特許第6831312号(P6831312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831312
(24)【登録日】2021年2月1日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】ダイオード
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/861 20060101AFI20210208BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20210208BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20210208BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20210208BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   H01L29/91 H
   H01L29/91 D
   H01L29/91 F
   H01L29/06 301D
   H01L29/48 F
   H01L29/48 D
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-180607(P2017-180607)
(22)【出願日】2017年9月20日
(65)【公開番号】特開2019-57589(P2019-57589A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 知義
(72)【発明者】
【氏名】長里 喜隆
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直高
(72)【発明者】
【氏名】榊 裕之
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第8586993(US,B2)
【文献】 特開2013−041986(JP,A)
【文献】 特開2015−207610(JP,A)
【文献】 特開2017−157753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/861
H01L 29/868
H01L 29/872
H01L 29/06
H01L 29/47
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極と、
アノード電極と、
前記カソード電極と前記アノード電極の間に設けられている半導体積層体であって、接合界面近傍に2次元電子ガス層を持つ第1ヘテロ接合と接合界面近傍に2次元正孔ガス層を持つ第2ヘテロ接合を有し、前記第1ヘテロ接合及び前記第2ヘテロ接合が前記カソード電極と前記アノード電極の間を結ぶ方向に沿って延びている、半導体積層体と、
前記カソード電極と前記半導体積層体の間に設けられているn型半導体領域と、
第1絶縁性領域と、を備えており、
前記2次元電子ガス層と前記n型半導体領域は、直接的に接するように構成されており、
前記2次元正孔ガス層と前記n型半導体領域は、前記第1絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されている、ダイオード。
【請求項2】
前記アノード電極と前記半導体積層体の間に設けられているp型半導体領域と、
第2絶縁性領域と、をさらに備えており、
前記2次元正孔ガス層と前記p型半導体領域は、直接的に接するように構成されており、
前記2次元電子ガス層と前記p型半導体領域は、前記第2絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されている、請求項1に記載のダイオード。
【請求項3】
前記半導体積層体は、前記2次元電子ガス層に隣接する半導体層が前記アノード電極にショットキー接触するように構成されている、請求項1に記載のダイオード。
【請求項4】
第2絶縁性領域と、
第3絶縁性領域と、をさらに備えており、
前記2次元電子ガス層と前記アノード電極は、前記第2絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されており、
前記2次元正孔ガス層と前記アノード電極は、前記第3絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されている、請求項3に記載のダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有するダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1及び非特許文献2は、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有するダイオードを開示する。このダイオードは、カソード電極と、アノード電極と、カソード電極とアノード電極の間に設けられている半導体積層体を備えている。半導体積層体は、接合面近傍に2次元電子ガス層を持つ第1ヘテロ接合と接合面近傍に2次元正孔ガス層を持つ第2ヘテロ接合を有しており、第1ヘテロ接合及び第2ヘテロ接合がカソード電極とアノード電極の間を結ぶ方向に沿って延びている。2次元電子ガス層及び2次元正孔ガス層は、例えば自発分極、ピエゾ分極及び/又はδドーピング等の不純物ドーピング技術を用いたキャリア供給層によって生成され得る。
【0003】
このダイオードが逆バイアスの状態になると、2次元電子ガス層と2次元正孔ガス層が空乏化する。2次元電子ガス層と2次元正孔ガス層は、半導体積層体の積層方向、即ち、カソード電極とアノード電極を結ぶ方向に対して直交する方向に対向している。このため、2次元電子ガス層と2次元正孔ガス層が空乏化すると、カソード電極とアノード電極を結ぶ方向に対して直交する方向に電界が発生する。このような電界が発生するヘテロ接合型スーパージャンクション構造は、pn接合を利用した従来のスーパージャンクション構造と同様に、アノード電極とカソード電極の間の電界強度を一様とすることができる。これにより、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有するダイオードは、高い耐圧を有することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bo Song, Mingda Zhu, Zongyang Hu, Erhard Kohn, Debdeep Jena and Huil (Grace) Xing, GaN lateral PolarSJs: Polarization-doped super junctions, IEEE 72nd 2014
【非特許文献2】Tomoyoshi Kushida, Masato Ohmori, Shota Osanai, Daisuke Kawamoto, Takeshi Noda and Hiroyuki Sakaki, Electrical characteristics of AlGaAs/GaAs heterostructures with a pair of 2-D electron and hole channels, IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, VOL.62, NO.11, NOVEMBER 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有するダイオードは、カソード電極と半導体積層体の間に設けられているn型半導体領域を備えている。半導体積層体の2次元電子ガス層は、このn型半導体領域を介してカソード電極にオーミック接触している。
【0006】
一方、半導体積層体の2次元正孔ガス層は、n型半導体領域とpn接合を構成している。このため、半導体積層体の2次元正孔ガス層とn型半導体領域のpn接合における電界集中が問題となる。
【0007】
本明細書は、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有するダイオードにおいて、半導体積層体の2次元正孔ガス層とn型半導体領域の間の電界集中を緩和する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示するダイオードの一実施形態は、カソード電極と、アノード電極と、前記カソード電極と前記アノード電極の間に設けられている半導体積層体であって、2次元電子ガス層を生成する第1ヘテロ接合と2次元正孔ガス層を生成する第2ヘテロ接合を有し、前記第1ヘテロ接合及び前記第2ヘテロ接合が前記カソード電極と前記アノード電極の間を結ぶ方向に沿って延びている、半導体積層体と、前記カソード電極と前記半導体積層体の間に設けられているn型半導体領域と、第1絶縁性領域と、を備えることができる。前記2次元電子ガス層と前記n型半導体領域は、直接的に接するように構成されている。前記2次元正孔ガス層と前記n型半導体領域は、前記第1絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されている。
【0009】
この実施形態のダイオードでは、第1絶縁性領域が設けられていることにより、2次元正孔ガス層とn型半導体領域が直接的に接しないように構成されている。これにより、2次元正孔ガス層とn型半導体領域の間の電界集中が緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態のダイオードの要部断面図を模式的に示す。
図2】第2実施形態のダイオードの要部断面図を模式的に示す。
図3】第3実施形態のダイオードの要部断面図を模式的に示す。
図4】第4実施形態のダイオードの要部断面図を模式的に示す。
図5】第5実施形態のダイオードの要部断面図を模式的に示す。
図6】第6実施形態のダイオードの要部断面図を模式的に示す。
図7】第7実施形態のダイオードの要部断面図を模式的に示す。
図8】第8実施形態のダイオードの要部断面図を模式的に示す。
図9】第1実施形態のダイオードの変形例の要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1に示されるように、ダイオード1は、カソード電極102と、アノード電極108と、カソード電極102とアノード電極108の間に設けられている半導体積層体10を備えている。
【0012】
半導体積層体10は、半絶縁性のGaAsの基板11、i−GaAsのバッファ層12、i−AlGaAsのバリア層13、p−InGaPの正孔供給層14、i−GaAsのチャネル層15、n−InGaPの電子供給層16、及び、i−AlGaAsのバリア層17を有する。バッファ層12とバリア層13と正孔供給層14とチャネル層15と電子供給層16とバリア層17は、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を利用して、基板11の表面からこの順に成長して形成される。半導体積層体10の表面には、化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を利用して、酸化シリコンの保護膜が形成されている。
【0013】
ダイオード1はさらに、カソード電極102と半導体積層体10の間に設けられているn型半導体領域104、及び、アノード電極108と半導体積層体10の間に設けられているp型半導体領域106を備えている。n型半導体領域104は、カソード電極102の側面の大部分及び底面を被覆するように設けられており、カソード電極102と半導体積層体10の双方に接している。n型半導体領域104は、カソード電極102を形成するためのトレンチを形成した後に、斜めイオン注入技術を利用して、そのトレンチの側面及び底面にn型不純物を導入することで形成される。p型半導体領域106は、アノード電極108の側面の大部分及び底面を被覆するように設けられており、アノード電極108と半導体積層体10の双方に接している。p型半導体領域106は、アノード電極108を形成するためのトレンチを形成した後に、斜めイオン注入技術を利用して、そのトレンチの側面及び底面にp型不純物を導入することで形成される。
【0014】
ダイオード1はさらに、カソード側絶縁性領域202及びアノード側絶縁性領域204を備えている。これら絶縁性領域202,204は、空隙として形成されている。なお、カソード側絶縁性領域202は、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、カソード側絶縁性領域202に対応する領域に2次元正孔ガス層(2DHG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。同様に、アノード側絶縁性領域204は、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側絶縁性領域204に対応する領域に2次元電子ガス層(2DEG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。
【0015】
カソード側絶縁性領域202及びアノード側絶縁性領域204は、次の工程を経て形成することができる。まず、カソード電極102及びアノード電極108を形成するためのトレンチの一部として、硫酸エッチングを利用して、半導体積層体10の表面からバリア層17を貫通して電子供給層16に達するトレンチを形成する。次に、カソード電極102用のトレンチを保護膜で充填した後に、GaAs及びAlGaAsよりもInGaPのエッチングレートが速いエッチャント(例えば、塩酸)を用いて、電子供給層16を選択的にエッチングし、アノード側絶縁性領域204を形成する。アノード側絶縁性領域204の横幅は数μmである。次に、カソード電極102用のトレンチを充填していた保護膜を除去した後に、硫酸エッチングを利用して、チャネル層15を貫通して正孔供給層14に達するようにトレンチをさらに深くする。次に、アノード電極108用のトレンチを保護膜で充填した後に、塩酸エッチングを利用して、正孔供給層14を選択的にエッチングし、カソード側絶縁性領域202を形成する。カソード側絶縁性領域202の横幅は数μmである。このようにして、カソード電極102及びアノード電極108を形成するための工程の中で、カソード側絶縁性領域202及びアノード側絶縁性領域204を形成することができる。なお、カソード電極102及びアノード電極108は、さらに、次の工程を経て形成することができる。アノード電極108用のトレンチを充填していた保護膜を除去した後に、硫酸エッチングを利用して、バリア層13及びバッファ層12を貫通して基板11に達するようにトレンチをさらに深く形成する。その後、前述したように、斜めイオン注入技術を利用してn型半導体領域104及びp型半導体領域106を形成した後に、スパッタ法又は蒸着法を利用して、トレンチ内にカソード電極102及びアノード電極108を形成する。
【0016】
次に、ダイオード1の動作を説明する。カソード電極102よりも高い電圧がアノード電極108に印加されると、ダイオード1は順バイアスの状態となる。このとき、正孔供給層14とチャネル層15のヘテロ接合面のうちのチャネル層15側に、正孔供給層14から正孔が供給されて2次元正孔ガス層(2DHG)が生成される。一方、チャネル層15と電子供給層16のヘテロ接合面のうちのチャネル層15側に、電子供給層16から電子が供給されて2次元電子ガス層(2DEG)が生成される。これにより、p型半導体領域106から2次元正孔ガス層(2DHG)を介してチャネル層15に正孔が注入され、n型半導体領域104から2次元電子ガス層(2DEG)を介してチャネル層15に電子が注入される。ダイオード1は、2次元正孔ガス層(2DHG)とi−GaAsのチャネル層15と2次元電子ガス層(2DEG)で構成されるPIN構造を有しており、PINダイオードとして動作することができる。ダイオード1は、2次元正孔ガス層(2DHG)と2次元電子ガス層(2DEG)をチャネルとして利用することができるので、低いオン抵抗を有することができる。
【0017】
アノード電極108よりも高い電圧がカソード電極102に印加されると、ダイオード1は逆バイアスの状態となる。ダイオード1が逆バイアスのとき、2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化する。2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化すると、2次元電子ガス層(2DEG)が空乏化された領域に正の固定電荷が残存し、2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化された領域に負の固定電荷が残存し、これら固定電荷の間の電界がカソード電極102とアノード電極108を結ぶ方向に対して直交する方向に発生する。このように、ダイオード1は、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード1は、高耐圧な特性を有することができる。
【0018】
さらに、ダイオード1は、カソード側絶縁性領域202を備えている。カソード側絶縁性領域202が設けられているので、カソード側絶縁性領域202が隣接するチャネル層15に2次元正孔ガス層(2DHG)が形成されず、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成されている。例えば、カソード側絶縁性領域202が設けられていない場合、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104のpn接合面での電界集中が懸念される。一方、ダイオード1では、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にi−GaAsのチャネル層15が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0019】
さらに、ダイオード1は、アノード側絶縁性領域204を備えている。アノード側絶縁性領域204が設けられているので、アノード側絶縁性領域204が隣接するチャネル層15に2次元電子ガス層(2DEG)が形成されず、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成されている。例えば、アノード側絶縁性領域204が設けられていない場合、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106のpn接合面での電界集中が懸念される。一方、ダイオード1では、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間にi−GaAsのチャネル層15が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0020】
上記したように、第1実施形態のダイオード1は、低いオン抵抗と高い耐圧を両立させることができる。
【0021】
(第2実施形態)
図2に、第2実施形態のダイオード2を示す。なお、第1実施形態のダイオード1と実質的に同一の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略することがある。
【0022】
図2に示されるように、ダイオード2は、カソード電極102と、アノード電極108と、カソード電極102とアノード電極108の間に設けられている半導体積層体20を備えている。
【0023】
半導体積層体20は、半絶縁性のGaAsの基板21、i−GaAsのバッファ層22、i−AlGaAsの第1バリア層23、i−GaAsのpチャネル用量子井戸層24、i−InGaPの正孔供給層25、i−GaAsのチャネル層26、i−InGaPの電子供給層27、i−GaAsのnチャネル用量子井戸層28、及び、i−AlGaAsの第2バリア層29を有する。正孔供給層25には、pチャネル用量子井戸層24に近接した位置にp型不純物を含むp型σドープ層が形成されている。電子供給層27には、nチャネル用量子井戸層28に近接した位置にn型不純物を含むn型σドープ層が形成されている。バッファ層22と第1バリア層23とpチャネル用量子井戸層24と正孔供給層25とチャネル層26と電子供給層27とnチャネル用量子井戸層28と第2バリア層29は、有機金属気相成長法を利用して、基板21の表面からこの順に成長して形成される。
【0024】
ダイオード2はさらに、カソード側絶縁性領域206及びアノード側絶縁性領域208を備えている。これら絶縁性領域206,208は、空隙として形成されている。なお、カソード側絶縁性領域206は、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、カソード側絶縁性領域206に対応する領域に2次元正孔ガス層(2DHG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。同様に、アノード側絶縁性領域208は、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側絶縁性領域208に対応する領域に2次元電子ガス層(2DEG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。
【0025】
カソード側絶縁性領域206及びアノード側絶縁性領域208は、次の工程を経て形成することができる。まず、カソード電極102及びアノード電極108を形成するためのトレンチの一部として、硫酸エッチングを利用して、半導体積層体20の表面から第2バリア層29及びnチャネル用量子井戸層28を貫通して電子供給層27に達するトレンチを形成する。次に、カソード電極102用のトレンチを保護膜で充填した後に、塩酸エッチングを利用して、電子供給層27を選択的にエッチングし、アノード側絶縁性領域208を形成する。アノード側絶縁性領域208の横幅は数μmである。次に、カソード電極102用のトレンチを充填していた保護膜を除去した後に、硫酸エッチングを利用して、チャネル層26を貫通して正孔供給層25に達するようにトレンチをさらに深くする。次に、アノード電極108用のトレンチを保護膜で充填した後に、塩酸エッチングを利用して、正孔供給層25を選択的にエッチングし、カソード側絶縁性領域206を形成する。カソード側絶縁性領域206の横幅は数μmである。このようにして、カソード電極102及びアノード電極108を形成するための工程の中で、カソード側絶縁性領域206及びアノード側絶縁性領域208を形成することができる。なお、カソード電極102及びアノード電極108は、さらに、次の工程を経て形成することができる。アノード電極108用のトレンチを充填していた保護膜を除去した後に、硫酸エッチングを利用して、pチャネル用量子井戸層24、第1バリア層23及びバッファ層22を貫通して基板21に達するようにトレンチをさらに深く形成する。その後、前述したように、斜めイオン注入技術を利用してn型半導体領域104及びp型半導体領域106を形成した後に、スパッタ法又は蒸着法を利用して、トレンチ内にカソード電極102及びアノード電極108を形成する。
【0026】
次に、ダイオード2の動作を説明する。カソード電極102よりも高い電圧がアノード電極108に印加されると、ダイオード2は順バイアスの状態となる。このとき、pチャネル用量子井戸層24と正孔供給層25のヘテロ接合面のうちのpチャネル用量子井戸層24側に、正孔供給層25のp型σドープ層から正孔が供給されて2次元正孔ガス層(2DHG)が生成される。一方、電子供給層27とnチャネル用量子井戸層28のヘテロ接合面のうちのnチャネル用量子井戸層28側に、電子供給層27のn型σドープ層から電子が供給されて2次元電子ガス層(2DEG)が生成される。これにより、p型半導体領域106から2次元正孔ガス層(2DHG)を介してチャネル層26に正孔が注入され、n型半導体領域104から2次元電子ガス層(2DEG)を介してチャネル層26に電子が注入される。ダイオード2は、2次元正孔ガス層(2DHG)とi−GaAsのチャネル層26と2次元電子ガス層(2DEG)で構成されるPIN構造を有しており、PINダイオードとして動作することができる。ダイオード2は、2次元正孔ガス層(2DHG)と2次元電子ガス層(2DEG)をチャネルとして利用することができるので、低いオン抵抗を有することができる。さらに、2次元正孔ガス層(2DHG)がpチャネル用量子井戸層24に生成され、2次元電子ガス層(2DEG)がnチャネル用量子井戸層28に生成されるので、極めて低いオン抵抗が実現される。
【0027】
アノード電極108よりも高い電圧がカソード電極102に印加されると、ダイオード2は逆バイアスの状態となる。ダイオード2が逆バイアスのとき、2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化する。2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化すると、2次元電子ガス層(2DEG)が空乏化された領域に正の固定電荷が残存し、2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化された領域に負の固定電荷が残存し、これら固定電荷の間の電界がカソード電極102とアノード電極108を結ぶ方向に対して直交する方向に発生する。このように、ダイオード2も、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード2は、高耐圧な特性を有することができる。
【0028】
さらに、ダイオード2は、カソード側絶縁性領域206を備えている。カソード側絶縁性領域206が設けられているので、カソード側絶縁領域206が隣接するpチャネル用量子井戸層24に2次元正孔ガス層(2DHG)が形成されず、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成されている。ダイオード2では、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にi−GaAsのpチャネル用量子井戸層24が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0029】
さらに、ダイオード2は、アノード側絶縁性領域208を備えている。アノード側絶縁性領域208が設けられているので、アノード側絶縁性領域208が隣接するnチャネル用量子井戸層28に2次元電子ガス層(2DEG)が形成されず、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成されている。ダイオード2では、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間にi−GaAsのnチャネル用量子井戸層28が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0030】
上記したように、第2実施形態のダイオード2は、低いオン抵抗と高い耐圧を両立させることができる。
【0031】
(第3実施形態)
図3に、第3実施形態のダイオード3を示す。なお、第1実施形態のダイオード1と実質的に同一の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0032】
図3に示されるように、ダイオード3は、カソード電極102と、アノード電極108と、カソード電極102とアノード電極108の間に設けられている半導体積層体30を備えている。
【0033】
半導体積層体30は、サファイアの基板31、i−GaAsのバッファ層32、i−AlGaAsの第1バリア層33、i−InGaPの正孔供給層34、i−GaAsのチャネル層35、i−InGaPの電子供給層36、及び、i−AlGaAsの第2バリア層37を有する。チャネル層35には、正孔供給層34に近接した位置にp型不純物を含むp型σドープ層が形成されており、電子供給層36に近接した位置にn型不純物を含むn型σドープ層が形成されている。バッファ層32と第1バリア層33と正孔供給層34とチャネル層35と電子供給層36と第2バリア層37は、有機金属気相成長法を利用して、基板31の表面からこの順に成長して形成される。
【0034】
ダイオード3はさらに、カソード側絶縁性領域210及びアノード側絶縁性領域212を備えている。これら絶縁性領域210,212は、空隙として形成されている。なお、カソード側絶縁性領域210は、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、カソード側絶縁性領域210に対応する領域に2次元正孔ガス層(2DHG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。同様に、アノード側絶縁性領域212は、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側絶縁性領域212に対応する領域に2次元電子ガス層(2DEG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。
【0035】
次に、ダイオード3の動作を説明する。カソード電極102よりも高い電圧がアノード電極108に印加されると、ダイオード3は順バイアスの状態となる。このとき、正孔供給層34とチャネル層35のヘテロ接合面のうちのチャネル層35側に、チャネル層のp型σドープ層から正孔が供給されて2次元正孔ガス層(2DHG)が生成される。一方、チャネル層35と電子供給層36のヘテロ接合面のうちのチャネル層35側に、チャネル層35のn型σドープ層から電子が供給されて2次元電子ガス層(2DEG)が生成される。これにより、p型半導体領域106から2次元正孔ガス層(2DHG)を介してチャネル層35に正孔が注入され、n型半導体領域104から2次元電子ガス層(2DEG)を介してチャネル層35に電子が注入される。ダイオード3は、2次元正孔ガス層(2DHG)とi−GaAsのチャネル層35と2次元電子ガス層(2DEG)で構成されるPIN構造を有しており、PINダイオードとして動作することができる。ダイオード3は、2次元正孔ガス層(2DHG)と2次元電子ガス層(2DEG)をチャネルとして利用することができるので、低いオン抵抗を有することができる。
【0036】
アノード電極108よりも高い電圧がカソード電極102に印加されると、ダイオード3は逆バイアスの状態となる。ダイオード3が逆バイアスのとき、2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化する。2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化すると、2次元電子ガス層(2DEG)が空乏化された領域に正の固定電荷が残存し、2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化された領域に負の固定電荷が残存し、これら固定電荷の間の電界がカソード電極102とアノード電極108を結ぶ方向に対して直交する方向に発生する。このように、ダイオード3も、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード3は、高耐圧な特性を有することができる。
【0037】
さらに、ダイオード3は、カソード側絶縁性領域210を備えている。カソード側絶縁性領域210が設けられているので、カソード側絶縁性領域210が隣接するチャネル層35に2次元正孔ガス層(2DHG)が形成されず、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成されている。ダイオード3では、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にi−GaAsのチャネル層35が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0038】
さらに、ダイオード3は、アノード側絶縁性領域212を備えている。アノード側絶縁性領域212が設けられているので、アノード側絶縁性領域212が隣接するチャネル層35に2次元電子ガス層(2DEG)が形成されず、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成されている。ダイオード3では、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間にi−GaAsのチャネル層35が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0039】
上記したように、第3実施形態のダイオード3は、低いオン抵抗と高い耐圧を両立させることができる。
【0040】
(第4実施形態)
図4に、第4実施形態のダイオード4を示す。なお、第1実施形態のダイオード1と実質的に同一の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
図4に示されるように、ダイオード4は、カソード電極102と、アノード電極108と、カソード電極102とアノード電極108の間に設けられている半導体積層体40を備えている。
【0042】
半導体積層体40は、シリコンの基板41、i−AlGaNのバッファ層42、i−AlGaNの第1バリア層43、p+−AlGaNの正孔供給層44、i−GaNのチャネル層45、n+−AlGaNの電子供給層46、及び、i−AlGaNの第2バリア層47を有する。バッファ層42と第1バリア層43と正孔供給層44とチャネル層45と電子供給層46と第2バリア層47は、有機金属気相成長法を利用して、基板41の表面からこの順に成長して形成される。
【0043】
ダイオード4はさらに、カソード側絶縁性領域214及びアノード側絶縁性領域216を備えている。これら絶縁性領域214,216は、空隙として形成されている。なお、カソード側絶縁性領域214は、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、カソード側絶縁性領域214に対応する領域に2次元正孔ガス層(2DHG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。同様に、アノード側絶縁性領域216は、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側絶縁性領域212に対応する領域に2次元電子ガス層(2DEG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。
【0044】
次に、ダイオード4の動作を説明する。カソード電極102よりも高い電圧がアノード電極108に印加されると、ダイオード4は順バイアスの状態となる。このとき、正孔供給層44は、自発分極及びピエゾ分極によってチャネル層45側の界面に負の固定電荷が誘起されるように分極されている。この正孔供給層44の分極電荷による正孔誘起及び正孔供給層44のアクセプタ不純物からの正孔の供給により、正孔供給層44とチャネル層45のヘテロ接合面のうちのチャネル層45側に2次元正孔ガス層(2DHG)が生成される。一方、電子供給層46は、自発分極及びピエゾ分極によってチャネル層45側の界面に正の固定電荷が誘起されるように分極されている。この電子供給層46の分極電荷による電子誘起及び電子供給層46のドナー不純物からの電子の供給により、チャネル層45と電子供給層46のヘテロ接合面のうちのチャネル層45側に2次元電子ガス層(2DEG)が生成される。これにより、p型半導体領域106から2次元正孔ガス層(2DHG)を介してチャネル層45に正孔が注入され、n型半導体領域104から2次元電子ガス層(2DEG)を介してチャネル層45に電子が注入される。ダイオード4は、2次元正孔ガス層(2DHG)とi−GaNのチャネル層45と2次元電子ガス層(2DEG)で構成されるPIN構造を有しており、PINダイオードとして動作することができる。ダイオード4は、2次元正孔ガス層(2DHG)と2次元電子ガス層(2DEG)をチャネルとして利用することができるので、低いオン抵抗を有することができる。
【0045】
アノード電極108よりも高い電圧がカソード電極102に印加されると、ダイオード4は逆バイアスの状態となる。ダイオード4が逆バイアスのとき、2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化する。ダイオード4では、逆バイアスのとき、電子供給層46の正の固定電荷と正孔供給層44の負の固定電荷が残存し、これら固定電荷の間の電界がカソード電極102とアノード電極108を結ぶ方向に対して直交する方向に発生する。このように、ダイオード4も、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード4は、高い耐圧を有することができる。
【0046】
さらに、ダイオード4は、カソード側絶縁性領域214を備えている。カソード側絶縁性領域214が設けられているので、カソード側絶縁性領域214が隣接するチャネル層45に2次元正孔ガス層(2DHG)が形成されず、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成されている。ダイオード4では、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にi−GaNのチャネル層45が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0047】
さらに、ダイオード4は、アノード側絶縁性領域216を備えている。アノード側絶縁性領域216が設けられているので、アノード側絶縁性領域216が隣接するチャネル層45に2次元電子ガス層(2DEG)が形成されず、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成されている。ダイオード4では、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間にi−GaNのチャネル層45が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0048】
上記したように、第4実施形態のダイオード4は、低いオン抵抗と高い耐圧を両立させることができる。
【0049】
(第5実施形態)
図5に、第5実施形態のダイオード5を示す。なお、第1実施形態のダイオード1と実質的に同一の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
図5に示されるように、ダイオード5は、カソード電極102と、アノード電極108と、カソード電極102とアノード電極108の間に設けられている半導体積層体50を備えている。
【0051】
半導体積層体50は、シリコンの基板51、i−AlGaNのバッファ層52、i−GaNのnチャネル層53、i−AlGaNのチャネル層54、及び、i−GaNのpチャネル層55を有する。バッファ層52とnチャネル層53とチャネル層54とpチャネル層55は、有機金属気相成長法を利用して、基板51の表面からこの順に成長して形成される。
【0052】
ダイオード5はさらに、アノード側絶縁性領域218及びカソード側絶縁性領域220を備えている。これら絶縁性領域218,220は、空隙として形成されている。なお、アノード側絶縁性領域218は、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側絶縁性領域218に対応する領域に絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。同様に、カソード側絶縁性領域220は、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、カソード側絶縁性領域220に対応する領域に絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。
【0053】
次に、ダイオード5の動作を説明する。カソード電極102よりも高い電圧がアノード電極108に印加されると、ダイオード5は順バイアスの状態となる。このとき、チャネル層54は、自発分極及びピエゾ分極によってnチャネル層53側の界面に正の固定電荷が誘起され、pチャネル層55側の界面に負の固定電荷が誘起されるように分極されている。このチャネル層54の分極作用により、nチャネル層53とチャネル層54のヘテロ接合面のうちのnチャネル層53側に2次元電子ガス層(2DEG)が生成され、チャネル層54とpチャネル層55のヘテロ接合面のうちのpチャネル層55側に2次元正孔ガス層(2DHG)が生成される。これにより、p型半導体領域106から2次元正孔ガス層(2DHG)を介してチャネル層54に正孔が注入され、n型半導体領域104から2次元電子ガス層(2DEG)を介してチャネル層54に電子が注入される。ダイオード5は、2次元正孔ガス層(2DHG)とi−AlGaNのチャネル層54と2次元電子ガス層(2DEG)で構成されるPIN構造を有しており、PINダイオードとして動作することができる。ダイオード5は、2次元正孔ガス層(2DHG)と2次元電子ガス層(2DEG)をチャネルとして利用することができるので、低いオン抵抗を有することができる。
【0054】
アノード電極108よりも高い電圧がカソード電極102に印加されると、ダイオード5は逆バイアスの状態となる。ダイオード5が逆バイアスのとき、2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化する。ダイオード5では、チャネル層54の正の固定電荷と負の固定電荷が残存し、これら固定電荷の間の電界がカソード電極102とアノード電極108を結ぶ方向に対して直交する方向に発生する。このように、ダイオード5も、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード5は、高い耐圧を有することができる。
【0055】
さらに、ダイオード5は、アノード側絶縁性領域218を備えている。アノード側絶縁性領域218が設けられているので、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成されている。ダイオード5では、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間にアノード側絶縁性領域218が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0056】
さらに、ダイオード5は、カソード側絶縁性領域220を備えている。カソード側絶縁性領域220が設けられているので、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成されている。ダイオード5では、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にカソード側絶縁性領域220が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0057】
上記したように、第5実施形態のダイオード5は、低いオン抵抗と高い耐圧を両立させることができる。
【0058】
(第6実施形態)
図6に、第6実施形態のダイオード6を示す。なお、第1実施形態のダイオード1と実質的に同一の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
図6に示されるように、ダイオード6は、カソード電極102と、アノード電極108と、カソード電極102とアノード電極108の間に設けられている半導体積層体60を備えている。
【0060】
半導体積層体60は、サファイアの基板61、i−AlGaNのバッファ層62、i−AlGaNの第1バリア層63、i−InGaNのpチャネル用量子井戸層64、i−GaNのチャネル層65、i−InGaNのnチャネル用量子井戸層66、及び、i−AlGaNの第2バリア層67を有する。バッファ層62と第1バリア層63とpチャネル用量子井戸層64とチャネル層65とnチャネル用量子井戸層66と第2バリア層67は、有機金属気相成長法を利用して、基板61の表面からこの順に成長して形成される。
【0061】
ダイオード6はさらに、カソード側絶縁性領域222及びアノード側絶縁性領域224を備えている。これら絶縁性領域222,224は、空隙として形成されている。なお、カソード側絶縁性領域222は、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、カソード側絶縁性領域222に対応する領域に絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。同様に、アノード側絶縁性領域224は、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側絶縁性領域224に対応する領域に絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。
【0062】
次に、ダイオード6の動作を説明する。カソード電極102よりも高い電圧がアノード電極108に印加されると、ダイオード6は順バイアスの状態となる。このとき、第1バリア層63は、自発分極及びピエゾ分極によってpチャネル用量子井戸層64側の界面に負の固定電荷が誘起されるように分極されている。この第1バリア層63の分極により、第1バリア層63とチャネル層65のヘテロ接合面に形成されているpチャネル用量子井戸層64内に2次元正孔ガス層(2DHG)が生成される。一方、第2バリア層67は、自発分極及びピエゾ分極によってnチャネル用量子井戸層66側の界面に正の固定電荷が誘起されるように分極されている。この第2バリア層67の分極により、チャネル層65と第2バリア層67のヘテロ接合面に形成されているnチャネル用量子井戸層66内に2次元電子ガス層(2DEG)が生成される。これにより、p型半導体領域106から2次元正孔ガス層(2DHG)を介してチャネル層65に正孔が注入され、n型半導体領域104から2次元電子ガス層(2DEG)を介してチャネル層65に電子が注入される。ダイオード6は、2次元正孔ガス層(2DHG)とi−GaNのチャネル層65と2次元電子ガス層(2DEG)で構成されるPIN構造を有しており、PINダイオードとして動作することができる。ダイオード6は、2次元正孔ガス層(2DHG)と2次元電子ガス層(2DEG)をチャネルとして利用することができるので、低いオン抵抗を有することができる。
【0063】
アノード電極108よりも高い電圧がカソード電極102に印加されると、ダイオード6は逆バイアスの状態となる。ダイオード6が逆バイアスのとき、2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化する。ダイオード6では、第2バリア層67の正の固定電荷と第1バリア層63の負の固定電荷が残存し、これら固定電荷の間の電界がカソード電極102とアノード電極108を結ぶ方向に対して直交する方向に発生する。このように、ダイオード6も、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード6は、高耐圧な特性を有することができる。
【0064】
さらに、ダイオード6は、カソード側絶縁性領域222を備えている。カソード側絶縁性領域222が設けられているので、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成されている。ダイオード6では、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にカソード側絶縁性領域222が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0065】
さらに、ダイオード6は、アノード側絶縁性領域224を備えている。アノード側絶縁性領域224が設けられているので、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106が直接的に接しないように構成されている。ダイオード6では、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間にアノード側絶縁性領域224が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0066】
上記したように、第6実施形態のダイオード6は、低いオン抵抗と高い耐圧を両立させることができる。
【0067】
(第7実施形態)
図7に、第7実施形態のダイオード7を示す。なお、第1実施形態のダイオード1と実質的に同一の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0068】
図7に示されるように、ダイオード7は、カソード電極102と、アノード電極108と、カソード電極102とアノード電極108の間に設けられている半導体積層体70を備えている。
【0069】
半導体積層体70は、サファイアの基板71、i−GaAsのバッファ層72、i−AlGaAsの第1バリア層73、p−InGaPの正孔供給層74、i−GaAsのチャネル層75、n−InGaPの電子供給層76、及び、i−AlGaAsの第2バリア層77を有する。バッファ層72と第1バリア層73と正孔供給層74とチャネル層75と電子供給層76と第2バリア層77は、有機金属気相成長法を利用して、基板71の表面からこの順に成長して形成される。
【0070】
ダイオード7は、図1−6のダイオードとは異なり、アノード電極108と半導体積層体70の間にp型半導体領域が形成されておらず、アノード電極108がチャネル層75にショットキー接触していることを特徴とする。
【0071】
ダイオード7はさらに、カソード側絶縁性領域226、アノード側pチャネル用絶縁性領域228及びアノード側nチャネル用絶縁性領域230を備えている。これら絶縁性領域226,228,230は、空隙として形成されている。なお、カソード側絶縁性領域226は、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、カソード側絶縁性領域226に対応する領域に2次元正孔ガス層(2DHG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。同様に、アノード側pチャネル用絶縁性領域228は、2次元正孔ガス層(2DHG)とアノード電極108が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側pチャネル用絶縁性領域228に対応する領域に2次元正孔ガス層(2DHG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元正孔ガス層(2DHG)とアノード電極108の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。さらに同様に、アノード側nチャネル用絶縁性領域230は、2次元電子ガス層(2DEG)とアノード電極108が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側nチャネル用絶縁性領域230に対応する領域に2次元電子ガス層(2DEG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元電子ガス層(2DEG)とアノード電極108の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。
【0072】
次に、ダイオード7の動作を説明する。カソード電極102よりも高い電圧がアノード電極108に印加されると、ダイオード7は順バイアスの状態となる。これにより、アノード電極108とチャネル層75の間のショットキー障壁が低くなる。このとき、チャネル層75と電子供給層76のヘテロ接合面のうちのチャネル層75側に、電子供給層76のドナー不純物から電子が供給されて2次元電子ガス層(2DEG)が生成される。n型半導体領域104から2次元電子ガス層(2DEG)を介してチャネル層75に電子が注入され、その電子が低いショットキー障壁を超えてアノード電極108に流れる。このように、ダイオード7は、ショットキーダイオードとして動作することができる。ダイオード7は、2次元電子ガス層(2DEG)をチャネルとして利用することができるので、低いオン抵抗を有することができる。一方、ダイオード7が順バイアスのとき、正孔供給層74とチャネル層75のヘテロ接合面のうちのチャネル層75側に、正孔供給層74から正孔が供給されて2次元正孔ガス層(2DHG)が生成される。しかしながら、この2次元正孔ガス層(2DHG)は、実質的にチャネルとして動作しないと考えられる。
【0073】
アノード電極108よりも高い電圧がカソード電極102に印加されると、ダイオード7は逆バイアスの状態となる。このとき、2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化する。2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化すると、2次元電子ガス層(2DEG)が空乏化された領域に正の固定電荷が残存し、2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化された領域に負の固定電荷が残存し、これら固定電界の間の電界がカソード電極102とアノード電極108を結ぶ方向に対して直交する方向に発生する。このように、ダイオード7も、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード7は、高耐圧な特性を有することができる。
【0074】
さらに、ダイオード7は、カソード側絶縁性領域226を備えている。カソード側絶縁性領域226が設けられているので、カソード側絶縁性領域226が隣接するチャネル層75に2次元正孔ガス層(2DHG)が形成されず、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成されている。ダイオード7では、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にi−GaAsのチャネル層75が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0075】
さらに、ダイオード7は、アノード側pチャネル用絶縁性領域228を備えている。アノード側pチャネル用絶縁性領域228が設けられているので、アノード側pチャネル用絶縁性領域228が隣接するチャネル層75に2次元正孔ガス層(2DHG)が形成されず、2次元正孔ガス層(2DHG)とアノード電極108が直接的に接しないように構成されている。ダイオード7では、2次元正孔ガス層(2DHG)とアノード電極108の間にi−GaAsのチャネル層75が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0076】
さらに、ダイオード7は、アノード側nチャネル用絶縁性領域230を備えている。アノード側nチャネル用絶縁性領域230が設けられているので、アノード側nチャネル用絶縁性領域230が隣接するチャネル層75に2次元電子ガス層(2DEG)が形成されず、2次元電子ガス層(2DEG)とアノード電極108が直接的に接しないように構成されている。ダイオード7では、2次元電子ガス層(2DEG)とアノード電極108の間にi−GaAsのチャネル層75が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0077】
上記したように、第7実施形態のダイオード7は、低いオン抵抗と高い耐圧を両立させることができる。
【0078】
(第8実施形態)
図8に、第8実施形態のダイオード8を示す。なお、第8実施形態のダイオード8と実質的に同一の構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0079】
図8に示されるように、ダイオード8は、カソード電極102と、アノード電極108と、カソード電極102とアノード電極108の間に設けられている半導体積層体80を備えている。
【0080】
半導体積層体80は、サファイアの基板81、i−AlGaNのバッファ層82、i−AlGaNの第1バリア層83、p−AlGaNの正孔供給層84、i−GaNのチャネル層85、n−AlGaNの電子供給層86、及び、i−AlGaNの第2バリア層87を有する。バッファ層82と第1バリア層83と正孔供給層84とチャネル層85と電子供給層86と第2バリア層87は、有機金属気相成長法を利用して、基板81の表面からこの順に成長して形成される。
【0081】
ダイオード8は、図1−6のダイオードとは異なり、アノード電極108と半導体積層体80の間にp型半導体領域が形成されておらず、アノード電極108がチャネル層85にショットキー接触していることを特徴とする。
【0082】
ダイオード8はさらに、カソード側絶縁性領域232、アノード側pチャネル用絶縁性領域234及びアノード側nチャネル用絶縁性領域236を備えている。これら絶縁性領域232,234,236は、空隙として形成されている。なお、カソード側絶縁性領域232は、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、カソード側絶縁性領域232に対応する領域に2次元正孔ガス層(2DHG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。同様に、アノード側pチャネル用絶縁性領域234は、2次元正孔ガス層(2DHG)とアノード電極108が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側pチャネル用絶縁性領域234に対応する領域に2次元正孔ガス層(2DHG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元正孔ガス層(2DHG)とアノード電極108の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。さらに同様に、アノード側nチャネル用絶縁性領域236は、2次元電子ガス層(2DEG)とアノード電極108が直接的に接しないように構成される限り、他の代替手段が採用され得る。例えば、アノード側nチャネル用絶縁性領域236に対応する領域に2次元電子ガス層(2DEG)を生じさせない材料の絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。あるいは、2次元電子ガス層(2DEG)とアノード電極108の間を介在する位置に空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体が形成されていてもよい。
【0083】
次に、ダイオード8の動作を説明する。カソード電極102よりも高い電圧がアノード電極108に印加されると、ダイオード8は順バイアスの状態となる。これにより、アノード電極108とチャネル層85の間のショットキー障壁が低くなる。このとき、電子供給層86は、自発分極及びピエゾ分極によってチャネル層85側の界面に正の固定電荷が誘起されるように分極されている。この電子供給層86の分極電荷による電子誘起及び電子供給層86のドナー不純物からの電子の供給により、チャネル層85と電子供給層86のヘテロ接合面のうちのチャネル層85側に2次元電子ガス層(2DEG)が生成される。n型半導体領域104から2次元電子ガス層(2DEG)を介してチャネル層85に電子が注入され、その電子が低いショットキー障壁を超えてアノード電極108に流れる。このように、ダイオード8は、ショットキーダイオードとして動作することができる。ダイオード8は、2次元電子ガス層(2DEG)をチャネルとして利用することができるので、低いオン抵抗を有することができる。一方、正孔供給層84も、自発分極及びピエゾ分極によってチャネル層85側の界面に負の固定電荷が誘起されるように分極されている。この正孔供給層84の分極電荷による正孔誘起及び正孔供給層44のアクセプタ不純物からの正孔の供給により、正孔供給層84とチャネル層85のヘテロ接合面のうちのチャネル層85側に2次元正孔ガス層(2DHG)が生成される。しかしながら、この2次元正孔ガス層(2DHG)は、実質的にチャネルとして動作しないと考えられる。
【0084】
アノード電極108よりも高い電圧がカソード電極102に印加されると、ダイオード8は逆バイアスの状態となる。ダイオード8が逆バイアスのとき、2次元電子ガス層(2DEG)と2次元正孔ガス層(2DHG)が空乏化する。ダイオード8では、電子供給層86の正の固定電荷と正孔供給層84の負の固定電荷が残存し、これら固定電荷の間の電界がカソード電極102とアノード電極108を結ぶ方向に対して直交する方向に発生する。このように、ダイオード8も、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード8は、高耐圧な特性を有することができる。
【0085】
さらに、ダイオード8は、カソード側絶縁性領域232を備えている。カソード側絶縁性領域232が設けられているので、カソード側絶縁性領域232が隣接するチャネル層85に2次元正孔ガス層(2DHG)が形成されず、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104が直接的に接しないように構成されている。ダイオード8では、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にi−GaAsのチャネル層85が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0086】
さらに、ダイオード8は、アノード側pチャネル用絶縁性領域234を備えている。アノード側pチャネル用絶縁性領域234が設けられているので、アノード側pチャネル用絶縁性領域234が隣接するチャネル層85に2次元正孔ガス層(2DHG)が形成されず、2次元正孔ガス層(2DHG)とアノード電極108が直接的に接しないように構成されている。ダイオード8では、2次元正孔ガス層(2DHG)とアノード電極108の間にi−GaAsのチャネル層85が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0087】
さらに、ダイオード8は、アノード側nチャネル用絶縁性領域236を備えている。アノード側nチャネル用絶縁性領域236が設けられているので、アノード側nチャネル用絶縁性領域236が隣接するチャネル層85に2次元電子ガス層(2DEG)が形成されず、2次元電子ガス層(2DEG)とアノード電極108が直接的に接しないように構成されている。ダイオード8では、2次元電子ガス層(2DEG)とアノード電極108の間にi−GaAsのチャネル層85が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0088】
上記したように、第8実施形態のダイオード8は、低いオン抵抗と高い耐圧を両立させることができる。
【0089】
本明細書が開示する技術要素について、以下に列記する。なお、以下の各技術要素は、それぞれ独立して有用なものである。
【0090】
本明細書が開示するダイオードは、カソード電極、アノード電極、半導体積層体、n型半導体領域、及び、第1絶縁性領域を備えることができる。半導体積層体は、カソード電極とアノード電極の間に設けられている。半導体積層体は、2次元電子ガス層を生成する第1ヘテロ接合と2次元正孔ガスを生成する第2ヘテロ接合を有することができる。第1ヘテロ接合及び第2ヘテロ接合が、カソード電極とアノード電極の間を結ぶ方向に沿って延びている。n型半導体領域は、カソード電極と半導体積層体の間に設けられている。2次元電子ガス層とn型半導体領域は、直接的に接するように構成されている。2次元正孔ガス層とn型半導体領域は、第1絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されている。ここで、第1絶縁性領域は、一部の領域に2次元正孔ガス層が生成されないようにして、2次元正孔ガス層とn型半導体領域が直接的に接しないようにしてもよい。あるいは、第1絶縁性領域は、2次元正孔ガス層とn型半導体領域の間に介在して、2次元正孔ガス層とn型半導体領域が直接的に接しないようにしてもよい。第1絶縁性領域は、空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体で形成されてもよい。
【0091】
上記ダイオードの一実施形態はさらに、アノード電極と半導体積層体の間に設けられているp型半導体領域、及び、第2絶縁性領域を備えてもよい。この場合、2次元正孔ガス層とp型半導体領域は、直接的に接するように構成されている。2次元電子ガス層とp型半導体領域は、第2絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されている。このダイオードは、PINダイオードとして動作することができる。ここで、第2絶縁性領域は、一部の領域に2次元電子ガス層が生成されないようにして、2次元電子ガス層とp型半導体領域が直接的に接しないようにしてもよい。あるいは、第2絶縁性領域は、2次元電子ガス層とp型半導体領域の間に介在して、2次元電子ガス層とp型半導体領域が直接的に接しないようにしてもよい。第2絶縁性領域は、空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体で形成されてもよい。
【0092】
上記ダイオードの他の一実施形態では、半導体積層体が、2次元電子ガス層に隣接する半導体層がアノード電極にショットキー接触するように構成されていてもよい。このダイオードは、ショットキーダイオードとして動作することができる。このダイオードはさらに、第2絶縁性領域及び第3絶縁性領域を備えていてもよい。2次元電子ガス層とアノード電極は、第2絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されている。2次元正孔ガス層とアノード電極は、第3絶縁性領域によって直接的に接しないように構成されている。ここで、第2絶縁性領域は、一部の領域に2次元電子ガス層が生成されないようにして、2次元電子ガス層とアノード電極が直接的に接しないようにしてもよい。あるいは、第2絶縁性領域は、2次元電子ガス層とアノード電極の間に介在して、2次元電子ガス層とアノード電極が直接的に接しないようにしてもよい。第2絶縁性領域は、空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体で形成されてもよい。また、第3絶縁性領域は、一部の領域に2次元正孔ガス層が生成されないようにして、2次元正孔ガス層とアノード電極が直接的に接しないようにしてもよい。あるいは、第3絶縁性領域は、2次元正孔ガス層とアノード電極の間に介在して、2次元正孔ガス層とアノード電極が直接的に接しないようにしてもよい。第3絶縁性領域は、空隙、絶縁体、半絶縁体又は高抵抗半導体で形成されてもよい。
【0093】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0094】
例えば、2次元電子ガス層と2次元正孔ガス層の上下を入れ替えてもよいし、2次元電子ガス層と2次元正孔ガス層のペアを持つヘテロ構造が厚さ方向に複数積層されていてもよい。図9に、このような変形例を例示する。図9に示すダイオード9は、図1のダイオード1の変形例である。このダイオード9の半導体積層体90は、半絶縁性のGaAsの基板91、AlGaAsのバッファ層92、i−AlGaAsのバリア層93、n−InGaPの電子供給層94、i−GaAsのチャネル層95、p−InGaPの正孔供給層96、i−AlGaAsのバリア層97、n−InGaPの電子供給層98、i−GaAsのチャネル層99、p−InGaPの正孔供給層100、及び、i−AlGaAsのバリア層101を有する。このように、図9のダイオード9は、図1のダイオード1と対比すると、2次元電子ガス層と2次元正孔ガス層の上下が入れ替わっており、さらに、2次元電子ガス層と2次元正孔ガス層のペアを持つヘテロ構造が厚さ方向に複数積層されている。このようなダイオード9も、ヘテロ接合型スーパージャンクション構造を有しており、通常のスーパージャンクション構造と同様に、カソード電極102とアノード電極108の間の電界強度を一様とすることができる。このため、ダイオード9は、高耐圧な特性を有することができる。さらに、ダイオード9も、カソード側絶縁性領域238,240を備えており、2次元正孔ガス層(2DHG)とn型半導体領域104の間にi−GaAsのチャネル層95,99が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。さらに、ダイオード9は、アノード側絶縁性領域242,244を備えており、2次元電子ガス層(2DEG)とp型半導体領域106の間にi−GaAsのチャネル層95,99が介在することにより、この部分の電界集中が緩和され、高耐圧な特性が実現される。
【0095】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであるが、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0096】
1:ダイオード
10:半導体積層体
11:基板
12:バッファ層
13:バリア層
14:正孔供給層
15:チャネル層
16:電子供給層
17:バリア層
102:カソード電極
104:n型半導体領域
106:p型半導体領域
108:アノード電極
202:カソード側絶縁性領域
204:アノード側絶縁性領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9