特許第6831386号(P6831386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6831386デッドスペースを減少させた流体送達用医療機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831386
(24)【登録日】2021年2月1日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】デッドスペースを減少させた流体送達用医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/31 20060101AFI20210208BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20210208BHJP
   A61M 5/158 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   A61M5/31 530
   A61M5/315
   A61M5/158 500H
【請求項の数】20
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-538074(P2018-538074)
(86)(22)【出願日】2016年10月10日
(65)【公表番号】特表2018-535067(P2018-535067A)
(43)【公表日】2018年11月29日
(86)【国際出願番号】US2016056218
(87)【国際公開番号】WO2017062932
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2019年9月25日
(31)【優先権主張番号】15/204,542
(32)【優先日】2016年7月7日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/284,806
(32)【優先日】2015年10月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/269,248
(32)【優先日】2016年9月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/281,536
(32)【優先日】2016年1月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518123372
【氏名又は名称】ウェスト ファーマ サービシーズ イスラエル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カビリ オズ
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−237188(JP,A)
【文献】 特表2007−517589(JP,A)
【文献】 特表2002−505601(JP,A)
【文献】 特表2015−514486(JP,A)
【文献】 特開2011−136153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
A61M 5/158
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位開口部と、内面を有する遠位壁と、中心軸とを有する円筒状の穴部と、
外周部と遠位面とを有するプランジャ封止部と、
を備え、
前記内面は、第1領域と、前記第1領域とは異なる第2領域とを有しており、
前記円筒状の穴部の前記遠位壁は、流出口を画定しており、
前記流出口は、前記第1領域の範囲内に位置していて前記中心軸から離れていると共に、前記第2領域から遠ざかっており、
前記外周部は、前記プランジャ封止部が前記円筒状の穴部に対して同軸となる状態において、前記円筒状の穴部の内部に取り付けられる大きさおよび形状を有し、
前記遠位面が前記円筒状の穴部の前記遠位壁の内面に対向した状態において前記プランジャ封止部が前記円筒状の穴部の内部に取り付けられた際、前記内面の前記第2領域は、前記円筒状の穴部の前記中心軸に平行な方向において、前記第1領域よりも前記プランジャ封止部の前記遠位面に対して軸方向に近接していることにより、前記遠位面が前記第1領域に接触する前に、前記第2領域が前記プランジャ封止部の前記遠位面に接触することを可能としている
医薬品用シリンジ。
【請求項2】
前記内面の平均方位は、前記中心軸に対して傾いている
請求項1に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項3】
前記内面の前記平均方位は、約1度から約5度の範囲の角度となるように前記中心軸に対して傾いている
請求項2に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項4】
前記プランジャ封止部の前記遠位面は、凸形状を有する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項5】
前記内面は、凹形状を有する
請求項4に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項6】
前記内面は、円錐形状を有し、
前記内面の開口角度は、前記プランジャ封止部の前記遠位面の前記凸形状の開口角度よりも小さい
請求項5に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項7】
前記内面は、放射対称性を有していない
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項8】
前記内面の前記第1領域の平均方位は、前記プランジャ封止部が前記穴部に対して同軸となった際、前記プランジャ封止部の前記遠位面の平均方位から離れるように傾斜している
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項9】
前記内の前記第2領域の平均方位は、前記プランジャ封止部が前記穴部に対して同軸となった際、前記プランジャ封止部の前記遠位面の平均方位に向かうように傾斜している
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項10】
前記プランジャ封止部の前記遠位面と前記第2領域との間の距離は、前記プランジャ封止部の前記遠位面と前記第1領域との間の距離よりも小さい
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項11】
前記内面の前記第1領域の表面と前記内面の前記第2領域の表面との間の推移は、連続的である
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項12】
記流出口を含む前記内の前記第1領域は、前記穴部の縁部に近接した位置に配置されており、
前記第2領域は、前記穴部の反対側の縁部に近接した位置に配置されている
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項13】
さらに、
記流出口を起点とする屈曲流体路を備えた
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の医薬品用シリンジ。
【請求項14】
遠位面を有するプランジャ封止部を取り付ける円筒状の穴部を備え、前記円筒状の穴部が近位開口部と遠位端とを含み、前記遠位端が前記円筒状の穴部の中心軸から偏倚した位置に配置された流出口を含む医薬品用シリンジにおける流体のデッドスペースを減少させる方法であって、
前記円筒状の穴部の前記遠位端に向かって前記プランジャ封止部を駆動させる工程と、
記流出口を含む領域とは異なる接触領域において、前記プランジャ封止部の前記遠位面の一部を前記円筒状の穴部の前記遠位端の壁の内面の一部に接触させる工程と、
前記プランジャ封止部の前記遠位面の平均方位に対して傾いた平均方位に向かって流体を排出させながら、前記接触領域から前記流出口の位置に向かって接触範囲を拡大させる工程と、
を含み、
前記接触領域において接触させる工程は、前記流出口を含む前記領域を接触させる前に、前記プランジャ封止部の前記遠位面に接触させることを含む
医薬品用シリンジにおける流体のデッドスペースを減少させる方法。
【請求項15】
前記接触させる工程は、前記内面の周縁部である前記接触領域において最初に接触させることを含み、
前記周縁部は、前記流出口を含む前記領域とは異なっている
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記拡大させる工程は、前記内面の周縁部から前記内の中心部を経由して前記流出口を含む前記領域まで前記接触範囲を拡大させることを含む
請求項14から請求項15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記プランジャ封止部を弾性変形させることにより、前記接触範囲を拡大させる工程を行う
請求項14から請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記接触範囲を拡大させる工程は、前記流出口の前記位置に向かって前記接触領域から離れるように流体を流動させる
請求項14から請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
さらに、
前記プランジャ封止部を駆動させる前記工程を終了させる工程
を含み、
約5Nと約25Nの間の範囲の力により、前記プランジャ封止部を駆動させる前記工程を行う
請求項14から請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記終了させる工程を経たのち、前記プランジャ封止部と前記内との間における流体のデッドスペースの体積は、約0.01mlと約0.5mlとの間の範囲である
請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのいくつかの実施の形態において、傾斜型シリンジ(angled syringe)に関し、特に、これに限定されるものではないが、流体のデッドスペース(dead space)が減少した傾斜型シリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6500150号は、以下のことを開示している。「薬剤送達装置は、皮膚接触面を画定するベース部材と、薬剤の容器として機能するシリンジと、そのシリンジから薬剤を排出する手段とを有する。シリンジは、そのシリンジの長手軸が皮膚表面に対してほぼ平行となるようにベース部材に接続されている。送達針は、シリンジと連通している。また、送達針は、角度を有する屈曲部を含む。屈曲部は、皮膚接触面に対してほぼ垂直となるように針の先端部を導く。使用時には、針の先端部が対象の皮膚を貫通する。」。
【0003】
米国特許第6824529号は、以下のことを開示している。「薬剤送達装置は、皮膚接触面を画定するベース部材と、薬剤の容器として機能するシリンジと、そのシリンジから薬剤を排出する手段とを有する。シリンジは、そのシリンジの長手軸が皮膚表面に対してほぼ平行となるようにベース部材に接続されている。送達針は、シリンジと連通している。また、送達針は、角度を有する屈曲部を含む。屈曲部は、皮膚接触面に対してほぼ垂直となるように針の先端部を導く。使用時には、針の先端部が対象の皮膚を貫通する。」。
【0004】
米国特許第6843782号は、以下のことを開示している。「薬剤送達装置は、皮膚接触面を画定するベース部材と、薬剤の容器として機能するシリンジと、そのシリンジから薬剤を排出する手段とを有する。シリンジは、そのシリンジの長手軸が皮膚表面に対してほぼ平行となるようにベース部材に接続されている。送達針は、シリンジと連通している。また、送達針は、角度を有する屈曲部を含む。屈曲部は、皮膚接触面に対してほぼ垂直となるように針の先端部を導く。使用時には、針の先端部が対象の皮膚を貫通する。」。
【0005】
米国特許第5858001号は、「接着性コーティングを有する皮膚接触面を画定するベース部材によって対象の皮膚に接着する」…「液状薬剤送達装置」を開示している。「円柱状カートリッジは、薬剤の容器として機能し、筐体内に組み込まれている。筺体は、使用時に、カートリッジの長手軸が皮膚接触面に対してほぼ平行に配置されるようにベース部材に接続される。送達針は、使用時にカートリッジの内部と連通し、筺体をベース部材に対して下方にスナップ結合させると対象の皮膚を貫通する。また、この動作によってクエン酸/重炭酸ナトリウムガス発生器が作動することにより、カートリッジ内のピストンを動かすためのガスを発生させる。これにより、薬剤区画が圧縮される。この圧縮に応じて送達針と連通される導管がストッパを貫通するため、薬剤区画から針を通して対象の皮下組織へ薬剤が放出される。
【0006】
米国特許出願公開第20140163526号は、以下のことを開示している。「自動化注射装置は、標準タイプのシリンジおよび/または皮下注射針を搭載していてもよい。任意に、シリンジには、薬剤が供給・搭載されており、および/または、シリンジは、滅菌された針カバーにより覆われていてもよい。シリンジは、針カバーを所定位置に配した状態で、滅菌された注射器の内部に搭載されてもよい。注射器は、例えば、締結部材(例えば、接着性ベース部)を含んでいてもよい。締結部材は、いくつかの実施の形態において、使用者が患者の皮膚上において注射器を長期間に渡って安定に保持する一助となり得る。例えば、30秒と180秒との間の範囲の期間に渡って0.5mlと3.0mlとの間の範囲の容量の注射を行うために、注射器を用いてもよい」。
【0007】
追加的な背景技術としては、米国特許第6189292号、米国特許出願公開第20130253434号、米国特許出願公開第2009/093,792号および米国特許第7967795号がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6500150号明細書
【特許文献2】米国特許第6824529号明細書
【特許文献3】米国特許第6843782号明細書
【特許文献4】米国特許第5858001号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2014/0163526号明細書
【特許文献6】米国特許第6189292号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2013/0253434号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/093792号明細書
【特許文献9】米国特許第7967795号明細書(発明の概要)
【0009】
[例1]
近位開口部と、内面を有する遠位壁と、中心軸とを有する円筒状の穴部と、外周部と遠位面とを有するプランジャ封止部とを備え、内面は、第1領域と、第1領域とは異なる第2領域とを有しており、円筒状の穴部の遠位壁は、流出口を画定しており、流出口は第1領域の範囲内に位置していて中心軸から離れていると共に第2領域から遠ざかっており、外周部はプランジャ封止部が円筒状の穴部に対して同軸となる状態において円筒状の穴部に取り付けられる大きさおよび形状を有し、遠位面が円筒状の穴部の遠位壁の内面に対向した状態においてプランジャ封止部が円筒状の穴部の内部に取り付けられた際、内面の第2領域は、円筒状の穴部の中心軸に平行な方向において第1領域よりもプランジャ封止部の遠位面に対して軸方向に近接していることにより、遠位面が第1領域に接触する前に、第2領域がプランジャ封止部の遠位面に接触することを可能としている、医薬品用シリンジ。
【0010】
[例2]
内面の平均方位は中心軸に対して傾いている、例1に記載の医薬品用シリンジ。
【0011】
[例3]
内面の平均方位は約1度から約5度の範囲の角度となるように中心軸に対して傾いている、例2に記載の医薬品用シリンジ。
【0013】
[例
プランジャ封止部の遠位面は凸形状を有する、例1から例のいずれか1つに記載の医薬品用シリンジ。
【0014】
[例
は凹形状を有する、例に記載の医薬品用シリンジ。
【0015】
[例
は円錐形状を有し、その内の開口角度はプランジャ封止部の遠位面の凸形状の開口角度よりも小さい、例に記載の医薬品用シリンジ。
【0016】
[例
内面は放射対称性を有していない、例1から例のいずれか1つに記載の医薬品用シリンジ。
【0017】
[例
内面の第1領域の平均方位は、プランジャ封止部が穴部に対して同軸となった際、プランジャ封止部の遠位面の平均方位から離れるように傾斜している、例1から例のいずれか1つに記載の医薬品用シリンジ。
【0018】
[例
の第2領域の平均方位は、プランジャ封止部が穴部に対して同軸となった際、プランジャ封止部の遠位面の平均方位に向かうように傾斜している、例1から例のいずれか1つに記載の医薬品用シリンジ。
【0019】
[例10
ランジャ封止部の遠位面と第2領域との間の距離がプランジャ封止部の遠位面と第1領域との間の距離よりも小さい例1から例のいずれか1つに記載の医薬品用シリンジ。
【0020】
[例11
内面の第1領域の表面と内面の第2領域の表面との間の推移は連続的である、例1から例10のいずれか1つに記載の医薬品用シリンジ。
【0021】
[例12
出口を含む内の第1領域は穴部の縁部に近接した位置に配置されており、第2領域は穴部の反対側の縁部に近接した位置に配置されている、例1から例11のいずれか1つに記載の医薬品用シリンジ。
【0022】
[例13
さらに、流出口を起点とする屈曲流体路を備えた、例1から例12のいずれか1つに記載の医薬品用シリンジ。
【0023】
[例14
遠位面を有するプランジャ封止部を取り付ける円筒状の穴部を備え、円筒状の穴部が近位開口部と遠位端とを含み、遠位端が円筒状の穴部の中心軸から偏倚した位置に配置された流出口を含む医薬品用シリンジにおける流体のデッドスペースを減少させる方法であって、円筒状の穴部の遠位端に向かってプランジャ封止部を駆動させる工程と、流出口を含む領域とは異なる接触領域においてプランジャ封止部の遠位面の一部を円筒状の穴部の遠位端の壁の内面の一部に接触させる工程と、プランジャ封止部の遠位面の平均方位に対して傾いた平均方位に向かって流体を排出させながら接触領域ら流出口の位置に向かって接触範囲を拡大させる工程とを含み、接触領域において接触させる工程は、流出口を含む領域を接触させる前に、プランジャ封止部の遠位面に接触させることを含む、医薬品用シリンジにおける流体のデッドスペースを減少させる方法。
【0024】
[例15
接触させる工程は内面の周縁部である接触領域において最初に接触させることを含み、周縁部は流出口を含む領域とは異なっている、例14に記載の方法。
【0026】
[例16
拡大させる工程は、内面の周縁部から内の中心部を経由して流出口を含む領域まで接触範囲を拡大させることを含む、例14から例15のいずれか1つに記載の方法。
【0027】
[例17
プランジャ封止部を弾性変形させることにより、接触範囲を拡大させる工程を行う、例14から例16のいずれか1つに記載の方法。
【0028】
[例18
接触範囲を拡大させる工程は、流出口の位置に向かって接触領域から離れるように流体を流動させる、例14から例17のいずれか1つに記載の方法。
【0029】
[例19
さらに、プランジャ封止部を駆動させる工程を終了させる工程を含み、約5Nと約25Nとの間の範囲の力により、プランジャ封止部を駆動させる工程を行う、例14から例18のいずれか1つに記載の方法。
【0030】
[例20
終了させる工程を経たのち、プランジャ封止部と内との間における流体のデッドスペースの体積は約0.01mlと約0.5mlとの間の範囲である、例19に記載の方法。
【0031】
なお、特に定義のない限り、本明細書において用いられている全ての技術用語および/または科学用語は、本発明が属する技術における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。また、本明細書に記載されているものと同様または均等の方法や材料を用いて本発明の実施の形態を実施および試験することができるが、以下にそれらの例示的な方法および/または材料を示す。何らかの対立が生じた場合、定義を含め、特許明細書が支配する。また、材料、方法および例は参考用にすぎず、必ずしも限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
ほんの一例として、本発明のいくつかの実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。ここで、図面を具体的かつ詳細に参照するが、図示された事項は一例であり、本発明の実施の形態を例示的に説明するためのものであることを強く主張する。この点に関し、当業者であれば、図面を考慮することにより、本発明の実施の形態をどのように実施し得るかを説明から明らかにすることができる。添付図面において:
図1】本発明のいくつかの実施の形態に係る流体のデッドスペースが減少したシリンジの模式的な機構を示すブロック図である。
図2】本発明のいくつかの実施の形態に係るシリンジにおける流体のデッドスペースを減少させる方法を示すフローチャートである。
図3】本発明のいくつかの実施の形態に係る図2に示した方法によって生じる流体力学を示すフローチャートである。
図4A】本発明のいくつかの実施の形態において用いられる偏心位置に配置された流体流出口を有するシリンジの概略斜視図である。
図4B】本発明のいくつかの実施の形態において用いられる偏心位置に配置された流体流出口を有するシリンジの概略図であり、シリンジの背部から腹部に渡る長手軸に沿った断面図である。
図5A】本発明のいくつかの実施の形態に係る遠位端において偏心位置に配置された流体流出口を有するシリンジの断面とその遠位端における凹状内壁のシリンジの長手軸に対する各種幾何学的配置とを示す概略図であり、内壁に対して変形を加えていないシリンジの概観を示す図である。
図5B】本発明のいくつかの実施の形態に係る遠位端において偏心位置に配置された流体流出口を有するシリンジの断面とその遠位端における凹状内壁のシリンジの長手軸に対する各種幾何学的配置とを示す概略図であり、図5Aにおいて印を付した部分を拡大して示す図である。
図5C】本発明のいくつかの実施の形態に係る遠位端において偏心位置に配置された流体流出口を有するシリンジの断面とその遠位端における凹状内壁のシリンジの長手軸に対する各種幾何学的配置とを示す概略図であり、傾斜した凹状内壁を示す図である。
図5D】本発明のいくつかの実施の形態に係る遠位端において偏心位置に配置された流体流出口を有するシリンジの断面とその遠位端における凹状内壁のシリンジの長手軸に対する各種幾何学的配置とを示す概略図であり、傾斜した腹部を有する凹状内壁を示す図である。
図5E】本発明のいくつかの実施の形態に係る遠位端において偏心位置に配置された流体流出口を有するシリンジの断面とその遠位端における凹状内壁のシリンジの長手軸に対する各種幾何学的配置とを示す概略図であり、傾斜した背部を有する凹状内壁を示す図である。
図6】本発明のいくつかの実施の形態に係るプランジャ封止部に接触した状態の傾斜内壁の断面を示す概略図である。
図7A】本発明のいくつかの実施の形態に係る傾斜内壁に設けられたチルト角を示す図であり、傾斜内壁の断面をシリンジの長手軸と共に模式的に示す図である。
図7B】本発明のいくつかの実施の形態に係る傾斜内壁に設けられたチルト角を示す図であり、異なるチルト角間が連続的に推移する例を示すポーラチャートである。
図7C】本発明のいくつかの実施の形態に係る傾斜内壁に設けられたチルト角を示す図であり、異なるチルト角間が段階的に推移する例を示すポーラチャートである。
図8】本発明のいくつかの実施の形態に係る変形可能な平坦面を有するプランジャとシリンジの傾斜内壁とを含む実施の形態を斜視的に示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は、そのいくつかの実施の形態において、傾斜型シリンジ(angled syringe)に関し、特に、これに限定されるものではないが、流体のデッドスペース(dead space)が減少した傾斜型シリンジに関する。
【0034】
[概要]
本発明の一側面は、流体を貯蔵するための容器(reservoir)を有すると共に、流体のデッドスペースが減少した非対称シリンジに関する。いくつかの実施の形態では、シリンジの穴部(bore)の内部にプランジャ封止部(plunger seal)を取り付けることにより、穴部の近位部からその穴部の遠位部に設けられた流体路に向かって流体を駆動させる。流体路は、偏心位置に配置された流出口の流体路である。いくつかの実施の形態では、容器の遠位内壁は、プランジャ封止部に接触した際に、偏心流出口の流体路に向かって流体を流動させる形状を有しており、流体のデッドスペースを減少させ得るようになっている。例えば、プランジャ封止部は、遠位内壁の中心部に接触する前に、容器の遠位内壁の周囲部に接触したのち、その遠位内壁の反対側の周囲部に接触するように構成されていてもよい。遠位内壁の反対側の周囲部は、穴部から退出する流体路を含む部分である。任意に、プランジャと壁との接触部分を拡大させると共に、非接触部分に向かって流体を排出させることにより、偏心流出口の流体路に向かって流体を排除してもよい。
【0035】
本明細書において用いられている「デッドスペース」という用語は、シリンジの遠位端に向かってプランジャをこれ以上駆動させることができなくなった時点において薬剤シリンジの内部に残留する流体の体積(volume)を意味する。一般的に、流体は、針の内部、および/またはシリンジのハブとプランジャとの間に残留する。流体のデッドスペースが比較的大きい場合、考えられ得るデメリットとしては、薬剤の無駄、および/または不正確な投与、および/または病気の伝播が挙げられる。
【0036】
いくつかの実施の形態では、容器の遠位壁、および/または容器の遠位内壁は、針を含む縁部に向かって僅かに傾斜している。これにより、任意に、偏心した位置に配置された針への排出を改善してもよい。その代わりとして、またはそれに加え、遠位内壁がプランジャに向かって僅かに傾斜することにより、最初に接触する位置を流体流出口が配置された位置に対してオフセットさせる。この場合、流体は、オフセットした位置から流出口に向かって流動することになり得る。
【0037】
いくつかの実施の形態では、流体容器を含むカートリッジは、デッドスペースを減少させるように設計されていてもよい。例えば、プランジャを用いることにより、容器から流体を排出させてもよい。例えば、プランジャは、容器の遠位壁に向かって流体を流動させてもよい。任意に、流体は、遠位壁の開口部を通過することにより、シリンジの針に至る延在部の流体路に移動してもよい。任意に、プランジャは、遠位壁のうちの開口部から最も離れた第1部分に最初に接触すると共に、壁に向かって流動するにしたがって遠位壁との接触が徐々に増すように設計されてもよい。例えば、プランジャが壁と最初に接触したのち、遠位側に向かって移動するにしたがってプランジャと接触する壁の表面が徐々に増加してもよい。例えば、接触面が増加するにしたがって、流体は遠位壁に沿いながら開口部に向かって流動し得る。
【0038】
いくつかの実施の形態では、プランジャは、モータにより駆動される。任意に、プランジャは、回転進出機構(rotational advancing mechanism)を有していてもよい。標準的なプランジャは、中心に配置された流出口から流体を排出させるように設計されていることが想定される。そのため、中心に配置された流出口を有する標準的なシリンジの場合、プランジャのうちの流出口に対して最近位の表面により画定される遠位面は、穴部の中心軸に対して放射対称である可能性が高い。なお、任意に、プランジャの遠位面は、標準的な凸形状を有していてもよい。いくつかの実施の形態では、本出願に記載のシリンジは、放射対称性を有する標準的なプランジャを用いて、流体の排出を非同心となる状態において行うように構成されている。
【0039】
例えば、容器の遠位内壁は、円錐形状および/または凹形状を有していてもよい。例えば、プランジャ封止部は、円錐形状および/または凹形状を有しており、シリンジの遠位内壁の開口角度(opening angle)よりも鋭い開口角度を有していてもよい。または、プランジャの遠位面は、ほぼ平坦である。任意に、シリンジの遠位内壁は、プランジャ封止部および/または穴部の軸に対して傾斜していてもよい。例えば、穴部の遠位内壁は、傾斜していることにより、流体流出口側においてプランジャ封止部と接触する前に、流出口の流体路の反対側においてプランジャ封止部と接触するようにしてもよい。これは、例えば、シリンジの穴部の長手軸に沿うように、プランジャの遠位面に対して上記反対側を軸方向に接近させることにより達成されてもよい。いくつかの実施の形態では、長手軸がプランジャの遠位面の長手軸に対して傾斜するように、遠位内壁が傾斜している。例えば、内壁の長手軸は、約0.5°から約2°の範囲、および/または約2°から約5°の範囲、および/または約5°から約10°の範囲、および/または、任意のより小さい範囲、任意のより大きい範囲、または中間の範囲の角度となるように傾斜していてもよい。
【0040】
例えば、プランジャがシリンダの遠位壁に向かって移動し終えると、プランジャとシリンダの遠位壁との間のデッドスペースは、約0.01mlと0.05mlとの間の範囲、および/または約0.05mlと0.1mlとの間の範囲内、および/または約0.1mlと0.5mlとの間の範囲となり得る。プランジャは、例えば、約0Nと5Nとの間の範囲、および/または約10Nと15Nとの間の範囲、および/または約15Nと25Nとの間の範囲の力により移動する。任意に、容器と延在部の遠位部における流体路の退出開口部との間の流体路の体積は、小さくてもよい。例えば、容器から延在部の開口部までの流体路の内部体積は、0mlと0.01mlとの間の範囲、および/または0.01mlと0.03mlとの間の範囲、および/または0.03mlと0.06mlとの間の範囲、および/または0.06mlと0.1mlとの間の範囲、および/または0.1mlと0.5mlとの間の範囲であってもよい。
【0041】
いくつかの実施の形態では、任意に、シリンジの穴部の遠位内壁は、対称性を有しており、円筒状の穴部の中心軸に対して対称であってもよい。その代わりとして、またはそれに加え、シリンジの穴部の遠位内壁は、非対称であってもよい。任意に、遠位内壁の一部のみが傾斜していてもよい。例えば、いくつかの実施の形態では、任意に、流体流出口を含む周囲側面は、プランジャの遠位面から離れるように傾斜しているのに対して、その反対側の周囲側面は、プランジャ面の外形に適合していてもよい。または、任意に、反対側の周囲側面は、プランジャ面に向かって傾斜しているのに対して、流体流出口を含む周囲側面は、プランジャ面の外形に適合していてもよい。
【0042】
いくつかの実施の形態では、内壁の一部分および/または領域および/または側面の傾斜は、その領域における平均方位(the mean direction of the area)と、穴部の中心軸に対するその傾斜(inclination)および/または傾き(tilting)とにより画定される。同心配置の流出口を有する標準的なシリンジの場合、穴部の遠位内壁の平均方位は、穴部の中心軸に対して垂直である。いくつかの実施の形態では、遠位内壁は、その遠位内壁全体の平均方位が中心軸に対して90°よりも大きい角度を画定するように傾斜している。任意に、内壁の少なくとも1つの領域は、プランジャの遠位面にほぼ適合する形状を有しており、他方、その内壁の少なくとも特定領域は、プランジャの遠位面から離れるように傾斜しており、またはプランジャの遠位面に向かうように傾斜していてもよい。いくつかの実施の形態では、内壁の少なくとも1つの領域がプランジャに対して傾斜していることにより、内壁の領域がプランジャの遠位面に接近している。なお、本明細書において、内壁とプランジャとがどの程度接近しているかは、遠位内壁(またはその一部分)の平均外縁(mean outer edge)とプランジャの遠位面の平均外縁との間の距離により画定される。いくつかの実施の形態では、プランジャの遠位面に対してより近い接触領域は、流体流出口の領域と比較して、0.05mm〜0.1mm、0.1mm〜0.3mm、または0.2mm〜0.4mmの距離、または、任意のより大きい距離、任意のより小さい距離または中間の距離だけより近くなるように設けられている。
【0043】
いくつかの実施の形態では、第1領域は、流体流出口を含んでおり、その第1領域と異なる第2領域は、プランジャに最初に接触する形状を有している。いくつかの実施の形態では、内面の第2領域は、プランジャの遠位面が第1領域に接触する前に、そのプランジャの遠位面のうちの少なくとも40%に接触可能となるように、プランジャ封止部の遠位面に対して軸方向に接近している。または、第2領域を接近させることにより、プランジャ封止部の遠位面との接触のうちの少なくとも30%、または少なくとも20%、または少なくとも50%を可能としている。
【0044】
いくつかの実施の形態では、内面の第2領域は、流体流出口を有していない内面の80%を占めている。または、第2領域は、その内面のうちの少なくとも90%、および/または少なくとも95%、および/または少なくとも99%である。いくつかの実施の形態では、第1領域は、流体流出口を含む接続領域を有している。任意に、第1領域は、遠位面のうちの2%未満、および/または5%未満、および/または10%未満であってもよい。
【0045】
その代わりとして、またはそれに加え、プランジャの遠位面は、第1領域を第2領域から分離するように内面を封止する前に、流体を第2領域から追放してもよい。いくつかの実施の形態では、他の非対称構造を有する内壁を設ける。例えば、いくつかの実施の形態では、内壁は、非直錐の形状を有しており、および/または、複数の円錐構造の組み合わせにより構成される複数の部分を有している。例えば、任意に、内壁の第1側面は、第1頂角を有する第1円錐の一部分である形状を有しており、内壁の第2側面は、第2頂角を有する第2円錐の一部分である形状を有していてもよい。任意に、第1および第2頂角は、非同一であってもよい。任意に、第1円錐の底面と第2円錐の底面とにより定義される直径は、非同一であってもよい。いくつかの実施の形態では、流体流出口の反対側により鋭い頂角を設けることにより、この側に、より小さい頂角を有する側よりも前にプランジャ面と接触するように傾斜させることもあり得る。いくつかの実施の形態では、第1円錐の壁と第2円錐の壁との推移は、連続的である。その代わりとして、またはそれに加え、その推移は、ほぼ段階的な推移であってもよい。
【0046】
任意に、プランジャ封止部は、円形断面を有していてもよい。例えば、プランジャ封止部は、PTFE層により覆われたクロロブチル、および/または、ブロモブチル、またはEPDMから構成されていてもよい。または、プランジャ封止部は、他の適正な封止材料、および/または、製品の品質保持期間に渡って製剤やシリンジと共に用いられる用途として適正な材料から構成されてもよい。いくつかの実施の形態では、プランジャは、実質的に変形可能な材料により構成されている。そのような変形可能な材料は、穴部の遠位内壁に押し付けられており、その表面に合致させられた際に変形するように構成されている。
【0047】
いくつかの実施の形態では、プランジャの遠位面との非対称的な接触面は、成形により設けられており、および/または、遠位内壁のうちの流体流出口に対してオフセットした位置の領域に対して層を追加することにより設けられている。任意に、流体流出口を含む領域よりも軸方向に近い接触領域を形成するために、層を追加してもよい。いくつかの実施の形態では、追加層の深さは、0.05mm〜0.1mm、0.1mm〜0.3mm、または0.2mm〜0.4mmの範囲、または、任意のより大きい範囲、任意のより小さい範囲、または中間の範囲である。円筒状のシリンジは、直円筒状のボディを含んでいてもよい。または、シリンジは、非直円筒の形状を有していてもよい。プランジャ封止部は、非均一面を有している。例えば、プランジャは、その中心軸を包囲する対称面を有していなくてもよい。この場合、例えば、プランジャの遠位面の一領域は、他の領域よりも遠位壁に対して軸方向に接近していてもよい。プランジャの表面が非均一である実施の形態では、プランジャは、遠位壁に対して押し付けられた際、シリンジに対して回転しない可能性がある。
【0048】
いくつかの実施の形態では、流体のデッドスペースを減少させる方法として、さらに、流体流出口の通路を細くすることが挙げられる。その代わりとして、またはそれに加え、相対的に小さな体積を有するコレットを設けることにより、流体のデッドスペースを減少させてもよい。コレットは、主に、針の通路と容器とを流体接続するために用いられる。
【0049】
いくつかの実施の形態では、本明細書に記載のシリンジを量産する場合、代表的なサンプルによれば、複数のシリンジのうちの少なくとも99%、および/または複数のシリンジのうちの少なくとも97%、および/または複数のシリンジのうちの少なくとも90%において、第2接触領域は、流体流出口を含む第1領域に接触する前に接触することとなる。いくつかの実施の形態では、代表的なサンプルは、少なくとも50個のシリンジ、および/または少なくとも100個のシリンジ、および/または少なくとも500個のシリンジ、および/または少なくとも1000個のシリンジを含む。
【0050】
本発明の少なくとも1つの実施の形態を詳細に説明する前に、本発明は、その用途という点において、構成要素の構成や配置の詳細、および/または方法の詳細に必ずしも限定されるものではないことを記述しておく。構成要素の構成や配置の詳細、および/または方法の詳細は、以下の説明に記載されているもの、および/または図面および/または例に説明されているものである。本発明は、他の実施の形態を可能とし、または様々な方法により実施または実行されることを可能とする。
【0051】
[1.流体のデッドスペースを減少させるための高位メカニズム]
以下、図面を参照する。図1は、本発明のいくつかの実施の形態に係るシリンジにおいて流体のデッドスペースを減少させるための全体的かつ模式的な機構を示すブロック図である。シリンジは、円筒状の穴部101と、開口した近位端107と、遠位端105に位置する流体流出口130とを有している。穴部101は、プランジャ封止部120を取り付けるためのものである。流体流出口130は、偏心した位置に配置されている。
【0052】
いくつかの実施の形態では、遠位内壁112を設けることでデッドスペースを減少させる。遠位内壁112は、流体流出口の位置において接触が生じる前に、接触位置においてプランジャ120の面と接触(meet)するように構成されている。接触位置は、流体流出口の位置に対してオフセットしている。オフセットした位置において最初に接触を生じさせることにより、内壁とプランジャとの間の非接触空間に向かって流体が流動し得る。非接触空間は、流体流出口を含む部分である。
【0053】
いくつかの実施の形態では、内壁112の第1領域114は、流体流出口を含んでおり、内壁112の第2領域116は、第1領域の前にプランジャ120の表面と接触するように構成されている。例えば、いくつかの実施の形態では、第2領域116は、プランジャ120の表面に向かって傾斜している。その代わりとして、またはそれに加え、内壁の断面により画定される平均方位がプランジャ120面の断面の平均方位に対して傾斜するように、内壁112が傾斜している。
【0054】
[2.デッドスペースを減少させる方法例]
図2は、本発明のいくつかの実施の形態に係る偏心流体流出口を有するシリンジにおいて流体のデッドスペースを減少させる方法を示すフローチャートである。カートリッジから流体流出口を経由して流体を排出させるために、カートリッジの遠位部に向かってプランジャ封止部202を駆動させる工程202を行う。遠位部は、流出口を含んでいる。
【0055】
カートリッジの内部に残留する流体を減少させる方法の1つとして、流体流出口を含む領域とは異なる複数の領域から流体を集めることが挙げられる。そのため、いくつかの実施の形態では、カートリッジの遠位壁の内面における偏心流出口を含む領域とは異なる領域に、プランジャ封止部の遠位面を接触させる工程204を行う。任意に、内面は、流出口の位置とは異なる領域において、プランジャ封止部の遠位面に接近する大きさおよび形状を有していてもよい。
【0056】
いくつかの実施の形態では、プランジャの表面と内壁との接触範囲を流出口に向かって拡大させる工程206は、流出口の方向にプランジャを駆動させることで行う。いくつかの実施の形態では、内壁に接触する部分を徐々に増加させるために、プランジャは、遠位壁の内面に対して弾性変形するようになっている。
【0057】
いくつかの実施の形態では、流出口領域と異なる特定領域は、その流出口とは反対側の部分に位置している。例えば、カートリッジの背部として定義される縁部の近接位置に流出口が配置されていると仮定した場合、特定領域の範囲は、カートリッジの腹部から始まってもよい。その代わりとして、またはそれに加え、特定領域は、流出口よりもカートリッジの縁部に接近され得る。例えば、カートリッジの背部の近接位置に流出口が配置されていると仮定した場合、流出口と背部の縁部との間の領域は、特定領域として考えられてもよい。いくつかの実施の形態では、この特定領域は、流出口領域よりもプランジャに接近する大きさを有している。任意に、特定領域は、偏倚流体流出口を含む領域にプランジャが接触する前に、プランジャの遠位面のうちの少なくとも20%、および/または少なくとも30%、および/または少なくとも40%、および/または少なくとも50%に接触するようにしてもよい。
【0058】
[3.デッドスペース減少構成により生じ得る流体路]
図3は、本発明のいくつかの実施の形態に係る、図1に示す構造および/または図2に例示する方法により生じ得る流体力学的経路を例示する図である。
【0059】
カートリッジの遠位部に向かってプランジャを駆動させる工程302を行う。これにより、カートリッジの遠位壁304に向かってカートリッジ内に貯蔵された流体を排出させる工程304を行う。この際、任意に、流体は、カートリッジの偏心流出口を経由して排出されてもよい。いくつかの実施の形態では、流体は、遠位縁部に向かってプランジャが駆動されている限りにおいてカートリッジから排出されることになり、そのことは、流出口領域とは異なる領域において、カートリッジの遠位壁の内面にプランジャの遠位面を最初に接触させる工程306を行う場合にも当てはまる。
【0060】
いくつかの実施の形態では、プランジャの表面が遠位壁の内面に最初に接触した後、その最初の接触位置から離れるように流出口位置に向かって流体を流動させる工程308を行う。これにより、流体は排出され続ける。この工程では、任意に、プランジャを変形させることにより、その接触範囲を拡大させてもよい。いくつかの実施の形態では、遠位壁のうちのプランジャにより近い側の部分にプランジャが最初に接触した後、そのプランジャに対して遠位壁の方向に力が加わった際に、そのプランジャは変形する。上記したより近い側の部分が機械的障害として働くことにより、プランジャの接触部分はそれ以上進行することができなくなる。しかしながら、いくつかの実施の形態では、プランジャの遠位面は、遠位壁に押し付けられた際に変形することにより、接触領域を増加させる。
【0061】
いくつかの実施の形態では、流体は、遠位内壁の平均方位に沿う方向に排出される。遠位内壁の平均方位は、プランジャの遠位面の平均方位に対して傾いている。
【0062】
[4.偏心流体流出口を有する薬物送達装置の構成例および寸法例]
図4は、非対称シリンジの例を模式的に示す図である。この非対称シリンジは、例えば、薬物送達装置に有用であり、本発明のいくつかの実施の形態に用いられるものである。
【0063】
ここでは、薬物送達カートリッジの典型的および/または例示的な寸法について説明する。薬物送達カートリッジは、例えば、シリンジ409である。いくつかの実施の形態では、(例えば、シリンジ409内に設けられた)容器および/または空洞(cavity)432は、ペイロードとして、例えば、0.5mlと2mlとの間の範囲、および/または2mlと7mlとの間の範囲、および/または7mlと6mlとの間の範囲、および/または7mlと10mlとの間の範囲の薬物、および/または偽薬、および/または任意の生体活性材料、および/または任意の非生体活性材料を含み得る。いくつかの実施の形態では、注射器は、全ペイロードを単回投与として排出してもよい。薬物送達装置は、例えば、パッチ型注射器、および/または内部駆動によるドライバを備えていてもよい。ドライバは、プランジャの駆動および/またはペイロードの排出を行うものである。
【0064】
内部駆動による注射器ドライバは、本出願の便宜上、注射器の内部に少なくとも一時的に蓄えられたエネルギを原動力とするドライブ機構として定義される。動力は、例えば、化学的ポテンシャル(例えば、膨張性気体を発生させる化学薬品および/またはバッテリ)および/または力学的ポテンシャル(例えば、弾性部材、および/またはバネ、および/または加圧ガスに蓄積されたもの)として動力源に蓄えられる。例えば、ドライバは、20秒と120秒との間の範囲の期間、および/または120秒と600秒との間の範囲の期間、および/または600秒と1時間との間の範囲の期間、および/または1時間と1日との間の範囲の期間、および/またはそれよりも長い期間に渡って、ペイロードを排出するように設計されてもよい。
【0065】
一般的に、排出のための駆動はドライバにより行われる。内部駆動によるドライバは、例えば、上述したモータ、および/または伝達装置、および/またはネジ要素、および/またはギア、および/または継ぎ手、および/または弾性機構、および/または膨張性ガス、および/または油圧式アクチュエータを含む各種機構を動力源としてもよい。モータとしては、例えば、DCモータ、アクチュエータおよびブラシレスモータが挙げられる。伝達装置としては、例えば、伸縮構造が挙げられる。弾性機構としては、例えば、バネおよび/またはゴムバンドが挙げられる。
【0066】
本発明のいくつかの実施の形態に係る薬物送達装置は、上記した容器部分を含んでいてもよい。例えば、容器は、薬剤容器および/またはシリンジを含んでいてもよい。任意に、シリンジには、標準的な設備を用いて、および/または無菌室において、薬剤が事前装填されていてもよい。任意に、事前装填済みのシリンジは、近位開口部を有していてもよい。任意に、プランジャは、その近位開口部を封止しており、および/またはシリンジの内容物の滅菌状態を保護していてもよい。任意に、滅菌された針をシリンジの穴部に接続させてもよい。針は、典型的には中空である。例えば、針の中空部は、穴部の内部と流体連通していてもよい。任意に、針は、穴部の遠位端に位置する延在部に堅く取り付けられていてもよい。
【0067】
いくつかの実施の形態では、プランジャは、薬剤のペイロードを排出するために、穴部の内部に沿うように軸方向に摺動してもよい。例えば、薬剤は、中空針を経由して排出されてもよい。針の突出先端部は、穴部の軸に対して傾斜した方向を向いていてもよい。
【0068】
任意に、薬物を注射するために必要とされる力(例えば、シリンジのプランジャに加わる力)は、例えば、5Nと60Nとの間の範囲であってもよい。例えば、薬物を注射するために必要とされる力は、注射速度、および/または薬物の粘度、および/またはシリンジの形状、および/または針の寸法に依存し得る。
【0069】
例えば、薬物送達装置は、自動注射器を含んでいてもよい。自動注射器は、手動により、針を挿入するのに十分な力を加えて押すことで作動し得る。薬物送達装置は、注射力を作用させることにより、薬物を注射する。薬物が全て注射された場合、および/または何らかの障害および/または閉塞が生じた場合、針の保護および/または注射終了の誘因となる閾値を超えるまで注射力が上昇し得る。
【0070】
例えば、閉塞の発生時および/または送達の終了時、薬物送達装置により生じる線形の力は、最大で60N程度まで上昇し得る。針保護機構(例えば、針退避機構)は、そのような力に敏感であってもよい。例えば、針保護機構は、70Nの力で針を退避位置に戻すスナップ部を有していてもよい。
【0071】
いくつかの実施の形態では、薬剤を注射する際の応力、および/または針の保護の誘因となる応力は、トルクを含んでいてもよい。例えば、薬剤の注射のための駆動は、プランジャにより行われてもよい。任意に、プランジャは、ネジ山(threaded screw)構造により駆動されてもよい。ネジ山構造としては、例えば、ネジ山スクリュー、および/または複数の歯、および/または伸縮構造が挙げられる。任意に、複数の歯および/またはそれに付随するスクリューのピッチは、例えば、0.5mmと2mmとの間の範囲であってもよい。スクリューの直径は、例えば、2.5mmと15mmとの間の範囲であってもよい。動力による注射の際のトルクは、0.2N*cmと1.0N*cmとの間の範囲であってもよい。注射時におけるプランジャの直線移動は、例えば、10mmと50mmとの間の範囲であってもよい。なお、プランジャが移動する長さは、例えば、注射対象となる薬剤の体積に応じて変化し得る。その薬剤の体積は、例えば、0.5mlと3mlとの間の範囲である。
【0072】
いくつかの実施の形態では、容器は、例えば、20と72との間の範囲、および/または72mmと78mmとの間の範囲、および/または78mmと80mmとの間の範囲、および/または80mmと200mmとの間の範囲の長さを有していてもよい。いくつかの実施の形態では、容器の円筒状の内部空間は、例えば、1mmと3mmとの間の範囲、および/または3と10との間の範囲、および/または10mmと15mmとの間の範囲、および/または15mmと25mmとの間の範囲、および/または25mmと50mmとの間の範囲の平均幅を有してもよい。任意に、容器は、幅が円の直径となるように円形断面を有していてもよい。いくつかの実施の形態では、延在部は、例えば、1mmと3mmとの間の範囲、または3mmと7mmとの間の範囲、または7と8との間の範囲、または8mmと10mmとの間の範囲、または10mmと15mmとの間の範囲、または15mmと50mmとの間の範囲の長さを有する直線状の端部を有していてもよい。いくつかの実施の形態では、針の露出した直線部分は、例えば、1mmと5mmとの間の範囲、または5mmと7mmとの間の範囲、または7mmと10mmとの間の範囲、または10mmと20mmとの間の範囲の長さを有していてもよい。
【0073】
いくつかの実施の形態では、延在部と容器の空洞との間の流体路は、27ゲージの針、または25ゲージと30ゲージとの間の範囲の針、または20ゲージと25ゲージとの間の範囲の針、または30ゲージと32ゲージとの間の範囲の針を含んでいてもよい。いくつかの実施の形態では、延在部から突出している針は、27ゲージの針、または25ゲージと30ゲージとの間の範囲の針、または20ゲージと25ゲージとの間の範囲の針、または30ゲージと32ゲージとの間の範囲の針を含んでいてもよい。
【0074】
図4Bは、本発明のいくつかの実施の形態に係るデッドスペースを減少させるために設計された穴部の断面を模式的に示す図である。いくつかの実施の形態では、流体路450は、穴部442の空洞432とハブ436との間を接続している。流体路450は、シリンジ409を通過しており、および/またはシリンジ409の内部へ至るように成形されていてもよい。任意に、金属針452は、流体路450の一部を形成していてもよい(例えば、図4Bを参照)。任意に、通路全体を針452の内部に配置することにより、流体路450のデッドスペースを減少させてもよい(プラスチック製の成形部におけるデッドスペースを減少させる)。例えば、針452の埋設部453は、突出部451に至る屈曲流体路450を形成する。任意に、突出部451は、空洞の軸458および/または穴部442の軸432に対してほぼ直角となるようにハブ436から真っすぐに突出してもよい。任意に、針452の突出端を面取りおよび/または先鋭化することにより、対象の皮膚を介した挿入を容易にしてもよい。
【0075】
いくつかの実施の形態では、空洞432の内部において針452の端部を保持する端部搭載部(end mount)は、成形後に残存するデッドスペースを減少させるために小さくされている。任意に、端部搭載部は、ピンおよび/またはコレットを含んでいてもよい。例えば、コレットは、針452の端部を保持する凹状および/または円錐状の内面を有していてもよい。その代わりとして、またはそれに加え、ピンは、針452の中空部に嵌合する凸状面および/または円錐面を有していてもよい。ピンの凸状面および/または円錐面は、ピンが挿入されるにしたがって自ずと位置合わせされるものであってもよい。例えば、ピンは、針452に嵌合する内側凸部、および/または針452を位置決めする外側凹部を含んでいてもよい。成形前、ピンの外側凹部は、ピンの内側凸部を針452の中空部に挿入させるために、針452を位置決めするようにしてもよい。その外側凹部は、成形前に退避されてもよい。任意に、成形中、ピンの内側部のみを金型内に残存させてもよい。任意に、成形後、内側のピンを除去する。これにより、シリンジから薬物を排出させる際のデッドスペースが減少する。
【0076】
[5.遠位内壁の各種構成例]
図5A図5Eは、本発明のいくつかの実施の形態に係る遠位内壁の一構成例を示す図である。この遠位内壁の構成によりプランジャと壁との界面が形成されるため、流体のデッドスペースを減少させ得る。
【0077】
図5Aおよび図5Bは、プランジャの遠位面に適合する形状の遠位内壁を有する穴部を備えた医薬品シリンジを模式的に示す図である。図5Aおよび図5Bに示した医薬品シリンジは、いずれもほぼ非傾斜の整列された平均方位を有している。図5Bは、図5Aにおいて印を付した部分を拡大して示す図である。なお、図5Aおよび図5Bは説明用であり、軸の定義を効率的に示すためのものである。
【0078】
図5Aは、上記シリンジの一例における断面を示す概略側面図である。いくつかの実施の形態では、シリンジは、プランジャ封止部470を取り付ける円筒状の穴部442を備えている。任意に、穴部は、開口した近位端440を有してもよい。いくつかの実施の形態では、穴部442は、その遠位端438に、内面488を有する壁を含んでいる。任意に、内面488は、遠位端438の外面とは異なる外形および/または断面を有していてもよい。いくつかの実施の形態では、穴部442は、偏心流体流出口456を備えている。任意に、流体流出口456は、通路450と容器432とを流体接続させてもよい。任意に、通路450は、穴部442の中心軸458に対して屈曲していてもよい。いくつかの実施の形態では、通路450は、針の先端部451が穴部442の腹部側439bに向かうように屈曲している。任意に、偏心流体流出口456は、屈曲通路450に十分な空間を確保するために、穴部442の背部側に向かって偏倚していてもよい。
【0079】
いくつかの実施の形態では、プランジャ470は、界面を有する遠位面475を備えている。界面は、内面488の少なくとも一部に接触する大きさおよび形状を有している。任意に、内面488は、プランジャと内壁との最初の接触位置が流体流出口の位置に対してオフセットする大きさを有してもよい。いくつかの実施の形態では、遠位面475は凸状である。いくつかの実施の形態では、内面488は凹状である。いくつかの実施の形態では、内面488により画定される開口角度は、遠位面475により画定される開口角度とほぼ同じである。
【0080】
以下、図5B図5Eを参照して、内面488の各種領域について遠位面475との整合の観点から説明する。内面488の各種領域は、種々のチルト角、および/またはへこみ(indentations)、および/または平均方位を有している。
【0081】
図5Bは、傾斜していない場合の例であり、図5Aにおいて印を付した部分を拡大して示す図である。この例では、内面488の2つの特定領域484,482の平均方位584,582が示されている。図5Bに示した傾斜していない例において、内面488は、プランジャの遠位面475の平均方位と一致する平均方位を有している。具体的には、この例では、プランジャの遠位面475が中心軸458に対して対称である場合、背部領域482と腹部領域484とは、いずれも同じ平均方位584,582を有している。これらの平均方位584,582は、遠位面475の背部および腹部の平均方位に対しても一致している。
【0082】
図5Cは、背部領域482と腹部領域484との双方の傾斜を示す図である。図5Cでは、本来の平均方位582に対して角度Aだけ傾斜した背部領域482が示されている。また、図5Cでは、本来の平均方位584に対して角度Bだけ傾斜した腹部領域484が示されている。いくつかの実施の形態では、流出口を含む領域(例えば、本実施の形態では領域482)は、プランジャから離れるように傾斜しているのに対して、流出口を含む領域とは異なる領域(例えば、本実施の形態では領域484)は、プランジャに向かって傾斜している。任意に、角度Aと角度Bとは、同じであってもよい。または、角度Aと角度Bとは、異なる程度に傾いている。いくつかの実施の形態では、領域482および/または領域484は、背部から腹部において湾曲した断面を有している。領域482および/または領域484の湾曲は、凹状であることが好ましいが、これは強制ではない。この凹状部は、プランジャから離れるように湾曲しており、デッドスペースの発生をより防止し得るようになっている。
【0083】
図5Dは、角度Bで傾斜した腹部領域484の傾斜のみを示す。図5Dに示した実施の形態において、領域484は、流出口456を含む領域とは異なる領域である。一般的には、流出口484の周囲の複数の領域から流体が排出されることが望ましい。したがって、いくつかの実施の形態では、領域484は、プランジャの面475に向かって傾斜していることにより、その表面を最初に接触させるため、流出口領域482に向かって流体を流動させ得るようになっている。
【0084】
図5Eは、角度Aで傾斜した背部領域482の傾斜のみを示す。図5Eに示した実施の形態において、領域482は、流出口456を含む領域である。一般的には、流出口484の周囲の領域から流体が排出されることが望ましい。そのため、本実施の形態では、領域482は、プランジャの面475から離れるように傾斜していることにより、領域484をプランジャの面475により接近させるため、それに最初に接触し得るようになっている。
【0085】
[6.プランジャ界面によるデッドスペースの減少]
図6は、本発明のいくつかの実施の形態に係る傾斜した遠位内壁678と傾斜したハブ436とを含むシリンジの遠位部609の断面図である。ハブ436は、円筒状の空洞432の中心から偏心した位置に設けられている。例えば、流体路は、偏心流出口456の位置において、穴部442の空洞432に接続されていてもよい。いくつかの実施の形態では、プランジャ封止部670の遠位面は、開口角度668を有するほぼ円錐状の凸部を有していてもよい。いくつかの実施の形態では、円筒状の空洞432の遠位壁の内面678は、開口角度666を有するほぼ凹状の円錐形状を有していてもよい。任意に、プランジャ封止部の遠位面の開口角度668は、円筒状の空洞432の遠位内壁678の開口角度666よりも鋭角であってもよい。任意に、円筒状の空洞432の遠位内壁678は、プランジャ封止部670の遠位面に対して傾斜していてもよい。例えば、遠位内壁678は、プランジャ670面により画定される平均方位に対してオフセットした平均方位を有していてもよい。成形を経た特徴部分をより好ましく示すために、図6では、流体路450の境界を形成する針452の図示を省略している。なお、針452は任意である。
【0086】
いくつかの実施の形態では、特徴部分は、プランジャ封止部670の遠位面と円筒状の空洞432の遠位内壁678との間のデッドスペースに流体が捕捉されてしまうことを防ぐように構成されてもよい。例えば、プランジャ封止部670が空洞432の遠位内壁に接近するにしたがって、流体路450の開口部に向かって流体を押すように、プランジャ封止部670の遠位面の形状および/または空洞432の遠位内壁678の形状を構成してもよい。例えば、いくつかの実施の形態では、流体路450と空洞432とが空洞432の外縁に近接した位置において接続されている場合、プランジャ封止部の遠位面の開口角度668は、円筒状の空洞432の遠位内壁678の開口角度666よりも鋭角であってもよい。例えば、プランジャ封止部670の遠位面の開口角度は、空洞432の遠位壁678の開口角度よりも、0度と1度との間の範囲、および/または1度と3度との間の範囲、および/または1度と5度との間の範囲、および/または5度と10度との間の範囲、および/または10度と30度との間の範囲だけ小さい角度であってもよい。その代わりとして、またはそれに加え、いくつかの実施の形態では、流体路450と空洞432とが空洞432の軸458に近接した位置において接続されている場合(例えば、図5を参照)、プランジャ封止部の遠位面の開口角度668は、円筒状の空洞432の遠位内壁678の開口角度666よりも小さい鋭角であってもよい。
【0087】
いくつかの実施の形態では、流体路450と空洞432とが空洞432の外縁に近接した位置において接続されている場合、円筒状の空洞432のうちの流体路450に接続された遠位内壁678は、プランジャ封止部670の遠位面から離れるように傾斜していてもよい。例えば、プランジャ封止部670および/またはその遠位面は、円筒状の空洞432の軸458と一致しているのに対して、円錐状の遠位内壁678の軸680は、軸458および/またはプランジャ封止部670の軸および/またはプランジャ封止部670の円錐面の軸に対して0度と0.1度との間、および/または0.1度と1度との間、および/または1度と3度との間、および/または3度と10度との間、および/または10度と30度との間の角度を有してもよい。その代わりとして、またはそれに加え、遠位内壁678は、直円錐でなくてもよく、および/または円錐でなくてもよく、および/または対称でなくてもよい。例えば、流体路450と遠位内壁678とは、中心と上記外縁との間の位置において接続されていてもよく、および/または流体路450に接続されている遠位内壁678の一部は、遠位内壁678の他の部分に対してやや遠位側にへこんで(indented)いてもよい。これにより、遠位面670の外側部分により画定される軸671に対して角度αだけ傾斜した軸582が得られる。いくつかの実施の形態では、角度αは、0度と0.1度との間の範囲、および/または0.1度と1度との間の範囲、および/または1度と3度との間の範囲、および/または3度と10度との間の範囲、および/または10度と30度との間の範囲である。例えば、いくつかの実施の形態では、流体路450は、空洞432の背部側439aに近接した位置において接続されていてもよい。任意に、遠位内壁678の軸は、軸458および/またはプランジャ封止部670の円錐面の軸に対して正の角度だけ傾斜していてもよい。
【0088】
いくつかの実施の形態では、プランジャ封止部670は、空洞432に挿入された際、軸458に対してほぼ対称であってもよい。例えば、プランジャ封止部670は、空洞432の内側壁に接触する封止面672および/または安定化面674を有していてもよい。任意に、プランジャ封止部670は、プランジャドライバ搭載部676を含んでいてもよい。任意に、プランジャドライバ搭載部676は、空洞432と同軸であってもよい。
【0089】
いくつかの実施の形態では、偏心流体路に対して、プランジャ封止部670の遠位面は凹状かつほぼ円錐の形状を有していてもよく、円筒状の空洞432の遠位内壁678は、ほぼ凸状の円錐形状を有していてもよい。任意に、プランジャ封止部の遠位面の開口角度は、円筒状の空洞432の遠位内壁678の開口角度よりも小さい鋭角であってもよい。
【0090】
[7.角度変化を有する壁]
図7は、本発明のいくつかの実施の形態に係るシリンジの穴部の中心長手軸に対して角度が変化する複数の壁を示す図である。
【0091】
図7Aは、本発明のいくつかの実施の形態に係る背部側439aおよび腹部439bを有する内面488を示す図である。内面488は、軸458周りにおいて複数の可変角度を画定する壁を有している。いくつかの実施の形態では、上記した内面の第1領域482は、頂角2βを有する第1円錐部の一部分である形状を有しており、上記した内面の第2領域482は、頂角2αを有する第2円錐部の一部分である形状を有している。上記した内面の第1領域482は、流出口456を含む領域として定義されると共に、上記した内面の第2領域482は、流出口領域とは異なる領域として定義される。いくつかの実施の形態では、中心軸458は、領域482の平均方位と軸458との間の角度が角度βとなり、領域484の平均方位と軸458との間の角度が角度αとなるように、各頂角を分割している。いくつかの実施の形態では、第2円錐部は、第1円錐部よりも鋭角である頂角(すなわち、α<β)を有している。
【0092】
図7Bおよび図7Cは、上記した内面の第1領域482と上記した内面の第2領域484との間に見られる推移702aおよび推移702bを示すポーラチャートである。なお、図中、点Cは背部側439aに対応しており、点Gは腹部439bに対応している。いくつかの実施の形態では、図7Bの例に示したように、領域482と領域484との間の推移は連続的である。その代わりとして、またはそれに加え、任意に、領域482と領域484との間の推移は非連続的であり、ほぼ階段グラフの形状を有していてもよい。いくつかの実施の形態では、領域482と領域484との間の一方の側(例えば、A)における推移は、他方の側(例えば、B)における推移と同じであり、少なくとも背部と腹部とを結ぶ線を基準として対称性を維持している。または、上記した推移は各側において異なっている。
【0093】
[8.平坦面を有するプランジャ封止部]
図8は、本発明のいくつかの実施の形態に係る平坦な遠位面875を有するプランジャ封止部870を備えた医薬品シリンジを模式的に示す図である。いくつかの実施の形態では、シリンジ800は、流体を貯蔵するためのカートリッジ842を備えている。カートリッジ842は、遠位内面888において終端する遠位端838を有している。遠位内面888は、背部側882および腹部側884を備えている。いくつかの実施の形態では、背部側882の近位に流体流出口856が配置されている。流体流出口856は、中心軸858に対して偏心した位置に配置されている。任意に、流体は、流出口856を経由して流体路850を介して排出されてもよい。
【0094】
いくつかの実施の形態では、カートリッジ842の内部、具体的には内面888とプランジャ面875との間の空間に残存する流体を減少させながら、流出口856に向かって流体を流動させるために、表面888の腹部884は、表面875に向かって傾斜している。その代わりとして、またはそれに加え、背部842は、表面875から離れるように傾斜している。この傾斜により、内面888の平均方位882をプランジャの面875の平均方位に対してオフセットさせることができる。
【0095】
[9.総則]
本出願から満期となるまでの特許の存続期間中、関連する多くのシリンジ装置が開発されることが予想されるが、シリンジおよび/またはカートリッジという用語の範囲は、そのような自明な新技術の全てを含むことを意図している。
【0096】
本明細書において使用されている「約」という用語は、±25%を意味する。
【0097】
「備え(comprises)」、「備える(comprising)」、「含み(includes)」、「含む(including)」および「有する(having)」という用語、ならびにそれらの活用形は、「〜を含むが、〜に限定されない」ことを意味する。
【0098】
「からなる」という用語は、「〜を含み、かつ〜に限定される」ことを意味する。
【0099】
「本質的に〜からなる」という用語は、組成物、方法または構造において、追加の成分、工程および/または部分が請求の範囲に記載されている組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特性を実質的に変更しない限り、そのような追加の成分、工程および/または部分を含んでいてもよいことを意味する。
【0100】
本明細書において用いられている「a」、「an」、および「the」を伴う単数形の記載は、文脈上明確な断りのない限り、言及がなされたものの複数形を含んでいる。
【0101】
本願の全体に渡って、本発明の実施の形態について範囲形式を参照することにより提示している場合がある。しかしながら、範囲形式による記載は、便宜上および簡潔化を目的としているにすぎず、本発明の範囲について柔軟性を排除して限定するものであると解釈されるべきではない。したがって、範囲の記載は、その範囲内のすべての取り得る部分範囲および個々の数値を明確に開示するものとみなされるべきである。例えば、「1から6まで」のような範囲の記載は、「1から3まで」、「1から4まで」、「1から5まで」、「2から4まで」、「2から6まで」および「3から6まで」等のような部分範囲や、例えば、1、2、3、4、5、および6のようにその範囲内の個々の数字を明確に開示するものとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0102】
本明細書において示されている数値範囲は、いかなる場合でも、示された範囲内の任意の数字(分数または整数)を含むことを意味する。第1指示数字と第2指示数字との「間の範囲(between)」や、第1指示数字「から(from)」第2指示数字「まで(to)」という語句は、本明細書においては互換可能に使用されており、第1指示数字および第2指示数字、ならびにそれらの間のすべての分数および整数を含むことを意味している。
【0103】
本明細書において用いられている「方法」という用語は、所与の目的を達成するための手法、手段、技術および手続を意味する。そのような所与の目的を達成するための手法、手段、技術および手続は、化学、薬理学、生物学および医学的な技術分野に属する実務者において周知な手法、手段、技術および手続、または周知の手法、手段、技術および手続を用いて、そのような実務者により容易に開発される手法、手段、技術および手続を含むが、それらには限定されない。
【0104】
本発明のいくつかの特徴は、明確性の確保のために文脈上、別個の実施の形態として記載されているが、それらの特徴は、単一の実施の形態において組み合わされてもよい。逆に、簡潔性の確保のために文脈上、単一の実施の形態として記載されている本発明の各種特徴は、本発明について記載された実施の形態以外の任意の他の実施の形態において、別々に設け、任意の適したサブコンビネーションとして設け、または、適切に設けてもよい。各種実施の形態として文脈上、記載されているいくつかの特徴は、その実施の形態がそれらの要素なくして作用不能とならない限り、それらの実施の形態における必須の特徴とみなされるべきではない。
【0105】
具体的な実施の形態と関連させながら本発明を説明したが、当業者であれば、多くの代替、変形および変更をなし得ることは明らかである。したがって、そのような代替、変形および変更のすべてを包含することを意図するものであり、そのような代替、変形、および変更は、添付の請求の範囲により定められる精神および広範な範囲内に含まれる。
【0106】
本明細書に記載のすべての刊行物、特許および特許出願は、参照によりそれらを全体的に本明細書に援用する。これは、1つ1つの刊行物、特許または特許出願があたかも明確かつ個別に参照により本明細書に援用されていることが示されているような場合と同程度の援用である。さらに、本出願における文献の引用または特定は、その文献が本発明の先行技術として存在することを自認するものであると解釈されてはならない。節の見出しが使用される限り、それらは必ずしも限定的であると解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7A
図7B
図7C
図8