特許第6831368号(P6831368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831368
(24)【登録日】2021年2月1日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】ケーブルジャケット
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20210208BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20210208BHJP
   C08G 18/50 20060101ALI20210208BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20210208BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20210208BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   H01B7/04
   C08G18/65 011
   C08G18/50 003
   H01B7/02 Z
   H01B7/18 H
   H01B3/44 C
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-510368(P2018-510368)
(86)(22)【出願日】2016年7月7日
(65)【公表番号】特表2018-527709(P2018-527709A)
(43)【公表日】2018年9月20日
(86)【国際出願番号】EP2016066072
(87)【国際公開番号】WO2017036643
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年6月7日
(31)【優先権主張番号】62/213,830
(32)【優先日】2015年9月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15187530.9
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ルッソ, アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】アンダーウッド, ジェフリー スコット
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−312119(JP,A)
【文献】 特開平06−116352(JP,A)
【文献】 特開2003−048947(JP,A)
【文献】 特開平02−180918(JP,A)
【文献】 米国特許第02911390(US,A)
【文献】 特開2014−078390(JP,A)
【文献】 特開2012−227061(JP,A)
【文献】 米国特許第03574770(US,A)
【文献】 特開2011−080016(JP,A)
【文献】 特開2011−140618(JP,A)
【文献】 特開平02−180917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
C08G 18/50
C08G 18/65
H01B 3/44
H01B 7/02
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のフッ化ポリウレタン[ポリマーF−TPU]を含有する組成物[組成物(C)]から製造される少なくとも1つの被覆層を含むケーブルであって、前記ポリマーF−TPUが、
(a)ポリ−エーテル型ジオール、ポリ−エステル型ジオール、ポリブタジエン−ジオール、及びポリカーボネート−ジオールからなる群から選択される少なくとも1種のジオール;
(b)少なくとも1種のヒドロキシ末端(ペル)フルオロポリエーテルポリマー[PFPEポリマー];
(c)少なくとも1種の芳香族、脂肪族、又は脂環式のジイソシアネート;並びに
(d)1〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族、脂環式、又は芳香族のジオール;
由来の繰り返し単位を含む、ケーブル。
【請求項2】
前記少なくとも1種のモノマー(a)が、ポリ(エチレン)グリコール、ポリ(プロピレン)グリコール、ポリ(テトラメチレン)グリコール(PTMG)、ポリ(1,4−ブタンジオール)アジペート、ポリ(エタンジオール−1,4−ブタンジオ)アジペート、ポリ(1,6−ヘキサンジオール−ネオペンチル)グリコールアジペート、ポリ−カプロラクトン−ジオール(PCL)、及びポリカーボネート−ジオールからなる群の中で選択される、請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記少なくとも1種のモノマー(b)が、2つの鎖末端を有し、一方又は両方の鎖末端が少なくとも1つの−OH基で終端している(ペル)フルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(Rpf)]を含む、ヒドロキシ末端(ペル)フルオロポリエーテルポリマー[PFPEポリマー]である、請求項1又は2に記載のケーブル。
【請求項4】
前記鎖(Rpf)のうちの少なくとも1つの鎖末端が、式(I)の基:
−CH(OCHCH−OH (I)
(式中、tは0又は1〜5である)
を有する、請求項3に記載のケーブル。
【請求項5】
前記鎖(Rpf)の両方の鎖末端が請求項4で定義された式(I)の基を有する、請求項4に記載のケーブル。
【請求項6】
前記鎖(Rpf)が、下記式の鎖:
−(CFX)O(R)(CFX’)
(式中、h及びiは、互いに等しいか又は異なり、1以上であり、好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜3であり;
X及びX’は、互いに等しいか又は異なり、−F又は−CFであるが、h及び/又はiが1より大きい場合にはX及びX’は−Fであることを条件とする;
(R)は、繰り返し単位R°を含み、好ましくはそれからなり、前記繰り返し単位は、
(i)−CFXO−(式中、Xは、F又はCFである);
(ii)−CFXCFXO−(式中、Xは、各存在で互いに同じ又は異なりF又はCFであるが、Xのうちの少なくとも1つは−Fである);
(iii)−CFCFCWO−(式中、Wのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、F、Cl、Hである);
(iv)−CFCFCFCFO−;
(v)−(CF−CFZ−O−(式中、jは0〜3の整数であり、Zは一般式−O−R(f−a)−Tの基であり、R(f−a)は、0〜10の数の繰り返し単位を含むフルオロポリオキシアルケン鎖であり、前記繰り返し単位は、以下:−CFXO−、−CFCFXO−、−CFCFCFO−、−CFCFCFCFO−(Xのそれぞれのそれぞれは、独立して、F又はCFである)の中から選択され、Tは、C〜Cペルフルオロアルキル基である);
からなる群から独立に選択される)
である、請求項3〜5のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項7】
前記少なくとも1種のモノマー(c)が、4,4’−メチレン−ジフェニレン−ジ−イソシアネート(MDI)、1,6−ヘキサン−ジイソシアネート(HDI)、2,4−トルエン−ジイソシアネート、2,6−トルエン−ジイソシアネート、キシリレン−ジイソシアネート、ナフタレン−ジイソシアネート、パラフェニレン−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−ジイソシアネート、イソホロン−ジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシル−メタン−ジイソシアネート、及びシクロヘキシル−1,4−ジイソシアネートを含む群の中で選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項8】
前記少なくとも1種のモノマー(d)が、エチレン−グリコール、1,4−ブタンジオール(BDO)、1,6−ヘキサンジオール(HDO)、N,N−ジエタノールアミン、及びN,N−ジイソパノールアニリンを含む群の中で、好ましくはこれらからなる群の中で選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項9】
モノマー(b)由来の繰り返し単位を含むブロック[ブロックB]のうちの少なくとも80%が、これらの末端のうちの少なくとも一方で、モノマー(c)由来の繰り返し単位を含むブロック[ブロックC]を介してモノマー(a)由来の繰り返し単位を含むブロック[ブロックA]と連結している、請求項1〜8のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項10】
前記被覆層が前記ケーブルの最外層である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項11】
前記組成物(C)が可塑剤を含まない、請求項1〜10のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項12】
前記ケーブルがイヤホンケーブルである、請求項1〜11のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項13】
前記ケーブルがUSBケーブルである、請求項1〜12のいずれか一項に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年9月3日出願の米国仮特許出願第62/213830号及び2015年9月30日出願の欧州特許出願第15187530.9号の優先権を主張するものであり、これら出願それぞれの全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本出願は、(ペル)フルオロポリエーテルポリマー由来の繰り返し単位を含むフッ化ポリウレタンポリマーから製造されるケーブルジャケットに関する。
【背景技術】
【0003】
音響システム又は画像システムで発生する電気信号を送信/受信するための信号伝送ケーブルは、イヤホン、ヘッドホン、スピーカー、または画像表示デバイスと共に使用するために接続される場合がある。このタイプのケーブルは、例えば米国特許出願公開第2014041897号明細書(SUN−KI KIM,JOINSET CO.LTD)及び米国特許出願公開第2011051973号明細書(TSINGHUA UNIVERSITY,HON HAI PRECISION INDUSTRY CO.,LTD)に開示されている。プラスチック材料から形成された少なくとも1つのシース層を含む、シースで被覆されたケーブルも、例えば国際公開第2010/025963号パンフレット(COROPLAST FRITZ MUELLER GMBH)に開示されている。
【0004】
他方で、一般的に「USB」と呼ばれているユニバーサルシリアルバスは、コンピュータと電子デバイスとの間の接続、通信、及び電源供給のためのバスで使用される、ケーブル、コネクタ、及び通信プロトコルを特徴付ける、1990年代半ばに開発された業界標準である。このタイプのケーブルは、例えば米国特許出願公開第2014/0305675号明細書(HON HAI PRECISION INDUSTRY CO.,LTD)に開示されている。
【0005】
これらの全てのケーブルは、外側のシースを有しており、これは「ケーブルジャケット」又は「最外被覆層」とも呼ばれ、ケーブルの全ての構成要素を包み込んで外部環境からこれらを保護すると同時に、取り扱い易さ、柔軟性、及び機械的強度を付与する。
【0006】
欧州特許出願公開第0359272A号明細書(AUSIMONT SRL)には、ゴム状のポリオキシペルフルオロアルキレンブロックと、短鎖脂肪族ジオール及び/又は脂肪族若しくは芳香族ジアミン由来並びに(シクロ)脂肪族又は芳香族ジイソシアネート由来の硬いセグメントとを含むポリウレタンが開示されている。
【発明の概要】
【0007】
出願人は、ケーブルのケーブルジャケット、特にはイヤホンケーブル又はUSBケーブルのジャケットの製造に有用であり得る新規な高分子材料を提供するという課題と向き合った。
【0008】
出願人は、驚くべきことに、(ペル)フルオロポリエーテルポリマー由来の繰り返し単位を含むポリウレタンポリマーが、特には耐汚染性、耐薬品性、耐摩耗性、低温柔軟性、絹のような質感、及び機械的特性などの特性を有し、そのためケーブルのケーブルジャケットの製造に有用であり得ることを見出した。
【0009】
更に出願人は、驚くべきことに、本発明のケーブルジャケットは、特には耐汚染性、耐摩耗性、及び耐薬品性に関し、完全に水素化されたポリウレタンから得られるケーブルジャケットと比較して改善された特性を有することを見出した。
【0010】
以上のことから、第1の態様においては、本発明は、少なくとも1種のフッ化ポリウレタン[ポリマーF−TPU]を含有する組成物[組成物(C)]から製造される少なくとも1つの被覆層を含むケーブルであって、前記ポリマーF−TPUが、
(a)ポリ−エーテル型ジオール、ポリ−エステル型ジオール、ポリブタジエン−ジオール、及びポリカーボネート−ジオールを含む群から選択される少なくとも1種のジオール;
(b)少なくとも1種のヒドロキシ末端(ペル)フルオロポリエーテルポリマー[PFPEポリマー];
(c)少なくとも1種の芳香族、脂肪族、又は脂環式のジイソシアネート;並びに
(d)1〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族、脂環式、又は芳香族のジオール;
由来の繰り返し単位を含む、ケーブルに関する。
【0011】
好ましい実施形態においては、前記被覆層は前記ケーブルの最外層である。
【0012】
出願人は、驚くべきことに、前記組成物(C)から製造されるケーブルの最外被覆層が、前記組成物(C)に可塑剤を添加しなくても軟らかい絹のような触感を与えることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】汎用ケーブルの第1の実施形態の断面図である。
図2】イヤホンケーブルの断面図である。
図3】USBケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において:
− 用語「(ペル)フルオロポリエーテル」は、「完全に又は部分的にフッ素化されたポリエーテル」を示すことが意図されており;
− 「(ペル)フルオロポリオキシアルキレン鎖」という表現は、部分的に又は完全にフッ素化された直鎖又は分岐のポリオキシアルキレン鎖を示すことが意図されており;
− 化合物、化学式、又は式の一部を特定する記号又は数字の前後の括弧の使用は、それらの記号又は数字を本文の残りから区別し易くする目的を有しているに過ぎず、したがって、前記括弧は省略される場合もある。
【0015】
好ましくは、ポリマーF−TPUは、ブロックコポリマー、すなわちブロック(「セグメント」とも呼ばれる)を含み、各ブロックが、上で定義したモノマー(a)、モノマー(b)、モノマー(c)、又はモノマー(d)由来の繰り返し単位を含むポリマーである。
【0016】
好ましくは、前記ポリマーF−TPUは、30,000〜約70,000Daの数平均分子量を有する。
【0017】
好ましくは、前記ポリマーF−TPUは、約120℃〜約240℃の融点(T)を有する。
【0018】
好ましくは、前記少なくとも1種のモノマー(a)は、500〜4,000Da、より好ましくは1,000〜4,000Daの数平均分子量を有する。
【0019】
好ましくは、前記少なくとも1種のモノマー(a)は、ポリ(エチレン)グリコール、ポリ(プロピレン)グリコール、ポリ(テトラメチレン)グリコール(PTMG)、ポリ(1,4−ブタンジオール)アジペート、ポリ(エタンジオール−1,4−ブタンジオ)アジペート、ポリ(1,6−ヘキサンジオール−ネオペンチル)グリコールアジペート、ポリ−カプロラクトン−ジオール(PCL)、及びポリカーボネート−ジオールからなる群から選択される。ポリ(テトラメチレン)グリコール、ポリカーボネート−ジオール、及びポリ−カプロラクトン−ジオールが特に好ましい。
【0020】
好ましくは、前記少なくとも1種のモノマー(b)は、2つの鎖末端を有し、一方又は両方の鎖末端が少なくとも1つの−OH基で終端している(ペル)フルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(Rpf)]を含む、ヒドロキシ末端(ペル)フルオロポリエーテルポリマー[PFPEポリマー]である。
【0021】
好ましくは、前記鎖(Rpf)のうちの少なくとも1つの鎖は、式:
−CH(OCHCH−OH(I)
(式中、tは0又は1〜5である)
の基で終端する。
【0022】
より好ましくは、前記鎖(Rpf)の両方の鎖末端が、上記で定義した式(I)の基で終端する。
【0023】
好ましくは、前記鎖(Rpf)は、下記式の鎖である。
−(CFX)O(R)(CFX’)
ここで、h及びiは、互いに等しいか又は異なり、1以上、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜3であり;
X及びX’は、互いに等しいか又は異なり、−F又は−CFであるが、h及び/又はiが1より大きい場合にはX及びX’は−Fであることを条件とする;
(R)は、繰り返し単位R°を含み、好ましくはそれからなり、前記繰り返し単位は、
(i)−CFXO−(式中、Xは、F又はCFである);
(ii)−CFXCFXO−(式中、Xは、各存在で互いに同じ又は異なり、F又はCFであるが、Xのうちの少なくとも1つは−Fである);
(iii)−CFCFCWO−(式中、Wのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、F、Cl、Hである);
(iv)−CFCFCFCFO−;
(v)−(CF−CFZ−O−(式中、jは0〜3の整数であり、Zは一般式−O−R(f−a)−Tの基であり、R(f−a)は、0〜10の数の繰り返し単位を含むフルオロポリオキシアルケン鎖であり、前記繰り返し単位は、以下:−CFXO−、−CFCFXO−、−CFCFCFO−、−CFCFCFCFO−(Xのそれぞれのそれぞれは、独立して、F又はCFである)の中から選択され、Tは、C〜Cペルフルオロアルキル基である);
からなる群から独立に選択される。
【0024】
より好ましくは、鎖(R)は、次の式(R−a)〜(R−c):
(R−a)−(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)
(式中、m、n、p、qは、0又は鎖Rが上記数平均分子量の要件を満たすように選択される整数であるが、p及びqが同時に0でない場合にはnは0でなく、mが0以外の場合にはm/n比は好ましくは0.1〜20であり、(m+n)が0以外の場合は(p+q)/(m+n)は好ましくは0〜0.2であることを条件とする);
(R−b)−(CFCF(CF)O)(CFCFO)(CFO)(CF(CF)O)
(式中、a、b、c、dは、0又はR鎖が上記数平均分子量の要件を満たすように選択される整数であるが、a、c及びdの少なくとも1つは0でなく、bが0以外の場合にはa/bは好ましくは0.1〜10であり、(a+b)が0以外の場合は(c+d)/(a+b)は好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.01〜0.2であることを条件とする);
(R−c)−(CFCF(CF)O)(CFO)(CF(CF)O)
(式中、e、f、gは、0又は鎖Rが上記数平均分子量の要件を満たすように選択される整数であり、eが0以外の場合には(f+g)/eは好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.01〜0.2である)
から選択される。
【0025】
鎖(R)が上で定義した式(R−a)を満たしp及びqが0であるPFPEポリマーが、本発明では特に好ましい。
【0026】
好ましい実施形態においては、前記PFPEポリマーは、次式(PFPE−I):
HO−(CHCHO)−CH−(Rpf)−CH(OCHCH−OH(PFPE−I)
(式中、t及びuはそれぞれ独立に0又は1〜5であり、Rpfは上で定義した通りである)を満たす。
【0027】
好ましくは、前記ポリマーPFPE−PAGは、400〜10,000Da、より好ましくは1,000〜5,000の数平均分子量を有する。
【0028】
好ましい実施形態においては、モノマー(a)とモノマー(b)との間のモル比は2〜20、より好ましくは2〜10である。
【0029】
好ましい実施形態においては、モノマー(b)の量は、ポリマーF−TPUが4〜30重量%のフッ素を含むような量である。
【0030】
好ましくは、前記少なくとも1種のモノマー(c)は、500Da以下、好ましくは10〜500Daの数分子量を有する。
【0031】
好ましくは、前記少なくとも1種のモノマー(c)は、4,4’−メチレン−ジフェニレン−ジ−イソシアネート(MDI)、1,6−ヘキサン−ジイソシアネート(HDI)、2,4−トルエン−ジイソシアネート、2,6−トルエン−ジイソシアネート、キシリレン−ジイソシアネート、ナフタレン−ジイソシアネート、パラフェニレン−ジイソシアネート、ヘキサマエチレン(hexamaethylen)−ジイソシアネート、イソホロン−ジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシル−メタン−ジイソシアネート、及びシクロヘキシル−1,4−ジイソシアネートを含む群の中で、好ましくはこれらからなる群の中で選択される。
4,4’−メチレン−ジフェニレン−ジ−イソシアネート(MDI)、1,6−ヘキサン−ジイソシアネート(HDI)、及びヘキサマエチレン(hexamaethylen)−ジイソシアネートが特に好ましい。
【0032】
好ましくは、前記少なくとも1種のモノマー(d)は、エチレン−グリコール、1,4−ブタンジオール(BDO)、1,6−ヘキサンジオール(HDO)、N,N−ジエタノールアミン、及びN,N−ジイソパノールアニリンを含む群の中で、好ましくはこれらからなる群の中で選択される。
BDO及びHDOが特に好ましい。
【0033】
好ましい実施形態においては、モノマー(c)及び(d)由来のブロックの合計は、F−TPUポリマーの総重量基準で10〜60重量%である。
【0034】
当業者であれば、モノマー(a)及び(b)由来の繰り返し単位を含むブロックがゴム系のブロックである一方で、モノマー(c)及び(d)由来の繰り返し単位を含むブロックが硬いブロックであることを容易に理解するであろう。
【0035】
好ましい実施形態においては、前記モノマー(b)由来の繰り返し単位を含むブロック[ブロックB]のうちの少なくとも80%が、これらの末端のうちの少なくとも一方で、モノマー(c)由来の繰り返し単位を含むブロック[ブロックC]を介してモノマー(a)由来の繰り返し単位を含むブロック[ブロックA]と連結している。
つまり、ブロックBのうちの少なくとも80%が次のタイプの配列:−[A−C−B−C]−の中に含まれる。
【0036】
有利には、ポリマーF−TPUは、米国特許第5,332,798号明細書(AUSIMONT S.P.A.)、特には実施例15に開示の手順に従って合成することができる。
【0037】
好ましい実施形態によれば、被覆層は、可塑剤を含まない組成物(C)から製造される。
【0038】
好ましくは、前記組成物(C)は、主成分として上で定義したF−TPUポリマーを含む。
【0039】
より好ましくは、前記F−TPUポリマーは、前記組成物(C)の総重量基準で少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、更に好ましくは少なくとも85重量%の量である。
【0040】
F−TPUポリマーに加えて、前記組成物(C)は、例えば酸化防止剤、熱安定剤、染料、及び充填剤などの追加的な添加剤を任意選択的に含有していてもよい。
【0041】
前記組成物(C)が、上に挙げた添加剤のいずれかを最大1重量%の量で組み合わせた前記F−TPUポリマーから本質的に製造される実施形態も、本発明に包含される。
【0042】
典型的には、ケーブルは、ケーブル芯と少なくとも1つの被覆層とを含み、ケーブル芯は電気信号を伝送するための少なくとも1本の金属製の内部導体を含み、ケーブルの意図される用途に応じて更にワイヤも含む。
【0043】
図1を参照すると、第1の実施形態のケーブル100は、金属導体101を含むケーブル芯;被覆層(又はジャケット)102を含み、被覆層102は、最外被覆層であり、上で定義したF−TPUポリマーを含有する組成物(C)から製造される。
【0044】
図2を参照すると、イヤホンケーブル200は、金属導体201を含むケーブル芯;絶縁層202;導電性材料から製造される遮蔽層203;及び被覆(又はジャケット)204を含み、被覆204は最外被覆層であり、上で定義したF−TPUポリマーを含有する組成物(C)から製造される。
【0045】
図3を参照すると、USBケーブル300は、金属製の内部導体301と内部導体を取り囲む絶縁層(図示せず)とを含む少なくとも1本の電源線、一対の信号線302、アース線303を含むケーブルコア;金属製の編組層304;並びに被覆層(又はジャケット)305を含み、被覆層305は最外被覆層であり、上で定義したF−TPUポリマーを含有する組成物(C)から製造される。
【0046】
本発明のケーブルジャケットは、公知の方法に従って製造することができる。
【0047】
例えば、ケーブルジャケットは、
(i)少なくとも1本の金属導体を含む少なくとも1本のケーブル芯を含むケーブルを準備する工程;
(ii)少なくとも上で定義した前記F−TPUポリマーを含有する組成物(C)で前記ケーブル芯を被覆する工程;
を含む方法によって製造することができる。
【0048】
好ましくは、工程(ii)は押出によって行われる。
【0049】
好ましくは、工程(ii)の後、被覆層の温度を冷却する工程(iii)が行われる。
【0050】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0051】
本発明は、以下の実験の項に含まれる実施例によってより詳細に以下に例証され、実施例は、例証的であるに過ぎず、本発明の範囲を限定するものと決して解釈されるべきではない。
【実施例】
【0052】
原材料
−モノマー(a):
(a1)約2,000の分子量(Mw)を有するポリカプロラクトンジオール(PLC)
(a2)約2,000のMwを有するポリテトラメチレングリコール(PTMEG)
(a3)約2,000のMwを有するポリカーボネート−ジオール(PCD)
(a4)約2,000のMwを有するポリエステル−ジオール
−下記一般式のモノマー(b):
H(OCHCHOCHCFO(CFCFO)(CFO)−CFCHO(CHCHO)
(b1)p=4.7であり、約2,000のMw
(b2)p=1.6であり、約1,700のMw
−モノマー(c):
(c1)ジフェニレン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)
(c2)1,6−ヘキサン−ジイソシアネート
−モノマー(d):
(d1)1,4−ブタンジオール(BDO)
(d2)1,6−ヘキサンジオール(HDO)
−触媒:
ネオデカン酸ビスマス
【0053】
F−TPUポリマー試験片の作製−方法A
シート形態のF−TPUポリマー試験片は、上述のモノマーから出発し、上で引用した米国特許5,332,798号明細書(Ausimont S.p.A.)の実施例15に詳述されているのと同じ手順に従って作製した。
【0054】
そのようにして得たF−TPUポリマーは、20重量%のモノマー(b)由来の繰り返し単位を含んでいた。
【0055】
F−TPUポリマー試験片の作製−方法B
シート形態のF−TPUポリマー試験片5〜7及び8(後者は比較として)は、次の通りに作製した:
− モノマー(c)とモノマー(a)を、当量比2対1で90℃の温度で反応させることによって水素化プレポリマーを合成した;
− モノマー(c)とモノマー(b)を、当量比2対1で90℃の温度で反応させることによってフッ素化プレポリマーを合成した;
− その後、水素化プレポリマーとフッ素化プレポリマーを、90℃で30分間、互いに混ぜ合わせて撹拌した;
− 選択した化学量論比に応じて、モノマー(c)を更に添加した;
− 反応は、鎖の延長が完了するまで90℃で3分間継続した;
− このようにして得たポリマーを100℃で24時間成型した。
【0056】
上述の方法A及びBに従って得たF−TPUポリマーの組成並びに比較の水素化ポリウレタンポリマー(H−TPU)の組成は、次の表1中に報告されている。
【0057】
追加的な比較として、市販の水素化TPU(H−TPU 9)を使用した。H−TPU 9のモノマー比は公表されていない。
【0058】
【0059】
F−TPU及びH−TPUポリマーから作られたシートの機械的な特性を評価した。結果は表2に報告されている。
【0060】
【0061】
上記の結果は、本発明のF−TPUポリマーが履物製品のアッパーの製造で典型的に使用されるH−TPUポリマーの機械的特性と同等の機械的特性を有しており、そのためF−TPUポリマーは完成品のアッパーに優れた機械的特性を付与することを示している。
【0062】
実施例1−接触角
この試験は、耐汚染性と耐薬品性の両方について予測すると考えられる。
【0063】
溶媒としての水及びn−ヘキサデカンの液滴(約5μL)の静的接触(SCA)角を、DSA30装置(Kruess GmbH,Germany)で測定した。SCA値だけでなく、10個の接触角の中での標準偏差も計算した。
【0064】
表面自由エネルギーは、Owens,Wendt,Rabel and Kaelble法(WORK法)に従って計算した。これは、複数の液体との接触角から固体の表面自由エネルギーを計算するための標準的な方法である。
【0065】
結果を次の表3にまとめる。
【0066】
【0067】
上記の結果は、表面エネルギーが参照化合物として使用した水素化熱可塑性ポリウレタンについての31mN/mと比較して15〜16mN/mの範囲へと低下した一方で、水(HO)とヘキサデカン(C16)の両方で測定した接触角が大きくなったことを示している。これらのデータは、H−TPUと比べたF−TPUによって与えられる対汚染性及び耐薬品性についての増加と一致する。
【0068】
実施例2−ブルーデニム試験
この試験は、耐汚染性と耐摩耗性の両方を予測すると考えられる。
【0069】
試験は、Taber Industries5750リニア摩耗試験機を用いて行った。これは、次の条件で作動するように設定した:
− サイクル速度:30サイクル/分
− ストローク長:2.54cm(1インチ)
− サイクル数:200
− 総荷重:1kg。
【0070】
試験は、F−TPU1、F−TPU2、F−TPU3、F−TPU5、及びF−TPU7上で、乾燥デニムを用いて1回、それから濡らしたデニムを用いて1回行った。
【0071】
濡らしたデニムを用いて試験を行う前に、デニムを10秒間水に浸し、次いでこれを取り出し、デニムから水滴は滴らないが触ると濡れている状態になるように手で水を絞った。
【0072】
試験は次の通りに行った:試験中に試料が移動しないように約30mm×30mmの寸法のデニム試料を固定具に固定した。次いで、F−TPU及びH−TPUの各試料をデニム試料の上に置き、同様に固定具に固定する。
【0073】
チェックポイントは次の通りである:
− 擦った後、及び
− イソプロピルアルコール(IPA)で洗った後。
【0074】
乾燥した状態での試験についての結果:F−TPU1、F−TPU2、F−TPU3、F−TPU5、及びF−TPU7について、汚染は観察されなかった。
【0075】
濡れた状態での試験についての結果:F−TPU1、F−TPU2、F−TPU3、F−TPU5、及びF−TPU7について、ごく軽い環状の染み(ハロー,halo)が観察された。
【0076】
実施例3−汚染試験
F−TPU1から作製した試験片の表面に、上に挙げた各汚染剤を1滴接触させ、周囲条件で24時間放置した。その後、試験片を水洗した。
【0077】
比較としてH−TPUから作製した試験片を使用し、上で開示した通りに処理した。
【0078】
結果を次の表4にまとめる。
++=汚染なし
+=痕跡/ハロー
−=汚染
【0079】
【0080】
上記の結果は、F−TPU試験片の耐汚染性と耐薬品性の両方に関してH−TPU試験片と比べて増加することを明確に示した。
【0081】
実施例4−触覚特性の評価
5人の手触りによって材料のシートを主観的に試験することにより、各F−TPU1、2および3とH−TPUの触覚特性(特には軟らかさの感触)を評価した。
【0082】
軟らかさの感触は、手で触ることによって主観的に測定し、1〜5の5段階で評価した。1が軟らかさの感触が乏しく(硬い感触)、5が極めて軟らかい感触である。参加者はこの試験に個別に参加した。そのため、彼らは互いの反応の影響を受けなかった。参加者には4つの試料をランダムな順序で渡し、それらを触って評価するように頼んだ。
【0083】
結果を次の表5にまとめる。
【0084】
【0085】
上記の結果は、本発明のF−TPUを用いて得たシートが、H−TPUポリマーから得られたシートと比較した場合、より優れた触覚、特には改善された柔らかさの感触を示したことを明確に示している。
図1
図2
図3