【文献】
GOGOVA. D. et al.,Large-area free-standing GaN substrate grown by hydride vapor phase epitaxy on epitaxial lateral ove,Physica B,371(2006),133-139
【文献】
VENNEGUES Philippe, et al.,Study of the epitaxial relationships between III-nitrides and M-plane sapphire,Journal of Applied Physics,米国,2010年11月,vol.108, No.11,113521-1 - 113521-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
III族窒化物半導体結晶で構成され、表裏の関係にある露出した第1及び第2の主面はいずれも半極性面であり、室温下において、波長が325nmであり、出力が10mW以上40mW以下であるヘリウム−カドミウム(He−Cd)レーザーを照射し、面積1mm2単位でマッピングを行ったPL(photoluminescence)測定における前記第1及び第2の主面各々の発光波長の変動係数はいずれも0.05%以下であるIII族窒化物半導体基板。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法について図面を用いて説明する。なお、図はあくまで発明の構成を説明するための概略図であり、各部材の大きさ、形状、数、異なる部材の大きさの比率などは図示するものに限定されない。
【0012】
まず、III族窒化物半導体基板の製造方法の概要について説明する。特徴的な複数の工程を含む本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法によれば、MOCVD法で、サファイア基板上に、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を成長させることができる。結果、露出面がN極性側の半極性面となったIII族窒化物半導体層がサファイア基板上に位置するテンプレート基板や、当該テンプレート基板からサファイア基板を除去して得られるIII族窒化物半導体の自立基板が得られる。
【0013】
そして、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法によれば、上記テンプレート基板や自立基板上に、HVPE法で、N極性側の半極性面を成長面としてIII族窒化物半導体を厚膜成長させることができる。結果、露出面がN極性側の半極性面となったIII族窒化物半導体のバルク結晶が得られる。そして、バルク結晶をスライス等することで、III族窒化物半導体の自立基板が多数得られる。
【0014】
次に、III族窒化物半導体基板の製造方法を詳細に説明する。
図1に、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法の処理の流れの一例を示す。図示するように、基板準備工程S10と、熱処理工程S20と、先流し工程S30と、バッファ層形成工程S40と、第1の成長工程S50と、第2の成長工程S60とを有する。図示しないが、第2の成長工程S60の後に、切出工程を有してもよい。
【0015】
基板準備工程S10では、サファイア基板を準備する。サファイア基板10の直径は、例えば、1インチ以上である。また、サファイア基板10の厚さは、例えば、250μm以上である。
【0016】
サファイア基板の主面の面方位は、その上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位をコントロールする複数の要素の中の1つである。当該要素とIII族窒化物半導体層の成長面の面方位との関係は、以下の実施例で示す。基板準備工程S10では、主面が所望の面方位であるサファイア基板を準備する。
【0017】
サファイア基板の主面は、例えば{10−10}面、又は、{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面である。
【0018】
{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面は、例えば、{10−10}面を任意の方向に0°より大0.5°以下の中の何れかの角度で傾斜した面であってもよい。
【0019】
また、{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面は、{10−10}面をa面と平行になる方向に0°より大10.5°未満の中のいずれかの角度で傾斜した面であってもよい。または、{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面は、{10−10}面をa面と平行になる方向に0°より大10.5°以下の中のいずれかの角度で傾斜した面であってもよい。例えば、{10−10}面を所定の方向に所定角度傾斜した面は、{10−10}面をa面と平行になる方向に0.5°以上1.5°以下、1.5°以上2.5°以下、4.5°以上5.5°以下、6.5°以上7.5°以下、9.5°以上10.5°以下の中のいずれかの角度で傾斜した面であってもよい。
【0020】
熱処理工程S20は、基板準備工程S10の後に行われる。熱処理工程S10では、サファイア基板に対して、以下の条件で熱処理を行う。
【0021】
温度:800℃以上1200℃以下
圧力:30torr以上760torr以下
熱処理時間:5分以上20分以下
キャリアガス:H
2、又は、H
2とN
2(H
2比率0〜100%)
キャリアガス供給量:3slm以上50slm以下(ただし、成長装置のサイズにより供給量は変動する為、これに限定されない。)
【0022】
なお、サファイア基板に対する熱処理は、窒化処理を行いながら行う場合と、窒化処理を行わずに行う場合とがある。窒化処理を行いながら熱処理を行う場合、熱処理時に0.5slm以上20slm以下のNH
3がサファイア基板上に供給される(ただし成長装置のサイズにより供給量は変動する為、これに限定されない。)。また、窒化処理を行わずに熱処理を行う場合、熱処理時にNH
3が供給されない。
【0023】
熱処理時の窒化処理の有無は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位をコントロールする複数の要素の中の1つとなる場合がある。当該要素とIII族窒化物半導体層の成長面の面方位との関係は、以下の実施例で示す。
【0024】
先流し工程S30は、熱処理工程S20の後に行われる。先流し工程S30では、サファイア基板の主面上に以下の条件で金属含有ガスを供給する。先流し工程S30は、例えばMOCVD装置内で行われてもよい。
【0025】
温度:500℃以上1000℃以下
圧力:30torr以上200torr以下
トリメチルアルミニウム供給量、供給時間:20ccm以上500ccm以下、1秒以上60秒以下
キャリアガス:H
2、又は、H
2とN
2(H
2比率0〜100%)
キャリアガス供給量:3slm以上50slm以下(ただしガスの供給量は成長装置のサイズや構成により変動する為、これに限定されない。)
【0026】
上記条件は、金属含有ガスとして有機金属原料であるトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムを供給する場合のものである。当該工程では、トリメチルアルミニウムトリエチルアルミニウムに代えて他の金属を含有する金属含有ガスを供給し、アルミニウム膜に代えて、チタン膜、バナジウム膜や銅膜等の他の金属膜をサファイア基板の主面上に形成してもよい。また、有機金属原料から生成するメタン、エチレン、エタン等の炭化水素化合物との反応膜である炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化バナジウムや炭化銅等の他の炭化金属膜をサファイア基板の主面上に形成してもよい。
【0027】
先流し工程S30により、サファイア基板の主面上に金属膜や炭化金属膜が形成される。当該金属膜の存在が、その上に成長させる結晶の極性を反転させるための条件となる。すなわち、先流し工程S30の実施は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素の中の1つである。
【0028】
バッファ層形成工程S40は、先流し工程S30の後に行われる。バッファ層形成工程S40では、サファイア基板の主面上にバッファ層を形成する。バッファ層の厚さは、例えば、20nm以上300nm以下である。
【0029】
バッファ層は、例えば、AlN層である。例えば、以下の条件でAlN結晶をエピタキシャル成長させ、バッファ層を形成してもよい。
【0030】
成長方法:MOCVD法
成長温度:800℃以上950℃以下
圧力:30torr以上200torr以下
トリメチルアルミニウム供給量:20ccm以上500ccm以下
NH
3供給量:0.5slm以上10slm以下
キャリアガス:H
2、又は、H
2とN
2(H
2比率0〜100%)
キャリアガス供給量:3slm以上50slm以下(ただしガスの供給量は成長装置のサイズや構成により変動する為、これに限定されない。)
【0031】
バッファ層形成工程S40の成長条件は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位をコントロールする複数の要素の中の1つとなる場合がある。当該要素とIII族窒化物半導体層の成長面の面方位との関係は、以下の実施例で示す。
【0032】
また、バッファ層形成工程S40における成長条件(比較的低めの所定の成長温度、具体的には800〜950℃、および比較的低い圧力)は、N極性を維持しながらAlNを成長させるための条件となる。すなわち、バッファ層形成工程S40における成長条件は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素の中の1つである。
【0033】
第1の成長工程S50は、バッファ層形成工程S40の後に行われる。第1の成長工程S50では、バッファ層の上に、以下の成長条件でIII族窒化物半導体結晶(例:GaN結晶)をエピタキシャル成長させ、成長面が所定の面方位(N極性側の半極性面)となっているIII族窒化物半導体層(第1の成長層)を形成する。第1の成長層の厚さは、例えば、1μm以上20μm以下である。
【0034】
成長方法:MOCVD法
成長温度:800℃以上1025℃以下
圧力:30torr以上200torr以下
TMGa供給量:25sccm以上1000sccm以下
NH3供給量:1slm以上20slm以下
キャリアガス:H
2、又は、H
2とN
2(H
2比率0〜100%)
キャリアガス供給量:3slm以上50slm以下(ただしガスの供給量は成長装置のサイズや構成により変動する為、これに限定されない。)
成長速度:10μm/h以上
【0035】
第1の成長工程S50における成長条件(比較的低い成長温度、比較的低い圧力、比較的速い成長速度)は、N極性を維持しながらGaNを成長させるための条件となる。すなわち、第1の成長工程S50における成長条件は、サファイア基板の主面上にエピタキシャル成長されるIII族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素の中の1つである。
【0036】
以上により、
図2に示すような、サファイア基板21と、バッファ層22と、III族窒化物半導体層(第1の成長層23)とがこの順に積層し、第1の成長層23の成長面24の面方位がN極性側の半極性面となっているテンプレート基板20を製造することができる。また、製造条件を上記条件の範囲で調整することで、成長面24の面方位を所望の半極性面とすることができる。
【0037】
また、
図2に示すような、サファイア基板21と、バッファ層22と、III族窒化物半導体層(第1の成長層)23とがこの順に積層した積層体を得た後、サファイア基板21及びバッファ層22を除去することで、
図3に示すような第1の成長層23からなる自立基板10を製造することができる。
【0038】
サファイア基板21及びバッファ層22を除去する手段は特段制限されない。例えば、サファイア基板21と第1の成長層23との間の線膨張係数差に起因する応力を利用して、これらを分離してもよい。そして、バッファ層22を研磨やエッチング等で除去してもよい。
【0039】
その他の除去例として、サファイア基板21とバッファ層22との間に剥離層を形成してもよい。例えば、炭化物(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)が分散した炭素層、及び、炭化物(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)の層の積層体をサファイア基板21上に形成した後に、窒化処理を行った層を剥離層として形成してもよい。
【0040】
このような剥離層の上にバッファ層22及び第1の成長層23を形成した後、当該積層体を、第1の成長層23を形成する際の加熱温度よりも高い温度で加熱すると、剥離層の部分を境界にして、サファイア基板21側の部分と、第1の成長層23側の部分とに分離することができる。第1の成長層23側の部分から、バッファ層22等を研磨やエッチング等で除去することで、
図3に示すような第1の成長層23からなる自立基板10を得ることができる。
【0041】
第2の成長工程S60は、第1の成長工程S50の後に行われる。第2の成長工程S60では、上述したテンプレート基板20(
図2参照)の第1の成長層23、又は、自立基板10(
図3参照)の第1の成長層23の主面(N極性側の半極性面)上に、以下の成長条件でIII族窒化物半導体結晶(例:GaN結晶)をエピタキシャル成長させ、成長面が所定の面方位(N極性側の半極性面)となっているIII族窒化物半導体層(第2の成長層)を形成する。第2の成長層の厚さは、例えば、1.0mm以上である。
【0042】
成長方法:HVPE法
成長温度:900℃以上1100℃以下
成長時間:1時間以上
V/III比:1以上20以下
成長膜厚:1.0mm以上
【0043】
なお、第2の成長工程S60は、連続的に行うのでなく、複数のステップに分けて行ってもよい。例えば、HVPE法で所定膜厚まで成長した後、一旦冷却し、その後再びHVPE法で所定膜厚まで成長させてもよい。第1のステップでIII族窒化物半導体層を形成後、一旦冷却すると、当該III族窒化物半導体層にクラックが発生する。これにより、内部応力が緩和される。その後、クラックを有するIII族窒化物半導体層の上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させると、クラックを挟んで分かれた結晶どうしは成長にしたがい互いに会合する。そして、上記冷却により内部応力が緩和されているため、厚膜化してもバルク結晶に割れが生じにくい。
【0044】
また、第2の成長工程S60は、テンプレート基板20や自立基板10をカーボンサセプター等のサセプターに固着させた状態のままで行われてもよい。これにより、第2の成長工程S60での加熱によるテンプレート基板20や自立基板10の変形を抑制できる。なお、固着させる方法としては、アルミナ系の接着剤を用いる方法等が例示されるが、これに限定されない。これらの特徴的な方法により、最大径が50mm以上4インチ以下と大きい大口径のバルク結晶が実現される。
【0045】
以上により、テンプレート基板20と第2の成長層25とを有する積層体(
図4参照)、又は、自立基板10と第2の成長層25とを有する積層体(
図5参照)が得られる。
【0046】
第2の成長工程S60の後に行われる切出工程では、第1の成長層23及び第2の成長層25を含むバルク結晶から、スライス等でIII族窒化物半導体層を切り取ることで、III族窒化物半導体層からなる自立基板30(
図6参照)を得る。自立基板30の厚さは、例えば300μm以上1000μm以下である。スライス等で切り取られるIII族窒化物半導体層は、第2の成長層25のみからなってもよいし、第1の成長層23と第2の成長層25とを含んでもよいし、第1の成長層23のみからなってもよい。
【0047】
しかし、スライス等で切り取られるIII族窒化物半導体層は、第1の成長層23と第2の成長層25とを含むバルク結晶の内の成長厚さ(第1の成長層23の成長開始時点を0として数えた厚さ)3mm以上の部分であるのが好ましい。その理由は、結晶内の転位欠陥密度が概ね1×10
7cm
−2かそれ未満となり、デバイス用基板として適切な品質となるからである。
【0048】
次に、上記製造方法で得られた自立基板(III族窒化物半導体基板)30の構成及び特徴を説明する。
【0049】
自立基板30は、III族窒化物半導体結晶で構成され、表裏の関係にある露出した第1及び第2の主面はいずれも半極性面である。第1の主面をN極性側の半極性面とし、第2の主面をGa極性側の半極性面とする。自立基板30は、N極性側の半極性面を成長面としてエピタキシャル成長したIII族窒化物半導体結晶で構成される。
【0050】
以下の実施例で示すが、上記特徴的な製造方法で製造された自立基板30は、室温(10℃以上30℃以下)において、波長が325nmであり、出力が10mW以上40mW以下であるヘリウム−カドミウム(He−Cd)レーザーを照射し、面積1mm
2単位でマッピングを行ったPL測定における第1及び第2の主面各々の発光波長の変動係数がいずれも0.05%以下という特徴を有する。すなわち、第1及び第2の主面いずれも、発光波長の面内のばらつきがきわめて小さい。なお、発光波長の変動係数は、発光波長の標準偏差を発光波長の平均値で割ることで算出される。
【0051】
また、以下の実施例で示すが、上記特徴的な製造方法で製造された自立基板30は、上記条件で行ったPL測定における第2の主面(Ga極性側の半極性面)の発光強度の変動係数が15%以下、好ましくは10%以下という特徴を有する。すなわち、第2の主面は、PL測定における発光強度の面内のばらつきが小さい。なお、発光強度の変動係数は、発光強度の標準偏差を発光強度の平均値で割ることで算出される。
【0052】
また、以下の実施例で示すが、上記特徴的な製造方法で製造された自立基板30は、上記条件で行ったPL測定における第1及び第2の主面各々のPLスペクトルの半値幅の変動係数がいずれも3.0%以下という特徴を有する。すなわち、第1及び第2の主面いずれも、PL測定におけるPLスペクトルの半値幅の面内のばらつきが小さい。なお、PLスペクトルの半値幅の変動係数は、PLスペクトルの半値幅の標準偏差をPLスペクトルの半値幅の平均値で割ることで算出される。
【0053】
このように、上記特徴的な製造方法により、半極性面を主面とし、面内の光学特性のばらつきを抑えた自立基板30(III族窒化物半導体基板)が実現される。当該自立基板30の上に複数のデバイス(光学デバイス等)を作製することで、複数のデバイス間の品質のばらつきを抑制できる。また、歩留まりを向上させることができる。特に、自立基板30の第2の主面(Ga極性側の半極性面)上にデバイス(光学デバイス等)を作製することで、より好ましい効果が実現される。
【0054】
また、上述の通り、上記特徴的な製造方法で製造されたバルク結晶は、最大径が50mm以上4インチ以下と大きい。このような大口径のバルク結晶から切り出すことで得られる自立基板30も、最大径が50mm以上4インチ以下と大口径となる。
【0055】
<<実施例>>
<第1の評価>
第1の評価では、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素」のすべてを満たすことで、III族窒化物半導体層の成長面の面方位をN極性側の面にできることを確認する。また、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素」の中の少なくとも1つを満たさなかった場合、III族窒化物半導体層の成長面の面方位がGa極性側の面になることを確認する。
【0056】
まず、主面の面方位がm面((10−10)面)からa面と平行になる方向に2°傾斜した面であるサファイア基板を用意した。サファイア基板の厚さは430μmであり、直径は2インチであった。
【0057】
そして、用意したサファイア基板に対して、以下の条件で熱処理工程S20を実施した。
【0058】
温度:1000〜1050℃
圧力:100torr
キャリアガス:H
2、N
2
熱処理時間:10分または15分
キャリアガス供給量:15slm
【0059】
なお、熱処理工程S20の際に、20slmのNH
3を供給し、窒化処理を行った。
【0060】
その後、以下の条件で先流し工程S30を行った。
【0061】
温度:800〜930℃
圧力:100torr
トリメチルアルミニウム供給量、供給時間:90sccm、10秒
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0062】
その後、以下の条件でバッファ層形成工程S40を行い、AlN層を形成した。
【0063】
成長方法:MOCVD法
成長温度:800〜930℃
圧力:100torr
トリメチルアルミニウム供給量:90sccm
NH
3供給量:5slm
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0064】
その後、以下の条件で第1の成長工程S50を行い、III族窒化物半導体層を形成した。
【0065】
成長方法:MOCVD法
圧力:100torr
TMGa供給量:50〜500sccm(連続変化)
NH
3供給量:5〜10slm(連続変化)
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
成長速度:10μm/h以上
【0066】
なお、第1のサンプルの成長温度は900℃±25℃に制御し、第2のサンプルの成長温度は1050℃±25℃に制御した。すなわち、第1のサンプルは、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素」のすべてを満たすサンプルである。第2のサンプルは、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素」の中の一部(第1の成長工程S50における成長温度)を満たさないサンプルである。
【0067】
第1のサンプルのIII族窒化物半導体層の成長面の面方位は、(−1−12−4)面から−a面方向5.0°傾斜かつ、m面と平行になる方向に8.5°以下傾斜した面であった。一方、第2のサンプルのIII族窒化物半導体層の成長面の面方位は、(11−24)面からa面方向5.0°傾斜かつ、m面と平行になる方向に8.5°以下傾斜した面であった。すなわち、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素」を満たすか否かにより、成長面の面方位がGa極性となるかN極性となるかを調整できることが分かる。
【0068】
図7に第1のサンプルにおける、(−1−12−4)面、又は、(11−24)面のXRD極点測定結果を示す。回折ピークは極点の中心点から数度ずれた位置であることが確認できる。角度のずれを詳細に測定すると−a面方向5.0°かつ、m面と並行になる方向に8.5°又は、a面方向5.0°かつ、m面と並行になる方向に8.5°の位置であることが確認できる。
【0069】
なお、本発明者らは、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素」の中のその他の一部を満たさない場合、また、全部を満たさない場合においても、成長面の面方位がGa極性となることを確認している。
【0070】
<第2の評価>
第2の評価では、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整するための複数の要素」を調整することで、III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整できることを確認する。
【0071】
まず、主面の面方位が様々なサファイア基板を複数用意した。サファイア基板の厚さは430μmであり、直径は2インチであった。
【0072】
そして、用意したサファイア基板各々に対して、以下の条件で熱処理工程S20を行った。
【0073】
温度:1000〜1050℃
圧力:200torr
熱処理時間:10分
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0074】
なお、熱処理時の窒化処理の有無を異ならせたサンプルを作成した。具体的には、熱処理時に20slmのNH
3を供給し、窒化処理を行うサンプルと、熱処理時にNH
3を供給せず、窒化処理を行わないサンプルの両方を作成した。
【0075】
その後、以下の条件で先流し工程S30を行った。
【0076】
温度:880〜930℃
圧力:100torr
トリメチルアルミニウム供給量、供給時間:90sccm、10秒
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0077】
なお、先流し工程S30を行うサンプルと、行わないサンプルの両方を作成した。
【0078】
その後、サファイア基板の主面(露出面)上に、以下の条件で、約150nmの厚さのバッファ層(AlNバッファ層)を形成した。
【0079】
成長方法:MOCVD法
圧力:100torr
V/III比:5184
TMAl供給量:90ccm
NH
3供給量:5slm
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0080】
なお、成長温度は、サンプルごとに、700℃以上1110℃以下の範囲で異ならせた。
【0081】
その後、バッファ層の上に、以下の条件で、約15μmの厚さのIII族窒化物半導体層(GaN層)を形成した。
【0082】
成長方法:MOCVD法
成長温度:900〜1100℃
圧力:100torr
V/III比:321
TMGa供給量:50〜500ccm(ランプアップ)
NH
3供給量:5〜10slm(ランプアップ)
キャリアガス:H
2、N
2
キャリアガス供給量:15slm
【0083】
以上のようにして、サファイア基板と、バッファ層と、III族窒化物半導体層とがこの順に積層したIII族窒化物半導体基板1を製造した。
【0084】
表1乃至7に、「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整するための複数の要素」と、III族窒化物半導体層の成長面の面方位との関係を示す。
【0092】
表中の「サファイア主面」の欄には、サファイア基板の主面の面方位が示されている。「昇温時の窒化処理」の欄には、熱処理工程S20の際の昇温時の窒化処理の有無(「有り」または「無し」)が示されている。「トリメチルアルミニウム先流し工程の有無」の欄には、トリメチルアルミニウム先流し工程の有無(「有り」または「無し」)が示されている。「AlNバッファ成長温度」の欄には、バッファ層形成工程における成長温度が示されている。「GaN成長温度」の欄には、GaN層形成工程における成長温度が示されている。「III族窒化物半導体層の成長面」の欄には、III族窒化物半導体層の成長面の面方位が示されている。
【0093】
当該結果によれば、上述した「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整するための複数の要素」を調整することで、III族窒化物半導体層の成長面の面方位を半極性かつGa極性の中で調整できることが分かる。そして、第1の評価の結果と第2の評価の結果とに基づけば、「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、N極性側の面とするための複数の要素」のすべてを満たしたうえで、「III族窒化物半導体層の成長面の面方位を調整するための複数の要素」を調整することで、III族窒化物半導体層の成長面の面方位を、半極性かつN極性の中で調整できることが分かる。
【0094】
<第3の評価>
第3の評価では、PL測定で自立基板30の光学特性を評価する。
【0095】
「実施例」
まず、MOCVD法で、a面方向に2°のオフ角を有するφ4インチm面サファイア基板上に、バッファ層を介して、GaN層(第1の成長層23)を形成した。第1の成長層23の主面(露出面)は、N極性側の半極性面であった。具体的には、第1の成長層23の主面(露出面)は、(−1−12−4)面からc面方向に約5°、m面方向に約8°のオフ角を有する面であった。
【0096】
その後、第1の成長層23の上に、HVPE法でGaN結晶を成長し、GaN層(第2の成長層25)を形成した。その後、第1の成長層23及び第2の成長層25からなるバルク結晶の内の成長厚さ3mm以上の部分を成長方向に垂直にスライスすることでφ54mm程度の結晶を切り出し、その後、整形研磨した。この結果、φ50mmの略(−1−12−4)面を主面とする自立基板が得られた。
【0097】
「比較例」
c面成長したGaNのバルク結晶から、略(11−24)面を主面とする10mm角の小片を切り出した。そして、当該小片9枚を、支持台上に3行×3列で載置した。なお、いずれも略(11−24)面が露出するように載置した。その後、当該小片上に、HVPE法でGaN結晶を成長し、GaN層を形成した。
【0098】
結果、30mm×30mm×5mm程度の略(11−24)面を主面とするGaN結晶が得られた。当該GaN結晶を成長方向に垂直に複数枚にスライスし、整形研磨することで、約25mm
2角の略(11−24)面を主面とする自立基板が得られた。
【0099】
この時、9枚の小片に近い部分から切り出した自立基板を比較例1とし、最終成長表面に近い部分(9枚の小片から遠い部分)から切り出した基板を比較例2とした。なお、比較例1は自立基板の一部に欠けが生じていた。また、比較例2は一部に割れが生じていた。
【0100】
このように、実施例では、N極性側の半極性面を成長面としてHVPE法で厚膜成長し、比較例では、Ga極性側の半極性面を成長面としてHVPE法で厚膜成長した。
【0101】
「PL測定」
以下の測定条件で、実施例の得られた自立基板の表面および裏面である2つの主面(略(−1−12−4)面、略(11−24)面)と、比較例1及び比較例2の(11−24)面に対して、PL測定を行った。
【0102】
照射レーザー : He−Cd レーザー (波長325nm、定格出力35mW)
マッピング装置 : (株)ワイ・システムズ社製 YWaferMapper GS4
測定温度 : 室温
マッピング単位(測定単位) : 1mm
2角
測定波長範囲 : 340〜700nm
測定対象領域(実施例) : 自立基板の略中心に位置するφ46mmの円内
測定対象領域(比較例1及び2) :自立基板の略中心に位置する□25mmの領域
【0103】
なお、比較例1及び比較例2の測定結果における統計処理において、サンプル領域外のマッピングを行ったことによるエラー値は除外している。したがって、以下に記述する統計結果はエラー値の影響は含んでおらず、全て比較例サンプルの測定結果である。
【0104】
図8乃至10は、実施例の略(−1−12−4)面に対するPL測定の結果を示す。
図11乃至13は、実施例の略(11−24)面に対するPL測定の結果を示す。
図14乃至16は、比較例1の略(11−24)面に対するPL測定の結果を示す。
図17乃至19は、比較例2の略(11−24)面に対するPL測定の結果を示す。上述の通り、実施例と比較例とは、測定対象領域が異なる。このことは、これらの図のマッピングデータからも明らかである。
【0105】
図8、
図11、
図14及び
図17では、複数の測定単位各々の発光波長をマッピングした画像と、発光波長のヒストグラムを示している。図中「Av」は発光波長の平均値であり、「StdDev」は発光波長の標準偏差である。これらの結果より、実施例の略(−1−12−4)面及び略(11−24)面は、比較例1及び比較例2に比べて、面内の発光波長のばらつきが小さいことが分かる。
【0106】
図9、
図12、
図15及び
図18では、複数の測定単位各々の発光強度をマッピングした画像と、発光強度のヒストグラムを示している。図中「Av」は発光強度の平均値であり、「StdDev」は発光強度の標準偏差である。なお、
図15及び18のヒストグラムにおける図中下側の方のピークは、測定対象領域以外の領域の色をカウントしたものである。これらの結果より、実施例の略(11−24)面は、比較例1及び比較例2に比べて、面内の発光強度のばらつきが小さいことが分かる。
【0107】
図10、
図13、
図16及び
図19では、複数の測定単位各々のPLスペクトル(波長毎の発光強度のスペクトル)の半値幅をマッピングした画像と、当該半値幅のヒストグラムを示している。図中「Av」は当該半値幅の平均値であり、「StdDev」は当該半値幅の標準偏差である。これらの結果より、実施例の略(−1−12−4)面及び略(11−24)面は、比較例1及び比較例2に比べて、面内の上記半値幅のばらつきが小さいことが分かる。
【0108】
ここで、表8に、実施例の略(−1−12−4)面、略(11−24)面、比較例1及び比較例2各々の測定結果を示す。表では、各々の発光波長の平均値、発光波長の変動係数、発光強度の平均値、発光強度の変動係数、上記半値幅の平均値、及び、上記半値幅の変動係数を示している。
【0110】
当該表より、実施例の略(−1−12−4)面及び略(11−24)面いずれも、発光波長の変動係数がいずれも0.05%以下であることが分かる。なお、比較例1及び比較例2いずれも、発光波長の変動係数は0.05%より大きい。
【0111】
また、当該表より、実施例の略(11−24)面は、発光強度の変動係数が15%以下、好ましくは10%以下であることが分かる。なお、比較例1及び比較例2いずれも、発光強度の変動係数は15%より大きい。
【0112】
また、当該表より、実施例の略(−1−12−4)面及び略(11−24)面いずれも、上記半値幅の変動係数がいずれも3.0%以下であることが分かる。なお、比較例1及び比較例2いずれも、上記半値幅の変動係数は3.0%より大きい。
【0113】
以上より、実施例の略(−1−12−4)面及び略(11−24)面は、比較例1及び比較例2に比べて、面内の光学特性のばらつきが小さいことを確認できた。比較例1及び比較例2における測定結果に筋状の特異な結果が見られるが、これらは結晶成長前に載置した小片同士の境界の上部に相当する。すなわち、小片接合成長の影響である。実施例はこのような特異点を持たないことも特徴の一つである。
【0114】
<第4の評価>
次に、本実施形態の製造方法により、半極性面を主面とし、最大径が50mm以上4インチ以下と大口径の自立基板30を得られることを確認する。
【0115】
まず、径がΦ4インチで、主面の面方位がm面のサファイア基板21の上に、バッファ層22を介して、MOCVD法でGaN層(第1の成長層23)を形成したテンプレート20を準備した。第1の成長層23の主面の面方位は(−1−12−4)面からc面方向に約5°、m面方向に約8°のオフ角を有する面であり、径はΦ4インチであった。
【0116】
次に、当該テンプレート基板20をカーボンサセプターに固着した。具体的には、アルミナ系の接着剤を用いて、サファイア基板21の裏面をカーボンサセプターの主面に貼りあわせた。
【0117】
次に、カーボンサセプターにテンプレート基板20を固着させた状態で、第1の成長層23の主面上にHVPE法でIII族窒化物半導体(GaN)を成長させた。これにより、単結晶のIII族窒化物半導体で構成されたGaN層(第2の成長層25の一部)を形成した。成長条件は以下の通りである。
【0118】
成長温度:1040℃
成長時間:15時間
V/III比:10
成長膜厚:4.4mm
【0119】
次に、カーボンサセプター、テンプレート基板20及び第2の成長層25の一部を含む積層体を、HVPE装置から取り出し、室温まで冷却した。冷却後の積層体を観察すると、表面にクラックが存在した。また、上記積層体の外周沿いに多結晶のIII族窒化物半導体が付着し、これらが互いに繋がって環状になり、その内部に上記積層体をホールドしていた。
【0120】
次に、多結晶のIII族窒化物半導体を残した状態で、クラックが存在するGaN層(第2の成長層25の一部)の主面上にHVPE法でIII族窒化物半導体(GaN)を成長させた。これにより、単結晶のIII族窒化物半導体で構成されたGaN層(第2の成長層25の他の一部)を形成した。成長条件は以下の通りである。
【0121】
成長温度:1040℃
成長時間:14時間
V/III比:10
成長膜厚:3.0mm(第2の成長層25ののべ膜厚は7.4mm)
【0122】
第2の成長層25の最大径はおよそΦ4インチであった。また、第2の成長層25と、その外周沿いの多結晶のIII族窒化物半導体とを含む面の最大径はおよそ130mmであった。また、第2の成長層25に割れは生じていなかった。
【0123】
次に、第2の成長層25をスライスし、複数の自立基板30を得た。自立基板30には割れが生じておらず、最大径はおよそΦ4インチであった。
【0124】
以下、参考形態の例を付記する。
1. III族窒化物半導体結晶で構成され、表裏の関係にある露出した第1及び第2の主面はいずれも半極性面であり、室温下において、波長が325nmであり、出力が10mW以上40mW以下であるヘリウム−カドミウム(He−Cd)レーザーを照射し、面積1mm
2単位でマッピングを行ったPL測定における前記第1及び第2の主面各々の発光波長の変動係数はいずれも0.05%以下であるIII族窒化物半導体基板。
2. 1に記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記条件で行ったPL測定における前記第2の主面の発光強度の変動係数は15%以下であるIII族窒化物半導体基板。
3. 2に記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記第2の主面の発光強度の変動係数は10%以下であるIII族窒化物半導体基板。
4. 2に記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記第2の主面は、Ga極性側の半極性面であるIII族窒化物半導体基板。
5. 1に記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記条件で行ったPL測定における前記第1及び第2の主面各々のPLスペクトルの半値幅の変動係数はいずれも3.0%以下であるIII族窒化物半導体基板。
6. 1から5のいずれかに記載のIII族窒化物半導体基板において、
膜厚が300μm以上1000μm以下であるIII族窒化物半導体基板。