(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記手術器具が前記切開部から前記患者の体内に挿入されて前記シャフトが前記運動中心位置を通るように前記手術器具が配置された後、前記制御装置によって前記マニピュレータの動作が制御される際に、前記シャフトが前記初期切開位置から離れ、かつ、所定の条件を満足するときに、施術者へ警告を発する警告装置をさらに備えた、
請求項4に記載の外科手術システム。
前記所定の条件は、現時点の前記シャフトの中心軸上における前記運動中心位置から前記初期切開位置と前記運動中心位置との距離だけ離れた位置と、前記初期切開位置との距離が、所定値以上になることである、
請求項3または5に記載の外科手術システム。
前記所定の条件は、前記初期切開位置を通り、かつ前記運動中心位置から前記初期切開位置へ向かうベクトルと垂直な平面と、現時点の前記シャフトの中心軸とが交差する位置を算出し、当該位置と前記初期切開位置との距離が、所定値以上になることである、
請求項3または5に記載の外科手術システム。
前記手術器具が前記切開部から前記患者の体内に挿入されて前記シャフトが前記運動中心位置を通るように前記手術器具が配置された後、前記制御装置によって前記マニピュレータの動作が制御される際に、前記運動中心位置を設定した時点の前記シャフトの中心軸の方向を示すベクトルと、現時点の前記シャフトの中心軸の方向を示すベクトルとのなす角度が所定角度以上になったときに、施術者へ警告を発する警告装置をさらに備えた、
請求項1または2に記載の外科手術システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のある態様に係る外科手術システムは、基端部に対して先端部を3次元空間内で移動するマニピュレータと、前記マニピュレータの先端部に連結される棒状のシャフトと、該シャフトの先端部に設けられた処置具とを有する手術器具と、施術者が前記手術器具の位置姿勢の指示を入力する操作入力部と、前記操作入力部に入力される指示に基づいて前記マニピュレータの動作を制御する制御装置と、患者の切開部に挿入される前記手術器具の運動中心位置として、前記患者の体表面よりも内部の所望位置を前記制御装置に設定する運動中心位置設定部とを備え、前記制御装置は、前記手術器具が前記切開部から前記患者の体内に挿入されて前記シャフトが前記運動中心位置を通るように前記手術器具が配置された後、前記操作入力部に入力される指示に基づいて前記マニピュレータの動作を制御する際に前記シャフトが前記運動中心位置に位置する状態を維持して前記手術器具の位置姿勢を変化させるように前記マニピュレータの動作を制御するよう構成されている。
【0011】
この構成によれば、手術器具の運動中心位置を、患者の体表面あるいはほぼ体表面とするのではなく、体内(身体の内部)に設定することにより、例えば肋骨の骨と骨との間等の狭い領域に手術器具を挿入する場合でも、手術器具の先端の可動範囲を広くとることができ、手術を行いやすくなる。
【0012】
前記運動中心位置設定部は、前記手術器具が前記切開部から前記患者の体内に挿入されて前記手術器具の所定の基準点が体内の所望位置になったときにその位置を前記運動中心位置として前記制御装置に設定するための操作を行う運動中心位置設定操作部を有して構成されていてもよい。
【0013】
前記患者の体表面における前記切開部の位置を初期切開位置として前記制御装置に設定する初期切開位置設定部と、前記手術器具が前記切開部から前記患者の体内に挿入されて前記シャフトが前記運動中心位置を通るように前記手術器具が配置された後、前記制御装置によって前記マニピュレータの動作が制御される際に、前記シャフトが前記初期切開位置から離れ、かつ、所定の条件を満足するときに、施術者へ警告を発する警告装置とをさらに備えていてもよい。この構成によれば、施術者へ警告を発することにより、手術中に切開部の位置が大きく移動することを防止でき、患者にとって好ましい。
【0014】
前記運動中心位置設定部は、前記患者の体表面における前記切開部の位置を初期切開位置として前記制御装置に設定する初期切開位置設定部と、前記初期切開位置から所定方向に所定距離離れた位置を算出し、当該位置を前記運動中心位置として前記制御装置に設定する演算部とで構成されていてもよい。
【0015】
前記手術器具が前記切開部から前記患者の体内に挿入されて前記シャフトが前記運動中心位置を通るように前記手術器具が配置された後、前記制御装置によって前記マニピュレータの動作が制御される際に、前記シャフトが前記初期切開位置から離れ、かつ、所定の条件を満足するときに、施術者へ警告を発する警告装置をさらに備えていてもよい。この構成によれば、施術者へ警告を発することにより、手術中に切開部の位置が大きく移動することを防止でき、患者にとって好ましい。
【0016】
前記所定の条件は、現時点の前記シャフトの中心軸上における前記運動中心位置から前記初期切開位置と前記運動中心位置との距離だけ離れた位置と、前記初期切開位置との距離が、所定値以上になることであってもよい。この場合、現時点の切開部の中心位置と初期切開位置との距離の近似値を算出し、この近似値が所定値以上になることを所定の条件にしているとも言える。
【0017】
前記所定の条件は、前記初期切開位置を通り、かつ前記運動中心位置から前記初期切開位置へ向かうベクトルと垂直な平面と、現時点の前記シャフトの中心軸とが交差する位置を算出し、当該位置と前記初期切開位置との距離が、所定値以上になることであってもよい。この場合、現時点の切開部の中心位置と初期切開位置との距離の近似値を算出し、この近似値が所定値以上になることを所定の条件にしているとも言える。
【0018】
前記初期切開位置設定部は、前記手術器具が前記切開部から前記患者の体内に挿入される際に、前記手術器具の所定の基準点が前記患者の体表面における前記切開部の位置になったときにその位置を前記初期切開位置として前記制御装置に設定するための操作を行う初期切開位置設定操作部を有して構成されていてもよい。
【0019】
前記手術器具が前記切開部から前記患者の体内に挿入されて前記シャフトが前記運動中心位置を通るように前記手術器具が配置された後、前記制御装置によって前記マニピュレータの動作が制御される際に、前記運動中心位置を設定した時点の前記シャフトの中心軸の方向を示すベクトルと、現時点の前記シャフトの中心軸の方向を示すベクトルとのなす角度が所定角度以上になったときに、施術者へ警告を発する警告装置をさらに備えていてもよい。この構成によれば、施術者へ警告を発することにより、手術中に切開部の位置が大きく移動することを防止でき、患者にとって好ましい。
【0020】
前記運動中心位置は、前記患者の体内の互いに隣り合う骨と骨との間に定められてもよい。
【0021】
以下、好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0022】
(実施形態)
[外科手術システムの概要]
図1は、本発明の実施形態に係る外科手術システムの全体的な構成の一例を示す概略図である。
図2は、患者側装置のポジショナの構成の一例を示す側面図である。
図3は、患者側装置の手術器具が取り付けられたマニピュレータ(アーム)の構成の一例を示す概略図である。
図4は、外科手術システムの概略を示すブロック図である。
【0023】
図1に示すように、外科手術システム100は、ロボット支援手術やロボット遠隔手術などのように、医師などの施術者Oが操作装置2を用いて患者側装置1を操ることにより、患者Qに内視鏡外科手術を施すシステムである。
【0024】
外科手術システム100は、患者側装置1と、操作装置2と、制御装置6とを備えている。操作装置2は患者側装置1から離れて配置され、患者側装置1は操作装置2によって遠隔操作される。施術者Oが患者側装置1に行わせる動作に応じて操作装置2を操作すると、操作装置2はその操作に応じた操作信号を制御装置6へ送信する。そして、制御装置6は、操作装置2から送信された操作信号を受け取り、この操作信号に基づいて患者側装置1を動作させる。以下、外科手術システム100の各構成要素について詳細に説明する。
【0025】
[操作装置]
操作装置2は、外科手術システム100と施術者Oとのインターフェースを構成し、患者側装置1を操作するための装置である。操作装置2は、手術室内において手術台111の傍らに又は手術台111から離れて、或いは、手術室外に設置されている。
【0026】
操作装置2は、施術者Oが操作指令を入力するための操作用マニピュレータ51や操作ペダル52などの操作入力部50と、内視鏡41で撮影された画像を表示する表示装置55とを含む。施術者Oは、表示装置55で患部を視認しながら、操作入力部50を操作して操作装置2に操作指令を入力する。操作装置2に入力された操作指令は、操作信号として有線又は無線により制御装置6に伝達される。また、操作装置2には、
図4に示すように、初期切開位置設定操作部(初期切開位置設定部)53、運動中心位置設定操作部(運動中心位置設定部)54及び警告装置56を備えており、これらについては後述する。
【0027】
[患者側装置]
患者側装置1は、外科手術システム100と患者Qとのインターフェースを構成する。患者側装置1は、手術室内において患者Qが横たわる手術台111の傍らに配置されている。
【0028】
患者側装置1は、ポジショナ7と、ポジショナ7の先端部に取り付けられたプラットホーム5と、プラットホーム5に着脱可能に取り付けられた複数の患者側マニピュレータ3(以下、「アーム3」という)と、複数のアーム3のうち1本のアーム3Aの先端部に取り付けられた内視鏡41と、複数のアーム3のうち余のアーム3Bの先端部に着脱可能に取り付けられた手術器具42(以下、「インストゥルメント42」という)とを備えている。なお、ポジショナ7及びプラットホーム5は、滅菌ドレープ9で覆われている。この患者側装置1は、例えば、内視鏡41が取り付けられた1本のアーム3Aと、インストゥルメント42が取り付けられた3本のアーム3Bとの、併せて4本のアーム3を備えている。但し、
図4では、3本のアーム3だけを図示している。
【0029】
図2に示すように、ポジショナ7は、水平多関節形ロボットを基調としており、手術室の床に載置されたベース70と、昇降軸72と、ベース70と昇降軸72の基端部とを連結する揺動アーム71と、昇降軸72の先端部に連結された水平アーム73とを含む。水平アーム73の先端部には、プラットホーム5が連結されている。
【0030】
ベース70は、例えば、ブレーキ付台車であって、所望の位置へ移動させて、そこで静止させることができる。このベース70に、揺動アーム71の基端部が回転関節J71を介して連結されている。この回転関節J71の動作により、揺動アーム71は、ベース70に規定された水平な回転軸を中心として回動(揺動)する。また、揺動アーム71の先端部には、回転関節J72を介して昇降軸72の基端部が連結されている。ここで、揺動アーム71が、
図2に示す垂直な起立状態から回転関節J71の動作によって傾斜状態になるときには、回転関節J72の動作により、昇降軸72の垂直状態が維持される。
【0031】
昇降軸72は、筒部材72a、この筒部材72aに垂直方向へ進退可能に挿入された中空の軸部材72b、及び、これらの部材(72a、72b)を連結する並進関節J73を含む。この並進関節J73の動作によって、軸部材72bが筒部材72aに対して垂直方向へ進退移動することにより、昇降軸72は垂直方向に伸縮可能である。
【0032】
水平アーム73は、水平に延びる第1リンク74及び第2リンク75と、第2リンク75の先端部に連結された手首リンク76とを含む。手首リンク76の先端部には、プラットホーム5が接続されている。
【0033】
第1リンク74の基端部は、回転関節J74を介して昇降軸72の先端部と連結されている。この回転関節J74の動作により、第1リンク74は昇降軸72の先端部に規定された垂直な回転軸を中心として回動する。第1リンク74の先端部は、回転関節J75を介して第2リンク75の基端部と連結されている。この回転関節J75の動作により、第2リンク75は、第1リンク74の先端部に規定された垂直な回転軸を中心として回動する。
【0034】
第2リンク75の先端部は、回転関節J76を介して手首リンク76の基端部と連結されている。この回転関節J76の動作により、手首リンク76は、第2リンク75の先端部に規定された水平な回転軸を中心として回動する。定常時の手首リンク76は垂直に延びており、この手首リンク76の先端部に接続されたプラットホーム5は水平な姿勢である。
【0035】
プラットホーム5は、複数のアーム3の拠点となる「ハブ」としての機能を有している。各アーム3は、プラットホーム5に対し着脱可能に取り付けられ、プラットホーム5から取り外して洗浄処理及び滅菌処理を行うことができる。
【0036】
本例では、ポジショナ7及びプラットホーム5によって、複数のアーム3を移動可能に支持するアーム支持体Sが構成されている。但し、アーム支持体Sは少なくともプラットホーム5を含んでいればよく、例えば、ポジショナ7に代えて直動レールや昇降装置、或いは、天井や壁に取り付けられたブラケットに支持されたプラットホーム5によってアーム支持体Sが構成されてもよい。
【0037】
次に、アーム3の構成の一例について説明する。複数の各アーム3は、構成が異なってもよく、各アーム3には個体識別情報が与えられている。
【0038】
図3には、患者側装置1が備える複数のアーム3のうちの1本の概略構成が示されている。
図3に示すように、アーム3は、第1アーム部30と、第1アーム部30の先端部に連結された第2アーム部35とを備え、基端部に対し先端部を3次元空間内で移動させることができるように構成されている。アーム3は、例えばその先端部が6自由度の位置姿勢を有するように構成されている。
【0039】
第1アーム部30は、プラットホーム5に着脱可能に取り付けられるベース80と、ベース80から先端部に向けて順次連結された第1リンク81〜第6リンク86とを含む。より詳細には、ベース80の先端部に、捩り関節J31を介して第1リンク81の基端部が連結されている。第1リンク81の先端部に、捩り関節J32を介して第2リンク82の基端部が連結されている。第2リンク82の先端部に、曲げ関節J33を介して第3リンク83の基端部が連結されている。第3リンク83の先端部に、捩り関節J34を介して第4リンク84の基端部が連結されている。第4リンク84の先端部に、曲げ関節J35を介して第5リンク85の基端部が連結されている。第5リンク85の先端部に、捩り関節J36を介して第6リンク86の基端部が連結されている。第6リンク86の先端部30aに、第2アーム部35の基端部(基端側リンク91)が連結されている。
【0040】
第2アーム部35は、第6リンク86の先端部30aに第1軸線L1周りに回動可能に取り付けられた基端側リンク91と、この基端側リンク91の先端部に連結部93を介して第2軸線L2周りに回動可能に取り付けられた先端側リンク92とを有している。そして、先端側リンク92の先端部には第3軸線L3周りに回動可能に回動軸94が取り付けられ、この回動軸94にホルダ36が固定されている。このホルダ36には、インストゥルメント42が着脱容易に取り付けられている。
【0041】
この第2アーム部35は、第2アーム部35の先端部に取り付けられたホルダ36を基準方向Dに並進移動させることにより、ホルダ36に取り付けられたインストゥルメント42を、そのシャフト43の延在方向(基準方向D)に並進移動させる機構である。
【0042】
すなわち、第2アーム部35は、第1アーム部30の先端部30aに対して、ホルダ36の姿勢を変えることなく、ホルダ36をシャフト43の延在方向に移動可能に構成されている。この第2アーム部35は、第1アーム部30及びホルダ36と回転関節によって接続され、基端側リンク91及び先端側リンク92も回転関節によって接続された構成とすることができる。なお、第2アーム部35に代えて、並進関節を用いて、ホルダ36をその姿勢を変えることなくシャフト43の延在方向に移動させるように構成することも可能である。
【0043】
また、先述の第1アーム部30は、その先端部30aが例えば6自由度の位置姿勢を有するよう構成されており、その先端部30aに第2アーム部35が連結されている。
【0044】
上記の構成により、ホルダ36に取り付けられたインストゥルメント42は、アーム3の動作によって、3次元空間においてその位置及び姿勢を自由に変えることができる。
【0045】
なお、患者側装置1は、上記のアーム支持体S及びアーム3に限られるものではなく、操作装置2の操作によって、先端に取り付けられたインストゥルメント42の位置及び姿勢を自由に変えることができるマニピュレータを備えていればよい。
【0046】
インストゥルメント42は、その基端部に設けられた駆動ユニット45と、その先端部に設けられたエンドエフェクタ(処置具)44と、駆動ユニット45とエンドエフェクタ44の間を繋ぐ細長い棒状のシャフト43とで構成されている。インストゥルメント42は、そのシャフト43の延在方向が基準方向Dと同方向となるようにホルダ36に取り付けられている。インストゥルメント42のエンドエフェクタ44は、動作する関節を有する器具(例えば、鉗子、ハサミ、グラスパー、ニードルホルダ、マイクロジセクター、ステープルアプライヤー、タッカー、吸引洗浄ツール、スネアワイヤ、及び、クリップアプライヤーなど)や、関節を有しない器具(例えば、切断刃、焼灼プローブ、洗浄器、カテーテル、及び、吸引オリフィスなど)からなる群より選択される。
【0047】
また、内視鏡41が取り付けられたアーム3(3A)の場合は、ホルダ36に、インストゥルメント42に代えて内視鏡41が着脱可能に保持されている。なお、内視鏡41が取り付けられるホルダ36は、インストゥルメント42が取り付けられるホルダ36と態様が異なっていてもよい。
【0048】
なお、プラットホーム5は、その側面及び下面にそれぞれ複数のアーム3を取り付けることができるよう構成されている。アーム3のベース80には、インターフェース部801(以下、「I/F部801」という)が設けられ、プラットホーム5の取付ポート(図示せず)と接続される。このI/F部801には、電線や通信配線のコネクタが設けられ、プラットホーム5の取付ポートに設けられたソケットと接続される。また、I/F部801には、アーム3の個体識別情報等が記憶されたICタグが設けられている。そして、プラットホーム5には、上記ICタグの情報を読み取って制御装置6へ出力するタグリーダライタが設けられている。制御装置6は、例えば、アーム3の個体識別情報に基づいて、操作装置2から入力される手術情報に基づいて実施される手術に適切なアームであるか否かを判断することができる。
【0049】
[制御装置]
制御装置6は、
図4に示すように、マスタ側制御部61及びスレーブ側制御部62を有する。マスタ側制御部61及びスレーブ側制御部62は、それぞれ、例えば、CPU等の演算部と、CPUの実行プログラム及び各種データを記憶するROM、RAM等の記憶部などを有している。
【0050】
前述のポジショナ7及びアーム3等の各関節は、サーボモータと、このサーボモータの回転位置を検出するエンコーダ等を有して構成され、エンコーダで検出された回転位置は制御装置6のスレーブ側制御部62に入力される。
【0051】
施術者Oが操作装置2の操作入力部50を操作することにより、操作入力部50から操作指令である操作信号がマスタ側制御部61に入力される。この操作信号が、例えば、インストゥルメント42の位置及び姿勢に関するものである場合には、マスタ側制御部61は、操作信号に基づいて、インストゥルメント42の位置及び姿勢の指令値を例えば運動学計算にしたがって算出し、この位置及び姿勢の指令値をスレーブ側制御部62へ出力する。スレーブ側制御部62では、インストゥルメント42の位置及び姿勢を指令値に一致させるために必要なアーム3の各関節の駆動量を、例えば逆運動学計算にしたがって算出し、算出した駆動量に基づいてアーム3の各関節を駆動させる。
【0052】
また、操作入力部50からの操作信号がインストゥルメント42のエンドエフェクタ44の動作(例えば鉗子の把持動作等)に関するものである場合には、マスタ側制御部61は、操作信号に基づいて、エンドエフェクタ44の駆動量の指令値を算出し、スレーブ側制御部62へ出力する。スレーブ側制御部62では、エンドエフェクタ44の駆動量の指令値に基づいてエンドエフェクタ44を駆動(動作)させる。
【0053】
なお、ポジショナ7についても同様に、操作入力部50からの操作信号がプラットホーム5の位置及び姿勢に関するものである場合には、マスタ側制御部61は、操作信号に基づいて、プラットホーム5の位置及び姿勢の指令値を算出し、この位置及び姿勢の指令値をスレーブ側制御部62へ出力する。スレーブ側制御部62では、プラットホーム5の位置及び姿勢を指令値に一致させるために必要なポジショナ7の各関節の駆動量を算出し、算出した駆動量に基づいてポジショナ7の各関節を駆動させる。
【0054】
次に、上記構成の外科手術システム100を用いて手術を行う場合の手順の概略を説明する。
【0055】
はじめに、例えば手術助手が手術台111上の患者Qの体表面の複数の所定位置を切開し、各々の切開部にカニューレ110を装着する。
【0056】
その後、施術者Oが操作装置2を操作することにより、先ず、プラットホーム5と手術台111上の患者Qとが所望の位置関係となるようにポジショナ7を動作させて、プラットホーム5の位置決めを行う。
【0057】
次に、例えば施術者Oが操作装置2を操作することにより、患者Qの体表面に装着された各カニューレ110と、内視鏡41及び各インストゥルメント42とが、所望の初期位置関係となるように各アーム3を動作させて、内視鏡41及び各インストゥルメント42を各々のカニューレ110に挿入して位置決めを行う(位置決め工程)。
【0058】
そして、原則としてポジショナ7を静止させた状態で、操作装置2からの操作信号に応じて、各アーム3を動作させて内視鏡41及び各インストゥルメント42を適宜変位及び姿勢変化させつつ、各インストゥルメント42のエンドエフェクタ44を動作させて施術する。
【0059】
本実施形態では、上記の位置決め工程において、各インストゥルメント42を各カニューレ110に最初に挿入して位置決めを行う際に、
図5(A)〜(D)に示すように、インストゥルメント42が挿入される患者Qの切開部Q1の初期位置(初期切開位置P1)と、施術中におけるインストゥルメント42の旋回等の動作(運動)の中心点となる運動中心位置P2とを、制御装置6に設定する(記憶させる)ように構成されている。そのため、操作装置2には、
図4に示すように、上記の初期切開位置P1を設定するための操作部として初期切開位置設定操作部53が設けられ、上記の運動中心位置P2を設定するための操作部として運動中心位置設定操作部54が設けられている。これらの操作部53,54は、例えば押しボタンスイッチ等で構成することができる。
【0060】
図5(A)〜(D)は、初期切開位置P1及び運動中心位置P2を設定する際の手順の一例を示す図である。
【0061】
図5(A)に示すように、施術者Oが操作装置2を操作して、インストゥルメント42を、患者Qの切開部Q1に装着されたカニューレ110に近づけて、
図5(B)に示すように、インストゥルメント42の先端が切開部Q1の体表面位置に位置したときに、施術者Oが初期切開位置設定操作部53を操作してインストゥルメント42の先端の位置を初期切開位置P1に設定する。なお、
図5(B)〜(C)では、カニューレ110の図示を省略している。
【0062】
そして、
図5(C)に示すように、さらにインストゥルメント42をシャフト43の軸方向(延在方向)へ移動させて、インストゥルメント42の先端が所望の運動中心位置に位置したと施術者Oが判断したときに、運動中心位置設定操作部54を操作してインストゥルメント42の先端の位置を運動中心位置P2に設定する。その後、
図5(D)に示すように、インストゥルメント42の先端が所望の初期位置まで挿入されるように、さらにインストゥルメント42をシャフト43の軸方向へ移動させて、シャフト43が初期切開位置P1及び運動中心位置P2を通るように配置される。
【0063】
同様にして、他のインストゥルメント42及び内視鏡41の各々の先端が、各々のカニューレ110を通って各々の所望の初期位置となるように体内へ挿入された後、実質的な施術が開始される。
【0064】
この
図5(A)〜(D)に示す例では、初期切開位置設定操作部53の操作により、その操作時のインストゥルメント42の先端の位置が初期切開位置P1に設定され、運動中心位置設定操作部54の操作により、その操作時のインストゥルメント42の先端の位置が運動中心位置P2に設定される。
【0065】
なお、運動中心位置P2は、
図5(B)のように初期切開位置P1を設定したときに、初期切開位置P1からインストゥルメント42の軸方向(シャフト43の軸方向)に所定距離(A)だけ離れた位置として算出し、自動的に設定されるようにしてもよい。
【0066】
これらの位置P1,P2は、3次元位置座標を用いて制御装置6の例えばスレーブ側制御部62に記憶される。ここで、位置P1,P2の3次元位置座標は、インストゥルメント42が取り付けられているアーム3の基端の基準位置Ps1(
図3参照)の3次元位置座標、同アーム3の各関節の回転位置(エンコーダの出力値)、同アーム3を構成する各リンクの長さ、及び、ホルダ36からインストゥルメント42の先端までの長さ等によって算出することができる。なお、アーム3の基端の基準位置Ps1の3次元位置座標は、ポジショナ7のベース70の所定位置を原点とする3次元直交座標を用いて算出するようにしてもよい。また、この例では、はじめにプラットホーム5の位置決めをした後は、プラットホーム5は固定状態となるので、各アーム3について、その基端の基準位置(例えばPs1)の3次元位置座標を原点と考えてもよい。
【0067】
そして、実質的な施術が開始されると、施術者Oは操作装置2を操作することにより、インストゥルメント42の位置及び姿勢を変化させる。このとき、制御装置6のスレーブ側制御部62は、インストゥルメント42のシャフト43が運動中心位置P2に位置する状態を維持しながら、インストゥルメント42の位置及び姿勢を変化させるように、アーム3の動作を制御する。これにより、シャフト43が運動中心位置P2を通る状態が維持されながら、インストゥルメント42の先端の位置及び姿勢が変化する。
【0068】
このように、インストゥルメント42の運動中心位置P2を、患者の体表面あるいはほぼ体表面とするのではなく、体内(身体の内部)に設定することにより、胸部手術等で、例えば肋骨の骨と骨との間等の狭い領域にインストゥルメント42を挿入する場合でも、インストゥルメント42の先端の可動範囲を広くとることができる。
【0069】
このことを
図6(A)、(B)を参照して説明する。
図6(A)は、本実施形態の一例におけるインストゥルメント42の可動状態を示す図であり、
図6(B)は、比較例におけるインストゥルメント42の可動状態を示す図である。なお、
図6(A)、(B)でも切開部Q1に装着されるカニューレ110(
図5(A)参照)の図示を省略している。
【0070】
図6(A)に示す本実施形態の場合、患者Qの身体内部の骨Q2と骨Q3との間に、インストゥルメント42の運動中心位置P2を設定しており、
図6(B)に示す比較例の場合、インストゥルメント42の運動中心位置P2を、患者Qの体表面における切開部Q1の位置に設定している。
【0071】
図6(A)と
図6(B)を比較すれば明らかなように、
図6(B)の比較例の場合には、インストゥルメント42が骨Q2,Q3に接することがないようにインストゥルメント42を動かすためには、インストゥルメント42の先端のエンドエフェクタ44の可動範囲が狭くなるのに対し、
図6(A)の本実施形態の場合には、インストゥルメント42の先端のエンドエフェクタ44の可動範囲を広くとることができ、手術を行いやすくなる。
【0072】
一方、本実施形態のように、インストゥルメント42を、そのシャフト43が身体の内部に設定される運動中心位置P2を通り、かつそれを中心にして動くようにすると、シャフト43の体表面における位置が初期切開位置P1から外れ、シャフト43が挿入されているカニューレ110及び患者Qの切開部Q1が初期切開位置P1から外れる。切開部Q1が初期切開位置P1から外れると、切開部Q1の周囲が引張られたり圧迫されるので、外れ具合が大きくなると、患者Qにとって好ましくない。
【0073】
そこで、本実施形態では、切開部Q1が初期切開位置P1から大きく外れると、施術者Oへ警告を発する警告装置56(
図4参照)を操作装置2に設けている。
【0074】
制御装置6のスレーブ側制御部62は、警告装置56による警告を行うか否かを所定の警告判定条件に基づいて判定する警告判定部63を含んでいる。警告判定部63では、警告を行うと判定したときに警告信号を警告装置56へ出力する。警告装置56では、警告信号を入力すると警告を発する。警告装置56は、音、光、及び画像のうち1つ以上によって施術者Oに対し警告するものであり、例えば、ブザー、または電子音により音声を発生させる手段であってもよいし、ランプなどの発光手段でもよい。また、表示装置55を警告装置56と共用し、表示装置55の画面上に警告画像(例えば、警告を意味する文字や記号等)を表示するようにしてもよい。
【0075】
図7(A)、
図7(B)、
図7(C)はそれぞれ、警告判定部63における警告判定条件について説明するための図である。なお、
図7(A)〜(C)でも切開部Q1に装着されるカニューレ110(
図5(A)参照)の図示を省略している。また、前述のように、初期切開位置P1及び運動中心位置P2の3次元位置座標は、スレーブ側制御部62に記憶されている。
【0076】
図7(A)の場合、警告判定部63では、初期切開位置P1と運動中心位置P2との距離をAとし(
図5(C)も参照)、運動中心位置P2から現時点のシャフト43の中心軸上でかつシャフト43の基端側へ距離Aだけ離れた位置P10を算出し、この位置P10と、初期切開位置P1との距離B1を常時算出し、この距離B1が予め定めた所定値以上であれば警告を行うと判定し、警告信号を出力する。
【0077】
図7(B)の場合、警告判定部63では、初期切開位置P1を通り、かつ、運動中心位置P2から初期切開位置P1へ向かうベクトル(直線L5に平行なベクトル)に垂直な平面Cを求め、この平面Cと現時点のシャフト43の中心軸L6とが交差する位置P11と、初期切開位置P1との距離B2を常時算出し、この距離B2が予め定めた所定値以上であれば警告を行うと判定し、警告信号を出力する。
【0078】
なお、平面Cは、初期切開位置P1を通り、かつ患者Qの体表面に略沿うような平面であることが好ましく、例えば、初期切開位置P1と運動中心位置P2とを通る直線L5が鉛直線から大きく傾いている場合には、平面Cを初期切開位置P1を通る水平面としてもよい。
【0079】
上記の
図7(A)の距離B1を算出すること、及び
図7(B)の距離B2を算出することは、それぞれ、現時点(すなわち算出時点)における切開部Q1の中心位置と、初期切開位置P1との距離の近似値あるいは概算値を算出していると言える。すなわち、
図7(A)及び
図7(B)の場合の警告判定条件は、現時点における切開部Q1の中心位置と、初期切開位置P1との距離の近似値あるいは概算値(距離B1,B2)が、予め定めた所定値以上であることであるとも言える。
【0080】
また、
図7(C)の場合、警告判定部63では、運動中心位置P2を設定した時点のシャフト43の中心軸(直線L5)の方向と、現時点のシャフト43の中心軸L6の方向とのなす角度θを常時算出し、この角度θが予め定めた所定角度以上であれば警告を行うと判定し、警告信号を出力する。この場合の警告判定条件は、角度θが予め定めた所定角度以上であることである。
【0081】
なお、角度θは、運動中心位置P2を設定した時点のシャフト43の中心軸(直線L5)の方向の情報(第1ベクトル)と、現時点のシャフト43の中心軸L6の方向の情報(第2ベクトル)と、これらの内積を用いて算出することができる。ここで、シャフト43の中心軸は常に運動中心位置P2を通るので、任意の時点におけるシャフト43の中心軸の方向を示すベクトル(第1、第2ベクトル)は、運動中心位置P2と、同時点におけるシャフト43の基端の基準位置Ps2(
図3参照)とから算出できる。また、シャフト43の基端の基準位置Ps2は、アーム3の基端の基準位置Ps1の3次元位置座標、同アーム3の各関節の回転位置(エンコーダの出力値)、及び、同アーム3を構成する各リンクの長さ等によって算出することができる。
【0082】
この
図7(C)の場合には、角度θを初期切開位置P1の3次元位置座標を用いずに求めることができるので、初期切開位置P1を設定しなくてもよい。
【0083】
なお、警告判定部63は、
図7(A)、
図7(B)、
図7(C)のいずれか1つで説明した警告判定条件に基づいて判定するようにすればよい。
【0084】
上記では、施術者Oが操作装置2を操作することによりアーム3を動かして、インストゥルメント42の先端の位置が初期切開位置P1及び所望の運動中心位置P2に位置したときに、それぞれの設定操作部53,54を操作してそれぞれの位置P1,P2を設定するようにしている。この場合、患者Qのカニューレ110が装着された体表面を撮影するためのカメラを別途設け、このカメラで撮影される画像を表示装置55の画面に表示させ、施術者Oがその画面を見ながら操作するようにしてもよい。
【0085】
また、例えば、産業用ロボットのダイレクト教示を行う場合のように、例えば手術助手等がアーム3を直接手で動かして、インストゥルメント42の先端の位置が初期切開位置P1及び所望の運動中心位置P2に位置したときに、それぞれの位置P1,P2を設定するようにしてもよい。この場合、初期切開位置設定操作部53及び運動中心位置設定操作部54の機能を有するリモコンを設けておいて、このリモコンを操作することにより位置P1,P2を設定するようにしてもよい。
【0086】
また、上記では、インストゥルメント42の先端の位置を基準点とし、初期切開位置P1及び運動中心位置P2を、それぞれインストゥルメント42の先端の位置で設定するようにしたが、これに限らない。例えば、インストゥルメント42のシャフト43の先端側付近に目印(着色、刻印等)を付けた基準点を設け、この基準点の位置で初期切開位置P1及び運動中心位置P2を設定するようにしてもよい。
【0087】
また、初期切開位置P1の設定については、初期切開位置設定用のプローブを先端に取り付けた専用のアーム3を用い、上記プローブの先端の位置で初期切開位置P1を設定するようにしてもよい。
【0088】
また、初期切開位置P1の設定については、患者側装置1に三次元位置センサを取り付け、この三次元位置センサで切開部Q1の位置を検出し、この検出位置を制御装置6へ入力して初期切開位置P1として設定するようにしてもよい。但し、この場合、三次元位置センサによる検出位置の座標を患者側装置1の座標に変換して初期切開位置P1に設定する必要がある。
【0089】
なお、上記の初期切開位置設定用のプローブや三次元位置センサを用いて初期切開位置P1を設定する場合には、運動中心位置P2を、例えば、初期切開位置P1から所定方向(例えば鉛直下向き)に所定距離だけ離れた位置として設定するようにしてもよい。
【0090】
なお、本実施形態では、胸部手術を行う場合を例に説明したが、操作装置2に、胸部手術等を行う場合の第1動作モードと、腹部手術等を行う場合の第2動作モードとを選択操作するためのモード選択部を設けてもよい。そして、第1動作モードが選択された場合には、前述のように、患者Qの体表面よりも内部である体内に運動中心位置P2を設定し、
図7(A)、
図7(B)の場合のように警告判定部63による判定を行う上で初期切開位置P1が必要であれば、患者Qの体表面における切開部Q1の位置に初期切開位置P1を設定するようにする。一方、第2動作モードが選択された場合には、患者Qの体表面における切開部Q1の位置に運動中心位置P2を設定するようにし、初期切開位置P1の設定機能を停止させるようにしてもよい。さらに、第2動作モードが選択された場合には、警告判定部63の機能も停止させる。
【0091】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。