(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6831708
(24)【登録日】2021年2月2日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】フェノール樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 8/04 20060101AFI20210208BHJP
【FI】
C08G8/04
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-11591(P2017-11591)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-119064(P2018-119064A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年7月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝治
(72)【発明者】
【氏名】稲岡 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】塚田 慎一郎
【審査官】
幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/084097(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/141165(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/030835(WO,A1)
【文献】
特開平10−017510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記式(1)
【化1】
(式中、R
1は同一又は異なって炭化水素基、nは同一又は異なって0又は1を示す。)で表されるフェノール類を含むフェノール成分と、アルデヒド成分とを重合成分とするフェノール樹脂
であって、前記式(1)で表されるフェノール類を前記フェノール成分に対して50モル%以上の割合で含む、フェノール樹脂。
【請求項2】
式(1)において、R1がアルキル基である請求項1記載のフェノール樹脂。
【請求項3】
アルデヒド成分が、ホルムアルデヒド類である請求項1又は2記載のフェノール樹脂。
【請求項4】
重量平均分子量Mwが5000〜15000のノボラック樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載のフェノール樹脂。
【請求項5】
ノボラック樹脂であって、45重量%の濃度でプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解可能な請求項1〜4のいずれかに記載のフェノール樹脂。
【請求項6】
少なくとも請求項1又は2記載の式(1)で表されるフェノール類を含むフェノール成分と、アルデヒド成分とを反応させて、請求項1〜5のいずれかに記載のフェノール樹脂を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリスフェノール骨格[特にトリス(ヒドロキシフェニル)メタン骨格]を有し、高い耐熱性や溶解性を有する新規フェノール樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野などにおいて、トリスフェノール類は、樹脂のアルカリ溶解性の改善などの観点から、ポジ型フォトレジスト用組成物の改質剤、増感剤などとして利用できることが知られている。このようなトリスフェノール類は、フェノール類とアルデヒド類との縮合反応により製造でき、例えば、特開2005−29504号公報(特許文献1)には、フェノール類と、芳香族アルデヒド類とを、リン酸類の存在下、所定割合で不均一系反応させることでフェノール誘導体を製造する方法が開示されている。この文献の実施例では、4,4’−[(2−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[2,6−キシレノール]、4,4’−[(2−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[2,5−キシレノール]などのトリスフェノール類が合成されている。しかし、特許文献1では、トリスフェノール類を用いてフェノール樹脂を調製することは記載されていない。
【0003】
また、特開平8−211600号公報(特許文献2)には、所定のアルカリ可溶性ポリフェノール類、一般式(II)で示されるアルカリ可溶性ポリヒドロキシ化合物、アルカリ可溶性ノボラック樹脂、及び1,2−キノンジアジド化合物を含むポジ型レジスト組成物が開示されている。
【0004】
【化1】
【0005】
(式中、R
8は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、R
9〜R
11は各々独立して炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を表し、a〜fは各々独立して0〜3の整数を表すが、b、d及びfの少なくとも二つは1〜3の整数を表す)。
【0006】
この文献には、アルカリ可溶性ノボラック樹脂として、下記一般式で示されるフェノールを重合成分として用いた樹脂などが例示されている。
【0007】
【化2】
【0008】
(式中、R
13〜R
18は各々独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R
19は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、x、y及びzは各々独立して0〜2の整数を表わすが、x+y+z>2である)。
【0009】
この文献の実施例では、前記一般式(II)で表されるアルカリ可溶性ポリヒドロキシ化合物として、4,4’−[(2−ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス[2,6−キシレノール]が使用されているものの、アルカリ可溶性ノボラック樹脂としては、m−クレゾール及びp−クレゾールを重合成分とするノボラック樹脂が用いられており、トリスフェノール類を重合成分とするノボラック樹脂については具体的に記載されていない。
【0010】
国際公開第2012/14
1165号(特許文献3)には、クレゾールノボラック樹脂(A)に対してノボラック型フェノール樹脂(B)を所定の割合で含有するポジ型フォトレジスト組成物であって、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)が、下記式(1)
【0011】
【化3】
【0012】
[式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜12の炭化水素基であり、Xは下記式(2)
【0013】
【化4】
【0014】
(式中、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基である。m及びnは、それぞれ独立して1〜4の整数で、pは0〜4の整数である。tは1または2である)で表される構造(x1)、または構造(x1)以外の芳香族炭化水素基(x2)である。]
で表される構造単位を繰り返し単位として有し、前記構造(x1)と構造(x2)の総数に対する前記構造(x1)の含有率が85%以上であるポジ型フォトレジスト組成物が開示されている。この文献の合成例4及び5では、それぞれ下記式(2−1)及び(3)で表されるトリスフェノール類をフェノール成分とするノボラック樹脂(B)が合成されている。
【0015】
【化5】
【0016】
しかし、o−フェノール骨格(中央の炭素原子との結合位置に対して、o−位にOH基が置換されたフェノール骨格)を有するトリスフェノール類をフェノール成分とするノボラック樹脂は合成されていない。また、実施例では、ポジ型フォトレジスト組成物の感度として、前記クレゾールノボラック樹脂(A)及びノボラック樹脂(B)の混合物で形成された塗膜のアルカリ溶解速度について記載されているものの、ノボラック樹脂(B)単体の有機溶剤に対する溶解性については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2005−29504号公報(請求項1、実施例、段落[0001]〜[0003])
【特許文献2】特開平8−211600号公報(請求項1、実施例、段落[0029]〜[0031])
【特許文献3】国際公開第2012/141165号(請求項1、合成例4及び5、実施例1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の目的は、高い耐熱性を有するとともに、高分子量であり、多量のベンゼン環骨格を有していても、高い溶剤溶解性を示し取扱性に優れた新規フェノール樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定のトリスフェノール骨格を有するフェノール樹脂が、高い耐熱性を有すること、さらには、高分子量で、溶解性の低下が予測されるベンゼン環骨格を多く有するにも拘らず、意外にも高い溶剤溶解性を示すことを見いだし、本発明を完成した。
【0020】
すなわち、本発明のフェノール樹脂は、少なくとも下記式(1)で表されるフェノール類を含むフェノール成分と、アルデヒド成分とを重合成分とする。
【0021】
【化6】
【0022】
(式中、R
1は同一又は異なって炭化水素基、nは同一又は異なって0又は1を示す)。
【0023】
前記式(1)において、R
1はアルキル基であってもよい。また、前記アルデヒド成分は、ホルムアルデヒド類であってもよい。
【0024】
前記フェノール樹脂は重量平均分子量Mwが5000〜15000程度のノボラック樹脂(又はノボラック型フェノール樹脂)であってもよい。また、前記フェノール樹脂は、45重量%の濃度でプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解可能であってもよい。
【0025】
本発明は、少なくとも前記式(1)で表されるフェノール類を含むフェノール成分と、アルデヒド成分とを、反応させて前記フェノール樹脂を製造する方法も包含する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の新規フェノール樹脂は、高い耐熱性を示すのみならず、多くのベンゼン環骨格を有していても、高い溶剤溶解性を示すため、取扱性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の新規フェノール樹脂は、少なくとも前記式(1)で表されるフェノール類(単に、第1のフェノール類ともいう。)を含むフェノール成分と、アルデヒド成分とを重合成分とする。
【0028】
[フェノール成分]
(第1のフェノール類)
前記式(1)において、基R
1で表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C
1−10アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
1−6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
1−4アルキル基など);シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC
5−10シクロアルキル基など);アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ビフェニリル基、ナフチル基などのC
6−12アリール基など];アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC
6−10アリール−C
1−4アルキル基など)などが挙げられる。
【0029】
これらの炭化水素基のうち、アルキル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C
1−3アルキル基など)が好ましく、特にメチル基などのC
1−2アルキル基などが好ましい。また、複数の基R
1の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0030】
置換数nは、0又は1のいずれであってもよく、0であるのが好ましい。また、複数の置換数nは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0031】
代表的な第1のフェノール類としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−(2−ヒドロキシフェニル)メタンなどのビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジC
1−4アルキル−フェニル)−(2−ヒドロキシフェニル)メタン;ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)メタンなどのビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジC
1−4アルキル−フェニル)−(2−ヒドロキシ−4−C
1−4アルキル−フェニル)メタンなどが挙げられる。
【0032】
これらの第1のフェノール類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの第1のフェノール類のうち、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−(2−ヒドロキシフェニル)メタンなどのビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジC
1−2アルキル−フェニル)−(2−ヒドロキシフェニル)メタンが好ましい。
【0033】
なお、これらの第1のフェノール類は、市販品を用いてもよく、特許文献1に記載の方法(例えば、芳香族アルデヒド類とフェノール類とを酸触媒下で反応させる方法)などの慣用の方法により合成してもよい。
【0034】
(第2のフェノール類)
フェノール成分は、少なくとも第1のフェノール類を含んでいればよく、第1のフェノール類以外の他のフェノール類(第2のフェノール類)を含んでいてもよい。第2のフェノール類としては、例えば、モノフェノール類{例えば、フェノール;アルキルフェノール[クレゾール(o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール)、エチルフェノール(2−エチルフェノールなど)、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、キシレノール(2,3−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノールなど)、2−t−ブチル−4−メチルフェノールなどのモノ又はジC
1−6アルキルフェノールなど]、シクロアルキルフェノール(2−シクロヘキシルフェノールなど)、アリールフェノール(o−フェニルフェノールなど)、アルコキシフェノール(o−メトキシフェノールなどのアニソール類など)、アミノフェノールなどの置換基を有するフェノール;ナフトール類[例えば、ナフトール(1−ナフトール、2−ナフトール)、アルキルナフトール(メチルナフトール、エチルナフトール、ジメチルナフトールなどのC
1−4アルキルナフトールなど)など]など};複数のフェノール性水酸基を有するフェノール類{例えば、ジヒドロキシベンゼン(カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン)、アルキル−ジヒドロキシベンゼン(ジヒドロキシトルエン、ジヒドロキシキシレンなどのモノ又はジC
1−6アルキル−ジヒドロキシベンゼンなど)、アリール−ジヒドロキシベンゼン(2,3−ジヒドロキシビフェニルなどのC
6−8アリール−ジヒドロキシベンゼンなど)、アルコキシ−ジヒドロキシベンゼン(3−メトキシカテコールなどのモノ又はジC
1−6アルコキシ−ジヒドロキシベンゼンなど)、トリヒドロキシベンゼン類(ピロガロール、ヒドロキシヒドロキノン、フロログルシノールなど)などの多価フェノール類;ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなど);前記式(1)で表されるトリスフェノール類以外のトリスフェノール類[ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−(4−ヒドロキシフェニル)メタンなど]など}などが挙げられる。
【0035】
これらの第2のフェノール類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。フェノール成分のうち、第1のフェノール類の割合は、例えば、50モル%以上(例えば、70〜100モル%)、好ましくは80モル%以上(90〜99モル%)、さらに好ましくは95モル%以上、特に、100モル%(実質的に第1のフェノール類のみ)であってもよい。
【0036】
[アルデヒド成分]
アルデヒド成分としては、例えば、ホルムアルデヒド類[例えば、ホルムアルデヒド;パラホルムアルデヒド、環状ホルマール化合物(例えば、1,3,5−トリオキサン、1,3,5,7−テトラオキサン、1,3,5,7,9−ペンタオキサンなど)などのホルムアルデヒドの多量体など];脂肪族アルデヒド類(例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドなど);脂環族アルデヒド類(例えば、シクロヘキサンカルボキシアルデヒドなど);芳香族アルデヒド類(例えば、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド、ナフトアルデヒドなど)などが挙げられる。
【0037】
これらのアルデヒド成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのアルデヒド成分のうち、ホルムアルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、特にパラホルムアルデヒド)が好ましい。なお、アルデヒド成分はホルマリンなどの水溶液の形態であってもよい。
【0038】
[製造方法及び特性]
本発明のフェノール樹脂は、少なくとも第1のフェノール類を含むフェノール成分と、アルデヒド成分とを、触媒の存在下で反応(又は重合)することにより製造できる。なお、本発明のフェノール樹脂は、触媒の種類[酸触媒又は塩基触媒]に応じて、ノボラック(ノボラック樹脂又はノボラック型フェノール樹脂)又はレゾール(レゾール樹脂又はレゾール型フェノール樹脂)のいずれであってもよく、酸触媒を用いて製造するノボラックであるのが好ましい。
【0039】
フェノール成分とアルデヒド成分との割合は、特に制限されず、例えば、前者/後者(モル比)=1/0.5〜1/10程度の範囲から選択でき、例えば、1/0.8〜1/7、好ましくは1/0.9〜1/5、さらに好ましくは1/1〜1/3程度であってもよく、通常、1/2〜1/4程度であってもよい。
【0040】
酸触媒としては、特に限定されず、無機酸[例えば、プロトン酸(硫酸、塩化水素(又は塩酸)、リン酸など);ルイス酸(三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛など)など];有機酸{例えば、スルホン酸(メタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのアレーンスルホン酸など);カルボン酸[例えば、脂肪族カルボン酸(例えば、酢酸、シュウ酸などの脂肪族モノ又はジカルボン酸など)など]など}が挙げられる。
【0041】
これらの酸触媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの酸触媒のうち、塩酸などの無機酸が好ましい。触媒の使用量は、特に限定されず、フェノール成分100重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは5〜40重量部、さらに好ましくは10〜30重量部程度であってもよい。
【0042】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。溶媒を用いる場合、その種類としては、反応に不活性である限り特に制限されず、例えば、水;アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルキルアルコール;シクロヘキサノールなどの脂環族アルコールなど);エーテル類(ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル;テトラヒドロフランなどの環状エーテルなど);グリコールエーテル類(エチレングリコールモノメチルエーテルなどのセロソルブ類など);グリコールエーテルアセテート類(メチルセロソルブアセテートなど);ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトンなどの鎖状ケトン;シクロヘキサノンなどの環状ケトンなど);エステル類(酢酸エチルなど);ニトリル類(アセトニトリルなど);アミド類(ジメチルホルムアミドなど);スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど);炭化水素類[脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)など]などが挙げられる。
【0043】
これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの溶媒のうち、通常、ケトン類(メチルイソブチルケトンなどの鎖状ケトンなど)が用いられる場合が多い。溶媒の使用量は、特に制限されず、通常、反応系を均一化できる程度の量を用いてもよい。
【0044】
反応温度は、例えば、0〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは50〜110℃(例えば、80〜100℃)程度であってもよい。また、反応時間は、特に制限されず、例えば、30分〜48時間、好ましくは1〜24時間、さらに好ましくは3〜12時間程度であってもよい。
【0045】
反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、常圧又は加圧下で行ってもよい。また、反応は溶媒の還流下で行ってもよい。
【0046】
反応終了後の反応混合物には、フェノール樹脂以外に、溶媒、触媒(酸触媒など)、未反応成分などが含まれている。そのため、前記フェノール樹脂は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、洗浄、中和、再沈殿、カラムクロマトグラフィーなどの分離又は精製手段や、これらを組み合わせた方法により分離精製してもよい。
【0047】
本発明のフェノール樹脂(例えば、ノボラック樹脂)は、比較的高い分子量を有しており、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量Mwは、標準ポリスチレン換算で、例えば、1000〜50000(例えば、2000〜30000)、好ましくは2000〜20000(例えば、5000〜15000)、さらに好ましくは7000〜12000程度であってもよい。また、分子量分布Mw/Mnは、例えば、1.1〜10、好ましくは1.5〜5、さらに好ましくは2〜3程度であってもよい。なお、重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0048】
なお、ノボラック樹脂の分析は困難であるものの、文献「ノボラックの生成と分解反応 高分子Vol.14, No. 161 p.650-658」などから明らかなように、フェノール性水酸基のo−位及びp−位であり、かつ未置換の置換位置に対して、アルデヒド成分の付加反応、及び前記付加反応により生成するアルデヒド成分由来の官能基(メチロール基など)の縮合反応により重合が進行する。そのため、フェノール樹脂は下記式(2)で表される構成単位を有している。
【0050】
(式中、R
2は水素原子又は炭化水素基、R
1及びnはそれぞれ前記式(1)に同じ)。
【0051】
前記式(2)において、基R
2は前記例示のアルデヒド成分に対応して、水素原子又は炭化水素基である。炭化水素基としては、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C
1−6アルキル基など);シクロアルキル基(シクロヘキシル基などのC
5−10シクロアルキル基など);アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ビフェニリル基、ナフチル基などのC
6−12アリール基など];アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC
6−10アリール−C
1−4アルキル基など)などが挙げられる。基R
2としては、水素原子であるのが好ましい。
【0052】
また、本発明のフェノール樹脂は、耐熱性に優れている。さらに、本発明のフェノール樹脂は、高分子量であり、かつ溶解性の低下を予想させるベンゼン環骨格を多く含むにも拘らず、意外にも高い溶剤溶解性を有しており、取り扱い性にも優れている。そのため、本発明のフェノール樹脂は、汎用の有機溶剤、例えば、グリコールエーテルアセテート類(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)などに容易に溶解できる。また、溶液(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液)は比較的高い濃度に調整することもでき、例えば、5重量%以上(10〜70重量%)、好ましくは20重量%以上(30〜60重量%)、さらに好ましくは35重量%以上(40〜50重量%、特に45重量%)であっても溶解可能である。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、使用した原料及び評価方法を下記に示す。
【0054】
[原料]
ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−(2−ヒドロキシフェニル)メタン:特許文献1の比較例1に従って合成したもの。
【0055】
[評価方法]
(重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製、HLC−8120GPC)を用い、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、温度30℃(流速1.00mL/分)の条件で、ポリスチレン換算で、重量平均分子量Mw及びその分子量分布Mw/Mnを測定した。
【0056】
(溶剤溶解性)
試料にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を濃度45重量%となるよう添加して、試料の溶解性を目視で確認し、以下の基準で評価した。
【0057】
○:完全に溶解した
×:一部又は全部が溶解せずに残存する。
【0058】
(加熱残分)
溶剤溶解性の評価で調製した混合液をメトラー・トレド(株)製ハロゲン水分計により200℃設定にて加熱し測定した。
【0059】
[実施例1]
500mL三口フラスコに、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−(2−ヒドロキシフェニル)メタン 34.8g(0.1mol)、パラホルムアルデヒド9.0g(ホルムアルデヒド換算で0.3mol)、35質量%塩酸7.0g(塩化水素換算で0.07mol)及びメチルイソブチルケトン(MIBK)108gを加えた。90℃に昇温し、6時間反応させた後、得られた反応液を5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液で3回洗浄することで中和し、pHが7であることを確認した。さらに、蒸留水で2回洗浄し、MIBKを減圧濃縮することで除去したところ、収量82gで赤褐色粘性液体が得られた。得られたフェノール樹脂(ノボラック樹脂)の重量平均分子量Mwは10327、分子量分布Mw/Mnは2.47、溶剤溶解性は○、加熱残分は45.3%であった。
【0060】
なお、ノボラック樹脂の分析は困難であるものの、文献「ノボラックの生成と分解反応 高分子Vol.14, No. 161 p.650-658」から明らかなように、フェノール核のo−位又はp−位に対して、ホルムアルデヒドが付加又はメチロール基が縮合してノボラックが形成されるため、得られたフェノール樹脂は、下記式(2a)で表される構成単位を有している。
【0061】
【化8】
【0062】
[比較例1]
ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−(2−ヒドロキシフェニル)メタン単体の溶剤溶解性を確認したところ、評価結果は×であった。
【0063】
実施例及び比較例の結果から明らかなように、実施例で得られた化合物は、多数のベンゼン環骨格を有しているにも拘らず、意外なことに、重合成分(モノマー)であるビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−(2−ヒドロキシフェニル)メタンよりも高い溶剤溶解性を示した。また、高い耐熱性も有していた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のフェノール樹脂は、溶剤溶解性や耐熱性に優れているため、例えば、前記樹脂を含む樹脂組成物や、前記樹脂を硬化剤により硬化した硬化物などの形態として、種々の用途に利用できる。代表的な用途としては、例えば、電気・電子部品(電装部品、電気絶縁用積層板、IC封止剤など)、機械部品(歯車、軸受、摺動ライニング、ディスクブレーキのピストンなど)、建築材料(屋根材、内外壁面パネル、地下鉄構内などの内装材、内装間仕切り材、天井材、断熱材、エアダクト、パイプ、ドアなど)、接着剤又は粘着剤(木材用(合板、パーティクルボード、ファイバーボードなど)、宇宙航空機用、自動車用、鉄道車両用、靴用、家具用など)、結合剤(金属鋳造用の鋳型及び中子、製鉄用炉など)、塗料(下塗り塗料、耐食塗料、船舶用塗料、食品用缶の内面塗料、印刷インクのビヒクルなど)、フォトレジスト材料(フォトレジスト用樹脂、ポジ型フォトレジスト用改質剤(増感剤など)など)、カーボン材料、エポキシ樹脂原料、樹脂硬化剤などが挙げられる。