特許第6831252号(P6831252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831252
(24)【登録日】2021年2月1日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】透明ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20210208BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20210208BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20210208BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08L23/26
   C08F8/46
   C08F10/02
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-13037(P2017-13037)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-119101(P2018-119101A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−188603(JP,A)
【文献】 特開平02−286741(JP,A)
【文献】 特開平03−244662(JP,A)
【文献】 特開平05−214245(JP,A)
【文献】 特開平11−236471(JP,A)
【文献】 特開昭60−088016(JP,A)
【文献】 特開2002−179856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ポリアミド(A)99〜60重量%、および不飽和カルボン酸またはその誘導体によりグラフト変性された変性エチレン系重合体(B)1〜40重量%を含む透明ポリアミド樹脂組成物であり、
変性エチレン系重合体(B)における、変性前のエチレン系重合体(B')に対する不飽和カルボン酸またはその誘導体によるグラフト量が0.1〜10重量%の範囲であり、
変性前のエチレン系重合体(B')が高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(B'1)であり、かつ
該エチレン系重合体(B')の密度が、890〜925kg/m3である、透明ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
変性エチレン系重合体(B)のMFR(190℃,2.16kg過重)が、0.1〜100g/10分である請求項1に記載の透明ポリアミド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ポリアミドと変性エチレン系重合体を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透明ポリアミドは、ポリアミドの優れた特性(例えば、強度、剛性、耐摩耗性)を維持しつつ透明性に優れるため、透明性が必要とされる用途(例えばメガネフレーム、腕時計のバンド部材など)での検討が進められている(例えば特許文献1など参照。)。
この透明ポリアミドの検討が進められる用途によっては耐衝撃性を改良することが求められている。一般に、耐衝撃性を改良するためには、耐衝撃性に優れる重合体を添加する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−065371号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、透明ポリアミドに重合体を添加して使用する場合、透明ポリアミドが有する特徴の1つである透明性が大きく低下してしまうことが問題となる場合があった。本発明の課題は、透明ポリアミドが有する透明性を損なうことなく、衝撃強度等の機械特性を向上した透明ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の透明ポリアミド樹脂組成物は、透明ポリアミド(A)99〜60重量%、および不飽和カルボン酸またはその誘導体によりグラフト変性された変性エチレン系重合体(B)1〜40重量%を含む透明ポリアミド樹脂組成物であり、
変性エチレン系重合体(B)における、変性前のエチレン系重合体(B’)に対する不飽和カルボン酸またはその誘導体によるグラフト量が0.1〜10重量%の範囲であり、
変性前のエチレン系重合体(B’)が
高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(B’1)およびエチレン単位と炭素数3以上のα−オレフィン単位とを含むエチレン・α−オレフィン共重合体(B’2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体を含み、かつ該エチレン系重合体(B’)の密度が、890〜925kg/m3であることを特徴としている。
【0006】
変性前のエチレン系重合体(B’)が高圧ラジカル法低密度ポリエチレン、エチレン・1−ブテン共重合体、およびエチレン・1−ヘキセン共重合体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、変性エチレン系重合体(B)のMFR(190℃,2.16kg過重)は、0.1〜100g/10分であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、透明ポリアミドが有する透明性を損なうことなく、衝撃強度等の機械特性を向上した透明ポリアミド樹脂組成物が作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の透明性ポリアミド樹脂組成物は、透明ポリアミド(A)を含有する。透明ポリアミドは光透過性に優れるポリアミドであり、全光線透過率が85%以上、好ましくは90%以上のポリアミドである。
【0009】
透明ポリアミド(A)は、例えばジアミンとジカルボン酸とを縮合して得られる非晶性または微結晶性のポリアミドが挙げられる。
上記ジアミンとしては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,12−デカメチレンジアミン等の炭素数6〜14の直鎖状または分岐状の脂肪族ジアミン;
4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン(別名:ビス−(4−アミノ−シクロヘキシル)−メタン)、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルプロパン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサン、2,6−ビス(アミノメチル)−ノルボルナン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、ビス−(4−アミノ−3−メチル−シクロヘキシル)メタン(別名:4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン)、イソホロンジアミン等の炭素数6〜22の脂環式ジアミン;
m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)プロパン等の炭素数8〜22の芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらジアミンは1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0010】
上記ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、2,4,4−トリメチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカン二酸等の炭素数6〜22の直鎖状または分岐状の脂肪族ジカルボン酸;
シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、4,4′−ジカルボキシルジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジカルボキシルジシクロヘキシルメタン、4,4′−ジカルボキシルジシクロヘキシルプロパン、1,4−ビス(カルボキシメチル)シクロヘキサン等の炭素数6〜22の脂環式ジカルボン酸;
4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、イソフタル酸、トリブチルイソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタリンジカルボン酸、1,5−ナフタリンジカルボン酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、2,7−ナフタリンジカルボン酸、ジフェン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸等の炭素数8〜22の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらジカルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0011】
透明ポリアミド(A)は、ラクタムの開環重合、またはω−アミノカルボン酸の縮合などによっても得られる。
上記ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω−ラウリンラクタムなどが挙げられる。これらラクタムは1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0012】
上記ω−アミノカルボン酸としては、ω―アミノヘプタン酸、ω−アミノノナン酸などが挙げられる。これらω−アミノカルボンン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0013】
上記透明ポリアミド(A)の具体例としては、ポリ−ω―アミノヘプタン酸(PA7)、ポリウンデカンアミド(PA11)、ポリラウリンラクタム(PA12)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(PA6I)、ポリメタキシリレンイソフタラミド(PAMXDI)、ビス−(4−アミノ−3−メチル−シクロヘキシル)メタン(MACM)と1,10−デカンジカルボン酸との縮合で得られる単独重合体(PAMACM10)、MACMとセバシン酸との縮合で得られる単独重合体(PAMACM12)、ビス−(4−アミノ−シクロヘキシル)−メタン)(別名:4,4'−ジアミノジシクロヘキシルメタン)と1,10−デカンジカルボン酸との縮合で得られる単独重合体(PACM12)などのポリアミド単独重合体;
PA6I/6T、PAMXDI/6I、PAMXDI/MXDT/6I/6T、PAMXDI/12I、PAMACM12、PAMACMI/12、PAMACMI/MACMT/12、PA6I/MACMI/12、PA6I/6T/MACMI/MACMT、PA6I/6T/MACMI/MACMT/12、PAMACM6/11、PAMACMI/MACM12、PACMT/PACM10/610(ACMはビス−(4−アミノ−シクロヘキシル)−メタン)(4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン)の略)、PACMT/PACM10/614、PACMT/PACM14/614、PACMT/618、PACMT/12、PACMT/MACM14/12、PACMT/MACM14/614、PACMT/IPD14/614(IPDはイソホロンジアミンの略)、炭素数4〜12の脂肪族アルキレンジアミンと2,6−ナフタレンジカルボン酸との縮合物からなるポリアミド単位と炭素数4〜12の脂肪族アルキレンジアミンとイソフタル酸との縮合物からなるポリアミド単位を有する共重合体などのポリアミド共重合体が挙げられる。
【0014】
これら透明ポリアミド(A)の中でも、低吸水性、寸法安定性、電気特性、耐薬品性、耐油性、耐候性、耐黄変性、柔軟性などの点からは、PA610、PA612、PA11、PA12、およびPACM12が好ましい。
【0015】
上記透明ポリアミド(A)としては市販品を用いることもできる。市販品としては、トロガミド(Trogamid)CX7323、トロガミドT、トロガミドCX9701(商品名、以上、ダイセル・デグサ社)、グリルアミドTR−90、グリルアミドTR−155、グリボリーG21、グリルアミドTR−55LX(以上、エムスケミー・ジャパン社)、クリスタミドMS1100、クリスタミドMS1700(以上、アルケマ社)などが挙げられる。
【0016】
本発明の透明性ポリアミド樹脂組成物は、エチレン系重合体(B’)が不飽和カルボン酸またはその誘導体によりグラフト変性された変性エチレン系重合体(B)を含有する。
グラフト変性される原料となるエチレン系重合体(B’)は、高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(B’1)およびエチレン単位と炭素数3以上のα−オレフィン単位とを含むエチレン・α−オレフィン共重合体(B’2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体を含み、かつその密度は、890〜925kg/m3である。
【0017】
上記高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(B’1)は、エチレンをいわゆる高圧ラジカル重合法により重合して得られる長鎖分岐を有する分岐の多いポリエチレンである。
上記エチレン・α−オレフィン共重合体(B’2)に含まれるα−オレフィン単位となるαオレフィンは炭素数3以上のα−オレフィンであるが、好ましくは炭素数3〜18程度のα−オレフィンである。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも、1−ブテン、1−ヘキセンが好ましい。これらα−オレフィンは1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0018】
エチレン・α−オレフィン共重合体(B’2)のエチレン単位含有量は、好ましくは89〜99モル%、より好ましくは90〜98モル%、炭素数3以上のα−オレフィン含有量は、好ましくは11〜1モル%、より好ましくは10〜2モル%である。
【0019】
α−オレフィン含有量およびエチレン含有量が上記範囲にあることにより、グラフト変性後の変性エチレン・α−オレフィン共重合体の透明ポリアミドへの分散性に優れる傾向にある。
【0020】
エチレン・α−オレフィン共重合体(B’2)は、例えば、可溶性バナジウム化合物とアルキルアルミニウムハライド化合物とからなるバナジウム系触媒、ジルコニウムのメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物とからなるジルコニウム系触媒の存在下に、エチレンとα−オレフィンとをランダムに共重合させることによって調製することができる。
【0021】
上記エチレン系重合体(B’)の中でも、高圧ラジカル法低密度ポリエチレン、エチレン・1−ブテン共重合体、およびエチレン・1−ヘキセン共重合体が好ましい。
上記エチレン系重合体(B’)の密度は、890〜925kg/m3であるが、好ましくは890〜920kg/m3である。エチレン系重合体(B’)の密度が上記範囲にあることにより、グラフト変性後の変性エチレン・α−オレフィン共重合体の透明ポリアミドへの分散性に優れ、得られる樹脂組成物の透明性に優れる傾向にある。
【0022】
樹脂組成物作製時の取り扱い性などの観点から、変性前のエチレン系重合体(B’)のMFR(190℃,2.16kg過重)は、好ましくは0.5〜100g/10分、より好ましくは1〜90g/10分、さらに好ましくは1〜90g/10分である。
【0023】
変性エチレン系重合体(B)は、未変性のエチレン系重合体(B’)に不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト変性することによって得られる。
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、およびナジック酸(登録商標)(エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)等の不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。
【0024】
不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、上記不飽和カルボン酸の酸ハライド化合物、アミド化合物、イミド化合物、酸無水物およびエステル化合物などが挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体の具体例としては、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエートなどが挙げられる。
【0025】
これら不飽和カルボン酸またはその誘導体の中でも、不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好ましく、マレイン酸、ナジック酸(登録商標)またはこれらの酸無水物がより好ましく、マレイン酸またはマレイン酸酸無水物がさらに好ましい。
【0026】
未変性のエチレン系重合体(B’)のグラフト変性は、従来公知の種々の方法、例えば下記の方法により行うことができる。
(1)未変性のエチレン系重合体(B’)を溶融させて不飽和カルボン酸等を添加してグラフト変性(グラフト共重合)する方法。
(2)未変性のエチレン系重合体(B’)を溶媒に溶解させて不飽和カルボン酸等を添加してグラフト変性(グラフト共重合)グラフト共重合する方法。
【0027】
グラフト変性する際には、不飽和カルボン酸等を効率よくグラフト変性(グラフト共重合)させるために、ラジカル重合開始剤の存在下でグラフト変性することが好ましい一態様である。
【0028】
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシドベンゾエート)−3−ヘキシン、1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert―ブチルペルオキシド)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert―ブチルペルオキシド)ヘキサン、tert―ブチルペルベンゾエート、tert―ブチルペルフェニルアセテート、tert―ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペル−sec−オクトエート、tert−ブチルペルピバレート、クミルペルピバレート、tert−ブチルペルジエチルアセテート等の有機ペルオキシド;
アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレート等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0029】
これらラジカル重合開始剤の中でも、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルペルオキシドが好ましい。
【0030】
ラジカル重合開始剤は、未変性のエチレン系重合体(B’)100量部に対して、通常0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.5重量部、より好ましくは0.01〜0.3重量 部の量で用いられる。
【0031】
グラフト変性する際の反応温度は、通常60〜350℃、好ましくは150〜300℃の範囲である。
上記変性エチレン系重合体(B)における不飽和カルボン酸またはその誘導体のグラフト量は、未変性のエチレン系重合体(B’)100重量%に対して、0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%である。
【0032】
グラフト量が上記範囲にある変性エチレン系重合体(B)は、透明ポリアミドに対する分散性に優れるだけでなく、透明ポリアミドの透明性を損なうこともない。また、このような変性エチレン系重合体(B)を用いると、衝撃強度などの機械特性に優れた透明ポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0033】
透明ポリアミド(A)に対する分散性に優れるなどの観点から、変性エチレン系重合体(B)のMFR(190℃,2.16kg過重)は、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.3〜90g/10分、さらに好ましくは0.4〜80g/10分である。
【0034】
変性エチレン系重合体(B)の密度は透明ポリアミド(A)に対する分散性に優れるなどの観点から、好ましくは890〜925kg/m3、より好ましくは895〜920kg/m3である。
【0035】
本発明の透明ポリアミド樹脂組成物では、透明ポリアミド(A)99〜60重量%、および変性エチレン系重合体(B)1〜40重量%を含み、透明ポリアミド(A)95〜70重量%、および変性エチレン系重合体(B)5〜30重量%を含むことが好ましく、透明ポリアミド(A)90〜80重量%、および変性エチレン系重合体(B)10〜20重量%を含むことがより好ましい。このような量比で透明ポリアミド(A)と変性エチレン系重合体(B)とを含むことにより、透明ポリアミドの本来有する透明性を損なうことなく、衝撃強度等の機械特性に優れた透明ポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0036】
本発明の透明ポリアミド樹脂組成物には、上記透明ポリアミド(A)および変性エチレン系重合体(B)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光保護剤、亜燐酸塩系熱安定剤、過酸化物分解剤、塩基性補助安定剤、増核剤、可塑剤、潤滑剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、充填剤などの添加剤を含んでいてもよい。また、本発明の透明ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、透明ポリアミド(A)および変性エチレン系重合体(B)以外の他の重合体を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の透明ポリアミド樹脂組成物は、透明ポリアミド(A)、変性エチレン系重合体(B)、および必要に応じて配合される添加剤を、種々の従来公知の方法で溶融混合することにより調製される。例えば、上記透明ポリアミド樹脂組成物は、上記各成分を同時に、または逐次的に、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーミ キサー、リボンブレンダー等の混合機に投入して混合した後、得られた混合物を単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の溶融混錬装置で溶融混練することによって得られる。
【0038】
これら溶融混錬装置の中でも、多軸押出機、ニーダー、バンンバリーミキサー等の混練性能に優れた装置を使用すると、各成分がより均一に分散された高品質の透明ポリアミド樹脂組成物が得られる。また、混合、溶融混錬の任意の段階で必要に応じて上記添加剤、例えば酸化防止剤などを添加してもよい。
【0039】
上記のようにして得られる本発明の透明ポリアミド樹脂組成物は、従来公知の種々の溶融成形法、例えば射出成形、押出成形、圧縮成形、発泡成形などにより、種々の形状を有する所望の成形体とすることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた原料成分は以下の通りである。
【0041】
透明ポリアミド(A)
「微結晶性透明ポリアミド」:ダイセルエボニック社製、Trogamid(登録商標)CX7323、熱変形温度(荷重1.8MPa)105℃、密度;1024kg/m3
グラフト変性前のエチレン系重合体(B’)
三井化学(株)製のエチレン・1-ブテン共重合体(EBR)の4種類(B’−1)〜(B’−4)および(株)プライムポリマー社製のエチレン・1−ヘキセン共重合体(EHR)の2種類(B’−5)〜(B’−6)ならびに三井デュポンポリケミカル(株)社製の低密度ポリエチレン(B’−7)を用いた。なお(B’−3)の無水マレイン酸変性体のみ比較例で用い、その他の無水マレイン酸変性体は実施例で用いた。(B’−1)〜(B’−7)の性状は以下の通りであった。
・エチレン・1―ブテン共重合体(B’−1)エチレン含量92モル%、190℃、2.16kg荷重で測定したMFR18g/10分、密度893kg/m3
・エチレン・1―ブテン共重合体(B’−2)エチレン含量92モル%、190℃、2.16kg荷重で測定したMFR3.6g/10分、密度893kg/m3
・エチレン・1―ブテン共重合体(B’−3)エチレン含量88モル%、190℃、2.16kg荷重で測定したMFR18g/10分、密度885kg/m3
・エチレン・1―ブテン共重合体(B’−4)エチレン含量95モル%、190℃、2.16kg荷重で測定したMFR1.2g/10分、密度904kg/m3
・エチレン・1―ヘキセン共重合体(B’−5)エチレン含量96モル%、190℃、2.16kg荷重で測定したMFR10g/10分、密度910kg/m3
・エチレン・1―ヘキセン共重合体(B’−6)エチレン含量97モル%、190℃、2.16kg荷重で測定したMFR10g/10分、密度920kg/m3
・低密度ポリエチレン(B’−7)190℃、2.16kg荷重で測定したMFR10g/10分、密度920kg/m3
無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B)の各種物性の測定方法は以下の通りである。
【0042】
(測定用プレスシートの作製)
180℃に設定した神藤金属工業社製油圧式熱プレス機を用い、7.5MPaで圧力シート成形した。0.5〜3mm厚のシートの場合、無負荷での余熱を5分施し、7.5MPaで2分間加圧した後、20℃に設定した別の神藤金属工業社製油圧式熱プレス機を用い、7.5MPaで圧縮し、5分冷却して測定用試料を作成した。熱板は5mm厚の真鍮板を用いた。上記方法により作製したサンプルを用いて各種物性評価試料に供した。
【0043】
(MFR)
ASTM D2240に準拠して190℃、2.16kg荷重の条件でメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0044】
(密度)
ASTM D1505に準拠して、MFR測定で流出するストランド樹脂を使用して、密度勾配管法により密度を測定した。
【0045】
[無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B)の調製]
実施例で用いた無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−1)〜(B−3)および(B−5)〜(B−8)、ならびに比較例で用いた無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−4)の調製方法を以下に示す。
【0046】
[合成例1](B−1の調製方法)
エチレン・1−ブテン共重合体(B’−1)100質量%からなる樹脂組成物(C1)10kgと、無水マレイン酸(MAH)90g及び2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン(商品名パーヘキシン25B)4.5gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。次いで、得られたブレンド物を、スクリュー径30mm、L/D=42の軸押出機のホッパーから投入し、樹脂温度250℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量10kg/hrでストランド状に押し出した。得られたストランドを十分冷却した後、造粒することで、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−1)を得た。得られた(B−1)の物性測定結果を表1に示す。なお、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B)の変性度(無水マレイン酸グラフト量)は、FT−IRにてカルボニル基に帰属される波数1780cm-1ピーク強度に基づき、別途作成した検量線から求めた。
【0047】
[合成例2](B−2の調製方法)
前記(B−1)の調製方法において、MAH配合量を120g、パーヘキシン25B配合量を6gにした以外は合成例1と同様にして、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−2)を得た。得られた(B−2)の物性測定結果を表1に示す。
【0048】
[合成例3](B−3の調製方法)
前記(B−1)の調製方法において、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−1)の代わりに、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−2)を用いた以外は合成例1と同様にして、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−3)を得た。得られた(B−3)の物性測定結果を表1に示す。
【0049】
[合成例4](B−4の調製方法)
前記(B−1)の調製方法において、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−1)の代わりに、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−3)を用いた以外は合成例1と同様にして、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−4)を得た。得られた(B−4)の物性測定結果を表1に示す。
【0050】
[合成例5](B−5の調製方法)
前記(B−1)の調製方法において、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−1)の代わりに、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−4)を用いた以外は合成例1と同様にして、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−5)を得た。得られた(B−5)の物性測定結果を表1に示す。
【0051】
[合成例6](B−6の調製方法)
前記(B−1)の調製方法において、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−1)の代わりに、エチレン・1−ヘキセン共重合体(B’−5)を用いた以外は合成例1と同様にして、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−6)を得た。得られた(B−6)の物性測定結果を表1に示す。
【0052】
[合成例7](B−7の調製方法)
前記(B−1)の調製方法において、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−1)の代わりに、エチレン・1−ヘキセン共重合体(B’−6)を用いた以外は合成例1と同様にして、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−7)を得た。得られた(B−7)の物性測定結果を表1に示す。
【0053】
[合成例8](B−8の調製方法)
前記(B−1)の調製方法において、エチレン・1−ブテン共重合体(B’−1)の代わりに、低密度ポリエチレン(B’−7)を用いた以外は合成例1と同様にして、無水マレイン酸変性エチレン系重合体(B−8)を得た。得られた(B−8)の物性測定結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例1]
微結晶透明ポリアミド[ダイセルエボニック社製、商品名Trogamid CX7323]90質量部と、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−1)10質量部とを、ヘンシェルミキサーを用いて混合してドライブレンド物を調製した。次いで、このドライブレンド物を270℃に設定した2軸押出機(L/D=42、30mmφ)に供給し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを調製した。得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを80℃で12時間乾燥した後、下記条件で射出成形を行ない、物性試験用試験片を作製した。
【0056】
(射出成形条件)
シリンダー温度:270℃
射出圧力:400kg/cm2
金型温度:80℃
続いて、下記の方法により、ポリアミド樹脂組成物の物性評価を行なった。
【0057】
(2)曲げ試験
厚み1/8”の試験片を用い、ASTM D790に従って、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。なお、試験片の状態調製は、乾燥状態で23℃の温度で2日行なった。
【0058】
(3)アイゾット衝撃試験
厚み1/8”の試験片を用い、ASTM D256に従って、23℃および―30℃でノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。なお、試験片の状態調製は、乾燥状態で23℃の温度で2日行なった。
【0059】
(4)光学物性試験(内部ヘイズ、全光線透過率)
厚み2mmの角板試験片を用い、ASTM D1003に従って、内部ヘイズおよび全光線透過率を測定した。なお、試験片の状態調製は、乾燥状態で23℃の温度で2日行なった。
【0060】
[実施例2]
無水マレイン酸変性スチレン系ブロック共重合体(B−1)の代わりに無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−2)を用いた以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0061】
[実施例3]
透明ポリアミドの配合量を80重量部に、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−2)の配合量を20重量部に変更した以外は実施例2と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0062】
[実施例4]
無水マレイン酸変性スチレン系ブロック共重合体(B−1)の代わりに無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−3)を用いた以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0063】
[実施例5]
無水マレイン酸変性スチレン系ブロック共重合体(B−1)の代わりに無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−5)を用いた以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0064】
[実施例6]
透明ポリアミドの配合量を80質量部に、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−5)の配合量を20質量部に変更した以外は実施例5と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0065】
[実施例7]
無水マレイン酸変性スチレン系ブロック共重合体(B−1)の代わりに無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−6)を用いた以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0066】
[実施例8]
透明ポリアミドの配合量を80質量部に、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−6)の配合量を20質量部に変更した以外は実施例7と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0067】
[実施例9]
無水マレイン酸変性スチレン系ブロック共重合体(B−1)の代わりに無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−7)を用いた以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0068】
[実施例10]
無水マレイン酸変性スチレン系ブロック共重合体(B−1)の代わりに無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−8)を用いた以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。結果を表2に示した。
【0069】
[比較例1]
無水マレイン酸変性スチレン系ブロック共重合体(B−1)の代わりに無水マレイン酸変性ポリオレフィン(B−4)を用いた以外は実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を調製した。これらの結果を表2に示した。
【0070】
[参考例1]
透明ポリアミドそのもののペレットを80℃で12時間乾燥した後、上述した条件で射出成形を行ない、物性試験用試験片を作製した。その後、透明ポリアミドの物性評価を同様に行なった。結果を表2に示した。
【0071】
【表2】