特許第6831272号(P6831272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831272
(24)【登録日】2021年2月1日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】無線通信装置および無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 74/04 20090101AFI20210208BHJP
   H04W 72/04 20090101ALI20210208BHJP
   H04W 74/08 20090101ALI20210208BHJP
   H04W 88/06 20090101ALI20210208BHJP
   H04W 88/10 20090101ALI20210208BHJP
【FI】
   H04W74/04
   H04W72/04 111
   H04W74/08
   H04W88/06
   H04W88/10
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-43809(P2017-43809)
(22)【出願日】2017年3月8日
(65)【公開番号】特開2018-148487(P2018-148487A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年2月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、総務省、「複数周波数帯域の同時利用による周波数利用効率向上技術の研究開発」研究開発委託契約に基づく開発項目「複数無線周波数帯無線フレーム同時伝送技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501140452
【氏名又は名称】株式会社モバイルテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100131521
【弁理士】
【氏名又は名称】堀口 忍
(72)【発明者】
【氏名】薗部 聡司
(72)【発明者】
【氏名】夜船 誠致
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 敦彦
【審査官】 ▲高▼木 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−081544(JP,A)
【文献】 特開2016−187070(JP,A)
【文献】 特開2009−296579(JP,A)
【文献】 夜船 誠致 Masanori YOFUNE,電子情報通信学会2017年総合大会講演論文集 通信2 PROCEEDINGS OF THE 2017 IEICE GENERAL CONFERENCE,2017年 3月 7日,Page 236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 − 7/26
H04W 4/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数帯を利用してデータを伝送する無線通信システムにおいて使用される無線通信装置であって、
前記複数の周波数帯それぞれについてパケット衝突確率を推定するパケット衝突確率推定部と、
前記パケット衝突確率推定部により推定されるパケット衝突確率に基づいて前記複数の周波数帯それぞれについて送信時間を決定する送信時間決定部と、
前記送信時間決定部により前記複数の周波数帯それぞれについて決定された送信時間に基づいて共通送信時間を算出する共通送信時間算出部と、
前記複数の周波数帯それぞれにおいて、割り当てられたデータを前記共通送信時間で送信する送信回路と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記パケット衝突確率推定部は、前記複数の周波数帯それぞれについて、
無線チャネルの利用率を推定し、
無線信号の送信電力およびキャリア周波数に基づいて送信エリアのサイズを推定し、
前記無線チャネルの利用率および前記送信エリアのサイズからパケット衝突確率を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記送信時間決定部は、前記複数の周波数帯それぞれについて、Lがネットワーク管理者、またはネットワーク設計者により予め決定された許容可能なパケット衝突確率の閾値を表し、λがパケット衝突確率を表すときに、前記送信時間として下式を満足する時間Tの最大値を計算する
L≧1−e−λT
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記共通送信時間算出部は、前記送信時間決定部により前記複数の周波数帯それぞれについて決定された送信時間の平均に所定の係数を乗算することにより前記共通送信時間を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記共通送信時間算出部は、当該無線通信装置から送信される無線信号を受信する受信ノードにおける受信状況に応じて前記係数を変化させる
ことを特徴とする請求項4に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記複数の周波数帯それぞれについて通信品質を推定する通信品質推定部と、
前記複数の周波数帯それぞれについて推定される通信品質に基づいて、前記複数の周波数帯に対して通信方式をそれぞれ決定する通信方式決定部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記通信方式決定部は、前記複数の周波数帯それぞれについて、通信品質に基づいて決定した通信方式を、前記パケット衝突確率推定部により推定されるパケット衝突確率に基づいて補正する
ことを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記送信時間決定部は、前記複数の周波数帯それぞれについて、Lがネットワーク管理者、またはネットワーク設計者により予め決定された許容可能なパケット衝突確率の閾値を表し、λがパケット衝突確率を表すときに、前記送信時間として下式を満足する時間Tの最大値を計算し、
L≧1−e−λT
前記通信品質推定部は、前記複数の周波数帯それぞれについて、前記送信時間と無線チャネルの利用率の積に基づいてSINRを推定する
ことを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項9】
前記通信品質推定部は、前記複数の周波数帯それぞれについて、キャリア検知レベル以下の受信電力および無線チャネルの利用率から算出される干渉電力に基づいてSINRを推定する
ことを特徴とする請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項10】
複数の周波数帯を利用してデータを伝送する無線通信システムにおいて使用される無線通信方法であって、
前記複数の周波数帯それぞれについてパケット衝突確率を推定し、
前記パケット衝突確率に基づいて前記複数の周波数帯それぞれについて送信時間を決定し、
前記複数の周波数帯それぞれについて決定された送信時間に基づいて共通送信時間を算出し、
前記複数の周波数帯それぞれにおいて、割り当てられたデータを前記共通送信時間で送信する
ことを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の周波数帯を利用して信号を伝送する無線通信システムにおいて使用される無線通信装置および無線通信方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
CSMA/CA(Carrier Sensing Multiple Access with Collision Avoidance)方式を採用する無線通信システムでは、無線通信装置は、データ送信前にキャリア検知を行う。すなわち、無線通信装置は、他の無線通信装置により無線チャネルが使用されているか否かをモニタする。そして、他の無線通信装置により無線チャネルが使用されていなければ、無線通信装置は、所定の送信時間を利用してデータを送信する。「送信時間」は、この明細書では、1回の送信機会に無線チャネルを占有して無線信号を伝送する期間を表すものとする。
【0003】
ところで、近年、通信容量を大きくするために、複数の無線周波数帯を同時に利用してデータを伝送する通信方式が検討されている。例えば、920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯のうちの2つ以上の周波数帯を利用してデータが伝送されることがある。なお、複数の周波数帯を利用してデータを伝送する通信方式においては、周波数帯ごとに送信時間が決定される。
【0004】
また、周波数帯毎に送信時間を決定する技術として、各空き周波数帯の情報に基づいて単位時間に送信可能な情報量をそれぞれ算定すると共に、これに基づいて送信データの送信時間を各周波数帯毎に算定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−188425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CSMA/CA方式を採用する無線通信システムでは、上述のように、パケット衝突を回避するように送信制御が行われる。ただし、複数の無線通信装置が同じタイミングでデータ送信を開始するケースや、隠れ端末により互いの電波を検知できないケースでは、パケット衝突が発生し得る。そして、パケット衝突が発生すると、一時的に受信品質(例えば、SINR:Signal-to-Interference plus Noise Ratio)が劣化する。このとき、瞬時SINRが所要平均SINRを大きく下回ると、データ受信が失敗してデータ再送が必要となるので、スループットが低下してしまう。
【0007】
本発明の1つの側面に係わる目的は、複数の周波数帯を利用して信号を伝送する無線通信のスループットを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様の無線通信装置は、複数の周波数帯を利用してデータを伝送する無線通信システムにおいて使用される無線通信装置であって、前記複数の周波数帯それぞれについてパケット衝突確率を推定するパケット衝突確率推定部と、前記パケット衝突確率推定部により推定されるパケット衝突確率に基づいて前記複数の周波数帯それぞれについて送信時間を決定する送信時間決定部と、前記送信時間決定部により前記複数の周波数帯それぞれについて決定された送信時間に基づいて共通送信時間を算出する共通送信時間算出部と、前記複数の周波数帯それぞれにおいて、割り当てられたデータを前記共通送信時間で送信する送信回路と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述の態様によれば、複数の周波数帯を利用して信号を伝送する無線通信のスループットが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係わる無線通信システムの一例を示す図である。
図2】無線通信装置の一例を示す図である。
図3】送信時間および共有送信時間の決定の一例を示す図である。
図4】パケット衝突確率から送信時間を決定する方法の一例を示す図である。
図5】SINRの推定について説明する図である。
図6】送信回路の一例を示す図である。
図7】干渉電力を推定する方法の一例を示すフローチャートである。
図8】MCSおよび送信時間を決定する方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係わる無線通信システムの一例を示す。図1に示す無線通信システム1は、特に限定されるものではないが、例えば、無線LANシステムである。ただし、本発明の実施形態は、Bluetooth(登録商標)、WiMAX、携帯電話システム等の他の無線通信システムにも適用可能である。無線通信システム1は、無線通信装置2、3を含む。各無線通信装置2、3は、例えば、ユーザ端末である。ユーザ端末は、モバイル端末であってもよい。
【0012】
無線通信装置2、3は、複数の周波数帯を同時に利用してデータを伝送できる。この実施例では、無線通信装置2、3は、920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯のうちの2つ以上を同時に利用してデータを伝送できる。なお、無線通信装置2、3間の通信品質は、周波数帯ごとに異なる。よって、無線通信装置2、3は、周波数帯ごとに異なる変調方式および異なる符号でデータを伝送してもよい。
【0013】
図2は、無線通信装置の一例を示す。無線通信装置10は、図2に示すように、パケット衝突確率推定部11、送信時間決定部12、共通送信時間算出部13、通信品質推定部14、MCS(Modulation Coding Scheme)決定部15、送信回路16、アンテナ17を備える。なお、無線通信装置10は、図1においては、無線通信装置2または無線通信装置3に相当する。また、図2においては、データを送信するための機能が表されている。
【0014】
パケット衝突確率推定部11は、周波数帯f1〜f3それぞれについてパケット衝突確率を推定する。f1、f2、f3は、この例では、920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯に相当する。
【0015】
送信時間決定部12は、パケット衝突確率推定部11により推定されるパケット衝突確率に基づいて周波数帯f1〜f3それぞれについて送信時間を決定する。送信時間は、この明細書では、1回の送信機会に無線チャネルを占有して無線信号を伝送する期間を表すものとする。共通送信時間算出部13は、送信時間決定部12により周波数帯f1〜f3それぞれについて決定された送信時間に基づいて共通送信時間を算出する。
【0016】
通信品質推定部14は、周波数帯f1〜f3それぞれについて通信品質を推定する。この実施例では、通信品質推定部14は、周波数帯f1〜f3それぞれについてSINRを推定する。MCS決定部15は、周波数帯f1〜f3それぞれについて、通信品質推定部14により推定されるSINRに基づいてMCSを決定する。すなわち、周波数帯f1〜f3それぞれについて符号種別、符号化率、変調方式などが決定される。さらに、MCS決定部15は、必要に応じて、SINRに基づいて決定したMCSをパケット衝突確率に応じて補正してもよい。
【0017】
送信回路16には、共通送信時間算出部13から共通送信時間を表す情報が通知され、MCS決定部15から周波数帯f1〜f3のMCSを表す情報が通知される。そして、送信回路16は、周波数帯f1〜f3それぞれにおいて、割り当てられたデータから変調信号を生成する。そして、送信回路16は、共通送信時間を使用して、アンテナ17を介して各変調信号を送信する。
【0018】
なお、パケット衝突確率推定部11、送信時間決定部12、共通送信時間算出部13、通信品質推定部14、MCS決定部15は、デジタル信号を処理するプロセッサシステムまたはデジタル信号処理回路によって実現される。プロセッサシステムは、プロセッサエレメントおよびメモリを含み、与えられたプログラムを実行することによりパケット衝突確率推定部11、送信時間決定部12、共通送信時間算出部13、通信品質推定部14、MCS決定部15の機能を提供する。デジタル信号処理回路は、特に限定されるものではないが、例えば、FPGA(field-programmable gate array)により実現される。
【0019】
次に、パケット衝突確率推定部11、送信時間決定部12、共通送信時間算出部13、通信品質推定部14、MCS決定部15、送信回路16の機能についてそれぞれ具体的に記載する。なお、無線通信装置10は、2以上の任意の数の周波数帯を利用してデータを送信および受信できるが、以下の記載では、3つの周波数帯f1〜f3を利用してデータを送信および受信するものとする。
【0020】
パケット衝突確率推定部11は、周波数帯ごとにパケット衝突確率を推定する。この実施例では、パケット衝突確率推定部11は、無線チャネルの利用率、送信電力、キャリア周波数に基づいて、周波数帯ごとにパケット衝突確率を推定する。
【0021】
無線チャネルの利用率は、既知の方法で測定または推定され得る。例えば、特許第6029071号または特開2009−089052号公報に記載されている方法で利用率を測定または推定することができる。或いは、所定期間内にビジースロット数およびアイドルスロット数をカウントすることで利用率を測定してもよい。
【0022】
パケット衝突確率推定部11は、送信電力およびキャリア周波数に基づいて、自由空間伝搬を表す数式またはパスロスモデルを利用してセル半径を算出する。セル半径は、キャリア検知が可能な範囲に相当する。そして、パケット衝突確率推定部11は、周波数帯ごとに、無線チャネルの利用率およびセル半径に基づいてパケット衝突確率を推定する。なお、無線チャネルの利用率が高いほどパケット衝突確率が高くなり、セル半径が大きいほどパケット衝突確率が高くなる。
【0023】
送信時間決定部12は、周波数帯ごとに、パケット衝突確率に基づいて送信時間を決定する。例えば、送信時間決定部12は、パケット衝突確率が高い周波数帯に対して短い送信時間を決定し、パケット衝突確率が低い周波数帯に対して長い送信時間を決定する。図3(a)に示す例では、周波数帯f1のパケット衝突確率はやや低く、周波数帯f2のパケット衝突確率は非常に低く、周波数帯f3のパケット衝突確率は高くなっている。この場合、周波数帯f3に対して決定される送信時間t3は最も短く、周波数帯f1に対して決定される送信時間t1は送信時間t3と比較してやや長く、周波数帯f2に対して決定される送信時間t2は最も長くなる。
【0024】
送信時間決定部12は、所定の数式を利用してパケット衝突確率から送信時間を決定する。例えば、区間[0,t)においてパケット衝突が一度も発生しない確率Pは、下式で表される。tは、時間を表す。λは、パケット衝突確率を表す。
P=e−λt
【0025】
よって、区間[0,t)において1回以上のパケット衝突が発生する確率f(t)は、下式で表される。
f(t)=1−P=1−e−λt
【0026】
ここで、図4に示すように、許容可能な衝突確率の閾値Lが設定される。Lは、ゼロよりも大きく、1よりも小さい実数である。また、Lは、例えば、ネットワーク設計者、ネットワーク管理者、またはユーザにより決定される。そして、送信時間決定部12は、送信時間として、下式を満足する時間Tの最大値を計算する。
L≧1−e−λT
【0027】
例えば、周波数帯f1について推定されるパケット衝突確率(単位時間当たりの衝突回数)を上記数式のλに与え、時間Tの最大値を計算することにより、周波数帯f1に対して設定される送信時間t1が得られる。他の周波数帯についても同様である。なお、送信時間は、タイムスロットの個数で表されてもよいし、送信シンボルの個数で表されるようにしてもよい。
【0028】
送信時間決定部12は、演算により、パケット衝突確率から送信時間を算出できるが、他の方法で送信時間を求めてもよい。例えば、図4に示す閾値Lを利用してパケット衝突確率と送信時間との関係を予め決定し、その対応関係をルックアップテーブルに格納しておいてもよい。この場合、送信時間決定部12は、パケット衝突確率でルックアップテーブルを参照することにより対応する送信時間を決定する。
【0029】
共通送信時間算出部13は、各周波数帯について送信時間決定部12により決定された送信時間から共通送信時間を算出する。すなわち、周波数帯f1〜f3に対してそれぞれ決定された送信時間t1〜t3に基づいて共通送信時間が算出される。例えば、共通送信時間算出部13は、図3(b)に示すように、周波数帯f1〜f3に対してそれぞれ決定された送信時間t1〜t3の平均を求めることで共通送信時間Tcomを算出する。この場合、共通送信時間Tcomは、下式で表される。係数αの初期値は、例えば「1」である。
Tcom=α×(t1+t2+t3)/3
【0030】
共通送信時間算出部13は、無線通信装置10から送信される無線信号を受信する受信装置における受信状況に応じて係数αを変化させるようにしてもよい。例えば、共通送信時間算出部13は、受信ノードから通知されるAck/Nackメッセージを利用して係数αを動的に調整してもよい。
【0031】
受信ノードからAckメッセージが通知されるときは、共通送信時間算出部13は、通信品質が良好であり、且つ、パケット衝突が発生していないと判定する。この場合、共通送信時間算出部13は、係数αをΔαだけ大きくする。Δαは、1よりも十分に小さい正の値である。この結果、共通送信時間は長くなる。
【0032】
一方、受信ノードからNackメッセージが通知されるときは、共通送信時間算出部13は、パケット衝突が発生した可能性があると判定する。この場合、共通送信時間算出部13は、係数αをΔαだけ小さくする。この結果、共通送信時間は短くなる。
【0033】
通信品質推定部14は、周波数帯ごとに通信品質を推定する。この例では、通信品質推定部14は、周波数帯ごとにSINRを推定する。SINRは、図5に示すように、信号電力S、雑音電力(熱雑音)N、干渉電力I1、キャリア検知レベル以下の干渉電力I2から算出される。
【0034】
信号電力Sおよび雑音電力Nは、例えば、受信ノードにおいて測定される。この場合、通信品質推定部14は、受信ノードから測定結果を受け取ることにより、信号電力Sおよび雑音電力Nを検出する。また、無線通信装置10は、自分で干渉電力I2を測定することができる。例えば、無線通信装置10は、所定の周期で受信電力を繰り返し測定し、受信電力がキャリア検知レベル以下であったときの測定値を平均化することにより干渉電力I2を測定してもよい。なお、受信側において同様の方法で干渉電力I2を測定してもよい。この場合、無線通信装置10は、受信側で測定された干渉電力I2を取得する。
【0035】
干渉電力I1は、無線通信装置10が信号を送信しようとする周波数帯の利用率に依存する干渉成分を表す。よって、通信品質推定部14は、周波数帯の利用率を測定または推定し、得られた利用率に基づいて干渉電力I1を算出する。さらに、通信品質推定部14は、送信時間決定部12により決定された送信時間を周波数帯の利用率に乗算した結果を利用して干渉電力を推定してもよい。なお、特許第6029071号には、周波数帯の利用率からSINRを計算する方法の一例が記載されている。
【0036】
MCS決定部15は、周波数帯ごとに、通信品質推定部14により推定されたSINRに基づいてMCS(例えば、符号種別、符号化率、変調方式)を決定する。MCS決定部15によるMCSの決定の内容として、例えば、MCS決定部15は、通信品質の良好な周波数帯(即ち、SINRの大きい周波数帯)に対しては、多値度の高い変調方式を選択する。多値度は、1シンボルで伝送されるビット数を表す。また、MCS決定部15は、SINRの大きい周波数帯に対して高い符号化率の符号語を生成することができる。反対に、SINRの小さい周波数帯に対しては、多値度の低い変調方式が選択され、また、低い符号化率が設定される。
【0037】
さらに、MCS決定部15は、SINRに基づいて決定したMCSを、パケット衝突確率推定部11により推定されたパケット衝突確率に応じて補正してもよい。ここで、パケット衝突確率が高い周波数帯においては、干渉電力が大きくなることが予想される。したがって、パケット衝突確率が高い周波数帯においては、所要SINRが小さいMCSに変更されることが好ましい。所要SINRは、特に限定されるものではないが、例えば、ビット誤り率が所定の閾値よりも小さくなるために必要なSINRを表す。
【0038】
例えば、図3(a)に示す周波数帯f3に対して、SINRに基づいて16QAMが選択されたものとする。ここで、周波数帯f3のパケット衝突確率は高い。この場合、MCS決定部15は、周波数帯f3に対して先に決定してある変調方式をQPSKに変更してMCSを補正する。なお、16QAMと比較すると、QPSKの所要SINRは低い。或いは、MCS決定部15は、周波数帯f3に対してSINRに基づいて決定した符号種別を、より誤り訂正能力の高い符号種別に変更してMCSを補正してもよい。さらに、MCS決定部15は、周波数帯f3に対してSINRに基づいて決定した符号化率を低下させてもよい。
【0039】
図6は、送信回路16の一例を示す。この実施例では、送信回路16は、分配器21、符号化器22a〜22c、変調器23a〜23c、RF回路24a〜24cを備える。ただし、送信回路16は、図6に示していない他の回路要素を備えていてもよい。そして、送信回路16には、共通送信時間算出部13により算出される共通送信時間TcomおよびMCS決定部15により決定される各周波数帯についてのMCS情報が通知される。以下では、周波数帯f1〜f3に対して生成されたMCS情報をそれぞれMCS(f1)〜MCS(f3)と呼ぶことがある。
【0040】
分配器21は、共通送信時間TcomおよびMCS情報に基づいて送信データを符号化器22a〜22cに分配する。なお、分配器21による分配処理の実施例については後で説明する。
【0041】
符号化器22a〜22cは、それぞれ、MCS(f1)〜MCS(f3)に従って、分配器21から与えられるデータを符号化する。このとき、符号化器22a〜22cは、対応するMCS情報中の符号種別を表す情報および符号化率を表す情報に従って符号化処理を実行する。
【0042】
変調器23a〜23cは、それぞれ、MCS(f1)〜MCS(f3)に従って、符号化器22a〜22cから出力される符号化データから変調信号を生成する。このとき、変調器23a〜23cは、対応するMCS情報中の変調方式を表す情報に従って変調信号を生成する。
【0043】
RF回路24a〜24cは、それぞれ、変調器23a〜23cにより生成される変調信号を対応する周波数帯にアップコンバートする。この実施例では、RF回路24aは、変調器23aにより生成される変調信号を920MHz帯にアップコンバードし、RF回路24bは、変調器23bにより生成される変調信号を2.4GHz帯にアップコンバードし、RF回路24cは、変調器23cにより生成される変調信号を5GHz帯にアップコンバードする。そして、RF回路24a〜24cにより生成されるRF変調信号は、それぞれアンテナ17a〜17cを介して送信される。
【0044】
分配器21による分配処理の一例を説明する。ここでは、説明を簡潔にするために、以下の条件でデータが伝送されるものとする。
共通送信時間Tcom:1000シンボル時間
周波数帯f1:符号化率=1/3、変調方式=8PSK
周波数帯f2:符号化率=1/2、変調方式=16QAM
周波数帯f3:符号化率=1/2、変調方式=QPSK
【0045】
8PSKは、1シンボルで3ビットを伝送する。よって、周波数帯f1においては、共通送信時間Tcomに3000ビットを伝送する。すなわち、符号化器22aは、3000ビットの符号語を生成する。ここで、周波数帯f1に対して符号化率=1/3が設定されている。したがって、符号化器22aは、1000ビットの情報ビットおよび2000ビットのパリティから構成される符号語を生成する。
【0046】
16QAMは、1シンボルで4ビットを伝送する。よって、周波数帯f2においては、共通送信時間Tcomに4000ビットを伝送する。すなわち、符号化器22bは、4000ビットの符号語を生成する。ここで、周波数帯f2に対して符号化率=1/2が設定されている。したがって、符号化器22bは、2000ビットの情報ビットおよび2000ビットのパリティから構成される符号語を生成する。
【0047】
QPSKは、1シンボルで2ビットを伝送する。よって、周波数帯f3においては、共通送信時間Tcomに2000ビットを伝送する。すなわち、符号化器22cは、2000ビットの符号語を生成する。ここで、周波数帯f3に対して符号化率=1/2が設定されている。したがって、符号化器22cは、1000ビットの情報ビットおよび1000ビットのパリティから構成される符号語を生成する。
【0048】
送信データは、各符号語中に情報ビットとして格納される。よって、送信回路16は、1回の送信機会に4000ビットのデータを送信することができる。この場合、分配器21は、入力データを4000ビットずつ区切る。そして、分配器21は、各4000ビットデータユニットを1000ビットデータユニット、2000ビットデータユニット、1000ビットデータユニットに分割し、それぞれ符号化器22a、22b、22cへ分配する。
【0049】
このように、本発明の実施形態においては、各周波数帯におけるパケット衝突確率に基づいて各周波数帯の送信時間が仮決定され、それらを平均化することで全周波数帯に共通する送信時間が算出される。すなわち、1回の送信機会における送信時間は、パケット衝突確率を考慮して決定される。したがって、パケット衝突が抑制され、スループットが向上する。
【0050】
また、本発明の実施形態においては、各周波数帯の送信時間が共通化されるので、特定の周波数帯における伝送遅延に起因して全体の伝送遅延が大きくなることが回避される。例えば、図3(a)に示す例では、データ伝送全体の遅延は、周波数帯f2における送信時間t2に拘束される。これに対して、図3(b)に示す共有化を実行すれば、各周波数帯の共通送信時間Tcomは、送信時間t2よりも短くなる。このとき、一部の周波数帯の送信時間が短くなることに起因してその周波数帯のスループットが低下するが、他の周波数帯の送信時間が長くなるので、全体としてスループットの低下は回避される。
【0051】
なお、各周波数帯の送信時間を共通化すると、周波数帯によっては、通信特性が劣化することがある。例えば、図3に示す周波数帯f2においては、共通化により送信時間が短くなるので、伝送効率が低下することがある。また、周波数帯f3においては、共通化により送信時間が長くなるので、パケット衝突機会が増加することがある。したがって、無線通信装置10は、全周波数帯でのスループットが増加するように送信時間を調整する。この調整は、例えば、Ack/Nackメッセージを利用して係数αを変化させることで実現され得る。
【0052】
さらに、本発明の実施形態においては、各周波数帯のMCSは、通信品質(例えば、SINR)に基づいて仮決定された後、パケット衝突率に応じて補正される。このとき、パケット衝突率の高い周波数帯においては、必要に応じて、所要SINRの低いMCSに変更される。したがって、受信ノードにおけるビット誤りが抑制され、パケット再送の回数が少なくなる。この結果、スループットが向上する。
【0053】
図7は、干渉電力を推定する方法の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、例えば、無線通信装置10がデータ通信を開始する前に周波数帯ごとに実行される。
【0054】
S1〜S5において、通信品質推定部14は、受信電力を繰り返し測定することで、キャリア検知レベル以下の干渉電力I2および周波数帯の利用率を算出する。すなわち、受信電力がキャリア検知レベル以下であれば、通信品質推定部14は、キャリア検知レベル以下の干渉電力I2を算出する。例えば、キャリア検知レベル以下の受信電力の複数の測定値を平均化することにより、干渉電力I2が算出される。一方、受信電力がキャリア検知レベルよりも高いときは、通信品質推定部14は、モニタ対象の周波数帯が利用されていると判定する。したがって、S1における受信電力の測定の回数に対して、受信電力がキャリア検知レベルよりも高かった測定結果をカウントすることにより、周波数帯の利用率が推定される。ただし、通信品質推定部14は、他の方法で各周波数帯の利用率を推定してもよい。そして、所定回数の測定が終了すると、通信品質推定部14の処理はS6へ進む。
【0055】
S6において、通信品質推定部14は、周波数帯の利用率に基づいて干渉電力I1を算出する。そして、S7において、通信品質推定部14は、干渉電力I1と干渉電力I2とを足し合わせることにより干渉電力Iを算出する。この後、通信品質推定部14は、信号電力S、雑音電力N、干渉電力IからSINRを算出する。
【0056】
図8は、MCSおよび送信時間を決定する方法の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理も、無線通信装置10がデータ通信を開始する前に実行される。なお、S11〜S15の処理は、周波数帯ごとに実行される。
【0057】
S11において、パケット衝突確率推定部11は、信号の送信電力およびキャリア周波数に基づいて送信エリアのサイズを算出する。S12において、パケット衝突確率推定部11は、送信エリアのサイズおよび周波数帯の利用率からパケット衝突確率を推定する。周波数帯の利用率は、図7に示すフローチャートの処理で算出された結果を参照してもよい。
【0058】
S13において、送信時間決定部12は、パケット衝突確率に基づいて送信時間を決定する。送信時間は、例えば、図4を参照して説明した方法で算出される。S14において、MCS決定部15は、SINRに基づいてMCS(符号種別、符号化率、変調方式)を決定する。SINRは、図7に示すフローチャートの処理で算出された結果が参照される。S15において、MCS決定部15は、パケット衝突確率に基づいて、S14で決定したMCSを補正する。
【0059】
S16において、共通送信時間算出部13は、各周波数帯についてS13で決定された送信時間から、全周波数帯において共通して使用される送信時間を決定する。このとき、共通使用時間の初期値が決定される。なお、共通送信時間は、データ通信が開始された以降は、受信ノードにおける受信状況等に応じて適応的に調整される。そして、S17において、送信回路16は、共通送信時間および各周波数帯に対して設定されるMCSに基づいて、符号語中に格納されるデータ(すなわち、情報ビット)の長さを計算する。
【符号の説明】
【0060】
1 無線通信システム
2、3、10 無線通信装置
11 パケット衝突確率推定部
12 送信時間決定部
13 共通送信時間算出部
14 通信品質推定部
15 MCS決定部
16 送信回路
17、17a〜17c アンテナ
21 分配器
22a〜22c 符号化器
23a〜23c 変調器
24a〜24c RF回路
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8