【0024】
図1に示されるように、ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルター電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ウェハ40の方向へ向かう。
【0025】
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームBを輸送するものであり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルター38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段線形加速ユニット14との長さに合わせて設計されており、ビーム偏向ユニット16で結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0026】
ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板処理供給ユニット20が設けられており、処理室21の中に、イオンビームBのビーム電流、位置、注入角度、収束発散角、上下左右方向のイオン分布等を計測するビームモニター、イオンビームBによるウェハ40の帯電を防止する帯電防止装置、ウェハ40を搬入搬出し適正な位置・角度に設置するウェハ搬送機構、イオン注入中ウェハ40を保持するESC(Electro Static Chuck)、注入中ビーム電流の変動に応じた速度でウェハ40をビームスキャン方向と直角方向に動かすウェハスキャン機構が収納されている。
【0027】
このようにして、イオン注入装置100のビームライン部は、対向する2本の長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインに構成されている。上流の長直線部は、イオンソース10で生成したイオンビームBを加速する複数のユニットから成る。下流の長直線部は、上流の長直線部に対し方向転換されたイオンビームBを調整してウェハ40に注入する複数のユニットから成る。2本の長直線部はほぼ同じ長さに構成されている。2本の長直線部の間に、メンテナンス作業のために十分な広さの作業スペースR1が設けられている。
【0028】
このように各ユニットをU字状に配置した高エネルギーイオン注入装置100は、設置面積を抑えつつ良好な作業性が確保されている。また、高エネルギーイオン注入装置100においては、各ユニットや各装置をモジュール構成とすることで、ビームライン基準位置に合わせて着脱、組み付けが可能となっている。
【0029】
また、高エネルギー多段線形加速ユニット14と、ビーム輸送ラインユニット18とが折り返して配置されるため、高エネルギーイオン注入装置100の全長を抑えることができる。従来装置ではこれらがほぼ直線状に配置されている。また、ビーム偏向ユニット16を構成する複数の偏向電磁石の曲率半径は、装置幅を最小にするように最適化されている。これらによって、装置の設置面積を最小化するとともに、高エネルギー多段線形加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間に挟まれた作業スペースR1において、高エネルギー多段線形加速ユニット14やビーム輸送ラインユニット18の各装置に対する作業が可能となる。また、メンテナンス間隔が比較的短いイオンソース10と、基板の供給/取出が必要な基板処理供給ユニット20とが隣接して配置されるため、作業者の移動が少なくてすむ。
【0030】
図4は、実施の形態に係る多段線形加速ユニット110の概略構成を示す断面図である。多段線形加速ユニット110は、上述の高エネルギー多段線形加速ユニット14に対応する。多段線形加速ユニット110は、第1線形加速器111と、第2線形加速器112とを備える。多段線形加速ユニット110には、第1ビーム計測部160と、第2ビーム計測部170とが設けられる。
【0031】
第1線形加速器111は、上流側に配置される加速ユニットであり、上述の第1線形加速器15aに対応する。第1線形加速器111は、ビーム軌道Zに沿って配置される複数段の高周波電極121〜123と、複数段のレンズ電極131〜134とを有する。複数段の高周波電極121〜123は、円筒形状の電極体であり、それぞれに高周波共振器14aが接続される。複数段のレンズ電極131〜134は、電場式の四重極電極であり、ビーム軌道(z方向)を囲うようにしてx方向およびy方向に対向して配置される。複数段のレンズ電極131〜134のそれぞれは、x方向にビームを収束させる横収束(縦発散)レンズまたはy方向にビームを収束させる縦収束(横発散)レンズとして機能する。
【0032】
第1線形加速器111において、複数段の高周波電極121〜123および複数段のレンズ電極131〜134は、ビーム軌道Zに沿って交互に配置されている。加速対象となるイオンビームBが入射する第1線形加速器111の入口にレンズ電極131が配置され、第1線形加速器111の出口にもレンズ電極134が配置される。隣接するレンズ電極の間には各段の高周波電極121,122,123が配置される。図示する例では、三段の高周波電極121〜123が設けられ、四段のレンズ電極131〜134が設けられている。なお、高周波電極およびレンズ電極の段数は限られず、変形例においては図示する例とは異なる段数で構成されてもよい。
【0033】
第2線形加速器112は、第1線形加速器111の下流側に配置され、ビーム軌道Zに沿って配置される複数段の高周波電極141〜146と、複数段のレンズ電極151〜157とを有する。第2線形加速器112は、第1線形加速器111と同様に構成されるが、下流側で相対的に高エネルギーのビームを効率的に加速できるように、高周波電極のビーム軌道Zに沿った長さが第1線形加速器111に比べて長くなっている。また、第2線形加速器112は、第1線形加速器111よりも多くの段数の高周波電極を有しており、図示する例では六段の高周波電極141〜146が設けられ、七段のレンズ電極151〜157が設けられている。なお、高周波電極およびレンズ電極の段数は限られず、変形例においては図示する例とは異なる段数で構成されてもよい。
【0034】
第1ビーム計測部160は、第1線形加速器111と第2線形加速器112の間に設けられ、第1線形加速器111から出射されるビームを計測する。第1ビーム計測部160は、ビームを検出する電極体164と、電極体164を移動させる第1駆動機構162とを有する。電極体164の中心付近には開口166が設けられており、中心付近が欠損している。電極体164は、ビーム軌道Zと直交する平面視(つまりxy平面視)においてビーム軌道Zの中心付近のビーム部分を通過させる一方、ビーム軌道の中心付近の外側で別のビーム部分を遮蔽するよう構成される。
【0035】
第1駆動機構162は、ビーム軌道Z上の挿入位置に電極体164が配置される状態と、ビーム軌道Zから離れた退避位置に電極体164が配置される状態との間で電極体164が移動可能となるよう構成される。第1駆動機構162は、電極体164を挿入位置に配置する場合、電極体164の開口166の中心とビーム軌道Zの中心とが一致するように電極体164を配置する。したがって挿入位置では、ビーム軌道の中心付近のビーム部分が開口166を通過し、ビーム軌道の中心付近より外側の別のビーム部分が電極体164により遮蔽される。
図4では、挿入位置に配置される電極体164を示している。第1駆動機構162は、電極体164を退避位置に配置する場合、輸送されるイオンビームの全体が電極体164に遮蔽されない位置まで電極体164を退避させる。例えば、ビーム軌道Zから離れる方向(x方向またはy方向)に高周波電極やレンズ電極の位置まで電極体164を退避させる。
【0036】
第2ビーム計測部170は、多段線形加速ユニット110の下流に設けられ、第2線形加速器112から出射されるビームを計測する。第2ビーム計測部170は、ファラデーカップ174と、ファラデーカップ174を移動させる第2駆動機構172とを有する。ファラデーカップ174は、第2線形加速器112から出射されるイオンビームの全体を検出するよう構成される。これは、中心に開口166が設けられた電極体164とは対照的である。ファラデーカップ174は、上流側の電極体164が挿入位置にある場合、電極体164の開口166を通過したビーム部分を検出する。
【0037】
第2駆動機構172は、ビーム軌道Z上にファラデーカップ174が配置された挿入状態と、ビーム軌道Zから離れた位置にファラデーカップ174が配置された退避状態との間でファラデーカップ174を移動させる。第2駆動機構172は、多段線形加速ユニット110のパラメータ調整時にファラデーカップ174を挿入させ、多段線形加速ユニット110から出射されるイオンビームの電流量が計測できるようにする。第2駆動機構172は、イオン注入処理の実行時にファラデーカップ174を退避させ、多段線形加速ユニット110より下流にイオンビームが輸送されるようにする。
【0038】
図5(a)〜
図5(f)は、電極体164の構造を概略的に示す平面図であり、ビーム軌道Zに直交するxy平面から見た電極体164を示す。電極体164は、図示されるような円形状を有しており、中心付近に開口166が設けられる。電極体164は、例えば
図5(a)に示すように、x方向とy方向の寸法が等しい円形の開口166を有する。電極体164は、
図5(b)または
図5(c)に示すように、x方向の寸法とy方向の寸法が異なる楕円形の開口166を有してもよい。電極体164は、
図5(d)〜(f)に示すように、矩形または四隅が丸みを帯びた略矩形の開口166を有してもよい。
【0039】
電極体164の開口166の形状は、電極体164の位置におけるイオンビームの設計上の理想ビームプロファイルに応じて決められる。ここで、「理想ビームプロファイル」とは、輸送効率が最大化されるようにイオンビームが輸送される場合に得られる理想的なビームプロファイルである。理想ビームプロファイルの形状は、例えば、多段線形加速ユニット110での輸送状態を電磁気学的にシミュレーションすることにより求めることができる。例えば、電極体164の位置における理想ビームプロファイルが相対的に横収束(縦発散)している場合、x方向の寸法よりy方向の寸法が大きくなるよう開口166の形状が決められる。一方、電極体164の位置における理想ビームプロファイルが相対的に縦収束(横発散)している場合、x方向の寸法よりy方向の寸法が小さくなるように開口166の形状が決められる。なお、電極体164の位置における理想ビームプロファイルが円形に近ければ、x方向とy方向の寸法が同じとなるように開口166の形状が決められる。
【0040】
電極体164の開口166は、電極体164の位置における理想ビームプロファイルの寸法と同じか、理想ビームプロファイルの寸法よりわずかに小さくなるように決められる。例えば、電極体164の開口166は、理想ビームプロファイルの寸法の80%、85%、90%または95%となるように決められる。電極体164の開口166は、理想ビームプロファイルの寸法よりわずかに大きくてもよく、例えば、理想ビームプロファイルの105%、110%、115%または120%の大きさであってもよい。開口166をこのような寸法にすることで、理想ビームプロファイルに近いビームの大部分を開口166を通じて通過させ、下流側のファラデーカップ174にて計測できる。また、理想ビームプロファイルから外れたビーム部分を電極体164により遮蔽し、遮蔽した部分をビーム電流量として定量的に計測できる。これにより、多段線形加速ユニット110の途中でビームの輸送状態を定量的に評価可能となる。
【0041】
図4では、多段線形加速ユニット110の内部を輸送されるイオンビームBのエンベロープB1,B2,B3を例示している。輸送されるイオンビームは、ビーム軌道Zと直交する平面(xy平面)内で広がりを有しており、x方向およびy方向にある程度の幅(ビーム径)を有している。xy平面視でのビームプロファイルは一定ではなく、ビーム軌道Zに沿ったz方向の位置によって変化する。ビームエンベロープは、z方向の位置に応じて変化するビームの外形位置を連続的につないだものであり、z方向の位置に応じてx方向およびy方向の幅が変化するチューブ形状を有する。
図4では、そのようなビームエンベロープのxz断面の形状を示している。
【0042】
多段線形加速ユニット110の複数段のレンズ電極は、輸送されるビームが理想ビームプロファイルを有するように制御パラメータが調整される。
図4において実線で示されるエンベロープB3は、輸送効率が最大化される理想的なエンベロープであり、電極体164の位置において理想ビームプロファイルが実現されるようなエンベロープである。理想的なエンベロープが実現される場合、多段線形加速ユニット110に入射するイオンビームBが高周波電極やレンズ電極に衝突することなく輸送される。一方、点線で示すエンベロープB1や破線で示すエンベロープB2の場合、入射するイオンビームBの一部が高周波電極やレンズ電極に衝突して損失となるため、輸送効率が低下する。また、イオンビームがこれらの電極に衝突することで電極をスパッタさせたり、電極に汚れを付着させ、付着した汚れを粒子として飛散させたりすることにより、ビームラインを汚染させる原因となる。したがって、高品質なイオン注入処理を実現するには、多段線形加速ユニット110におけるビームエンベロープを適切に制御することが不可欠である。
【0043】
多段線形加速ユニット110の調整では、まず、所望のビームエネルギーが得られるように各段の高周波共振器(高周波電極)の制御パラメータ(高周波パラメータ)が調整される。高周波パラメータの調整では、各段の高周波共振器の電圧振幅、周波数および位相が調整される。つづいて、理想的なビームエンベロープが得られるように各段の収束レンズ(レンズ電極)の制御パラメータ(レンズパラメータ)が調整される。本実施の形態では、レンズパラメータを調整する際、第1ビーム計測部160の計測結果である第1電流量と、第2ビーム計測部170の計測結果である第2電流量とを組み合わせて用いる。本実施の形態では、多段線形加速ユニット110の途中に設けられる第1ビーム計測部160の計測結果を用いることで、多段線形加速ユニット110の段数が多い場合であっても迅速かつ高精度のパラメータ調整が実現されるようにする。
【0044】
図6は、実施の形態に係るイオン注入方法を例示するフローチャートであり、レンズパラメータの調整方法を例示している。まず、第1線形加速器111および第2線形加速器112に含まれる収束レンズのレンズパラメータとして初期パラメータが設定される(S10)。この初期パラメータは、制御部50に含まれる記憶装置70に記憶されるパラメータであってもよいし、制御演算装置54による最適化計算によって算出されるパラメータであってもよい。つづいて、多段線形加速ユニット110の途中に配置される中心に開口166が設けられる電極体164を用いて第1ビーム電流(第1電流量)が計測される(S12)。また、多段線形加速ユニット110の下流に配置されるファラデーカップ174を用いて第2ビーム電流(第2電流量)が計測される(S14)。第1ビーム電流および第2ビーム電流の計測は同時に実行され、電極体164の開口166を通過したビームの全体または一部が下流のファラデーカップ174により計測される。
【0045】
つづいて、ビーム電流の計測結果に基づいてレンズパラメータを調整する。制御部50は、まず、電極体164により計測される第1電流量が最小化し、かつ、ファラデーカップ174により計測される第2電流量が最大化するように上流側の第1線形加速器111のレンズパラメータを調整する(S16)。言いかえれば、第1線形加速器111から出射されるビームの大部分が電極体164の開口166を通過するように第1線形加速器111のレンズパラメータを調整する。制御部50は、次に、ファラデーカップ174により計測される第2電流量が最大化するように下流側の第2線形加速器112のレンズパラメータを調整する(S18)。レンズパラメータの調整後、調整された制御パラメータにしたがってイオンビームを出射し、イオン注入処理を実行する(S20)。
【0046】
図7〜
図9は、第1ビーム計測部160および第2ビーム計測部170によるイオンビームの計測例を模式的に示し、S16の上流側の調整工程を模式的に示す。
図7は、初期パラメータに基づくイオンビームBの計測例を模式的に示し、最適化されていないビームエンベロープB1を示している。
図7に示す例では、電極体164の位置でのビーム径が開口166の寸法より大きいため、イオンビームBの多くが電極体164により遮蔽される。その結果、第1ビーム計測部160にて計測される第1電流量は比較的大きい値となる。一方、電極体164の開口166を通過するビーム部分は小さいため、第2ビーム計測部170にて計測される第2電流量は比較的小さな値となる。
【0047】
図8は、調整途中のイオンビームBの計測例を模式的に示し、最適化の途中のビームエンベロープB2を示している。
図8に示す例では、
図7の場合よりも電極体164の位置でのビーム径が小さくなっているため、電極体164により遮蔽されるビーム部分の割合が調整前よりも小さくなる。一方、電極体164の開口166を通過するビーム部分の割合が調整前よりも大きくなるため、第2ビーム計測部170にて計測される第2電流量は調整前よりも増加する。
【0048】
図9は、調整後のイオンビームBの計測例を模式的に示し、上流側にて最適化されたビームエンベロープB3を示している。レンズパラメータが最適化され、理想的なビームエンベロープが実現された場合、ビームBの全部または大半が電極体164の開口166を通過するため、第1ビーム計測部160にて計測される第1電流量は非常に小さくなる。一方、第2ビーム計測部170にて計測される第2電流量は最大化される。したがって、第1電流量が最小化され、第2電流量が最大化されるようにレンズパラメータを調整することで、
図9に示すような理想的なビームエンベロープが上流側で得ることができ、上流側でのビーム輸送効率を最大化できる。
【0049】
図10は、調整途中のイオンビームBの別の計測例を示し、上流側にて適切に調整されていないビームエンベロープB4を示している。
図10に示す例では、
図7の初期状態よりもビーム径が大きく拡がっており、ビームの多くが電極体164に到達せずに失われている状態を示している。この場合、電極体164により遮蔽されるビーム量が減少するため、第1ビーム計測部160にて計測される第1電流量は減少する。また、電極体164の開口166を通過するビーム量も小さいため、第2ビーム計測部170にて計測される第2電流量も小さな値となる。したがって、第1電流量が減少したとしても、第2電流量が増加せず減少してしまう場合には、適切な調整ができていないということになる。このような状態の場合、まず、第1電流量と第2電流量の双方が増加するようにレンズパラメータを調整して
図7に示すような状態に戻すことが必要である。その後、第1電流量が減少し、かつ、第2電流量が増加するようにレンズパラメータを調整することで、
図8や
図9に示す状態に調整できる。
【0050】
図11は、レンズパラメータの調整時に計測される電流量を概略的に示す図である。
図7の調整前の状態では、第1電流量I1が大きく、第2電流量I2が小さい。その結果、第1電流量I1と第2電流量I2の電流比I2/I1は大きくなる。
図8の調整中の状態では、第1電流量I1および第2電流量I2がともに中程度となるため、電流比I2/I1も中程度となる。
図9の調整後の状態では、第1電流量I1が小さく、第2電流量I2が大きいため、電流比I2/I1も大きくなる。一方、
図10の調整が不適切な状態では、第1電流量I1および第2電流量I2がともに小さいため、電流比は中程度I2/I1となる。したがって、第2電流量I2および電流比I2/I1がともに増加するようにレンズパラメータを調整することによってもビームエンベロープを最適化することができる。一方、第2電流量I2が減少する一方で、電流比I2/I1が増加するようにレンズパラメータが調整される場合、不適切な方向にパラメータ調整されていることが分かる。このように、第1電流量I1、第2電流量I2のみならず、これらの電流比I2/I1を指標にしてレンズパラメータの調整をしてもよい。
【0051】
図6のS20のイオン注入工程では、第2ビーム計測部170のファラデーカップ174が退避状態とされる。一方、第1ビーム計測部160の電極体164は挿入位置のまま維持される。したがって、イオン注入に用いられるビームは、電極体164の開口166を通過して出射される。電極体164を挿入したままとすることで、第1ビーム計測部160を用いて多段線形加速ユニット110の動作状態をモニタすることができる。多段線形加速ユニット110の動作が正常であれば、最適化されたビームエンベロープが維持されるため、第1ビーム計測部160にて検出される第1電流量は小さい。しかしながら、何らかの要因により最適条件から外れてビームエンベロープが変化した場合、その変化に応じて第1ビーム計測部160にて検出される第1電流量が変化することが考えられる。例えば、電極体164の位置のおけるビーム径が広がって第1電流量が増加するような場合である。その結果、第1電流量の変化量が所定の許容範囲内から逸脱する場合には、異常が発生したとみなしてイオン注入処理を中止してもよい。
【0052】
本実施の形態によれば、多段線形加速ユニット110の途中に設けられる電極体164を利用することで、段数の長い加速器であってもレンズパラメータの調整を高精度かつ迅速に行うことができる。比較例に係る調整方法では、多段線形加速ユニットの下流に設けられるファラデーカップのみを用いるため、高エネルギー化のために加速器の段数を長くすると、調整対象となる収束レンズの段数が増え、最適化計算にかなりの時間を要してしまう。また、加速ユニットの上流側に位置する収束レンズのパラメータ設定が不適切な場合、加速ユニットの下流まで十分な電流量のビームが到達しないこともあり、適切にビーム電流量を評価できないこともある。一方、本実施の形態では、段数の長い加速器の途中に電極体164を配置することで、電極体164より上流でのビーム輸送状態を高精度で検出し、上流側のレンズパラメータを好適に調整できる。上流側を調整した後に下流側の残りのレンズパラメータのみを調整することで、全体をまとめて最適化する場合よりも調整に要する時間を短縮化できる。
【0053】
本実施の形態によれば、上流側の電極体164の中心に開口166が設けられるため、加速器の途中と加速器の出口の両方で同時にビーム電流を計測することができる。同時計測を可能にすることで、下流側でのビーム計測のために上流側の電極体164を退避させる必要がなくなり、計測および調整にかかる時間を短縮化できる。また、イオン注入処理の間に電極体164を挿入したままにすることで、多段線形加速ユニット110内のビームをモニタリングしながらイオン注入処理を実行できる。
【0054】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0055】
(変形例1)
図12(a)及び
図12(b)は、変形例に係る電極体164の構造を概略的に示す平面図である。
図12(a)では、中心の開口166に対応する中心領域Aの内側だけでなく、開口領域Aの外側の一部において電極体164が欠けている。
図12(b)では、複数の電極片164a,164b,164c,164dにより電極体164が構成されており、中心領域Aを囲むようにして複数の電極片164a〜164dが配置される。図示する例のように、ビーム軌道Zの中心付近(中心領域A)においてビームが通過させることができ、かつ、中心領域Aの外側の少なくとも一部においてビームを遮蔽して電流量を検出できる構成であれば、電極体164は任意の形状を有していてもよい。
【0056】
(変形例2)
図13は、別の変形例に係る電極体164の構造を概略的に示す平面図である。
図13では、単一の電極体164に複数の開口166a,166b,166cが設けられている。それぞれの開口166a〜166cは、開口の寸法が異なるように形成されている。電極体164は、電極体164の位置をずらすことによってビーム軌道Zの中心に位置する開口を切り替えできるように構成される。本変形例によれば、レンズパラメータの調整過程において、調整に適したサイズの開口を選択することができる。例えば、出射されるイオンビームのエネルギーといった他のパラメータに応じて最適となるビームエンベロープが異なるような場合に調整に適したサイズの開口を用いることができる。これにより、レンズパラメータの調整の精度をより高めることができる。
【0057】
図13に示す変形例では、開口の形状が全て円形であるが、さらなる変形例では、単一の電極体に設けられる複数の開口の形状を変化させてもよい。例えば、横方向(x方向)に長い開口と縦方向(y方向)に長い開口を単一の電極体に設けてもよい。したがって、単一の電極体に設けられる複数の開口は、寸法および形状の少なくとも一方が互いに異なっていてもよい。
【0058】
(変形例3)
図14は、変形例に係る電極構造264を概略的に示す平面図である。電極構造264は、上述の実施の形態に係る電極体164の代わりに設けられる。電極構造264は、複数の電極体264a,264b,264cを有する。各電極体264a〜264cの中心付近には開口266a,266b,266cが設けられる。各電極体264a〜264cの開口266a〜266cは、互いに寸法が異なっている。図示する例では、上流側の電極体264aの開口266aが大きく、中間に位置する電極体264bの開口266bが次に大きく、下流側の電極体264cの開口266cが小さい。各電極体264a〜264cの開口266a〜266cは、互いに形状が異なっていてもよい。各電極体264a〜264cは、ビーム軌道Zに沿って並んで配置されており、それぞれが独立して挿入位置と退避位置の間で移動可能に構成される。本変形例によれば、ビーム軌道Z上に挿入させる電極体を切り替えることにより、レンズパラメータの調整に適切な形状および寸法の開口を用いることができる。
【0059】
(変形例4)
図15は、別の変形例に係る電極構造264を概略的に示す斜視図である。
図15では、ビーム軌道Zに沿って複数の電極体264d,264eが配置される。第1電極体264dは、縦方向(y方向)に細長いスリットを形成しており、スリットを挟んで対向する電極対が横方向(x方向)に変位することによりx方向のスリット幅が可変となるよう構成されている。第2電極体264eは、x方向に細長いスリットを形成しており、スリットを挟んで対向する電極対がy方向に変位することでy方向のスリット幅が可変となるよう構成されている。電極構造264は、ビーム軌道Zの中心付近を通過するビーム部分のx方向の寸法およびy方向の寸法の少なくとも一方が可変となるように構成される。本変形例によれば、第1電極体264dおよび第2電極体264eのスリット幅をそれぞれ変化させることにより、レンズパラメータの調整に最適となるように電極構造264の開口寸法を変えることができる。さらなる変形例では、
図15に示す電極体のいずれか一つのみを用いてもよいし、
図15に示す電極体と、実施の形態または他の変形例に係る電極体を組み合わせ用いてもよい。
【0060】
(変形例5)
上述の実施の形態では、第1線形加速器111と第2線形加速器112の間に第1ビーム計測部160を配置する例を示した。変形例においては、一続きの多段線形加速ユニットの途中に第1ビーム計測部160を配置してもよい。この場合、多段線形加速ユニットの段数の1/3の位置に第1ビーム計測部160を配置することが好ましい。例えば、全体が18段の加速ユニットであれば、上流側から数えて6段目付近に第1ビーム計測部160を配置することが好ましい。約1/3の段数の位置に配置することで、第1ビーム計測部160より上流側および下流側の調整のそれぞれを効率的に実施できる。
【0061】
(変形例6)
図16は、変形例に係る多段線形加速ユニット310の概略構成を示す断面図である。本変形例では、一つの多段線形加速ユニット310の段数の異なる複数の位置に対応して複数の第1ビーム計測部360a,360b,360cが配置される。多段線形加速ユニット310の下流には第2ビーム計測部370が配置される。図示する例では、全体で17段の高周波共振器が設けられ、4段目、8段目、12段目の3箇所に第1ビーム計測部360a,360b,360cが配置される。
【0062】
図示する例では、多段線形加速ユニット310が四つのユニットに分割されている。第1ユニット311には4段の高周波共振器と5段のレンズ電極が含まれる。第2ユニット312には4段の高周波共振器と5段のレンズ電極が含まれる。第3ユニット313には4段の高周波共振器と5段のレンズ電極が含まれる。第4ユニット314には5段の高周波共振器と6段のレンズ電極が含まれる。各ユニットの間の位置には、第1ビーム計測部360a,360b,360cが配置される。第1ビーム計測部360a,360b,360cのそれぞれの上流側と下流側にはレンズ電極が設けられる。
【0063】
本変形例では、第1ビーム計測部360a,360b,360cが設けられる位置を区切りとして上流側から順番にレンズパラメータが調整される。具体的には、最初に第1ユニット311の1〜5段目のレンズパラメータが調整され、次に第2ユニット312の6〜10段目のレンズパラメータが調整され、その次に第3ユニット313の11〜15段目のレンズパラメータが調整され、最後に第4ユニット314の16〜21段目のレンズパラメータが調整される。
【0064】
段数の異なる複数の位置に配置される複数の電極体364a,364b,364cは、それぞれが開口の形状および寸法の少なくとも一方が異なるよう構成されてもよい。例えば、各電極体が配置される位置における理想ビームプロファイルに合わせて開口の形状または寸法が異なっていてもよい。その他、上流から下流に向けて複数の電極体364a,364b,364cのそれぞれの開口366a,366b,366cの寸法が徐々に小さくなるようにしてもよい。下流に向けて開口寸法を小さくしていくことで、各電極体で検出される電流量からビームエンベロープの形状を推定することができる。
【0065】
(変形例7)
上述の実施の形態では、電極体164を挿入位置に配置したままイオン注入処理を実行する場合について示した。変形例においては、電極体164を退避位置に配置してイオン注入処理を実行してもよい。電極体164を退避させることで、電極体164によるビームの遮蔽を防ぎ、出射されるビーム電流量を最大化できる。
【0066】
(変形例8)
上述の実施の形態および変形例では、多段線形加速ユニットに含まれる四重極レンズが電場式である場合を示した。さらなる変形例においては、四重極レンズが磁場式であってもよい。