(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(I)において、ポルトランドセメントの所望の品質に応じて、セメントクリンカ(X)及びセメントクリンカ(Y)の混合割合を決定する、請求項1に記載のポルトランドセメントの製造方法。
さらに、工程(I)で得られた混合クリンカに、ポルトランドセメントの種類及び品質に応じて決定した添加量にしたがい、石こう及び少量混合成分を添加して仕上粉砕ミルに供給し、同時に粉砕してポルトランドセメントを得る工程(II)
を備える、請求項1又は2に記載のポルトランドセメントの製造方法。
工程(II)において、ポルトランドセメントの品質に応じて、二水石こうと半水石こうからなる全石こう中の半水石こうの割合を決定する、請求項3に記載のポルトランドセメントの製造方法。
さらに、工程(II)で得られた粉砕直後のポルトランドセメントの化学組成、鉱物組成、及びブレーン比表面積を測定し、混合クリンカ、石こう及び少量混合成分の仕上粉砕ミルへの供給量、循環率及び散水量を調整する工程(III)を備える、請求項3又は4に記載のポルトランドセメントの製造方法。
混合セメントの所望の品質に応じて決定したセメント混合材の混合割合にしたがって、ポルトランドセメント及びセメント混合材を粉体混合設備へ供給して混合し、混合セメントを得る工程(A)を備える、請求項7に記載の混合セメントの製造方法。
さらに、工程(A)で得られた混合セメントの鉱物組成を測定し、ポルトランドセメント及びセメント混合材の粉体混合設備への供給量を調整する工程(B)を備える、請求項7又は8に記載の混合セメントの製造方法。
工程(B)において、混合セメントの鉱物組成の測定を、PONKCS法を組み合わせたX線回折−リートベルト解析法を用いて行う、請求項9又は10に記載の混合セメントの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポルトランドセメントの製造方法は、互いに独立して貯蔵されてなるセメントクリンカ(X)及びセメントクリンカ(Y):
(X)水硬率(以下、「HM」とも称する。)が2.30を超え2.40以下、ケイ酸率(以下、「SM」とも称する。)が2.00〜2.40、及び鉄率(以下、「IM」とも称する。)が1.70〜2.00であって、原料代替廃棄物使用量(乾燥質量基準の原料原単位)が、セメントクリンカ1トン当たり350kg以上であるセメントクリンカ、及び
(Y)水硬率が1.70〜1.90、ケイ酸率が3.00〜4.00、及び鉄率が0.65〜1.00であるセメントクリンカ
のみを用いて混合クリンカを得る工程(I)を備える。
なお、本明細書において、混合クリンカとは、後述する石こうや少量混合成分を含まない、セメントクリンカのみから構成されるものを意味する。
【0013】
混合クリンカを得るために用いられ、後述するセメントクリンカ(Y)とは独立して貯蔵されてなるセメントクリンカ(X)は、HMが2.30を超え2.40以下、SMが2.00〜2.40、及びIMが1.70〜2.00であって、原料代替廃棄物使用量(乾燥質量基準の原料原単位)が、セメントクリンカ1トン当たり350kg以上である。
セメントクリンカ(X)のHMは、2.30を超え2.40以下であり、好ましくは2.30を超え2.35以下である。HMをかかる範囲とすることで、強度発現性に優れたセメントクリンカとなる。
セメントクリンカ(X)のSMは、2.00〜2.40であり、好ましくは2.25〜2.35である。SMをかかる範囲とすることで、セメントクリンカ(X)1トン当たりの原料代替廃棄物使用量を350kg以上もの量とすることができる。
セメントクリンカ(X)のIMは、1.70〜2.00であり、好ましくは1.80〜2.00である。IMをかかる範囲とすることで、セメントクリンカ(X)1トン当たりの原料代替廃棄物使用量を350kg以上もの量とすることができる。
【0014】
セメントクリンカ(X)を製造するには、ポルトランドセメントクリンカの製造に用いられる通常の原料を用いることができる。かかる原料としては、具体的には、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料;珪石、粘土等のSiO
2原料;粘土等のAl
2O
3原料;鉄滓、鉄ケーキ等のFe
2O
3原料が挙げられる。
さらにこれらの原料に加え、産業廃棄物、一般廃棄物、及び建設発生土から選ばれる1種以上の廃棄物を用いることができる。かかる廃棄物としては、具体的には、石炭灰、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等)、ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉二次灰、建築廃材、コンクリート廃材等の産業廃棄物;下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等の一般廃棄物;建設現場または工事現場等から発生する土壌、残土、及び廃土壌等の建設発生土が挙げられる。なかでも、使用の容易性等の観点から、好ましくは石炭灰である。
【0015】
セメントクリンカ(X)を製造する際における、上記廃棄物(産業廃棄物、一般廃棄物、及び建設発生土から選ばれる1種以上)の原料代替廃棄物としての使用量は、廃棄物の有効利用を図るという観点から、セメントクリンカ(X)1トン当たり、乾燥質量基準の原料原単位で350kg以上であり、好ましくは355kg以上である。かかる廃棄物使用量が350kg以上であると、セメントクリンカ(Y)との組合せによる中庸熱ポルトランドセメントにおける廃棄物使用量が、セメントクリンカ(X+Y)1トン当たり210kg以上となり、一般的な中庸熱セメントクリンカにおける廃棄物使用量に対して1割以上も廃棄物使用量を増大させることができる。
【0016】
セメントクリンカ(X)を製造するには、HM、SM、及びIMが上記値となるように上記各原料を混合し、粉砕して原料混合物(調合原料)を得ればよく、次いで、得られた原料混合物を、好ましくは1400〜1600℃、より好ましくは1450〜1600℃の温度で焼成する。
各原料の混合及び粉砕に使用する設備は、特に限定されるものではなく、各原料の化学成分量に基づいて混合割合が決定されてなる混合原料を、クラッシャー、ロールミル、ボールミル及び/又は竪型ローラミル等で微粉砕した後、エアブレンディングサイロ等で混合すればよく、汎用の製造設備を使用することができる。また、セメントクリンカ(X)の焼成に使用する設備も特に限定されるものではなく、例えば、ロータリーキルン等の設備を使用することができ、その際には燃料代替廃棄物を使用することができる。かかる燃料代替廃棄物としては、具体的には、木くず、廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等が挙げられる。こうした燃料代替廃棄物を用いることで、セメント業界における廃棄物の活用をさらに促進することができる。
【0017】
混合クリンカを得るために用いられ、上記セメントクリンカ(X)とは独立して貯蔵されてなるセメントクリンカ(Y)は、HMが1.70〜1.90、SMが3.00〜4.00、及びIMが0.65〜1.00である。
セメントクリンカ(Y)のHMは、1.70〜1.90であり、好ましくは1.75〜1.85である。HMをかかる範囲とすることで、水和発熱が抑制され、かつ長期材齢における強度発現性状に優れたセメントクリンカとなる。
セメントクリンカ(Y)のSMは、3.00〜4.00であり、好ましくは3.25〜3.75である。SMをかかる範囲とすることで、水和発熱が抑制され、かつ長期材齢における強度発現性状に優れたセメントクリンカとなる。
セメントクリンカ(Y)のIMは、0.65〜1.00であり、好ましくは0.80〜1.00である。IMをかかる範囲とすることで、水和発熱が抑制されたセメントクリンカとなる。
【0018】
セメントクリンカ(Y)は、セメントクリンカ(X)と比べてSMが高いため、石炭灰や汚泥類等のAl
2O
3に富む原料代替廃棄物を多量に使用することは困難であるが、貝殻等の石灰石代替廃棄物や鋳物砂等の珪石代替廃棄物の使用は充分に可能である。
すなわち、セメントクリンカ(Y)を製造するには、原料として、ポルトランドセメントクリンカの製造に用いられる一般的な原料である、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料;珪石、粘土等のSiO
2原料;粘土等のAl
2O
3原料;鉄滓、鉄ケーキ等のFe
2O
3原料に加え、CaOまたはSiO
2に富む、産業廃棄物又は一般廃棄物の1種以上を用いることができる。
【0019】
セメントクリンカ(Y)を製造する際における、上記廃棄物の原料代替廃棄物としての使用量は、廃棄物の有効活用を図るという観点から、セメントクリンカ(Y)1トン当たり、乾燥質量基準の原料原単位で、好ましくは150kg以上であり、より好ましくは160kg以上である。かかる廃棄物使用量が150kg以上であると、セメントクリンカ(X)との組合せによる中庸熱ポルトランドセメントにおける廃棄物使用量が、セメントクリンカ(X+Y)1トン当たり210kg以上となり、一般的な中庸熱セメントクリンカにおける廃棄物使用量に対して1割以上も廃棄物使用量を増大させることができる。
【0020】
セメントクリンカ(Y)を製造するには、所望のHM、SM、及びIMとなるように上記各原料を混合し、粉砕して原料混合物(調合原料)を得ればよく、次いで得られた原料混合物を、好ましくは1250〜1450℃、より好ましくは1300〜1450℃の温度で焼成する。
上記原料の混合及び粉砕に使用する設備、並びにセメントクリンカ(Y)の焼成に使用する設備は、セメントクリンカ(X)の場合と同様のものを使用することができる。
【0021】
本発明のポルトランドセメントの製造方法は、互いに独立して貯蔵されてなる上記セメントクリンカ(X)及びセメントクリンカ(Y)のみを用いて混合クリンカを得る工程(I)を備える。「互いに独立して貯蔵されてなるセメントクリンカ(X)及びセメントクリンカ(Y)」とは、上述の製造方法にしたがって製造されたセメントクリンカ(X)とセメントクリンカ(Y)とが、互いに隔離された状態で貯蔵されていることを意味し、例えば、各々異なるクリンカサイロに貯蔵されてなるものであればよい。
工程(I)では、ポルトランドセメントの所望の品質に応じて、セメントクリンカ(X)及びセメントクリンカ(Y)の混合割合を決定する。これにより、用いるセメントクリンカが2種のみであるにもかかわらず、多種のポルトランドセメントを得ることができる。
【0022】
具体的には、製造対象とするポルトランドセメントのクリンカ鉱物組成(C
3S量、C
2S量、C
3A量、C
4AF量)の目標値を設定し、セメントクリンカ(X)及びセメントクリンカ(Y)からなる混合クリンカが、かかる目標値と同じになるように、セメントクリンカ(X)、及びセメントクリンカ(Y)のクリンカ鉱物組成を元に、両セメントクリンカの混合割合(目標値)を決定すればよい。ここで、ポルトランドセメントのクリンカ鉱物組成の目標値は、経験に基づく値を設定すればよい。
【0023】
本発明のポルトランドセメントの製造方法は、上記工程(I)に加え、さらに工程(I)で得られた混合クリンカに、ポルトランドセメントの品質に応じて決定した添加量にしたがい、石こう及び少量混合成分を添加して仕上粉砕ミルに供給し、同時に粉砕して製造対象とするポルトランドセメントを得る工程(II)を備える。
【0024】
工程(II)で用いる仕上粉砕ミルには、一般に、2室構造のボールミルが使用されるが、かかる仕上粉砕ミルの上流側には、ミルに供給する材料を一旦溜め置くための小型のタンクが付設されている。このタンクで、仕上粉砕ミルに供給される各種材料が合流し、その合流物が仕上粉砕ミルに送られる。ここで、セメントクリンカ(X)、セメントクリンカ(Y)、石こう及び少量混合成分の仕上粉砕ミルへの供給量は、後工程である工程(III)における、仕上粉砕直後のポルトランドセメントの鉱物組成等の測定、及びかかる測定値に基づく各材料供給量へのフィードバックによって、適宜変更される可能性がある。この変更が発生した場合に、変更後の各材料の供給量での仕上粉砕を速やかに行うために、すなわち変更指令への応答性を素早くするために、仕上粉砕ミル前のタンクレベルは安定運転に支障の生じない範疇において、低いレベルを維持することが好ましい。
【0025】
工程(II)において用いる石こうとしては、二水石こう、α型半水石こう、β型半水石こう、及び無水石こう等から選ばれる1種以上を用いることができる。なお、ポルトランドセメント中の石こう含有量の定量に用いられるポルトランドセメントのSO
3量の定量は、化学分析(JIS R 5202「セメントの化学分析方法」)、又は蛍光X線分析(JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」)により行うことができ、二水石こう及び半水石こうの定量は、例えば特開平6−242035号公報、又は特開2013−210213号公報に記載される方法により行うことができ、α型半水石こう及びβ型半水石こうの定量は、例えば特開平11−183466号公報に記載される方法により行うことができる。
成因別の石こうの種類としては、特に限定されず、例えば天然石こう、排煙脱硫石こう、リン酸石こう、チタン石こう、フッ酸石こう、及び精錬石こう等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0026】
工程(II)における、石こうの添加量と、かかる全石こう中の半水石こうの割合(以下、「石こう半水化率」とも称する。)は、モルタル又はコンクリート等のセメント組成物の流動性又は作業性、さらには強度発現性及び耐久性に影響を及ぼし、また製造対象とするポルトランドセメントの種類によってもその最適値は異なる。したがって、かかる添加量及び石こう半水化率は、製造対象とするポルトランドセメントの直近の製造実績を元に適宜決定すればよい。
具体的には、例えば、ポルトランドセメント100質量%中の石こうの割合は、かかるポルトランドセメントをモルタル又はコンクリート等として使用した場合の流動性及び強度発現性等の観点から、SO
3換算量で1.2質量%以上であり、好ましくは1.3〜5.0質量%であり、より好ましくは1.4〜4.0質量%である。ポルトランドセメント100質量%中の石こうの割合が1.2質量%未満の場合、かかるポルトランドセメントを使用したモルタル又はコンクリート等の流動性及び強度発現性が低下するおそれがある。
【0027】
工程(II)において用いる少量混合成分としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントを製造する場合における、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ、又は石灰石が挙げられる。
かかる少量混合成分は、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定される所定の品質を有するものであればよい。
【0028】
工程(II)における、少量混合成分の添加量は、ポルトランドセメントを使用したモルタル又はコンクリート等のセメント組成物の流動性又は作業性、及び強度発現性に影響を及ぼす。さらに、少量混合成分の使用は、セメントクリンカの使用量の低下に繋がるので、原燃料代替廃棄物の使用量の低下を招きかねない。したがって、かかる少量混合成分の添加量は、製造対象とするポルトランドセメントの直近の製造実績及び原料事情等を元に、適宜決定すればよい。
【0029】
本発明のポルトランドセメントの製造方法は、上記工程(I)を経た後、さらに工程(II)で得られた粉砕直後のポルトランドセメントについて、化学組成、鉱物組成、及びブレーン比表面積を測定し、クリンカ(X)、クリンカ(Y)、石こう及び少量混合成分の仕上粉砕ミルへの供給量、仕上粉砕ミルの循環率(分級機によって仕上粉砕ミルに戻される粉砕直後品の割合)及び散水量(仕上粉砕ミル内への水の供給量、ただし粉砕助剤の希釈水を含む)を調整する工程(III)を備える。
【0030】
工程(III)における、粉砕直後のポルトランドセメントの化学組成、鉱物組成、及びブレーン比表面積の測定には、かかる粉砕直後のポルトランドセメントを採取する手段、採取した粉砕直後のポルトランドセメントを恒温環境に搬送する手段、搬送された粉砕直後のポルトランドセメントを微粉砕する手段、微粉砕された粉砕直後のポルトランドセメントをプレス試料にする手段、微粉砕された粉砕直後のポルトランドセメントをガラスビードにする手段、プレス試料をX線回折装置(XRD)に搬送して測定を行う手段、プレス試料を蛍光X線分析装置(XRF)に搬送して測定を行う手段、ガラスビードを蛍光X線分析装置(XRF)に搬送して測定を行う手段、搬送された粉砕直後のポルトランドセメントをブレーン測定装置に搬送して測定を行う手段、得られたX線回折データをリートベルト解析する手段、並びに各測定値及び解析結果を保存し、印刷するか及び/又はディスプレイに表示し、及びセメント製造工場のホストコンピューターに伝達する手段、を備える仕上粉砕工程のオンライン分析システムを使用するのが好ましい。
【0031】
工程(III)における粉砕直後のポルトランドセメントを採取する手段は、粉砕直後のポルトランドセメントの一部を搬送経路の途中で、スプーンサンプラーやスクリュウサンプラー等の汎用の粉体サンプリング装置でのサンプリングを示す。かかるサンプリング装置における粉砕直後のポルトランドセメントのサンプリング量は、1回のサンプリングが200g〜5000gであればよい。
また、工程(III)におけるサンプリング頻度は、後述する粉砕直後のポルトランドセメントの各種特性の測定に要する時間によっても変動し得るが、通常1回/時間〜4回/時間である。
【0032】
工程(III)における採取した粉砕直後のポルトランドセメントを恒温環境に搬送する手段とは、気送管システム等の少量粉体の搬送手段であり、かかる手段によって、上記採取された粉砕直後のポルトランドセメントの一部が、各種試験が行われる恒温室に搬送される。
【0033】
工程(III)における、搬送された粉砕直後のポルトランドセメントを微粉砕する手段、微粉砕された粉砕直後のポルトランドセメントをプレス試料にする手段、及び微粉砕された粉砕直後のポルトランドセメントをガラスビードにする手段とは、X線回折装置、又は蛍光X線分析装置を用いて測定する際に用いる測定試料を得るため、粉砕直後のポルトランドセメントに前処理を行う手段である。ここで用いるX線回折装置とは、粉砕直後のポルトランドセメントの構成相の含有量(鉱物組成)を測定するための装置であり、具体的には、セメントクリンカ鉱物(C
3S、C
2S、C
3A、C
4AF)、石こう(二水石こう、半水石こう、無水石こう)、少量混合成分、及びその他構成相(フリーライム(酸化カルシウム)等)の含有量を測定するために用いるものである。
【0034】
X線回折の測定結果から粉砕直後のポルトランドセメントの構成相の含有量を定量する方法としては、種々のものが知られているが、解析の簡便性と定量精度の観点から、リートベルト解析法を使用するのが好ましい。さらに、少量混合成分である高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカ質混合材等の非晶質相の定量精度を確保する観点から、以下の非特許文献1又は非特許文献2に記載される、内部標準物質を用いることなく非晶質相の定量分析が可能な解析方法、すなわちPONKCS法(Partial or No Known Crystal Structure、下記非特許文献1又は非特許文献2参照)等をリートベルト解析法に組み合わせることが好ましい。
非特許文献1:N.V.Y.Scarlett et al.;Quantification of phases with partial or no known crystal structures,Powder Diffraction,Vol.21,No.4,pp.278-284(2006)
非特許文献2:BRUKER社ホームページ;QPA with Partial or No Known Crystal Structures(PONKCS),BRUKER Advanced XRD Workshop(2011)
【0035】
工程(III)において用いる蛍光X線分析装置とは、粉砕直後のポルトランドセメントの化学組成を測定するための装置であり、定量精度を確保する観点から、測定試料としてガラスビードを用いることが好ましいが、加熱溶融して行う測定試料のガラス化工程において揮発散逸してしまうような揮発成分の測定には、プレス試料を用いるのが好ましい。すなわち、1つの粉砕直後のポルトランドセメントについて、異なる前処理を行った2つの測定試料を用いて蛍光X線分析を行うことが好ましい。
【0036】
工程(III)において用いるブレーン測定装置とは、粉砕直後のポルトランドセメントのブレーン比表面積を測定するための装置であり、かかる装置で用いる測定試料については、前処理は不要である。
【0037】
工程(III)において、1つの粉砕直後のポルトランドセメントの各種測定に要する時間は、粉砕直後のポルトランドセメントの品質を管理する観点から、15分〜1時間が好ましい。かかる測定では、所望の測定時間内に上記の全ての測定を完了させる観点から、前処理手段の全て、装置間の試料の受け渡しの全て、測定の全て、及び測定結果の解析の全てをも装置のみで行うことのできる全自動測定システムを用いるのが好ましい。
【0038】
工程(III)における各種運転条件の変更の必要性の有無の判断、及び調整量の決定については、従来の経験値から判断基準、及び調整量を決定すればよいが、それら製造運転の制御操作は、上記全自動測定システムから送信される測定結果等を基に、セメント工場のホストコンピューターがかかる判断と製造設備へのフィードバックを行うオンラインシステムの採用は、人員作業の簡素化を図りながら品質管理を強化することが可能となり、好ましい。
【0039】
さらに、品質を確保した充分量のポルトランドセメントを製造する観点から、上記工程(III)を繰り返し行ってもよい。
【0040】
本発明の混合セメントの製造方法は、上記ポルトランドセメントの製造方法により得られたポルトランドセメントを用いて、混合セメントを製造する方法である。
具体的には、本発明の混合セメントの製造方法は、混合セメントの所望の品質に応じて決定した混合割合にしたがって、上記ポルトランドセメントの製造方法により得られたポルトランドセメント、及びセメント混合材を粉体混合設備へ供給して混合し、混合セメントを得る工程(A)を備えるのが好ましい。
混合セメントの所望の品質に応じて決定する混合割合(質量%)(目標値)としては、経験に基づく値を設定すればよい。
【0041】
工程(A)で用いる混合設備としては、一般にバッチ式又は連続式の、リボン型等の固定容器型の粉体混合装置が挙げられるが、容器回転型の粉体混合装置を用いてもよい。かかる粉体混合装置には、計量機構が付設されており、これによりポルトランドセメント及びセメント混合材のそれぞれの粉体混合装置への供給量を計量することができる。
バッチ式の粉体混合装置を用いる場合、2〜20t/バッチについて、1〜10分間の混合を行う。
【0042】
本発明の混合セメントの製造方法は、さらに工程(A)で得られた混合セメントの鉱物組成を測定し、ポルトランドセメント及びセメント混合材の粉体混合設備への供給量を調整する工程(B)を備えるのが好ましい。これにより、所望の品質を有する混合セメントを容易に得ることができる。
【0043】
工程(B)では、具体的には、まず工程(A)で得られた混合セメントの鉱物組成の測定値が目標値に対して差異を有する場合に、その差異を補正するための、上記ポルトランドセメント、及び/又はセメント混合材の粉体混合装置への供給量の調整量を決定する。より具体的には、製造直後の混合セメントについて、鉱物組成をX線回折−リートベルト法で定量し、かかる測定値からポルトランドセメントとセメント混合材の混合割合を求め、得られた混合割合と工程(A)で設定した混合割合の目標値との差異の有無を評価し、差異を有する場合にはその差異が縮小するように、ポルトランドセメント、及び/又はセメント混合材の粉体混合装置への供給量の調整量を決定すればよい。
【0044】
混合セメントの鉱物組成の測定には、製造直後の混合セメントを採取する手段、採取した製造直後の混合セメントを恒温環境に搬送する手段、搬送された製造直後の混合セメントを微粉砕する手段、微粉砕された製造直後の混合セメントをプレス試料にする手段、プレス試料をX線回折装置(XRD)に搬送して自動測定を行う手段、得られたX線回折データを自動的にリートベルト解析する手段、並びに各測定値及び解析結果を保存し、印刷及び/又はディスプレイ表示し、及びセメント製造工場のホストコンピューターに伝達する手段、を備える混合工程のオンライン分析システムを使用するのが好ましい。
【0045】
工程(B)における、製造直後の混合セメントを採取する手段とは、製造直後の混合セメントの一部を搬送経路の途中で、スプーンサンプラーやスクリュウサンプラー等の汎用の粉体サンプリング装置でのサンプリングを意味する。かかるサンプリング装置における、製造直後の混合セメントのサンプリング量は、1回のサンプリングが200g〜5000gであればよい。
また、かかるサンプリング頻度は、バッチ式の粉体混合装置を用いる場合には、バッチ毎にサンプリングを1回行えばよく、連続式の粉体混合装置を用いる場合には、1回/時間〜4回/時間である。
【0046】
工程(B)における、採取した混合セメントを恒温環境に搬送する手段とは、気送管システム等の少量粉体の搬送手段を意味し、上記採取された混合セメントの一部を、かかる搬送手段によって、各種試験が行われる恒温室に搬送する。
【0047】
工程(B)における、搬送された製造直後の混合セメントを微粉砕する手段、及び微粉砕された製造直後の混合セメントをプレス試料にする手段とは、X線回折装置を用いて測定する際に用いる測定試料を得るため、上記製造直後の混合セメントに前処理を行う手段である。ここで用いるX線回折装置とは、製造直後の混合セメントの構成相の含有量(鉱物組成)を測定するための装置であり、具体的には、セメントクリンカ鉱物(C
3S、C
2S、C
3A、C
4AF)等のポルトランドセメントに起因した構成相と、ゲーレナイト、ムライト及びカルサイト等の高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及び石灰石微粉末等のセメント混和材に起因した構成相の含有量を測定するために用いるものである。
【0048】
X線回折の測定結果から混合セメントの構成相の含有量を定量する方法としては、種々のものが知られているが、解析の簡便性と定量精度の観点から、リートベルト解析法を使用するのが好ましい。さらに、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカ質混合材等の非晶質相を多く含むセメント混合材の定量精度を確保する観点から、上記本発明のポルトランドセメントの製造方法と同様、PONKCS法等をリートベルト解析法に組み合わせることが好ましい。
【0049】
工程(B)において、1つの製造直後の混合セメントの鉱物組成の測定に要する時間は、混合セメントの製造運転の速度に適合させる観点から、5分以内が好ましい。かかる測定では、所望の測定時間内に鉱物組成の測定を完了させる観点から、前処理手段の全て、及び装置間の試料の受け渡しの全てをも装置が行うことのできる、全自動測定システムを用いるのが好ましい
【0050】
工程(B)における、ポルトランドセメント、及び/又はセメント混合材の粉体混合装置への供給量の変更の必要性の有無の判断、及び調整量の決定については、従来の経験値から判断基準、及び調整量を決定すればよいが、それら製造運転の制御操作は、上記全自動測定システムから送信される測定結果等を基に、セメント工場のホストコンピューターがかかる判断と製造設備へのフィードバックを行うオンラインシステムの採用は、人員作業の簡素化を図りながら品質管理を強化することが可能となり、好ましい。
【0051】
さらに、品質を確保した充分量の混合セメントを製造する観点から、上記工程(B)を繰り返し行ってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1〜3]
セメントクリンカ(X)及びセメントクリンカ(Y)を用い、以下の手順(1)〜(3)にしたがって、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、及び中庸熱ポルトランドセメントの3種類のポルトランドセメントを製造し、評価を行った。
【0054】
(1)セメントクリンカ(X)及び(Y)の製造
セメントクリンカの原料として、従来、ポルトランドセメントクリンカの製造に使用されている石灰石、珪石、鉄原料等を主体とし、さらに6種類の原料代替廃棄物を用いて、セメントクリンカのHM、SM、及びIM、並びにクリンカ鉱物組成が表1で示す値となるように、2種類の調合原料X及び調合原料Yを調合した。ここで、セメントクリンカ(X)及び(Y)の原料として用いた原料代替廃棄物の、乾燥質量基準での、セメントクリンカ1トン当たりの使用量(kg)を表2に示す。ここで、表2中のRは、代替廃棄物を意味し、例えば、石灰石Rは石灰石代替廃棄物を意味する。
また、表1及び表2には、参考例として、一般的な早強ポルトランドセメントクリンカ(H)、普通ポルトランドセメントクリンカ(N)、及び中庸熱ポルトランドセメントクリンカ(M)に関する値を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
重油を燃料とした小型ロータリーキルンを用い、上記調合原料Xについては焼成温度を1500℃に固定し、調合原料Yについては焼成温度を1400℃に固定し、キルンの回転速度を調整することによって原料のキルン滞留時間を制御して、表3に示す鉱物組成のセメントクリンカX及びセメントクリンカYを製造した。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示すセメントクリンカX及びセメントクリンカYを、表4に示す混合割合で混合して、混合クリンカH’(早強ポルトランドセメントセメントクリンカ相当品)、混合クリンカN’(普通ポルトランドセメントセメントクリンカ相当品)、混合クリンカM’(中庸熱ポルトランドセメントセメントクリンカ相当品)を得た。
表2に示す値に基づき、得られた各混合クリンカにおける代替廃棄物使用量の算出結果を表5に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
(2)ポルトランドセメントの製造、及び評価
[ポルトランドセメントの製造]
表4に示す各混合クリンカ100質量部に対し、排脱二水石こう(住友金属社製)及び該排脱二水石こうを140℃で加熱して得られた半水石こうを、SO
3量換算での石こう半水化率が50質量%となるように添加し、バッチ式ボールミルで同時粉砕して、3種類のポルトランドセメントセメントを製造した。
得られた各ポルトランドセメントのブレーン比表面積(測定は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠した。)、及びSO
3量(質量%)(測定は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した。)を表6に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
[モルタル圧縮強さの評価]
表6に示すポルトランドセメントについて、モルタル圧縮強さを、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。結果を表7に示す。また、表7には、参考例として、市販の早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、及び中庸熱ポルトランドセメントのモルタル圧縮強さの値を示す。
【0065】
【表7】
【0066】
以上の結果より、本発明によれば、混合クリンカとしてセメントクリンカ(X)及びセメントクリンカ(Y)なる2種類のみを用いることにより、少なくとも3種類ものポルトランドセメントを製造することができ、さらに中庸熱ポルトランドセメントにおいては、従来以上に原料代替廃棄物を使用できることがわかる。