【実施例】
【0010】
本発明に係る汚染水貯蔵タンクの解体方法の手順について説明する。
なお、以下に示す手順は一例であり、現場条件に応じて各工程を省略したり、異なる工程を追加したりすることができる。また、各工程は矛盾のない範囲で適宜入れ換えても良い。
【0011】
<1>ボルト結合部の構造(
図1)
まず、解体前のタンクの底板構造について説明する。
タンクの底板を構成している複数の分割底板10は、底面から上方に伸びたフランジ11同士を互いに当接した状態で、ボルト20でもって結合して一体化し、シーリング材30で封止している。
そして、このボルト結合部をモルタルやコンクリートなどで埋設して表層部40を形成した状態を呈している。
この状態から、ボルト20の切断作業を進めていく。
【0012】
<2>墨だし・表層部の削孔(
図2)
始めに、ボルト20の位置を特定して墨出しを行う。ボルト20の位置が視認出来ない場合には、電磁波レーダーなどの検出装置を用いることもできる。
そして、
図2に示すように、墨出しした箇所の表層部40の削孔を行う。これは、ボルト20が表層部40によって埋設されているため、表層部40の削孔を行ってボルト20までの通路41を確保するためである。
表層部40の削孔には、ブレーカー50などの公知の削孔機などを用いることができる。本実施例では、ブレーカー50の削孔径を直径30mm程度としている。
このとき、吸引式の削孔機を用いれば、表層部40の削孔作業時に発生する粉じんの拡散を防止することができる。
【0013】
<3>注入孔の形成(
図3)
次に、表層部40に設けた通路41にドリル60aを差し込み、当接しあったフランジ11の間の隙間を拡張するように削孔して、注入孔111を形成する。
前記ドリル60aの削孔径は、前記した表層部40の削孔径と同等程度とすることができる。
このドリル60aによる削孔を進めていくと、前記注入孔111から締結中のボルト20の軸部周辺と外部とが連通した状態となる。
【0014】
<4>ボルトの削孔(
図4)
なお、注入孔111の形成後に、必要に応じてボルト20に穿孔部21を形成することもできる。
図4に示すように、ボルト20が高力ボルトの場合には、削孔に時間がかかるため、前記ドリル60aに代えてより小口径のドリル60bを用いて穿孔部21を形成する。その他、フランジ11の削孔に用いたドリル60aによる削孔をそのまま進めて形成しても良い。
穿孔部21は、ボルト20を部分的に削孔してなる窪みや、ボルト20を貫通してなる貫通孔の態様で形成することができる。
ボルト20を貫通する態様であれば、後述するボルト20の冷却効果をより効率よく発揮することができる。
【0015】
<5>液体窒素の注入(
図5)
締結中のボルト20の軸部が視認できる状態となったら、ボルト20へと液体窒素70を注入し、ボルト20を冷却または凍結する。
液体窒素70の注入方法としては、液体窒素70を収容した容器から前記通路41に流し込む方法や、注入用のノズルを通路41に差しこんでボルト20の近傍に直接注入する方法などがある。
前記したように、ボルト20に穿孔部21を形成した場合には、液体窒素70が穿孔部21に流れこむようにすると、より高い冷却効果を得ることができる。
液体窒素70によって冷却または凍結されたボルト20は、脆化すなわちボルトの伸びしろが無くなって破断しやすい状態となる。
【0016】
<6>衝撃力の導入(
図6,
図7)
次に、脆化したボルト20に衝撃力を与えてボルトを脆性破壊する。
衝撃力を与える方法は、公知の方法を採用することができる。
図6では鍛造鋼で製作したチゼル80をエアハンマーに設置し、該チゼル80をボルト20に繰り返し衝突させる態様で衝撃力を与えている。
図7に示すように、チゼル先端81の形状は、平面視してボルト20の軸方向と直交する方向を長軸とした菱形形状としておくと、ボルト20の切断が容易となる点で好ましい。
【0017】
<7>ボルト破断の作用(
図6、
図8)
図6に示すように、ボルト20に衝撃力が導入されると、ボルト20の締付による軸力Pと反対方向に、割裂引張力Tが作用する。
この割裂引張力Tが、軸力Pよりも大きくなると、(T−P)の力がボルト20から表層部40へと伝達し、表層部40にせん断破壊が生じる。
そして、
図8に示すように、せん断破壊した表層部40の上部分(剥離部42)が上方に変位することにより、フランジ11を拘束していた力が喪失し、各フランジ11が互いに離れるように平面方向に変位する。
ボルト20は脆化しているため、このフランジ11の変位によって軸部が容易に破断することとなる。
【0018】
<8>構成部材の分離(
図9)
ボルト20の破断後は、各分割底板10の一体化が解け、分離解体することができる。
このとき、分割底板10上に残った表層部(残部43)が存在していても、分割底板10から残部43を剥がさずにそのまま運搬することで、余計な粉じんの発生を避けることもできる。
【0019】
<9>まとめ
このように、本実施例に係る方法によれば、液体窒素でボルトを脆化してから衝撃を与えて脆性破壊することで簡便にボルトの切断を行うことができるため、火気を使用できない場所での実施が可能である。
また、放射性物質を含んだ汚染水を貯蔵していた汚染水貯蔵タンクの解体時には、ボルト結合部がモルタルなどの表層部によって埋設されている場合、従来では表層部を人力で全て斫ってからボルトの撤去を行わなければならなかったのに対し、本実施例によれば、表層部の削孔作業を最低限に抑制することができるため、粉じんの吸引等による作業員の被曝のおそれを低減することもできる。